107 :
名無し物書き@推敲中?:2010/05/06(木) 08:09:53
次は「時計」「鳩」「ファミリーレストラン」でお願いします。
問題は彼女が気に入ってくれるかだ。
俺は散々、一人ウィンドウショッピングをしたあと、近くのファミレスに入って紅茶を頼み延々と考えていた。
俺の彼女は時間にルーズだ。しかも朝、俺が起こさないと絶対に起きない。
で…問題のこの丁寧に包まれている誕生日プレゼントだ。
中身は『大きな目覚まし付き鳩時計』
まずこのちょっと大きめのポッポポッポの声で起きるかどうかが怪しい。
俺のモーニングコールでは起きるんだから起きると信じたい。
俺は意を決して彼女のアパートに行くことにした。
「嬉しいよっ!」
彼女の反応は思った通りだった。
「これからはこの鳩を俺だと思って起きてくれ」
「あたしを起こすのが面倒になった?」
「違う。俺がいなくてもきっぱり起きれるところを見せて欲しいんだ」
「そんなに私、起きない? きちんと起きてるでしょ?」
「目覚まし3つの大音量で寝てるやつが言っても説得力無いぞ」
「でも友也の声では起きれてるよ」
「じゃあ、もし俺がいなかったらどうなるんだよ。遅刻ばっかで進級できないぞ」
「友也はずっと一緒だし問題ないよ。でもこの鳩時計は他の目覚ましと一緒に大切にするね」
「そのうち他の目覚ましと一緒にはならないさ」
「どういう意味?」
「そのうちわかる」
「私が友也と幼馴染みで恋人だからだよね。わかるよ。あはは」
「じゃあ、帰るわ」
「うん。バイバイ。おやすみ。今日はありがと」
俺はその言葉を噛みしめて、彼女のアパートをあとにした。
彼女の名前の鳩音にあやかって鳩時計を買ったが、本当に役立つ時が来るのだろうか。
あと一週間前後で終わる俺の人生の後も鳩音の人生は続いていく。
いや、きっと思い出してくれるし、遅刻癖も直るだろう。俺のことで苦しむかどうかだけが気がかりだった。
でも鳩音なら大丈夫だ。きっと上手くやっていける。俺は夜空を見上げながらそんなことを思っていた。
次は「ピアノ」「手紙」「妹」でお願いします。
「『妹(いも)は言うピアノ買いしが腕はなし手紙に書きし半濁音符』」
「ハンダクオンプってなんだよ?芋がなんでしゃべるんだよ?」
「半濁音符って言うのは、ハヒフヘホの右肩に付けるちっちゃい丸のこと。芋じゃない。妹って書いて、イモって発音するんだよ」
「どうして手紙にパピプペポを書くんだよ?」
「音符にひっかけた言葉遊びだよ、ピアノがあるんだから。相変わらずセンスないね、君」
「言ってくれるね…じゃ、その歌の真意を聞かせてもらおうか?納得できるように説明してくれよ」
「面倒くさいけど…要するにだ、ピアノを衝動買いしたけど、全然弾けないんだよ。我にかえって手紙を書いて、その虚しさを表現しているんだ」
「とってつけたような説明しやがって、お前も俺と似たようなもんだ」
「じゃ、こういうのはどう?『旋律に心奪われ夢心地ピアノが語る夢物語』どう?」
「話になんないね」
次は「悪霊」「禁色」「変身」でお願いします。
当時は悪霊がたくさんいたものだ。
それは今の人間がいる前の時代、恐竜が現れるさらに前の時代。
昔は白色と黒色と禁色というものがあった。
ちなみに今の金色の語源が禁色と言う説が今では一般である。
その三色しかない空間ではあらゆるものが絶え間なく変化、いや、変身と言った方がいいだろうか。
それを繰り返している。人間の歴史上最後に観測できた事実である。
次は、「思考停止」「脳内」「希望」でお願いします。
「『脳内で希望が消えて集まらん烏合の衆が思考停止で』」
「思考停止?お前、俺のこと完全になめてるだろ?そうだろが」
「なめてないよ。君は大切な友人だ」
「じゃ、俺をなめてないっていう証明をしろ!納得いくように説明しろ!」
「君はいつも難しい質問をするね…いいだろう、要するにだ、希望が持てなくなった連中なんて相手にする必要はないんだ、理屈なんていらない、
希望をなくしちゃいけないってとこ」
「初めてだな、良い答え方をするじゃねえか」
「こういうのはどう?『この命捨ててはいけぬ希望をも誰に尽くさん日の丸の本(もと)』どう?」
「いいんじゃないの」
次は「ペスト」「塩」「砂糖」でお願いします。
やつはタチの悪い女にいれあげた。頭に血が上って完全に女にたまをぬかれちまった。唇の形のいい性悪の女。
それだけなら何も問題はなかった。問題はおれがその性悪に手をだしてしまったってことだけだ。
おれはやつの顔につぶした。やつの後ろ髪を掴んでどぶの中に思いっきり突っ込んで泥まみれにしちまった。
執念深いやつは大量のイヌを動員しておれを追っている。獰猛で残酷な命を鼻紙ほども思ってない欲望に滾ったイヌどもを。
やつはおれの希望を根絶やしにするつもりらしい。おれを燻りだすイヌどもの包囲網は日をおうごとに狭まってきている。
おれの所縁があるものたち、まあそれも吹けば飛ぶようなものだか、それも徹底的に締めあげられ、恐怖を叩きこまれ、いまでは喜んでおれをやつの前にさしだすだろう。
