彼はある町の路地裏で年下の彼女と鬼ごっこをしていた。まだ辺りは明るいものの、ち
ょうど外灯には灯のともる時分だった。
「ここまで来い。」
彼は楽々と逃げながら、鬼になってくる彼女を振りかえった。彼女は彼を見つめたまま、
一生懸命に追いかけてきた。彼はその顔を眺めたとき、妙に真剣な顔をしているなと思っ
た。
その顔はかなり長い間、彼の心に残っていた。が、年月の流れるのにつれ、いつかすっ
かり消えてしまった。
それから二十年ばかり経ったのち、彼は雪国の電車のなかで偶然、彼女と巡り会った。
窓の外が暗くなるのにつれ、湿った靴やコートのにおいが急に身にしみる時分だった。
「しばらくでしたね。」
彼は煙草をくわえながら、(それは彼が同志と一緒に刑務所を出た三日目だった。)ふ
と彼女の顔へ目を注いだ。近頃夫を失った彼女は熱心に彼女の両親や兄弟のことを話して
いた。彼はその顔を眺めたとき、妙に真剣な顔をしているなと思った。と同時にいつの間
にか十二歳の少年の心になっていた。
彼らは今は結婚してある郊外に家を持っている。が、彼はその時以来、妙に真剣な彼女
の顔を一度も目のあたりに見たことはなかった。
>>684 公募に出す作品にしては全然推敲されてないし、文章表現が稚拙かなって思う。
情景描写、心理描写ともに抜けたものがないし、奥行きがない。簡単に書き過ぎ。
ストーリーもよくある感じの流れだな。
真面目に小説を書くって姿勢は感じられるけど
公募に出すには、まだまだ力不足、経験不足のように感じるなぁ……。
もっとゆっくり丁寧に書かれたらと思う。
例えば
>格好はまちまちだったが、皆一様にどこかくたびれてみすぼらしい雰囲気を持っていた。
〜〜〜〜な雰囲気なのであると、作者が説明してしまうのではなく
そいつらのダラシナイ格好、髪の毛はボサボサとかさ、体が臭うとかさ、歯が汚いとか、汚れた服とかさ
そういった人物描写を入れて、読者自身にみすぼらしいなと感じて貰うのが三人称の小説だろうし
一人称にしてもやはり人物描写をした上で、彼らをみた主人公がどう感じたかを表現するものなんじゃないのかね。
>>683 ありがとうございます。とても参考になります。
7レスほど投稿よろしいでしょうか。
長いものは酷評スレ行きですか?
親身スレ、リライトスレが無くなってしまったようで残念です。
私の顔は、この頃また一回り大きくなったようである。元から小さい顔ではなかったが、
この頃また一回り大きくなった。美男子というものは、顔が小さくきちんとまとまっている
ものである。顔の非常に大きい美男子というのは、あまり実例がないように思われる。想像
することもむずかしい。顔の大きい人は、すべてを素直にあきらめて、「立派」あるいは
「荘厳」あるいは「盛観」ということを心掛けるよりほかにしようがないようである。
浜原雄一氏は、非常に顔の大きい人だった。やはり美男子ではなかった。けれども盛観で
あった。荘厳でさえあった。容貌については、ひそかに修養したこともあったであろうと思
われる。私もこうなれば浜原氏になるように修養するよりほかはないと思っている。
顔が大きくなるとよっぽど気をつけなければ、人に傲慢と誤解される。大きいつらをしや
がって、いったい何だと思っているんだ!などと、不慮の攻撃を受けることもあるものであ
る。先日、私は新宿のある店へ入って、ひとりでビールを飲んでいたら、女の子が呼びもし
ないのに傍へ寄ってきて、
「あんたは、屋根裏の哲人みたいだね。ばかに偉そうにしているけど、女にはもてませんね。
きざに芸術家気取りをしたって、だめだよ。夢を捨てることだね。歌わざる詩人かね。よう!
