とあるマンションの一室。そこには、同じ様に死んだはずの人々が集められていた。
部屋の中央にある謎の大きな黒い球。
彼らは、その「ガンツ」と呼ばれる球に、星人を「やっつける」ように指示され、別の場所へと転送されていく。
原作のガンツはエロい!なのでグロイだけのガンツを創作しよう。
っというスレです!
【注意事項】
・都合上、登場人物が死亡したり残酷な場面が含まれます。
・このスレはちなみに15禁です。R18ではないです。ご注意を…。
・エロ描写を書く人は基本スルーです。(厳しめにとります)
・荒らしもスルーです。
・ある程度まとまるとまとめサイトを作成します
創作発表でスレが立てれなかったので、ここで立てますた。
初心者だけど、よろしくお願いします!
3 :
名無し物書き@推敲中?:2011/04/30(土) 12:16:00.34
[プロローグ]
玩具のような武器を片手に今日も不気味な怪物を殺しに行く。
ーーそこは、まるで地獄の様な惨状。人間の本性がそこに現れるからだ。
弱いものは死に、強い奴も殺される。
それが、一度死んだ私たちへの重すぎる罪と罰なのだ。
慈悲を持つな、感情は捨てろ
ただ、無慈悲に戦え。
4 :
名無し物書き@推敲中?:2011/04/30(土) 12:30:21.95
↑それエピローグにして終了
5 :
名無し物書き@推敲中?:2011/04/30(土) 12:35:17.25
〜完〜
東京を舞台にするなら小説版をふまえた上で過去編にするか、
もしくは東京以外の他県や他国を舞台にした方がある程度のオリジナル展開が出来ると思うよ
ちなみにガンツ呼びは東京地域だけで、他の地域では黒球のことは別の呼び方をしている
(大阪では黒飴ちゃん)
ミッション開始時の音楽も地域によって違う
今のところ東京と大阪以外は描写がないからオリジナルでよろしいかと
7 :
名無し物書き@推敲中?:2011/04/30(土) 13:22:06.10
>>6 アドバイスありがとう。
俺が書く舞台は愛知。シェアにするなら人によって変えてもOK
「南雲英俊」。この名前を言ったら数年前まではみんな驚き、サインや握手を求められた。
あくまでも数年前の話だ…。
自分がスタジアムの離れたのは2年前の話。
酔っ払ったファンに、「シュートを外しすぎ」とか「今のままじゃFW失格」とか言われた挙句、シカトしていたため殴られた。
顔面を何十箇所も殴られて、顔がアンパンマンみたいに腫上がった。
アンパンマンはみんなのヒーローだからよかったが、実際の俺は醜かった。
顔の事をからかった、先輩にアンパンチを食らわせてやり、チームを解任させられた。
怪我は治り順調に回復しても、俺の心は晴れなかった。顔は腫れが直ったのと同時に…。
(リベンジしてやりたい!絶対に戻ってきてやるからな!)
心のどこかでは希望を持ってトレーニングに励んだ。一生懸命にだ。
だけども一般人にパンチしたヒーローに天罰が下った。それは、買い物へ行ったときのことだ。
珍しく、スーパーで買い物をした。お袋の誕生日に料理でも作ってやるためにだ。
自炊はしたことがなかったが、なぜかイカ墨パスタは作れた俺は鮮魚コーナーで食材を探していた。
小さな子供一人がお菓子コーナーで倒れて動いていなかった。
正義感の強い元アンパンマンは、その子供の救出に向かう。が、不運なことは突然起きた。
お菓子の棚が固定してあったはずなのに、いきなり倒れだしたのだ。
アンパンマンは馬鹿馬鹿らしい偽善者なので、子供を庇って棚に押しつぶされてそのまま死んだ。
(死んだはずだった…。)
目を開けるとそこは、マンションの一室だった。真ん中には黒い巨大な球体。
不気味な成人との戦いに巻き込まれていくとはまだ知らない。
この部屋には、自分を含めると男女8名。中にはまだ小さなガキもいる。
球体に文字が浮かび上がると、人々は動揺を隠せずに声を出した。
「何なんだよ!ここは!ワケが分からない。死んだはずじゃなかったのか!?」
背広姿にパーマのかかった髪の小柄な青年が大声で叫ぶと人々が次々と声を上げた。
「私は木島高志です。学生やってます。いや、ましたか…。自殺です。」
「僕は葛城智彦。『永遠のウチュウ』っていう本書いたけど知ってる?」
「宇部智子でーす。名古屋でOLやってまーす。」
「わしは平泉真人じゃ。まったくなんでこんなことなっとんのや?」
「えーと私は持田芳恵です。職業は名古屋大学の准教授」
「俺は…南雲英俊です。職業は…。」
頭の中でどうしようか?と迷い一旦サッカー選手と言おうとしたが、今は違うのでやっぱりやめた。
「職業は、無職です。よーするにぷータローです。」
表面では笑顔を作っていたが、心の中では泣いていた。そして嘆いていた。
パーマの青年が悲鳴を上げた。と同時に自分の体が徐々に消えていく。
10 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/01(日) 17:56:05.56
目標:ミヤネ星人
・特徴 司会者
・好きなもの 阪神タイガーズ ニュース
・口癖 「っちゅ〜ねん!」
南雲英俊 元サッカー選手
。事故死
木島高志 学生。首つり自殺
葛城智彦 作家。事故死。
宇部智子 OL。事故死。
平泉真人 やくざ。刺殺。
持田芳恵 教授。病死。
その他二名。
11 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/03(火) 07:30:28.36
「ーーー!?」
再び目を開けると、そこは商店街で、人通りはなかった。
「やめろ!ぎゃぁぁぁぁ。」
どこからか、木島の悲鳴が上がり、同時に心臓の鼓動も上がった。
「なに?やっやめて!うぎゃぁぁ。」
「どうした!?ぐぁぁぁ!」
次々と悲鳴が上がり、焦りを感じ出す。武器がないからだ
「いやだ・・・。私はまだしぬわけにはいけないんだ!」
葛城が血塗れでこちらに走ってきた。怪物を引き連れて。
星人は整った顔の中年男性に見えるロボットで、不気味だった。
「逃げろ!君は生き残れ!」
葛城はそう叫ぶと、鉄パイプを片手に星人へと立ち向かう。
12 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/03(火) 18:08:06.49
なんでガンツなの?
自分で創作しろよ
13 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/03(火) 18:13:22.48
セックスのシーンはバラの花びらが散るのか
14 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/03(火) 21:29:23.66
>>12 自分で創作して、設定ばかり陳列するイタイ子になりたくない。
最小限の説明で、読者と書き手が楽しめたらそれでいい。(って言っても自分も楽しみたい気持ちもある。)
>>13 貴方が期待してるシーンはございません。
あくまでも、エロ要素のない創作バトルものGANTZです。
ネギください。二本で充分ですよ
16 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/04(水) 22:25:15.69
三本必要だろ
17 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/05(木) 22:32:40.96
ガギギギ・・・グシャン!
つい先ほどまで人間だった葛城の内蔵の欠片と胃液が散乱している。
グロテスクな臭いが漂うなか、ロボットはマイクスタンドを持ち上げた。
「痛いっちゅ〜ねん。」
何かを弾き跳ばすと、目から火の玉を吹き出して停車中のバスを引火させた。
火だるまになった持田が確認したが助けられず見放した。
「誰か!助けてくれ!」
叫ぶも返事は帰ってこない。
「お巡りさん!助けてください!」
見かけた警官に助けを乞うも無視されて、見放された。
(嫌だ!神様、助けて下さい。怖い怖い怖い怖い怖い怖い。)
「誰か助けて下さい!お願いします。何でもします!」
ガンツがエロくてなにが不都合か。
19 :
名無し物書き@推敲中?:2011/05/06(金) 19:44:02.26
エロいから親の前で読みにくい。
映画は物足りなかった。
漫画も展開が急で最終ミッション後は面白くなくなった。
映画は良質の二次創作という感じだった。優等生山本のかっこ可愛さは原作を超えていた。
22 :
名無し物書き@推敲中?:2011/07/20(水) 18:06:20.66
えろくないGANTZ
真面目な高校生玄野計は、地下鉄のホームで電車待ちの間、雑誌のグラビア記事を読んでいた。
(鮎川ももさん、頑張ってるなあ。俺も負けていられないぞ)
幼い頃は運動神経抜群のガキ大将であった玄野だが、身長が伸び悩んだせいもあって、中高では学業に専念していた。
(身長はアキラの方が伸びたからなぁ。俺は別の形で親の期待に応えなきゃ)
ホーム内を見回せば、サラリーマンの中年に、時代錯誤のガングロギャル、主婦と思われる女性などがいる。鮎川ももさんだけではない、みんなそれぞれ頑張ってるんだ、俺も頑張ろう、と玄野は一人でガッツポーズをする。
と、そこにオールバックの長身の高校生がやってきた。厳しい目つきの彼は、玄野の横に並ぶ。小学校の頃の友人、加藤勝であった。
「加藤、久しぶりだな!」
「おお、計ちゃん」
互いに当時と雰囲気が変わっていたが、心の綺麗な面で通じ合っていた二人はすぐにまた意気投合した。離れていた数年の時を埋めるように、思い出話に花を咲かせた。
加藤は現在、頭の悪い工業高校に通いながら、弟と共に自立する為にバイトもしていると言った。玄野は、俺は国公立の大学を目指していると言った。
形は違えど、日々を努力し、悔いのないように生きる聡明な二人の高校生。
確かにその先にあるはずだった彼らの輝かしい未来は、ドサリという、泥酔したホームレスが線路に転落する音によって打ち破られた。
「助けにいくぞ、加藤」
「おう!」
正義感が暴走し足元をよく見ていなかった二人は、ホームから逆さまに転落。頭を強打し、更にやってきた快速電車に轢かれて死亡した。
ホームレスは自力で安全スポットに逃げ込み無事だった。
23 :
名無し物書き@推敲中?:2011/07/20(水) 21:54:25.01
即死したかと思われた玄野計と加藤勝は、黒い球の置かれたマンションの一室にいた。
「はじめまして、僕は西といいます。貴方達に話しておかなければならないことがあります」
彼――西丈一郎は、反抗期や中二病の多く見られる中学生にしてはしっかりした丁寧な口調で、その場にいた玄野達を含む数人の人間に語り始めた。
まず、ここにいる全員が一度命を失ったこと。それを、ガンツと呼ばれる黒い球が蘇らせたこと。その代償として、地球に潜伏する凶暴な宇宙人との戦闘を強いられること。
戦果に応じて点数が与えられ、それが百点に到達した時、部屋からの解放を始めとした様々な特典が用意されていること等から、いずれ訪れるカタストロフィについてまで、西は事細かに親切に説明した。
「凄い話だけど、信じるよ。西君」
「ありがとうございます、玄野さん」
玄野と西は硬く握手を交わした。他の面々も、「わざわざ教えてくれてありがとう」「よくわからないが頑張ろう」と一致団結した。
そこに、今回最後の死者が、ガンツより発せられるレーザー光によって出現した。裸の若い女であった。その場にいた者達――いずれも男性である――は、一斉に目を背けた。
「なんだッ、俺達もこうして送られてきたのかッ!?」
「そそそそうですッ! この方、風呂場で手首を切ったのかもしれません!」
西は女の手首に付いた血を見てそう言った。しかし女の身体は極力見ないよう心掛けた。
「服を着せるんだッ」
玄野のその一声で、全員が一斉に上着を女に被せる。ふぅー、と安堵の溜息が同時に上がった。彼らの偉大なフェミニスト精神により、事態はとりあえずの収束を見せた。
やがて意識を取り戻した女は、岸本恵と名乗った。
「俺と同じ名前だね。お互い頑張ろう」
自殺志願者に頑張ろうは本来禁句であるが、玄野の爽やかさがそれを無かったことにした。
「はい……!」
服に埋もれ服ダルマとなった岸本は満面の笑みを見せた。
>>23 しばらく原稿を目で追っていた編集者が
「君はいったい何をしたいのかな?ただ漫画のコマワリを文章で書き起こしただけじゃないの。」
僕
>>1は唇をかみしめて黙っていた。
さらに編集者は
「にしても文章力が足らないね。あと表現力もね。」
僕の唇に血がにじんだ。
「まあ、好きで書くならいいけど商業ベースに乗せるにはもう少し・・・ね。」
どうやら僕のただならぬ気配に気づいたようだ。
「いろんな本を読んだほうがいいよ。うん、普段読まない本とかね。」
これが彼との最後に交わした言葉だった。
今、僕は狭い部屋の格子状の窓から月明かりを眺めてる。
後悔はしていない・・・・・・・
〜完〜
25 :
名無し物書き@推敲中?:2011/08/31(水) 19:50:54.71
他人にケツを拭いてもらわないときちんと終わることすらできないのか
やれやれだぜ
26 :
ソニン:2011/09/01(木) 17:29:45.08
つ
ぬら〜りひょん
その後玄野達は、ねぎ星人田中星人あばれんぼうおこりんぼう星人と人員を一人も欠くことのないままミッションをこなしていった。とにかく頭のきれる玄野と正義感溢れる加藤二人の指揮により、チームは軍隊並に高度な連携をなしていた。
しかしその日、ホモが死んだ。チビ星人にリンチにされたのだ。ビルの屋上でズタボロになったホモを見て玄野は激怒した。加藤も激怒した。全員が激怒した。総勢二十名近いガンツ戦士達はXガンを乱射しソードを振り回しチビ星人の群れを血祭りにあげた。
彼らはガンツ部屋に帰ってきておいおい泣いた。部屋はまるでホモの葬式であった。
「きっともう誰も死なせない」加藤は固く決意していた。玄野も頷いて、みんなで円陣を組んだ。
一年後、ガンツチームは総勢百名を超す大所帯となっていた。巨大な星人が現れても、人海戦術により即死した。その様はまさに土竜だった。
完
30 :
名無し物書き@推敲中?:2011/09/29(木) 23:51:59.39
本スレから保守に参りました
>>23 エロくしたくないなら元から服着た状態で転送させろよ。
まぁ、俺もガンツはエロく無い方が良いなぁ。この前、あんまりガンツ知らないやつにガンツ読んでるって言ったら、
「えー?ガンツ?めっちゃエロいやつじゃん。お前もエロいなぁ〜〜ww」て言われたし。
>>32 わかった
玄野と加藤の次に、岸本恵と名乗る賢そうな女子高生が部屋に現れた。「君も何らかの理由で死んだのかい」と、至って真面目な面持ちで玄野が問う。
学業疲れで、洗面所で手首を切って……と、岸本はその辛い死因を語った。
「でも、服は着てました」と誇らしげに胸に手を当てて言った。
「スーツは裸になって、一糸まとわずの姿で着ましょう」
最古参で部屋に詳しいという西によって、ガンツと呼ばれる球から出現した装備品の使用手順などが全員にわかりやすく説明された。
「しかしそれでは、まずい。男女の着替えを分ける必要がある」
山田という小学校教師が教育的立場からものを言った。それに大きく頷いたのは加藤だった。
「岸本さん一人に玄関で着替えてもらえば済む話だが、こちらの部屋にこれだけ大人数の男が構えている、という事実は大きな心理的圧迫になる。どうにかそれを和らげる手段はないものか」
「僕が部屋の出入り口に立って、門番の役目をしましょう」胸元からちらりとスーツを見せて西が言った。「更に、岸本さんにはこの便利なステルス迷彩の装置も渡しましょう。万一、覗かれても、これによって着替えている姿は誰にも見えません」
「西!」加藤は西に歩み寄って、固く握手を交わした。
西は部屋の男性全員を見渡して言う。
「ここにいるみなさんを信用しないわけではありません。事実、みなさんは僕がこれまでの人生で見てきた中でも最も綺麗な目をしている方々だ。ただ、これは、加藤さんが言ったように、この中でただ一人の女性である岸本さんの心的負荷を考慮した結果です」
「ああ、それがいいよ。その年頃のお嬢ちゃんはデリケートだから」と、ヤクザ。
「安心しな。着替えを覗こうとかいう輩が出たら、俺がぶっ飛ばしてやる」と、もう一人のヤクザ。
「みなさん、どうもありがとう。これはまるで、女性に優しい社会の縮図ね」
岸本は安心した表情で微笑む。西からステルス装置とスーツを受け取ると、廊下に出ていった。
そのようなかたちで、ガンツ部屋の女性の権利を守る体制は確立されていった。戦闘では男性陣が前線に出て戦う。瀕死の敵を女性に譲る場面もよく見られた。
西の提言によって、次に、ガンツ部屋に収拾される際に金縛り現象が発生し、女性または男性であっても無防備な格好でガンツ部屋に呼ばれてしまう可能性が問題化された。
しかしそれは、ミッションの開始時刻が夕方から夜間に限定されることから、その時間帯には必ず外向きの服装をしておくというルールを定めることで難なく解決した。
その後も順調に、一人も人員を欠くことなく、ミッションを遂行していった玄野達だったが、それも十戦目を越えたころ、加藤が次の戦いに対し、ただならぬ警戒を示した。
「いやな予感がする」
「どうした加藤」玄野が心配した。
「次のターゲットは、ぬらりひょんと出ていますね」西が言う。「つよい、あたまがいい――このターゲットに、加藤さんは妙なものを感じているのでしょうか」
「いや、わからない」
加藤は頭を抱えてブルブルと震えていた。このメンバーの中でもっとも感受性が強いのがこの加藤だ。今では十人近くに増えた女性メンバーの権利を自分のことのように主張する、偉大なるフェミニスト加藤。
その加藤がこれほどまでの危険を感じている。いったいこのミッションで何が起こるのか。と玄野は考えた。
「とにかく、いくしかない。こちらにはZガンも沢山ある。どんな危機だって乗り越えられるさ」
大阪民国。玄野達にとって迂闊だったのは、今回はじめて別チームとの合同戦線がとられたことである。大阪人である彼らは信じられないほど気性が荒く、品性が欠けていた。ナイーブな加藤の目の前で、女型星人への陵辱が行われたのだ。
「うおお」加藤が悶える。あまりの光景に目を覆う。
意外なことに、それを支えたのは女性である岸本だった。
「加藤君、しっかりして。あれは、ひどいようだけど現実なの。赤ちゃんを作る行為よ。れっきとした、正しい行為なのよ」
「そうだ加藤。俺もおまえも、ああして生まれてきたんだ」
「そんなあ」松犬の目から、ついに涙。
と、女型星人と繋がりながら、スーツを半脱ぎの男が近づいてきた。「いよう。俺は桑原いうもんや。小学校の教師やっとる」
山田が驚愕して前に出た。「僕も小学校教諭ですが、あなたみたいな人は、あり得ません、めちゃくちゃです」
「ああ、でもな、これが関西のやり方や。汚いもん、えろいもん、必死なって隠してどないするん? 俺みたく、これが真実の姿や、って堂々としとくんが、まだ潔くないかねえ」
加藤はその言葉に、激しい稲妻を受けたような顔をした。
「あるがまま、ということか。恥ずかしがるから、余計いやらしい気持ちになってしまう……。セックスはセックス。ただそれだけのこと。そこからエロスを感じるかどうかは」
「人それぞれなのさ」ホモが言った。
「いくぞ、ぬらりひょんを倒しに行くんだ」
玄野が右手を突き上げる。メンバー達は雄叫びを上げ、レーダーに反応のあった道頓堀へと走った。
道頓堀の水面で遊びながら、大ボスぬらりひょんは小さな老爺から子供へ、そして裸の女へと変態をしていく。
「裸婦というのは、ずっと昔から芸術的な捉えられたをしてきたものです」橋の欄干に身を預けて、西が言った。
「そう言われると、ちっとも助平な印象はしないな」と玄野。
「そうよ。人のカラダを見てそんなふうに思うこと、それ自体がとっても失礼なんだから」
岸本が言うと、全員が一斉に笑った。
加藤がZガンを構える。トリガーを引くと、ぬらりひょんの頭上から円形の不可視攻撃が襲った。川にあいた大穴と共にぬらりひょんは潰れたが、裸の大男の姿となって一瞬で再生した。
「うおっ、危ない」
ぬらりひょんが目玉から放ったレーザー光を、玄野達は統率のとれた動きで一斉回避した。
すかさずまた加藤がZガンで攻撃。しかし、ぬらりひょんは即時、再生する。そんな攻防を何度か続けるうちに、ぬらりひょんは見るもおぞましい姿へと変貌していく。
「まんこ」
あまりに直球な表現が玄野の口からもれた。ぬらりひょんはこともあろうに女性器を模したクリーチャーとなったのだ。
「ちんこもついているぞ」
「いやっ」
岸本が目を覆った。彼女を後ろに下げて、加藤が言った。
「まんこはただのまんこだ。人類の半分は女性だ。その下半身にかならずついている、ごくありふれた器官だ」
「そう冷静な見方をされると、ちっともえろくないな」
「だろう」
「それにね、真面目なお話」おばあさんが言った。「出産のために大切なものなのよ」
「その通りです」
「亮太も、お母さんのあそこから出てきたのよ」
「えーっ」
そんな孫と祖母の微笑ましいやりとりを横目に、ガンツ戦士達は道頓堀川に向けてZガンを構えた。
後日、玄野計は地下鉄のホームを颯爽と歩く。キヨスクで購入したプレイボーイを片手に、サラリーマンとOLがすでに腰掛けるベンチの中央に座った。
(鮎川ももさん、こっちの方にいってしまったなあ)
袋とじを開封して、中のヘアヌードグラビアをじっくり吟味する。玄野の顔はとても清々しい。
ちっとも、いやらしくなんかないさ。これはただの裸だ。いやらしい目で見るから、いやらしいんだ。えろいことばかり考えているから、ただの裸や性描写がえろく写ってしまうんだ。
「俺たちの戦いがえろいだなんて、なあ、計ちゃん」後ろから加藤が顔を出す。
「ああ。そんなこと言う奴は、とても恥ずかしい奴さ」
玄野は立ち上がり、プレイボーイを全力で前方に投げた。その時、激しい音を立てて快速列車がホームに進入し、プレイボーイは弾け飛んだ。
「ナイス。計ちゃん」
えろくないGANTZ 完
GJ
フェミニストなヤクザに萌えたw
本スレから誘導されて来ますた
画像期待あげ
41 :
名無し物書き@推敲中?:2011/11/19(土) 03:15:43.37
あがってナカッタorz
http://www.gamer.ne.jp/news/201111240026/ >インデックスは、「GANTZ-ガンツ-」のソーシャルゲーム「GANTZ/XAOS」を、「GREE」にて、
>2011年12月より提供開始することを決定し、本日2011年11月24より事前登録を開始した。
>
>「GANTZ/XAOS」では、プレイヤーは謎の黒い玉「ガンツ」の指令によって戦うことになった
>「星人」との戦闘に生き残るため、「GANTZ」に登場する様々なキャラクターを率い、
>自分だけの「GANTZ」チームを結成する。
>「GANTZ」の主人公である「玄野計」や「加藤勝」をはじめ、
>原作に登場する150以上のキャラクターがカードとなって登場し、デッキを組んで戦闘を行う。
上手いじゃんv
エロいやつがみたいんだが…
>>45 過疎ってるし原作程度のエロならOKでいいんじゃね?
