短い文章しかかけないんです。
思いつきにまかせて、勢いのままに書くことしかできないんです。
応募のため、長編を書いて見ようとするのですが、全くうまくいかないのです。
一応プロットを練り、シーンに分け、必要な描写を書いていくのですが
駄文にしかならないのです。
ある程度計画し、計算し、生産することができなければ、作家失格なのだと自分では思います。
こんな自分がプロになれるのかと思うと、気が狂いそうです
79 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/01(金) 04:42:27
むしろ、文章を短くするのに往生する。
80 :
弧高の鬼才:2009/05/01(金) 08:54:42
長いのが嫌いなら短編作家を目指せばいいだろ
それが、短編の枚数ほども書けないんです。
無能すぎワロタ
>>81 だったらショートショートを目指せばいいだろ。
数枚で充分だ。
84 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/06(水) 22:34:46
>>83 ショートショートも無理だった僕は短歌と俳句でちょっと開眼しました。
雑誌にもコンスタントに載るようになりました。
85 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/06(水) 23:09:06
長いほうが偉いわけじゃない
ただ、短いと、いくつもいくつも書かないと、金にならない
86 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/07(木) 01:28:00
>>84 ちょ、ちょっと待てよ。短歌と俳句のオチは俺が書き込む予定だったんだよぉ!
87 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/07(木) 01:32:38
>>85 黛まどかとか見てみろよ。1ページに一句しか書いてない本出してベストセラーに
なってるぞ。
89 :
名無し物書き@推敲中?:2009/05/07(木) 01:50:37
>>88 歌集や句集ではよく見かけるけどね。
俳句や短歌は奥が深くていいよ。
今、実作しながら歌論・句論を読みまくっています。
一番好きな句は、与謝蕪村の
「菜の花や月は東に日は西に」
です。
まどかのは、
「あいたくて、あいたくて踏む 薄氷」
以外に良いのはなかったな……
あと好きなのは、
「蝶落ちて大音響の結氷期」
「夏草に汽缶車の車輪来て止まる」
とかだな
91 :
名無し物書き@推敲中?:2009/08/22(土) 13:37:50
長く書こうとしても、短くなりませんか?
92 :
名無し物書き@推敲中?:2009/11/01(日) 22:50:21
何で長く書こうと思うの?
プロットやその場の速度にあった長さの文章量で書けば良いんじゃない?
無理に長くしても退屈だし。
.序章
俺、明石星佳<<あかしせいか>>は本日、可愛い魔女の女の子を下僕<<しもべ>>にしました。
当たり前だが、俺には何か特別な力や経歴があったわけでは無い。
明石星佳は魔法の国の王子様でも無く、未来の国の未来人でも無く、秘密組織の能力者でも無く、何処にでも居る、平々凡々な一人の高校生だ。
それならばなぜ、そんなことになったのか。
全ての事の発端は、放課後、俺が同じ部活の友達二人にジャンケンで負け、コンビニにアンパンを買いにパシらされた帰り道から始まる――
.一章
姫塚川の川岸に築かれた真っ直ぐな土手、俺はその土手の上を右手にアンパンが三つ入ったコンビニ袋を抱えながら歩いていた。
もう放課後の時間帯と言うだけあって、辺り一体が淡いオレンジ色の光に包まれており、右手に流れる姫塚川の水面には、赤とんぼのアベック達が縦横無尽に飛び回っている。
秋は夕暮れ。そう述べたのは清少納言だったか紫式部だったか。
少しの間その事を思索するも、思い出せたのは古典教師からの手痛いモーニングコール(教科書の角による渾身の一撃)のみであり、自分がいかに国語の授業を真面目に受けていないのかを再認識する。
まぁとにかく、秋の夕暮れは綺麗だ、素敵だ、ビューティフルだ。風光明媚な光景は自然と人を浮き足立たせ、その心を弾ませる。
もちろんそれは俺にとっても例外ではなく、その時の俺は、黄昏の輝きに秘められた希代(けったい)な魔力に魅せられて、ちょっぴりアッパーでエキサイトだった。
だから、
「ねぇあなた」
突然後ろから、空いた左手を握られて
「あなたってもしかして、ニンゲン?」
こんな意味不明な質問を投げかけられても、なんら疑問にすら思わなかった。
俺が振り向いた先に居たのは、一人の小柄な可愛い少女。
髪は艶のあるブロンドで、すっきりとしたショートヘア。体躯に対して大きめな、薄い水色のワンピースを着用している。
その雪のように白い肌は、絹のようにきめ細やかで、愛くるしい顔付きからは、西洋的な部分が見て取れる。
そして、それら何よりも俺の心を奪ったのが、少女の大きな瞳であった。
俺の顔を興味深く見詰めるその双眸は、俺が今まで見たことも無い、鮮やかなオレンジ色の光を灯していたのだ。
綺麗だった。眩しかった。一瞬でその瞳以外の全てが色あせて見えた。
この絢爛たるオレンジの前では、あれだけ華やかに見えた夕焼けの町も足元にすら及びはしないだろう。
それだけ、少女の瞳のオレンジは美しかったのだ。
「ねぇ、ニンゲンなのかと訊いてるんだけど?」
再びの問いにハッと我に返る。
この少女の、何処か人間離れした瞳に少し呆けていたらしい。
俺は平静を取り繕い、少女に返事をした。
「ああそうだ、俺は人間だ。それがどうかしたか、お嬢ちゃん?」
どうかしたかお嬢ちゃん、ね。我ながらなんとも笑える返答だ。
その時どうかしてたのは、間違いなく少女ではなくて俺のほうだ。
だって普通は、いきなり見ず知らずの少女に『お前は人間か?』なんて訊かれたら、ちっとは気味悪がるもんだろう。俺が人間だなんて事は、誰が見ても一目瞭然なのだから。
だから俺はこの時、少女を忌避し、そそくさとその場を立ち去れば良かったのだ。律儀に返事などしないで。
だが先程も言ったよう、悲しいかなその時俺は、ちょっぴり、前後不覚でハイテンションだった。
これっぽちもそんなこと、疑問にすら思わなかったのだ。
俺の返事を聞いた少女が、どこか満足気な表情を浮かべて薄く笑う。
「ふふ、じゃあ、あなたにこの指輪をあげる。大事にしなさいよね」
正直何が『じゃあ』なのか、俺には皆目解らなかったが、少女はワンピースのポッケを漁り、中から一つの指輪を取り出してそれを俺に差し出した。
銀製の、細部まで装飾の施された、明らかに高価な物と解る指輪だ。
通常、赤の他人からそんなとても値の張りそうな、ブランド物っぽい指輪をくれると言われた所で、そう当たり前のように受け取るだろうか?
いや、受け取るわけが無い。断定を強める反語法で言い切ってみせる。
だから、俺は
「おいおいお嬢ちゃん、こういう物は、簡単に他人にあげちゃいけないんだゼ」
とかなんとか言って、格好つけて、その指輪を彼女のお人形のような、ちんまい右手の人差し指にスッと嵌めた。
優雅に、華麗に、美しく。
優しく、甘く、紳士的に。
最後の「ゼ」を上手くキメるのもポイントだ!