ようだ! あんたは偉いよ。こんなところへ来るにはね、まず歯医者にひと月通ってから、
おいでなさいだ。」
と、ひどいことを言った。私の歯はぼろぼろに欠けているのである。私は返事に窮して、
お勘定をたのんだ。さすがにそれから五、六日、外出したくなかった。静かに家で読書した。
鼻が赤くならなければいいが、とも思っている。
691 :
684:2011/02/19(土) 19:03:13
>>685 ありがとうございます。
確かに陳腐な表現になっていますね。
もう少し表現の幅を広げるよう意識していこうと思います。
三人称と一人称の件ですが、三人称の中での主人公の心情描写と一人称のそれの違いに悩む部分もあります。
このあたりもまだまだ勉強していきます。
>>687 処女作を勢いで応募したので、力不足とのご指摘はまさにその通りと思います。
具体例をあげていただきよくわかりました。
全編にわたって稚拙な表現も多いので、今書いている次回作では少しでも表現に奥行きを与えられるように精進します。
ありがとうございます。
遠乗りに出かけた兄が花を摘んで戻りました。
略奪もこの頃ではすっかり形骸化していて、相手方に事前に対価を支払い、騎獣に輿を置くといった具合なのですが、兄は文字通り目についた花を無造作に手折ったのでした。
それは廿をいくつかすぎた巫で、まだ十二分に美しいのですが、まったく口をきかず、また満足に歩くこともしませんでした。
のどを焼かれ、足の腱を断たれていたのです。
私はどんな罪人を掠めてきたのかと詰め寄りましたが、兄は神殿で見かけたのだと言うばかり、花を着飾らせて楽器など奏でさせるのでした。
女巫であれば私も目くじらを立てたでしょうが、花は二重に機能を失った男巫であったので、忙しさもあり放っておきました。
神殿からは巫を返せと幾度も使者を寄越しましたが、兄は充分な対価を置いてきたのだからと譲りません。
今、私は昼日中から花と戯れる兄に代わって執務をこなしています。
花はあと数年保つでしょう。
その間に、私はゆっくりと兄王を追い落とせばいいのです。
満願成就の暁には花の目を潰して神殿へ返しましょう。
巫の呪力とは、そうして強まってゆくものなのです。
―――
禅譲の儀式をかたちばかり済ませると、兄はすぐにも花の膝枕で寝入ってしまいました。
もともとこの数年は酒気が絶えぬのです。
花は室内に踏み入れた私の足先を凝と見つめ、兄が手ずから細工してやった髪挿しを引き抜きました。
なんとよくできた呪巫でしょう、後始末まで自分の手でするとは。
「医者を呼べ!」
片目を潰してのたうちまわる花を前に、兄は喚きました。
「おまえの望みどおり、私は位を退いたではないか。何故これに傷を負わせたのだ」
酒精の魔力も吹き飛んだと見え、めずらしく明瞭な物言いです。
「落ち着いてください兄上、それが自分でしたことです」
「新王は先王の客人に対する礼もわきまえぬか」
客人?
卑しい呪巫ふぜいが、更迭されたとはいえ一国の王たる者の、賓客とは。
私は兄の零落ぶりにあらためて胸を痛めました。
花は傷のために病犬のごとく震え、宮医どもが駆け付ける間に二度吐き、失神ました。
私は侍医どもに、傷が重篤ならば息が絶えぬうちに巫を神殿に返すよう命じました。
巫はまだ神殿にその所有権があるのです、王宮で死なれるわけにはいきません。
しかし兄は許さず、そうこうするうち前触れもなしに神官が乗り込んできました。
若いのか老いているのか判じがたいその神官は、あたかも気に入らぬ男に娘を掠められた父親のような恨み言を口にしました。
「先王は慈悲によって呪巫を台無しにされた」
寝台に腰掛け、もはや目を楽しませる花とは言いがたい巫の身を案じてやる兄は、たしかに献身的な庇護者でした。
私は神官に、命に別状はないという侍医の見解を伝えました。
さっさと呪巫を連れ帰るようにとも。
「新王は勘違いしておられる」
と神官は私に向き直りました。
「あれはもはや呪巫ではありません」
―――
ただの依代、使い捨ての道具であったはずの巫は、いまや強大な力をもつ呪師となりました。
神殿と王宮を場に、年経た呪巫である自分自身を媒介として、貴人である兄に対して術を敷いたのです。
兄は禅譲後2年生き、急速に病み衰えて亡くなりました。
亡くなる前はすっかり老けてのどは涸れ、目が濁り、足は萎えて呪巫に車台を引かれておりました。
いいえ、周囲の者はあの小さな老人がかつて花のように美しかった巫であり、世話をしていた慈悲深い先王はいまだ健在であると申します。
しかし、私は知っているのです。巫の呪を。
貴人を呼び寄せ、虜にし、互いを入れ替える呪を、この目で見たのです。
兄は忠臣の間に葬られ、巫は兄の顔で上王宮に篭っています。
私はあの無礼な神官を還俗させ、名ばかり夫となしました。
上王宮からじわじわと洩れ拡がる呪を防ぐためです。
呪はやがて王国全土に拡がるでしょう。
私は王として、どんな手段を用いてでも食い止めるつもりです。
さよう、王の務めです。
後悔や心の呵責などは微塵もない。
たとえ私が兄から王座を奪おうと画策したことが――見目好い呪巫を用意するよう神殿に申し入れたことが、すべての元凶だったとしても。
694 :
ぷぅぎゃああああああ ◆Puug571Ifs :2011/02/20(日) 06:41:05.91
>>684 >駅の改札を抜けて外に出ると〜
>〜皆一様にどこかくたびれてみすぼらしい雰囲気を持っていた。
(ここまでが一人称の文章に見える!)
