この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条

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476名無し物書き@推敲中?
すべての自転車乗りはマゾなんだろうか?
いや、少なくとも真夏の昼間に山を登ろうとする自転車乗りはマゾの素質があるに違いない。
心理学の授業で人間は苦痛に快楽を覚える動物なんだと教授が言っていた。
私は、それを聴いた瞬間「なるほど」と思った。もちろん上り坂のあの苦痛を思い出してである。
しかし実際に太陽にうなじを焼かれながら動かぬ空気の中、森を越え
こいでもこいでも変わらぬ木位置を見ていると、何が快楽だ馬鹿やろうと
この場に教授がいたら「あんたは何も知らないと」言ってしまいそうになる自分を
発見して気が重くなった。いくら苦痛に晒されようとも自分を見失ってはいけない。
しかし、峠まではなんて遠いんだ。すでに足は硬く悲鳴をあげ腰は自分の肉体とは
思えないような違和感を持ち腕は焼けたようにいたい。
もう。金輪際山登りをやめて都市の運転に徹しようと思う。
そればかりか、今、自転車の向きを変え下ることが出来たらどんなに素敵なんだろうと思う。
努力なんてやめちまえ。暑くて熱中症になるぞ。ただ生きていたって努力するんだ。なんで好き好んで
努力なんてする? やめろやめろ、ふもとまで降りればおいしいビールがのめるぞ。
温泉に入って汗を流そうや。腹だって減ってるだろう? もうお前は十分やったよ。
誘惑が私の心をつかんだ。私は十分努力した。もういいだろう。
体を壊しちゃいけない。ペダルの動きをやめ、アスファルトに足をつけると
そのままガードレールにぶつかって倒れこんだ。
私は自転車を置いたまま坂を見上げる。空は高く白い雲がゆっくり動いている。
降りるか上るか? いや私はここでしばらく目を閉じていたい。
優しい自然の中に身を浸していたいだけだ。