第一回ワイスレ杯参加作品:時計好きの彼女
彼女はいつだって時計が好きだ。
僕が白内障で入院していた時にも、その白い腕にはエルメスの時計が輝いていた。
僕の実家は外科医だ。
そう大きな病院ではないが、それでも僕と僕の彼女の経済的欲求を満たすには十分だった。
彼女とはよく一緒に銀ブラをした。
その日も、僕はお気にいりの背広にネクタイ、彼女はアーリーアメリカンテイストのラフな格好だった。
そして僕が慶応大学の医学部に合格した時、その記念にと、彼女はある時計を欲しがった。
エルメス、カルティエ、ブルガリ……。
もうかれこれ一億円分は買っているだろう。だが、君よ、それは駄目だ。
銀座の交差点で、彼女はわめいた。あたしは、あれが欲しいの。
君、それは駄目だ。だってそれは、和光ビルの時計台じゃないか。