この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条

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527お題「不思議、人形、ラスト」
第二次ベビーブーム期に誕生した父親が、最後に消滅した。
既に、姉も母も消滅しているので、俺一人だけが我が家に残る。
4-3=1。うむ。
地球は、というか人類は、こうして緩やかに総体数を減少させつつ、終末期、いわゆる、『この世の終わり』を迎えているようだけど。
そのエンドロールは、あまりに穏やかすぎて拍子抜けしてしまう。
戦争も、飢饉も、伝染病もなく。
ただ自然災害的に訪れる、人の消滅を繰り返して、最後にはすべての人類が消滅してしまうんだろう。
幽霊船のように。未だ豊穣な、文明の残滓を地表に置き去りにして。

kaoru:不思議だよな
nao:だね。どーしてネット生きてんだろ
kaoru:電気だって水道だって生きてる。生活便利すぎ(笑)
nao:缶詰あれば数年持ちそう
kaoru:言えてる。娯楽たんねーけど
nao:でもネトゲ鯖、けっこう人いるよ?
kaoru:なにしてんの?そいつら
nao:フツーに狩りしてるw 娯楽大国、日本バンザイ
kaoru:いやいや(笑)

チャット。後、俺は人類が消滅し始める直前まで、大盛況だったネトゲ鯖を訪れるけれど、『人』は居ない。
俺のロールキャラだけが、ポツンと一人、NPCで賑わう町のど真ん中に立っている。
オーケー。今更だ。
俺は、理解しよう、自分に理解させよう、と笑う。
発電所、下水処理場。無人ロボットが、その耐久年数を終えるまでキッチリ任務をまっとうするだろう。
チャット。言語感覚が人間並みに発達したCPUによって弾き出された、乱数のキャッチボール。
あれだけの会話で、俺がkaoruかnaoか分かる人間は居るだろうか?

俺は、何度も心の中で反芻する。人類が消滅していく兆しを見せ始めた、夏の始まりに親友の薫が口にしていた言葉を。
「もう、人間は主役じゃなくて良くなったんだよ。人形(アンドロイド)が、人間に近づくんじゃなくて、人間が人形に近づく。そんな時代が来た。それだけ」

2-1=1。うむ。
俺はまだ、この世界で、人間のまま生きている。