やさしい小説の連載をみんなでやってみよう

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1患者:2010/05/04(火) 23:31:02
タイトル:陽子

陽子は、結婚しないと心に誓った。しかし、自殺はするかもしれない。
今度、心療内科の先生に告げることばを、メモするために
手帳を、開いて、考えを整理し始めた。
これが、難しくなっているのだ。
「結婚相談所は、詐欺的な方法をいろいろと講じていると
確かな情報ではないのですが、人づてに幾らも聞きまして、
それで、加入をあきらめました。喪失感を埋めるために、
また、20万ほどの高価な買い物をしまして、どうしようかと
なやんでいます。……。」
二度目だ今月に入って、20万円台の買い物は
でも、ほしくてほしくてたまらなかったのだ。
チャームには美しい花のモチーフが踊っていて
ピンク色と紺色の絶妙な組み合わせに
頭がいっぱいになってしまったのだ。くだらない買い物だ。
頭の半分がそうささやく。
 陽子は、失恋をしていた。買い物の量は、
エスカレートしつづけていって、とどまることを
知らず、それ以外の楽しみは陽子には、見出せなかった。
人間的に、成長が未熟だったのだ。陽子は
買い物にしか、興味がなく、買い物が、レジャーだったのだ。
趣味には、すべて、満足が行かなかった。何でも出来たが、
すべて、うまくいかないように感じていた。

なにも、うまく行かない。
結婚という目標も絶たれてしまった。
2患者:2010/05/04(火) 23:35:06
心療内科の先生に告げることばとしては、
これでは足りない。ああ、そうだ、一番大事なことが、
抜けている。
「自殺のことを、考えます。このままでは、破綻です。
子供とは引き離されてしまうに違いありません。
やはり、休職でしょうか。でも、いやなんです。
御給料がますます足りなくなります。
買い物が出来なくなります。……」
3患者:2010/05/04(火) 23:45:17
「相談する相手が、一人もいません。
だれも、私に返事さえ返しません。孤独です。
寂しいんです。ほんとに。
以前結婚を誓っていた金剛君に、冷たいことばを言われて
仕事場で午前中泣いてしまいました。
それ以来、薬の量が増えて、朝2錠飲めば、調子よいが
ぐちゃぐちゃです。人間関係も仕事も。
だれも、尊敬できる人間が職場にいません。」
4患者:2010/05/04(火) 23:57:43
陽子の実家では父が破れた
布団で死んでいるのが発見されたことがあった。
綿のはみ出た布団の垢だらけの茶色の中で
父は硬直していた。
陽子は、父の残した財産と、その有様が
どうしてこうも矛盾しあうのか、悩んでいた。
「生きているうちに、
なぜ、もう少しまともな生活をするためにお金を
使わなかったのか。」
繰り返し、繰り返し、陽子は自問し続けていた。
この自問から解放されることがなかった。
5患者:2010/05/05(水) 00:06:06
ああ、そうだ、自殺のことをもう少しちゃんと
強調して言ったほうがいいのだろうか。
どんな方法で自殺を図ろうとしているのか。
思い浮かぶのは、職場の屋上ではなく四階だった。管理職によって
幽閉されていた四階の窓がふさわしい死に場所で
センセーショナルなような気がした。
6患者:2010/05/05(水) 00:10:55
「死に場所は、決めています。四階です。」
そこまで、メモして、陽子は安心した。
これで、忘れずにちゃんと言える。
死にたい。そう思ったら、
蜘蛛の糸を読むのが陽子の癖だった。
血の池地獄は、人生を象徴している。
カンダダはすべての嫉妬深い人格の誇張だった。
7患者:2010/05/05(水) 00:29:19
陽子の母は、陽子の病状よりも、妹の春子を気遣っていた。
切羽つまって
死にかかっているのは、陽子のほうであっても
長女の陽子は、ほうっておかれるようであった。
どうも、論理的な思考が、母には欠けていた。
 立夏の生暖かい夜風が心地よい夕べに、
ながれこみ、開け放した窓から、ながれこみ、
陽子の鬱屈した思考にも、幾分かの、休息を与えたが、
長くは続かなかった。
 父のことや、別れた省吾のことや、職場のことを
思うと、また涙が流れた。安定剤は、まったく何のために
飲んでいるのか。子供のことを思えば、眠れなくなる。
血の池地獄は容赦なく、もだえ続ける陽子に呼吸の
暇さえ与えないのだ。呼吸困難は自分で押さえつける。
やり方は慣れていた。
8患者:2010/05/05(水) 00:35:51
立夏の生暖かい風が夜の窓辺を、ぬらしていた。
陽子の心は、最初は父の死に様と、そうして離別した省吾君と
職場の難事に、通過していった。
もうろうとした夜風は、陽子の心を、休息させなかった。
安定剤は、催眠剤ではなく
かえって不眠を強めるとも、かかれてあった。
9患者:2010/05/05(水) 00:46:56
省吾は他の女性と結婚した。しかも、社会性にも欠け、仕事もできない
女性だった。

「私よりはましか」

陽子はそうつぶやくと、また、涙を流した。
省吾は、京都に行ってしまった。
私は、仕事が出来ても、みんなに嫌われている。
省吾の結婚した女性、ええと、恵美子さんは、
ジョークなどもうまく人気者だった。それを社会性と
捉えるかは、省吾の自由だ。下品で、程度の低い冗談を
いくつか思い浮かべると、省吾の人間性まで、
陽子は、理解できなくなってしまうのだ。目の大きな美女
は、陽子のほうじゃないの? それほど、私は省吾にも
きらわれていたの?
10患者
ちがう。ちがう。
子供だ。そうして、年齢だ。
恵美子は、若くて未婚で、
私は、年老いて、小学生の子どもまでいる。
省吾だって、自分の遺伝子を残したかった
そうゆうことだ。
容姿や、性格は問題外だったのだ。
特に、私は、完璧主義が嫌われる。
まったく、上司より私のほうが、仕事はうまくやりこなせる。
章吾は、そういうところも、「うれしく」なかったのだ。
男として、うれしいのは、恵美子のように、
いわゆる明るい家庭を作れそうな女性なのだ。