556 :
第二十四回ワイスレ杯参加作品:
ゴロゴロゴロ……
日曜日の昼下がりの事だった。
まだまだ暑くて陽射しが厳しい秋の多摩川。土手沿いの砂利道を、一人の少女が歩いていた。
足取りは鈍い。自分の背丈ほどもあるキャリーバッグを重そうに引きずっているのだ。
「ゆすら?ゆすらじゃないか?何やってんだそんなの持って?」
土手沿いをプラプラ散歩していた聖痕十文字学園中等部二年、時城コータがすれ違った少女に声をかけた。
「せ、先輩!」
うかない顔の少女が、ようやくコータに気付く。
山桜ゆすら。桃色の髪にクリクリした瞳が愛らしい、コータの美術部の後輩だ。
「重そうだな、運ぶの手伝おうか?」
みかねてそう言ったコータに、
「あ、ありがとうございます。そんな事より……」
ゆすらが切羽詰まった表情でコータの手を握り締めた。
「今日、ちょっとした……お食事会があって!一緒に来て欲しいんです!」
あえ……?コータの顔が見る見る赤くなって行く。お食事会に一緒て!
「わかった、ゆすら。事情はわからんが俺も行くぜ!」
眉毛をキリッとさせてコータはそう答えた。
#
「あら〜、ゆすらちゃん。買い出しお疲れ様〜!」
ゆすらとコータの着いた先。『炎浄院』。いかめしい表札のかかった大邸宅の玄関を開けて顔を出したのは、コータのクラスメート。エナだった。
「先輩!豚骨30kg鶏皮50kg!買ってきました!あとコータ先輩も、先輩のラーメン食べたいって!」
ゆすらが震え声でエナに挨拶。
「コータくんも一緒?いーわ。上がって上がって!もう『一の丼』の準備はできてるから!」
コータに気付いたエナは、眼鏡を輝かせてそう言った。
そういうことだったのか!コータは怒りに燃える眼でゆすらを見た。口元をヒクつかせながら、シレッと彼から目をそらすゆすら。
謎のJCラーメンコンサルタントを名乗る輩が、後輩やクラスメートを家に招いては凶悪に不味い実験ラーメンを無理矢理食べさせていると言う黒い噂は、本当だったのだ。
ゆすらは、風紀委員会でエナの後輩。誘われたら断れないだろう。それでコータを道連れにして一人当たりの『食い扶持』を減らそうと……!
「お待たせ!一の丼『真説爆熱灼刹麺』!今日は五の丼まであるからね!」
食卓でブルブル震えるコータとゆすらの前に、エナが強烈な異臭を放つ漆黒のスープ麺を運んできた。