おれの居場所が今やこの安ホテルの一室だけだ。いやおれ達を言うべきか……
「どうしたの?」思考停止したガキのような何の悩みも感じられない声。忌々しい声。おれを陶然とさせる声。
女はベットに腰を掛けておれの顔を見つめている。
「どうにかしておれの命をつなぐためにお前をやつに送りつける算段をつけてるとこだよ」
それを聞いて女はほくそ笑む。形のいい唇が三日月のようにつりあがる。
「そうね。それが一番賢い選択よね」「ああ。賢い選択ってのはいつも驚くほど単純で分かりやすいもんだ」
女はさらに高く笑いはじめる。女の硝子細工のような声が部屋の天井にあたってわんわんと反響する。ひとしきり笑い終わると女は服を脱ぎ始める。
服を床に落とすと、下着に手をかけて一糸纏わぬ姿になっておれの肩に手をかける。張りのある乳房が小刻みに揺れている。女が震えていることがおれには分かる。
「でもいまはまだわたしはあなたのものなのよ」
おれの脳内に血のように紅い花が咲き乱れはじめる。
書いたんでおいときますね。
お題は114で。
117 :
名無し物書き@推敲中?:2010/05/15(土) 00:20:40
「あのねえ、お友達になって。いいわよ、あなたも、うんと楽しめる。」
メドューサの髪が俺の肢体に絡みつく。無数の毒蛇のパックリ開く鎌口。
地獄の使いたるペスト菌ごとき黒きもの、一匹、二匹、無数に吐き出され、
俺の全身に這い回る
「つまらないわ。刑事なんて。教えて内部情報。」
砂糖菓子の甘き蜜のごとき燃え立つ唇に、俺は抗し得ない
地平線の果てもなく続く、凍える白ひとつたる塩湖の真っ只中に己は突っ立つ
天地に稲妻走り大地が裂ける
俺はその暗き闇、彼女の瞳の底にあてどもなく真っ逆様に沈んでいく
次は「魔法」「エプロン」「カレーライス」でお願いします。
私の住む世界がRPGだったら、私は剣士でも僧侶でも商人でもなくて只の村人Aでしかないのだ。
魔法も、特別な力も、勇者の血も、一子相伝の拳法も、代々につたわる曰く付の刀も、何もない。
私は無力な一般人でしかない。魔王が現れても、勇者が助けてくれるのを待つしかない。
だから、私は姉を助けることも出来ない。ザオルクを使おうにも私は呪文の唱え方を知らないし、MPが一つもない。
桃色のエプロンを身に纏いながら、病院のベッドに横たわる姉の隣に立つ。
「ごめんね…お姉ちゃん」私の声は、聞こえているだろうか。多分、もう、聞こえていない。息をしていない姉自身が、それを物語っていた。
「私………………何にも出来なかった」そっと、姉の手を握る。
姉の様態が急変したとの知らせが入ったのは、つい、さっきだった。
急いで病院に駆けつけてきたときには、もう姉は…………………。
「お姉ちゃん、何で」その後に、私は何て言おうとしたのだろう。何で、明日退院出来るって言うのに、死んでしまったの?多分、そう言いたかったんだろう。その言葉は声にはならず、私の口からは代わりに嗚咽が漏れた。
家ではカレーライスを作っていた最中だった。カレーは一日おいておくと美味しくなるし、明日は姉の退院予定日だったから……………………。
神様は意地悪だ。神なんて名ばかりで、人の命一つすら救ってはくれない。私が泣いているのに、慰めの言葉すら言わない。
勇者も魔王は倒したって、人一人の命は助けてくれない。
ねえ、誰か。私の願いを叶えてほしい。たった一つの、私の願いを。
お姉ちゃんと一緒に、もう一度カレーライスを食べたいと言う、その願いを。
次は「颯爽」「疲弊」「ゴール」でお願いします。
高層ビルの高層エレベーターを降りて、颯爽と出かける君は
まるで、あの、赤い靴を履いた踊子の様だ。
赤い靴の踊子は、踊りを止める事ができない。
靴の命じるまま、踊り続けるしかない。
23歳で入った保険には、80歳までの保障金額が記入済。準備万端、大丈夫。
それから後に続く線は、微妙な点線だけど。そんな事、気にしない、気にしない。
十年も二十年も踊り続けるその視野の中を、何かが超高速で通り過ぎる。
それを見直す時間はない。赤い靴の踊子に、そんな余裕なんてない。
やがて定年がくる。ゴールに到着。靴を脱げる日がついに来た。
でも、踊り疲れ、疲弊し尽くした君の足は、もう昔の様に軽くない。
ビデオが終わった、ライトがついた。
「なんと悲しい事でしょう・・・」と、司会者は注意深く音程を下げる。
空席も目立つけど、手は抜けない司会者。「これが人生と言えるのか!?」
「そんな時のために、我が社の終身養老保険!定期健診と終身保障で・・・」
パイプ椅子のサクラの客の表情が、疲弊しきってた。
※:読み返すと・・・くどいなあw 疲れてるのは午前2時のせいかも
次のお題は:「夏服」「ロケット」「双曲線」でおねrがいしまふ
夏服 ロケット 双曲線
二つのロケット、双曲線。
夏の朝のまだ綺麗な街を泳ぐあの娘。
僕は歩幅を調整し次の信号、彼女がこっち側に渡ってくる信号までの距離を詰める。彼女が近づいてくる。タイミングはばっちりだ。
「おはよう」
「……おはよう」
