それは低く冷たく、人間味のない声だった。
――だからお前はダメなんだよ。
どこから聴こえたのかも誰の声かもわからない。後ろと言われれば後ろな気もするし、部屋の外と言われればそんな気がする。だがやっぱりわからない。
確かなのはここ最近、私はこの声に苛まされていることだった。
――お前は、作家になりたかったんだろ?だけどなれずに狭いアパートで一人暮らし。笑えるよな。
ふざけるな。文句があったら出てこい。
「おい、誰なんだよ!」
――なにキレてるんだよ?図星だったからか?
と言うと声は私を嘲笑った。
「いい加減にしろよ!」
私は部屋の壁を拳で思いっきり殴った。築30年の土壁はあっけなく破れた。ぱらぱらと欠片が落ちていく。
右の拳からは血が流れている。ポタポタと血は私の手から外へ溢れ、畳に散っていく。
――そうカリカリすんなよ。また書けなくなるぞ。作家になりたいんだろ?ほら、また一日が終わるぞ。
腕時計を見ると、針はもう夜中の0時になろうとしていた。
「うるさい!邪魔するな!終わりがなんだ!オレはまだ始まってもいねぇ、始まってもいねぇんだよ!」
そう言い返すと私は腕時計を引っこ抜くように外し、何度も何度も畳に叩きつけた。
その腕時計は亡くなった父が私に与えた就職祝だった。作家になることを誰よりも反対していた父からの最期の贈り物だった。もう20年も前の贈り物だが。
401 :
つづき:2008/02/20(水) 05:30:23
――お前の父親の言っていたことは正しかったんだよ。お前にゃ才能がねぇ。
声は、けたけたと笑う。
私は頭をかきむしった。手の血が頭皮をなぞる。
『頭に血がのぼる』、そんなフレーズを思い出すと私の口から微笑が漏れた。イライラするのが馬鹿馬鹿しくなり、血をティッシュで拭い、適当に包帯を巻いた。月日のせいか、管理が悪かったせいか包帯は黄ばんでいた。
そしてさっき買ってきた安さだけが売りのファーストフード店のハンバーガーを片手にパソコンにむかった。ハンバーガーはチンケな味がするが、腹が満たされるならそれで良い。
私はマウスを動かした。手が痛む。インターネットへアクセス。匿名掲示板にクリック。気晴らしに匿名掲示板はもってこいだ。
私は小説家を目指す人たちが集まる掲示板にクリックした。画面に文字が表示される。
1:>ケータイ小説なんてくそくらえ!
2:>1よ。お前がクソだろう?デビューしなきゃケータイ小説以下!
それは違う、と私は思った。いくら本を出していないからといって、あの文法が間違ってばかりで、語彙も乏しいケータイ小説以下なんて……ありえない。ありえない。ありえない。
痛みを無視するように指がキーボードを叩いた。
3:>2さん。お言葉ですが、それはありえないでしょう。義務教育を受けていればケータイ小説以上の作文は書けます。書けるに決まっています。
402 :
つづき:2008/02/20(水) 05:52:02
4:>あのなぁ、小説は文法が正しければいいとか、語彙がありゃあイイってもんじゃねえんだよ。センスがあれば駄文だっていいのさ。だからケータイ小説は売れてるんだろ?
違う。違う。ケータイ小説など間違いだ!間違いに決まっている。
私の指がピアノでフーガを奏でるかのように激しく動いた。
5:>それは間違っています!ケータイ小説などあんなの誰でも書けるに決まっている!くだらないくだらないくだらない!
書き込みが終わると私はすぐに、更新ボタンを押した。
すると、パソコンの液晶から声が聴こえた。
6:>5へ、だからお前はダメなんだよ!
私は確信した。コイツが私を苦しめる声の主だと。犯人がわかれば恐くない。
頬が緩む。勝てる。私はコイツに勝てる。なぜなら正義はいつだって勝つのだ。ゲームの支配者はこの瞬間から私になったのだ!
7:>卑怯者め!お前の正体は知ってるんだよ!お前が6で発言した瞬間から形勢は変わったんだ。オレが主導権を握る!
清々する。ついに反撃の機会が巡ってきたのだ。
私は嬉々として更新ボタンを押した。
8:>お前、ヤバくね?
9:>8へ、関わらない方がいいぞ。
私の答えは正解だったようだ。焦っていやがる。もっともっと懲らしめてやる。楽しくなってきたぞ。
私は即、返信してやった。
10:>関わらない方がいいぞ?はっ逃げるんだな!犯罪人!
私はまたまた更新をクリック!返信がくるまでクリッククリッククリッククリッククリック!
はははは!私は勝利する!戦って戦って戦って戦って戦って、勝ち抜くのだ!はははは!
また声が聴こえた。
――おまえ、廃人だな。
私はそれをかきけすようにキーボードを叩いた。
おわり
次のキーワードは、『タバコ』『野球場』『ラブホテル』で。
この間は誘ってくれてありがとうな。
合コンとか久々でさ、かなりハメはずせたわ。
あの後、あの女とどこまでいったって?
ははっ、やっちゃいました。好きモンだったぜアイツ。速攻ラブホテル行こうだもんな。ちょっとビビった。
マジで変な女だったぜ。ゴムつけようとしたらキレるしさ。生で三発。ごっつぁんですって感じだけどよ。妙なトコで神経質なのな。
タバコ吸おうとしたら、鬼みてーなツラしてブン盗りやがんの。嫌煙家ってヤツ?こえー、こえー。
なんか知んねーけど気まずい雰囲気になっちゃってさ。しょーがねぇから適当に話振ったんよ。都市伝説。
「知ってる?●●球場って宇宙人の秘密基地なんだぜ」って。ほら、あの飲み屋から近かったじゃん。●●球場。
そんだけの理由なんだけどさ。ノってきたんだよ、あの女。いやー、変なヤツには変な話題が一番だな。ははは。
なんだよ?お前まで興味あんの?
結構有名な噂だぜ。あの球場が宇宙人の秘密基地でさ、地球人に変装しておかしな病原菌広めまくってるってヤツ。
何でもその宇宙人には弱点があるらしいんだけどさ、俺もうろ覚えだからよ。そこだけ忘れちまった。
信じるか信じないかはアナタ次第です!なんちって。くっだらねー。
あー、かゆい。あの女に病気でもうつされたかな俺。
ん?お前タバコ駄目だったっけ?まぁ、いいじゃん。ちょっとぐらい我慢してよん♪
余計に税金払ってんのに肩身狭いわー。ふぃ〜。
……おいおい、大丈夫かよ。おい、しっかりしろって。うっわ〜マジかよ。なんか顔色ヤバイってお前。
救急車呼ぶか?
次のお題は
「サル」「CPU」「匂い」
荒れた果てた都市、ビルは殆ど倒壊し、灰色の空が広い。世界規模の荒廃。何が起こったのだろうか。世界大戦?伝染病の蔓延?隕石の衝突?原因を知る者は既に存在しない。
どうやって災厄を免れたのか、一匹のサルが大通りをゆっくりと歩いている。
食べ物を探し散策していた彼は、ふと遠くに何かがキラっと光るのを見た。近づいて広い上げる。それはCPUと呼ばれるものだった。科学技術の遺産、文明の匂い。しかし今の彼にとってそれは何の意味もなく、空腹を満たすものではないことが分かるとポイッと投げ捨てた。
そのとき、偶然。偶然それがそばに落ちていたカセットデッキの再生ボタンにぶつかった。同時に朗らかな声が歌い始める。急に鳴り響いた音に彼は驚き、無意識に近くにあった鉄パイプを取り、デッキに何度も振り下ろした。
音はいつの間にか止んでいた。彼は冷静になると今度は今手に持っているものの力に驚き慌ててそれを投げ捨てた。だがやがて彼は、何故かその鈍い光りに引き寄せられていった、そしてそれがいつか役に立つ気がしてまたそれを拾い上げた。
新しい人類は再び瓦礫の森を歩きだした。
次のお題
「砂」 「壁」 「箱」
>>406 修正
×「食べ物を探して散策していた彼は」
〇「食べ物を探し歩いていた彼は」
よく目を凝らして壁を凝視すると、はらはらとなにやら細かいものがこぼれる音がした。
この巨大な箱の密室に閉じ込められてから初めて聞こえた音に男の心は踊った。
――この不条理不可解摩訶不思議の状況から抜け出すチャンスだ!
と壁に向かって駆け寄り、音が誕生した場所を、己の全神経を総動員して探る。探る。
四つんばいになりながらも懸命に探索を続けていると、指のつま先に「じゃりっ」という感覚が走る。
「見つけた!これが俺の光明!脱出口!っっっううっうー!」
発狂したように、口から唾液を迸らせながら奇声を上げる。その感情の激流に乗るかのように
脱出口と思われる場所を掘る手の勢いは止まらず、先ほどは針ほどにしか見えなかった光明も
今では希望が確信へと実感できるほどの域にまで達している。
男はその光の優美さに、はやる衝動を抑えきれなくなり、気づけば穴に向かって突進していた。
ぶつかる砂が凶器となり己を傷つけるのも厭わずに、何度も。何度も。意識が朦朧となってもその狂気の沙汰は続けられた。
人事不省の挑戦の果てに、鈍い衝撃音とともに男の頭のみが穴を突破した。
外界へと抜け出せた男の表情は至極晴れやかであったという。
次
「オオサンショウウオ」「ザッハトルテ」「掘り炬燵」
410 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/04(火) 09:11:39
ageてみた
411 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/04(火) 10:12:58
ハイの術中に填まるな。
412 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/04(火) 17:22:33
ハゲ死ね
雪の積もった道を急いでいた。一歩進むたびに足をとられる。駅前のケーキ屋さんで
買ってきたザッハトルテが、包んでくれた箱の中で行ったり来たりしている。ヒールは
履いていくんじゃなかった。でもまだ重なったりつぶれたり壊滅的な損害は受けていな
いはず。そう考えながら家路を急いだ。足を慎重に進めながら、早くうちに帰りたい、
と小さく呟いた。演歌調のリズムがついていて、自分の言葉に思わず微笑んだ。足元が
悪くなってきた。シャーベット状の雪の溜まりを小さく飛び越える。着地のとき足首が
グラリとした。足首の揺れはそのまま膝に伝わり、腰に伝わり、肩を揺らして腕をあげ
させ、タコのように両腕をくねらせてなんとか体勢を立てなおした。ぐらつきが止まっ
てからも腕をあげたままもう一度くねらせて、早くうちに帰りたい、とさっきの節を繰
り返して一人で喜んでみた。口許の笑みにマフラーを巻き直しながら歩き始める。マフ
ラーに暖かい息が篭り、頬を暖める。温もりが心地よい。家に帰ったら掘りごたつの中
に潜り込んでしまいたいと思った。あの赤い光の中でずっと過ごしたい。マフラーの隙
間から頬を差す冷気が掘りごたつへの愛をさらにかきたてる。でも堀ごたつでずっと過
ごしていると、ザッハトルテみたいなケーキでブクブクと成長して掘りごたつの口より
自分のからだのほうが大きくなって、もう二度と出られなくなってしまうかもしれない。
あのオオサンショウウオのように、とどこかで読んだ山椒魚の小説のことを思い出した。
「おかえり」
母の声に目をあげるともう家の前まできていた。
成仏 石鹸 商い
414 :
青空銀香 ◆PK7G.7777I :2008/03/06(木) 17:17:32
「この石鹸で身体を洗いますとね、あなたの身体にとり憑いている悪い幽霊が成仏するんですよ」
幽霊とはお前のことだろッ! と思わず突っ込みたくなる風貌の男が言った。
玄関先で、もう二十分以上話が続いている。気まぐれに、訪問販売の男を家に入れるんじゃなかった。
わたしは後悔していた。しかし、男は、そんなわたしの顔色などお構いなしという様子で、とにかく喋る。
男は長身だが細身で、まるで針金みたいな身体に、頬のこけた頭がのっかている。銀縁の眼鏡の
奥はうつろで、唇は青い。その石鹸はまず自分が使って見たらいいんじゃないのと、言いたくなるのを
わたしは必死でこらえていた。しかしだんだん、それをこらえる必要性がわからなくなってきた。
男が息つぎするところを間髪入れずに言ってやった。
「まずあなた自身が使ってみることをお勧めしますよ」
すると男は、
「あぁ、それはよく言われます」
言われちゃいけないだろう、とわたしは心の中で突っ込んだ。
「その石鹸を使いますとね、売ったわたしのところへ幽霊が、怨念を込めてとり憑いてくるんですよ。
つまりわたし自身が、この石鹸の効果を身をもって証明しているのです」
この男は、商い上手なのかわからないと思いながら、わたしは一つ買ってやった。
ビビンバ ハムスター ウルトラマン
それは彼女との3度目の旅行だった。
前回はヨーロッパだったので、今回は趣向を変えて韓国グルメツアー。
骨付きカルビやビビンバを味わい、おみやげ物を見て回る。
露店で彼女が足を止めた。「かわいい・・・」それはハムスターだった。
「おいおい、これ日本には持って帰れないぞ」と言うのに、
店のオヤジまでがにこにこして一匹取り出し、彼女の手のひらに乗せたのだ。
「あっ・・・」
ハムスターが手から滑り降りて走り出し、彼女はつられて追いかけた。
「おい、危ないっ!」
軽トラックが走ってきたのだ。
僕は咄嗟に彼女を突き飛ばした。その後どうなったのかはよくわからない。
遠いところから、彼女の声が聞こえてきた。
「ねぇ、ねぇ、起き上がって!