>榎戸雅裕が集団に近寄ると〜
(ここから三人称の文章になっていた!)
>バンのドアが乱暴に閉められ、大きな音を立てた。それと同時に、榎戸の胸もぎゅっと痛んだ。
(最後に榎戸が乗り込んで山崎がバンのドアを乱暴に閉めたのか! 位置関係がよくわからない!)
冒頭部分の人称ブレが送り先で致命傷にならないことを祈るしかない!
しっかりとした文章ではあるが時に端折り過ぎて描写が不安定になる61点!(`・ω・´)
>>686 >彼は楽々と逃げながら、鬼になってくる彼女を振りかえった。
>彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追いかけてきた。
(彼を追いかけて来る描写があるので『鬼になってくる彼女』は『鬼の彼女』にした方がすっきりする!)
>窓の外が暗くなるのにつれ、湿った靴やコートのにおいが急に身にしみる時分だった。
(外灯の対比に見える一文は構わない! においの部分は比喩なのか! 現実のことには見えない!)
過去と現在が簡潔な文章の対比で綴られていた!
古臭い文章なのだが時代は現代と思われる! 汽車ではなく、電車になっていた!
作者が古い話を想定していれば、文中に多少の疵があることになる!
淡々とした描写と内容が合っていた70点(疵なしの判断)!(`・ω・´)
>>690 文中に頻出する『盛観』は『精悍』ではないのか!
変換ミスにしては多過ぎるので不問とする!
文中の言葉の重複はコミカルな表現、または強調と見なす!
>ひとりでビールを飲んでいたら、女の子が呼びもしないのに傍へ寄ってきて、
(ビールを飲んでいる! 酒の肴の描写がないので注文していないと判断する!)
>「あんたは、屋根裏の哲人みたいだね。ばかに偉そうにしているけど、女にはもてませんね。
>きざに芸術家気取りをしたって、だめだよ。夢を捨てることだね。歌わざる詩人かね。よう!
>ようだ! あんたは偉いよ。こんなところへ来るにはね、まず歯医者にひと月通ってから、
>おいでなさいだ。」
(会話文を単独で見ると性別や歳がわからない! 精神に異常をきたしているようにも見える!
ビールを飲んでいる人間の歯の状態がわかるとは思えない!)
>鼻が赤くならなければいいが、とも思っている。
(在宅で鼻が赤くなる原因がわからない!)
書き慣れた文章は読み易い!
しかし、描写が足りない! 人物関係がわからない!
顔の大きさだけで年齢や容姿が頭に浮かんで来ない!
作者は三人称で描写の練習をした方がよい67点!(`・ω・´)
>>692-693 >遠乗りに出かけた兄が花を摘んで戻りました。
>略奪もこの頃ではすっかり形骸化していて、相手方に事前に対価を支払い、
>騎獣に輿を置くといった具合なのですが、兄は文字通り目についた花を無造作に手折ったのでした。
(最初に野草に属する花を想像した! 一目では略奪したものが何を指しているのかわからない!
騎獣だけでは姿が頭に浮かばない! 説明することで世界観を読者に伝えることができる!)
>花は二重に機能を失った男巫であったので〜
(この部分で花の正体がはっきりとした! 紛らわしい表現は読み難さを増大させる!)
>その間に、私はゆっくりと兄王を追い落とせばいいのです。
>満願成就の暁には花の目を潰して神殿へ返しましょう。
>巫の呪力とは、そうして強まってゆくものなのです。
(満願成就の暁に花の目を潰して返す意味があるのか!
相手側に恨まれた上に呪力を高めた巫の報復の先には主人公も含まれているように思える!)
>「落ち着いてください兄上、それが自分でしたことです」
(自分が犯行に及んだことを自白しているように見える!
『それは花がしたことです』と明示した方がよい!)
>「新王は先王の客人に対する礼もわきまえぬか」
(主人公が新王!)
>更迭されたとはいえ一国の王
(更迭されて王は名乗れない! 過去に属した名称にした方がよい!)