それだけ。だけどそれから次の歩道橋までの五分は僕にとって一日で一番深い幸福と平安な時間だ。
風が揺らす夏服のスカートから、艶やかな長い黒髪から零れるビー玉。シャンプーの匂い。
遠くを見つめる瞳、憂いで湿った長い睫。何を考えているんだろう。もっと色々知りたいと思う。でももしそれでこの関係が壊れるなら僕は何ひとつ知りたくない。
ずっとこのままでいい。
このままでいられるならずっとこのままでいい。
「じゃあ」
「……じゃあ」
いつの間にか歩道橋に着いていた。僕は歩道橋の上からどんどん離れて遠くなって行く彼女をビルの陰に隠れるまで見続けた。
二つのロケット。双曲線。
次題 「プルトニウム」「飴」「鎖骨」
「赤いプルトニウムって芸人知ってる?」「ううん。知らない。メジャーなの?」「さあ?僕も良く知らない。でもなんか格好良い芸名じゃない?」「ああ、まあ、そう言われるとカッコいいかもね」
窓からのぞく曇天に、ため息をもらした。暗い室内にはボクと彼…武藤の男二人だけ。
会話が途切れて、沈黙がボクらを襲った。外から聞こえる雨音に、ボクは再びため息をもらす。早く雨、止まないかな。
「暇だね……」武藤の言葉に「そうだね」と返事する。外に行けばいいのかもしれないが、買いたい物も行きたい所も無かった。
「飴、食べる?」武藤の提案にボクは賛成の意を示した。何味がいい?そうだな、酸っぱいやつがいいな。じゃあ、檸檬は?うん、それで。
ざあ ざあ ざあ ざあ ざあ 雨音は小さくなりながらも、規則的な音を響かせた。雨は少しずつ弱くなっていたが、ボクの憂鬱は治まらない。
飴が口の中に転がり、舌に酸味を残して溶けていく。「武藤は何の味の飴なの?」「僕?コーラ味だよ」「ふうん」そして再び会話が途切れる。
「そうだ。武藤はどこの大学に行くの?」僕の問いにわずかな間を置いて「僕は……○大に行くつもりだよ」静かにそう言った。
武藤の言った大学の名は、日本じゃかなり名の知れた超難関大だった。ボクはそんなとこに行ける程の頭脳が無いから、少し溝を感じてしまった。「お前は?」武藤の問いにボクは、答えることが出来なかった。
ボクらももう、高校三年生。あと少しで、立派な大人。そして社会人。親に頼っていつまでも生きていけるはずも無い。後少しで、本当の『巣立ち』。
多分武藤は、大学卒業後のこととかもちゃんと考えているのだろう。ボクはまだ、漠然としか決まってない。
何だか湿っぽい。あーあ、じめじめしてて嫌だな。むずむずとする鎖骨の辺りを掻いて、ボクはちらりと窓の外を見る。
雨が上がろうとしていた。
次は「夜闇」「月光」「お姫様」でお願いします
「今晩は妙に町がざわついているね。ローカルな祭でもあるのかな?」
駅前の村に一軒のコンビニ、晩御飯を購買がてら、克夫は、雇われ店長のポン太くんに尋ねた。
「はは〜ん。こんな静かな夜闇で祭はなかっぺ。いつもの夜だと思うっぺよ」
云われてみればそうか? でも、なんか妙な胸騒ぎがするんだがな……
克夫は首を振り振り、外に出た。ジーパチパチ。誘蛾灯の電撃に蛾が弾ける音。
店舗なら、最近は紫外線カットで虫を寄せ付けない蛍光灯があるんだがな。
今度、漁協で会ったら、店の持ち主の西崎薫に勧めてみるか。
克夫は帰路に浜辺に立ち寄り、そこで、晩御飯の幕の内弁当を食べた。
一人暮らしの、寂しい家で、飯を食う気がしなくなったのだ。
もっとも、夜の浜辺も、人気はないのだが……。
雲間から明るい月が顔をだし、煌く月光にか細い星々の光は圧倒される。
2匹の蛾がスポットライトの中、ワルツを舞った。蛾のお姫様と王子様だ。
「あっ、これだ!」克夫の耳の中で、天然のワルツの音が美しく鳴り響いた。
次は「狸」「月」「坂」でお願いします。
辺りは閑散としていて、人っ子一人いない。耳が痛くなる位の静寂が、彼を襲った。
彼は山奥の砂利だらけの坂を一人登っていた。冬も間近な11月、彼の吐く息は白かった。
街頭は無く、代わりに夜空に浮かぶ月が彼の周囲を照らしている。柔らかな光は、彼の気分を落着かせた。葉っぱの散った木々が、余計に月光を通した。
彼は人間ではなかった。悪魔でもなく天使でもない。阿弥陀如来でもなければイエス=キリストでもない。
では、彼の正体は何か。答えは簡単。狸である。名前が狸と言うわけではなく、彼は正真正銘、生物の『狸』なのである。
今宵の月は、満月だった。毎月、満月の夜には宴が開かれていた。狸だけの宴だ。踊って食べて人間を化かすための宴だ。
やがて坂道を上りきり、頂上に着く。そこは一面の草原が広がっていた。広さは人間で言うところの『コンビニ』程の大きさだった。まあ、草は殆ど枯れているのだけれども。
「およ、おいらが一番乗りかえ?」息を少し切らせつつ、彼はポツリと呟いた。
「うんにゃ、皆は今人間共を化かしに行ってるよ」彼の背後から、声が聞こえた。懐かしい声音だった。狸長の声だった。
「化かしに行ってるってことはもうフィナーレかえ?」彼の問いに「そうじゃな」と狸長は肯定した。