いつまでも、私のところに飛んできてくれるヒーローだって、
ウルトラマンよりも強く守ってくれるんだって、約束したじゃない!」
薄れいく意識の中、僕は彼女のヒーローにはなりきれなかった、その悔いだけが残って消えた。
太陽 ダブルベッド ペリカン
416 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/07(金) 22:55:05
>414
上手くキーワードが使えてる。最後は男自身が幽霊だったオチだろうと見ていたら違かった。
一捻り加えたところがいいと思った。男の容貌を最初か最初の方に書いていたら、始めの方の『幽霊とは〜』の一文がもっと生きたはず。
秋が深まったさる日、僕はバイク事故によって右足を失い、退院してからしばらくの間、暇を持て余していた。
付け加えると、元々アウトドア派だった僕は、体の方も持て余していたのだけれど、こればかりはどうしようもない。
日常がそれなりに不自由な方向へシフトしたものの、命あっての物種、と自制することで、自分の不運を呪わずやり過ごすことに成功している。
そう、たとえば、恋人と別れた代わりに、親兄妹の深い愛情を再確認したり、半年間の入院生活による留年を余儀なくされた代わりに、単館系ミニシアターを心の赴くまま、巡り歩く時間を得たり。
右足は、僕に変化をもたらした。
無骨な殻構造義足のフォルムがもたらす外見上の変化や、以前なら四、五分もあれば十分に踏破できた最寄駅から自宅までの距離に、途方も無い時間や疲労が必要になる、等の実際的な変化は元より。
それ以外に、欠けた場所から発信されている心的な作用、反作用みたいなものを感じるようになった。
主治医はその変化を、幻肢痛の症例を元に、懇々と説明してくれた。けれど、どうも彼女の説明するところの、幻肢痛特有の、痛みやくすぐったさ、喪失感や圧迫感とは、また異なっている気がする。
『三百万メガワットの百乗の水素線なら、猟犬座からでも宇宙の終わりを告げる放送が地球にまで届くんです。貴方は、やがて目覚めることをやめて永遠の眠りに就くでしょうが、それは決して一人だけのものじゃない』
『渡り鳥は、太陽や磁力線を元に、信じられないぐらいの長距離を縦断する。だが、時折、彼らは悪天候や特殊な事情で群れからはぐれ、本来の生息地ではない場所へと不時着する。それらを総じて、迷鳥と呼ぶ。(中略)さて、ここに今、一匹の不運なハイイロペリカンが居る』
『見て! 空を見て! あんなに大きな太陽が雲のベッドに横たわっているわ! ……あれはきっと、ダブルベッドね。だって、太陽はあまりにも太っちょさんだから、小さなシングルだと転がり落ちてしまうもの。それにね、』
「……いつかは、昔のように月と一緒になって、ひとつに帰るんだわ」
ソファーに、仰向けに寝そべった僕は、腕で両目を覆い隠しながら、銀幕向こうの女優の台詞を暗唱する。
立て続けに鑑賞した三本の映画は、そのどれもが取るに足らない作品ではあるけれど、今の僕、右足を失った僕の胸を、打つものがあった。
僕は不慮の事故で右足と分かたれた。そして、何かが変わってしまった。これから先、もし僕が再び変化を迎えることがあったとしても、そのたびに意図せず、右足に重心を傾けることになるだろう。
だとしても、それを悲しいことだと思いたくない。
忘れたくても、忘れられない場所に負った傷を撫でる時、僕は変化する前の僕を思うことになるだろう。
そうして、いつか生涯を閉じる僕は、その時にようやく右足を取り戻すのだ。
申し訳ない、一レスで閉じきれませでした。反省。
次の三題は『沈む』『燃える』『結晶』でお願いします。
とうとう彼女に僕の気持ちを伝えました。
けれども言葉を繋げてゆくうち、彼女の心がすっとそばから離れてゆくのを感じました。
好き、とさえ言い終える前に彼女は、ちょっと俯いてしまったのです。
最初に僕にあったのは戸惑いでしたが、僕を受け入れてはくれないのだと分かるとすぐ、めまいを感じました。
瞬間、僕の精神が体から抜け出して、一歩引いたところから自分を観察できました。
いえ、足下を沈む、深い奈落の底から、でしょうか。
そこは暗い暗い場所で、道案内も手がかりもありません。
その惨めな穴蔵からも、頭上ずっと遠くに蜃気楼が見えます。
とても綺麗でした。
午前に大学の合格を聞いて意気揚々としていた僕自身が、さらに今にも消えそうな、彼女への淡い恋慕を抱く僕自身が。
何か取り返しのつかないことをした気がします。
燃えるほどだった彼女への恋も壊れてしまったようです。
雪の結晶が崩れてしまったのです。
彼女はいつの間にか目の前にはいませんでした。
結晶は、形を整えてやるにはあまりにも小さく可憐で、人肌に触れると溶けてしまい、もう元に戻ることはありません。
暖かな春風に吹かれ、僕は自分の一欠片を失いました。
「外」「雨」「歩道橋」
関東地方は一日中雨になるでしょう・・・お天気キャスターが深刻そうな顔で言い終わるのを聞いてから、
ため息をつきつつパジャマを脱ぐ。雨の日はスーツとバッグが汚れてしまうから、
あまり高価なものを身に着けないようにしている。
無難なコーディネートで外に出ると、思っていた以上に雨は強い。
タクシーを拾って駅まで向かうことにした。
歩道橋の下をくぐり、赤信号で止まったときだ。
「あれ・・・」
窓の外、仲良さげに相合傘をしているカップル。
見覚えのあるダウンの男は、私の恋人。
そして女は・・・「敦子。」私の、たった一人の妹だった。
二人はしっかりと腕を組み、顔を近づけて何かささやきあっている。
次の瞬間、タクシーは走り出し、二人の姿は瞬く間に消えた。
「お姉さん?着きましたよ」
運転手の言葉が聞こえた気がするが、頭の中がきーんと鳴っていて、よくわからない。
黙って1000円札を渡すと、這うようにタクシーから出た。
雨が叩きつけるようにスーツを濡らす。
だけど、そんなことに何の意味があるんだろう。
立ち尽くす私の前方から、相合傘が近づいてきた。
「目薬」「マドンナ」「小麦」
421 :
「目薬」「マドンナ」「小麦」:2008/03/08(土) 15:19:34
目薬でもさして嘘泣きしようかと思い、咲子は思わず顔をしかめた。
隣りでタバコをふかしている洋平は、咲子のそんな表情など見もしないでテレビのサーフィン映像を眺め見ている。
「無駄だと思うんだけど」
咲子は言う。そうかぁ? と洋平は聞き直す。
「綺麗な姉チャンから逆ナンされるのってアリじゃね?
おれのマドンナはやっぱり海で見つけるべきだって」
「そんなこと力説されてもね」
苛立ちが頂点に達しかけているのを咲子は感じた。鈍感、という二文字が口から飛び出しそうになる。
小麦色の肌の女。馬鹿面の洋平の手を取り愛を誓う。それを遠くからそっと見つめる自分。
バカバカしい絵面だ。腹立たしさをとおりこして、笑いたくなる。
咲子は近くにあったコップを取ると、洋平の頬にぴたりとあてた。
「つめて」
洋平が、顔をしかめて笑った。
次は「買い物」「マンホール」「地方」で∈(・ω・)∋
422 :
名無し物書き@推敲中? :2008/03/08(土) 15:22:06
盗作無作は厳禁。
地方ってムズくね?