……嗚呼、笑いたきゃ笑え。その時は俺もどうかしてたんだ。
さてさて、それでこの少女が「そっかぁ、解ったよお兄ちゃん。じゃあねー」と手を振ってどっかに言ってしまえば、それでよかったのだ。
それなら俺は、この忌まわしい話をただの黒歴史として、自分の心の奥深く、前人未到の奈落の底にコンクリ詰めにして沈めていただろう。
だが、そうは問屋が卸さなかったのだ。
「あ、あぁ……」
なんと、指輪を嵌められた少女が、この世の終わりを三回ぐらい味わったような顔で、つまり顔面真っ青にして、小刻みに震えているではないか。
「お、おい、どうしたんだ」
その突然の変化に心配になって、俺が少女の顔を覗き込もうとすると
「あなたなんてことするのよぉ〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!」
可愛らしい怒鳴り声が俺の耳を右から左に突き抜けていった。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿ぁ! あなたなんてことしてくれたのよぉ!」
少女が半泣きで俺の胸をポカポカと殴ってくる。痛くは無かったが、対応には困った。
全く、感謝されこそすれ、キレられるような事など俺はしてないぞおい。それなのに何故殴られなきゃいけない。これが最近のキレやすい若者って奴か? まぁ高一の俺が言えたことでもないが。
何はともあれ、今自分が殴られているのは明らかに筋違いだ。
ここは、俺のありがたい説法でこいつを改心させてやらなければなるまい、
「おい、俺はただ指輪を嵌めただ――」
「うるさい馬鹿っ!」
と思ったのだが、残念ながら俺のありがたい説法は少女の一喝で遮られてしまった。
「いい!? これは『隷属の指輪』なのっ! ただ嵌めましたじゃ済まされないのよ! あなたに責任取れるのぉ、う、ううぅ〜……」
先程まで癇癪を起こしていた少女が、今度はその場に座り込んで愚図り始めてる。
おいおい何で唐突に泣き出すんだよ、これじゃまるで俺が泣かせたみたいじゃないか。
誰が見てるわけでもないが、気まずい、凄く気まずい。
どうにかして少女を泣き止ませたいと思う俺だが、如何せん何で少女が泣いてるのかすら理解出来いので手の施しようが無い。
少女の言い分を聞く限り、どうやら俺が指輪を嵌めちまったのが原因みたいだが、そもそもただ指輪を嵌められただけで泣かないだろ普通はよぉ。
しかし現に、目の前の少女は泣いているのだ。
俺は必死に少女が泣き出した理由を探った。
そういえばさっき、指輪のことを隷属の指輪って……
「おい嬢ちゃん、一体何なんだ、その隷属の指輪ってのは?」
実際口にしてみると、随分と不吉な名前である。
なんてたって「隷属の」指輪、だ。RPGかなんかじゃ装備しただけで、トラウマになりそうな効果音が響きそうだ。
質問を聞くと少女は、目尻が真っ赤になった顔をゆらりと上げ、呪詛を吐くように口を開いた。
「この指輪が何かですって? この隷属の指輪はねぇ、嵌めさせた相手を自分の言う事を何でも聞く下僕にする、すっごーい指輪なのっ! この意味が解るかニンゲンっ!」
嵌めさせた相手を下僕にする指輪とな?
それは
「つまり、どういう意味だ?」
「だぁっもうこの馬鹿、阿呆、低脳! いい、あなたが私にこの指輪を嵌めさせたの、解る!? つまり私は、あなたみたいなのの下僕になっちゃった……うわぁーんんん!」
怒ったり泣いたり忙しい少女だ。
さて、少女の話を信じるならば、俺はこの子を『隷属の指輪』とやらで下僕にしてしまったらしい。
もしもその夢のような話を信じるならば、俺は今すぐ教会の神父さんかなんかを探して、その呪いを解いてもらわなきゃならないな。
指輪の呪いを解くために、少年と少女は今立ち上がるっ! なんとも有りがちで陳腐で滑稽なお話じゃないか。
まぁ当たり前だが
俺はそんな話は信じないんだけどね。
だって、ここはRPGの世界なんかじゃない、現実、リアル、トゥルーワールドなのである。
そんな不思議道具などは存在するわけが無いのだ。
だから、この話しは恐らくは少女が考え付いた遊びか何かなのだろうと、俺は推察した。
女ってのは簡単に嘘泣きが出来るって、最近読んだ週刊誌にも書いてあったしな。
「なぁ嬢ちゃん、お兄ちゃんをからかってるのかな? そんな夢みたいな指輪、あるわけ無いだろ」
「なんでそんな事言い切れるのよ!?」
「そんなの簡単さ。まず、俺がこんな事態になったら指輪にそんな力が在る事をばらさない。それに、さっき嬢ちゃんは俺を殴ったじゃないか。下僕なら殴れる訳が無いだろう?」
「色々と厄介な制約があるのよこの指輪はっ!」
はいはい、と口先で返す俺。制約ですかそうですか。
頭の中では「あー、でも、本当にこんな可愛い子が下僕になってくれるのなら、結構嬉しいかもなー」なんて呑気な事を考えていた。
そうだ、折角だから何か命令してみようか。なるべく実現不可能そうな、恥ずかしい奴。
どうせ一期一会の関係だ。たとえ少女に嫌われたとしてもなんの問題も無かろうて。
「じゃあさ、嬢ちゃん。俺に下着見せてくれよ。指輪が本物なら出来るよな?」
それは、俺にとっては羽よりも軽いただの冗談のつもりだった。
これで少女も襤褸を出すだろうと、何の気なしに言った言葉だ。
だがしかし、少女の化けの皮は剥がれず、それどころか少女は、
「へ、変態っ! あなたなんて命令を、あっ、いやっ、だ、駄目ぇ!」
羞恥に顔を赤らめ、見えない力に抵抗するよう腕を震わせ歯を食い縛りながらも、
そっと、俺の命令の通りに、ワンピースの裾をたくし上げ始めた。
時間の流れがとても遅くなり、心臓の拍動が耳に聞こえる。
段々と上がるワンピースの裾、着々と露わになる脛……膝……白い太もも。
少女の顔はその耐え難い恥辱に耳の先まで深紅に染まり、必死に目を固く絞って俺の視線から逃れている。
ゆっくりと、ゆっくりと、上へ、上へ。
そして、その、健康的な二本の足の終着点に有ったのは
リボンマークの付いたオレンジ色の、小さな小さな毛糸のパンツ。
そのまま世界が固まること、およそ三秒。
お、おおおお。
「お前何やってんだ早く裾を下ろせ馬鹿あぁぁぁぁ!」
「あなたが命令した所為でこうなったんじゃない馬鹿あぁぁぁぁ!」
少女が思いっきり右足を後ろに引いて、
遠心力と慣性の力を纏った鋭いキックを俺の脇腹にっ
「は、腹が。腹がぁ……」
「ひっく、ひっく、うぅ、こんな奴に下着を見られるなんて、もうお嫁にいけないわ……」
俺達は二人して土手の上に蹲っていた。
先程少女に蹴られた脇腹、肋骨の下辺りが異様に熱を持っている。痛い。
「おいてめぇ! 自分で痴女チックなことしておいて、なんで俺が蹴られにゃいかんのだ! そりゃ俺が冗談言ったのも悪いとは思うが、だからってこりゃやり過ぎだろうが!」
「その冗談が冗談じゃ済まされないからあんな事になったんでしょうが! しかも言うに事欠いて人を痴女呼ばわりとか、あなた本当に最低よこの低脳っ!」
「なんだ、まだあんな大法螺話の設定を引き摺るのか!? そんなに言うなら証拠の一つや二つ見せて見やがれ!」
「じゃあこれを見ても同じことが言えるっ!?」
そこで少女は半べそで、キッと俺を睨みながら、いきなり姫塚川に向かってその細い左手を突き出した。
するとその華奢な体が突然、淡いオレンジ色の光を帯び始め、
信じがたいことが、起こった。
「水我に従いて形作るは白妙の氷床っ!」
鋭い声と共にそのオレンジの光が爆発したかの如く溢れかえる。
その余りの眩しさに一瞬目を閉じ、再び目を開けると、
なんと姫塚川の十メートル四方ぐらいの範囲が、いつの間にか凍ってしまっているではないか!