全年齢板だから、エロ目的のものはいかんと思うが
47 :
43:2011/11/27(日) 10:26:57.96
>>47 これだけ上手けりゃ充分じゃん、超期待
背景は説明だけしとけば描く必要ないと思うし
お遊び企画なんだから、原作からコピペしてもい(ry
「エロくない」は一体どこへいったのかw
よくわからんが、画像期待の人はつまり原作キャラのエロが見たいのか?なんでもいいからエロが見たいのか?
>>47 めちゃくちゃうまいじゃんw
早くレイカを描いてくださいw
エロあっても無くても面白けりゃいいです
見たい
原作で放置されたままになってるキャラたちの補完をどうかお願いします
もうここのガンツ漫画が放置キャラたちの結末と思うことにするから
>>49 原作と関係無く何でもいいからエロが見たいというなら
エロパロやエロ漫画板に行けばいいだけで
わざわざこういうスレにまで来てリクエストしないっしょ?
エロにしろ何にしろ、みんなガンツの二次作品が見たいんだよ
っちゅうことで、はげしく期待
>>53 見てないけど、pixivでそういうの描いてる人いないのかなって思った。
>>54 そりゃ二次創作自体なら無いことは無いよ
和泉と西のホモとかはそれなりにあるw
ホモでも腐女子向けのBLみたいのでなく
原作に出てくるホモネタ程度のものならいいと思う
たとえば、ホモボクサーの鬼塚が不意打ちくらわず
鬼塚グループと加藤のガチンコ対決になってたら
加藤はどう切り抜けただろうかとか
そういうif話も面白そうだし
58 :
名無し物書き@推敲中?:2011/12/08(木) 09:06:48.81
期待age
59 :
名無し物書き@推敲中?:2011/12/17(土) 09:13:56.71
age
60 :
名無し物書き@推敲中?:2011/12/21(水) 13:00:02.10
あげ
61 :
名無し物書き@推敲中?:2011/12/21(水) 22:13:08.86
GREEのGANTZネタ取り入れてみても面白そうだ
期待age
62 :
名無し物書き@推敲中?:2012/01/05(木) 08:50:40.10
ほしゅ
加藤君が机に伏せて震えている。さっき二年の不良に呼び出されて帰ってきてからずっとだ。僕なんかに全部はわからないけど、彼はきっと闘っているんだ。その証拠に、机の脚が鳴るほどに全身を震わせていても、眼だけは何かを真っ直ぐに睨みつけている。
声をかけようか迷う。加藤君はいつも気弱な僕たちを不良から助けてくれる。だから今回はこっちがお返しをする番じゃないかって思うんだ。だけどもし足でまといになったなら申し訳ない……どうしよう。
ガタ! と突然の音を立てて加藤君は立ち上がる。フゥフゥと息を調えて、明らかにこれから何か事を起こそうとしている。僕は思わず話しかけた。
「加藤君、一緒にトイレ行かない?」
「!?」彼は驚いた顔をする。
「さっきからずっと我慢しててさぁ」
加藤君は驚愕が抜けない様子のまま、
「ああ……いいぜ」
二人で教室を出た。「あ」加藤君が思いついたように立ち止まった。
「少し遠くのトイレでもいいか? ここの一年トイレは……不良がいるからな」
「うん。いいけど」
僕に気を遣ってくれたのか、普通に怖くて不良を避けたのか……
いやいや! 僕と一緒のときに不良に絡まれたりしたら、明らかに僕が邪魔になるだろう! だから加藤君は安全な方を選んだんだ。怖がったりなんかしてない。僕は何考えてるんだ。
横を歩く加藤君は見るからにそわそわしている。やっぱり、声かけなきゃよかったかなぁ。
トイレから帰って午後の授業が始まって、加藤君は依然落ち着かない様子のまま五限六限が終わって、放課になった。
「加藤君」
「おう、一緒に帰ろうぜ」
顔に僅かに無理が見えた。
靴に履き替え、校舎前を歩く。加藤君は一言も喋らない。
校門のところで、立ち止まり「やっぱ……」と言いかけた。「お前一人で帰っ」
その横顔が衝撃に乱れた。
突然の奇襲を受けて、加藤君は倒れた。体の大きい、色の黒い三年生がその襟を掴んで、体育館裏まで引きずっていった。
「おほっ、やったやった」二年の金髪の不良が校門前から飛び出してくる。
「鬼塚さんさすが」他の不良たちも出てきて、一同も体育館裏へと行ってしまった。
僕は立ちすくんでいた。全て一瞬の出来事だった。
「どうしよう……先生を……」
いや、駄目だ。校外に目に付く校門前でならまだしも、隠れたリンチは黙認される。教師たちが保守に走っているからこそ、風紀は平然と崩壊しているんだ。
ちくしょう。僕が行ったところで何もできない。加藤君を余計に困らせるだけだ。きっと、昼休みに声をかけてしまったことでも、彼の何かを邪魔してしまったんだ。僕は馬鹿だ……!
十秒ほど考えただろうか。僕は早々と決意した。事態は刻一刻を争うんだ、悠長に悩んでる暇なんてない。
ヘマをしたなら、せめて、男になるしかない。きっと僕が招いたことだから、僕が現場に行かないなんて間違ってる。迷惑を大きくしてもいい、僕は行くんだ。僕が加藤君を助けるんだ。
「おい、そこの眼鏡の人」
いきり立っていた僕に声がかかった。振り向くと、校門の前に長髪の私服の男が立っていた。
「西深角工業高校って、ここで合ってるか?」
「あ、はい、そうですけど?」急いで早口で返事をしてしまった。
「だよな。エロ高校って書かれてるから、おいおいって思って一応確認したけど。どうもサンキュ」
そう言って去ろうとする長髪の人。その横顔が一瞬、加藤君に似て見えた。
「ちょっ、ちょっと待って下さい」僕は呼び止めていた。
彼は振り返る。一九〇センチ程と思われる長身。僕の中に期待と、使命感が湧いた。
「ケンカとか、できますかっ?」
長髪の彼は体育館裏に駆けつけるやいなや、加藤君を壁に押し付けていた三年生の後頭部に鮮やかな飛び蹴りを入れた。その一撃でそれまでの攻守が逆転する。加藤君は腕を振りほどくと、すかさず三年の顎を強く跳ね上げた。
黒い大男は倒れ、周りにいた不良たちは一斉に散っていった。
加藤君は流血していた。
「加藤君」僕はハンカチでそれを拭いた。
「すまん、ありがとう」言葉ははっきりしている。大丈夫そうだ。彼はすごく頑丈だから。
「あんたも、助けてくれてありがとう」長髪の人に向かって言った。僕もお礼を言って頭を下げた。
「なぁ、今、かとうって言ったか」
彼は目を丸くしていた。口許は微かな喜びをたたえていた。「もしかして、かとうまさる?」
「そう……だけど」加藤君は困惑。
途端、長髪の彼は高笑いをはじめた。「おいマジかよ。ははは!」僕たちは呆気にとられていた。
彼は腹を抱えながら言う。「今日は下見にきただけだったんだけどな。まさか会えるとは思わなかった。くろのけいとどっちにしようか迷ったんだが……お前が気に入ったよ」
「くろの……計ちゃん?」加藤君は反応した。
「まぁとりあえずよろしく」と手を差し出して握手をした。「今度ここに転校……することに今決めた、和泉紫音だ」
そうして、彼は加藤君と眼を合わせて言った。
「ガンツって知ってるか?」
end
66 :
名無し物書き@推敲中?:2012/01/09(月) 18:48:55.45
>>63-65 GJ!
加藤の高校の方に和泉が転校するというパラレルネタがイイです。
鬼塚たち不良やいじめられっ子一年生の使い方も上手い。
ぜひ続きが読みたいです!
そう言えば原作の和泉は加藤と入れ替わるように死んでしまったから殆ど絡みは無いんだよな
だから、和泉が加藤と絡むパラレル設定話は、いろいろと想像が膨らむし期待できる
68 :
名無し物書き@推敲中?:2012/01/29(日) 18:09:45.76
70
ほしゅ
2012年、二月。某県桜が丘高等学校軽音部の五名が、自主的に企画した卒業旅行先のロンドンで行方不明となった。
何らかの事件に巻き込まれた疑いもあると見て県警は調査を進めているが、現地警察との連携が取れず、捜査は難航を極めている。
ジャカジャカジャカジャーン!!
「おーいえー!」
ズッダカダカダカダカ!
ギュイーンギュイイーーン!!
「うぼおおおおおおおお!!!」
ぎょーん!ギョーーーン!!
だ、ダン!
「……はい、ありがとうございました。センキュー。放課後ティータイムで、ふわふわタイムでした」
「ウオオオー!」
「ブラボー!ブラボー!」
ロンドン郊外のマンション一室に設置された、いわゆる黒い球の部屋。
ダークマター≠ニ呼ばれる黒い球の内部には、多数のコンセント、オーディオジャックが搭載。ミッションの毎夜、放課後ティータイムによる爆音ライブが行われていた。
「いやあ、気持ちよかったねぇ」演奏していたXガンを振り回す唯。
「何言ってんだ唯、本番はこれからなんだぞー」
「大丈夫だよ。私たちってミッションもなかなかいけてるじゃん」
「唯はもう90点だもんな」と澪。
「そう、私に任せて!今日も狩りまくるよ」
「唯ちゃん凄いわぁ」と95点保有者の紬。
二年部員の梓がおずおずと言った。
「現地の人たちが、多分親切心でだと思うんですけど」
「Catastrophe ホニャララ,チャバチャバ、ペチャクチャクチャ.」
「カタストロフィがくるって、言ってます」
「カタストロフィって、カスタード系かな」
「いや、トリュフみたいなキノコの類いかもしれないぞ」
「お前ら……」
「直訳して、破滅とか、大破壊とか」梓は震えている。「何らかの、不穏なイベントなのは間違いないです……」
「ライブイベントかしら」
「おおっ!」
「それに放課後ティータイムも参加だね!」
「ま、マジか……。全国規模のイベントなのかな……」澪は赤面。
「……」梓。
そこでミッション開始の合図、ジミヘンの楽曲がダークマターより流れ出る。
「あ、ジミー大西」
「ジミーヘンドリックス!」
「これに合わせてもう一曲やるか! ワン、ツー、ワンツースリーフォー」
ジャカジャカジャカ
ギュイーンギュイイ!! ドルドルドル
「やめろ!やめろ!!」
「そうですよ!早く着替えないと転送が始まってしまいます」
「つってもなぁ」と律。
「ねー。私たち女子だもん。男の人達の前では着替えられないよ」
「あ、ていうか唯、スーツ持ってきた?」
「うん、忘れた」
「じゃあ私のスーツ、貸してあげるね」
「わー、ありがとうムギちゃん」
「ちょっ、ちょっ……。他人のスーツじゃ効果ないんですよ」
「大丈夫だよー。着るだけでやっぱり気分が違うもん」
「そうだぞ、プラシーボ効果を侮るな! ということで澪〜、私たちも交換しよーぜ」
「やっ、やだよ!」
「あ゛っ!!!」
唯の絶叫に近い声。
「だめだよ!あずにゃんがそれだと仲間はずれになっちゃう!!」
「な、なにっ!」
「じゃあどうすればいいの!?」
「五人で、仲間はずれを、作らないように、スーツを、着まわすには! うう!私は頭が悪いから無理だ」
「まず、五人で輪になろう!」唯は両隣の二人の手を取る。「そして、各自、右側の人にスーツを手渡そう!」
「唯……!いざという時に機転が効く奴だ……!」
「あの、それだと唯先輩の右側にいる私がスーツ無しになるんですけど……」
「え、じゃあいいよ……左に回すから……」がっかりして唯。
「そうすると、唯の左にいる私がスーツ無しになるけどな……」細い声で律。
「……て、ていうか!だから、他人のスーツじゃそもそも機能しないんですって!」
「も〜、あずにゃん細かいよぉ。機能するとかしないとか」
「重要ですよ!」
バキャ!!