幼い頃、母に手を引かれデパートへ行った。父がなくなって一年ほどがたっていた。
ひどい雨の日だったが、いつも忙しく働いている母と二人でいられることが嬉しかった
。マンホールの蓋で足が滑りそうになったとき、腕を引き上げて支えてくれたのが楽し
くて、何度も滑って見せたりした。危ないからと何度もたしなめられたが、母も笑って
いた。
何でも好きなものを買っていいといわれ、デパートの中を母と手を繋いで色々と歩き
回り、結局は大好きだったアニメの人形を買った。
昼食をデパートのレストランですませ、食後のコーヒーを飲み干した私に母は、おう
ちに帰ろうと言って頭を撫でてくれた。帰り道で雨のなかを歩きながら、私はマンホー
ルを探していた。母はしきりとなにかを気にしているようだった。
雨はさらに勢いを増してきた。路面を叩く雨粒が跳ね、着ていたカッパの胸元や、時
に顔にもかかるほどだった。母が膝を降り、私の顔を覗きこんだ。母の差す傘に当たる
雨音が大きくなる。母はごめんねといって白いハンカチで頬をぬぐってくれた。頬から
離れたハンカチには黒い泥が点々とついていた。母は私の目を見つめた。星が瞬くよう
な瞳だった。それからハンカチでぬぐった頬に何度もキスをした。暖かい吐息が耳元で
震えていた。母が立ち上がり、体を引くようにして一歩下がる。私は母を目で追ったが
、初めて見る年老いた夫婦が視線をさえぎった。母は彼らの後ろに下がり口許を押さえ
て横を向いてしまった。
その後、父の両親である老夫婦に引き取られた私は、東京のビルの世界からこの山と
緑の地へと移された。一人息子の一粒だねということもあってか、祖父母はとても愛情
を注いでくれた。しかし、この地方の連中のくちさがない噂話では私は五百万で買われ
てきたという。母が私を売ったというのだ。デパートに買い物に来たつもりが、売り物
にされたのだという。
反論はしない。ただ、なぜデパートの中ではなく雨の降る路上で引き渡されたのか。
私はそこに母の愛情があるのを知っている。あの日母はおうちへ帰ろうと言ったのだ。
性(さが) 立春 同時代
>>424 とても良くできた話。
それを巧く表現するだけの文章力がないのが非常に残念。
気の毒だけど、こういうのって仕方ないことなんだよね。
「成仏」「石鹸」「商い」
感想書く方の我儘としては、名前欄か一行目にタイトルが欲しいところ。
細身の男はちょっと陰気な印象が強いな。
もう少しだけ寡黙で寧ろオカルティックに迫るか、逆にやけに明るい営業スタイルのほうが俺は納得する。
よく喋る陰気な男って客に取ってマイナスイメージしかないよ。
でも話そのものはばかばかしさがちゃんと書けてて面白かったよ。
〔普通〕∈(・ω・)∋
ごめん
>>427は感想スレに書くべき(
>>414への)レスだった。
携帯だと誤爆しやすくて、色々不便が多い……。
PC持ってないような馬鹿が偉そうに批評とか烏滸がましいにも程がある。
>>429 俺のことなら家庭の事情だ。あまり気にしないでくれよ。
俺は他人の話がすごく気になる。
昔からの性だから仕方がない。
三つ子の魂百までとも言う。
幼稚園生のころ、大阪から隣に越してきた小学生がいた。
そいつが阪神タイガースの話をしていたから、田舎ものはこれだから困る巨人の方が強いに決まってるわと言ってやったことがある。
殴られて泣いたが、絶対に巨人が強いという言葉だけは曲げなかったそうだ。
そこまでは自分は覚えていないのだが。
どいつもこいつも、こうして同時代に生きて呼吸しているなら、がっつり何か言ってやらねばと思う。
でも最近の奴は頭が硬いから困る。
ちょっと第三者が顔を見せただけで、お前は関係ないだのなんだのと、つまらぬことをぬかしやがる。
心が狭いのである。
一度口に出すのなら、誰に何を言われてもかまわないような、しっかり心に決めたことだけを言えばいいのだ。
それをあいつらは軟弱にきりきりきりきり、訳の分からない細かいことばっかり喚く。
くだらんその唾の散らし合いも、便所の中や自分の家だの、そういう場所なら許される。
勝手にすればいい。
あいつらは立春という言葉を知っているだろうか。
春がすっくりと立つのである。
日本人ってもんは、もともと季節も何もかも、しっかりと区分けしてやる民族だ。
学生が卒業式で長々と話を聞くのも大いなる区分である。
だのに分別のつかないのが増えているから困ったものだ。
例えば三語スレの
>>425-430みたいなのはまったく場違いである。
あいつらは感想スレか、それとも「より良き即興のために」スレにでも行けばいいのだ。
「洗濯」「学校」「情報」
>>431 入り方が下手くそですね。
ただの説明文というか、安いゲームシナリオなんかを読んで自分でも書けると錯覚してしまった、そんな哀れさがあります。
要するに小説になっていないです。
433 :
「洗濯」「学校」「情報」:2008/03/10(月) 03:23:10
メイドさんの膝枕に対岸を眺めると、奇妙な鉄の塔が目に入った。
「パリ万博」。西暦1900年に向けて開催される、科学の祭典のシンボルだ。
「馬車じゃなくってね、鉄の車がレールを走るんだ」「まあっ!」
「『電話』という機械が声を運んで、情報が瞬時に伝わる」「本当ですか?」
「『計算機』が何でもやってくれて、君も洗濯なんかしなくてよくなる。」
「お坊ちゃんは、楽天的過ぎますっ」と彼女は笑ったが、彼の妄想は膨らむ一方だ。
「『電話』もうんと小さくなって、『計算機』も小さなものが、人間の数千倍のスピードで計算さ」
学校の教師は「それは最低でも西暦2000年以降になるであろうぞ」と釘を刺していたけど、
期待せずには、いられなかった。
「その時には簡単な仕事は機械に任せて、週休6日で、残りは君とこんな事するのに専念できるのに」
…ここまで書いて眠くなってきた。というか憂鬱だ。
少なくとも、彼の最後のセリフの後半は半ば実現している。それで、満足するべきかもしれない。
こっちはこっちで、明日から会社だ。(02:50では既に明日だけど)
極小の『電話』である携帯を持って、22億クロック/秒の『計算機』で仕事する。
朝8時には『電車』に乗って通勤の、西暦2008年の生活が待っている。
※GWはどうなるんだろw
次のお題は:「境界」「ナイロン」「6」でお願いします。
俺とお前との境界は、たったナイロン6つ分だ。
手早い薄化粧よりも無難なスーツよりも、憎みたいのはストッキングで、なぜならそれをしゅっしゅっと小気味よく装備する音が、象徴だからだ。お前は俺のものにはならない。
またね、なんていうふうには、お前は俺を慰めない。「じゃ、」と颯爽とした笑顔でドアを後ろ手に閉めかけ、「行ってきます」の言葉はもう平日の戦士の眼差しで放たれる。
一週間経てばまた逢えるなどと信じてはいない。しゅっしゅっ、寝床の中からこの音を聴き続ける限り、俺はお前を手に入れられない。これが最後になるんだろう、いつも絶望的に、その音を聴く。
実際には来週はやってくるのだ。職の無い、うだつの上がらない、昏い眼差しのこの俺にも。俺とお前とが唯一融け合える週末は。やってくるのだ。
そんな希望に縋ることを許してくれない、しゅっしゅっ、音を俺は今も枕の上で聴く。
「ようこそ」「風」「壁」
アナボッキン☆
トロンボーンを見つけた。吹いてみるとへんてこな、涙の音がした。
ちょっと一曲演奏しようかと思ったけれども、やっぱりやめておいた。
もうずっと何年も吹いておらず、腕も鈍っているだろう。きっとますます気落ちするだけだ。
目元に手をやると、しずくに触れた。
失恋すると部屋を片付けたくなるというけれど、これまた妙なものを見つけてしまった。
ようこそと歓迎する気にはなれない。だが事実として目の前にあるのだから、何とかしなければ。
押し入れの奥を探っていたので、部屋中に埃が舞っている。
窓を開けると、三月の風が吹いてきた。春のにおい。
トロンボーンをどうしようかと考える。
確か二十万円ほどもした。それだけでもゴミとして出すには抵抗がある。
しかも、これを捨てるということは、トロンボーン奏者を目指した青春を捨ててしまうことじゃないかなんて思えた。
あのときは楽しかったなあ、と思い出す。
今思えば自分の実力も知らず無謀だったけれど。
目標を達成できなかったときは、やっぱりうちひしがれる。
けれども自分の決めた目標を目指す自由があった。
今みたいに周りに振り回される、川に浮かぶの木の葉とは違っていた。
指先を擦り合わせてやる。さっきの涙はすぐ蒸発して消えた。
かつて目の前にあった壁は、それに背を向け振りかえれば、後ろを支えてくれているらしい。
「天国」「あなた」「つらい」
437 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 15:14:28
彼とはもう半年も会ってない。電話もメールもつながらない。でも今でも彼のことを愛しているし、彼も私のことを愛しているであろう自信がある。
手紙を書こう。今時少し恥ずかしいが電話やメールより自分の気持ちが伝わる気がする。でもなんて書けばいいのだろう。半年分の気持ちを伝えたいが、あまり自分勝手なことを書いて彼に嫌われるのは嫌だ。
結局とても質素な手紙になってしまった。
「天国のあなたに会えないのはつらいです。」
「絵の具」「カレンダー」「強制」
438 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/10(月) 15:19:54
幼稚園の発表会です。
太郎くん。
お母さんに捧げる作文読みなさい。
「お母さんご苦労さまです」
水につけた筆先から絵の具がパッと広がるように噂はすぐクラスを越えて伝わったようだ。隣のクラスからアキラが来てトイレに行って空いていた隣のマサルの席に座り、机と椅子の背に肘をかけて、顔を近づけてきた。
「ミキと別れたんだって」
目を輝かせている。
「ああ」
「なら、俺がもらうぜ。いいんだな」
沈黙が流れた。
想像通りの問いかけだったが、答えがすぐには出てこなかった。いいも悪いもない。もうなんの関係もないんだから。そのくらい分からないのか。その問いに俺が答えるべき言葉はない。沈黙の中、開いていた文庫本から目をあげるとアキラの不安そうな顔があった。
「俺には関係ない」
ずいぶんと落ち着いた声が出ていた。
「お、おお、そうか、分かった」
何が分かったのか分からないような、はっきりしない返事をしてアキラは立ちあがり出ていった。
そのあとは誰も何も話しかけては来なかったが、アキラとのやり取りについて、何か弁明を強制するような暗黙のプレッシャーが降り注いでいるように感じていた。
でも俺には言うべきことは何もないんだ。
文庫本を開いたまま、壁にかかったカレンダーをみつめていた。今日の日付を探していた。けれどいくら探しても見つからない。今日はいつだっけ。いったいどうなってんだ。
分かった分かった。そう心の中で呟きながら目をつぶり息を深く吸い込んだ。
始業のチャイムがなった。みんなが席につく音がする。
俺は目を開けて一人立ち上がり教室をあとにした。
気合い キウイ 気負い
「キウイって鳥、知ってる?」
唐突に私がそんなことを言ったものだから、母は変な顔をした。
「ニュージーランドに生息する、茶色くてまんまるい鳥なの。
紀元前に出現したすごく古い種だから『生きた化石』って呼ばれてたりするのよ」
「まるでママみたいだって、あなたはそう言いたいのね」
