車窓からの風景は、ノスタルジーに浸らせる。
いつからだろう?銭湯の煙突が工場の煙突へと変貌したのは。
時は流れる。誰にでも、何にでも、平等に、残酷に。
過去へは戻れない。そんな事は分かってる。しかし、願わずにはいられない。
勉強こそが全てだったあの頃。勉学こそが存在理由だったあの時。オールでありオンリーな事柄。たった一つの生き甲斐は、たった一つの生き方で消えた。
いつからだろう?煙突が消えたのは。
心は変わる。誰しもが、残酷に、本当に?
過去は変えられない。そんな事は分かってる。だったら、変わらない心だってあるはずだ。
車窓からはもう、煙突は見えない。沈みゆく太陽が赤く紅く朱く世界を染め上げる。
こりゃポエムだな
次のお題は「生き様」「選択」「道標」
二月。高校三年生は殆どが自由登校になって校舎が閑散としている。
僕らが四月からこの高校の最上級生になる。クラスには既に受験の準備をしてる奴もいて、上級生につられて何だか
落ち着かない空気を漂わせているけど、僕にはまだこの先が見えない。
「はい、じゃあな机の上、筆記用具のみ。プリントを配るぞ」HRの時間に担任の田端がそう言った。
がたがたっとあちこちで教科書やノートをしまう音が教室に響く。一瞬静かになった後、微妙な緊張感を持った空気の中藁半紙のプリントが回ってきた。
設問1・今後実現可能な範囲内であなたが憧れる生き様を書きなさい。
設問2・なぜ設問1の回答になったのかについて理由を述べなさい。
設問3・設問1を実現するために必要な事は何か。
「えー、これはテストではない。進路調査でもない。これから三年生に進級するが社会に出る前に目標を作ってもらいたい。HRの時間内に書いて提出すること。以上。開始。」
ざっとペンを走らせる音が教室に満たされていく。僕も何か書かなくてはいけない。
何を書けばいいんだろう。憧れ……?特に無い。皆は何を書いているのだろう。教室内で一人取り残されたような気分になった。
過去に憧れを持った職業を思い浮かべた。ウルトラマン、無理だ。バスの運転手、違う。野球選手、無茶言うな。僕は帰宅部だ。
不要な物を選択し捨てていく。夢の無い生き方をしてきたんだな。残ったのは『お父さん』。
子どもの頃、お父さんみたいになりたかった。今じゃそんなこと微塵も思わないけれど、他に残る物は無かった。
結局、設問1の回答は地道に生きて無難な奥さんを貰い、2人の子どもと暮らすこと、と書いた。
校舎に鐘が鳴り響く。「はい、じゃあ回収ー。」皆、手馴れた物であっという間にプリントが集められていく。
プリント用紙を集め終え、その束をまとめ終えた田端は言った。
「設問3はなぁ、今後お前らが生きてくための道標だ。人生は長い、時々目標通過点決めておかないとだれるからな。
ま、今回まだ碌に書けなかった奴もいるだろ。来週の月曜にまた同じ物書かせるからな。真面目に書いた奴も更なる具体性を持たせられるよう調べて来い。じゃ、起立!」
ありがとうございました!の声をだした後、僕はとりあえず志望校でも決めようかなとようやく考え初めていた。
「生物」「心」「教師」