俺は恐らく、生まれて初めて、空いた口が塞がらないというのを直に体験した。
「お、お前、こりゃどうゆう仕掛けで」
(仕掛け? 仕掛けだって?)
川の水を一瞬で凍らせるなんて、そんなの小手先芸で出来るわけが無い。
口にしつつも本当は解っていた。この現象には、種も仕掛けもないって事ぐらい。
それでも、簡単には認められない、いや、認めたくない。
この現象を認めるというのは、今まで築き上げた俺の常識を、根底から覆すのと同義だからだ。それはつまり、日常の終焉も意味する。
ついでに、俺が超変態的な行動を取ってしまったことも意味する。
絶対に、こんなふざけたことは、あってはならない。
だが、
「仕掛けも何も、これは魔法よ!」
そんな儚い俺の望みは、少女の一言により簡単に打ち砕かれる。
「さぁニンゲンっ! お前はこれを見た上で、この偉大なる黄昏の魔女、ナランハ・ソーサレスを夢幻の類だと言い切れるのかっ!」
少女――ナランハ・ソーサレスは目に涙を溜めながら、右手の人差し指をビシリと俺に突きつけた。
その指の付け根に輝くは、銀色に光る『隷属の指輪』。
俺は、魔法という、自分たちの生活から最も身近で最も遠い、ファンタジーの世界を初めて目の当たりにしたのだ――
..2
「――と、まぁ、こんな感じだった訳だ」
「訳なのよっ!」
俺の落ち着いた声と、ナランハの威勢の良い声がその部屋に響いた。
場面変わって、ここは都立姫塚高校の美術室。
この絵の具独特のすいた臭いのする教室が、俺の所属する美術部の部室だった。
ただ、美術部といってもこの部活は、部員が俺を含めて三名しかおらず、また、その活動も一般的な美術部とはほとほとかけ離れている。
まぁどこの高校にも、廃部寸前の部活を乗っ取ってその部室を駄弁り場にするなんてのは良くあることで。
つまり、そういうことだった。
「最後の下りが臭い、五十五点」
そうやって俺の懇切丁寧な話(パンツの下りは尺の都合で除外)に不当な採点を下しやがった女が、葛原ゆうま。
常にニヒルな表情と、左眼を覆う白い眼帯、腰まで伸びたボサボサの、青みがかった黒髪が印象的な、美術部三銃士の一人である。(後、これはあくまで補足なのだが、胸がややでかい。)
ゆうまはどうやら、俺の話を冗談だと思っているらしく、心底どうでも良さそうに座った椅子を前後に揺らしている。
「で、結局その餓鬼は誰なんだ? 明石の姪か、妹か、はたまた児童誘拐か?」
「だから違うって言ってるでしょ! 私は黄昏の魔女」
「ハイハイ・ソーデスカさん、だっけ?」
「ナランハ・ソーサレスだ眼帯女ぁ!」
流石はゆうま、初対面の相手にも自分より弱そうと見れば容赦ない。
葛原ゆうまは弱いものイジりに関しては天授の才を有していた。
こいつはホント口が達者で、俺も中学の頃から常々言葉の揚げ足を取られては茶化されている。
まぁ根は悪い奴じゃないんだけどな。
「大体なぁ、魔女なんてのがマジでこの世界に居るわけ無いだろうが。もし居たらとっくに捕まって解剖でもされてんよ」
言いながらゆうまは、椅子から立ち上がって俺が机の上に置いておいたコンビニ袋からアンパンを漁りだした。
「そりゃ捕まってないのも当たり前でしょーね。だって、私は今日初めて、魔界からこの世界に来たんだもの」
そう言ってナランハもコンビニ袋から一緒にアンパンを漁る、っておい、そりゃ部員三人分しか買ってな
「何コレ、ギザギザの所から開けるのかしら? えいっ」
やりやがった。
「あらら、モグモグ、残念だったな明石、モグモグ」
ゆうまが、おいしそうにアンパンを食べながら俺を慰め、否、絶対馬鹿にしてるだろこれ。
「いっただっきまーす」
ああ、俺の分のアンパンが今まさにナランハの口へと……
そうだ。
「命令だ、そのアンパンを食べるなっ!」
「えっ!?」
ピタリ、とアンパンがナランハの大きく開いた口の前で止まった。
そう、隷属の指輪の効力だ。
「よし、そのままそいつを俺に渡せ」
「な、お、おいニンゲンお前っ!」
ナランハが、恐らくは本人の意思とは無関係に、ゆっくりと俺にアンパンを手渡す。
その悲壮感に満ちた顔はまるで、長年飼っていた愛犬と別れる時のようだ。
「う、うぅ〜〜〜〜」
下唇を噛みしめながら、俺の手に渡ったアンパンを未練がましく見詰めているナランハ。
よっぽど食べたかったらしいな。
「わーお、モグモグ、何、その指輪ってマジなの、モグモグ」
ゆうまは、言う割にはどうでもよさげな顔をしながら、アンパンを食べ続けている。
どうやら、指輪が本物だろうがそうじゃなかろうが、ゆうまにはどっちでも良いらしい。
「ちょっと、なんで私のアンパンとやらを横取りするのよ! ちゃんとあなたの分もあるじゃない!」
「横取りしたのはお前だいやしんぼう! この三つのアンパンは俺と、ゆうまと、もう一人の部員の分だ!」
「もう一人の部員なんて何処に居るのよこの低脳!」
「それはだなぁ……」
……そういや部室に居ないな、間宮。
「ミヤならさっき、女子更衣室に夢という名の忘れ物をしたとか言って出てったよ」
ゆうまが食べ終わったアンパンの袋を丸めながら俺に助け舟を出してくれた。
「ほら聞いたかナランハ!? 間宮の奴は女子更衣室に夢という名の忘れ物を」
って
「おいそりゃマジかゆうま!?」
「マジだ。止めても無駄っぽいから止めなかったけどな」
あ……あんの人類の最底辺野郎! あんだけ補導喰らっといてまだ飽き足らないか!