母は私から力なく目を反らす。私はびっくりした。
「ああ、そういう考え方もあったのか。今気が付いた」
母はバリバリの根性論信者。「今の選手は気合いが足りない。ママの時代は」が口癖だった。
私が大会で思うような結果を出せなかったとき
全ては私の気合いが足りないせい、努力が足りないせいになった。
私はいつも、母の期待に応えたかった。
「あのね、ママ。キウイは飛べない鳥なんだよ。紀元前からずっといる鳥なのに
とうとう飛べるようには進化しなかったの。何百年、何千年経っても」
時計を見る。記者会見まであと一時間。
私はみんなの前で、次の大会を棄権すること、そして引退することを伝える。
きっと大騒ぎになるだろう。私と母は、マスコミには人気だったから。
「たぶん、私はキウイだったんだね」
今、私はとても穏やかな気持ちでいる。何の気負いもなく、笑っていられる。
「でもね、私、ママの考え方きらいじゃなかったよ。
努力と根性でいつかきっと辿り着けるって考え方」
母はハンカチをぎゅっと握り締めたまま、うつむいて何も言わない。
「だって、天才じゃない私でも夢が見られたから」
手を伸ばし、震える母の肩を優しく抱いた。
私たちは、夢見がちなキウイの親子。長い夢を見ていた。
だけどそれは楽しい夢だった。ねえ。それでいいよね、ママ。
「放課後」「宝塚」「ロマンス」
放り投げたシュシュは軽すぎてあまり遠くに飛ばなかった。
課題の上にうつぶせる。水彩絵の具の匂いに横を向くと。白いシュシュが床に落ちるところだった。
後一時間で下校時刻。一人きりの放課後は、なんて長い。
宝物だったシュシュ――あやめにもらった大事なそれを、足を伸ばして踏みつけた。
塚本あやめ。綺麗な名前だ。宝塚の役者さんみたいだと言った私に「『鈴子』も素敵だよ」。返事の笑顔で恋に落ちた。
ロマンス、と代名することのできない恋。女同士というのを抜きにしても、あやめは酷い恋人で、私は弱い人間だった。
マリンブルーの絵の具が薄く滲む。彼女に作られた色々な傷、彼女の吐いたたくさんのウソ、彼女がくれた唯一のプレゼ
ント。私は目を閉じた。瞼の裏は真っ暗だった。立ち上がり、ドアのそばに寄る。手探りで。
スイッチを探し当て、消した。目を開けて、薄汚れたシュシュと、皺の寄った青空の絵と、窓からの光をじっと見つめた。
寂しい、悲しい景色。でも、私にはなんでもなかった。あやめの綺麗な下半身にあれがついている景色より、酷い光景な
んてあるはずがないのだから。
「聖書」「二時間後に」「螺旋階段」
442 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/16(日) 02:23:33
週末age
タエコさんは、いきつけの居酒屋で働いているすこし変わった人だった。
五十代か六十代か、年のころははっきりしない。
夏でも冬でも暗い色の和服を着ていて、白髪まじりの髪はひっつめにしていた。
油紙のような渋色の肌が、骨ばった頬にはりついて、お世辞にも綺麗な人ではなかった。
てきぱきとタエコさんは僕らのオーダーを通し、厨房でも働き、飲み物や料理も運ぶ。
カウンターとテーブル席が三つの小さい店では、僕らの話もつつぬけだったから、
手の空いたタエコさんは、僕ら若造の愚痴に辛口の合いの手を入れた。
海千山千は、タエコさんみたいな人を表現するのだと学校を出て二年目の僕は思った。
タエコさんが亡くなったことを知ったのは、その店が臨時休業した翌日だった。
僕らは一瞬しんとなった。普段喋らない大将が、タエコさんのことを話す。
店が入っている雑居ビルの一室に住んでいたこと。郷里には息子さんがいたこと。
遺品からは聖書が出てきて、洗礼を受けていたのを知ったこと。
二時間後には、タエコさんの息子が挨拶に来ると聞いて、僕らは好奇心から低い声で
どうでもいい仕事の話を続けた。
ビル外の螺旋階段を降りる足音が聞こえて、店の引き戸がからりと開いた。
黒い礼服のままの小柄な男が、頭を下げながら店に入ってきた。
大将と小声で話し、何度も頭を下げあっていた。
彼はやがて僕らの陣取ったテーブルの前にもやってきた。
「父が生前大変お世話になりました。ありがとうございました」
あっけにとられる僕らが何も言えずに頭だけを下げると、息子は店を出て行った。
大将は何事もなかったように、厨房の仕事を続け、僕らの注文を出す。
僕らはもう、何故かタエコさんのことは、話さなかった。
タエコさんは、どういう風に生きたかったのだろう。
生き終えた後は、どこに行きたかったのだろう。
渋茶色の滓が、僕のうすっぺらい心のどこかに積もったような気がした。
DVD ダイレクトメール 鎮痛剤
ダイニングテーブルの上のダイレクトメールに埋もれたママからのメモを探し出す。
これは、私が学校から帰って一番にしなければならないことだ。
ちょっとうっかりなところがあるママは、いつもお出かけ直前になって、私への伝言
を思いつく。それは大抵、もう、家をでなければならない時間の直前で、仕方なく彼女
はそこらへんにある広告やダイレクトメールの封筒に走り書きを残す羽目になる。
保険会社、銀行、新聞社、ママがこの前の夏に新作のワンピースを買ってはしゃいで
いたお店からのダイレクトメール。そして、保健所からのお知らせの封筒に、あまりき
れいとは言えない文字が並んでいるものを見つけ出した。そこには、今日の帰宅が遅く
なること、冷蔵庫に雄藩が作りおいてあること、戸締りをすること、夜更かしをしない
こと、ちゃんと勉強をすること、といつも通りのことが羅列してある。
私は代わり映えのない内容に、小さく鼻を鳴らして、その封筒をダイレクトメールの
一番上へ放った。そのまま、冷蔵庫の扉を開ける。上の段には私の嫌いなポーク・ビー
ンズ。私は顔をしかめて、音を立てて冷蔵庫を閉めた。
スクール鞄の中から幼馴染のニナから借りたDVDを取り出すと、そのまま鞄をソフ
ァに放り投げて、テレビのスイッチを入れる。彼女のオリジナルなのか知らないけれど、
そのディスクは一般に売られているもので、ラベルも何も貼ってない。私は軽い気持
ちでDVDレコーダーにディスクを挿入した。無視の羽音みたいな小さな稼動音が静か
な部屋に響く。
しかし、すぐに液晶テレビの黒い画面に光が入って、柔らかな波の音と、青い空の映
像が流れ出した。
去年の夏に、ニナと二ナの家族と私の家族で行った南の島の映像だということにすぐ
に気がついた。走り回るニナと私の姿。パラソルを差したニナのママ。録画しているニ
ナのパパは声だけが時折混じる。そして新品のワンピースの裾を翻す、私のママ。
ソファに沈み込み、ぼんやりとそれを眺めていれば、不意に、こんこん、とベランダ
のガラスを叩く音。
カーテンを開ければ制服からパーカーに着替えたニナがいた。
私が鍵を開ければ、ニナは私が何か言う前に、それでも一応「お邪魔します」と前置
きして、勝手に上がりこんでくる。
「あ、DVDもう見てる。一緒に見ようと思ってきたのに」
少しだけ非難するように、ニナは私を軽く睨んできた。私は肩をすくめた。
二人でソファに並んで、テレビを眺める。
この旅行はとても素敵だった。南の小さな島にママと私とニナと、ニナの両親。昼間
は海で泳ぎ、夜は星を見上げた。
素敵な思い出しかないのに、なのに、私は少しだけ気分が悪くなって、頭を抱え込む。
「頭がいたいの?」
ニナの言葉に、私は小さく頷いた。ニナはごそごそとパーカのポケットを探り、小さ
な銀紙に包まれたものを取り出した。
「はい。痛み止め」
彼女が差し出すそれは、どう見てもチョコレートだ。大手製菓会社の看板商品で、私
の好物でもあるのだから間違いない。訝しげに見返せば、私が言わんとすることを、ニナ
はわかっているというように頷いて見せた。
「悲しいときには甘いものが一番効くの」
本当よ、タロがいなくなった時、リサがくれたチョコレートが一番効いたもの。
生真面目な顔でニナは断言して、私の手のひらにチョコレートを乗せた。
タロというのは、ニナが飼ってた犬の名前だ。
去年、彼は天に召された時、ニナは大変塞ぎこんだ。私は彼女の笑顔が好きだったけ
れど、それ以上に、彼女の悲しみを感じ取っていたから、何も言えなかった。ただでさ
え、食の細い彼女はフルーツ・ジュースを口にするだけになり、徐々に青白くなる顔色
が怖くて、私は彼女が食べてくれないだろうかと、気に入りのチョコレートを携えて、
じっと傍にいることしかできなかった。彼女が口を開いたのは、タロの死から三日後の
ことで「ねぇ、そのチョコレート美味しい?」と、ふと思いついたように口にした。私
はびっくりしたけれど、すぐに「私が気に入るくらい素敵なチョコよ」といって差し出
せば、彼女は一粒口に入れてくれたことを思い出す。
私はお医者様からの言葉を聞くように、ニナの言葉に神妙な顔で頷いて銀紙を剥いた。
甘いチョコレートの香りが鼻先を擽る。
「・・・甘い」
カカオの苦味と、砂糖の甘さ。そして何よりも、もうママに会えないことを受け入れ
なければならないことに、泣きたくなった。
ママがいなくなって、一週間目。久しぶりに発した声は、酷く掠れていたけれど、テ
レビから流れる波の音に混じることなくはっきりと響いた。
私は明日、生まれてこの方、見たことのないパパに会うために、遠い外国に行かなけ
ればならない。
その外国は、夏に旅行した南の島よりも、ずっと南にあるらしい。
「リサのパパがいる国もこんなところだといいね」
「そしたら遊びに来てくれる?」
「・・・たとえリサのパパが北極で働いてたとしても遊びに行くわ」
ニナの言葉に私は、また泣きたくなって、でも、今度は我慢することなくニナの腕に
しがみついた。
「桜」 「たまご」 「フェンス」
448 :
1:2008/03/19(水) 14:24:00
「おばさんは」「おばさんは」「おばさんは」
渋いバリトンの声。彼の見た目は全ての平均をとったかのように特徴がない。
「わかってる。綺麗な声だったのでしょう、おばさんは」
「ああ、うん・・・・・とてもね」
桜の木の向こうに校舎が見え、クラブ活動に励む生徒の声が遠くのほうで聞こえる。
土と草の香りの中、スカートを汚さないように気をつけながらしゃがみこむ。
キャベツの葉を一枚めくると小さな黄色い粒が付いていた。ちょうちょうのたまごだ。
小さな立て札に書いてある学級農園の文字がかすれてかなり読み辛くなっているのを
見て言ってみた。
「そろそろ書き直した方が良いんじゃあないですか」
「ああ、そうだね」
キャベツの葉を千切って立ち上がり、彼の方に掲げて見せた。
「青虫って可愛いですよね」
彼は少し凝視すると、合点したのだろう、たちまちの内に深く笑みを作りあげた。
「・・・・・あぁ、本当だ」
449 :
2:2008/03/19(水) 14:24:46
私もにっこりと笑い返す。
「みんなも喜んでくれるといいな」
「きっと喜ぶ、理科の勉強にもなるし。いい発見をしたね」
「ええ、本当に」
「おばさんも蝶が好きだった」
彼は私のいとこで、彼の母親は私の母親の姉だ。
学校を囲うフェンスの外にある学級農園。ここで彼が話すのはおばさんのことだけ。
彼が話すおばさんの話を聞きながら校舎へと向かう。
フェンスを越えたら彼は普通の先生に戻ってしまうのだろう。
ひときわ強い風がふいた。
桜。桜だ。一面の桜。
上も下も右も左もなく、一身に柔らかく舞う桜。
白に、薄く赤みがさした花弁は、手の爪のようだと思う。
あの人の爪が散り吹雪いている。