>花は傷のために病犬のごとく震え、宮医どもが駆け付ける間に二度吐き、失神ました。
(最後の方に脱字がある!)
>私は侍医どもに、傷が重篤ならば息が絶えぬうちに巫を神殿に返すよう命じました。
(『傷が重篤』の部分に引っ掛かる! 病気の類ではないので『重傷』等、外傷についての表現が望ましい!)
>若いのか老いているのか判じがたいその神官は、あたかも気に入らぬ男に娘を掠められた父親のような恨み言を口にしました。
>「先王は慈悲によって呪巫を台無しにされた」
(神官の言葉に見える!)
>寝台に腰掛け、もはや目を楽しませる花とは言いがたい巫の身を案じてやる兄は、たしかに献身的な庇護者でした。
(寝台に腰掛けたのは神官ではないのか! 先王が腰掛けているように見える!
一文に要素を詰め込み過ぎて読み難くなっている!)
>貴人を呼び寄せ、虜にし、互いを入れ替える呪を、この目で見たのです。
(どのようにして目にしたのか! 目で捉えることができるのか! 説明に終始した一文!)
>私はあの無礼な神官を還俗させ、名ばかり夫となしました。
>上王宮からじわじわと洩れ拡がる呪を防ぐためです。
(呪を防ぐ事と婚姻の因果関係がわからない!)
>たとえ私が兄から王座を奪おうと画策したことが――見目好い呪巫を用意するよう神殿に申し入れたことが、すべての元凶だったとしても。
(巫が貴人を呼び寄せて虜にしたのではないのか! 魂を入れ替えて未だに居座っているのではないのか!)
話の内容が頭に入って来ない! 物語が破綻しているようにしか見えない!
プロットの段階からおかしいのか! このような状態では何も判断ができない!
点数は断固として見送る!(`・ω・´)
>>697 >「落ち着いてください兄上、それが自分でしたことです」
(『それが』は指示代名詞で『花』、『巫』を示しているようにも見えた!
従って不問にする! 文中で男巫の呼び名に統一性がない部分を新たに指摘しておく!)
700 :
684:2011/02/20(日) 11:05:07.52
>ぷぅぎゃああああああ様
ありがとうございました。
描写力の欠如と規定枚数への対応が相まって、全体に描写が不安定になっているようです。
図星をつかれました。
これを励みに精進させていただきます。
【ぷぅぎゃああああああ ◆Puug571Ifsの判定表】
〈87点/合格〉
>>686 芥川竜之介『鬼ごっこ』
>>695 過去と現在が簡潔な文章の対比で綴られていた!
淡々とした描写と内容が合っていた70点(疵なしの判断)!(`・ω・´)
>>690 太宰治『容貌』
>>696 書き慣れた文章は読み易い!
作者は三人称で描写の練習をした方がよい67点!(`・ω・´)
なるほど
これから通報する
手塚治虫はいうまでもなく偉大な作家だが、
いま、手塚絵で新人賞に送ってもまず通じない。
古臭い絵だと一刀両断される。
それと同じ。
おいおい、マンガと同じかよw
文学が。
そりゃ全文じゃないから小説は読み切れないだろう。
描写が足りないと評したのはそういうことだろうし
文豪とはいえ明治の文章だから古臭いし。
両方の作品ともそんなに有名じゃない当時でも評価されなかった作品だし。
芥川の文章を、過去と現在が簡潔な文章の対比で綴られていた!
淡々とした描写と内容が合っていた70点(疵なしの判断)!(`・ω・´)
太宰の文章を、書き慣れた文章は読み易い!とか
文中の言葉の重複はコミカルな表現、または強調と見なす!とか
『盛観』は『精悍』とミスと決め付けずに慎重に読んでるし
思ったより読めてるんだと感じたがなぁ……。
合格なんじゃね?
創文板の祭りでもこんな感じの悪戯あったけど、殆ど全員もっと酷い評だったよ。
707 :
名無し物書き@推敲中?:2011/02/20(日) 13:09:21.23
純文学に分かりやすさなんて求める方がおかしい。
誰も求めてないジャン。
ちょっとした呟きすらコピペみたいになったら人間終わりだな
ぷぎゃあの好きな作家って誰?
意識されるから秘密かな?
713 :
ぷぅぎゃああああああ:2011/02/20(日) 14:43:59.96
赤川次郎!(`・ω・´)
714 :
巫呪:2011/02/20(日) 15:44:26.12
ぷぅぎゃああああああ ◆Puug571Ifs様
批評ありがとうございました。
書き直してみます。
livedoor blog 記憶の棲処は?
ぷぎゃああああああさんいつもお疲れさまです!勉強させてもらってます!