「へぶ!」梓が吹き飛ぶ。
ドガシャ!部屋後方のイギリス人メンバーの中に突っ込む。
「な、なにするんですか、先輩」頬を押さえ、涙目。
「あずにゃん……着てるんじゃん……。スーツ」
「私は呼ばれる前にいつも着てきますけど……」
「これじゃ、仲間はずれじゃなくて一人抜け駆けだよッ! ひどいよ、あずにゃん! そんな人だとは思わなかった!うあああん」
「唯ちゃん……!」
「唯!」
「これは、手を痛めてるな」と澪。唯の手の甲は全力の殴打により赤く腫れ上がっていた。
作者が面倒臭いので転送開始。
軽音部五名を含むロンドン黒球チーム十名は、バッキンガム宮殿周辺へと転送された。
「バッキンガム宮殿 は、イギリスのロンドンにある宮殿。外周護衛を担当する近衛兵の交代儀式を見物出来る事で有名。現在では王室の代名詞として有名だが、イギリスのある大衆紙で『イギリスで最もつまらないアトラクション』として紹介された事がある。」
「それウィキペディアの丸引用じゃないですか!澪先輩!」
「うっ……うぅ……」
「唯ちゃん! まだ痛むの!?」
「ううぅ……私、90点とったのに……。あと10点だったのに……今回で死んじゃうんだ……」
梓がつかつかとそれに歩み寄る。「ちょっと見せてください」
「やだよ」
「そうよ。梓ちゃん落ち着いて」
「どうせ転送の時に傷は消えてるんでしょう? 唯先輩、見せてください」
「梓」律が肩に手をおく。「大人の事情があるんだ」
澪が言葉を繋いだ。「ミッション開始時の転送による傷のリセット効果は原作でもまだ明確に提示されていないんだ。だから二次創作でそこに触れることは極力避けたい」
「も、もういいですから、メタ発言はやめましょうよ……」
「gya!!」
その時、ロンドンメンバーの悲鳴。軽音部は一斉に振り向いた。
オオオオオ……
ギターなどを構えた、四人組の男達。楽器を振り回し、スティックで突き、ロンドンメンバーを次々蹴散らしていく。
「あれは……」澪が目を見開き、息をのんだ。「90年代東京で活躍した伝説のロックバンド……漫画家ハロルド作石と親交があり『BECK』のモデルにもなっているという、その名もバッキンガム宮殿=c…!」
「澪は本当に音楽のぞうしが深いなあ」
「いや……これもネットの丸写しじゃないんですか……」
「律っちゃん、ぞうけいだよ、造詣!」
76 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/15(木) 12:16:49.22
バッキンガム宮殿星人(以下BQ星人)達は、ロンドン現地メンバー五人を残らず吹き飛ばした。
軽音部へと標的を定める。
「相手は四人です。でもこちらは五人……」梓は不敵に笑う。「今こそ軽音部の連携を」
「いたい……いたい」
「唯、また手が痛むのか!?」と澪。
「うっ……」ぽたっ、ぽたっ……。唯の目から大粒の涙が落ちる。「私、90点とったのに……あと10点だったのに……」
「それさっきもやりましたよね……」
「あずにゃん……」梓を見上げる。「一人、抜け駆け、だもんね、あずにゃん……。スーツ着てるの、お前一人だもんね……」
「そうだ。唯もこう言ってることだし、全員の安全を考えてここは梓、一人で行ってくれ。部長命令だ」
「……ていうか、どさくさに紛れて先輩の呼び方が冷たかったんですけど……」
「あずさッッッ!!!!!」
紬。
「甘ったれんじゃねえッ!!!!! 行って!!ぶッ殺してこいッッッッ!!!!」
「……」半泣きで星人の元へと向かった。
ザッ! バッ!!
ギョーンギョーン! ブバッ!
梓が駆ける。BQ星人四体と同等に立ち回る。
「うおおおお!!」
「お茶をいれたわよー」
「おっ、ムギ用意がいいな」
レジャーシートの上にトレイが置かれ、ケーキも並べられる。
「イギリス王室御用達、ダージリンティー。そして……ジャーン!」
梓≠ニ書かれたスーツ用ケースから取り出されたのは、こんがり焼きあがったクリスマスプティング。
「わぁ!」唯は感激。
「これ私、食べたかったんだ」と澪。
「太るぞー」
「うるさいな」
「ねぇ」唯が言う。「あずにゃんのぶん、残しておいてあげようよ」
他三人が顔を見合わせる。
「ははっ」律が苦笑した。「残しておくに決まってるだろー」
「何を心配してたんだ、唯」
「あはは。そうだよね」唯も笑う。
「私たち五人で放課後ティータイムだものね」と紬。
キュウウウウン! ドロッ、ドロロロッ……
「ああッ! スーツがオシャカに!」
「あはははっ」
「ほんと、唯ってば梓が大好きだよなぁ」
「先輩!先輩!スーツがぁ!」BQ星人最後の一体の攻撃を、「ひいっ!」仰け反って回避。
「あっ。唯それ……梓のぶんも食べてないか?」
「えっ、うそ」赤面する。
「ほんと唯は面白いなぁ」
「ああ。時々すごく抜けてるけど……、でも演奏になると凄いよな」
「唯ちゃんを中心に集まったんだもんね。私たち」
唯は頭を掻いて笑う。
「Hey you! Girls!」
現地ロンドンメンバーの青年が近寄ってきた。
「ほにゃらら、ほにゃっほにゃ!(君たちは何を呑気にお茶など飲んでいるんだ! 仲間の危機じゃないか!)」
「ええ……何言ってるかわかんないよ」
「一緒にお茶をしたいんじゃないか?」と律。
「イギリス人って結構ずうずうしいんだね」
「ペッチャクッチャ!グチャグチャ!(本当にがっかりだよ!君たちの演奏は素晴らしいと思ったのに!)」
直後、青年の罵声は止まる。
立ち上がった唯に、喉を掴まれている。
「クチャクチャうっせーよ」
青年の足は浮く。
「私たちには私たちのやり方があるんだ。外野が口出すんじゃねえ」
バッグから取り出した筆ペンとボールペンをそれぞれ彼の鼻の穴に差し込む。
「Oh……」
次の一瞬、掌底が放たれる。スーツはダメージオーバー。内部液が放出されつつ、彼は吹き飛ぶ。
唯は三人に向き直る。「ちょっと、かっこつけちゃったかな」照れ笑い。
「いやぁ、唯ってなんだかんだでバンドのこと考えてるんだよな」
「見直したよ」
「やっぱり、バンドは喧嘩もできないとだめよね」
「こんちくしょう!!!」
梓のソードが敵を切り裂いた。
「もう、ひどいですよ!」
ガツン!
「ふざけないでくださいよ!!」
カン!
「落ち着け、落ち着けって梓……」
「部屋内で刀を振り回すなよ…!」
ガン!
カン! 黒球に当たる。
画面が切り替わる。
【AZUSA 20points Total85points】
半狂乱の状態にあった梓は動きを止めた。「あ……」
「これで、私たちに並んだな」うんうんと首肯しながら律。
「あずにゃんも一緒に卒業だよ!」唯が飛びかかり、抱きついた。
「えっ……」梓は刀を取り落とす。「先輩……」目には涙。唯の温かなぬくもり。
「そもそも今まで梓から得点奪ってたの唯たちなのに……色々すごいな……」顔を引き攣らせる澪。
「ねぇみんな。採点が終わったから、お茶にしましょう?」
ウィッジウッドのティーカップが鳴る。
放課後ティータイムの五人は、現地メンバーが帰宅する中、お茶会を開始。
「採点後のお茶って、まるで学校だよな」と澪。
「放課後ティータイム、インUK! イン、SF……マンション?」
「律、下手な英語はいいよ」
一同、爆笑。
ティーカップにレディグレイが注がれていく。アールグレイをベースにしたフルーティな紅茶。柑橘系の匂いが部屋に広がる。
この時点で、紬が持ち込んだポットの残量は不足している。紬は速やかにレディグレイを四つ注ぎ終えると、輪を抜け、下着を下ろし、代用の湯を注ぎ入れる。
「はい、梓ちゃんごめんね」
「どうも」
ジョロロロ……。
ティーカップから強烈なアンモニア臭が広がる。
紬のレディグレイ。ムギ茶を前に、梓は絶句。
「先輩がいれた茶ぁだ。飲めるよな」紬。
「なんかすごい臭いするよね」
「本場モノは二杯目が違うんだよ。茶葉が蒸れて芳醇な香りが出てくるんだ」
「澪も紅茶に詳しくなったなぁ」
「どうした。飲めよ梓」紬。
「……」
カップを顔に近づけていく梓。
軽くメンス混じりの臭気に白眼を剥きかける。
口呼吸を試みるが、口腔と鼻は繋がっているため、状況は悪化する。
瞬間、鼻腔が拡大。
ガシャン!!!
ティーカップを部屋隅に投げつけた。
「本当にッ……! 本当に最低です!!」
部屋内はしんと静まり返る。紬が驚き、「梓ちゃん……」
「私、ここに来るまで先輩たちのことは凄く尊敬していたんです! 馴れ馴れしいけどあったかい唯先輩。かっこいい澪先輩。本当は頼りになる律先輩。優しいムギ先輩……」
「…………」
「なんでこうなっちゃったんですか! 本当に、なんでみんな、変わってしまったんですか!!」
紬が立ち上がる。
黒球の方を向き、「Please display a 100-point menu」
チキチキチキ……。百点メニューの表示。
英文を梓は驚愕の顔で読み上げていく。
「1、記憶を消されて、自由になる……。……記憶を、消されて……」
「そういうことだよ、あずにゃん」
「ようやく、わかったかな」と律。
「全てが終わった時、ここでの記憶は残らないの」と紬。「だから私たちは、今はあなたに好き放題……」
三人はにじり寄る。
梓は後ずさる。
足が滑り、床にぶちまけられたムギ茶の上に尻もちをつく。
三人は迫る。
「いやぁぁぁ……」
「うえっへっへっへ」
「あずにゃん、あずにゃ〜〜ん」
「すぐ、終わるわよ……」
「おい、あんまいじめるなよー」と澪。
生死の一線をくぐり抜けた者達の眼光は違う。奏でる音も鋭く尖り、聴く者にギリギリのスリルを与える。
「イイ゛イィイィィィーーーアアアアーーーー!!!!」
ジャジャジャジャジャ!!ドドドド
スンパカタッタンタン。スンパカタッタンタン
「セーーーックス!!!セーーーックス!!!!」
ギャギャン!
「はい、どうもありがとうございました。放課後ティータイムでカレーのちライスでした。センキュー」
「ウオオー!」
「Tea time! Tea time!」
ロンドン市街の汚い地下ライブハウスは異様な盛り上がりだった。爆音。奇声。便所の臭い漂う中、繰り広げられる狂騒。
「ほにゃほにゃほにゃ〜〜(ありがとう、ジャパニーズガールズバンドたち。お陰で店は大繁盛だ。これ、チップ。受け取りなさい)」
犬のような荒い吐息で手を広げた唯にフィッシュアンドチップスが渡される。
ドギャ!!
ローキック。店主は奇妙な背格好になりながら、全員に十ポンドずつを手渡した。
「ほにゃほにゃらほにに〜〜」
「梓、通訳!」
「ええと、約束通り二階の部屋を自由に使っていいそうで」
「やったーっ!」ギャギャギャギャギャーーーン!ドコドコドコドコ!!
こうして宿と金を得る日々が続いていた。
一同は鉄筋造りのライブハウスを二階へ。渡された部屋の鍵を開け、入室。
「うわっ!」
異様に広い空間。四つのダブルベッド。そして異臭。明らかに不純なラブパーティが日夜行われているであろう部屋がそこにあった。
唯以下三年生メンバーが駆け出す。各々ベッドに突入する。
「やったー!ベッド獲得ー!」と唯。
「梓は床な!床!」律。
「ちょ……露骨すぎないか」
「いいのよ、二年の扱いはこれで」
梓はドア前で立ち尽くす。
直後、異変を目の当たりにする。
「わ……。なにこれぇ」
唯の頬に粘液。
「シーツ湿ってるぞ……」
「なんとも言えない臭いがする」
「私の方、明らかに茶色い染みが……」
「あはは……」梓は苦笑い。
その横を唯が半泣きで通り過ぎる。「顔、洗わなきゃ……。お風呂入らなきゃ」
「私も……」と澪。他二人も続く。
とぼとぼと廊下を行く軽音部三年生たち。ライブハウス店主にシャワールームの所在を尋ねる。ない、と言われる。店主は暴行を受ける。
「あーーーん。うあああーーん」床で唯は号泣。
「帰りたくなっちゃった……」と紬。
「日本食が恋しいな」
「こっちの料理まずいもんなぁ」
「……」梓は神妙な面持ちで床一点を見つめている。
やがて唐突に言う。
「私たち、どうしてあの部屋に呼ばれたんでしょう」
「え、どうしてって」
「気づいたらいたよな」
「あの部屋には死んだ人しかいけないんです。ロンドン現地メンバーは全員そうだったと言ってました」
「そりゃホラ吹いてんだろ」投げやりに律。
「いや、でも……」
「め〜んどくせぇ。寝っか!」脚をだらんと投げ出して紬。
すぐさま寝息が立つ。律と澪も床に横になり、「トイレの臭いがする」「ベッドとどっちもどっちだな」との会話の後、静かになった。唯の嗚咽だけが聞こえていた。
「誰か、私たちをあそこへ送った人がいるはずなんですよ……」
三角座りをした梓は呟く。
「何者かにはめられたんです。私たちは……。それを解決しない限り、自由になっても、きっとまた……」
翌日、梓は唐突に気づく。
ライブ中、パーカーを被った背の高い黒人が、見ている。
「あの人……ロンドンメンバーです」
唇は震えていた。
「私たちのファンになったんじゃないの。極々自然なことじゃーん」汗をタオルで拭きつつ律が言う。
「昨日の演奏の時もいました。挨拶にも来ないっておかしくないですか」
「梓……」下から覗き込む紬。「お前、それ天狗すぎね? 客に、挨拶に来させる≠ニかさぁ」
「そうだよね。放課後ティータイムはもっとゆるーく、どんな人でもウェルカムのスタンスが似合ってるよ」
「そ、そういうことじゃなく……」
ライブハウス控え室に五人はいた。梓は慌てて身振り手振りで説明を始める。
「だって、他の人達は来てないんですよ。みんな同じように盛り上がっていたのに、あの人だけ毎回って。それも、まるで監視するみたいに扉の横で腕組みして、じっと見てるんですよ?」
「梓が黒人に偏見を持ってることはよーくわかった」律。
「ええっ! ちが……」
「あずにゃん……あのね、私たちは国境や人種を越えたグローバルでワールドワイドなバンドを目指していて……うん、音楽をやる人はみんなそうだよね……
ていうか、この際バンドなんて関係ない。これは人間性の問題。そういう思想を持ったまま、あずにゃんには大人になって欲しくないよ、私」
「そうだなぁ。イギリス含め世界の人種差別の感情は未だに根強い。梓はこれまで考えてもこなかっただろうけど、一人の女子高生として問題への明確な意思は持っておいた方がいいんじゃないか。
うっかりこういう場で思想の曖昧さが発露したりするのはトラブルの元だよ。私は誰もが宗教を明示しておくべきだと思うし、臓器提供意思もはっきりさせておくのがいいと思う。セックスや避妊に対する考え方も周囲には伝えておくべきだよ」と律。
「そうだよね」一同、同意。
「だっ、だーかーら、そういうのじゃないんですって! 私たちをあの部屋に送ったた人間がいるはずなんです」
「は〜。何でもかんでも陰謀論かよ」律は頭を掻いた。
「梓」澪が身を乗り出す。「梓は、それであの黒人が怪しいって思うのか?」
「……はい」
「私たち、その人に殺されたってこと?」
「そんな覚えないけどなぁ」
「そのはずです。……ですが」
梓はパイプ椅子を立って、前に出て説明を始めた。
「あの部屋に呼ばれる時って、身につけてる服も一緒に転送されるじゃないですか」
「じゃないと困るよ」唯がすかさず声を上げる。
「そうだ梓。おまいは裸で転送されたいのか?」律。
「梓ちゃん。そういうの、屁理屈のとんちよ。現に服ごと転送されてるんだから、それ以上の事実はないわ」と紬。
「ちょっとみんな待てよ。梓の話をまず聞こう」澪のフォローが入った。梓に視線をやり、先を促す。
「あ……はい。えと、確かにムギ先輩の言う通りこれは理屈です。けど、その法則があったから、ムギ先輩はティーセットを部屋に持ち込むことができたわけで……」
言いながら紬と目が合う。紬は舌打ちをして顔を背ける。「はいはい、だからなんなのよ」
梓は満足気に頷いて続けた。
「この理屈でいけば、転送時に手に触れたものは何でも部屋に持ち込めるということになります。勿論大きさ的限度はあるでしょうけど、それがもし……」
「生物・無生物を問わない法則だったら……」下を見つめる澪。
「そういうことです」
「あーー!ばっかでえ〜!」
ガシャンと梓のいた椅子を蹴飛ばして、紬は仰け反った。
「こっちは五人いんだよ。全員に気づかれないように近づいて触れるなんてできっこねーだろ、アホか」
「……ずっと気になってたんだけど、ムギって二重人格か何かなのか」小声で澪。
「生理なんだよ〜」ほわほわと唯。
「ムギ先輩の疑問には」
梓はジャケットのポケットに手を入れる。
「これで説明がつきます」
言うと同時、火花が飛ぶ。ツインテールの先端から沿うように、身体を伝う。
他四人が目を見張った。梓が消えていく。
「そうか……ステルス迷彩装置」驚嘆する澪。「これで気づかれず近寄って、部屋への道連れにしたってことか」
「なるほど……」
「……チッ」
唯も律も、紬からも異論は出ず、梓の提示したその可能性は全員の中で受け入れられた。
「次のライブの時に……いえ、ミッションの時でもいいです。とにかく、あの黒人を捕まえましょう」
梓の言葉に、四人は頷いた。
翌日、ライブハウス一階フロアにて、
「ほにゃらぺらぺら〜」とイギリス人店主。
向かい合う梓に、横から律が訊く。
「なんだって?」
「もう出ていってくれ、って……」
背後で紬に青筋が立つ。唯と澪が両手を押さえてなだめた。
「ほんにゃらほにゃほにゃ」
「他のバンドやお客さんも上の部屋を使うから、そう何日も泊めるわけにはいかない、って」
「ま、どこも言うことは一緒だな」と律。
「ここは格別で汚かったけどな……」思い出してうんざりの澪。
そのような経緯で軽音部はライブハウスを後にする。
ロンドン郊外アルダスゲート街を通り、次のライブハウスを探す。会話がない。
「大丈夫!」
唯がギターケースを掲げて叫んだ。
「私たちにはこれがあるもん。また次が……それも綺麗な宿が見つかるよ!」
「別に誰も落ち込んでるわけじゃないぞー、唯」と、右へ左へ視線を走らせながら律。
「ちょっと、言葉数は減りますよね」と梓。
「どうだ、怪しい奴はいるか」澪が訊く。梓は首を振った。