そこまで思ってから気持ち悪くなって、思考を現実に引っ張り戻した。
「おばさんは手も本当に綺麗だ」
私は憎んでいるのではない。ただ可愛らしいと思っているのだ。
この17歳年上のいとこのことを。
霞 視神経 モデム
> 3: 文章は5行以上15行以下を目安に。
次からは一応テンプレにお目通しよろ
すみません、気をつけます
453 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/23(日) 14:03:16
霞 視神経 モデム
「意味がわからない」
段ボール箱から新品のモデムを取り出しながら俺は口を開いた。
「だからさ」椀に盛った麦チョコを口に運びながら悪友が言い直す。
「あんまりパソコンにかまけるのもどうかなってさ。目にも悪いし、なんかね、視神経がやられるんだって。みのもんたが言ってた」
「そのうちタイピングダイエットを推奨するよ、電器会社がスポンサーになったら」
そこまで言って会話を打ち切り、今度はモニタの箱に取り掛かる。確かに目には悪いかもしれないが、
仕事なんだからしかたがない。この引越しもさっさと済まさなければ今月の生活だって危ういのだ。「はさみ」「ドーゾ」ガムテープを切る。
霞が飛び出した。
玉手箱よろしく開封したダンボール箱から白い煙が湧き上がる。目を丸くしているとどこからともなく声が響いてきた。どこか聞き覚えのある声。
――奥さん、アレね、パソコン! あんな小さい文字ね、読んでると私は目が痛くなってくるんですがね。ナンとびっくり、科学的に視神経に悪いってのがわかったそうじゃありませんか!――
箱の中からラジカセとドライアイスを取り出して、お椀ごと逃走を図る後姿に力の限り投げつけた。
sage忘れた、すいません。
次のお題「蛸」「ネタ」「黒い月」
▲ホームパーティーにて筋弛緩剤を誤飲した。ネタだった。
本当は、飲むフリだけしてトイレで吐き出すつもりだった。そもそも、筋弛緩剤は静脈注射する薬品だと思っていたので、今から飲もうとしているそれが筋弛緩剤だとはつゆとも信じていなかった。
だがしかし。口に含んだそれを誤って、思わずグイと飲み下してしまった私の体を襲ったのは、強烈な痺れと倦怠感だった。
これはまずい、と周囲に救急車を呼ぶよう訴えかけるが、彼らは深い影に覆われた顔に、真っ赤な三日月状の笑いを貼り付けているばかりで、こちらの話を聞き入れようとはしない。
いよいよ、まずい。
かすれてゆく視界に最後に捉えたのは、天井近くでシーリングファンにゆっくりとかき回される薄い煙と、黒い月のようにユラユラと揺れる人々の頭だった。
▲蛸は、蛸壺に填まっていた。私の頭は蛸壺になっていた。遠く声が聞こえる。やがて、冷たい涙がひとすじ流れた。
おうい、とこの世のものとは思えない虚ろに抜けるその声を耳にして、私は宇宙に放り出される寂しさを体感した。
そんなものは、どこにもないのに。
もう一人の私がヘラヘラ笑うと、私も、彼女に倣ってヘラ、と口端を緩めた。
そうだ、蛸なんか食べてしまえ。耳の奥に指を突っ込むと、ぬめぬめと滑る蛸の足を掴んだ。なにくそ、と爪を食い込ませ引きずり出した先から食んでゆく。
わさび醤油があれが、もっと美味しく頂けるが、これはこれで由。蛸は新鮮で、ほのかに潮と桃のような香りが入り混じっていた。
どうやら私は空腹だったらしく、一飲みするたびに、ぐるぐると胃袋が蠕動した。寂しさが、満たされていく胃袋の重みで洗われていく。
△おうい。
目が覚めたのは朝だった。いつの朝かは知らない。
私は布団に横たわっていて、父が無言のまま傍らに座っていた。
いや。「あなたはもう居ません」
彼は、寂しそうな顔をして笑った。それから「良かった」と言い残し、儚く薄れていった。
△ひんやりする畳に足をつけ、障子を開け放つと一瞬、雪が降っているのかと見紛った。
しかしそれは、梅の花びらが春一番にあおられて柔らかく解けていく、初春よりも新しい春を告げる薄桃色の雪だった。
先ほどまでの寂しさとは、少しだけ色合いの違う寂しさに襲われて、私の涙はまた流れた。ほんの、束の間ではあったけれど。
次の三語は「夢」「鴨」「音」でよろしくー
広間は天蓋のようなドーム状になって空にむかう無数の天使が描かれている。中央には円いテーブル
があり純白のクロスが敷かれ、おぼろな蝋燭の灯りをうけている。目の前に用意された鴨の丸焼き
からは動物の臭いがする。私は椅子に座っていた。あたりの静けさは恐ろしいほど。私の他にはまだ
誰も現れていない。
私は何もすることがなかった。かといって何もしたいことがないので、何もしないというのは辛いことだ。
嫌でも身動きしてしまう。しかし、この静けさのなかでは指一本でも動かすことははばかる気がした。
何か、遠くのほうで、何かが床をこする音や食器のカタカタをぶつかりあう音はするたびに、私はほっ
とした。それはここにいるのは私以外にもいるということだからだ。誰かはいるということだ。しかし、
それもほんのわずかな瞬間でしかなかった。また再び永遠の沈黙がおとずれた。鴨からは真っ直ぐ
天井に向かってスジのような湯気があがっていた。
やがて、広間の端の薄暗がり、長々とした黒いカーテンの隙間から人々が現れてきた。男であり、
女であった。私の脇にも何人か座った。人々はささやきあい、まるで噂話でもするかのような、いやらし
い顔をしていた。私の隣りの紳士は赤いドレスの女の肢を撫でていた。
私が横目で見やると彼はこう言った。
「どうしたんですか、あなたはまるで夢でも見ているみたいですね」
私はその紳士の顔を見た。そしてこう言った。
「ありがとう、あなたにそう言って頂けると幸いです」 K
「バスタオル」「国旗」「地下室」
床下には、地下室へ続く階段がある。バスタオルを手に、下る。
灯りなどなく、じめつく空気には黴臭い埃の匂いがする。なにもなくぽっかりと空いた漆黒。
外では雪が降っているだろうか。もうじき、あれが爆発する。
アナスタシア。お前だけが気がかりだ。私が愚鈍で無知なばかりに、不幸にしてしまった。
お前を痛めつけ放置したのは、国だ。私が生まれ育ち、恋をしてお前をもうけた国ロシア。――流行り病、か。
私が与した奴らは私を同胞と見なし、国旗を掲げよ、我らがロシアを我らの手に、と喚いた。
自分のしたこと、しようとしていることを恥じてはいない。ただお前が気がかりだ。
このタオルを抱かねば寝つけなかったアナスタシア。暗闇なればお前の寝顔を思い出すのも難くない。目の当たりにできる。
決して忘れない。だからこそ、私は縛られ苦しんでいる。だがお前の影にではなく、この国に。そう決め込む。
ただ……私はお前のことが気がかりだ。天に見放されはしないか――と。
私はどうなろうと構わない。また、お前以外のものがどうなろうとも。だがここは暗い。
お前を私から奪ったものが許せない。だからこそ、この道を選んだ。
だがこの部屋は狭く寒い。黴臭く、そのくせお前に気に入られたここは、タオル一枚ではどうにもならないほど――寒いのだ。
「推敲」「緑青」「ラプソディ」
459 :
推敲 緑青 ラプソディ:2008/04/06(日) 03:43:48
そこまで明雄を駆り立てたものはなんだったのであろうか。
見上げると下倉山のほうに、境界線を曖昧にしたまま日が隠れるところであった。
足元を見ると昭雄のブルーのスニーカーは反射する光を失いかけ、緑青へと陰影を深め始める。
あぁ、そうだ。あれはガーシュインだ。
音楽の発始点を探し走っていた昭雄は足を止めて目を閉じた。
――ガーシュインのラプソディインブルーだ。
記憶の中のおぼろげな旋律を推敲しながら、耳に流れこんでくる音と照らし合わせる。
コミカルな響きが、13年前の懐かしく、そして忌まわしい事件を呼び起こし、昭雄は
そのまま農道にうずくまった。
「ネズミ」「指の皺」「悪性腫瘍」
460 :
名無し物書き@推敲中?:2008/04/06(日) 06:41:23
指の皺から顔の皺にかけ、大勢のネズミが駆け抜けていく。
ああ、気持ち悪いと思っていると、隣の女に声をかけられた。
「どうかしたの」
ひんやりとした表情が、まるで俺を否定するようにこちらを向いている。
「別に。いつものあれだよ」
「ああ、」と女は言う。「件の悪性腫瘍ね。全身に転移して広がっている」
「ネズミ、と呼んでいる。最近、ちょこまかと動いて鬱陶しいしな」
と俺は言い、それから笑ってみせた。
「もっとも、あいつらの言うネズミより数倍タチが悪い種類のやつだけど」
だから、と女は言った。だから、駆除するわけね。
「ああ、月に頼んだ石っころが、もうじき俺の身体を直撃する。何発も、一定の間隔でもってね。
あいつらときたら、輝いてるものが大好きだから。皆、太陽に向かって逃げてる」
女は、哀れむように目を細め、俺の身体を凝視した。
「光の先には何があるのかしらね」
「さあ、神様でも夢見てるんじゃねえか。ただ、一つだけ言えることがある。それは、」
そこまで言ったところで、頭に小石がぶつかった。叫び声が耳元で響く。
俺は、痛みよりもむしろ感動を覚えながら言葉を続ける。
「ネズミにゃ暗いところがお似合いだってことさ」
「舞台裏」「茶柱」「北向き」
462 :
459:2008/04/06(日) 20:02:02
>>460 おぉ、なんか変だと思った。
青緑じゃなくて緑青ね……
恥ずかしいな
464 :
459:2008/04/08(火) 01:50:27
静代は、鼻先に流れ落ちる汗を、薄汚れたタオルで拭いあげた。
静代の身長は、多少の円背の誤差を無視するならば145cmであった。
この畑で茶摘みをしている姿は、少し離れた場所からは認識できないのだった。
日焼けした鼻に、汗とタオルの摩擦が痛みとして知覚できた。
本能的に北向きに顔を背けると、自らの歪な影と相対することになった。
紛れもなく自分の影であるのに、静代はその影の黒さでもって、己の惨めな人生を
陰鬱なものとして認識せざるを得なかった。動けなかった。
背中の茶籠は、夏の日差しのせいで、揉み出す前から乾燥し始めて軽かった。いや、重かった。今の静代には重たくてかなわなかった。
耳には勢を増す蝉の声。目には鮮やかな緑の段々畑。
南のほうから、孫の声が聞こえても、静代は振り返らなかった。
茶の木がエンタシス柱のように膨満し、姿を隠してくれることを願った。
幸福な家庭。この秋にはひ孫まで誕生するという絵に書いたような穏やかな日々。
しかし、静代は未だに演じているのだった。
みなぎっている昼の舞台裏では、ただ後悔のみに身をやつす老女が一人佇むだけだった。
「1997年」「転落」「月面」
>>463 自分の間違いに気づき呆然とする恥ずかしさを描写してみたぜ
馬鹿にしてくれ
もしもかぐや姫が月に帰らなかったなら、と考えて、よく冷えたリモンチェッロをあおった。
彼女はどんな人生を送っていただろうか。
ぼんやりと考えながら、とっぷりと夜に浸かった窓外の風景を見つめた。
可愛らしいレースのカーテンを引いた出窓の向こうで、
とろとろとした闇の深い空中に、満月がぽっかりとその月面を見せている。
帝に娶られていることは、間違いがないだろうと思う。その先の話だ。
子を産んで幸せな日々を送っただろうか。
他にも女性と関係を持つ夫への嫉妬に苛まれただろうか。
それとも私のように・・・・・・私のように、全てを諦め、受動の歳月をただ流された
だろうか。夫の愛情を溢れんばかりに注がれる、「一番」の座から転落し、