遥か東の国「イグサ」へと進行中のカラヤ国軍は、川沿いの小さな集落で決戦前の一夜を明かすこととなった。
満月の明かりが、宴の後の静まり返った集落を照らしていた。川を挟んだ森からは、ほうほうとフクロウの鳴く声が聞こえる。
「ミラダ」
女戦士ミラダはそう呼ばれて振り向いた。身につけた銀の鎧が音を立てて揺れた。
立っていたのは、ミラダが所属する小部隊の隊長ガラであった。
「気に入らないか、ミラダ。皆の行動が」
ガラは穏やかな口調に反して、睨むような目付きでミラダを見た。
「いえ、ただ私にはわからないだけです」
負けずに睨み返すミラダ。その後方の、流木を使い立てられた民家からは、隊の者に半ば無理矢理犯される女の喘ぎ声が聞こえた。
ガラの言う通り、仲間である男の行動もそうであるが、ミラダにとって一番理解できなかったのは、その女の喘ぎの中に時折、悦びが混ざることであった。
「私達は侵略をやろうとしています」
「それが正しいか、と?」
「正しいです」
ミラダは間髪入れずに肯定をした。しかし、その反抗じみた態度からは自分達の行いに対する明らかな疑問が見てとれた。
「ミラダよ、女というのはどんな形であれ男に抱かれるのを至上の喜びとする」
「いえ、その話では」
「国も同じだ」
ミラダはそう言われ、俯きかけていた顔を上げた。
かつての強国イグサは、長年の悪政で崩壊の危機であった。隣国に媚びへつらう形だけの平和で、衰退した軍は今や戦力としての体を成しておらず、ミラダ達カラヤ軍が攻め入ったのなら、それは容易くその日の内に没落するだろう。
「我々強者に支配されるのが、イグサ国のあるべき姿なのだ」
ミラダは、ガラの眼光に飲まれかかっていた。強くあろうという意思に反して、身体には上手く力を留められず、抜けて行く。
「ミラダ、俺に抱かれてみろ。お前が女かどうか、弱者であるかどうかを試してやる」
言うやいなや、ガラは二メートル近い身体でミラダを覆うように迫った。ガシャガシャと鎧がぶつかり合う。声を上げず鼻息だけで抵抗するミラダを遂には押し倒し、鎧の隙間から手を差し込んだ。
「うう!」
ミラダは、胸の突起から走る未体験の快感に飲まれそうになった。腰がブルブルと痙攣を始め、その中心から熱い液体が漏れ出すのがわかった。
「話し合いなど不要! 力での返答ができない国に未来など元からない! 守ることは強者にのみ許された行為なのだから! それを身体をもって教えてやる! ミラダ!」
ガラの怪力がミラダの纏っていた銀の鎧を引き剥がし、放り捨てた。十七歳の若い身体が、土の上で露わになった。
白い胸を揉みしだき、そして、きつく結んだ唇に、ガラは自身の唇を重ねようと迫った。
しかし、そこで意を決し、ミラダは自ら首を突き出して、ガラの無骨な唇を頬張るように口づけをした。白く荒れた唇をミラダの唾液が潤わせていく。
(──私は、何の為に戦士になった? それは……戦う為だろう!? 私は決して、女だからと言って、世界に飲まれることは望まない!)
ミラダはそのまま、ガラとぶつかり合うように身体を重ねた。ミラダの狂ったような叫びとガラの咆哮は、夜の集落の遠くどこまでも鮮明に響き渡った。
夜が明けて、集落の広場に二人の村人の死体が転がった。男が一人と、女が一人であった。ミラダがそれを見て、どのような事情があったのかを理解するには、余りに想像に容易かった。
「一緒に死ねて本望だろう」
ガバルドという長髪の戦士が、男の死体の頭を蹴り転がした。捻れてミラダの方を向いたその顔は、激しい怒りのままに硬直していた。そして男との隙間から覗いた女の顔は、恥辱に耐える乙女のものであった。
「ミラダ、集合時間だ。行くぞ」
ガラにそう言われ、ミラダは二人の死体を後目に集合場所へと向かった。
カラヤ国軍のイグサ侵攻部隊は九人小隊が九つからなる。その指揮官の小男ペザは、集落前で隊列を作った戦士達に言った。
「おはよう皆さん。本日我々は一日かけて東へ進み、夕刻にはイグサ領へ辿り着くでしょう。そのまま夜間のうちに城下を越えて、イグサの城を占領します。先陣はガラ隊とガバルド隊、期待していますよ。では、出撃」
丁寧な口調で終え、腕を振り上げると、隊列は一斉に動きだした。一同は馬を駆って集落を後にした。
カラヤ軍の流れるような軍勢は、イグサ国アキナの街を踏み荒らし駆け抜ける。ミラダは馬上から、自分と同じ程の年のイグサ国民の女の姿を見た。化粧をして着物を着た、年頃の女の姿だった。
(あれは、力ある者に蹂躙され、与えられることでしか生きられない者、それを悦びとするしかない者だ。……私は違う。……私は全てを制する。ガラも、指揮官のペザからだって、必要ならば私は奪う!)