一行はテムズ川通りへ。
「ペラペラペラリンコ(この辺りでライブハウスってありますか)」
梓が通行人に尋ねる。
「ペランチョペランチョ(あることはあるけど、飛び入りで演らせてくれるところはないだろうねぇ)」
宿も見つからず、追跡者の黒人の姿も見当たらない。
「あー……」
まず律が歩き疲れ、橋の欄干に座り込む。「もう何キロ歩いたよ? しかも私はドラムセット積載なんだぞー」
「そうだな。このへんで昼食にしようか。朝も食べてなかったもんな」と澪も腰を下ろす。
唯と紬が橋中腹の屋台に向かい、袋を下げて帰ってきた。「買ってきたよー。……なんと、たこ焼き!」
「なにっ」
「ああ、イギリスじゃあ日本食も人気らしいからな」と澪。
唯は自身もほくほくしながら、湯気に満ちたたこ焼きパックを開ける。「正直、イギリス料理はマズすぎて、もう死んでも食べたくないよー」爪楊枝で刺し、頬張る。「おいしーっ」
隅で食べつつ、通行人に目を配る梓。その横に紬が座った。
「梓」
「は、はいっ?」たこ焼きを噴きかけながら返事をする。
「色々、悪かったね……。私、ここ来てからなんかイライラしててさ」
「い、いえ」
「ほら、料理がクッソ不味いじゃん? お嬢育ちの私は耐えられねーんだよ。あと、ま、生理も不快だし」
「……え、えと、けっこう開けっぴろげなんですね」生理と言いつつ完全にガニ股の紬を見て言う。「色んな意味で」
「……なぁ、梓」
「はい」
「私たちが卒業しても……ああ、学校の話な。……無事日本に帰れて、それで私たちが卒業した後も、おまえは元気でやれよ。グレたりすんなよ」
「は、はは」苦笑する。
「正直、おまえが気がかりでさ……」紬は前髪を描き上げる。「真面目すぎるところとか、少し危うく感じたりしてね……。それでなんか、やり過ぎちゃったかな。……ごめんね」
「ムギ先輩……」笑って言う。「そんな、いいんですよ。私も確かに、日頃真面目にツッコミすぎる面があるんで、自分で気になってたんです」
「……ありがとう」紬も朗らかに笑った。
二人はそれから作曲の話、恋愛の話、普段できないようなナイーブな話などをした。たこ焼きの最後の一つを食べ終える頃には、先輩後輩のわだかまりも、いじめの確執も消え、二人は自然と笑い合うようになっていた。
梓が広げた容器を片付ける。「そろそろ行きましょうか」
「待て」
紬の声に、立ち上がりかけた梓の動きが止まった。
「あの、柱の陰」
言われるまま目をやった先には、フードを被った人影。あの日見た黒人の姿である。
「……いつ見つけたんですか」
「……今だ」
黒人はじっと梓たちを見ている。動く気配はない。
「律や唯たちには言うな。悟られる。……何気なく、自然に二手に別れよう」紬が静かに言う。「橋の両側から、梓、私と二人で挟み打ちにするぞ」
「……はい」
同意し、立ち上がりかけた。その時だった。
「おい行くぞー!……って、あれ? 何見てんの?」律が二人の視線を追った。「……んー? あれってもしかして」
紬が舌打ちをするも、遅い。黒人が動く。柱から飛び出し、橋をシティ方面へと駆け出した。
「追うぞ!」紬はスカートを振り乱し、走った。
「えっ、なに」まだたこ焼きを完食していない唯。
「黒人です。いたんですよ!」指を差して、梓も走り出す。
「うそぉ」
「律、そこで荷物見張ってろ!」澪と唯も後を追った。
橋を下り、車道を横切り、四人は走る。途中、梓の息が切れ始める。「はぁ、はあっ」
「任せろ」紬が肩に触れる。スピードを上げていく。唯と澪が続く。
イングランド銀行に差し掛かった地点で、紬の走力も限界に近づく。
「はあっ、はあっ、なんだあいつ……全然追いつけねえ」
黒人は足元から発煙しつつ、コーナーを曲がる。
「スーツかっ……」と澪。
「早いわけだ、クソ」紬が吐き捨てる。
一同もコーナーを曲がったところで、黒人はその三百メーター先を行っている。二人の速度が緩みかける。
そこを唯が飛び抜ける。
「唯!?」
凄まじい加速で黒人の後を追う、五人の中で足は最も遅い筈の平沢唯。
「あいつもスーツだ……」紬が呟いた。「恐らくずっと着てやがった」
澪も納得する。「どうりで力が強いと思った」
唯は音速に達する。イングランド銀行の次のコーナーで、敵の背中に飛びかかる。
「よしっ」両手で拘束。しかし勢い余って電柱に衝突。歩道に転がり、スーツの筋力アシストで羽交い締めにする。
澪と紬が追いつく。
「うっ、これ、どうすればいいんだ……」
歩道ブロックを破壊しながら地面を転がる黒人と唯。
後から梓が息をきらせてやってくる。「あっ、捕まえたんですか!?」
「捕まえたはいいんだが……」紬。
その時、揉み合いの中で、黒人の頬が偶然に掴まれる。ベリリと、黒の皮膚が剥がされた。
「え」
梓を始め、一同が驚愕した。現れたのは、白肌の日本人系の顔。フードの中からは、赤褐色の長い髪が垂れ落ちた。
軽音部顧問がそこにいた。
「先生!?」「さわちゃん!?」
「……いやぁ、ばれちゃったか」唯の拘束を受けながら、山中さわ子はウインク。舌を出した。
シティオブロンドン、小汚いライブハウスの楽屋で、山中さわ子は教え子たちのじっとりとした視線に晒されていた。
「どういうことなのか、説明して下さいね」少しも抑揚を付けず、梓が言う。
「えーとね、ロンドンにはよく来るの〜」
ガシャン! テーブルが鳴った。
「んなこと聞いてんじゃねーよ」と紬。
「……あれ、琴吹さん、なんか様子が……」冷や汗。
「いいから答えて下さい」
梓に再度促され、さわ子は下を見、しぶしぶ口を開く。
「簡単なこと。私は一度、死んだ。そしてあの部屋に送られた。……半年前のことよ」
首を押さえて続ける。
「ライブ参戦中にヘドバンで首を痛めたのと、ホテルに帰ってお酒飲んでそのままお風呂入っちゃったのがまずかったのね」
「さわちゃん無茶するなー」と律。
「おかしくないですか」梓の指摘が入る。「それなら、ミッション後は当然ロンドンで解放されるはずです」
唯もはっとする。「そうだよ。毎日学校にいたよね」
「どんなに必死に日本へ行き来しても、学校に毎日顔を出すなんて不可能です」
「ふっ……」
梓の詰問に、鼻で笑うさわ子。
「あの黒い球が……、人をデータとして扱っているのは気づいていたかしら?」
「……薄々」梓の表情が落ちる。
「え、どういうこと?」と律。
「……あまり気分の良い話じゃないですが、一度目のミッションで律先輩が死にかけましたよね。テムズ川に落ちて」
「え……」困惑する律。「は? そんな覚え」
「記憶が飛んでるんだ」と澪。
律は固まる。
「恐らくあのダークマター≠ヘ、重傷者の処理をする際、とんでもなく大雑把な方法をとっています」手で説明をする。「あの時、瀕死の律先輩ではなく、川に落ちる前の時点の律先輩が再生された。……これにはパソコン等のデジタルデータ処理と似通った部分を感じます」
「さすが、中野さんね」拍手をしかけるが、背後の唯の拘束がそれを許さない。さわ子は苦笑いで続ける。「それなら、私に起こったことも容易く想像がつくんじゃない?」
梓はしばし黙考して、口を開いた。
「データ重複……。山中先生が二人に増えた、とか……」
「正解」
さわ子はにやりと笑った。
「私は山中さわ子のクローンよ」
92 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/16(金) 14:31:17.77
ガシャン!! 紬の蹴り。空いた椅子が吹き飛んだ。
「唯!! そいつを今すぐ絞めな!!」
「え〜」にこやかに拘束。
「クローンだか何だか知らねえが、何の理由も無しに私たちを巻き込んだんだ! これ以上迷惑なことはねえ!」
「おいムギ、落ち着けって」
「そうだ。何か事情があるのかもしれないだろ」
「そうです」梓が言う。「カタストロフィ、とか……。どんなイベントかわからないけど、その為に人員が必要なのかも。……そうなんじゃないんですか、先生」
梓の予想に反して、さわ子は首を振る。
「それはまだだいぶ先よ。人員を集めたってどうにかなる話じゃないし、それに……」表情が途端に緩む。
「カタストロフィを予告するカウンター、言えばあの球に表示されて、本来は数字がどんどん削られていくものなんだけれど、徐々に増えていってるのよ。これ、どういうことかわかる?」
一同、首を振る。
「延期よ、延期。世界中には楽しみにしてる人も沢山いるみたいだけど、当分来ないわよ、地球侵略の宇宙船なんて」
「侵略……」澪は青ざめる。
「そ、それなら、来ないにこしたことはないですけど……」梓が言う。「ならどうして……。何故、先生は私たちにこんなことをしたんですか」
さわ子の眼が冷たく光った。
「平沢さん、まず、私の顎のポイントを押して」
「はい?」
言われるがままに唯はさわ子のスーツを破壊。
「そして、私を椅子に縛るがいいわ。……さあ、縛りなさい!」
「なんでこの人主導になってるんだ?」と澪。
唯は性拘束用の縄を見つけ、さわ子を縛り上げる。
「できました」
「よくできたわ」うんうんと頷く。「じゃあ平沢さん、上着を脱いで、全部脱いで」
「まさか……」澪が漏らす。
唯は着ていたコートを床に落とし、上下の衣服を順々に脱いでいく。
全身密着型の黒いスーツが現れる。
「はぁ……」
さわ子は恍惚の表情。
「これを……着てほしかったの……」
その後三十分間に及び、山中さわ子は軽音部による暴行を受ける。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
和解し、外の陽も落ちた十九時二十分。
部屋への転送が開始される。
94 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/17(土) 11:32:00.37
ウエストミンスター寺院。ロンドン、ウエストミンスターに所在する教会である。
桜高軽音部を含むロンドンチームは、その建物内部へと転送された。
「床と壁には、イギリス歴代君主や女王、政治家が埋葬されているとか……」と律。
澪がぎゃああと身を伏せた。
ライトアップされた聖堂。細やかな装飾の施された壁を、梓の視線が上に辿る。
ラフな服装の男性二人が、いた。
天井に張り付いていた。
「あれは……知る人ぞ知る日本のお笑いコンビ、ウエストミンスター=I……私もよく知らないが、来年あたりにブレイクするかもしれない……」
「って澪! 危ない!」
律に押されて澪が転がる。一瞬のち、ウエストミンスター星人が落下。会衆席が木っ端微塵に吹き飛んだ。
瓦礫と埃の中から星人は身を起こし、正面の梓へと狙いを定める。
が、その頭部は途端に膨れ上がり、ばんと飛び散った。
撃ったのは紬。「よし……」星人が五点以上ならこれでクリアとなる。
「正直、早く帰りたいんだ。ふかふかのベッドで眠りたい」
「私もです……!」
梓がもう一体の星人を狙う。
その時、周囲の壁が崩壊。続いて床が内側から破壊される。中から土色の手が伸びる。
「ひぃぃぃ!」澪の悲鳴。歴代王、女王のゾンビが一同を取り囲んだ。
ロンドンチームは応戦。混乱の中、ウエストミンスター星人は逃げ去る。
「追うぞ、梓!」
「はい!」
他三人とさわ子、現地メンバーはゾンビ達を次々撃破。それを背に、紬と梓は聖堂外へと駆け出す。
95 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/17(土) 11:34:35.50
薄曇の夜空に満月が浮いていた。明かりの下に星人はいた。
梓の射撃で戦闘が開始される。トリッキーな動きにより、星人は二人を撹乱する。
梓は一瞬の隙を突く。敵に致命傷となる一撃を照射した。
だが同時に、Xガンのタイムラグが彼女にとっての命取りとなる。まだ肉体を保った敵が、武器であるジェンガタワーを振りかぶり、迫った。
「――!」
空白の時間。
恐る恐る薄目を開けた時、眼前に、盾となり出血する紬の姿があった。梓は言葉を失った。
直後、星人は爆散する。
「ムギ先輩!」倒れた紬を抱き起こす。呼びかけるが、返事がない。
頬に触れる。冷たくなっていく。
「そんな……。そんなのってないですよ」
背後で聖堂が崩壊する。「全部倒したよー!」唯の声。「やりすぎなんだよ!」と澪。「おっ、転送が始まったぞ」と律。
梓の、彼女に触れる手も消えていく。
「一緒に帰ろうって、約束したじゃないですか……」ぽろぽろと涙が落ちる。「作曲……教えてくれるって」
数秒後、ロンドンチームは寺院敷地内から消えた。
梓もいない。
血溜まりの中、日本の女子高生の横たわる姿だけがあった。
96 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/18(日) 10:16:51.74
「おーい梓」
「うわぁぁぁあぁん……」
「そんなに泣くことかぁ?」と律。「たかがムギだろ?」
「あずにゃん。人は死ぬものだよ。全ての生命は限りあるものだよ。認めようよ」
床に突っ伏した梓の声は止まない。
唯は次第に不快さをあらわにしていく。腕組み、貧乏ゆすりを始める。「なんていうか、こういうノリじゃないよね。放課後ティータイムって」
「マジになってどうするって感じだよなー」律は大股開いて座る。
「もう……。何なんですか……。仲間が死んだんですよ……」
涙目で唯を睨んだ。
「友達だったんですよ……。おかしくないですか……」
唯は僅かにたじろいだ。
「……そんなこと言ったって、ねぇ」律を見やる。「キーボードって正直要らなかったし……」
直後、部屋は荒れる。
立ち上がり、唯に突っ込む梓。壁に押し付け、引いて、何度も打ち付ける。
言葉はない。悲鳴と、怒号。さわ子と現地メンバーも仲裁に入るが、梓の腕の一振りで蹴散らされる。
唯の首元を掴み、梓は壁沿いに彼女を持ち上げる。
その頬に、雫が落ちる。
ひとつ、ふたつ。
唯の瞳から涙が零れる。「うっ……うう」
梓は表情を変えない。
「泣いたって許されないことはあるんですよ」
「梓……」澪が歩み寄ろうとした。それを律が無言で止めた。
「……もうどうしようもないことだから」唯が口を開いた。
「あずにゃんを置いて卒業しなきゃいけないことだって……。日本に帰れなくなったことだって……だから騒ぐしかなくて……」
嗚咽混じりの声。
「ムギちゃんと、お別れしなきゃいけないのだって……もう仕方がない、ことだから……」
梓は面食らった顔をしていた。
「梓……」澪を押しのけて律。「唯はどんなに辛い時でも、前向きでいようとしてきたんだ」
「なんで……」
「なんでって……うわ」
律は押しのけられ、澪が言葉を繋ぐ。
「誰か一人が笑っていないと、みんなが駄目になっちゃうだろ」
梓の手が緩んでいく。「唯先輩……」
唯はすとんと床に落ちた。あとはただ泣きじゃくるだけだった。
梓もそれに覆いかぶさるように崩れ落ち、号泣した。嗚咽は部屋中に連鎖した。軽音部は抱き合って、それを抑えることなく。イギリス人達も押し殺したように泣いていた。
「それでも、戻ってこないものはあるのよ……」
さわ子が涙ぐんだ。
その時、微かな火花の散る音。無意識に視線は、宙を走るレーザー光を追った。
「ん、先生?」淡いミルクティカラーの髪が浮く。
琴吹紬の頭が描き出されていた。
ロンドンの黒い球ダークマター≠ェミッション終了を告げ、採点画面を映し出した。
「これで、みんな揃って卒業だね……」
「ばぁか、何言ってる唯……。みんなが点数取れてるとは限らないんだぞー……」
涙ながらに紬の帰還を喜ぶ軽音部。梓は彼女の胸に抱きついたまま離れなかった。
「梓……。クリアできてるといいな」紬は小さな頭を撫でる。
「……はい」声がした。
【SCORE RESULT】画面に表示。紬からの採点となる。
「お……」
結果は100点を軽くオーバーの合格点。従って、同種の敵を倒した梓も好結果が期待される。
【AZUSA Total105points】
「やった」と梓。
その後、ひたすら数を倒した唯たちも100点超えの結果が出され、一同はハイタッチ。喜びを分かち合った。
「おめでとう」さわ子は合計50点台。「それじゃあ、日本のもう一人の私によろしくね……って、記憶は消えるんだから、そんなこと言っても仕方ないわね」ふふ、と笑った。
「……」紬。
「先生は……どうするんですか」唯が訊く。
「どうするって、決まってるじゃない。せっかくの第二の人生よ。それにここはロックの伝統、ロンドン。バンドを組んで、暴れまわるわ!」
そう言い、唯のギー太を歯ギターする。持ち主は泣く。
桜高軽音部の五人は、100点メニューの一番を選択。
【it inputted.】
受理された。ほっと溜息が溢れる。
「みんな、ここでの経験を活かして、来年度も頑張りなさいよ!」
さわ子が表情を引き締め、言った。
「ここでの経験って……意味わかんないが……」
呆れて笑う澪。その足首が徐々に消えていく。「あ……」この転送で、部屋からの解放となる。
「それじゃあね、さわちゃん。ロンドンの人達、ほにゃほにゃほにゃー」手を振る唯。
「ほにゃりらん(貴君たちの幸運を心から祈っている)」ロンドンメンバーA。
「ぺらぺら、ぺらっちょ(また音を聴かせにきてくれよ)」メンバーB。
それぞれ、握手を交わす。
梓も手を振る。胸までの転送が完了している。
「……」
紬は一人、後輩の横顔を見つめていた。
100 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 01:12:20.67
2012年、三月。行方不明となっていた桜高軽音部の五名は、三学期の中途から突然の学業復帰を果たした。
黒い球の部屋や星人の動向を把握する政府の手によって、その際に生じた違和は全て抹消された。異国で謎の神隠しにあった女子高生五人のことがテレビや紙面を流れることはなかった。
卒業式までの僅かな期間を、五人は部室で共に過ごした。
ドギャギャギャギャギャ!!
「ゔぉ゛おぉおお゛ぉぉ!!!」
ドコドコドコドコズダダダドダダダダ
ギュイイィーーーン!!ギュイイイ!!!