「うじゃ、おいらも化かしに行くとするかえ」彼がそう言って里に下りようとするのを「待ちぃよ」と狸長の声が引きとめた。
「たまにはわしと一緒に、飯でも食わんかい?お前さんとは久しく顔を合わしていなかったのでな」
狸長の提案に彼は「およ、おいらとですか。いいんですか?僕は一般狸ですよ」としどろもどろに語を継いだ。
困惑気味な返答に「たまにゃあ、いいじゃろ」と狸長。まあいいか、彼はそう思って、狸長との食事を楽しむことにした。
満月は、彼らの頭上で未だ光り輝いていた。兎がお餅をついていた。まだ11月なのに、いまからお正月の準備をしていた。
次は「灯火」「夏」「金魚すくい」でお願いします。
月が落ちて悲しみの坂を転がって湖に沈みました。狸寝入りの森は息を潜めて薄く開いた目でちゃあんとそれを見ていました。
月を無くした空は少し暗くなりました。でも星達と狼達はそれを喜びました。 月を溶かした湖は黄金に輝き森を照らしました。
僕はその一部始終を見ていました。
木に掛けた縄の事は忘れて僕は湖に進んでいました。光は辺り一面を照らすほど明るかったのですが少しも眩しくはありませんでした。それはとても優しくまるで母のようなのでした。
周りを見回すと僕のようなのが数十名同じように湖に沈んでいました。僕は少しほっとしました。
やがて僕も他の皆も湖に溶けて結晶になりきらきらと散らばりました。そして僕らは凝固し少しずつ大きくなり新しい月が出来ました。
月はゆっくり浮上し湖面に浮き上がりました。それから一瞬の惜別の輝きの後空に向かって上昇し始めました。僕は、僕らは今まで味わった事のないほどの幸福感に満たされました。狼達は寂しそうに鳴きました。星達は忌々しげに瞬きました。
しばらくして月は止まり、僕らは地上を見下ろしました。そしてさっきまでの僕が、僕らが、迷わないように優しい光を降らせたのでした。
せっかくなので投下。お題は
>>125のやつで。
雲間からのぞく半月が、灯火のように仄かな明かりを発していた。
私と先輩は焼き鳥や綿飴を食べたり、射的で千円ぐらい使って百円ほどのキャラメルを手に入れたり、金魚すくいで出目金をすくったりetc、夏のお祭りで大多数の人がやるようなことをし終えた。
いや、訂正。一つだけ残っている。まだ、してないこと。
私達はまだ、花火を見ていない。
ひゅるるるるる…………どぉぉぉぅぅん だぅん、だぅん ひゅるるるるる…………どぉぉぉぅぅん
花火会場に私達がついた頃には、もう花火が打ち上げられ始めていた。
幾つもの色彩が空を舞い、暗闇に華やかさを加味していく。
「きれいですね」うっとりとした口調で、私は言う。「ああ、そうだな」青色の花火が打ち上げられた。
「未央は、花火好きなの?」先輩のその問いに「嫌いだったら、わざわざ見に来ませんよ」と答える。青色の花弁が、吸い込まれるようにして消えていく。
「先輩は嫌いなんですか?」「俺?俺は………あまり、好きじゃない」「どうしてですか?」「すぐに終わっちゃうから、かな」
「でも、終わらない花火なんてありませんよ。雨と同じです」「それでもさ、何か、悲しくなるんだよね。あーあ、終わっちゃったなって言う喪失感みたいな」
喪失感。私は花火が好きだけど、先輩の言うことは良くわかった。時が早く過ぎてるように感じるし、何か、呆気ない。
せめて、私と先輩の関係があの花火みたいにすぐに終わってしまわないようにと願いながら――――私は先輩の手を、強く、強く握った。
花火の大輪が、再び夜空に咲いた。
次は「証明」「教室」「欠伸」でお願いします
欠伸はなぜ起こるのか?
私は大学の教室で先生に、欠伸は脳の緊張状態を和らげるために
、また深呼吸するのと同じ作用があります、と教わった。
眠いとき欠伸が出るが、しかし十分睡眠をとった被験者と比較しても有意差はない。
抗欝剤を投与すると欠伸の回数が増えるが、脳内麻薬によって欠伸は抑制される。
欠伸と射精にはなんらかの因果関係が存在する。
欠伸には性的アピールの意味がある・・・。
さてこの興味深い命題、皆さんも一緒に証明してみませんか?
お題は
>>127継続で。
3時限目、数学。今日はみんなの苦手な証明問題だ。
先生は逆に証明問題が大好きだから、とても良い笑顔でどっさりプリントを抱えて教室へ入ってくる。
プリントが配られる。流れるプリントを追うようにため息の波。ここからは真剣勝負だ。
と、その真剣な教室に響く、気持ちよさそうな欠伸。声の方に視線が集まる。
「何だ、余裕だな」
先生が意地悪な声をかけると、欠伸の主は慌てて
「違うんです、頭を柔らかくする為にリラックスしようとしたんです」
皆顔を見合わせる。そして教室の中は、無理矢理な欠伸で溢れかえることになった
次は「梅雨」「日差し」「階段」でお願いします。
ディフェンスラインは高い位置に・・・あたかも梅雨前線のように
敵のどんな攻撃にも形を崩さず、粘り強くあれ!
攻撃に転じては、ふいに曇天に差し込む一縷の日差しの如く
鋭く、深く切り込み相手ゴールをおびやかせ!
負けるな日本!頑張れ日本!
デンマークを葬り去り、決勝Tへの階段をかけあがれ!!