「女子更衣室? 夢という名の忘れ物?」
ナランハが怪訝な顔をして俺たち二人の顔を交互に見る。
恐らく、話に付いていけてないのだろう。
最後の美術部三銃士、間宮耕介について考える時、常識の定規は杓子へと変貌する。
奴を常識で測るなんてのは、どだい無理な話なのだ。
「何も考えるな、ナランハ。考えると狂うぞ」
「そうそう、先の事とミヤの事については、考えないほうが幸せだぜ、奈良子」
「な、なんか凄い人みたいね、その人。後、奈良子ってなによ眼帯女」
さてさて、話が適当に流れたところで、そろそろ奪い返したこのアンパンを戴こうかね。
俺がアンパンに齧り付こうとすると
「あっ……」
ナランハが、何処か物欲しそうな、小さな声を漏らした。
「どうした、そんな声出して。食べたいか、アンパン?」
俺は一度、アンパンを食べようとした手を休め、ナランハの方に目線を向けた。
「い、いや、別にそんな事はないんだけど、まぁくれるって言うなら食べてあげなくもないような、いや、別に欲しいってんじゃないわよ?」
何がそんな事ない、だか。さっき自分から袋を漁ってただろうが。
必死に否定しながらもチラチラと俺のアンパンを盗み見る姿は、とても可愛らしく、
それでもって俺の嗜虐心をそそる。
「なんだ、いらないのか。それじゃあ遠慮なく」
俺が再び、アンパンを口に運ぶ素振りを見せる。
すると矢張り、ナランハは慌てて俺を止めてきた。
「あぁもう解ったわよ! 欲しい、欲しいですっ。これでいいでしょ!?」
半ば叫ぶように懇願するナランハ。
よっぽど腹が空いてるらしい。
まぁ元より、俺も鬼では無いから少しはナランハにアンパンをくれてやるつもりではあった。
しかし、このまま渡してもつまらない。どうしようか。
「じゃあ、ナランハ。俺のこと星佳様って言えたら、半分やるよ」
「ちょ、な、なんですってぇ!」
「俺とお前は主人で下僕だろ? それぐらい簡単じゃないか」
「す、好きで下僕になったわけじゃ無いわよっ! うぅ〜」
敢えて指輪の力を使わずに様付けで呼ばせるとは、我ながら中々面白い考えだ。
ここまでの流れを見るに、恐らくナランハはかなりプライドが高い。
自分で自分の事を偉大なる、とか言っちゃったり、アンパンが欲しいと素直に言えなかったり。
そんな奴にとって、他人を様付けで呼ぶなんてのは、かなり堪えるだろう。
さぁ、どうくる、ナランハ。
「……いらない」
ほう。
「いらないっ! あなたの事を自分から様付けで呼ぶなんて、仮令私が今あなたの下僕であったとしても、このナランハ・ソーサレス、自分の誇りに掛けてお断りよ!」
そう、毅然と言い放ったナランハ。その姿は凛々しく、高潔で、壮麗だった。
が、直後、
ぐうぅぅぅ、と
ナランハのお腹が、大きく鳴いた。
みるみる内に真っ赤に染まるナランハの顔。
ゆうまが、ニヤニヤと嫌らしい目線でそんな可愛らしい魔女の様子を観察していた。
「お、お断りなんだからね!」
別に言い直さなくても……
でもまぁ、そうやって恥ずかしがる姿が、なんか可愛なとか思っちゃったりしたから、
「ほらよ」
「えっ?」
ここは普通に、アンパンを半分くれてやる事にする。
いきなりアンパンを突き出されて、キョトンとした顔をするナランハ。
「な、何? 私まだ、何も言ってないわよ?」
不思議そうに尋ねるナランハ。
無論、お前が可愛かったからだよなんて本音を馬鹿正直に返す理由は無い。
「言ったじゃないか。お前のお腹が、アンパン下さい星佳様ぁ、ってさ」
「な、そ、そんなこと言ってないわよ!」
「いいや、言った」
「言ってないわよ!」
「言った」
「言ってない!」
たっく、そうやって人の好意を素直に受け取れない奴には、
「おらぁっ!」
「むぅっ!?」
「おおっと、明石選手、奈良子の口にアンパンをゴールゴールゴールぅー」
ゆうまが棒読みで解説をする。こいつにはレポーターの素質が皆無のようだ。
「ちょ、モグモグ、いきなり何するのよぉ、モグモグ、……これ結構おいしいわね」
食べ物を口に含んだ途端、ナランハの機嫌は少し良くなったようだ。顔を赤くしつつも、黙々とアンパンを食べ始めた。何とも即物的だな。
さて、これでようやく俺もアンパンを口にする事が――
「やぁ、明石君、葛原さん。それとそっちの可愛い子は、うん、宇宙人か、それとも妖怪、はたまた魔法使いかな?」
出来なかった。
いきなり美術室の扉が開き、一人の男が現れたからだ。
校則にギリギリ掛からない程度に染めた赤髪、いつも通りの含み笑い。
真面目だとも狂っているとも、馬鹿だとも天才だとも評されるこの男。
名前は、間宮耕介。
我らが美術部三銃士、最後にして最悪の男だ。
「……あー、間宮、色々聞きたい事は有るんだが、まず最初に、なんでナランハが魔女だって解った?」
俺はまたしても、アンパンを食べようとした手を休めなければいけなかった。
奇奇怪怪とは、まさに間宮の為にある言葉だろう。
ナランハは確かに魔女だが、見た目は俺達人間と寸分の違いも無い。
それなのに何故、こいつは美術室に入るなりナランハを人間では無いと見抜けたんだ?
「そんなのは至極単純な話さ。いいかい明石君。この世には、青眼、緑眼の人間は居るけれど、
その子、ナランハちゃんみたいな澄んだ橙色の眼をした人間は居ないんだよ。橙眼なんて単語を明石君は聞いたことあるかい? つまり、そんな瞳を持つナランハちゃんは人間じゃないって結論に至るって話だ、うん」
間宮はさも当然のようにその原理を俺に語りながら、コンビニ袋からアンパンを漁っている。
そりゃ確かに、ナランハのオレンジの瞳は人間には持ち得ない色だ。それぐらいの事は、どんな奴にでも理解できるだろう。
だけど、たったそれだけの理由で、初めて会った奴を人間でないと言い切る奴はそう居ない。
大抵の場合は、自分が知らないだけでオレンジの瞳を持った人間も居るんだろうと考えるだろうし、
よしんば、その瞳のオレンジが人には有り得ない色彩であると確信しても、疑うのは人外かどうかではなく、せいぜいカラーコンタクトぐらいだろう。
だが、間宮耕介は違う。こいつにはきっと、先入観ってのが無いんだろう。
……本当に、常識外れな奴だ。
「さて、モグモグ、これまでの経緯を僕に話してくれないかな明石君、モグモグ、とても興味があるんだ」
「俺的にはミヤの女子更衣室突入作戦がどうなったのかのが興味あるんだけどなー」
「……その話は、また、いつか、ね。正直思い出したく無い」
少し遠くを見るような間宮の表情から、謎の哀愁が漂っている。どうやらまた、彼の犯罪行為は未遂に終わったらしい。
「たっく、今丁度ゆうまに説明し終わった所なんだがな」
またあの長い話をしないといけないと考えると何とも気が滅入る。
「ねぇニンゲン、この変なニコニコがあなたの言ってたもう一人の部員?」
アンパンを食べ終わったナランハが、手に付いたパンの粕を掃いながら俺に訊いてきた。
「ミヤはニコニコと言うよりは、ニタニタとかニマニマって感じだよな明石?」
「いやゆうま、突っ込む所はそこじゃないと思うんだが……」
「それよりもまず、私はこっちのニンゲンに訊いてんのよ眼帯女っ! なんかさっきからあなたが口を挟むたびに話がこじれるじゃない!」
「そんなことないぜー、多分?」