「ア゛あ゛あっあぁああアアア゛ーーーー!!!!!」
「ちょっ! なんですかそれ! やめてください!」
梓が慌てて演奏を止める。
「えっ……」我に返ったように唯。「いやあ、こういう曲もあったかなぁって」
「ふわふわタイムですよ!? そんなデスボイス入れる箇所なんてありませんよ!」
「そうだったかなー……」
「律先輩も何なんですか。便乗してふざけて叩かないでください」
「つってもなぁー」口を尖らせ、スティックを回す律。「身体がうずくっていうか、ふわふわした曲ばっかじゃ違うよなぁ……って」
「そうだよね!」唯の同意が発生。「だって、ロックの本場ロンドンに行ってきたんだよ? もっとロック! 放課後ティータイムはロックに傾倒しなきゃ!」
「そのロンドンでの記憶はほとんどないけどな……」顔を引き攣らせて澪が言った。
「いやぁ、宇宙人に拉致されてたりしてな。改造されて、記憶も操作されて……」
律が調子をつけて言うと、澪が縮こまる。「うぅぅ……」
「みんな、お茶にしましょう?」
いつの間にか抜け出た紬が、ティーポットとケーキをお盆に乗せてやってきた。
澪が床を這い、律が追い回す格好のまま、動きを止める。梓も呆然と、その給仕人の姿を見ていた。唯だけが「わぁい」とギターを放り出し、テーブルにつく。
「英国アールグレイに柑橘系の香りを加えた、レディグレイよ」五つのカップに優雅な手付きで紅茶を注いでいく。
「あれ、ムギってあんな感じだったかな……」
「う、うん。他にどんな感じがあるんだって思うけど、確かにそうかも……」遠目に見守る律と澪。
「今日のケーキはクリスマスプティング。旅行のときに食べれなかったから、自分で作ってみたの」
よく焦げたカラメル生地の小山がテーブルに並んだ。
「わ……それ食べたかったんだー……って……」澪は口許を押さえた。「あれ……」疑問を浮かべながらも席につく。
放課後の部室には、いつものお茶会の光景が広がる。紅茶の香りと、ケーキの甘い香り。
「あら」紬が手を止めた。「梓ちゃんのぶん、なくなっちゃった」ちょうど四杯で残湯はなくなる。
「ごめんね。すぐ持ってくるから」
「あ、いえ。ありがとうございます」
「ムギ〜。四人の頃のティーポット使ったな〜」すかさず律が言う。紬が「あっ」と気づいた。「これは悪質ないじめだなぁ〜」と茶化すと、「そんなのじゃないよー」と苦笑して奥の給湯室に歩いていった。
「ムギって、ほんと、ああだったっけ……」後ろ姿を見つめて澪が呟いた。
「んー……」律はケーキの裏側をこっそり摘まむ。「わからん」
「……」怪訝な顔で俯く梓。
「ムギちゃんはずっとムギちゃんだよ」もう半分以上ケーキを食べながら、唯。「優しくて、やわらかくて、……お茶とお菓子が美味しいムギちゃん」
「おまえはそればっかだなっ」律のツッコミが入り、場は元のように和んだ。
少しして、紬が注ぎ足したティーポットを持ってやってくる。テーブル前に立ったとき、
「……」梓は少し身構えた。
律と澪が小漫才に夢中になる中、唯の喉もごくりと鳴った。
追加のレディグレイがカップに注がれる。華やかで上品な香りが部屋中に広がる。
「……」梓が見上げる。
「どうぞ?」紬は朗らかな笑顔。
梓が尚も口をつけずにいると、「あまり、好きじゃなかった……?」と不安気に訊く。
梓は首をぶんぶんと横に振る。言葉は出ない。
「じゃあ私がもらっちゃうよー」と、唯が手を伸ばしたとき、
ひっく。
嗚咽により、部屋内の全ての動きが止まる。
梓がしゃくりあげ、ぽろぽろと泣き出した。
「あれ、なんだろ……。なんで、だろう……」
手で拭いとる。それでも溢れ出す。
「なんで悲しいのか、わかんない……すみません……あはは」
桜の季節がきた。
唯たちは卒業し、揃ってN女子大へと進学。梓は三年生に進級。友人二人が加入したことで、軽音部は存続していた。
「唯先輩っ。みなさん!」
梓が駆けていく。校門前には、私服の軽音部OBが揃っていた。
「おーす」律が手を振る。
「ごめん梓。こんな風に呼び出しちゃって」謝りつつ、母校と後輩の姿に顔がほころぶ澪。
「大学はどんな感じなんですか?」梓が訊く。
「それがねぇ……」頭を掻いて、律は言葉を濁す。
「作者が原作読んでないから、わからないんだよ〜」と唯。「ほにゃほにゃ〜」
「あ、あー……、そうですか」梓は咳払い。「こっちは大変ですよ。今まで五人だったのがいきなり三人で。新入部員も獲得しないといけないし」
そう言い、紬を見る。
「ムギ先輩のお茶もなくなってしまいましたし」冗談めかして笑う。
「あらぁ……」紬は頬に手をやった。
十分程の談笑が続いた。
「まぁでも」律が言う。「大学、なんだかんだで面白いぞ」
「自由があるよ!」と唯。
「唯はもともと自由だろ」と笑いながら、「梓も早く来なよ」と澪。
「はいっ」
満面の笑みで頷く梓。その目の前に手が差し出される。梓は驚く。
「部員獲得、がんばってね……!」「は、はいっ」紬と梓は両手で握手。「お茶とお菓子がなくても、がんばって……!」一生懸命な面持ち。一同笑う。梓も微笑する。
「それじゃ」澪が手を振る。
「はい」
「また来るねー、あずにゃん」と唯。
「唯は来すぎだぞっ」律がツッこむ。「いい加減、梓から卒業しろー」
「昨日も来たのよね」紬が補足する。また笑いが入り、それが区切りとなる。
それぞれ、校門から離れていく。
大学組は、やがて四人の会話へと戻る。
手を降ってそれを見やると、梓は踵を返す。
紬が振り返った。
頼もしげな顔で、後輩の背を見守っていた。
103 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 01:24:59.35
桜高軽音部、ガンツ部屋に転送される。
完。
次、
ガンツの主人公、けいおん!世界に転送される。
↓
104 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 01:51:48.79
「おおッ、和泉罰ゲーム!」「おめ〜」
昼休みに俺の机で始まった人生ゲームは、いつの間にか終わッてた。
ロン毛の超絶美男子和泉が、転校早々クラスのブスに告るという悲惨な目に合うことがたッた今決定されたらしい。
どーでもいい。岸本も死んだ。加藤も死んだ。これから一人で戦わなきゃなんねー。またあの部屋に呼ばれて、ギャグみたいな星人とガチの殺し合いをしなきゃなんねー。
昨日はマジでヤバかった。あと少しで一匹取り逃がすところだッた。ペナルティでガンツに殺されてたかもしれなかった。
「いけッ、和泉」
「いけ!」
こいつらの青春って、平和だよな。
人生ゲームのルーレットが指示した先。教室端のコケシみたいな女の元へ、和泉が歩み寄る。
「なぁ」
「は、はい」
「俺と付き合わねぇ?」
いきなりかよ。もっと屋上に呼び出したりとか方法あるだろ。面白いからいいけど。
「ええッ、告白?」
「小島告られてる。和泉に!」「まじか!」
ほら、教室はすぐに騒ぎになった。小島とかいうコケシ女の返答に、注目が集まる。
小島は周りを気にしつつ、「はい」と言って頷いた。
おいおい、超格差カップル完成……。
「和泉〜、お前漢だな」
「ブス専なんだろ、実は。いやにスムーズだったぞ」
「小島っていうのか、あの子」戻ってきた和泉が席につく。「よく見たら可愛い子だった」
はァ? コケシじゃねーか。もしくは篠原ともえ。
「やっぱブス専だろ、和泉〜」
「美人ばッかと付き合ってて、好み一周しちゃったんじゃねーの」
「そうかもな」和泉は視線を外す。イケメンの余裕のようなものが見えた。
こいつ、相当モテてきたんだろうな。
いいよな、おい。
結局、一緒に暮らしてた岸本とは何もなかったし、ヤラせてくれそうな姉ちゃんに勢いで「セックスさせてよ」とか言ってみたけど、罵倒されて終わったし。
ガンツに巻き込まれたことで微妙に期待してた非日常の青春ってやつは、ことごとく実らず。
モテない奴はどこ行ったってモテねーってことか。
クッソ……。現実が嫌になってきた。
105 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 01:54:20.23
和泉に磨かれたのだろうか。クラス一地味な女子だった小島多恵は、みるみるうちに美少女へと変貌していった。
一週間もすると、和泉と小島は誰が見てもお似合いの美男美女カップルとなり、校内の羨望の的となっていた。
「玄野」
二階渡り廊下の手すりに寄りかかって、和泉が言った。
「俺、卒業したら小島と結婚しようと思う」
俺は飲んでいたオレンジジュースを大量に噴き出した。
「あいつ、漫画家目指しててさ。マジ才能あんだよ。だから俺、働いて応援してやりてーって思って」
「そ、そッか」
「お前にしか言わねーけど」和泉の目は異様に澄んでいた。「俺さ、こんな世界つまんねーッてずっと思ってて。よくわかんねーけど、心がヤバいスリルを求めてたんだよな、ずっと」
へぇ。
「戦争が起こればいいッて、思ってた」
なんつーか、こういう奴が部屋にくればいいのにな。
「でも、小島と接してるうちに、そんな考えが馬鹿げてるッて思うようになった」ふっと笑った。「俺はあいつに変えられたんだ」
マジめでたい奴。俺はいつ来るやもしれないミッションに常時ガクブルなんだよ。
勝手に結婚でも妊娠でも出産でもしてろ。ばーッか。
「おめでとう。大切にしてやれよな」
「ああ」
「式には呼んでくれよ」
「当然だろ」
和泉の純な笑顔に負けた。俺達は固く握手を交わした。
106 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 01:56:17.17
【くろのは今回15点以上取らないと】
んだこれ。
転送直前にガンツに表示された警告文。「取らないと」の先が文字化けしてて読めねぇ。
どーなンだ、クソッ。前回タイムアップしたせいだ。つーか、あんなんどう考えても一人じゃ無理だった。幕張メッセの恐竜博、模型恐竜が全部星人だッたんだぞ。
今回も俺一人だ。ちくしょう、泣けてきた。
ふざけんな。ざけんなガンツ……。
「ざッけんな!!」
高空からの落雷を躱し、Xガンのトリガーを引く。
オニ星人ボスの頭部が爆ぜる。周囲の一般人の歓声が上がる。なんで不可視が解除されてんだよ。意味わかんねー! ッつーか、
「あと二十秒!」
端末で確認する。どう考えても間に合わねー。まだ池袋の各地にザコ星人が点在してやがる。
あと十秒。
「くッそッ」
五秒。
「あああああ!!」
どうなるんだ。タイムアップで獲得点は0点。ペナルティが下される。
死ぬのか。明確に書かれてないから想像しようがねー。
くそ……。終わッた。
端末に0の数字が並んだ。転送が始まる。
でもわかる。今度は普通の転送じゃねぇ。頭皮で感じる風が、明らかに室内のものとは違う。地獄にでも送られてるんじゃないのか。
くそ、つまんねぇ人生だった。
彼女、一回ぐらい欲しかった。クソ……。
107 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 02:03:06.27
見慣れない繁華街の雑踏の中に、俺は突っ立っていた。
「あれ……?」
スーツも銃もない。俺は制服だった。どうなってんだ。
若者や学生達で溢れる道。あまりに日常的な風景は、地獄のそれだとは流石に思えなかった。
ギャギャギャギャギャギャギャギャーーアアアアアン!!
「うお゛お゛お゛おおおお!!!!」
うっせ! 思わず耳を塞いだ。
突如の轟音と奇声。素で星人かと思ったが、どうやら通りにある楽器屋からの音らしい。
店入口が開いて、二人の女子高生が慌てて出てきた。
「唯先輩、ちょっと弾かせてもらうだけなのに叫ぶのはやめてくださいよ!」
「ごめん〜」
な……んか、頭身おかしくねーか? あの二人。つーか、その辺の通行人も全員奇妙なスタイルしてやがる。やッぱ星人なのか。こいつら全部……。まさか、星人の星に送られたんじゃねーのか、俺は。
「ざ、ざけんなくそ」
銃もスーツも持ってねぇ。戦えねーぞ今は。女子高生二人はこッちに向かってきやがる。逃げようにも、ここが異星ならどこにも逃げようがない。足が震え出す。俺に気づくか……。一人だけ頭身が違う俺に……。
「でねでね、デス声はとにかく喉の開き加減が重要なんだよー」
「ほんと変な技法ばっかり身につけますよね、唯先輩って」
二人は仲良く談笑をしながら、俺の横を通り過ぎて行った。背の低い方がちらっと俺を見た気がしたが、危惧していたようなことは何も起こらなかった。
どーなッてんだ。
目についたゲーセンに入り、トイレの鏡を見たとき、半分、答えはわかッた。
俺の頭身も縮んでいやがった。
マジで不気味な話だが、アニメっぽくディフォルメされてる。目とか、超でけぇ……。
「んだこれ。可愛いじゃん……」
微妙に琴線に触れた。
108 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 10:52:35.18
俺に今起こっている事態はよくわからないが、直ちに危険な状況じゃねーッてことはわかった。よく考えたら、星人がいるような場所だったらわざわざスーツ無しで転送されるわけがねぇ。
戦わなくていい。軽く安堵してゲーセンを出た俺だが、即座に次の問題に直面する。
――じゃあ、何をしろっていうんだ。
俺はなんのためにここに転送されたんだ。目的が見えねー。
まさかここで一生を過ごせってか。んな馬鹿な。
「……」
いや、あり得る。俺の外見がこの世界仕様になってたのが、まさにそれを意味してる気がする。
ミッションも何も起こらなくて、ただ日常を過ごすだけのペナルティなのか。
ッて、そう考えるのは尚早すぎか。もしかしたら、この世界にもガンツの部屋があるかもしんねー。俺は異動を食らったってことかも。
とりあえず歩き出した。何か動きながらの方が頭が回る気がした。
まずは寝床だ。真夏ならともかく、この時期に野宿はしたくねぇ。けど、どこにも行くとこがねぇ。金も持ってねー。クソ、岸本の気持ちがわかった気がする。
こうなったら意地もプライドも捨てて、その辺の人に泊めて下さいって頼んでみるか? どうせ知らない世界だ。恥ずかしくなんかねー。むしろ快感かもしれない。
どうせなら、カワイイ女を見つけて、駄目元でそれをやってみるか……。もしかしたらもしかするかも……。
そんな考えに行き着いたとき、道端の交番が目に入る。
普通に国家権力、市民の味方に助けてもらうか。流石に変態やる勇気はねぇ。女ッて言っても、アニメ調の女ばッかだろうし。
「す、すいません」
交番に入ったはいいが、土壇場で何て説明したらいいか混乱した。
「あのー、俺ッ、玄野計ッていって……あ……住所探してるん、ですけど」
謎……。
「住所って、自分の家だろう」椅子に座った警察官。
「ああ、はい。そうなんですけど。なんつーか、泊まるとこなくて、……あ、いや、俺若干、記憶喪失で」
「学校はどこ?」
言ったって多分わかんねーだろ。この世界の学校じゃねーし。
「勢綾高校」
「聞いたことないね」
ほらな。
「ちょっと待っててね。えーと、クロノケイ。どう書くの?」
「玄界灘の玄に、野グソの野」なんかもうヤケクソだった。「計算機の計」
109 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 10:58:28.66
警察官は傍のパソコンを叩き始めた。
やがて、聞き慣れない住所が述べられる。
「この街に住んでることになってるけど?」
「はい?」
「住所、忘れたんだろう? 今言った番地が君のアパートだよ。言葉もはっきりしてるし、記憶喪失なんて変だけどね」
なんで俺の家だけあんだよ。しかもそれ、住民登録もされてるッてことじゃねーか。
「桜校の生徒だよ、君。勢綾高校なんかじゃないよ」
なんだそれ……。
「あれ、でも桜校って女子校じゃなかったかな……」警察官は首をひねった。
すると、室内奥からもう一人の警官の声がして、「去年から共学だよ。男子は一割しかいないけど」
「ああ、そうだったな」彼は納得する。
わッけわかんねー。とりあえず、この世界で俺は普通に生活できるようになってんのか。
終始訝しむ様子の警察官から住所地図のメモをもらって、俺は交番を出た。
夕暮れの中、見知らぬ街を歩き、俺の住居らしいアパートへと向かう。途中、犬の散歩をする主婦や、学校帰りの小学生達とすれ違うが、どいつもユルい外見をしてやがる。なんだかもう見慣れてきた。鏡を見れば同じ雰囲気の俺が映るし、まぁ見慣れるしかねーんだろうけど。
アパートに着いたのは日没しきってからだった。元住んでたところと外観が似ている。部屋番も一緒だ。住民票もこれもガンツが用意したのか。
「あッ、鍵……」
ドア前で思い当たる。多分持ってねーぞ。
ひとしきり制服の中を探して、なかったので諦め、なんとなくドアノブを回したら、普通に開いた。
「なんだよ……」
靴を抜いで部屋に入った。元の俺の部屋と同一の光景があッた。だが間取りが微妙に違う為、ポスターの位置なんかがおかしなことになってる。不気味だ……無理矢理俺の部屋を持ってきたみたいだ。
とりあえず習慣でテレビをつけると、当然だが映ってる人間もみんな頭身が低かった。それに、知ってる芸能人が一人もいねー。紳助とかどこ行った……って違うか。どの局に変えても、印象薄い感じの芸人やアイドルばかりだ。改めてここが異世界なんだと思い知らされた。
待てよ。
異世界だとしても、ただアパートだけが用意されてんのはおかしい。保証人だって要るし、ってことは、俺の親がこの世界にも存在してなきゃおかしい。
携帯、どッかにねーか。テーブルの上、机の上……探した挙句、ベッドの上の充電スタンドに接続されてたのを発見。実家の番号を呼び出して、発信する。
『プルルルルルル、プルルルルルル』
よし、コール音だ。俺の実家も、この世界には存在してる。
ごちゃ、と音がした。受話器を取る音だと思って「もしもし?」と口走ったが、冷静に考えれば違った。
『…………け……いー』
声が聞こえた。
『け…………い……ー…………かけちゃだめ…………』
直後、グチャグチャグチャと回線が絡まるような音。俺は電話を放り投げていた。
こ、怖えーッ! なんだ今の!