ぐいぐいと加速するミラダの馬は、赤の鳥居のようなアキナの街門を一番に抜けた。
イグサ城下町はすぐ先だった。ミラダの目の前に巨大な黒屋根の城、城下に敷き詰められた数百の屋敷が広がる。
黒の鎧に身を包んだイグサ兵達はカラヤの軍勢を発見すると、ある者は慌て、またある者は棒立ちで、城下に雪崩れ込む侵略を見送った。
「酷い戦争だ。だが、これで正しい」
ガラが追いつき、堅い表情を変えずミラダに言った。その後ろから更にガバルドが追いついて声を投げかける。
「ガラの言う通りだ。抵抗がなければ無駄な血は流れない」
「あの村人の男女は抵抗したのね」
「したさ」
ガバルドはミラダより長い髪をかきあげる。その視線はずっと先を見つめている。そして徐々に、先頭を走っていたミラダを追い越して行く。
「まだ迷いがあるのか? ミラダ」
「…………」
ガラの問いかけに、ミラダは沈黙した。
「何を望む、ミラダ。この世界で。このおよそ意味の無い世界で、お前は」
「……私は……ただ強くありたい」
ミラダが静かに言った、その時、後方で爆発音が轟いた。軍勢の後列の辺りで黒い爆炎が上がり、カラヤ軍の騎馬と戦士達が十数名、宙を舞っていた。ミラダはその嵐のような光景の中に、指揮官ペザの引きちぎれた上半身を見た。
「罠……だったの?」
腐ってもかつては世界に名を轟かせたイグサである。こうも簡単に城下に進入できたことに、ミラダは内心腑に落ちない部分があった。そしてその疑問は、侵攻部隊を嵌める罠、という形で帰結した。
「罠だろうと何だろうと、指揮官が死のうと、俺達の任務に変わりはない。行くぞ」
ガラとミラダ、そしてそれに続く数名は、馬を乗り捨て、夜にそびえ立つ五階層の黒城、その城内へと進んだ。
既にガバルドによって切り捨てられた兵の死体が転がる中を、ミラダ達の鉄鎧の音が走った。
木柱の陰から飛び出してきた残存兵を、ミラダは剣で突き刺し返り討ちにした。両手で刀を振り上げたまま絶命した兵士を横目で見、感傷を残すことなく剣を捻って身体を横に引き裂いた。ミラダはそのまま奥の階段へと足を進めた。
最上階、金箔の貼られた壁の中を進み、ガラが破壊した王室の扉の先にいたのは、赤い、巨体の鎧武者が一人であった。
ミラダは咄嗟に、床から漂う異臭に鼻を覆った。広部屋の上質の畳の上、全面に撒き散らされたヘドロのような液状物質。
それは恐らくガバルドであった。武者の左手には彼の首が、長い髪を掴まれ、垂れ下がっていたからだ。
「残念であったな。イグサ国王はここには居らぬ」
カラヤの人間にはわからない言語であったが、ガラは意図を汲み取って理解し、言葉を返した。
「関係ない。お前を殺したのち、国王も探して殺す」
言うが早いかガラは雄叫びを上げ、ヘドロの散らばる畳の上を走った。振り抜いたのは、ガラの体格でしか扱えない大剣である。下から振り上げるように、床から天井までを含め、敵の位置を切り裂いた。
だが、鎧武者は一歩引いてそれをかわしていた。そして右手に握っていた、ガラのものと同等ともいえる程の巨大な刀を軽々と構えると、ガラの鎧の隙間からその胸を突き刺した。
背中を貫通したその切っ先は、すぐ後ろにいたミラダの目前に血を滴らせながら突き付けられていた。
「西国の武者よ、少しは頭も使わねば事は成せぬぞ」
ガラを串刺しにした刀は、ミラダの見ている前で反転し、上を向いた。そして勢い良く上昇し、ガラの首から上を吹き飛ばし、天井に巻き上げた。残されたガラの身体は痙攣していた。
「ガラ……」
ミラダは自身の中の決意が揺らぐのを感じていた。それはガラによって強固となっていた決意だからである。
(これでいいのか。……私達は殺される……これでいいのか? ガラは強かった。恐怖に打ち勝っていた。しかし、『だから』死んだ……)
ミラダの背後では、彼女以上に竦んだ仲間の戦士達が、進む事も退くこともできず、無為にその場に留まっている。小隊長は二人とも死んだ。今彼らを率いることができるのは、恐らくミラダ以外にいなかった。