モロ疑問系じゃないか。
「まぁニコニコだろうがニタニタだろうが僕はどうでもいいけどねぇ。そういえばナランハちゃんは、なんで明石君や葛原さんをニンゲン、とか眼帯女、とかって呼ぶんだい?」
「えっ?」
……あぁ。
「そういえば自己紹介がまだだったな」
「確かに、私も自分の名前を言った記憶はあるけど、あなたの名前を聞いた覚えは無いわね」
「二人に同じー、と」
今更だったが、俺達はお互いの名前すら良く把握していないことに気付いた。
どうやら魔法だ魔女だと騒ぎすぎて、そんな単純な事をすっかり失念してしまっていたらしい。
間宮がそんな俺達を見て、少し可笑しげな顔で笑う。
「おやおや、これは今までの顛末と一緒に軽い自己紹介も必要みたいだねぇ、うん」
やれやれ、面倒だが仕方が無いか。このままじゃ話も進まないしな。
「ふぅ、じゃあ簡単な自己紹介と、これまでの紆余曲折をもう一度話すとするかね」
だけど、
「その前にまず、コイツを食べさせてくれ。腐っちまうからな」
俺はそう言って、右手に掴んだ半分のアンパンを口に咥えた。
..3
「――あなたがセイカで、眼帯女がユウマ。そんでもってこの優男がマミヤ。これで大丈夫かな、セイカ?」
「あぁ、完璧だ」
これまでの経緯とさらりとした自己紹介が話し終わったところで、ナランハが一応の確認を取る。
今まで俺の事を名前で呼ぶ奴は少なかったから、ナランハに「セイカ」と名前で呼ばれると、少々ムズ痒い。
「さて、やっと話も一段落したみたいだから、そろそろ本題といきたいねぇ」
間宮がナランハの方を向く。その瞳の奥では未知の存在に対する枯れる事なき探究心の光が渦巻いている。
「ねぇナランハちゃん、君はなんで僕達の世界に来たんだい? 何かしらの理由が無いと、君の住んでる世界、魔界とやらを離れようとは思わないだろう。違うかい?」
賛同の意を求める間宮。ふむ、それは確かにそうだ。
誰だって、自分から好き好んで異世界に行きたいとは思ったりしない。
そんな事を自主的にするのは、余程の夢想家か、主人公気取りのお調子者野郎だけだろう。ナランハは、そのどちらにも当て嵌まるとは思えなかった。
「……えぇそうね、なんで私がこの世界に来たかぐらいは、きちんと話したほうがいいわよね」
ナランハが言いつつも、どこか浮かない顔をする。
寸分の間を置いた後、ナランハは言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「私が暮らしていた魔界ではね、今三つの国が台頭しているの、それで」
「戦争を始めたんだね!?」
間宮が急に声を張り上げた。その表情が爛々と輝いている。一々話の腰を折るな、馬鹿。
というかその冒頭でなんで戦争に繋がるんだ、短絡的にも程がある。
「な、なんで解ったの?」
あってるのかよ!
「あー、ミヤはRPG大好きっ子だからなー。国が二つ以上あったら戦争してて欲しいとか思ってるんだろ?」
「なんて最低な思考をしてるんだお前は……」
「ふふふふふ、魔界の国の三国志。いいねぇいいねぇ萌えて燃えて最高だねぇ」
こんな奴が居るから、世界は何時までも平和にならないんだ。いろんな意味で。
「ま、まぁとにかく、その三国間で戦争があったのよ」
脇道に逸れそうになった話の筋を、ナランハが強引に戻す。
「三つの国家は国力、軍事力共に拮抗していて、戦争は長期戦が見込まれてた。それで私は、戦争なんか大っ嫌いだから、暫くは山奥に隠れ家を設けてひっそりと暮らしていようと思ったのよ」
それで一年ぐらいは平和だったんだけどね、とナランハが吐き捨てた。
「ところがある日、満月の派手な黄色が藍鉄色の夜空に映える日だったわ。三国の中でも最も好戦的な軍事国家、シェオル帝国が陸軍一旅団を率いて愛しの隠れ家に夜襲を仕掛けてきたの」
うん、まず一旅団とは一体どれくらいの数なのかが解らないので話にならない。百人ぐらいか?
「明石君、一旅団は大体二千から五千の兵卒で構成された軍隊だよ。百人、二百人のレベルじゃないからね」
間宮が俺の心を読んだかのように解説を入れてきた。非常に薄気味悪い。
「二千から五千って、なんでお前なんかにそんな大軍を動かしたんだ、その、シェオル帝国とやらわ」
「あぁそれはね、私は見た目がちょーっとお子様でお胸が幾許か発育不良ではあるけども、魔界では一、二を争う魔力を持った魔女だったからよ」
「何だって!?」
ナランハが魔界で一、二を争う魔女!?
こんな中学生ぐらいの奴なのに!?
「でも、それなら尚更、お前を攻めるのは道理に合わないじゃないか。ナランハは一人で大人しく暮らしていたんだろ、そのまま放置しとけばいい」
「あんたのすっからかんの低脳っぷりはホント清々しいわね。軍が一人で一個旅団を壊滅させるような危険因子を、そのままのさばらせておく訳無いじゃない。どんな手を使ってでもとっ捕まえて、兵器としてこき使おうとするに決まってるわ」
この指輪みたいな何かで従属させられてね、とナランハが自嘲気味に右人差し指の付け根に嵌った隷属の指輪を見下ろした。
「お前、結構苦労してたんだな……」
「私を成り行きで下僕にした奴に言われるのはかなり不服ではあるんだけど、まぁね。どう、少しは私のことを見直しみたかしら、セイカ」
「そう言って無い胸を少し張って笑う奈良子」
その笑顔はとても健気で、魔界一、二を争う魔女なんて事を忘れさせるぐらい可愛かった。
ん?
「無い胸って、それどういう意味だ眼帯女ぁ!」
罵声をあげ、ゆうまの首根っこを勢い良く掴みブンブンと前後に振るナランハ。カクカク揺れるゆうまの首がメトロノームを連想させる。
「い、い、いやさっき自分で発育不良って言ったたたたた」
「他人に言われるのはムカつくのよっ、自分はデカい乳してるからって、この、この、このっ!」
「や〜め〜ろ〜」
猛烈に揺れるゆうまの首、それと胸。こりゃ
「少々目に毒だ?」
「うわぁっ!」
間宮がこっそりと俺の後ろに回り、耳元で俺の思考を囁いてきやがった。生理的嫌悪感が生じる。
さっきから人の心を読むような真似ばかりしやがって、コイツのほうが魔法使いなんじゃないかと思えるな。
「駄目だよー明石君。女の子は体だけじゃなくて心も見てあげないと。モテないよ?」
ついさっきまで女子更衣室に特攻しようとしてた奴にだけは言われたくない台詞だった。
間宮が俺から離れ、ナランハの方を向く。
「では、そろそろ話の続きをお願い出来るかなナランハちゃん?」
「えっ? あ、ああそうね」
ナランハがゆうまの首を離した。そのままデロリと下に垂れるゆうま。
「ぅぁ……やばい、気分わりぃ……」
「自業自得よ、眼帯女」
その時ナランハがさりげなくゆうまの豊満な胸を盗み見たのを俺は見逃さなかったのだが、特には何も言わなかった。ゆうまの二の舞を演じる気はないからな。
「えっと、どこまで話したかしら。……そうそう、シェオル帝国が攻めてきた所までだったわね」
「確か千単位で攻めてきたんだろ。ナランハはどうやって逃げたんだ?」
「逃げる? 私がそれっぽちの雑魚相手に? 笑わせないでよ。全員薙ぎ倒したに決まってるじゃない」
「はぁ!?」
薙ぎ倒したってお前、数千対一人だぞ。魔界一、二を争う魔女ってのはそんなに強いのか?
