ワイが文章をちょっと詳しく評価する![24]

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113名無し物書き@推敲中?
赤提灯が商店街の両脇を埋め尽くす頃になると、わずかに開いた居酒屋の扉や、あるいは路地や、
とにかく隙間という隙間から光と酒の匂いが染み出してくる。
乱雑に停められた自転車を蹴倒す中年男や、上気した赤ら顔の若いスーツ女たちの笑い声のすぐそばを、
冷気とともに俺は通り過ぎていった。この先の角を曲がれば公園がある。
俺は誰かと一緒に酒を飲むことができない。恋人を失った時、両親を亡くした時、俺は必ず一人で酒を飲み、泣いた。
酒からアルコール分だけが抽出され、残りの水分は涙になった。俺にとって酒は感情そのものだった。
今日は月が妙に美しく感ぜられた。家に帰って天井の下で味気ない蛍光灯の満月を眺めるよりは、群雲の陰りをまとった半月でも肴にするほうがいい。
公園で飲もう。俺は角を曲がり、切れかかっている公園の街灯に向かって歩いていた。
 ふと、おかしな空気を察した。砂利の擦れる音がする。暗闇の中から荒い鼻息とうめき声が微かに聞こえる。
俺は足を止め、にわかに腰をかがめた。片手に持つコンビニの袋を静かに握りしめた。
目を凝らすと、公園の中央に大きな黒い塊が見えた。黒い塊は数人の人間のようだった。
さらに彼らは足元の小さな黒い塊に何発も何発も蹴りを入れていた。うずくまった人間だった。
俺の心臓の鼓動さえ聞こえてきた。全身は震えていたが、その様子を見つめていた。
しばらくして彼らの暴行は止まった。それとともに俺は冷静さを取り戻していた。いいものを見た。
もう気配に気を遣う必要はなかった。俺は出来るだけ大きな足音をたてるようにして、公園前のアスファルトの道を駆け抜けていった。
恐らく彼らはその音に驚き、被害者を残して走り去ってしまうだろう。それは俺からのせめてもの礼であり、
ささやかながら彼らにも胸の高鳴り、焦りを楽しんでほしかったからだ。
 自宅に帰って俺は酒を飲んだ。瞼を閉じれば、脳裏に先ほどの刺激的な事件の映像が浮かんでくる。
あの後暴行を受けた人はどうなっただろうか。きっと誰かに介抱され、病院に担ぎ込まれているだろう。
逃げた奴らは今頃、武勇伝として仲間相手に語っているかもしれない。
そんなことはどうでもいい。俺は天を仰いで酒と一緒に興奮を飲みほした。蛍光灯の満月も悪くないと思った。