散々苦しんだ挙げ句に、何も望まない人形の様な女になっただろうか。
そうではないと良いと思った。求婚者に無理難題を突きつけ、凛として
全てを薙ぎ払った孤高の姫が、そのようなありふれた、つまらない人生に落ち着くのは
やはり物語として美しくない。
溜息を一つ吐いて立ち上がり、古ぼけた時代遅れのプレイヤーに、カセットテープを
セットした。この様になるずっと前、婚約時代に、夫から贈られたテープだ。
緩慢な動作でスタートボタンをかちりと押す。十年足らずで、互いに何かを諦めてしまった
結婚生活を思う。このテープのように、二人の関係はとっくに古びている。互いの声には
ノイズの雨が入り、心に思うことは伝わらない。
漸く、曲が流れ出した。1997年、婚約指輪を贈られた年の、しっとりとした、
ヒットナンバーだった。
「眠る」「薔薇」「ひかり」
466 :
465:2008/04/08(火) 13:55:16
『ぼんやりと考えながら〜』→『ぼんやりと物思いに耽りながら〜』です。
467 :
名無し物書き@推敲中?:2008/04/09(水) 00:29:22
もうここに来てから7年。「今年の薔薇はとてもきれい」幸せそうな声。
1回目の冬は何も考えられなくて、2回目の冬は泣いているうちに終わり、そして眠った。
3回目の冬
自分がおかれた状況に思いをめぐらせてみた。
暗くてじめじめした場所で「私はどうして身動きできないのだろう?」
「私はどうしちゃったんだろう?」不安になるばかりで、その冬は何もわからないままで終わって、また知らぬ間に眠ってしまった。
4回目の冬
私の置かれた状況が少し見えてきた。胸にも首にも太ももにもわたしの体のあらゆる場所に何か巻きついていた。
「誰か助けて」ざらざらしたものが口に入ってきて、わたしの声は声にならないまま暗い場所に吸い込まれていった。
5回目の冬
聞き覚えのある声が聞こえた。
この声。この優しい懐かしい声。私の心も体も反応せずにはいられなかった。
「結婚しよう。ここに僕たち二人の家を建てよう。」
ああ、そうだ、思い出した。
彼は見晴らしのいいこの高台でプロポーズしてくれたんだ。早く返事をしなくては・・なのにとっても眠い。
春工事が始まり、夏彼と私のふたりのおうちは完成したようなのに、私は眠くて闇の中で、彼の笑顔を見ることができない。
6回目の冬、彼の声。
「きみとおなかのなかの子供にクリスマスプレゼントだよ。一緒にくらそう」 優しい声。懐かしい声。
「ありがとう・・・本当にプロポーズされた場所ね。ここであなたと暮らせるなんてとても嬉しい」
誰の声?わたしではない誰かの声。
闇の中で私の耳に響く誰か知らない女の幸せそうな甘い声。
7回目の春、
468 :
名無し物書き@推敲中?:2008/04/09(水) 00:45:00
7回目の春、わたしはすべてを思い出した。
あの日私は大好きな彼のプロポーズの言葉にうなづいた。
そして「プロポーズ成功記念に植えよう」と言いながら
彼が手渡してくれた薔薇の苗を植えていた。
振り返ったとき、彼が「ごめん」って言って
スコップを私のほうに振りかざした。そして寝てしまったのだ。
ここで待っていたのに、すっかり忘れていた。
ひかりが差してきた。眠るのはもう終わりにしよう。
今年の薔薇はきれいでしょう、ねえ、愛するあなた。
469 :
名無し物書き@推敲中?:2008/04/09(水) 00:52:17
長すぎました。初心者ですみません。
次の三語は
「桜」「カレンダー」「忘れ物」でよろしくお願いします
カレンダーをめくる。青々とした葉の樹木の写真が、4月の文字と共に現れる。
春という季節が来ると、彼女のことを思い出す――
抱きしめると、彼女は口から鮮血があふれ出させた。暗闇のなかでも映えている。
彼女は口をぱくぱくと動かす。涙ながらに僕は耳を寄せる。
「私を忘れないで……。私だけを見ていて……」
僕は彼女を見つめた。彼女はゆっくりと手を伸ばし、僕の左眼に触れた。
そっと桜の花びらが彼女の唇に舞う。彼女が僕の左眼を潰す。
ぬるりとしたものが僕から彼女の手を伝う。涙だろうか?
彼女の手が眼から離れていく。地に落ちる前に、胸でその手を受け止める。
苦痛にうめく。僕は花びらを手に取り、キスをした。涙が彼女に落ちた――
温い風が窓から吹いてくる。カーテンのなびく窓の先には、梢と花びら。
遠いのか近いのかは相変わらず判然とせず、まだ乾いてたままの風が右眼をなでる。
傍らに置いた写真立てには、二人並んだ写真とあの花びら。桜色というより、黒茶けた赤色の。
キッチンから僕を呼ぶ声。それに応えれば、胸に沸く妻との幸せ。
君が残したのは、左眼の痛痒。僕の忘れ物は、君への気持ち。
「回し蹴り」「フレンチキス」「押っ取り刀」
「長らくお待たせしてしまって申し訳ございません」
弁護士は助けとなるべく男の前に腰をおろしたわけだが、容疑者はふと考えながら指先でカチカチと机を
叩くだけだった。そして何度も逡巡している様であった。が、やがて沈黙は破られる。
「問題がある」
その言葉に弁護士は男を見やって肯いた。しかし男が言っていることを理解した訳ではなかった。
それでも弁護士は何度も肯いた。まるで犬が飼主にへつらうように。
「僕は暴行され、あげく蹂躙された。でもこの状況から抜け出すには罠からまずぬけねばならない」
「罠?」
「奴は僕に暴行をした、こうつけ加え。『回し蹴りだ』といい、そして『フレンチキスよ』といって僕を蹂躙した」
「はぁ(わけがわからんが)。奴とは女ですか?」
「わからない。が、それは重要では無い」
「そもそもあなたはあなたが被害を受けたとおりに法廷で話していただければよいのです」
「それは正式な話になりますね?」
「そうなりますな」
容疑者は憮然と頭をふった。弁護士はまるでお手上げだといわんばかりに肩を落とした。
「僕はそれを正式な形で証言しなければならない、ですね?たとえば輪姦された女性がそうであるように」
「致しかたない事情だ。でもあなたに何の問題が?」
「僕が正式に証明するには《回し蹴り》と《フレンチキス》と述べなければならない。裁判の性格上、
一字一句違っては駄目だろう。しかし、そう申しあげたとたんに間違いが生じる・・・」
その時、弁護士の携帯がなった。「失礼・・・」弁護士は電話口を隠すように容疑者に背を向けた。
しばらくして電話を切り、そして沈黙をした。
「隠していますね」弁護士は唇をあまり動かさずにいった。その結果、言葉は壁から聞こえてくるようでもあ
った。「弁護には真実と正確性が辻褄の不都合を許されませんが、あなたはその必要を感じませんか」
「密告があった、というわけか。でもあなたからは告げられぬ、と」
「あなたは容疑者であり、私は弁護士だ。正式に依頼をしたまえ」
「ああ、押っ取り刀、忙しき弁護士殿・・・」 ところで弁護士は苦笑した。そして彼が告げた。
「裁判はここで結審す、被告に有罪を宣告する!」
・・・正式に依頼はした、だがそれは依頼だけである。証言は・・・ K
「綿棒」「オフィス」「裸足」
友達は「プログラマーなんてオタクぽいし、汚そう」なんてばかにするけど、彼は違う。
身なりはいつも綺麗だし、刈り込まれた短い髪はいつもサラサラしてる。それに爽やかな笑顔、
何よりまじめで熱心なのだ。潔癖症な私には理想の彼なのである。
私は、そんな彼に告白しようと、彼が一人で残業する日をまっていたのである。
そうしてついに結構のときがきた。時刻は夜の十時。私はいったん家にかえり、身なりを整えて会社に戻ってきたのだ。
経費削減のためだろう、明かりが絞られた廊下をすすみ、彼がいるだろう部署の扉の前まできた。
そして、覗き窓から彼がいるかか確認した。十畳ほどのオフィスの中に、デスクと椅子が綺麗にならんでいる。
彼はどこだろうと、つま先立ちしながらオフィスの中を覗く。
するとそこに彼がいた。ドアノブに手をかけてあけようとしたその時、彼が椅子をまわしてこちら側をむいた。
びっくりして私は固まってしまい、部屋にはいるタイミングを失ってしまう。
彼は椅子に座ったまま、右足首をもう片方の膝の上にのせた。そして靴を脱いだと思うと、猛烈な勢いで掻き毟った。
しばらくして、落ち着いたのか掻き毟るのをやめた彼は、なにやら引き出しからチューブのようなものと、麺棒を取り出した。
そして、チューブを絞り、中身を麺棒にからめている。彼は、靴下を脱ぎ捨て、麺棒で足の指の間をなぞりだした。
その時の彼の煌々とした顔といったら――
私はしばらく彼のそんな姿を見て、そのまま家に帰ると、友達に電話した。
「彼ったら! 彼ったら! 麺棒で足の指を掃除するぐらい綺麗好きなの!」
「梅雨」「傘」「駅」
すまん、キーワード入れ忘れた。ついでに修正・・・。
友達は「プログラマーなんてオタクぽいし、汚そう」なんてばかにするけど、彼は違う。
身なりはいつも綺麗だし、刈り込まれた短い髪はいつもサラサラしてる。それに爽やかな笑顔、
何よりまじめで熱心なのだ。潔癖症な私には理想の彼なのである。
私は、そんな彼に告白しようと、彼が一人で残業する日をまっていたのである。
そうしてついに決行のときがきた。時刻は夜の十時。私はいったん家にかえり、身なりを整えて会社に戻ってきたのだ。
経費削減のためだろう、明かりが絞られた廊下をすすみ、彼がいるだろう部署の扉の前まできた。
そして、覗き窓から彼がいるかか確認した。十畳ほどのオフィスの中に、デスクと椅子が綺麗にならんでいる。
彼はどこだろうと、つま先立ちしながらオフィスの中を覗く。
するとそこに彼がいた。ドアノブに手をかけてあけようとしたその時、彼が椅子をまわしてこちら側をむいた。
びっくりして私は固まってしまい、部屋にはいるタイミングを失ってしまう。
彼は椅子に座ったまま、右足首をもう片方の膝の上にのせた。そして靴を脱いだと思うと、猛烈な勢いで掻き毟った。
しばらくして、落ち着いたのか掻き毟るのをやめた彼は、なにやら引き出しからチューブのようなものと、麺棒を取り出した。
そして、チューブを絞り、中身を麺棒にからめている。彼は、靴下を脱ぎ捨て裸足になると、麺棒で足の指の間をなぞりだした。
その時の彼の恍惚とした顔といったら――
私はしばらく彼のそんな姿を見て、そのまま家に帰ると、友達に電話した。
「彼ったら! 彼ったら! 麺棒で足の指を掃除するぐらい綺麗好きなの!」
「梅雨」「傘」「駅」
X 麺棒 ○綿棒 これはひどい・・・orz
雨は嫌いだ。
雨が降ると空気は重くなるし、湿気で髪はぐしゃぐしゃになる。
傘を差しても風が吹けば服は濡れるし、歩けば嫌でもズボンの裾が濡れる。
雨が止むことなく降り続く梅雨の時季なんかは、朝がこなければいいとさえ思っていた。
そんな憂いを考えなくなってから、どれほど経つだろうか。
外に出る回数は少なくなり、やがて自分の部屋からも出ることがなくなった。
最初は人の多い駅やアーケードが苦手なだけだったのだが、気付けば人を会うことさえ苦痛になっていた。
何度も季節をやり過ごし、僕は現実から遠くへ逃げようともがいていた。
梅雨が訪れる度、止まない雨は窓を叩き続ける。
その音は、僕は去年と変わらない場所にいるという事と、僕はまた梅雨を迎えたのだという事実を告げている。
僕は少しも逃げられてはいない。閉塞した日常。あの日から何一つ変わらない。
僕にはまるで、朝がこなければいいという願望が、皮肉にも成就してしまったようにも感じられた。
「空気」「木」「暑い」
すべての自転車乗りはマゾなんだろうか?