「こう、でっかい竜巻を作ってぐるぐるーって感じでね。全員巻き込んだ後そのままシェオルの方に吹き飛ばしたわ」
人差し指をクルクル回すナランハ。
巨大な竜巻に巻き込まれる数千の人間を想像する。アメリカの映画とかでありそうな光景だ。
「でもね、それが何回も続いたのよ。私が奴等を傷付けないようにしてた所為もあって、わらわらと虫が湧くみたいにキリが無かった。で、これじゃ眠れやしないと思って、異世界に行こうって思ったの」
「いや、それって結局逃げてないか?」
「逃げてない! 戦術的撤退よ!」
「そうだよ明石君、軍事行動においては撤退もまた作戦の一つなんだ。三十六計逃げるに如かずって言うじゃないか」
「そもそも奈良子は軍人じゃないって、うー、まだ頭ん中がクラクラする」
ゆうまが知らぬ間に復活していた。
まだ気分が悪いのか顔を右手で覆っている。
「奈良子ー、お前魔女なら俺の吐き気止めてくれよー。奈良子に揺すられたせいでこうなったんだぞー」
「因果応報よ。あなたなんかに貴重な魔力を使うわけ無いじゃない」
「ケチ」
「あのねぇ、今の私は魔界に居た頃と比べて百分の一すらも力が出せてないの。なるべく魔力は温存したいのよ」
「ん、百分の一って、それってどーゆー意味なん奈良子?」
「はぁ、私と普通に会話できてる時点であなたはなんの疑問も持たないわけ?」
ナランハが心底呆れたように言う。
「今私は、意思疎通の魔法、環境適応の魔法、存在確立の魔法と三つも高度な魔法を同時展開してるの。ただでさえ魔力カツカツの状態なのに、余計な力を使わせないで」
意思疎通? 環境適応? 存在確立? ずらずらと小難しい単語が並べられて少し混乱する俺。
「ふむ、だからナランハちゃんは、僕たちと普通に会話できて、酸素を吸って吐いて、世界の因果律から締め出されたりしないんだね」
だが、間宮には簡単に理解出来たようだ。世界の因果律って、どうしてそんな考えがポンポン出るんだ。
「何、そんなのは視線を少しだけ高い所に持っていけばいいだけの話だよ明石君。神の視点に立てば、いかなる事象も手の内さ」
「だから俺の考えてる事も読めるってか?」
「もちろんそうだねぇ」
もうつっこむ気にもならない。
「うむしかし、百分の一、ねぇ。ふむふむ……」
間宮が考え込むようにブツブツと呟いている。そして、ゆっくりと椅子から立ち上がり、ブレザーの内側に右手を入れたと思うと、その内ポケットから
「それって、どれくらい強いんだい?」
鈍い金属光を放つ、間宮お手製のエアガンを取り出して、その銃口を椅子に座るナランハの額に向けた。
「避けろナランハっ!」
俺がナランハの右手を引いたのと、間宮がエアガンのトリガーを引いたのは、ほぼ同時であった。
ナランハの座っていた椅子にBB弾(エアガン専用のプラスチック弾。直径6ミリ)が当たり小高い音をたてる。ギリギリ間に合った。
「え? 何? 何が起こってるの?」
俺の腕中でナランハが戸惑いの声を挙げる。何が起こったも糞も。
「おい間宮てめぇ、何考えっ――いや、何も考えてねえな!?」
「その通りさ明石君! 伊達に僕と三年半過ごしてないねぇ!」
間宮が遊底(エアガンの後部にあるパーツで、これをスライドさせて空気を圧縮する)を引く。
「今僕は、まさしく考え無しにナランハちゃんを攻撃している。百分の一の魔女の力が、どれだけ凄いのかを測るためにねぇ!」
そして再び、その銃口を俺達に向けた。
「なるほどねぇ、私が、黄昏の魔女が、どれだけ強くて偉大で絶対的かを試したいってわけねぇ。ふぅん。へえぇ」
ナランハの体が淡いオレンジの光を帯びる。あの時、川を凍らせたときと同じだ。
間宮が引き金を引き、銃口からBB弾が放たれる。
「大気我に従いて形作るは不可視の盾」
「なっ!?」
だがそれは、ナランハの目の前でまるで空気の壁に阻まれたかのように減速し、そのまま床に落ちた。
驚きの声を漏らす間宮。
「セイカ、もう手を離していいわよ」
俺の腕を振り払い、間宮に対峙するナランハ。その体が再度オレンジの光を纏い始める。
嫌な予感しかしない。
「おーい明石ー。こっちこっちー」
何時の間にやらゆうまが教員用の机の下に避難していた。俺も急いでそこに移動する。
「なるほどねぇ、それが魔法なんだ。ならば、多方向からの連射で押し切るまでさ!」
教室の中を数多のBB弾が飛び交い始めた。
間宮の放つBB弾は壁、机、椅子、天井、床などありとあらゆる所へと当たり、それら全てが反射して別の角度からナランハに襲い掛かる。
いわゆる、跳弾だ。
だが
「盾我に従いて形作るは無形の鎧」
それらは全て見えない空気の壁に阻まれてナランハに届く事はない。
「ふむ、通用しない、か。だけど、守ってばかりじゃ勝てないねぇ!」
間宮の発弾速度が一段階上がった。それでも弾の一つ一つがナランハに引き寄せられるように方向を変え続ける。人間業とは思えない。
だが、ナランハもナランハで降り注ぐようなBB弾の嵐を前にしても、身じろぎ一つしない。むしろその顔には余裕が窺えた。
「そうね、確かにこのままじゃジリ貧かもね。でも、その飛び道具には後何発弾が残ってるかしらね」
「……ッ!? ふふ、上等だねぇ」
間宮が更に一段階、発弾速度を上げた。
そんな、奇人と魔女の激戦を、俺とゆうまは教員用の机に僅かに空いた隙間から覗いていた。
「なぁ明石、この世はいつから熱血少年漫画?」
「そんなの俺が聞きたいぐらいだ。それと少し詰めてくれ、狭い」
「我慢しろよ、元々二人も入れる所じゃないんだ」
「我慢しろって、その、む……胸がだな」
あたっているんですよ。左肘に。
「俺と明石の仲だろ。気にするな」
「いや、親しき仲にも礼儀があったほうが良いですよーって昔の人は言ったらしいですよ?」
「……俺のおっぱいが触れて、明石は嬉しくないのか?」
え?
そ、それってどういう……
「ちなみに俺は不愉快極まりないがな」
もう何なのこの子撲殺したい!
「期待したか?」
「少し」
「……そうか」
ゆうまがクスリ、と小さく笑った。
「さて、今ジャストでミヤが百七十五発目の弾を撃ったし、そろそろこのドンパチも終わりみたいだな。あれ、二百発しか弾入らねーし」
「数えてたのか!?」
「まぁな、ちなみに秒速二発で撃ってる。さて残弾数四、三、二……」
カチリ。
間宮のエアガンが情けない音を出した。
冷や汗を垂らしながら、もう一度遊底を引き、ナランハに向けて引き金を絞る間宮。
カチリ。
「……」
「弾切れ、みたいねぇ」
「み、みたいだねぇ。あは、あはははは」
顔を引きつらせながらゆっくりと後しざる間宮。だが、後ろは壁。逃げ場は無い。
「打ち捨てられし凶弾が、行き場を求めて彷徨い歩く」
周りに散らばった二百発のBB弾全てに、オレンジの光が点る。それらはゆっくりと浮かび上がってナランハの周囲を漂いだし、
「凶弾我に従いて我が敵を穿て」
ナランハの号令で一気に加速した。
まるで激流のように、二百発のBB弾が間宮の体を飲み込んで、間宮は光の海に沈んでいったのだった。
..4
「明石くぅん、痛い、痛いようぅ……」
「だぁ動くな! 湿布がずれるだろうが!」
自分で吹っかけて負けといて何が痛い痛いだっ、ていうかそもそも何が嬉しくて俺が間宮の看病なんかせにゃならんのだ!?
