目覚めると私は闇の中にいた。闇は狭いが、その分濃厚な闇であり、そしてひどく揺れていた。
ここは一体どこだろう?
意識を集中した。風の音…木の葉のざわめき…足音…。足音?
そして不意に男の声がした。
「こんにちは。どちらへ?」
すると振動が止まって今度は女の声が聞こえてきた。
「ええ、ちょっと…」
私は会話に耳を澄ませた。何か手がかりが掴めるかもしれない。
「こんな所で人に会うなんてね。それ、大きいですねぇ。何が入ってるんです?」
「何でもないんです」
「何でもないってことはないでしょう。そんなに大きくて、重そうだ」
「しつこいですね」
「まぁ、はっきり言わせて貰うと、あなたとっても怪しいですよ。いや、なに。僕は何もあなたに悪意を持ってるわけじゃない。興味本位ですよ。で、何なんです?」
「…わかりました。ちょっとだけですよ」
――唐突に眩しい。眩しい中に、真っ黒い影が二つ、佇んでいた。
「こりゃあ…」男が言った。「驚いた。チャーじゃないですか」
「はい、おしまい」
また唐突に暗くなった。会話が続く。
「いや、すみませんね。そういうわけだったんですか、いや、なんとも…そうですか、この時代にチャーを見つけましたか」
「どうか内密に。上が色々とうるさいですから」
「ええ、そりゃそうでしょう。そうでしょうとも。とするとこれからしばらく歩くんですね?」
「ええ」
「それはそれは…どうか道中お気をつけて」
「どうも。ではご機嫌よう」
再び揺れ始めた。男はまだ「なるほど、いや、そうか…」などとぶつぶつ言っていたがすぐに遠ざかって間もなく聞こえなくなった。
私はチャー。ただ、それだけが分かった。言い換えれば、それしか分からなかった。私はチャーと呼ばれる何かしらの現象であり、チャーという響きだけを胸に、揺すぶられ、どこかへ運ばれようとしている…。