いや、少なくとも真夏の昼間に山を登ろうとする自転車乗りはマゾの素質があるに違いない。
心理学の授業で人間は苦痛に快楽を覚える動物なんだと教授が言っていた。
私は、それを聴いた瞬間「なるほど」と思った。もちろん上り坂のあの苦痛を思い出してである。
しかし実際に太陽にうなじを焼かれながら動かぬ空気の中、森を越え
こいでもこいでも変わらぬ木位置を見ていると、何が快楽だ馬鹿やろうと
この場に教授がいたら「あんたは何も知らないと」言ってしまいそうになる自分を
発見して気が重くなった。いくら苦痛に晒されようとも自分を見失ってはいけない。
しかし、峠まではなんて遠いんだ。すでに足は硬く悲鳴をあげ腰は自分の肉体とは
思えないような違和感を持ち腕は焼けたようにいたい。
もう。金輪際山登りをやめて都市の運転に徹しようと思う。
そればかりか、今、自転車の向きを変え下ることが出来たらどんなに素敵なんだろうと思う。
努力なんてやめちまえ。暑くて熱中症になるぞ。ただ生きていたって努力するんだ。なんで好き好んで
努力なんてする? やめろやめろ、ふもとまで降りればおいしいビールがのめるぞ。
温泉に入って汗を流そうや。腹だって減ってるだろう? もうお前は十分やったよ。
誘惑が私の心をつかんだ。私は十分努力した。もういいだろう。
体を壊しちゃいけない。ペダルの動きをやめ、アスファルトに足をつけると
そのままガードレールにぶつかって倒れこんだ。
私は自転車を置いたまま坂を見上げる。空は高く白い雲がゆっくり動いている。
降りるか上るか? いや私はここでしばらく目を閉じていたい。
優しい自然の中に身を浸していたいだけだ。
「サラリーマン」「風俗嬢」「学生」
自転車乗りの人がいたら感想聞きたいです。
山を越える自転車乗りをバイクから見ていて自分が
もっとがんばらなきゃと思うことがあるので。
478 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/04(日) 12:57:20
「サラリーマン」「風俗嬢」「学生」
「兄ちゃん、学生かい?」
不意に隣から声を掛けられた。
貴史がうつむけていた顔を上げると、肉体労働者風の中年男がニヤリと笑っていた。
「い、いいえ」
社会人5年目なのにいまだに学生に見られてしまうのはやはり童貞だからだろうか。
貴史は苦笑いをしてまたうつむいた。
「兄ちゃん誰に入んの? 俺、ここの嬢には全部入ってるからお勧めしてやろうか?」
中年男は得意気でそして馴れ馴れしかった。
「あのさ! 勘弁してくんねえかな!おっさんと兄弟とかマジ萎えんだよ!」
前の席に居たフリーター風の若者が振り返って怒鳴った。
「いいじゃねえか! 人類皆兄弟って言うだろ? 仲良くしようぜブラザー!」
中年男は怯んだ様子も見せずゲラゲラと笑った。
それに釣られて今まで無関心を装っていたサラリーマン風の男も笑い出した。
若者も笑い出し、ついには貴史もクスクスと笑い始める。
予約した風俗嬢に想いを馳せられるようになっていた。
次は「ダンベル」「ひざまくら」「火星探査機」
静かな着地だ――。過去6回同様、モニターの主要数値は良好に推移している。着陸時圧力
センサー値は、羽毛が舞い降りたようだ。これが象ほどもある地表探査機だなんて、火星
では露ほども思わないだろう。もっとも灼熱の荒野に思考体がいればの話だが……。
憧れだった宇宙飛行士。人類最遠の地、火星軌道船クルーに選出され1年が過ぎ……、残る
乗員は私一人。ダンベルによる筋トレを欠かさなかったアレスは船外活動中に漂流死。恋人
を失い精神が蝕まれたマーサは、NASA指令による薬物死。そして私は、予定回数分の火星
探査機の維持・管理、及び地球との交信を果たす。……半年後の後任を待ちながら。
軌道船が地球からみて火星の影に入ったとき、交信は出来ない。だから私はマーサの安置室
へ私は足を運ぶ。今宵は窓の外にフォボスが浮かんでみえる。私は彼女の側に跪く。彼女の
肢体の上にこうべを垂れ、神に祈る。
――ひざまくらの姿勢で朝を迎える。
陽光に照らされた地球は、彼女の瞳のように深く青く、とても美しい。
そしてこの上なく巨大な火星の地表は、相変わらずただの乾いた荒野だ。
次は「鼓動」「オレンジ」「ベビーカー」
手に下げた袋の中に沢山のオレンジを抱えながら、ベビーカーを押す母親がいた。
側に連れ添っていた少年は、母親の少し膨らんだお腹に耳をあてながら歩いている。
静かな鼓動――「動いた!」
そう言って少年は瞳をパチクリさせた。
「僕の子供だ!」
母親は頬を真っ赤に染めた。
次は「牛乳」「クリーム」「練乳」
クリームと練乳は、牛乳からつくられる。
僕と妹は、いつも一緒にいた。
練乳の甘みに、クリームは想いを寄せた。とろける味わいに耽溺する。
僕らにとってはそれがごく自然で、過ちだと気づくには遅すぎた。
ミルククラウンはクリームのほうがつくりやすいはずだった。練乳は落ちるべきじゃなかった。
僕は慌ててベランダから下を覗く。飛ぶように階段を下りる。
苺のすっぱさは夢から意識を冷めさせるけれど、練乳はそれをゆっくりと緩慢にさせる。
コンクリート上のその白さは、赤みにまじって幻想的で――悲壮だった。
クリームと練乳は白く、交じれば境はなくなる。
白面に触れた僕の手はそれに似て淡く、消えるなら一緒にと願い――涙が落ちた。
お次の題 「通過儀礼」「コキュートス」「莞爾」
人生におけるおおよその通過儀礼は、何の問題もなくこなしてきた。
特に大きな怪我や病気もなく七五三を迎え、小中とお利口な生徒として卒業し、高校では多少はっちゃけたりもしたこともあったけれど、無事三流の大学に入学して、今は就職することを許して貰うべく、お母さんに電話をしていたところだ。
しかしお母さんは私に「結婚」をして腰を据えて貰いたいらしく、就職なんてもってのほか、と反対されてしまった。
順調な人生の中で初めてぶつかる問題。就職か結婚か――
彼は私より二つ上で、私がキャンバスを見学していたときに彼が声を掛けてきたのがきっかけだ。
私たちが同棲を始めたのはちょうど1年ほど前。彼が大学を卒業し、一年二年と試験を受け続け、やっと中学校の先生になれた頃だ。
公務員といえども新卒の給料は二人で生活して行くには大変なようで、私が就職を切り出したときも反対はしなかった。
しかし、いつも莞爾な笑いを浮かべていた彼が少し悲しそうな顔をしたのがとても気がかりで、まだ就職希望の用紙を提出できずにいた。
そこで背中を押して貰おうと、何事にも寛大だったお母さんに電話をしてみたのだが、そこで返ってきた返事は結婚をしろという言葉。
習い事をするのにも大学に行くことにも反対しなかったお母さんが、今になって私に反対をした。
――ここで就職を押し切ったら、彼やお母さんを裏切ることになるのかな……
『裏切り者はコキュートスで凍り漬けにされるんだぞ!』 昔の西洋かぶれのテレビアニメで聞いた台詞を思い出した。
思い切れずにぼうっと携帯電話を眺めていたら、突然大音量と共に手の中で暴れ出した。
友人の美砂からの電話だった。
「回り車」「遠く」「華やぐ」
からからと、回り車が回っている。
檻の中、ひたすらに走り続けるハムスターを見ながら、ベッドから上半身を起こした少女は口元にはかない笑みを浮かべた。
「おまえはいつも元気ね」
弱々しく、細い声。
青白い顔の少女は、そのまま視線を窓に向けた。
ここからは、うっすらと夜空が明るくなっていることでしか、それとわからないほど遠く離れた神社で行われている縁日。
その縁日には少女も誘われていたけれど、両親の反対でいけなくて。
だから、寂しげな笑みを浮かべた後、少女は檻に目をやる。
「元気でいられるおまえも、きっと私と同じなのでしょうね。……檻の中にいて出ることができないのですもの」
少女の呟きに気づいたのか、ハムスターが動きを止めて少女にそのつぶらな瞳を向けた。
「ふふっ、気にしなくていいのよ」
優しい声で呟きながら、ベッドに倒れ込み、ため息を吐いた。
縁日がどれほど華やぐものか、自信満々に教えてくれた少年のことを思っていたから、当の本人の顔が窓に浮かんだことに驚いた。
「いよっ、今日来れないって言ってたから、土産持ってきたぜ」
来てくれたことが嬉しくて、そっとベッドから起き上がりた少女は華やいだ笑みを浮かべた。少年の楽しそうな笑顔に応えて。
「地鶏」「金色」「盛大」
地鶏。ピコーン! 宮崎県!
