晴れた空は高く、街路樹は濃い影を落としている。見覚えがある田舎町…だけど行くべき先はどこなの?
手にしていたキャリーバッグは、アスファルトの割れ目でできた段差すら苦労する重さ。
しかし何もわからない今、これが頼りだ。置いていけない。滲んだ涙と額の汗を拭った。
ついでに耳にかけた髪が黒いのに気づいて違和感を覚えたところで、男が
「フリーマーケットに行くところならご案内しますよ」と声をかけてきた。
「ありがとう。関係者の人?」と返すと
「ええ、まあ。いろいろわかりにくいんで案内する係がいるんです。」と苦笑いする。
そして「この階段を登るんですよ」と教えてくれた。
言われないと気づかないような小さな石畳の階段が、家と家の間にひっそりあった。
ひょいと、バッグを片手で持ち上げ、青年は登っていく。
年齢は同じくらいなのに…男女差にしてもあまりにも、と唖然としていたせいか気づけば会場にいた。
人が集まって品を広げている。神社か寺かの境内にいるみたいだ。
「ご存知でしょうがここは物々交換方式なんです。」と青年は受付に連れていってくれた。
「参加費も物でお願いします。代わりに記念品をお渡しします。帰るときに声をかけて下さいね」
バッグを開けると懐かしい物が沢山入っていた。どれも重い。身軽になりたい。参加費は一番重いのにしよう。
*****
交換してきたわ。ワクワクしてる。
「はい、じゃあ荷物をお預かりしますね。記念品は川を渡るチケットです。
貴方はこれから生まれ変わります。荷物はこれからの人生でまた得ていく物です。
順次届けますから、安心してくださいね。
…この場所に持ち込めるのは、大事にしてきたモノの象徴なんです。重さは執着度。
重くて置いていく方もあれば、それでも手放さない方もいます。
…新しく得た物はどれも軽いでしょう?どうぞ新しい人生を楽しんで。では、よい旅を!」