どういうことだおい。
矛盾を突いちゃいけないってことか? ガンツが捻じ曲げた世界の継ぎ目を引き剥がすのは、まずいのか?
クッソ、マジでヤバかった。下手な星人よりビビった。
つまり迂闊に嗅ぎ回らず、ここでの生活に順応しろッてことかよ。ざッけんな……。
111 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 11:03:09.15
翌日、誰が買ったんだかわからない食パンで朝食を済ませ、俺は自分が在籍しているらしい私立桜が丘高校に登校してみることにした。
机の引き出しの中で見つけた学生証。俺は二年生とある。元の世界と同じだ。
知らねー学校の知らねークラス。別に律儀に登校する気分でもないんだが、サボるということは学校側から親への連絡が発生しかねない。
そうなればまた矛盾に突き当たる可能性が出てくる。なんとなく、あの電話の声はヤバい気がした。何度も繰り返せば、異世界への通路が開く……そんな空気を感じた。
ともかく、この世界を探索する方向で行動を起こすしかねー。制服を着て、鞄を持って、アパートを出た。
携帯の地図を参照しつつ、朝の道路沿いを歩く。目的地に近づくにつれて、学生の姿が増えてくる。見事に女子高生しかいねー。元女子校、男子一割の共学ッて言ってたな。
ってそれ、めちゃくちゃいい環境なんじゃねーか……? この世界の人も見慣れて、女なら可愛いと思えるようになってきたし。うひゃー、やっぱ登校しといて良かったか?
女ばッかに紛れて、校内に入る。ようやく一人、二人、男子の姿が見えた。一割ッてことは、四十人のクラスならたったの四人……逆に恐ろしい気もしてきた。
廊下を行き、階段を上って、所属の二年二組の教室に入る。当然、室内は知らない顔ぶればかりだ。何故か注目されてないが、挨拶もされない。どういう扱いになんだ。俺は昨日までもこの教室にいたことになッてんのか。つーか、俺の席どこだよ。
視線を動かしていると、元の世界での自席――窓側最後列が空席だということに気づいた。ひょっとしてあそこか。これまでも、元の世界と対応する場面がいくつかあった。多分このクラスでの俺の席もあそこだ。
一直線に窓際に向かい、鞄を机にかける。椅子を引き、座ろうとしたところで声がかかった。
「玄野君、そこは……」
前に座る、眼鏡でショートの女が振り向いた。
「唯の席なんだけど」
「えッ」
人の席だったのか。おいおい、恥ずかしいな、おい。
「あなたの席は」教室に中央の空席を指す。「あっち」
眼鏡の女は微笑んだ。
「寝ぼけてたの? おはよう玄野君」
同学年とは思えない、しっかりとした口調だった。
「お、はよ」
挨拶を返して、指定された席に向かう。
なんだ、この感覚は。あの女子に話しかけられた途端に。
初めて玄野計として認識された。この世界であやふやだった自分存在が、あいつによって明確になッた。だからか?
や、単純に女子と話すのが久しぶりだッたからか。
そう思うと心が弾んできた。女子九割のクラス、普通に考えて凄い状況だ。楽しまない手はない。席にかけると、笑いが込み上げてきた。
ひょっとしたら、俺はミッションからも解放されてる。招集の恐怖に怯えることもなく、悠々自適な学生生活を満喫できる。俺の望んでいた状況じゃねーか。
ガンツ! おいガンツ!
何でこうなッたかよくわかんねーけど、心から感謝させてくれ!
チャイムが鳴った。担任の男性教諭が教室にやってきて、朝の出席をとりはじめた。
「次――」
俺を呼ぶ番になって、言葉が止まる。
「くろの、は……」俺の顔を見る。「昨日、お前いたか?」
担任は出席簿を手繰る。そして首を捻る。……もしかして、全部空欄なんじゃねーのか。在籍の事実だけが用意されていて、担任が手書きでつける出席簿に関しての辻褄合わせは何もされてないんじゃ……。
「そもそもお前、このクラスの生徒」
途端、彼の頭が踊った。一瞬、白眼を剥いたのを見た。
「生徒ぉ……だったな……うん」
担任は一人で納得して、涎を垂らしながら点呼を続けた。
戦慄した。
この世界はガンツによッて、支配されてる。爆弾ルールに似た法則が、存在している。
強く違反をすれば、殺されかねない。
教室内も、彼に起きた突然の異常にざわめき立っていた。
113 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 11:58:28.35
「平沢、平沢ー」
出席を取り続ける担任教師。明らかに脳をやられたような挙動も収まったみたいだ。
「平沢、遅刻かぁ?」
さッきから一人の女子を呼んでるが、来ている気配がない。さっさと次いけよ。
つーかこのクラス……今になって気づいた。男子は俺だけだ。マジかよ。
「平沢ぁー。……遅刻だな」
担任が出席簿にチェックを入れようとした。
そのとき、声が聞こえた。
「はいはいっ、はーーーい!」
廊下を駆ける音。声の主は、開いていた後部扉から教室に飛び込む。
ショートボブの、いかにも足りなそうな女子だった。
「セーフ……」
教室内にシュールな拍手が起こる。
平沢とされた彼女は、「おはよー」と抜けた挨拶をしながら、そのまま直進。俺がさッき間違えた窓際の席へと向かった。
「あれ?」
ふと動きが止まる。
「この鞄、誰のだろ」
あ……俺のだ。やべぇ、かけっぱなしだッた。
「それ、玄野君のよ」前の席のしっかり眼鏡が言う。
「くろのくん?」
教えられ、俺の方を向いた。
よく見たらこいつ、昨日の楽器屋から出てきた女じゃねーか。
あん時は無視された。同じクラスのはずなのに。
ッてことは、まさか……。
「誰?」
平沢は首を傾げた。
その口が、さらに次の言葉を紡ごうと、動く。まずい。
「あんな人、いなかっ」
がぁん! 音が鳴った。平沢は大きく仰け反り、背後のアルミサッシに頭をぶつけていた。
教室がざわめく。「唯!」しっかり眼鏡が立ち上がる。
平沢はゆっくりと顔を戻し、「だっておかしいよ。そもそもこの学校、男子なんていなか」
頭が振り子のように暴れた。机に顔を打ち付ける。即座に反対に引かれ窓ガラスに打ち当たる。
たッ、タブーに触れてんだ……。誰がやめさせろ……!
それでも彼女は言葉を紡ごうとした。
「その」
ガン!
「その人」
ゴン!
「このクラスの人じゃない」
ゴシャガシャン!
教室後ろのロッカーに頭からダイブしたところで、その現象は収まった。
死んだか……。俺は思ったが、彼女は平然と起き上がってきた。
鞄を手に取り、ずかずかとこちらに向かってくる。
「はい、くろのくん」
目の前で、腕を伸ばして渡された。
頭から、鼻から、大量出血をしていた。
「私は認めたわけじゃないからね」
全力で睨まれた。
「きっと君は、宇宙人だよ!」
そう言って、ばたんと仰向けに倒れた。
「誰か保健室に連れてけ!」担任が慌てる。
「私が行きます!」しっかり眼鏡。
平沢は起こされ、肩を担がれて連れられて行った。
……凄ぇ。ガンツの法則に抗える存在、初めて見たぞ。
「窓、ヒビ入ってる」
「うわ……」
俺は先入観からか、てっきりガンツの力がこの平凡な世界を侵食支配してるんだって、そう思ッてた。
でも、違うのかもしんねー。ガンツは俺を送り込んで、必死に寄生して、ルールで押さえつけているだけ。
本当に異常なのは、この世界の方なんじゃねーのか。
115 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 12:02:15.79
まるで俺は、野に放り込まれた一羽のうさぎ。四十名の女子に囲まれ、生活をする日々だった。
あの衝撃の登場から強く絡んでくると思われた平沢唯は、次の日にはもう俺の存在を忘れているようだった。
「あれ、玄野君いたの?」音楽教師の山中さわ子。「ごめんね、気づかなかった。なんだろ、玄野君て昼行灯って感じね」
「せんせー、昼行灯ってなんですかー」田井中律というデコ女。
「うーん、なんか昼に灯りを燈してもわからない、みたいな。つまりこういう奴?」お茶目に笑って指を指した。クラスが爆笑の渦に包まれる。
んだよ、これ……。元女子校だからか。男子の尊厳が軽んじられすぎだろ。
数学、現国、歴史、勉強が面倒なのはここの世界も変わんねー。結局つまんねえ。女子九割ったって彼女ができるわけじゃねーし。確かに教室中いい匂いがするけど、それだけだし。
三限目を終えて次の授業中までを寝て過ごそうと考えた。机に突っぷそうと肘を滑らせたとき、違和に気づく。
クラス全体の視線が俺に集中していた。
「玄野君」しっかり眼鏡の真鍋が言った。「次の授業は、体育なの」
「はッ? え?」
「みんなここで着替えるから、ごめんなさい。出て行ってくれる?」
そ、そッか。そうだよな。見回すと誰もが鞄から体操服を取り出し、着替える準備をしている。早々に退室しねーと。
俺は鞄を手にして、教室を後ろへ。
「あれ、草野くんはどこで着替えるんだろう」平沢が言った。
真鍋が返す。「そうね……何せ共学になったばかりだから、男子用の設備がないのよね」
トイレも職員用トイレだ。
「どこかその辺で着替えてもらっていいかしら」
優等生の真鍋和。彼女が口にした『どこかその辺で』という適当な言葉は、まさに俺が受けているぞんざいな扱いを象徴するものだった。
教室を出て、後ろ手に扉を閉める。
途端に、クラスは賑やかな声で湧いた。
「草野くんじゃないよ唯ー!」
「あたし笑いそうになっちゃったじゃん」
「ってかアイツ、なんで毎回小っちゃい『っ』の部分強調して言うの? くそウケるんだけど!」
ざ、ざッけんな……!
116 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 12:08:26.77
そのような学校生活も一週間が過ぎた頃、俺は軽音部の存在を知る。このクラスからの所属は三名。平沢と、田井中、そして琴吹紬というお淑やかな女子。
そこに他所のクラスの生徒を一人と、一年生を一人含めて、放課後ティータイムというバンドを組んで活動をしているらしい。
興味ねーけど、楽器屋にいたのはそういうことだッたんだな。
「今度ライブハウスでライブをね……」
「凄いじゃない」と真鍋。
ライブハウスとか、馬鹿の巣窟だろ。まぁ、そこまでマジにやってんのは凄ぇと思うけど。
あー、ここの生活にも飽きたな。こいつら雰囲気ゆるすぎて恋愛の気とか皆無だし。予想した通りミッションがないのは助かったけど、今度は退屈過ぎてだりーッつーか。
平沢達の盗み聞きをやめて大きく伸びをする。と、教室に担任が入ってきた。ホームルームが始まって、その後は放課だ。帰ッたらどうすッかな。もう平沢とか琴吹で抜くのも飽きたなぁ。次はいよいよ田井中いくか。
「えー重要な連絡事項がある」担任が咳払いをして言った。「最近県内で頻発ている交通事故や建物の倒壊だが、昨晩は巻き込まれた怪我人も出ている。まぁ皆もニュースで知っているとは思うが」
117 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 12:10:19.22
んだそれ。軽部の出てねー時点でニュースなんて見てねーッつーの。
ん……? つか、建物の倒壊ッてガンツっぽくねーか……。
「磁場がおかしくなっているとか原因は色々言われているが、はっきりはしていない。下校時何があるかわからないので、皆くれぐれも気をつけるように」
臭え……。ガンツ臭え。逃れられたと思ったのに、こッちでもミッションかよ。
や……、違うか。いま言ったのがミッションによるものなら、俺が今のとこ無関係ッてことの裏付けじゃねーか。ははッ、やった。なんか当事者外された寂しさみたいのもあるけど、実際他所でやッてもらえるならそれに越したことはねー。
俺は小さくガッツポーズをした。
「昨日は特別ひどかったんだよねー」平沢が言った。俺の妄想でお前がひどいことになってるとは知らずに、無垢な顔してやがる。
「隣町だったな」と田井中。
「ビルが倒れたのよねぇ。本当なんなのかしら、怖いわね」頬に手を当てる琴吹。
こいつら、ホームルーム中なのに離れた席で平然と会話しやがる。軽音部……。
「起立」真鍋の一声でクラスが一斉に立ち上がる。平沢達も慌てて続いた。
「礼」放課となった。
118 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 12:13:56.73
冬休みに入ッた。行動の大半だった学校がなくなッて、俺はいよいよ猿のように手淫を繰り返した。ネタは腐るほどある。一日四回、クラス四十人を十日で一巡するペースだが、実際は三十九人しかできていない。
真鍋和でどうしても抜けない。雰囲気から母性を感じる為だろう。越えてはいけない一線というものが彼女との前に大きく立ちはだかっていた。
「クソッ」平沢をネタにゴンゾ級のやッつけ仕事を完了すると、途端に襲う虚無感。「つまんねー、毎日こればッかじゃねーか」
実りがねーんだ。これならまだミッションやッてた方が精神的にはいい。あの世界じゃ俺はヒーローだッた。モテはしなかッたが、輝いていた。
1Kの部屋、廊下の冷蔵庫前に寝っ転がり(平沢が牛乳を飲みつつ俺に犯されるというシチュエーションだった)傍の携帯を開く。
今日じゃねーか。軽音部が騒いでたライブの日。街のライブハウスで、他のアマバンドに混じって一般客相手に演奏するとか。
連中はまさに青春を疾走してやがる。どーせヘボい音楽だろうけど、部屋から一歩も出ず日がな一日シコッてる俺よか断然いい。
「……」
いや、それでもヘボい音楽には違いねーんだ。真面目に練習してる空気が微塵も感じられねー。事実、部活は琴吹が持ってきた菓子を食うだけで殆ど終わってるらしい。
なんとなく……観に行ってみるか。素人の演奏だ。気負いせず、軽い気持ちで。丁度ネタにも飽きてきた頃だし。
チケットとか、今から取れるかな。
119 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/19(月) 12:21:30.04
軽く街を彷徨って、裏通りにある小さなライブハウスに辿り着いた。普通のビルに見えるけど、どうもこれがそうらしい。人はそれなりに集まってるみたいだった。開場待ちの連中が周辺にたむろッてる。普通ッぽい奴ばッかだ。参加が女のバンドばっかだからだろうな。
受付に行ったら当日券が取れた。んだよ、チョロいじゃん。ライブ。
「あら、玄野君?」
……チョロくなかった。振り向くと見知った顔があッた。真鍋和だ。完全に想定してなかッた。そーだよな、普通友達呼ぶッて。
「あなたも観に来たのね。私は唯達に誘われたんだけど」
ああ俺は誘われてねーのに観に来たよ。ざけんな、恥ずすぎだろこの状況……!
「ありがとう」
「……は?」
「わざわざ来てくれたのよね。唯達も喜ぶわ」
ちッ、ちげ……いや、違くねーけど。
あたふたしているうちに開場時間となった。
「入りましょう」と言われて、俺は彼女と一緒に中へ。「私も、ライブハウスは初めてなんだけど」それなのにこの落ち着き様。女子高生なのにおばさんの空気がある。
抜けねーのはそのせいだ。きッとそうだ。
断じて、気になる女で抜けない心理とかじゃねぇ……。
120 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 13:55:24.22
ギャギャーーーン!
「ィイイイーーーアアアアーーー!!!」
平沢の奇声。
「……あ、こんばんは。放課後ティターンズです。あと何曲かやりますので」
「唯先輩! もう色々とツッコミきれませんよ!」初日にいたツインテールの女が乗り出した。
んだこれ……。一組目のバンドが終わって、素人でこれはすげーよなって微妙に感心してたら、こいつらは演奏力がダンチだッた。平沢の高速ピッキング、指がどうなッてんのか見えなかッた。
小柄なツインテールは複数のエフェクターを接続、よくわかんねーが恐ろしく素早く使いこなしていた。他の奴らも凄ぇが、この二人は飛び抜けてる。
「次、ふわふわタイム〜」
ドドドドドドドギャギャギャギャーーー!!
ペッポロパロペッポロパロポロ
「凄いわね、アレンジが」真鍋が隣で言った。「きっとライブハウスの客層に合わせたのね。こんなこと、プロでもなかなかできないと思うわ」
「そッ、そーなんすか」
くッそ、まともに話せねー! なんで隣にいんだよこの人。
「特に唯は、まだ始めて一年と少しなの。この上達には目を見張るものがあるわ」真鍋は微笑する。
「使える」
「……?」微かにそう言った気がしたが、次に目をやると、彼女は小さくジャンプをしてはしゃいでいた。
ジャッ! ジャッ! ダララララーーー!!
