969 :
1/3:
具体的な酷評をお願いします。
「―それで」
前もって、こうなることは知っていた。だがたぶん俺は、理解はしていなかった。
だから、こうして。
一気に身がひける。顔が引きつる。一瞬呼吸の仕方すら忘れてしまったように、俺は肺腑を
膨らませ、肩で大きく一息ついた。『こいつはこれから何を言われるかわかっているから、
大きく息をついて覚悟を決めたのだろう』そう受け取られただろうか。ならば悪くないのだが、
実際の俺は違っている。根本的に違っている。俺は――びびっている。
それでも先生に目を遣るより他はない。そらしたままでいたら、俺は確実に、どうしようもなく屈服する。それだけは嫌だ。
「言いたいことはそれだけか。はっきり言おう。私は反対だ」
まごうことなき断定のことば。しかし、逆に俺をリラックスさせようとするような、落ち着いた物言い。
虚をつかれた感があった。俺の中の先生は、少なくともそこに明確な怒気を織り交ぜてくる
はずだった。しかしこれは――まったくもって喜ばしい兆候ではない。それどころか、背につめたい汗が伝うのを感じる。
これは、もしかすると。浮き上がってくるように、そういう嫌な予感が生まれた。
「やりたいことがある、などと言っているが、私には逃げにしか見えない。少なくとも、何か
を集中してやろうと考えているやつの目ではない。」
970 :
2/3:2007/11/06(火) 21:49:45
これではっきりと、不安定な疑惑が確信へと変わる。今の、俺は、相談を受けてもらっているのではない。
恩師から『何を若造が』と説教されているわけですらない。
先生の目が、口が、表情全体が、すべて物語っていた。どこか枠外・欄外にいるような、さめた口調。
今の、俺はどうしようもなくただただ諭されているだけだ。言い換えるならばそれは説得。
そこに対等な会話など存在していない。一方的な、慈悲に近いなにか。
「だから、目を覚ましたらどうだ。どちらがお前にとって必要なものかは、お前ならば判断がつくはずだ。」
どのような事を言われるかは、あらかた予想していたつもりだった。俺が言うべきことも決めていた。
だが、こんな――こんな、あまりにも違いすぎる立場・姿勢からの文言が来るなど、考えても
いなかった。ひたすら、考えたくないことだった。
先生にとっての俺は、まだあまりにも幼いというのか。少なくとも、先生はそう判断を下している。
その上で、言葉を選んで俺を――説得しようとしている。
諭すように。なだめるように。優しく。説得されている。
けんかになるかも知れない、とすら思っていた。とことん俺は主張するつもりだった。今までの
こと、これからのこと、包み隠さず。先生には怒鳴ってもらいたかった。憤ってもらいたかった。
その上で、けんかして、行き違って、その上で――納得してもらいたかった。
971 :
3/3:2007/11/06(火) 21:50:53
だからこれは、俺にとっては最悪の仕打ちだった。
彼を信じていたから、言ったのに。話したのに。語ったのに。
思考が逆流していくように感じた。脳が責任を放棄している。何か言わなくてはと思っても、
口が言葉を紡ぎだそうとしない。小さな思考のまとまりが、出来かけては公園の砂山のように崩れる。
「おれは」ようやく喉から漏れ出した声はかすれてしまっている。先生に、届いたかどうか。
「先生に、相談しているつもり、でした」
口先が震えながら、ひとつひとつ確認するように話す。
「違うな。まったく違う。お前と私がしているのは、カウンセリングのなりそこないだ」
口先が、もはや震えることすらしてくれなかった。
背が、やはり寒い。冷たいものが、幾筋も流れてつづけていた