ワイが文章をちょっと詳しく評価する![29]

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580第二十四回ワイスレ杯参加作品
クソ重い荷物だった。情を移したオトコの為とはいえ馬鹿馬鹿しくなる。
陸路での入国は簡単だった。掘っ立て小屋のような事務所の役人に少し掴ませればよかった。
彼らが生活の苦労……養うべき子供の多さなど愚痴り始めたら、適当に相槌を打って微笑み
紙幣を仕込んだ煙草を窓口に置けば事は済んだ。すべてアイツの言ったとおりだった。

国境から20分位、商店も殆どない未舗装の通りを自棄っぱちでスーツケースを引きずっていると
唐突に左手に視界が広がり、そこがバスターミナルらしかった。
吹き溜まりのような広場に白人のバックパッカーが数人とおんぼろの軽トラが1台。
思わず立ち止まって左手で額の汗を拭った。アイツに貰った指輪は汗と埃まみれだった。
女の扱いだけは上手いアイツの手の甲のタトゥー…… 蜘蛛の巣の意匠、が脳裏に浮かび
舌打ちして見上げると、軽トラから浅黒い小男が軽いステップで降りてきた。

「上等上等!あんたのボーイフレンドには明日の朝一番で送金しとくよ」
宿でスーツケースの中身を確認した男は上機嫌だった。
中身の殆どは高級酒のボトルだった。
「この国じゃ酒は禁制品なんだ。どうだ、さっそく祝いに一杯やらないか?」
男の端整で人懐こい笑顔から真っ白い歯が溢れた。
ウィスキーを小さなグラスに2杯飲み、焼けた肌がますます火照った。
初めて嗅ぐタバコや香水の混ざったような匂い。気がついたら男と抱き合っていた。
「俺は指名手配されてるんだ」 私は楽しい気分だった。

「よう、姉さん、帰りも重たそうな荷物だな」
出国の係官は入国時と同じ中年男だった。楊枝を咥え、目を細めてニヤついている。
「たくさん土産でも買ったのかい? いいよなぁ金持ちの外国人は。うちの家なんて……」
私は面倒になって早々に煙草をカウンターに置いた。今度は自然に笑顔が湧いてきた。
が、旅券にスタンプが突かれる寸前、スーツケースから微かな唸り声が聞こえた。
「うん?何か聞こえたようだが。気のせいか?」
「気のせいよ」 私は咄嗟に薬指から指輪を引き抜きカウンターに置いた。
「これ、そこに落ちてたんだけど、奥さんにでもプレゼントしたらどう?」
係官は暫くバタフライを模したデザインの指輪を眺めた後、私に最高の笑顔を見せた。