お題は、「カズ」「ヒデ」「HONDA」でお願いします
手術も終わり、居眠り半分の彼女の手をとると「あっ!」と彼女の父が叫んだ。
「手術の話を聞いてなかったのか?」と、手術の話を切り出す。
「受胎改善術。環境ホルモン被害に対抗する唯一の出産率向上策だ!」
「ヒデー!小6の娘にそんな手術しますか、普通?」
「手術は成功だ。彼女はもう手をつないだら妊娠する。言うのが遅かったな。」
「え、ええっ?」と脱力したけど…あり得る。この父さんならやりそうだ。
でもいいか。彼女ならいいや。それにしても、残念ではあるなあ。
Hな要素なんて、かけらもない。
OSをインストールして、個人情報を記録する。女の子もパソコンも同じ扱いだ。
Noを叫んでみたところで無駄だ。
DNAを残す事が人類の使命なんだから、彼女の父さんに言わせれば。
A級の受胎能力が何より大事なんだろう。味気の無い話だ。
「出産」は三日後だった。彼女はきまり悪そうにハンカチに包んだ「子供」を見せた。
「ああっ」力無く呟いた。全くもって能率本位だ。「一回の出産で数万倍の効果」か。
彼女が産んだ僕等の子供。薄黄色に固まった卵は、まるでカズノコそのものだった。
※なんとか、全部、普通名詞で通したけど…疲れた。
次のお題は:「数字」「英語」「人工衛星」でお願いしまふ。
「こんな数字ではステルスをまかせられない・・・」
担当のエージェントに告げられた。
「どうしたタイチ、君らしくない。この程度のシミュレーションなら
楽々こなせていたじゃないか?」
「こんなとき英語でどう話せば伝わるんだろ?」
タイチは入所のときから、親身になっていろいろ相談に乗ってくれる
このエージェントにだけは伝えておきたかった。
「最近、心の平衡というか、調和がうまくとれないんです」
きちんと説明したつもりだった。
「どういうこと?」
説明しては聞きただされる、そんなやりとりがしばらく続く。
「・・・とにかく頼むよタイチ。今更後戻りはできないんだ」
僕の予備はいない。僕に最適化されたステルスの攻撃システムは
僕にしか操縦できない。
「yes,sir」
パイロットの心理状況までつぶさに分析し、システムにフィードバックする
新型のこの戦闘機・・・いや飛行型ロボットというべきか。
飛行中のパイロットが不適合と判定されれば、ダミープログラムに即座に切り替わり
その後の一切のコントロールを「magi」が担う。
そう、これはエヴァンゲリオンの知られざる、サイドストーリー。
タイチは戦闘中に人工衛星軌道上に静止した使徒「アラエル」に精神を壊され、若い命を
ステルスと共に散らすことになる。
お題は、「愛」「綾波レイ」「進化」でお願いします
(愛は 新たなる 破滅と進化への 序曲)
黒神と呼ばれ、543年の永きにわたり、
暗黒半球の電波界を牛耳ってきた成層圏プラットフォームは墜落した。
(暗い天球 赤い閃光の綾波 レイが踊り 複雑な文様が次々に生まれては消え 弔いを謡う)
零次はディスプビュアーに流れるデータをリアルの空に目視して、
偽の誘導電波によって友連れになった人工衛星を数える。
クリップボードに挟んだ紙の上、
1から53の数字の横に次々とチャックマークを記入していく。
最後の欄が埋まったとき、静かにペンを置き、隣で見守っていた妻のリタの手を強く握った。
リタは零次の手を握り返す。その手を彼女の膨らんだ、新しい命を宿した腹部へ沿わせる。
天と人の記憶に「bye-bye」、古からの英語の別れ言葉が刻まれた。
別れを返した小さな鼓動の主は、去り行く覇者の魂に見初められ、未来を継承する。
「綾波レイ」。これ流石に普通名詞はないわ。ということで131のお題を採用(_ _;)
次のお題は、「雷雨」「進化」「扇風機」でお願いします。
子供のころ、飛行機が進化したらタケコプターになるんだぜ、と
右隣の席のカドワキくんがでっかい声で話していた。
「そんなわけないよ、首がちぎれちゃう」私は、読み齧った本の通りに答える。
うっせーよガリ勉。不満げな返事とオーバーラップする予鈴の音を妙に覚えている。
外は雷雨だ。湿気と熱気が部屋中にこもり、空気が酷く重い。
築35年のボロアパートは音もよく響く。
激しい雨音と、扇風機の微かなモータ音が支配する、世界から遮断された空間。
一心に首を振る、どこにも行けないタケコプターは、懸命に風を送りだしているが、
ぬるい風が移動したところで、たいして涼しいわけでもない。
雨が上がっても、この部屋で世界を遮断し続ける私には、お似合いかもしれない。
どしゃ降りの雨は、上がるのも早い。
顔馴染みの猫が来るかもしれないから、冷蔵庫の残りを確かめに、私はのっそりと立ち上がった。
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次は「生物」「時計」「洗濯物」でお願いします
生物は皆、死んでしまうらしい。
だから、私が死んでしまうのも仕方ないことなのだ。だって、私は生物……人間なのだから。
もう長くない、と医者が言ってるのを聞いてから、今日で何ヶ月経ったのだろう。もう、覚えていられないほど経ったということなのか。
時計の針は進めども、私にはそれが死へのカウントダウンに聞こえてならない。
ふと、窓の外を見る。
6月の雨が降っていた。外に出なくても、じめじめとしているのが見て取れる。
今、私の入院代を稼ぎながら、高校にも通っている私の妹は何をしているだろう。洗濯物を取り込んでいる最中だろうか。
そういえば、明日は特別に家へ帰ることが許可されているのだ。明日一日だけだけど、とても楽しみだ。
この前、家に電話したとき、妹はカレーを作って待ってるといった。わざわざ1日寝かして、私にご馳走するらしい。もしかしたら、今カレーを作っているのかもしれない。
どくん。
あ、やばい。どくん、どくん。
どくんどくんどくんどぐんどぐんどぐどぐどぐどぐどぐ。
