9月が半ばを過ぎても、眩しい程の日差しが乾いた石畳の上にマロニエの影を濃く落としていて、
時折吹く風だけが季節の移ろいを知らせていた。
僕はブノワ爺さんのカフェのテーブルから通りを眺めていた。乾涸びたパンと薄いワインで昼食をとった後だった。
革命と戦争が、もう長い間庶民から仕事と満足な食事を奪っていた。一昨日、ヴァルミーでは我がフランス軍がついにプロイセンを撃退したそうだ。
タンプル塔では、反革命派の人々を「裁判」の後処刑したらしい。革命はいずれ達成されるだろう…それがもはや市民の手を離れた残虐な歴史の嘔吐であったとしても。
僕は革命なんかどうでも良かった。僕は仕事を失った町外れの職工にすぎなかった。
道の向こうに女がひとり現れた。布を被せた荷物を乗せた小さな荷車をゆっくりとひく女は、
額に汗を浮かべ暑さに耐えかねた表情で、やがて僕の前を通り過ぎようとした。通りには僕と彼女の他には誰もいなかった。
女は立ち止まると手の甲で汗を拭った。中年の太った女で着ている物は悪くなかったが、
酷く汚れていて疲労困憊している様だった。僕は立ち上がると、彼女の方に歩み寄って言った。
「何か飲んだ方がいいのでは?店に入ればワインがありますよ」
女は何も言わず、躊躇うように僕を見た。僕はついてくるように促したけれど、女はそこを動こうとしなかった。
「荷車を寄せましょう」僕が荷車に手を伸ばすと、女が僅かに狼狽した。僕は荷車の横に回ると、荷物を覆っていた布をはぎ取った。
荷台にはまだ幼い男の子と女の子がいて、怯えた目で僕を見ていた。良い服を着て、やはり酷く汚れていた。
女が割って入ってきて、僕の両腕をつかみながら興奮して訴えた。
「お子様方は…お子様方はまだお小さいのです。どうか…!」
「僕は何も言っちゃいませんよ」僕は感情を込めずに言った。それから女を後ろ手に押え込むと、
後頭部を殴って気を失わせた。そして静かに泣く子供たちを両脇に抱えて、ブノワ爺さんの店に戻っていった。
今日の僕は運がよかった。反革命派の貴族が子供達を逃がそうとするのは最近よくあることで、これを捕まえて差し出せば、いくらかの金になるのだった。
僕は仕事を失った町外れの職工にすぎなかった。ただ、今日のパンを得て妻と子供の待つ家に帰れさえすればそれでよかった。