雨も降らなければ雪も降らない、人生のほとんど全てをこの町で過ごしてきた俺には、なんと言うか「積もった雪」というものは憧れの一つで、今その憧れが目の前にあった。
しかし、なんと言うか「寒い……寒すぎる」俺にとって初めてで、この町にとっては25年ぶりの大雪(雪国からすれば普通らしいが)がもたらした物は混乱だった。
喜んでいるのは子供だけで、犬も猫も丸くなっているだろうし、憧れていた筈の俺も寒さに耐えられずに、部屋にこもって宿題とか予習とか、とにかく普段やり慣れない事をして一日を過ごした。
夕飯のとき、妹に俺が勉強したから雪が降ったとまでいわれたが、まるで順序が逆であり、こんな理解力で受験は大丈夫なのだろうか?と心配になったものの、口では勝てそうにないので無視していると、突然、妹が言い出した事実「DVD返却日今日じゃん?」
よりにもよってこんな日に何で返却日なんだよ、母に送ってくれと頼んだら「雪道なんて走れんわ」と一言で却下された結果、自転車で恐々走っていた。普段10分程度の道のりなのに、40分もかかってしまった「って歩いても変わらんわ!」何だか虚しくなった。
お店の中を見ていると浩子がいた。俺と同じような理由で無理してレンタル屋に来たらしい。あっという間に気持ちが上向きになるのは仕方が無いだろう?。結局浩子を家まで送って帰ることになった。
道すがら今日のことや、いろいろなことを話した。浩子は雪ウサギを大小かまわずいくつも作ったらしい、そのすごく楽しそうな顔は今日一日の澱みを押し流してくれた。
そして、あっという間に付いた浩子の家では、5段積みの雪ウサギを始め、沢山の雪ウサギが俺たちを迎えてくれた。そこで少し話をして、ぐちゅぐちゅになり始めた靴で家路に着いた。
帰る頃にはネットで話題になったアイスバーン映像のようになるかと思っていたが、そんなこともなく、みぞれ状の路面を足早に、恨み事を口に、浩子の顔と雪ウサギを気持ちに歩いていく。
自宅に着いたら、俺も雪ウサギを作ろう……手も足も痛いけど、それぐらいなら何とかなるだろう。でも寒いなぁ
次は「夜光虫」「散歩」「夢」
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「夜光虫」「散歩」「夢」 :2011/02/12(土) 21:34:58
夢を見た。
散歩をしている夢だ。
無数の夜光虫の放つ青い光が闇の中に浮かび上がって一筋の道となり、僕を導く。
どこに向かっているのかはわからない。
ただ、何か懐かしいものがその先に待っているような予感がして、僕の胸はいつになく高鳴っていた。
懐かしさの原因は、光の道が銀河鉄道を連想させたからかもしれないし、昔やった白線渡りの遊びを思い起こさせたからかもしれない。
なんにせよ、とても気持ちの良い夢だった。
太もも辺りにくすぐったさを覚えて目覚めると、僕はいつものベッドの上に横たわっていた。
夢の中の線路はいつだって現実へとつながっている。
昨日酔い潰れて帰ってきたせいか、四十数年ぶりにお漏らしをしていた。
白いシーツに黄色い海が広がっていた。
そこから一筋、窓のほうに向かって黒い道が伸びている。
道はせわしく運動している。
無数の黒アリが糖尿の甘い香りに導かれて行列をなしていたのだ。
現実もまた夢へとつながっている。
嗚咽を堪えきれなかった。
お次のお題は「ドーナツ」「ガーデン」「午前二時」で。