この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十五ヶ条

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74名無し物書き@推敲中?
 男は山を歩いていた。
彼は地面に積もった茶色い絨毯を踏みしめながら、紅葉した木々の茂る斜面を登っていた。
そうしてちょうど山の中腹まで来た所で、いきなり開けた場所に出くわした。
そこには神々しいほどに大きな岩がそびえるようにたっていた。
 岩は言った。
「お前は何をしにここへ来たのだ」
 男は語った。
「私は世間というものが嫌になったんです。友人はお金の話しかしないし、職場の同僚は自分の自慢ばかり……
おまけに私の妻は町の噂にしか興味がありません。食事の最中でさえ他人の不幸話を持ち出すんです。
僕はそんな周りの人間が嫌になって、ここへ逃げてきたんです」
岩はふむ、と納得したように短く言い、考え込んむように黙り込んだ。
そしてしばらくして、再び男に向かって話し始めた。
「良かろう。この先少し行ったところに、体に大きな穴の開いた私の友人がいる。
ちょうど人ひとりが入れる広さだから、そこで寝泊りするといい。寒さぐらいはしのげるだろう」
男は岩に短く礼を言うと、再び山を登り始めた。
75名無し物書き@推敲中?:2011/02/16(水) 22:49:27
 それから数年が経ち、季節は冬に移り変わっていた。
辺りには雪が降り積もり、木々は白い化粧をして、山は神秘的な美しさで満たされていた。
その一方で男の肌は血色を失い、頬骨は出て、体は骨ばってしまっていた。
彼はここ数ヶ月病気を繰り返しているのだ。
 
 ある日彼は、いつものように夕食を得るため、重い体を引きずって外へ出かけた。
そして岩の前を通り過ぎようとした時、不意に岩が彼に話しかけた。
「お前はここに来た時と比べて、まるで別人のようにひどく衰弱してしまった。
私はお前にこの山の食べ物のありかを教えたが、それは生きるのに十分な量だったはずだ。
すると今のお前にはいったい何が足りないのだ?」
 男は空を見上げた。辺りは既に暗く、厚い雲が星の光をを遮っている。
 岩は続けた。
「お前はよく、私に町の話をしてくれた。
お前は周囲の人々がいかに無知で欲深く、救いようがない人間か語った。
そしてそのことに自分がどれほど絶望しているか私に教えたな。
でもお前は気づいていたか? そういった話をする時のお前の顔は、
どんな時よりも希望に満ちていたぞ。お前がひどく嫌っていたものは、
もしかするとお前の大きな糧だったのではないか?」
 
 男ははっとした。そしてすぐに顔を上げて、まるで宇宙の最果てまで見通すように暗い空を見つめた。
灰色の厚い雲がゆっくりと移動し、わずかに星が出始めている。
光に照らされた彼の顔は依然としてこけたままだったが、そこにはわずかな微笑と
何かを心得たといった表情が広がっていた。
彼は岩に長い長い感謝の言葉を述べてから急いで自分の穴倉に戻り、山を降りる準備を始めた。