芥川賞受賞ためにならない人も
http://sankei.jp.msn.com/sports/news/120313/oth12031303150001-n1.htm 誰もが納得する選考基準がない、芥川賞と直木賞の不条理について、2カ月ほど前コラムに書いた。
それをおそらく誰よりも感じていたのが、芥川賞の候補に4回挙がり受賞しなかった吉村昭だろう。
▼昭和37年の候補の際は、受賞決定の報を電話で受けている。早速会場に駆けつけると、
若い編集者が沈痛な顔で頭を下げた。一時は吉村作品を含めて2作受賞に決まっていたものの、
欠席していた選考委員の一人に問い合わせた結果、もうひとりの作家の受賞だけになったというのだ。
▼これほどの不手際は珍しいにしても、似たような不条理は世の中に数多(あまた)ある。
五輪のマラソン日本代表選手の選出もそのひとつだ。いくつかの選考レースは、それぞれコースの状態や天候など
条件が違う。順位かタイムか、重視する観点によっても評価が変わってくるから、トラブルが絶えない。
▼最後まで選考がもつれたロンドン五輪の男女の代表選手がきのう、ようやく発表された。注目の公務員ランナー、
川内優輝選手(25)は、やはり選に漏れた。本人は先日の東京マラソンの惨敗で、五輪への未練を断ち切って
いたようだ。来年の世界選手権、あるいはもっと先を見据えて走り続けてほしい。
▼「受賞が必ずしも将来のためにならない作家っているでしょう。僕もそうなったと思うんだ」。吉村は後年、
ある対談で語っている。確かに候補になった作品とは路線の違う『戦艦武蔵』で世に出てそのまま大作家への道を歩んだ。
▼もちろん多くの作家は、受賞をきっかけに飛躍を遂げる。出場を勝ち取った選手たちの、本番での奮起を期待したい。
もはやお家芸といえないマラソンだが、日本人の意地をみせることはできる。