ミラダと鎧武者の壁となっていたガラの身体が、両膝を重くつき、崩れ落ちた。
大きく見開いた鎧武者の目が、ミラダの青い目を捉える。ミラダは堰を切ったように感情を爆発させた。
「理由は何だっていい! 私は戦う! 私はこいつを殺して進む! でなければ私は犯され、侵食され、奴隷のような生を甘受するからだ!」
ミラダは叫び、鎧武者の眼光を押し返した。そして、剣を振り上げ大きく飛びかかった。
「西国の人形のような女、主はそのまま人形であればいいものを!」
鎧武者の一振りは、空中のミラダの細い肉を鎧ごと粉砕し、部屋入り口で狼狽える戦士達に振りかけた。しかし、砕かれたのはミラダの両脚のみであった。
ミラダはガラが天井に空けた穴を掴むことで、自身の落下を遅らせていた。
「なっ……見事……!」
ミラダの剣が振られ、鎧武者の赤兜はその首ごと切断された。
敵の巨体と共に玉座に崩れ落ちたミラダは、失われた両脚の激痛と乱れる呼吸、だがそれらに反して徐々に薄れていく意識の中で、自ら事を成した真の喜びを噛み締めていた。
ミラダ・リルザーク、後に東西南北の国を治める女王の、これは序章の話である。
723 :
名無し物書き@推敲中?:2011/02/21(月) 17:26:09.39
「つまんねぇなぁ」
六畳一間の部屋にあるのは二つの座椅子と炬燵。そして、テレビ台と小さなブラウン管のテレビだけ。
男は座椅子に腰掛け炬燵で微睡んでいる。右手にはテレビのリモコン、左手は肘をつき顎を支えながらテレビを見ていた。
適当にザッピングしてニュース番組に合わせる。
「こんな事がニュースになるのか?平和ボケだな……」
男は重い腰を上げすぐ後ろの小さなキッチンに向かった。
鍋に水を入れ。カセットコンロを点け。火にかける。
「塩ラーメンにするか」
キッチンの下の戸棚を開けると、醤油味、塩味、みそ味の即席麺が山のように積まれていた。そこから一つ取り出し、袋を開け、鍋に放り込む。
ふと視線をテレビ向けると、番組はニュースからバラエティに変わっていた。
「またこれかよ。好きだな。飽きないのか?」
麺をほぐしながらため息をつく。
出来上がったラーメンを鍋のまま炬燵に運ぶ。
「なにが工場見学だよ。工場で働く奴の身にもなれよ」
こうして男は誰も居ない部屋で、テレビに向かって悪態をつく毎日を送っていた。
お願いします
せめて名前欄に 1/3 とか付ける配慮をしろよ
採点してください。
↓
春日通りを抜け、せんがわ通りの路地に入り込むと、小石川植物園がある。
光恵は、言った「外に出るのは、1カ月ぶりなの。あなた、私の分までチケットを
買ってきて。ひとと話すのは恥ずかしいわ。」
小石川植物園のチケット売り場は券売機ではなく、近くの駄菓子屋でしか買えない仕組みになっている。
その駄菓子屋のおばさんがチケット売りなのだ。
しかたなく、私は、光恵の分までチケットを買いに行くことにした「おばさん、チケットおとな
二枚ね。」
「はい。これチケットね、二枚・・・と。あなた、ずいぶんと疲れた顔をしているわね。
どこのからいらっしゃったの。」
「茅ヶ崎です。ここまでかれこれ2時間近くもかかってしまい、ここに来るだけで
へとへとになってしまったのです。」
「そーう。きょうは楽しんでいってね。」
わたしは、光恵のところに行き、チケットを渡した。
「何、話してたの?」
「えっ、まあ、まだ来たばかりなのに疲れてるね〜とのこと。まあ、大した話じゃないよ。」
それから私たちは、植物園の門をはいり、辺り一面の雄大な自然に目をやった。
「ああ、こんな自然の中に身を置くのはひさしぶりだな。都会の喧騒から身を離れて魂が生き返った感じだよ」
「わたしもよ。なにせ、1カ月ぶりに外に出たんだから。気持ちいいなんてもんじゃないわよ。」
「あっはは、それもそうだな。俺との夜とどっちが気持ちいい?」
「バカね。エッチ。」
ふたりは、春になると一面に咲き乱れる桜並木のあたりまで、自然の空気の美味さを噛みしめる様に歩いた。
>>717 文章と内容が改善されていた!
