ここは父の家。僕と姉は久しぶりに彼の家に来た。机の上に瓶が一本。
勝手知ったる身内の家。僕と姉は父が帰ってくるまで自由に過ごすことにした。
とりあえず、持って来た本でも読みながら時間をつぶすとしよう。僕はソファに腰を下ろす。
姉は机の前に立ち尽くしていた。何故だかは知らないけれど。
「栓抜きちょうだいな」「はいよ」自分で動けよと思いつつ僕は台所から取ってきて手渡す。
「ちょっとー!開かないわよ、これ!」姉の苛立つ声が僕の耳に突き刺さる。
面倒なので聞こえなかった振りをする。「明!手伝いなさいよ!」切れられても面倒なのでため息ついて立ち上がる。
「何やってんのさ」「これ、開かないの」手渡されたのはモンブランのインクの入った小瓶。
「……捻ればいいんだよ。栓抜きいらないじゃん」「・・・・・・ありがと」姉に渡した小瓶はそのまま思いもよらぬ運命を辿った。
机の上にそのままだらりとインクが流されたのだ。姉はインクの空き瓶を絨毯に投げ捨てた。
「明、帰るよ」姉はそういうと玄関へと向かって歩き出した。
ここは父とその愛人の家。姉は時々ここに嫌がらせをしに来る。直接的なものから間接的なものまで。
帰ってきた父はどんな顔をするのだろう。・・・・・・はやく僕らのうちに帰ってくればいいのに。
次は「猫目」「ティーカップ」「梯子」でお願いします
椅子に座りワンルームの部屋を見回すと、ロフトに向かう梯子を猫が登っている。
今の重力は0.8G。今から一時間後には無重力になる予定だ。
無重力で自分の入れた紅茶を飲むのはかなり難しいので、お気に入りのテーカップを暖めながら茶葉を回す。
はじめはいくつもあったのだが、慣れない重力変化でいくつも割ってしまったものの、お気に入りがまだ残っているだけ良しとしなければいけない。
今住んでいる所は農業ステーション、初期に作られたこのステーションは遠心力を利用した人工重力と太陽の反対方向に取り付けられた分光ミラーにより、
植物の育成に必要な波長だけを取り込んでいた。離れたところから見ると、目のように見えたことからEye(無理やりな語呂合わせがあったが忘れた)と呼ばれた。
しかし分光ミラーに質量異常が起こり本来、新円であったものが楕円形になり、猫目と呼ばれるようになって久しい。
これだけ形を崩しながらも、分光ミラーの各ブロックは、担当エリアに光を供給し続け、メイドインジャパンの変態性の新たな裏づけとなった。
そんなわけで異常発生から3年間無事動き続けたこのステーションも、水の枯渇の為に作物を育てられなくなり停止させることとなった。
残された稼動するステーションは後4つ。
人類の300倍いるといわれるこいつらをいつまで養えるのか……いや、我々が生存競争に勝てるのか、まるでわからないが、少しはわかることがある。
早めに紅茶を飲み終えて、お気に入りのティーカップを割られないように隠すこと
無重力で猫の止まり木にれて怪我をしないために猫のいないところに行くことだ。
まぁ、まだ時間は少しある、ゆっくり紅茶を飲んで、どこに逃げるか考えよう。