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第二十四回ワイスレ杯参加作品:
おんぎゃおんぎゃおんぎゃ……
秋だった。
よく晴れた高い空を一羽、二羽と懸巣が飛びまわる眠たい昼下り。
女が一人、重そうにして乳母車を押しながら河っペりを歩いている。
車の籠からは火がついたような赤ん坊の泣き声。
赤ん坊か。丁度いい小腹が空いてた。
「ねーちゃんねーちゃん。重そうだの。手伝うか?」
俺が河から女に声をかけると。
「あら、ありがとう。お願いするわ!」
女が俺にニッコリ笑って乳母車を差し出した。
俺が河から飛び跳ねて、車の持ち手に手をかけると、
「重くて困ってたの! あとはよろしくね!」
女がそう言うなり、
「ケーーン!」
銀色の尻尾を翻して草叢に消えてしまった。
「き、狐?」
驚いて追っかけようとするが、俺の手が車から離れない!
「河太郎。今度はお前がお守か。よろしくな!」
籠の中の赤ん坊が、しわしわの顔を俺に向けて二カッと笑った。
「こ、子泣き爺!」
俺はまたまたおったまげた。
それからかれこれ七年。
俺は次の子守りを探して今日も河っペりをぺたぺた這いまわってるのだ。
いちごポーンとさけた。