演奏はクライマックス。キーボードを持ち上げての琴吹のプレイ。さッきから明らかに休止箇所がない田井中のドラム。ベースの女は大人しかったが、平沢に感化されて徐々に発狂しかかッてる……。
凄え。レベルが違いすぎてこれじゃ、あとのバンドが見れねー……。
「ギョエエエェエ!!!」
平沢がギターを振り回す乱闘紛いの曲が終わると、どうやら持ち時間が終わったらしい。軽音部は退場していく。
その後のプログラムは、場末の寂れたソープランドを想起させた。出涸らしのような演奏。浮いたボーカル。自信のない表情……明らかにあのプレイの直後というのが影響していた。
最後のバンドが「ありがとうございました」と泣きそうな声で締め、退場。場内に明かりが灯る。既に客はガラガラだッたが、残った数人の流れに乗って、俺は扉へ向かう。そういや、いつの間にか真鍋がいねー。平沢達に挨拶でもしに行ッたか。
121 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:03:31.03
建物を出る。外の冷たい風に吹かれて、また、あの熱気を思い返す。ノれたもんじゃなかッた。ただ、圧倒された。俺のような雑魚の追従を許さない、突き抜けたサウンドだッた。
手が、足が、気づかぬうちに震えていた。
恥もプライドも掻き消えていた。裏口に行けば会えるだろうか。握手、してもらえるか? いや、ただ素晴らしかったの一言でいい。伝えよう。
あいつらは気高すぎた。もうズリネタなんかにはできねぇ。
路地をまわってライブハウス裏に出ると、丁度軽音部が楽器を持って出てくるところだッた。軽い人だかりができていた。全部放課後ティータイム目当てだ。あいつらすげえ。
「どうもありがとー」平沢が軽く手を振りながら歩いてくる。
意を決して、その眼前に飛び出した。
平沢は俺を認めると、「あっ、黒川くん?」もういい、何でもいい。
「あッの」求婚でもしそうな勢いだッた。「さッきの演奏」
その時、何かが頬を掠める。
聞き覚えのある音が耳に残ッた。
瞬く間、目の前の平沢は、レーザーアンカーに絡め取られている。
「は……?」振り向くと同時、一瞬の影が駆け抜ける。視線を戻した先で、血飛沫を上げる平沢の姿を見た。
「の、どかちゃ……」
刀を握り返す暗殺者――真鍋和がいた。
たちまちに混乱が場を飲み込む。悲鳴を上げたツインテールの一年を、真鍋は一突きにする。「うわああ!」「和!?」他三人も、順々に惨殺されていく。
人だかりは散っていた。血溜まりの上に立つ女の目が、俺に向けられる。手には大ぶりの黒い刀柄……ガンツソード……。
一歩が踏み出される。高速の剣閃が、俺の首目掛け、
「あ――」
空中からの視界を最期に、意識は途切れた。
122 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:10:39.99
「こ、」
殺された。送られた……。
目の前に、マンションの部屋。半年前と同じ光景が広がッていく。いや、微妙に同一とは言えない。間取りや壁紙が違う。だが、あれだけは変わらねー。部屋奥に置かれた黒い球――ガンツ!
「あ……あ」平沢を始め、軽音部五人は床にへたり込んで震えてやがる。無理もねぇ。クラスメイトに殺されたんだ。
その時、ガンツから光線が走る。何もかもが向こうと一緒だ。平沢の隣に、しっかり眼鏡の頭部が描き出されていく。
「いやあっ!」乙女な悲鳴を上げて、部屋の隅へと逃げていく平沢。田井中達も後ずさり、軽音部は散り散りとなった。
「和!」
「和、どういうことだよ!」黒髪ロングのベースが叫んだ。「血っ、血がいっぱい……」ふらりと貧血を起こしたように倒れた。
真鍋は納刀した柄を鞄に仕舞う。
「ごめんね、唯。みんな。悪いけど、協力してもらおうと思って」
そう言ッて、彼女は淡々と語り出した。死者とコピー、星人とミッション。加藤の口から幾度となく聞いた、この部屋のルール説明だッた。
「大体、こんな感じ。今ので理解できたかしら」
口述上手え……。加藤の三倍の早さで、十倍は分かりやすかッた。平沢達も揃って頷いていた。
真鍋はガンツに手を置いて、少し笑って言う。「見てわかると思うけど、前回の戦闘で人員は私一人になったわ」
冬休み直前のあれか……。ビルが倒壊したとかいう。一体どんな星人だッたんだよ。
つか、……ッてことは、こいつも全滅経験者なのか。
「そこで、このくろ丸君≠ゥら早急に死者を集めるようにと指令が下ったの。カタストロフィに向けて、なるべく多くの人員を」
カタストロフィ? んだそれ。俺も結構長いことガンツやッてるが、聞いたこともねー。ここ特有のイベントか? つーか、くろ丸君ッてなんだよ。可愛い名前つけてんじゃねーッつの。
と、思うことは山程あッた俺だが、こッち来てから継続している完全にアウェーな空気の為何も言えずにいた。
「catastrophe……世界の破滅、ですか」
「そう。明確には何が起こるかわからないわ。だけど、今から備えておけるものはある。……強力な武器と」平沢達を見回した。「有能な戦士」
123 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:12:34.58
って、無茶苦茶じゃねーか、おい。こいつらが凄ぇのは所詮楽器だろ。同列だッて言いたいんだろうが、俺は知ッてる。星人との戦闘がそんな安易な理屈で成り立つわけねえ。
それに、そのカタストロフィがどんな規模かわかんねーけど、知り合いを手にかけてまで全力で対処しなきゃなんねーことなのかよ……。理解できねえ。
だが、俺の思いに反して真鍋は沈着した声で言う。
「正直に言って、前にいたメンバーは能力がここの環境に見合ってなかったと思うの。私の指揮不足もあったかもしれないけど、あの程度の戦いで全滅していたらカタストロフィは生き抜けないわ」
ちょ、超冷酷……。
「でも、あなた達なら大丈夫だと思う。手荒な事をしてごめんなさい。……一緒に、世界の為に戦ってくれないかしら」
真鍋が言葉を終えた。
それから少しの沈黙の後、
「うん。わかったよ!」平沢が声を上げた。
「和の頼みとあっちゃあな」と田井中。
「聡明な判断だと思います」一年も頷く。「世界が破滅するなら、どこにいたって同じです」
琴吹とビビりのベースも同意していた。
こいつら、やッぱ思考がおかしい。どこで何やッてたッて一緒なら、家でシコッてた方が断然有意義に決まッてんだろ。馬鹿か。
そうこうしてるうちに、くろ丸君≠ェ内部の武器類を開放した。真鍋が一つ一つを手に取り説明をする中、俺はスーツと銃ワンセットを手に廊下へ。
悪りーけど、経験者なんだよ。女子会ッぽい空気にも馴染めねーし、早々に解放させてもらうわ。
慣れた手順でスーツを着装し、軽くどや顔で部屋に戻ッた。
「わかったかしら。多重ロックオンとスーツ破壊ポイント」
「んーなんとか」と田井中。
んだそれ。どッちも知らねーッつの。そんなんなくたッて気合で勝てんだろ。
「……」
と、そこで誰も俺の存在に目を向けていないことに気づく。
あれ……ステルスとか使ッてねーはずなのにな。
お、おかしいな……。
「次に、これの使い方を教えるわね」
「わあ、でっかい」
「クリア特典の武器よ。六人で回して使いましょう」
「ええっ、いいのか」
「さっすが、和! 太っ腹だなぁ」
なんか、涙でてきた。
124 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:14:40.23
『エア星人』
最初の標的には相応しい、見るからに戦闘向きじゃなさそうな少女型星人をくろ丸君は表示した。
何処だかもわからない草原に、俺達七人は転送される。
人型ッてのがやッぱネックだが、やるッきゃねー。俺はXショットガンだかXライフルだか公式名称も曖昧な銃を構え、気合いを高めた。まずはレーダーで、敵の位置確認だな。
「あ、いたよ」と、その時平沢が空を指指す。
疎らな薄雲が散る中に、巨大な満月。夜とは言いがたい光量の空を、それは舞っていた。
羽を生やした、全裸の少女だ。
「おッ……」俺は流石に動揺した。生の裸なんて岸本以来だ。幸運にも、手には望遠モニター搭載のライフルが握られている。しッかり見て、頭に焼き付けねーと。武器を空に構え、スコープを覗いた。
瞬間、途轍もない轟音が鳴った。
銃を離して夜空を見ると、星人は消えていた。
「おー」平沢の感嘆の声。巨大な銃を構えていた。
「リコイル(反動)ないんだな。どういう技術なんだろう」ベースの女が不思議そうに覗く。
「恐らく、今ので倒せてはいないわ」と真鍋。「とどめを刺しにいきましょう」
「おーっ!」と平沢の元気な声がしたかと思えば、連中は走り出している。
直後、Xガンの発射音が数発聞こえた。裸の腕や羽が吹き飛ぶのが見えた。
「わ、グロいな!」
「ひぃぃ」ベースの女が卒倒した。
呆然としてる間に、視界が変わる。俺は部屋に戻ッてきていた。
「あれー、もう終わり?」平沢の頭も転送されてくる。
「楽勝だったなぁ」と田井中。
「おえぇ」吐きながら、ベース女。
もう終わり? ッて、俺の台詞だッつの……。んだよこのミッション。この世界に合わせてターゲットもユルいんだな。向こうで死線を掻い潜ってきた俺には物たんねーッつーか。
「採点を始めて」最後に転送されてきた真鍋が言ッた。顔から興奮が伺えた。んだよ、コイツも素人か? 3点とかの星人で舞い上がってんじゃねーよ。
【ゆい 100点。100点メニューから選んでね】
「はッ? はいィ!!?」
思わず変な声を上げちまッた。俺に注目が集まる。
125 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:43:25.05
「玄野君は、どういうわけか知らないけど、この部屋の経験があるのよね。見ていてわかったわ」真鍋が言った。「なら、驚くのも無理はないと思う」
「えっ、黒子(ほくろ)くんってそうなの?」と平沢。
「説明するわ」真鍋は前に出る。「まず、今回の敵は耐久性が異常だった。大抵の星人は、最初の一撃で倒せるはずだから」
更に、と言って続ける。
「エア星人とあったけど、あれは古来の書翼人伝≠ノ伝わる『翼人』よ」
は? 星人じゃねーのかよ。
「星の観測者と呼ばれ、地球が発生してから今までの出来事を身体に記録する、伝説上の生物。今回は反撃なく倒せたけど、戦闘能力は高いわ。背中の羽で暴風を起こして街などを破滅させた記録がいくつも残っている。私は見た瞬間に、100点は間違いないと思っていたわ」
おめでとう、唯。そう言って、平沢の肩を叩いた。
くろ丸君には、100点の選択肢が表示された。ッて、三つもあんのかよ。解放に、強い武器? メモリー内の人間を再生!?……知らなかッた、そんなんあンのか。
つか、俺、何も知らねー……。100点ターゲットがいることも知らなかった。結構長いことミッションやッてたのに、わかんねーことばッか。情けなくなッた……。
「強い武器が欲しいな〜」と平沢。
ッて、解放じゃねーのかよ、おい。自由がそこにあんだぞ。
「そうだな。和も武器が必要って言ってたし」ベースの女までそッちのノリかよ。
こいつら、カタストロフィとやらに向かう方向で既に一致してやがる。
「ありがとう」真鍋が言った。
126 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:45:40.95
年末、年明けと、俺はやはり自慰によッて過ごした。
年跨ぎオナニーのネタに、遂に真鍋和を使った。異常な程の快感だッた。妄想のシチュとしては、俺と真鍋が共に全滅経験者であるという心の傷を利用した。
――加藤ッて奴がいてさ。リーダー気質で、すげえいい奴だッたんだけど、死んじまッた……。
俺のその言葉に、真鍋は涙する。
――すげえいい奴だッた。マジで、すげえいい奴だッた。
加藤をフルに活用した。心を動かされた真鍋は、自身の心中も打ち明ける。決して表には出せない弱さを、俺だけに吐露する。
悲しみが心を引き寄せ合った。二人は夜の砂浜で一つになッた。真鍋は落ち着いていたが、俺の指技によりタガを外される。最後には滅茶苦茶に喘ぐ彼女のすがたがあッた。月明かり、波の音、潮の匂い。裸で夜を感じ合う。
真鍋は絶頂に達する。
『もしもし、玄野君。今日時間あるかしら』
汚れた手で電話に出ていた。イッた瞬間に鳴ッたコール音。真鍋の声に、異様な背徳感と興奮を覚えた。
『少し、お話をしたいの』
年明けて数日経った日、俺は駅前の喫茶店へと呼び出された。入口近くの席に、真鍋は既に来ていた。
考えてみりゃ、女子とお茶するなんて初めてじゃねーか。クソ、緊張する。しかも数分前まで妄想でらぶえっちだった相手だ。色々とヤバい。
俺が席に着くと、真鍋は慣れた調子でコーヒーをもう一杯頼んだ。
「ここ、私の馴染みの店なんだけど」
本題前の適当な会話が始まッた。コーヒー豆の薀蓄が淀みない調子で語られる。相変わらず上手え。思わず聞き入ッてしまッた。
「でね……」恐ろしい程自然な調子で本題らしきものに入る。「少し気になって、玄野君について色々調べてみたんだけど」
余りに流れが鮮やかすぎて、まだ豆の話が続いてると思っていた。彼女の言葉を何度か反芻して、ようやく意味を理解する。
色々、調べた、ッて、ヤバくねーか。
繋がッた世界の矛盾に触れちまうんじゃ……。
「結論から言うと、あなた、戸籍がないわね」平然と言った。「住民票も空欄ばかりで受理されているわ」
「……」
てッきり言った瞬間にヘドバンが起こると思ッたが、あの部屋の関係者はタブーの例外になるのか? 彼女は何ともない様子で続ける。
127 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 14:46:21.91
「流石にこれはと思ったから、昨日部屋に行ってくろ丸君に訊いてみたら」
は……?
「ちょッと待て。あの球と話せんのか?」
「うん。普通に話しかければ何でも答えてくれるけど」
何だそれ。聞いてねーぞ。
つーか、思わず会話しちまッた。は、恥ずッ……。
真鍋は俺を見つめて、言う。
「そうしたら、あなたが異世界の人間だということがわかった。ちょっと信じがたいけど、ミッションのペナルティを受けて、ここに送られてきたって」
「そ、それは知ッてる。わかんねーのはその……」
「送られた目的?」
「そうだ」
「それは、くろ丸君にもわからないみたい。彼も結局、普通の人間と変わらないから。球のデータにアクセスして、調べてくれただけなの」
真鍋は少し気落ちした様子だった。
「本人が色々知ってるかもと思って誘わせて貰ったけど、よく考えたらあなたが一番わけがわからないわよね。ごめんなさい」
椅子を立ち上がる。
「時間をとらせちゃってごめんね。会計はしておくから」
そう言ッて伝票を持って、レジに向かッた。唖然として俺は見送ッた。
店を出る時に、「この後、唯達と約束があるの。それじゃあね」手を振られた。
「……」
まだ湯気の立つカップに口を付けて、顔を伏せる。
正直、異世界とか、喚ばれた理由とか、どーッでもいい。
あんな女、向こうの世界にはいなかッた。普通なようで、普通じゃねー。何ンて言ッたらいいんだ。上手く言葉になんねーぐらい、絶妙な感覚だ。
「す、好きだ……。ああいう奴」
俺は見事にハマっていた。
異様にしッかりしてんだけど、それを感じさせない自然さ……。そんな感じか。真鍋和の魅力はそんな感じだ。
本日八度目の真鍋とのエアセックスを終える。ちッとも飽きねえ。現実での距離感が余計にそうさせてる気がする。付かず離れずの眼前にバナナが吊るされれば、猿は何処までも走る。俺は確かに猿だ。
もう一生分を抜いた気がする。平沢とかは芋に見えてきた。教室で真鍋の姿を目に焼き付ける。新鮮なネタで抜く。トイレから戻ッた教室で、真鍋に軽く話しかけられる。その状況を思い返して帰宅後また抜く。俺は一日に何度も夢を見れた。
【憂鬱星人】と表示された敵に、真鍋はまた100点ターゲットの試算をつけた。
何処だかわかんねー学校の校庭で俺達を迎えたのは、半透明青色のだいだらぼっちだッた。
巨大な腕の一振り。校舎が、豪快に吹き飛んだ。
「恐らく、『神人』ね」と真鍋。
また星人じゃねーのかよ。
「ネットの都市伝説系のサイトにあったわ。閉鎖空間と呼ばれる異次元でのみ活動をする、謎の巨人。それだけじゃ意味がわからないでしょうけど」
いや、それだけに限らず全部意味がわかんねえ。
「神人は、世界の発端であるとされる人物の負の精神体だと言われているわ。推定に過ぎないけれど、それが正しいのなら、あれは名前の通り神そのものということになる」
よくわかんねーけど、ヤバそうなのは理解できた。
「神を殺していいのかしら」と琴吹。
「語弊があったわね。神人は、この空間を含めて心の現象に過ぎないわ。恐らく、あの校舎も現実世界では傷一つついていない」
「へぇ、どんな原理になってるんだろ」と秋山。
「相対的に影響し合うミッション空間と、完全にそれが断絶される閉鎖空間か。それが同時に展開されたということは、ミッションによる次元のズレより、更に上位の変異である閉鎖空間の発生が優先されたってことか」と田井中。
「でも現にミッションを実行できてるってことは、くろ丸君の次元調整の方に優位性があったとも考えられるよね」平沢。
「断言できるのは、両者の力も及ぼされる影響も全く異なるものということですね。見る限り、神人の動作は原始的です。対してくろ丸君の技術は完全に未来科学です」と中野。
「神の力と未来の力という言い方が適当ね。未来科学は巨大ではない、しかし神は未来には及ばない。ある意味矛盾を孕んだ二つの頂点のぶつかり合い。私達は凄い瞬間に居合わせているのかも」興奮気味に真鍋。
何この会話……。完全に蚊帳の外の俺は、戦闘でも置いていかれた。校庭をかけ出す六人。「唯!」「うん!」真鍋と平沢が声を掛け合う。強力武器二丁によッて、神人の身体はみるみる間に削られていく。
今回も何もできないままミッション終了。ざ、ざけんな……。
130 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:02:57.75
【ゆい 100点。100点メニューから選んでね】
二回クリア。俺はここに来て未知を体験していた。ガンツミッションッて、もッと極限にヤバくて、人がバンバン死んで……そんなんじゃなかッたのかよ。
平沢は今回も強力な武器を選択した。隣の真鍋の顔に、明らかな興奮の色が伺える。「二回クリア武器……私も初めて見るわ」
くろ丸君表面から、極彩のレーザーが走る。平沢を貫くかと思いきや、眼前で散って物質を描き出す。それは彼女の周囲にまで及ぶ。
「唯……」
数秒ののち、平沢は巨大な黒のバトルアーマー体となッていた。真鍋が感嘆の溜息を漏らす。
「唯ー」田井中がコンコンと表面を叩いた。
「いるよー」と返事。「私、どうなってるの?」
「キングゲイナーみたくなってる」
うおお、強化型のスーツか。流石にこれ着たら、ちょッとやそッとで負ける気がしねえ。真鍋を見やると、頬を赤らめて、飛び跳ねて、明らかに嬉しがッてやがる。微妙に危ねーもんを感じるけど、かわいーなおい!
