68 :
名無し物書き@推敲中?:
「ううん。私のおかげじゃない。あなたがほんの少しだけ勇気を出したからだよ」
裕子さんの声はいつ聞いても心を穏やかにさせる。
「裕子さんに出会えてよかった」
「私も。翼にあなたを紹介したかったよ」
裕子さんの表情と声から少しずつ元気になっているのだろうと感じた。この人はやっぱり強いな。
「さあ! 初めよ!」
ナツキさんの掛け声で皆が一つのテーブルを囲う。そこにはオードブルが山盛りにされていた。
「シャンパンあけて〜」
ナツキさんが言う。ボーイがタオルを口に被せ、力をいれるとポンっと軽快な音が鳴った。一人一人のシャンパングラスに注ぎ込まれる。
これだけの人から祝われて僕は幸せを感じている。でも何か足りないという気持ちがあった。そう、ここにアユナがいればな、なんて思う自分は罰当たりもんだ。
「こーちゃん?」
ナツキさんの声にハッとする。
「はい?」
「みんながいるのに悲しい顔しないでよ」
ナツキさんに頭を小突かれる。
「すいません」
「アユナがいないから?」
「そんな事は……」
「分かりやすいね。あんたは」
彼女がフッと笑う。