地の文の『驚きまくった』は作者の判断に委ねる!
ワイが気になった点だけを挙げる!
@シャルパンティエ侯爵がヴィクトリア女王の謁見を果たし、
バグの正体だと確信した理由が書かれていない!
A飛鳥は味覚を重視していない! 自分に流れる英国人の血で勝負を受けたくだりが腑に落ちない!
B侯爵は女王を『バグ』、『人間』と二通りの呼び方をしていた!
そのせいで正体がわからなくなった!
C勝敗を決する勝負が運任せのままだった!
これ以上の指摘は控える!
読み物としての面白さには言及しない!
作者の真摯な努力を認めて70点!(`・ω・´)
>>718-722 >「気に入らないか、ミラダ。皆の行動が」
(隊長はミラダの態度を読み取って訊いた!)
>「いえ、ただ私にはわからないだけです」
(ミラダはわからないと答えた! この発言では相手に真意は伝わらないように思う!)
>「私達は侵略をやろうとしています」
>「それが正しいか、と?」
(ミラダの発言に見える!)
>「正しいです」
(言い切っていながらミラダは態度に反抗心を表す! よくわからない言動!)
>「ミラダよ、女というのはどんな形であれ男に抱かれるのを至上の喜びとする」
>「いえ、その話では」
(隊長はミラダが一番理解できなかったことを明言している!
その話でなければ、何が理解できなかったのか!)
集落の広場に二人の男女の死体が見つかった! 男は憤怒の形相! 女は恥辱に耐えた乙女の表情!
現場の二人の死体でミラダは事情を理解した!
ワイは状況から推測した!
兵士に犯されていながらも悦びの声を上げた女に激怒した恋人の手によって二人は心中に至った!
両者の表情は無念の思いを雄弁に語っていた! しかし、読み進めていくと解釈が違う!
>「ガラの言う通りだ。抵抗がなければ無駄な血は流れない」
>「あの村人の男女は抵抗したのね」
>「したさ」
(殺害したような旨が書かれていた! ワイには展開が読めなかった!)
登場人物の感情の流れがわからない!
ミラダが上から鎧武者の頭部を刎ねる動作が理解し難い!
夜に敵地へ着いたにもかかわらず、ミラダがイグサ国民の女を馬上から子細に見ることができた!
読者にわかるように書かないと物語に集中できない57点!(`・ω・´)
729 :
ぷぅぎゃああああああ ◆Puug571Ifs :2011/02/21(月) 21:54:04.52
>>723 >鍋に水を入れ。カセットコンロを点け。火にかける。
(文の合間の句点は読点ではないのか!)
独り言が多い!
端的に言えば手抜きに見える!
具のない塩ラーメンのようなさっぱりとした文章だった53点!(`・ω・´)
>>726 『1カ月』、『二枚』、『2時間』等、漢数字とアラビア数字が混ざっている!
『・・・』は『……』の方がよい!
単語に句点は付けない方がよい!
>光恵は、言った「外に出るのは、1カ月ぶりなの。あなた、私の分までチケットを
>買ってきて。ひとと話すのは恥ずかしいわ。」
(軽い文章なので目に留まった! 光恵は「〜」(と)言った。光恵は、言った。「〜」
人によっては句点が抜けていると判断されるかもしれない!
これ以降、似たような箇所の指摘は省略する!)
>〜どこのからいらっしゃったの。」
(『どこから』のような気がする!)
>私は
>わたしは
(同じ人物なので一方に決めた方がよい!)
>「ああ、こんな自然の中に身を置くのはひさしぶりだな。都会の喧騒から身を離れて魂が生き返った感じだよ」
(語尾に句点がない! 他は引用文! この一文は会話文に見える!)
チケット売りのおばさんと光恵の口調が同じに見える!
人物の描き分けが足りない! 説明口調の会話が不自然に思える!
小説と呼ぶには全体的に拙い印象を受けた47点!(`・ω・´)
いっそリライトしてやれよ
>>727 ありがとうございます!!
やった…。ついにやった…。
70点のラインに達した!!
感動…。
>>728 ありがとうございました。冒頭の会話の矛盾ぶりは、指摘して頂けるまで気づきませんでした。
>>732 おめでとう。
未来はいつも、成長する者の味方だ。