今日もカタコトミシンを踏んで。
ペダルに合わせてミシンが動く。
カタコトカタコトミシンが動く。
音に合わせて踊りだす。
ネズミが三匹踊りだす。
壁の穴から顔を出し。
三匹仲良く踊りだす。
カタコトカタコトカタコトカタコト。
上手に軽いステップ踏んで。
カタコトカタコトダンスを踊る。
今日のお仕事これでおしまい。
ミシンの続きはまた明日。
それではネズミもまた明日。
次は「猫」「ギター」「狼」でお願いします
大して良い音も出していないフラメンコギターの二人組が自分たちの奏でるサビに酔っている。俺は指3本分の
スコッチの入ったグラスをそっと滑らせた。内心冷や冷やだが平静を装って自分のグラスには別の酒を注ぐ。
カウンターの真ん中で、滑るグラスを止めたのは白く長い指。すっとグラスを引き寄せる。
「貴方が『灰色狼』?」
女がカウンターに目を落としたまま、酒の量を確かめるように指でグラスを撫で、低い声で尋ねる。
「ああ、そうだ」
俺は自分の手元の酒を見つめたまま答えた。
細い煙草を灰皿に置き、女が琥珀色の酒を傾ける。美女と酒をご一緒するのは嫌いじゃないが、
こちらを値踏みするような目が年老いた猫のようだ。女がぺろりと唇を舐め、目が先を促す。
「・・・『紅い月』の居場所を知りたい。あんたが仲介役だと聞いた」
カラン。グラスが鳴った。瞬間、女の指の間に鋭い刃が現れた。
「『灰色狼』の符牒は、ライウイスキーを3フィンガーと聞いているわ!」
言い終わる間もなくメスのような刃物が俺の首目がけて飛んでくる。俺はグラスを引っ掴んでしゃがみ、
女の顔に中身を浴びせかけた。ハラペーニョ入りのウォッカだ。女は目を押さえて叫び声を上げる。音楽が止み、
歌っていた二人がギターの胴から銃を引き出す。俺はカウンターに乗り出して強い酒のボトルで女の頭をまず一発。
割れた瓶に煙草で火を付けて二人に投げつけた。二人の衣装は焚き火にはうってつけ。まさに情熱の踊りって奴だ。
大騒ぎの店内で俺は目を白黒させているマスターに多めに札を握らせると足早に店を後にした。
全く腐れ情報屋め、なんでこう毎回細部のツメが甘いんだ。そもそも俺はスコッチもバーボンも好きだが、
ライだけは苦手でね。ますます嫌いになりそうだ。仕事も失敗だし今夜はどこかで飲み直すとしますか。