これは、やばい。どぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐどぐ
私はナースコールを押そうと――手が、動かなかった。それだけじゃない。全身が麻酔かけられたみたいに動かない。
瞬間、私の脳裏に浮かんだのは、生きたいという感情だった。それがもう叶わないことを知っていて、私は願った。
しかしその思いは、次から次へと再生される走馬灯に掻き消された。
私、死ぬんだ。
それが、憎たらしいくらい明瞭に、わかってしまった。
さよなら。
私は、ここにいない妹に、静かに静かに呟いた。
届かない言葉は、私の意識が闇に落ちる寸前で消えてしまった。
次は「遊園地」「観覧車」「両親」でお願いします。
両親との思い出を語るとき、決まって私は、遊園地へ家族みんなで行ったことを言う。
観覧車の中で姉と喧嘩してしまったことも。ジェットコースターでお漏らししてまったことも。今となっては、いい思い出だった。
紛れもなくいい思い出だし、忘れたくない思い出だから――だから、私は彼に聞かせた。昔の思い出話を。
「―――と、いうことがあったのよ」
私が、家族一緒での遊園地の思い出を語り終えると、彼は興味なさげにふぅんと答えた。
「ほかに感想はないの?」私はつい、いらいらしてしまった。
「ああ、いいお話だったよ」
「それだけ?」
「うーん……じゃあ、代わりといっては何だけど、ぼくの昔話でも聞くかい?」
「釈然としないけど、いいわ。聞かせてよ」
彼は、語り始めた。
「ぼくはね、誘拐犯なんだ。知ってるかい?今、五人組の誘拐犯が、巷を騒がせているだろう?」
「面白くない冗談ね」
「いや、本当なんだ。ま、信じなくてもいいけどね」
そのとき、彼が見せた憂鬱な瞳を、私は忘れることはないだろう。
次は「親友」「ブランコ」「青空」でお願いします
「こうやって世界をっ、揺らっ、すんっ、だっ」
そう言って佳奈はブランコを勢いよく漕いでいた。
意味は分からなかったけど、そうだねと相槌打って僕も勢いをつけていく。でもなかなか追いつけない。
二人は、二つの弧は、追いかけ、追い抜かれ、一瞬目が合い、離れて、止まり、また出会う。僕らは笑った。
楽しかった思い出。佳奈はもういない。
一人でブランコに乗る。
「ずっと友達だよ。親友だよ」――最期の言葉が耳から離れない。
立ち漕ぐ。どんどん勢いを増していく。鎖がギチギチと悲鳴を上げる。
でも世界は揺れない。揺れているのは僕だ。
歪む視界が青に包まれた。澄み切った青色。届くような、気がした。
僕は、青空に、手を伸ばし――手を離し、地に落ちた。
夢を見た。よく覚えていないけど、誰かと楽しくおしゃべりする夢だった。
目を覚ますと体の震えは止まっていた。
でも、少し胸が痛い。気持ちはまだ、揺れ続けている。
次は「目薬」「地球」「爪切り」で。
142 :
sage:2010/08/08(日) 20:18:37
仕事というものは人をどこか歪なものにかえてしまうようだ。
会社にいる時は時計の針を見ながら後どのくらいここにいなければならないかを考え、帰宅すると今度は後どのくらい自宅で腑抜けの状態でいられるかを考える。まことに気ぜわしい。
日々の生活もどこか虚ろなものになる。手落ちが目立ってくる。出がけに鏡を見ていて鼻毛が伸びていることに気づいたことがある。
時間が押しているので仕方なく出社の車中で信号の赤の合間にミラーを見ながら爪切りで伸びている毛を切った。心が寒々とした。
私は仕事を始める前に必ず目薬をさすようにしている。リラックスするため、心を仕事モードにするためなどの洒落た理由からではない。単にこのところ視力が頓に落ちてきて気になっているからだ。
もともと視力はよくなかったが、メガネをかけていても視界が水彩画のようにぼーとにじむことがあると、さすがに自分の目の過度の使用が不安になってくる。
これなどもやはり仕事が自分の身に与えている負担なのだろう。
そんなこと当然のことだと自分に言い聞かせる。身と精神をすり減らして月をしのぐ給金をもらう。大人になったのだから当然のことだ。いやならやめればよい。
しかしことはそんなに単簡ものではない。会社の中にいればおのずと一個の質素なシンプルな自分というものはなくなってしまう。
人と人の駆け引きがある。人間関係の摩擦生まれる。やせ我慢と意地を通さざる得なくなる。あいつだけには見下された視線を受けたくないという針を呑んだような苦痛の忍従がある。
布団の中が苦界から逃れられる唯一の居場所である。その滞在時間はとても短い。這入ってふっとしているとすぐ朝になることもある。
しかし覚醒状態から深い睡眠の状態へ移行する時のあの地球からそのまま布団ごと滑り落ちていくような感覚は何事にも得難い私の快楽である。
あ。上がってる。久しぶりだから間違えたようですね。
次は 硝子 放浪 火災 で。
ここが噂の井上心葉スレか
145 :
名無し物書き@推敲中?:2010/08/10(火) 08:52:18
硝子の破片が、再び足に突き刺さった。しかし、もう痛いという感覚は、ない。限界が、近づいているのかもしれない。
タケ坊が言った。「お兄ちゃん、僕らは何時までこんな生活をしなきゃいけないの?」その台詞に、僕は何も言えなかった。
先週の大規模な火災で、僕たちは住む場所を失った。僕たちの住んでた村は、いまや炭しか残っていない。生存者なんて、僕らを含めて10人いるかいないかだ。
両親も、財産も、近所のおばさんも、みんな、焼け焦げてしまった。全部、失ってしまった。
僕に残ったのは、弟だけだ。まだ五歳の、弟一人。たった二人の放浪者。
―――食料は、そこを尽きていた。次の町まで、まだ数キロはある。その間、餓死する可能性は十分にありえる。
僕は足を止めた。タケ坊が言う。「お兄ちゃん、疲れたの?」その純真無垢な瞳に、僕は心を痛めてしまう。
