彼女が言った。
「もうすぐバレンタインデーだけど、チョコレートとかどんなのが良いの?」
俺は畳み掛けるように答える。
「エロいの。」
「エロいのかよ!」
彼女が突っ込む。
そっかー。エロいのかーっ…とか言いながらどっかに行ってしまった。
2月14日。午後七時五分。自宅前で部屋の明かりを確認し、携帯で帰ると伝える。
帰宅。部屋の明かりは消えて居る。
…来る…!!
部屋の中央に進み出て明かりを点けようとした俺に襲い来るエロス。
性器はおざなりに愛撫され、口の中に甘いモノを突っ込まれる…
こんなのいやああお!!
「2011」「短くなった鉛筆」「インドネシアの仮面」
「お土産」そっけない言葉とともにボストンバッグがソファの上に落ちてきた。
直撃は免れたものの、読書の邪魔をされたのは不快でしかない。
「何これ?」怪訝な表情を隠しもせず私は10年来の友人の顔を見上げる。
「好きそうかなって思って」彼女は異国の言葉が書かれたコーラを開けながら、くいっとバッグを顎で示し答えた。
彼女が自由すぎるのは今に始まったことじゃあない。諦めて、読んでいた本をサイドテーブルに置いた。
「どれ、どれ?」異国の香り漂うカバンに手をかける。サイズの割りにずいぶんと軽い。
彼女の土産は嫌げ的な物も多く、期待を抱かせるような言葉には警戒が必要だ。
以前もらったアフリカの某部族で使うチンコケースや祭祀で使うらしいインドネシアの仮面やヨーロッパの上流貴族が毒薬を溜め込んだ壷のレプリカなど、
貰って困った土産なんか一時間じゃ語りつくせないほどある。
さりとて貰ったものを簡単に捨てたり人にあげられる性分でもないため、うちには今日も趣味に合わないインテリアが増えていく。
さて、バッグの中は新聞紙だらけだ。まさかこの新聞紙が土産というわけでもないだろう。がさごそと探していく。
「あー、さっきまで割れ物入ってたんだ。新聞紙捨てればよかったね」そういうことはあらかじめやっといてくれ、心の中でぼやいていると指先に紙ではない感触が当たった。
小さな細長い箱だ。「今回の土産はこれかな?」まるでクイズの答え合わせをするように、彼女の目の前にその紺色の箱をつまんで突き出す。
「正解。ま、見てみてよ」ゴム紐で閉じられたその蓋を開けると、中には銀色のペンホルダーが入っていた。
珍しい。そう思いながら手に取るとシャツにとめるクリップの部分に『2011/01/31に40回目の誕生日を迎える最愛の友へ 心をこめて Mより』との印字があった。
これを胸ポケットにさしたら自分の年齢公表して歩くようなもんだな、なんて思いも頭を掠めたがただ単純に嬉しかった。
私がいつも短くなった鉛筆をペンホルダーを付けて最後まで使い切るのを知っているからだろう。
「たまの誕生日だしね。不惑おめでとう。」そういって微笑んだ彼女は私の飲みなれた缶ビールを渡してくれた。
ささやかかもしれないが本当に良い誕生日だ。私は目じりに浮かぶ涙を拭きもせず笑顔で彼女と乾杯をした。
「坂」「フライパン」「節分」