二メートル級の置物となッた平沢を他所に、他のメンバーの採点が執り行われていく。
【わ 0点。トータル70点】
「これずっと直らないのよ」ご機嫌な顔で真鍋が言う。
【みお 0点】
【あずさ 0点】
まァ、あとは全員0点だよな。見るまでもねー。100点ターゲットが一体だけッてのもどうかと思うが、お陰で楽できちゃいるし。
残り二人の採点も終わッて、俺の画面が表示された。
【けい 0点】
はい、終了。さッさ帰るか。スーツ着た真鍋のボディラインをしッかり目に焼き付けてと。
「けい、って誰って思ったけど」キングゲイナー平沢が言った。「栗野くんのことだったんだね」
「あ、ああ」どーでもいいけど、そん中すげえ篭った声だな。
「中性的な名前よね。特に平仮名で書かれると」と真鍋。
「ちょっとかわいいよな」と秋山。
あれ……。
「そういえば、アドレス交換してなくなかった?」田井中が言う。
「そうよね」琴吹。
「私とは初日に交換したわよね」
「あッ、ああ」
そこで平沢がわあっと反応する。「その、ちょッとリキんで言うの、かッこいいよね!」
「ッッッッッッッ!!!!」
「ムギやめろっ、腹が痛い」
131 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:11:50.55
あれ……。なんか……、受け入れられてる。
なんだこの、あッたかい空気。
「玄野君は、ライブ見にきてくれてたのよね」
「えっ、そうだったんですか!」
「じゃあ私達のファンなのかしら」
「ええ。そうよね、玄野君」
クソの詰まった人間、誰にもあると思ッてた汚ねー感情。こいつらからは一切感じなかッた。確かに、緊張感は微塵にも無いかもしんねえ。でも、緩やかだから出せる温度がここにはあッた。
ずッと、独りだッた。
俺にも、居場所が見つけられたのか。
『…………け……い…………ー……』
寒気がした。
「なに今の?」と平沢。
『…………け……い……ー…………もど……り……な』
グチャグチャグチャと、くろ丸君に表示された画面が汚く切り替わる。
【くろの は、次のミッションで戻ってきてくだちい。1520724502】
んだこれ……。勝ッ手に送られて、勝ッ手に帰されて。ガンツのクソ野郎。しかもこの数字は何だよ。何ンか減ッてるみてーだけど。
「……!」真鍋がハッとして前に出る。「くろ丸君、カウンターを出して!」
指示を受けて、くろ丸君はチキチキと処理を始める。やがて、表示される。もう一方の数字の減少と逆に、増加していく数桁の数字列が。
真鍋はそれを見て、床にぺたりと腰を付けた。
「和ちゃん!」
「どうしたの!」
「これは」真鍋は赤ら様に気落ちした声を出した。「この世界の寿命だったの」
増加していくカウンター。今この瞬間も。
「寿命……? 増えてるんなら良くないか?」田井中が首を傾げた。
真鍋はかぶりをふった。「カタストロフィが、来なくなっちゃうじゃない」
泣き出しそうな調子だッた。いや、現に眼鏡の奥に光るものをみた。こいつ、そんなに戦闘狂だッつーのかよ。
「この部屋に喚ばれてからの一年間、それだけを目標に生きてきた」
誰に言うとでもなく呟いた。
「最初の数回は、上手く戦えなかった。今まで目にしたことのない光景に、吐いてしまうこともあった」
平沢達は聞き入っていた。
「でもだんだんコツを掴んできて、チームの指揮も始めて、楽しくなってきた。一度クリアをして、私は迷わず武器を選んだ」
幸せそうに微笑んだ。
132 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:12:45.92
「そんな時、カタストロフィの存在を知って、私自身の生きる使命を見つけた気がした。なのに」
笑みが止む。
「なのに、なんで……?」完全に涙声になっていた。「何故なの、くろ丸君」
彼女に答えるように、球体表面に複雑な図形が表示された。涙を拭い、図を読み解く真鍋。
「……、負の、因果律……」
やがてそれは、彼女の口から説明された。
彼女達のいるこの世界は、正の因果律に守られていた。簡単に言うと、好事に好事が重なッていく。つまり不幸が起こらないッてことらしい。
そして今回、異なる二つの世界による、因果律の均衡が行われた。つまりどういうことかッていうと、
「……この世界でカタストロフィが起ころうとしても、正の因果律に打ち負けて、結果大した事象にはならないの」
ガンツのタブーに抗った平沢を思い出した。
「だから、それならこの世界では一切何も起こらない方がいい。負の因果律を持つ世界に、破滅の因果を収束させる。……それが、この数字の示す、強大な何者かの意思よ」
真鍋は俺に向いた。
「玄野君は、向こうの世界から送られたディプロマット(外交官)だった。彼を媒体にして、二つの世界は繋がる。彼を通して、因果律は変容する」
強く、睨んだ。
「何で来たの。玄野君」
俺はたじろいだ。
「あなたなんて、来なければよかったのに!」
133 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:19:36.05
ズリネタが増えた。
真鍋の嗚咽。真鍋の涙顔。
真鍋の罵倒。
狂ったようにオナニーをした。
彼女の悲しみを想い、悔しさを想い、今まで見せたことのなかったであろう身勝手な泣き顔を思い返し、何度も何度も射精した。
ガンツ……。
ガンツ!
ありがとう。お前のお陰で、俺の手淫生活はひとつの頂点に達した。好きな女の子に嫌われ、泣かれ、罵られ……、相手に触れられる関係ならば決して得られることのない、まさにこれは距離こそが成し得る快感。
いい趣味とは言えないだろう。彼女が崩れていく様を見て喜んでいるのだから。だが、これこそが妄想自慰の醍醐味と言える。
もうすぐこの部屋ともおさらばということで、お構いなしにその辺に射精した。流石に足場がなくなッてくると、今度は少し行儀良く、コップを並べ、その中に真鍋への想いを放出した。
まだかよ、ミッション。
ちょッとはしゃぎ過ぎた。そろそろ臭ッてくるかもしんねー。明日、明後日とかならいいけど、一週間でも待たされたらやべえぞこれ。まァそう考えながらも右手は常に高速でモノをシコッてるわけだが。
その時、ピンポーンと呼鈴が鳴ッた。
んだよ、NHKか? 観てねーッつーの。新聞か? もうここの時事知ったッてしょうがねーッて。
全裸で今にも射精しそうな俺は、頭の片隅で真鍋のスーツ姿を想像しつつ(最近はむしろ着衣の方が抜ける)更にもし女のセールスなら盛大にブッかけてやろう、という同時思考をやッてのけつつ、玄関を跨いでドアスコープを覗いた。
真鍋がいた。
「ちょッ」
流石に本人を目にして射精はできなかッた。いや、しようと思えばできたし、してしまえという衝動も湧いたが、俺はその一線を超えられなかッた。
「玄野君……話が」明らかに浮かない顔をしていた。
「ちょッ、待ッ!」足などをその辺にぶつけながら、部屋奥へ。まず手を洗い、服を着て、動物の巣のようになッた部屋壁を全力で拭いていく。床も同じく拭き取り、臭いがないのを確認したのち、真鍋を招き入れる。
「お邪魔します」テーブルの前に正座で座ッた。「あら」
彼女の顔が少し綻んだ。
「これ、用意してくれてたの?」目の前にコップが二つあった。「気を遣わなくていいのに」
やばい……。
134 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:20:21.01
中身も見ずに飲もうとする。その手から俺は慌ててコップを奪い取る。
何も考えずに飲み干した。
「え?」
異常なテイストに目玉が飛び出しそうになッたが、素早くもう一杯も飲み干す。
「な、何……?」真鍋は半笑いで固まッた。
俺は無言で冷蔵庫に向かい、緑茶のペットボトルを二本取ッてきた。
「いや、あれ、なンか腐ッてたから」
口内が馬鹿になりそうだッた。
「ありがとう……」素直に受け取り、蓋を開け、飲料を口にした。
しばらくして、伏し目がちな目が俺に向いた。
「この間は、本当にごめんなさい」
脈絡も何もなかッた。
「取り乱してしまって、本当に。今は落ち着いてきたわ」
「いや……、いいッて」俺の方が酷いことやッてる。
「ありがとう」真鍋は微かに笑った。「この部屋、いい匂いがするのね」
咽せた。緑茶が鼻に入った。
「大丈夫!?」身を乗り出す。俺が平気な旨を伝えると、彼女は笑い出した。
普通に笑ッたとこ、初めて見た……。
「あっははは……」
どんな想像の彼女よりも、輝く彼女がそこにいた。
「本当はこうして一瞬毎が楽しいはずなのに、見失ってしまうのね。人間って」涙を拭きながら言った。「せっかく平和な世界なんだもの。あの部屋は卒業して、日常を生きるわ」
「そッか」
「玄野君、あなたは頑張ってね」
真鍋の強い視線を受けた。
そうだ。向こうに帰ッたらカタストロフィが待ッてる。俺は彼女の途絶えた意思も受けた気がした。……任せろ、お前の分まで戦い抜いてやる。
その時、悪寒があッた。真鍋も同じものを感じたらしい。ゆっくりと頷く。
金縛りののち、転送が始まる。
「最後よ。生き抜きましょう」
135 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:21:02.59
大変な事になッた。
市街地は一瞬で焼け野原と化した。
十数機の『フルメタル星人』の強襲に、俺や真鍋はなす術もなかッた。
「あァッ!」
中野が吹き飛ぶ。ビルの壁に叩きつけられる。そのビルも、次の瞬間には吹き飛んでいる。
「退避して! 退避!」真鍋が叫んだ。
ッて、どこに逃げりゃいいんだよ! 終わりだ、もう!
敵の頭部バルカンが火を吹いた。
秋山が被弾、倒れる。「う、嘘だろ!」液体が噴き出る。一撃でスーツが死んだ。
ヤバい。次は無い。余りの事態に全員が足を止めた。
そのとき、鋭い斬撃音。頭上の星人は大きく体勢を崩す。二メートルのパワードスーツが、敵を足元から切り崩していた。
すかさず真鍋がクリア兵器を撃つ。鉄の頭部は一瞬で消失。敵は沈黙する。
「ちょッとヤッてくるっ」黒のアーマー体となッた平沢は駆け出し、暴風の如く暴れまわッた。
切り裂かれる金属音。連なる銃声。街に現れた鉄の巨人の群れを、小型のキングゲイナーが次々打ち倒していく。
やがてそれも限界を迎える。
星人残り一体を背に、通常スーツとなッた平沢が舞い戻ッてきた。「てへっ」
「いいえ、よくやったわ唯!」真鍋が拳を握った。
「でもどうすんだ!」田井中が言う。「普通に倒せるのかよ!」
真鍋は手に持った銃を見つめる。「コレが有効なことはわかったわ。ただし……」ビルの向こうの星人を仰ぐ。「ある程度の接近が必要になる」
巨大なブースター音が鳴ッた。星人が俺達を見つけたらしい。ビルの間隙を抜け、高速で迫る。猶予はない。真鍋は迅速に指示を下す。攻撃を受けた秋山と中野は離脱、田井中と琴吹は後方支援。
「……私が、前に出るわ」銃を構える。「あともう一人、援護が欲しい」
真鍋はそう言ッて、俺と平沢の顔を見比べた。一瞬黙考したのち、
「玄野君」俺に目を合わせた。「あなたのこれからの使命に賭けさせて」
「……」マジかよ。
「はいっ」平沢から銃が渡される。「頑張ってね、玄野くん」
はは……。クソ……。こうまでされたら、やるしかねえ。絶ッてえ負けらんねー。
「来るわよ!」
轟音が一帯を包んだ。鉄の歩兵が猛襲する。
俺と真鍋は頷き合い、それを迎え討つ。
136 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:53:48.58
【おつかれちまでした】
黒球の表示を見た瞬間、ここが元の世界なんだとわかッた。
ふざけんな……。怒りが込み上げてきた。最後のフルメタル星人を倒して真鍋と目を合わせた途端、転送が開始された。せめてもうワンクッションあると思っていたのに、俺はそのままこッちの世界に帰還となッた。
殺風景な部屋。俺以外誰もいなかった。心に穴が空いた感覚だッた。
球の表面に映り込む顔は、微妙に面長でリアルなものとなッていた。本当に、戻ってきちまッたんだ。
部屋を出て、夜道を歩いた。すれ違う人の顔に吐き気を覚える。皺、毛穴、グロテスクにも程がある。アパートに帰ッてテレビをつけると、余りに低俗なバラエティ番組にまた吐き気を催す。
んだよ、この世界。居たくねー……ちくしょう。あいつらンとこに、帰りてえ。
つーか、携帯の日付見たら二年が経ってやがる。どういうこッた、ガンツ。ざけんな。受験とかどーなッた。まァだいたい予想つくし、もうどうでもいいけど。
『計、かけちゃ駄目よ、こんな時間に』
電話の母親の声にビクついた。
『今年は大学受かってよね』
ほらな。俺の預かり知らぬ間に浪人の身だ。色々終わッた感じだけど、仮にどんな順風満帆だろうとこの空虚は埋められやしない。
はは……、あンな世界、知らなきゃ良かッたんだよ。空しいだけじゃねーか。
恋なんて、しなきゃ良かッたんだよ。
137 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 15:56:10.92
アニメや漫画の中に、求めているものがある気がした。俺は適当なバイトをしつつ、ミッションも程々にこなしながら、二次元メディアを漁る日々を過ごした。
二浪が確定した頃には、ちょッとした博識者になッていた。特に日常を基調とした作品は、俺が経験したあの世界に似ていた。心が癒されることもあッた。
「玄野さん、マジすげえッす」新人のヤンキーが声を上げる。
【くろの 105点。100点めにゅ〜から選んでくだちい】
武器を選択した。出てきた大型の銃をヤンキーに渡す。
「えッ、いんすか?」
「いいよ」
カタストロフィに向けて武器集めや戦力強化に尽力した時期もあッた。真鍋との約束だッたし。
だがそれも無駄骨に終わッていた。
ある日を境に、ガンツに表示されるカウンターの数列は増加を始めた。正の因果律だ。この世界も、破滅を回避してしまッた。カタストロフィは、ここでもない別の世界に、恐らく極大に膨れ上がッた負債の形でやッてくるのだろう。もう関係のない話だが。
それでも俺は、何度も何度もクリアをした。もうそれが癖になッてたし、何より記憶を失うのが怖かッた。忘れたら楽になれるとわかッていても、消せなかッた。
二十三になった頃、俺はペンを執った。紙に向かって、あの日々の消えないイメージをえがいてみた。
「……」なンか違ッた。
138 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 18:43:22.60
「えッ、玄野さん漫画描いてるんすか?」ガンツ部屋でヤンキーが覗き込む。
「ああ、悪りーかよ。ちょッとでも上達してーんだ」ミッションの待機時間すら無駄にしたくなかッた。
「い、いや、十分上手いと思いますけど」慌てて取り繕うヤンキー。「あ。ッてか漫画なら、あそこの臼井さんが経験あるはずッすよ」
指差した先には中年がいた。手招きをされ、寄って来る。
「四コマの技術なら教えられるけど。描いてたし」
なんでこんなとこに漫画家いんだよと思ッたが、正直ありがたかった。煮詰まってたんだ。
「教えて下さい。描きたいものがあるんです」
それからは苦闘の日々だった。何か一つを形にすることがこうまで困難を極めるとは思っていなかッた。それでも、思い描いた構図が描けた時、現実にない空気感を演出できた時、堪らない幸福に満たされた。
創作の楽しさを知ッた。コマの中に、あの頃感じた世界があッた。失われた世界を取り戻す為に、ただ描いた。
また会う為に、描いた。
139 :
名無し物書き@推敲中?:2012/03/20(火) 18:45:26.30
金の装飾の入った赤絨毯を踏みしめ、扉を開けた。豪勢なシャンデリアの下で、ドレスやタキシードの男女が杯を交わし合う。
出版各社合同の新年パーティー。顔を出すのは初めてだッたが、気を遣う気質でも立場でもない。上の人間に挨拶だけを済ませて帰ろう。仕事が待っている。
ウェイターからグラスを受け取り、他社の役員が談笑する卓へ。激励の言葉を受ける。頭を下げて俺は去る。
皿に置かれたウィスキーボンボンを口に放り、また次の卓へ、と思った時、声をかけられる。
「玄野」
長髪、長身の男。和泉だッた。「久しぶりだな」
彼は今、やり手の編集者だ。名前だけは耳にしていた。
「久しぶり。また仲良くしようぜ」グラスを当てる。「他社に知り合いがいると、ヤバい時に助かる」
「言いやがる」和泉は苦笑した。
その時、会場入口の扉が開く。現れた小柄な人影に、参加客が一斉に群がッた。
「彼女とも、久しぶりだろう」和泉はそう言って手招きをした。
豪華なドレスに身を包んだ美女がやってきた。記者達のフラッシュが瞬く。日常四コマとSFじゃ土俵が違う気もするが、二大ヒット漫画原作者の、これが初の邂逅となる。
「いつも楽しく拝見させて頂いています」
「僕もです」
短いやりとりの後、俺と彼女は握手を交わした。周囲で激しくシャッターが切られる。
「負けませんよ」彼女は言ッた。
「漫画は勝ち負けではないと思いますが」
強く笑んだ。
「俺の仲間達が、負けるわけがありませんよ」
おしまい。スレ汚し失礼しました。
いろいろあって最後GANTZ世界に戻ってきて
玄野は加藤との友情に厚いし
和泉と多恵ちゃんも幸せそうでハッピーエンドな結末で
すごく良かったです
GJ!
加藤に対して冷たいようでいて
実はそうでない玄野はイイ
原作ってエロいんだ。
テレビで見た映画には欠片もなかったが、機会あったら読んでみよう。
>>142 女の子の乳が奇乳の域に達してるほどデカくて
陰毛までばっちしのヌードシーン・セックルシーンもあるし
ホモまで出てくるお…
144 :
名無し物書き@推敲中?:2012/05/21(月) 15:15:33.24
まじかお
エロくてもエロくなくても投下待ち
保守
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150
151 :
名無し物書き@推敲中?:2013/09/04(水) 16:08:24.72
151
152 :
名無し物書き@推敲中?: