降り注ぐ木漏れ日、木々や緑の放つ爽やかな香り。何処からともなく聞こえてくる小鳥のさえずり、穏やかな川のせせらぎ。そこは森の奥深い場所にもかかわらず辺り一面温かく柔らかい光に包まれていて明るい。
そんな平和で楽園のような森を私は一人歩いている。鼻歌を歌いながらしばらく行くと開けた場所にたどり着いた。綺麗な花が咲き乱れる美しい場所だ。その広場の中央には腰掛けるのに丁度よい切り株があり私はそこに腰を下ろした。
ふと足元を見ると大中小並んだ白ウサギが私を見上げていた。
「こんにちはウサギさん」
ウサギはぴょこんと耳を曲げ挨拶をした。
辺りを見回すとリスやキツネ、更にはクマなど様々な動物たちがいつの間にか集まっていた。
動物たちは一通り仲間が揃ったのを確認すると一斉に歌を歌いだした。何の歌なのか、何語なのか全く分からないが無邪気で拙いその歌いぶりがかえって可愛らしい。
しかし一匹だけこの調和を乱すものがいた。いや、一羽と言った方が正しい。私の肩に止まった小鳥だけが全くデタラメなメロディーをさえずっているのである。
「ちょっと鳥さん」
鳥は無視してさえずり続ける。
「ちょっとってば」
それでも全く止める様子がない。
「うるさい!」
気付けばそこは見慣れた大学の教室だった。小鳥のさえずりは講師の話す英語だった。
「今日は十五分か」
時計を見て私は呟く、そしてノートに今日の成果を事細かに記すのだった。私が考案した「現実逃避術」を完成させるためのデータを。
次題 「理論」「ターミナル」「神格化」
ここはターミナル。いろいろなものがたどり着く場所。
とはいえ、いいイメージのあるものは少なく、どちらかといえば場末、吹溜り……
そういったイメージが強い場所。
とはいえ、全てがそういうわけではなく、異端といわれ学会を追放された男が、
ターミナルで確立した理論は現在の主流であり、その理論が導いた破滅へと我々は進み続けている。
今日の日記
たちが悪いことに、破滅を回避するための手法を導き出すほど、破滅への道が加速されていく。
破滅をとめる方法として現在最も有力とされているのが「人類総江戸っ子もしくは、肝っ玉母さん化計画」であるが、
現実的にそれは不可能であり、肝っ玉母さんに当てはまる女性は神格化すらされており
特にアジア産の類似品が出回っている。
破滅への進行は地域によって異なり、多くの田舎と同様にターミナルではほとんど進んでいない。
理屈では、破滅を受け入れるのでもなく、抗うのでもなく、ただ淡々とその日を生きていくことが破滅を回避する方法であり、
ターミナルはまさにその典型だったというわけだ。
しかし、長くは続かないだろう。滅びに近い連中がここに逃げ込んできている。
ターミナルの破滅も進み始めている。
俺もいつまで日記を書けるかわからない。
まぁ、どうでもいいさ。社会的に俺は既に終わっているのだから。
この緩やかなる破滅をのんびりと眺めよう。