『虫を入れてくれてありがとう!』
黄色い虫が画面の中でうごめく。最近私がはまっているゲームだ。
作物や家畜を育て、売却し開墾しレベルアップしていくという他愛も無いゲーム。
一人で進めるにはハードルが高いが友人同士で一緒にやれば、水遣りや害虫駆除を助け合ったりと中々楽しい。
……ネット廃人状態なのがばれてしまうのが玉に瑕だが。
今日も今日とて家に帰ればテレビをつけたリビングでPCを立ち上げビール片手に畑仕事。
本当に向上心の無い生活だ。だがそれが楽しい。なんて駄目な生活。一人身万歳。
廃人とはいっても仕事に影響は及ぼさない。仕事にはちゃんと行く。
「ねー、佐々木先輩って彼女いないんですか」休憩時間に恋話に花を咲かせる女子社員に尋ねられる。
「いやいや時間が無くて中々ね」そんなことを良いながらも、頭の中は今朝植えてきたカボチャのことが気にかかる。
最近、一定のレベルに達したのかそう簡単にレベルを上げられるわけでもなくなってきて行き詰っている。
中々ゲーム内の仮想通貨が貯まらないのだ。これでは新たに畑を開墾することも、家畜を買うこともできない。
作物が育って収穫できるまでにはまだ何時間もある。ここでゲームを辞めとけばいいものを、また新たなものに手を出してしまった。
『こんなに喉が渇いているのに!?』注文したものが無い不満に涙目になる画面の中の女の子。
それを見ながら(申し訳ございません)と謝罪を伝えるボタンを押す。
可愛い泣き顔に、あぁ結婚したいなぁと思う適齢期の夜。
今日も経験地稼ぎのためにひたすら便器掃除のボタンを押します。
ゲームをやめて現実の世界に戻るにはもうしばらく時間が必要そうです。
結婚もまだまだお預け。俺、はやくこのゲームに飽きないかなぁ。
彼女欲しいなぁ。
「南瓜」「白菜」「合成」
42 :
名無し物書き@推敲中?:2011/02/04(金) 13:30:04
南瓜はできるだけいちょう切りで薄きらなきゃだめ。白菜は適当にざくざく切って、はごたえがあるくらい。
そうしたら沸騰した鍋にほんだしと一緒にに入れて、十分ぐらい弱火でコトコト煮込む。
その後はちょっとの味噌を溶かせば完成。
こんな素朴な味噌汁が洋介が一番好きだった料理で、何度もわたしにおかわりをせがんだのはいい思い出。
わたしは鍋が沸騰してる間に、洋介の気に入っていた服をタンスから引っ張り出して洗濯機に突っ込む。
そして合成洗剤を適当にいれて、スタートボタンをピッと鳴らす。
こうして一年に一度は洗ってやらないと、私は洋介に怒鳴られそう。
洋介は夏でも冬でも季節関係なく、一度来た服は洗わないと気がすまないのだ。
わたしが洗濯機から洋介がまだ全然着てない服をハンガーでつりさげておくと、彼は洗ったばかりだと勘違いしてそれを着ていく。
そういったことがわたしには面白く、ひどく愛しいものに感じられたものだ。
わたしはテーブルに作っておいた味噌汁やご飯を二人分テーブルに用意する。
今日乾かしたばかりの洋介の服を、きれいに畳んで椅子の上に乗せる。そうして自分も椅子に座っていただきますを言った時、わたしはこらえ切れず泣いてしまう
こんなことをしても意味はないのだ。洋介は二度と帰ってこないのだ。わたしは何度も何度も自分に言い聞かせてきた。
でもだめなのだ。わたしはこの洋介の存在を感じさせるアパートにいる限り、この儀式をやめることはできないのだ。
数ヶ月が過ぎた後、わたしはあの思い出のアパートを出た。そうしてすぐとなりに立つ、背の高いマンションの十階に移り住んだ。
わたしは暇があれば、双眼鏡であの馴染み深い部屋を覗き見ている。
わたしの思い出がちゃんと上書きされるか、確認するためだ。
そしていつかあの部屋に新しい住人が入った時、わたしは新しい一歩を踏み出せる気がするのだ。