「あ、明石君、そこじゃなくてもうちょい右ら辺」
「一々注文が多いんだよっ!」
バッチーン!
「ぎゃあああああああああああ」
しまった、つい反射的に背中を叩いちまった。
「ア、ア」
ピクピクと痙攣する間宮。想像を超える激痛だったらしい。ははっ、まるで顔がゾンビみたいだ。
「……さて、まぁこんな所だろ」
俺はようやく、間宮の上半身に出来たあざ全てに湿布を張り終わった。(結果、間宮は今ミイラ男みたいな風体だ)
「なぁ明石。外も暗くなってきたし、そろそろ帰らねぇか?」
ゆうまが窓の外を気にして言った。本当だ、暗くなってる。秋の日は釣瓶落としだな。
「え、何、セイカはここに住んでるんじゃないの?」
そう尋ねるナランハの顔は少しやつれていた。本人いわく魔力を使いすぎたらしく、その声には覇気が無かった。
「別に残りたいんなら残っても良いんだぞ、ナランハ」
「い、嫌よ。こんな気持ち悪い奴と一緒に残らなきゃいけないなんて」
「キ……モチ、ワル……イ」
「ひいっ、ビクビクって動いたよセイカぁ!」
どうやら間宮は、完全にナランハに汚物と見なされたらしい。脈絡も無く襲われたら、そりゃ当然ではあるが。
「あー、間宮。そういうことだから、俺達は先に帰るからな。鍵の点検と消灯しといてくれ」
「ウアッ、ギリ、モノォォォッ!」
「ヒィィィィィィィッッッ」
ナランハが思いっきり俺に抱きついてきた。その体が小刻みに震えている。
「セイカセイカセイカ! 早く帰ろう、すぐ帰ろう! じゃないと私達食べられちゃうよぉ!」
「お前なぁ、間宮を化け物かなんかみたいに……」
「ア、アアァッ」
いや、やっぱりこりゃ正真正銘の化け物だ。純度百パーセント。だって口から涎垂らしてるし、若干白眼剥いてるし。
そして結局、俺達は間宮を教室に残して先に帰宅することにした。
「じゃあ明石、奈良子、俺ここ右だから」
ゆうまが軽く手を振って、別れ道を右に曲がった。俺達も軽く返事をする。
「で、お前はマジでゆうまの家じゃなくて俺の家に泊まる気なのか?」
「しかたないでしょ。セイカの側に居ないと何かと不都合なのよ」
嫌々気な顔をするナランハ。
先刻、ナランハが今日どこで寝泊りするかという話になり、ゆうまが自分の家に来ても良いと申し出てくれたのだが、ナランハはそれを断り俺の家に来ると言い出したのだ。
「俺のマンションに居るほうがよっぽど不都合な思いをすることになると思うぞ。俺は男だけの一人暮らしだし」
やはり女は女同士で寝食を共にしたほうが何かと楽だと思うのだが。
「あなたの耳は風穴? 一緒に過ごさないと色々厄介だって言ってるでしょ」
「何が厄介なんだよ?」
「だから、色々よ」
埒が明かない。ここは指輪の力で、と思った矢先、ナランハの言葉に出鼻を挫かれた。
「そういえばさっき一人暮らしだって言ってたけど、あなたご両親は居ないの?」
「ん、あ、ああ。俺の両親は二人ともWFP(World Food Programme)――世界食料計画っていう国連主導の機関で働いててな。世界中をいつも飛び回ってて家にはめったに帰って来ない」
「そう、じゃあ私があなたの家にお邪魔しても全く問題無いわね」
それで会話が終了してしまい、何故ナランハが俺の家に拘るのかは結局聞きそびれてしまった。仕方が無い、また後で機会があったら聞いてみよう。
俺の住むマンションに到着したのは、それから五分後のことだった。
「やぁおかえり、愛しの我が息子よ。私が居ない間寂しく辛かったろう。さぁ、私の胸に飛び込んでくるがいい!」
ガチャリ。取り合えず開けた玄関の扉をそのまま閉め直す。
あれー、可笑しいなー。幻覚? これってもしかして幻覚かな?
「ねぇセイカ。今家の中に、筋骨隆々のおっさんが居た気がするんだけど」
「ナランハにも見えたのか……」
再び、自宅の玄関を慎重に開ける。
「どうしたんだ星佳? 今の若い子の間じゃそうやって玄関を二度開け閉めするのがブームなのか?」
やっぱり居る。幻覚じゃない。
逞しい体つきに不釣合いなビジネススーツ。短く切り揃えた角刈り頭。空気を震わすような野太い声。
「何時の間に日本に帰って来たんだよ、親父……」
我が父、明石機関銃が玄関で仁王立ちをしていた。
「いやぁ、まさかあの奥手で愚図で節操なしで、毒にも薬にもならない青二才の朴念仁がこんな可愛い子を連れて帰ってくるとは、こりゃ明日は槍、いや、戦車か戦闘機が降ってくるな」
そういってガハハと大声で笑う親父。ウザい。非常にウザい。
くそ、なんで今日に限って帰ってくるんだこいつは。もうかれこれ半年は電話すらよこさなかったくせに。
「で、その子、ナランハちゃんと言ったか、ナランハちゃんは何処の国の子なんだ。日本人じゃないようだが」
だぁ、気付かなくて良いところに一々気付きやがって!
あぁもう、どうやってナランハについて説明すればいいんだ。この子は魔界から来た魔女ですー、なんていっても絶対信じて貰える筈が無いだろうしなぁ。
「ああ、私は魔界から来たのよ。もちろん日本人じゃないわ」
「なんと、そんな遠い所からかね!?」
普通に納得しやがったよこのボケ親父!
「そうか、マカオからか。確かに言われてみればポルトガル系かマカイエンサのように見えなくもないな」
え、マカオ?
「いや、マカオじゃなくて魔かムウッ!?」
「そ、そーなんだよ。マカオ。ナランハはマカオから来たんだ!」
余計なことを言いかけたナランハの口を無理やり手で覆って黙らせる。
「今日偶々道端でコイツに会ってさ、行くところが無いっていうからウチに連れてきたんだ」
「何、行くところが無い!? それは可哀想に……きっと密入国かなにかなんだろうな。よし、少し待ちたまえ」
え、いや密入国って。話が飛躍しすぎじゃないか?
