1 :
理系学生:2008/04/06(日) 21:54:19
生きている作家の小説を読み始めたのはほんとうに最近です。
いままで、なぜかそういったものに、価値を見いだせなくて。
だらだらと、載せていっちゃいます、ごめんなさい。
お暇な方はどうぞお付き合いくださいませ。
2 :
理系学生:2008/04/06(日) 22:01:32
「僕は要するに、準備をしているんだ」
と、先生は言った。私は意味がよく分からずに、耳から入った言葉を眉間のあたりでなぞった。
「それって何の準備、先生」
「死ぬ準備だよ。ちゃんと、死ぬことができるようにね。こうやって命を燃やして、ろうそくを短くしていくんだ。残りの長さが、ゼロなったときに、僕はすんなりいけるはずなんだ」
私は上質なカーペットの上に仰向けに寝転がり、机に座って仕事をする先生の背中を見た。先生はノートパソコンに向かって、時々手を止めながら文字を打ち込んでいた。あれが死ぬ準備をしている人の姿か、と私は思った。意外に平和なものだ。
「つまり先生、先生の書く小説は、先生の命を燃やして書いたものってこと?」
「そういうこと」
ふうん、と私は少し納得した。確かに先生の小説は、先生自身の経験や感情をモチーフにして書かれたものが多いし、それらが先生の一部を切り取ったものであるというのなら、分かりやすかった。
「それで、先生のろうそくの残りは、あとどれくらいなの?」
「それは内緒」
先生は振り向かず、ひたすらキーボードを叩きつづけながら、そう答えた。もしかしてもう長くはないの、と聞いたら少し笑った。
私は眠りの淵にぶら下りながら、先生のろうそくについて考えた。そこに灯る火は、細く弱弱しく揺れていた。
3 :
理系学生:2008/04/06(日) 22:06:36
先生は国内で割と有名な小説家だった。
そして三十九歳、独身。
中堅小説家向けの賞を二つほどとっていて、本屋に行けばたいてい二冊か三冊は先生の本が置いてある、そういった感じだった。
そんな先生と私のような、はたちそこそこの小娘が同居してるのはなんとなく奇妙な気がするのだけど、それでも私はふとしたきっかけから、先生の家に転がり込んでほかに行き場もないのでずるずると居候していた。
それについて、先生は何も言わなかった。
先生はハンサムなので、若いころやたらと女にもてたらしい。
主にそれが原因で(そして先生自身の性格も原因で)、女に溺れ、酒に溺れ、薬に溺れた二十代だったらしい。
らしいらしい、と不確かな表現なのは、もちろん私がそのころの先生を知らないからで、だけど先生の小説にそういったことは事細かに書かれているので、それらを読めばだいたい先生がどんな青春を送ってきたのかは想像がついた。
きっとそれは、ひどく混乱していて不安定で、先生の身体や精神を脆くするタイプのものだったのだ。
そしてそれが今目の前にいる先生を形作ったのだ。
先生はノートパソコンの電源を落とし、ディスプレイを閉じた。
壁掛け時計を見ると、もうすでに二時を回っていた。
ああ、もうそんな時間か、と私は思った。
先生は電気を消しベットにもぐりこんで手招きをした。
私はゆるゆるとカーペットから起き上がり這ってベットまで行き、マットレスと羽毛布団の間から体を侵入させた。
先生は、私が枕に頭を乗せたのを確認すると、おやすみ、と小さくささやいた。
おやすみなさい、先生。
4 :
名無し物書き@推敲中?:2008/04/06(日) 22:33:35
>先生はハンサムなので、若いころやたらと女にもてたらしい。
減点1
「やたらと」
>きっとそれは、ひどく混乱していて不安定で、先生の身体や精神を脆くするタイプのものだったのだ。
減点2
「きっとそれは」「ひどく」
減点3
混乱→既視感ある。
減点4
>そういった感じだった。
「そういった」
必ずしもわるいとは言わんが、設定がまずく中身もない場合は使う言葉くらい自分であたためなさいな。
おもしろ
つづき読みたい
続きキボンヌ!
8 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/02(金) 06:58:38
たった7レスで力尽きた感じがします
9 :
理学部卒:
「俺は矢で鱈を獲る。やたらにとってみせる」
ジョージの言葉に俺は耳を疑った。アメリカの諺は全て出鱈目といっても過言ではないが、
このとき俺は珍しい例外を発見したといえるだろう。テキサス男はアホ、これは真理らしい。
「お前、そりゃあ無理だぜ。鱈ってのは網で獲るもんさ」
「誰が決めた」
「経験さ。日本でもスウェーデンでも、どこでも網で獲ってるじゃないか」
「俺は親父の敷いたレールの上を走りたくない」
「お前の親父って政治家じゃなかったっけ」
ジョージは答えなかった。一体何の冗談だろう。そもそも何で鱈なんだ。何で矢なんだ。
「反抗の精神ってやつさ」
「そんなことを言うと世界が怒るぞ」
「知ったこっちゃない。で、ビル、水中ボウガンってウォルマートで売ってるかな」
「さあ?」売っているわけがない。最近じゃ小銃弾すら扱ってないんだ。
「使えない野郎だな、パパの友達に聞いてみるよ」
そう言ってジョージは去っていった。以上の会話は先月の終わり頃、マンハッタンのとある
高級一杯飲み屋で行われたものだ。その後俺は実習生の指導に忙しく、奴のことはキレイ
サッパリ忘れてしまった。それが今朝になって急に連絡してきたのである。ジョージの奴、
贅沢にも特別仕様の衛生携帯で俺のベッドにダイレクト・インしてきやがった。
「よぉビル、ついに一匹獲ったぜ。可愛い可愛いスケトウ鱈ちゃん、俺の矢で串刺しになって
ビチビチ言ってやがる。ほら聞こえるかい。ビルおじちゃんだよ〜」
しかし受話器の向こうからはチャプチャプという水音しか聞こえてこない。
「ジョージ、お前、どこからかけてる?」
「北海さ。スコットランドの北東あたり、シーストリート三丁目ってところかな」
「船の上なのか?」
「いや、俺ひとりだ。定期船から飛び降りてやった」
「帰れるのか?」
「帰れるさ。お前がデンマークかイギリスの駐留軍に連絡してくれればね」
「そういうことか。オーケー、伝えておくよ。でもあんま私事で軍を使うなよ」
「ウィ。おっと、電池が切れる」
通話が途切れた。そして俺は米豪軍に電話をかけると、インド洋で奴を探せとタレ込んで、
新人実習生の教育作業に戻ったのだ。これが世界が救われた経緯である。