「ごめんよ」僕は言った。「何がだい?」タケ坊は尋ねてきた。答えようとした口を、罪悪感が閉ざしてしまった。
「生きるためには、犠牲が必要なんだ。僕は生きたい、だから―――」弁明するように、僕は言う。
タケ坊ははっと、眼を見開いた。何者にも汚されていない、天使みたいな瞳。
「いいよ」
タケ坊は小さく呟いた。総てを理解して、なお、この子は退かなかった。
僕は一切の躊躇なく――弟の首に手をかけた。
何故か、冷たい涙が、頬を伝っていた。
次は「遊覧船」「ワイングラス」「咳払い」でお願いします
147 :
ダーク鶯:2010/08/11(水) 21:24:24
真実は自分の目で確かめよう。
前人未踏(前代未聞か)トリバレ幹事(中身は誰だ?)による競作祭です。
貴方のご参加をお待ち申しあげます。
http://kamome.2ch.net/test/read.cgi/bun/1280844598/288『『『
288 名前:メーン ◆/l5uJ5lus6 [] 投稿日:2010/08/07(土) 21:09:27
○●○創作文芸板競作祭・夏祭り2010○●○
殺し・殺害・惨殺・刺殺・他殺・自殺・そして死。
テーマ……殺しと死
会 場……「アリの穴」
http://ana.vis.ne.jp/ 枚 数……3枚〜32枚(サイトの表示による)
日 程……投稿期間 08/20〜22(日付が変わったら終了)
感想期間 一作目投稿〜08/28 (日付が変わったら終了)
・作者さんは感想期間中一人一票、自作の感想欄に他者の作品の中からベストスリーを選んで投票してください。
読者賞とは別に作者賞を選出します。
・投稿は無記名でお願いします。
・マイナス点は結果に反映します。
・感想は記名・無記名どちらでも可
◎備 考
・内容説明欄に「創作文芸板夏祭り2010」と入れて下さい。
・作者さんは他作品へできるだけ感想をお願いします。みんなで祭を盛り上げましょう。
・以前にアリの穴や他の場所にに投稿した作品の再投稿は不可とします。
・複数投稿は不可です。
・作者投票をしない人は失格とします。
・犯罪を誘発する作品は投稿しないようにしましょう。
……』』』
※注意※
自分の目で見たからといって、真実が見えるとは限りません。参加は自己責任となります。あしからず。
上記URLスレッドのdat落ち後は、創作文芸板を「祭」で検索ねがいます。
大変、おじゃまいたしましたm(_ _)m
窓から見える景色。中心を這う運河には白い小さな遊覧船。船内のレストランでは恋人達がワイングラス片手に愛を語り合っているのだろうか。
もっと手前のあの大きな公園。芝の上では子供達が無邪気に走り回る。犬の散歩をさせている老夫婦や、ベンチで本を読んでいる青年がそれを見て微笑む。
尖った屋根を天に突き出して「ここです」と主張しているようなあの大聖堂。あそこのステンドグラスはとても有名で観るものの心を奪い、時を止める。一番いいのは今日のような晴天ではなく、少し曇った日なのだが……
「オホン」
低い咳払い。振り向くと担当医のペテロ先生が立っていた。
「早く外に出たいかね」
僕は頷いた。
「頼まれた薬を持ってきた。それと予定通り東側の非常口までの通路は明日の午後三時から十分間警備がいなくなる」
「本当に有難う御座います」
「なに、君のお祖父さんには本当に助けてもらった。申し訳ないくらいだよ。結局何も出来なかった訳だし」
「いいんです。これで」
「前にも言ったが薬は三時間しか効かない」
「十分です」
先生は窓に近づき景色を眺め呟いた。
「美しい景色だな……」
僕も窓に顔を向け答えた。
「ええ……」
僕は程よく温かい高揚感に満たされていた。ちょうど窓から見える景色にも夕暮れが近づいていて日差しには橙が混じり街を柔らかな黄金に染めようとしていた。
次題「食虫植物」「ケーブル」「脳組織」
生物学者のケイ氏は偶然に凶悪な食虫植物を生み出してしまった。
強力な毒と牙を持ち、植物たりえぬ素早い動作。脳組織に似た房を持ちパルスが観測された。
細胞中に電解物質を持ち外からの刺激に応じて電気刺激を発する動物のような植物だった。
ケイ氏はそれを害虫駆除に使えないかと思ったが、突然変異で生まれた植物は
十分な能力はあるのに自分で虫を捕ることをしなかった。
そこでケイ氏はその植物を操る手段を考えた。自分の脳波をケーブルで送り込み、
思った通りに動かすという手段だ。
その方法は一見うまくいったかに思われた。植物はケイ氏の思う通りに動き出した。
が、気がつくとオカシイ。植物は思う通りに動くが、なぜか自分の体が思った通りに動かない。
――いっしゅんの視界のブラックアウトの後、ケイ氏の目の前には自分と同じ顔をした男がいた。
その男の首筋には植物の蔦が刺さっている。あれ? とケイ氏は自分の体を見下ろした。
そして理解した。自分がケーブルで植物を操ったように、植物もあの蔦で自分を操ったのだ……
次は「音楽」「ソース」「不細工」でお願いします。
工場内には雑音が満ちている。
人が慌ただしく行き合う音、うねりを上げる機械のモータ音。台車の車輪が軋む音、時おり交わされる会話。
埃が舞い上がり、油が飛び散り、鉄が削りとられ、廃棄される。信じられない光景だ。まるで人死にが起こった現場のように殺伐とした世界。
そこでは人はあまりに小さい存在だ。
まるで影のない生き物のようにひっそりと目立たなく機械と鉄の背景に無個性に溶け込んでいる。ここでは無機物が主役の座を占めている。
おれもそこに溶け込んでいる。表情はなく、無感動に。
一日中立ちっぱなしの現場でおれはバラバラの部品をピンセットやドライバーやらを使い組み立てる。ちゃっちゃっ。一丁あがり。するとまた次の部品が流れてくる。またちゃっちゃっ。
これを朝から晩までくり返す。終業のベルが鳴るころにはおれの脳内の血液はどろどろのソースみたいになって眩暈と吐き気が一気に襲いかかってくる。
