交通安全を呼びかけるDJの声をカーラジオが発した。
大学生が高速道路で事故を起こしたニュースにちなんでのことだった。
春休みを利用して帰郷する途中の惨事だったという。
「車を運転される方は本当に気をつけてくださいね。ということで、
春は出会いと別れの季節です。始まりがあれば終わりがあります。
その終わりがまた新たな始まりだったりね。
これがまた桜の季節でもあったりするんだな」
再びDJがニュースを引っ張り出した。
何者かによって某所の公園で桜の枝が折られ、持ち去られたというのだった。
「何が面白くてこんなことをするんですかねえ」
凡庸なようでいて、DJは邪推や偏見を巧みに避けた。
そのとき、時速100キロで流れる景色のなかにぼくはあるものを発見した。
工事標識用の鞘に挿された桜の枝だった。死亡事故の現場なのだ。
その夜は風雨が強く、走行車両の後方には、必ず、人工の霧がついてまわった。
運転技術の未熟な大学生は、動く霧のなかでハンドル操作を誤ったのだった。
ひどい夜だった。
つづく
つづき
「警察も捜査をしてるみたいですし」というDJの声が
ぼくの意識を現実に引き戻した。
「こういう手合いは早く捕まえてほしいものですね」
「捜査ねえ。してないよな?」
助手席にすわった相棒にぼくは同意をもとめた。
「管轄外だからな」
極めて屈折した相棒の返答を、ぼくは様式美としてたしなめた。
「警察には協力しようよ。自分だってそうなんだからさ」