そんな俺の心配を他所に、親父は懐から携帯を取り出し、通話ボタンを押した。
「あぁもしもし、私だ。……いや、一人国籍を偽装して貰いたいと思ってね。……あぁ、マカオ人の女の子だ、私の養子でいい。……そうか、ありがとう。あぁ、それとついでに息子と同じ高校に入学させといてくれたまえ、頼んだぞ」
親父が電話を切る。その顔は快活な笑みに満ちていた。
「喜べナランハちゃん! 君は今日から晴れて日本人だぞ!」
嵐の如く突然に現れた親父はその後、ナランハ用の姫塚高校の制服を何処からか買い揃えて、そのまま仕事が入ったと言って去っていった。次の行き先はジンバブエだそうだ。
「つ、疲れた」
ぐったりと自室のソファーにもたれ掛かる。今日はイベントが目白押しだったせいで精神的にかなり参った。
「ねぇ、あのおっさんは本当にセイカのお父さんなの? なんかあなたからは考えられないほどアグレッシブだったんだけど」
ナランハがベットに横たわりながら尋ねる。
「あの野郎は前々からずっとああだよ。正直間宮の次に何考えてるか解らねぇ」
しかしまさか、あんな当たり前のように日本国籍を偽装出来るとは。WFPってのはそこまで権力のある機関なのだろうか。
少し頭を廻らして、止める。考えても時間の無駄だ。
「はぁ、今日はもう風呂入って寝るか。風呂は先と後どっちが良い?」
「先に決まってんでしょ、低脳」
「そーかい」
「xi……rea……」
風呂場から聞き慣れない歌がシャワーの音に混じって流れてくる。魔界の歌だろうか?
まぁ、今の俺にはそんな事気にしている暇は無いのだ。ナランハが風呂に入っている隙に、かたすべきものをかたさねば。
えっと、布団の間だろ、カーペットの下、それとテレビの裏にも一冊、ん、本の間に何か挟まってる。
『これが一番興奮したぞ。by父』
「……」
燃えるゴミ燃えるゴミっと。
「あっ」
その時、ナランハが風呂場で何かに思い当たったような声を出した。
「どうかしたかー」
「私、着替え用意してない……」
「え」
暫しの沈黙。シャワーの流れる音だけが響く。
「服は制服を着るとして、俺の下着じゃ駄目か?」
「駄目に決まってるじゃない!」
「だよなぁ」
時計を見ると既に夜の九時を回っている。これじゃお店も開いてないだろう。
「今日だけ我慢して同じのを履け。別に死ぬわけじゃないだろ」
「え、え、でも今日は一杯魔法を使ったせいで汗かいたし……」
魔法使うと汗かくのか。
ナランハはまだぐちぐち言っている。普段は生意気なくせにこういう時だけ女の子だなこいつは。
「ふぅ……解ったよ、少し風呂の中で待ってろ」
しかたがない、もう外には行きたくなかったんだがな。秋って寒いし。
「で、俺の所にわざわざ下着を借りに来たのか?」
「そうだ」
ゆうまが呆れ顔をする。
「明石なぁ、これでも私は女なんだぜ?」
「それは重々承知だ。俺の知り合いでこんな事頼める女はお前しかいないんだ、頼む、この通り!」
俺が額の前で手を合わせてみせる。
葛原ゆうまは見た目はツンケンしてるが、根は優しい奴だ。
「はぁ……解った解った、丁度サイズが合わなくて持て余してる奴が一枚あるから、今取ってくるよ。返さなくていいからな」
こうやって頼んだら最後には絶対助けてくれるって事を、俺は良く知っていた。
「ありがとなゆうま、やっぱりお前は親友だ。後で何か奢らせてくれ」
「そんなの当然だ、馬鹿」
さて、早くこれをナランハに届けてやらねば。
俺は急いで来た道を引き返していった。
119 :
魔女のはなし:2010/04/21(水) 13:04:05
「親友、ね。そんなんだからモテないんだ、明石の馬鹿」
「ナランハ、下着調達してきたぞ」
「えっ、ほんひょう!?」
風呂場から少し呂律の回っていない歓喜の声が上がる。時計を見ると、どうやら十五分以上も待たせてしまったらしい。
「待ってろ、今洗面所に置くから」
俺がナランハの着替え一式を持って洗面所に入る。すると、
「やっひょでれひゃよ〜」
「!?」
ナランハが一糸纏わぬ姿で風呂場から出て来やがった!
「あ、れぇ、セイヒャがごにん、ろくにん……きゅう」
そのまま目を回して倒れこむナランハ。床にぶつかる寸前で俺がその体を支えた。
ナランハの真っ白な裸体が目に飛び込んでくる。僅かに隆起した彼女の胸が、荒い呼吸で上下に動いていた。
どうやら意識が曖昧になってるらしい。のぼせたのだろう。
と、とにかく服を着せないと。裸のままだと看病すら出来ない。
そう考えた俺は近くに掛けてあったバスタオルを手にとって、ナランハの体を隅々まで拭くことにした。
(見たい、駄目だ、けど見たいっ!)
それはまさに、煩悩との仁義無き闘い。
俺は固く目を瞑りながら手の感覚だけを頼りにナランハの肢体を拭いていく。
顔、首筋、鎖骨。
そして、滑らかな傾斜の部分に入った。
時々手の平に伝わる(ような気がする)コリッとした感触が、俺の理性を少しづつ瓦解させる。
(何も考えるな何も考えるな何も考えるな)
だが、俺はその試練に打ち勝つことが出来た。無事そのエリアを通過し、残るは下半身だけとなった。
下半身だけと。
下半身。
120 :
魔女のはなし:2010/04/21(水) 13:08:08
「……」
うおおおおおおおおおおおおおおお!
ゴシゴシゴシゴシゴシゴシゴシッ!
無我の境地無我の境地無我の境地!
よし、下半身終わりっ!
さて、後は下着を穿かせるだけだ。
ゆうまから貰った紙袋を漁り、中から黄色い包装紙に包まれた物を取り出す。
それを開けてみると、
「ぶっ!?」
黒のレースの下着だった。
「ゆうまの奴、なんでこんなの買ったんだ?」
凄く疑問だったが、こんな事絶対本人には訊けないだろう。
「と、とにかく今はこいつを穿かせなくては」
ナランハの右足を持ち上げ、下着に通し、左足もまた同じようにする。
黒の下着に足を通した少女の姿は、どこかアンバランスだったが、それが逆に魅力的にも感じられた。
知らず、生唾を飲み込む。
(はっ、いかんいかん!)
俺は心に巣くった邪念を追い払って、そのままナランハの下着を上に上げてしまうべく手を掛けた。その瞬間、
「えっ?」
ナランハが、覚醒した。
今の朦朧としている彼女にとって、見ている光景はこんな風に映るんだろう。
目を覚ましたら、男に上半身裸にされていて、なおかつ今、下半身もその男の魔の手に掛かろうとしている。
「――ッ、死ねっ!」
ナランハの膝が、丁度上にあった俺の顎を打ち砕いた。
121 :
名無し物書き@推敲中?:2010/04/30(金) 19:46:21
無駄に長い小説書くやつはただの馬鹿だよ
>文章が長くならない
そのうち泣きながらどうやって枚数におさめようかと悶絶する羽目になる。
心配いらねーよw
小説の役割は文法の手本を示すことではない。
by スティーブン・キング
125 :
名無し物書き@推敲中?:2010/06/20(日) 18:15:36
ミステリーはとりあえず連続殺人にしておけば枚数稼ぎできるよ!
ミステリーはとりあえず「この殺人は現実的に可能か?」にしておけば枚数稼ぎできるよ!
逆にショートショートを書くのはどうだろう
短文に慣れると物足りなくなって長い文章を書きたくなるかも
短文のがいいってならそういう長所を伸ばしてみるとか