半年もしていたらおれはなかばノイローゼの状態になるだろう。工場の荒廃した雑音と音楽の美しい旋律の違いもわからなくなってしまうだろう。苦しみと喜びの違いも判断できなくなるだろう。
その時でさえおれは部品を組み立てているだろうか?表情はなく、無感動に。
おれの不細工な指先が社会の発展のための機械の一部を作りだしているらしい。上司がそういっていた。おれ達は社会に貢献しているらしい。
ならばおれはもっと満たされているはずだ。もっとすやすやと夜の眠りを楽しめているはずだ。
しかしおれに中にぽっかりあいた穴倉はあらゆる感情や意味を吸いこんでいまだ埋まる気配はない。
次は「ループ」「黄金」「悪魔」でお願いします。
食品会社勤務十年目、僕は「黄金のループロジェクト」に参加させられた。
――均一な品質。抑えられた価格。この上ない美食。
それらを兼ね備えた究極のレトルトカレールーの開発。期待に胸の躍る使命だ。
ところが、僕の業務は来る日も来る日も、試食、試食、また試食。
中身の開発に携われない不満がつのる。だが、文句を言うことはできなかった。
それは、試食する黄金のルーが、僕の想像を超えて美味しかったからだ。
こんな味、自分には二十年かけても作れない。試食係を出来たことだけでも誇らしいくらいだ。
……だが、ふと魔が差して、ルーの製造室を覗いてしまった僕は、すべてを知り、後悔した。
僕がやらされてたのは、人体実験だったのか。いますぐ辞職したいが、会社がそれを許すとは思えない。
本当にあれを商品にする気か。悪魔どもめ……だが、僕にはそれを止めることが出来ない。
会社があの……鎖につながれた未知の猿のおしりから排泄されるものを黄金のルーとして売り出す。
それはすぐに現実となるだろう……あるいは既に、どこかのカレールーはもう……
次は「肩こり」「汗」「涙目」でお願いします
八月のある暑い夜。
人がいないように見せかけるために家中の電機類をすべて切っているせいで、僕たちの額には汗が浮かんでいた。
「兄ちゃん、暑いよう……」
「分かってる。言うな。もっと暑くなるから」
「お母さんいつ帰ってくるのー……?」
「あともうちょっとで帰ってくるよ。我慢しろ、男だろ?」
そう言うと優は不服そうにしながらもおとなしくなった。
我慢しろとは言ったが僕だって暑さで涙目になるほどだ。今日の最高気温は三十六度だったっけか。そろそろ母さんには帰ってきてもらわないと、僕も優も熱中症でぶっ倒れるかもしれない。
親もいない。夫もいない。仕事は朝から晩まで働き通し。それでも収入は雀の涙。
そんな母さんの誕生日を、せめて今年だけでも豪勢に祝おうと思ったのだ。記念すべき三十五回目の誕生日。足せば優の年に、掛ければ僕の年になる。だから記念すべき誕生日なのだ。
――というか、こんな縁かつぎでもしないと祝えやしない。
今までに一度だって、僕たちはろくすっぽ母さんを祝ってやれたことがなかった。
だから、せめて今年だけは。盛大に、ささやかに。
カンカン、とアパートの階段を上る足音が聞こえてきた。もう母さんが帰ってきたのかもしれない。
「優! プレゼントもケーキもクラッカーも全部用意してあるよな?」
「ばっちりだよ」
優はにへへ、と笑った。暗闇で表情はうかがえないが、きっと嬉しそうな顔をしているのだろう。
そして、ガチャリと家の鍵が開けられた。
「ただいまー。ああー肩こったあー……あら? 俊一? 優? いないのー?」
母さんは玄関の電気をつけてこちらを覗きこむようにしている。
「よし、優! クラッカー鳴らせ!」
パン、パパアアン、と鳴らされたクラッカーとハッピーバースデーの言葉に、母さんは驚いたように目を丸くしたあととても幸せそうにほほえんだ。
「イヤフォン」「椅子」「美しさ」
ぼんやり考え事をしながらバスに乗った。
二人がけの椅子に仲良くくっついて座っている二人の女子高生が
ぼさぼさの髪を掻きながら後部席へ向かう僕をヒソヒソと笑い合っている。
「さえない感じ」
「なんか不潔」
凶器にもなりそうな言葉だが、可愛らしい声と感情を隠せない若さが
不快な気持ちを半分にする。僕は後部席から彼女達の様子を眺めた。
「最近好きなの」と言って、窓際に座っている女子高生が、隣の友人にイヤフォンを渡した。
「私も好きだよ。良い歌詞だよね」と笑みを交わす二人が、先ほど悪口を言っていたとは
思えないほど柔らかな表情をしている。
好きな物を愛でる瞬間、言葉には表せない美しさを人間は持っている、と、
僕は考えている人間であり、それを引き出したいと思っている人間でもある。
「やっぱり野田さんの書く詞は良いなあ」と、彼女達はほうっと息を吐いた。
そうか、そうかと心内で呟いて、僕はさきほどまでぼんやり考えていた歌詞を思い浮かべた。
また良い歌を届けてやろうと、ぼさぼさの髪を撫でながら。
次「写真」 「親友」 「酒」
156 :
写真、親友、酒:
「この子は私の親友でね」
私は写真を見ながら隣に語りかける。
もう20年ほど前の、中学校の卒業写真だ。懐かしい。
「家も近かったからいっつも一緒に遊んでたなー。勉強会とかしたりして。
今日は徹夜で勉強する! とか言っても、絶対に寝ちゃうんだよ」
精一杯の背伸びをした中学生時代。
初めて化粧をしてみたのも、初めてお酒を飲んでみたのも、常に彼女と一緒だった。
「そうそう、その時にお父さんのお酒をこっそり盗んでね……日本酒だったと思う。辛かったなあ、あれ。そういえば日本酒あったよね。持ってくるね」
台所へ向かい、日本酒の瓶とコップを1つ手にして戻ってくる。
戻ってきた部屋の隅には写真が1枚落ちているだけだ。
どうしてこうなってしまったんだろう。
どうして今は1人なんだろう。
溢れる涙で化粧がぐちゃぐちゃになるのも構わず、私は壁に語りかける。
次「名称未設定フォルダ」「オムライス」「ぬいぐるみ」