考えるよりも先に行動してしまう性分は、俺の数少ない取り柄の一つだと思っていた。それで、裏目に出ることが少なからずあったけれど後悔なんてしなかったし、行動していなかったら何時までも引きずって悔やんでいたと思う。
きっと何かの間違いであって欲しい。そう思わずにはいられなかった。取り返しのつかない失敗は俺の行く末を暗示していた。
吹いてくる風に湿り気はなくて十分に涼しかった。けれど、未だに日中の陽射しは夏を感じさせて額から滴る汗を手の甲で拭う。
思わず、引っ張ってきた大きめのキャリーケースに跨いで腰を下ろす。辺り一面、田園風景が広がっている。陽射しを遮るものはなく、避けるように自然と俯いた。
「××ちゃん?」
「……」不意に声をかけてきた青年の質問に答えることができなかった。緊張のせいか、口は乾くし嫌な汗は首筋を通って鳩尾に流れる。
アタシは喉を指差して悲壮感を漂わせながら目を伏せた。
「そっか。……そうだったね。聞いてるよ。苦しかったね。でも、僕は××ちゃんのこと、見捨てないから」
本当ならアタシはこの世にいない。初対面の青年のために俺は自分で喉を切った。喋れないのなら声を出す必要がなくなる。俺が元男だと気づかないはずだ。そのために身体も変えた。俺とアタシは双子なのだから。妹が好きだった人を悲しませたりしない。
何も言えない代わりに微笑みを浮かべた。妹がそうしていたように愛しさをこめて。
「君たちはホント良く似てるね」
「××くんだろ?」
「××くんが女の子になるとは思わなかったな」
「けど、別にいいかな。改めて言うよ。大好きだよ、××」
「××ちゃんを邪魔だと感じるほどにね」
……アタシは俺を取り戻せない。