思い立ったが吉日。宮崎県へ出発したい俺は、飛行機を乗り継いで地元の空港へ向かった。
地元の空港。そのために飛行機。なぜ?
なぜならば、俺は地元を離れられない(難い)呪いに見舞われている。
呪いは距離を越え、時空を越え、個人を優に乗り越えて大局に作用する。
つまり、俺の地元、俺の家の近辺に住んでいる人々は皆、地元を離れられない呪いを患っていて、隣町にたどり着くまでに数年の時間を要する。
ゴメンね。俺のせいで。
多分、この呪いはコレクティングの呪い。物をコレクティングすること。それは愛だ。
愛しているからコレクティングするのではなく、コレクティングすることで愛が生まれる。
盛大に。分かるだろうか。
キリスト『そのもの』を愛しているのではなく、キリストを信仰している人々、ないしその教え、に感銘を受けたから、いや、止めよう。
、俺は愛をコレクティングしていた。だから、他人を傷つけることもある。
だから、他人から呪われることもある。呪いの数だけ、愛が屍を晒している。俺の背後で。
俺はそれをコレクティングしながら生きて、当然、コレクティングされる呪いも愛す。
愛はすべてだ。だから呪いは、俺を含む俺の半径全域を覆った。
平らな世界に浮かぶ、太陽のように金色に。そう、すべては金色に帰属する。
All in the golden dawn.
ほら、地平線が見えてきた。あれが夜明けだ。俺の町の終わりの始まり。
宮崎県へ至る唯一の脱出口へ、俺の搭乗する飛行機は、王者のように静かに腰を下ろす。
地鶏が、早く、食べたいナァ。
お次は「終わり」「下り」「行き止まり」でヨロシク
485 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/14(水) 14:22:44
「終わり」「下り」「行き止まり」
世界の終わりって信じるか?
そう、世界の終わり。
おしまい。終焉。ジ・エンド。
まあ、お前が信じようが信じまいが、俺が酔ってようが酔っていまいが関係ねえ。
世界なんて終わる時には簡単に終わっちまうんだよ。
楽しかった。ありがとう。さようなら。
この三言で俺の世界はハイ、終了。
大げさだと?
そうかい、そうかい。
なら、試しにお前にもこの世の行き止まりって奴を拝ませてやろうか?
けっ! 余裕かましやがって。
あのな……俺に三下り半くれた女な……、明日からお前の嫁さんだ。
ニューワールドへようこそ、マイ・ブラザー!
次は「あみだくじ」「ゆりかご」「危機管理」
「『危機管理されたあみたくじ的人生を提供します。ゆりかごから墓場まで』
日本とは、つまりそういう国だベイビー。【2008年】と云う定点は、昭和天皇がご崩御されてから十九年! という二点間距離をとるロックンロール。
歴史に帰属すべき、我々のスタンスはZ軸を放棄して、Y軸すら放棄しつつある!」
とか。声明なんてどうでも良かったんだろう。
U-12テロ組織が結成され、U-15自衛軍が結成された現在となっては。
根本から、日本の危機管理能力を疑いたくなるような惨状、すなわちムーブメントが全学徒を覆ったのは、歴史観からして【異種】と表現しても差し支えないだろう。
これは、タームでは無い。これは、ピリオドだ。
来たるべくして、到来した【貴種】流離譚。神卸の儀式。
その頃の僕は、U-12側に属していて、【鉄砲玉、切り込み隊長、人間魚雷】といった物騒な言霊がズラリと並ぶあみだくじの突端をセレクトしていた。
結果、鉄砲玉。
『U-15の砦を単独で攻略しろ!』という無茶な任務を与えられて、それでも意気揚々と出立! ……してはみたものの、土台無理なものは無理だ。やる気だけで、どうにかなる問題ではない。
砦の近辺で、侵入のとっかかりを探してウロチョロしていたところを、自衛軍にとっ捕まり、なす術も無くあっさりと連行され、厳重に拘束。尋問の憂き目に!
でも、僕には秘策があったんだ。
人は歴史に従って生きている。歴史抜きで、人は語れない。
それが例えば、Z軸やY軸を放棄してしまったX軸のみの直線運動だったとしても。
僕らが、貴種で、本来の種から流離してしまった種であったとしても。
【2008年】はいずれ終わる。【2009年】はいずれやってくる。
やがてくる、ある日に。終に、僕は口を割った。
海よりも深く割れた僕の唇は、一つの事実を天に向かって突きつけた。
「ハッピー・バースデイ!」
僕は【13歳】になったのだ。
こうして、僕の中のU-12を支えていたイズムという名の神は死んだ。その、死の一瞬にだけは、確かに神があった。
U-12のためだけに君臨する神が自己に内在し、ピリオドを啓示するのを全身全霊で感じた。あまりにもあっけなくて、笑ってしまった。
「なんだ! まだちゃんとY軸もZ軸も日本に残ってるじゃないか!」
日本とは、つまりそういう国なんだ。ベイビー。
長すぎた・・・反省orz
次は「ロール」「クロール」「スクロール」でヨロシク
ロールパンナちゃんは
クロールが苦手なので、
ネットで泳ぎ方を検索するために
画面をスクロールさせた。
ロールパンナちゃんは泳げるようになった。
次は「山菜採り」「すし職人」「ストレッチ」
かくいう、俺。握れないものは無い。
なんてったって、すし職人だからな。
握らない、という選択は、すし職人である前提に反している。
だから俺は握るし、握る限りすし職人であり、ゆえに握れないものはない。
ある日、客がやってきてね。なんでも火星に山菜を採りに行ってきたんだとかで。
火星産のセリをやたらと持ち込んできてね。大将、ひとつ握ってくれ。って言うんだわ。
で、よ。山菜をパッケージングしてるケースを開いてみたら出るわ出るわ。
そもそも火星は、荒地ばっかりの植物動物不毛の地だからよ。
植物も攻撃的になっちゃって。これ、食虫(獣)植物ばっかりなんだわ。
良く検疫通ったね、っつーと、お客さん照れ笑いしながら、実は野生の火星産山菜を地球に持ち込むのが、宇宙基準法に違反してるとは知らなんだ。
だから、火星オークションで競り落としてきたんだ。「セリ」だけにね。ははは。
なんつって。まぁ客は笑ってりゃ済むけどさ。
俺は、うーん困ったね。とか正直、思ってたけど、ここで握らねぇとすし屋の名折れだ。っつーんで、まず目利きよ。
これがね、意外と握れそうだったんだわ。火星産のセリ。
生きたまんま天麩羅にして由、湯通しして由。
あとは、素直に身が崩れないように軽く握ってやるだけで由。
良し来た。と、俺は意気込んだね。
どんなネタでも眼鏡に叶えば握るのが俺だし、握れないものが無いのがすし職人だ。
まずは全長五メートルはあろうか、っつーセリの首根っこを左手で押さえ込むと、空いた右手でまな板に止めるための釘をセット。
さらに空いた前腕左手で、ハンマーを持って、空いた前腕右手でまな板を固定。それからひたすら、打つ。
その間に、後腕左手で天麩羅の下ごしらえ用準備。残った後腕右手は、まぁ、ストレッチでもやってりゃ良い。暇なのは今だけだ。
じき、行程が中盤から終盤にさしかかる過程で忙しくなる。
ともあれ、火星産のネタをこの手で握る日が来るとは。
地球もグローバル化、いや、ナショナルスペース化したもんだ。
すし職人だけはいつの時代も変わらねぇもんだと思っていたけど、時代の流れっつーのは恐ろしいねぇ。
次は「遊戯」「経済」「工作」でヨロシク
この程度の破壊工作は俺様にとってはお遊戯同然だぜ!
ここは例のパン工場だ。
こっそり忍び込みポリタンクから灯油を抜き取り
小麦粉を片栗粉にすり替えてやったところだ。
灯油も小麦粉も高騰を続けているから、これは大変な経済的損失だろう。
完璧だ!
でもやっぱり少しやり過ぎかな。
灯油も小麦粉も返してやろう。
はっひふっへほー!
次は「糸こんにゃく」「サンドペーパー」「プログレッシブ」
男は焦っていた。
探す指は緊張と興奮で震えて額には汗が浮かんでいる。
心臓は限界寸前まで鼓動し目は血走っている。
俺はもう駄目なのか? 男はそう思う。
時間が無い、ぎりぎりだ。俺はいつもそうやって生きてきた。
男はそう思った。
「あった!」
男はおもむろに糸こんにゃく袋をボールに出すと
サンドペーパーを広げモニターの前に座る。
男はいつも挑戦してきた。擦るために、新たな開拓者になるために。
「空ちゃん、逝くときは一緒だお、一緒だお、僕らはいつも一緒だおおおおお」
男が一物を握ろうとしたとき我慢し切れなかった
汚液がモニターに飛んでいった。
そう男は早漏だった。プログレッシブではあったのだが、、、
次
男 女 保健室
高校。イン・ザ・アウトサイダー。
良く分からないけれど、と巧君は言う。
「誰かが毎日屋上から飛び降りているんだ。でも、誰一人死んだりしないのは、彼のお陰だ。彼って、誰なんだろう?」
彼。ザ・アウトサイダー。
【性別不明の彼は、果たしてヒーロー足りえるかどうか】
保健室の壁越しに、巧君とチャネリングしてみたりして。結論を導きだそうとするけれど、判明することはとても少ない。
今、私がやりたいことは、保健室がもたらす安心感、閉塞感を母胎に喩え、その内側に存在する私を卵子、外側に存在する巧君を精子とメタファ。
しかる風に、文学的作品を構成。
更にその保健室は、高校という不安定ながらも、どこか抱擁を想起させる父性的男性像を私に思い描かせ(教師がおっさんばかりだからという説もある)、母親は父親の内側で再生する。
マジで!? やっべぇ!
気持ち悪すぎる。胃袋が不気味に蠕動して、あ、これヤバい。リバースだ。
「ゴメン。耳塞いでて。それでも聞こえるかもしんないけど」
あふれだすランチ。洪水のように、なんて美しくない。
さながら、土石流のように。四川省の、あの。
胃が空っぽになっても、まだまだ断続的な嘔吐感のアフターショックに襲われながら私は、バケツの底に堆積した酸味臭の黄色いゲルを見つめながら理解する。
「たぶん」
「たぶん?」
「本人は、どっちだって良いんだと思う」
「そうだね」
私たちは、私たちの世代は、いつでも自意識が肥大化しすぎている。
次は「ロン」「パイロン」「二元論」でヨロシク
494 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/17(土) 21:33:11
朝鮮人民軍空軍第三師団所属、
金龍(キム・ロン)は、
を、黄海南道海州市上空を、
中国軍から譲り受けた愛機、
強撃5で爆撃機とは思えないほど静かに、
落ちるように滑空していた。
いや、実際に機は着実に高度を下げつつあった。
強撃5の動力はすでに停止していたのだ。
離陸直後に、強撃5の支柱(パイロン)には亀裂がはしり、
時速200kmに達したころには、
パイロンにとりつけられていたエンジンにまで、
支障が出はじめていた。
その時点で龍が気づき、速やかに帰還すれば。
普通なら起こり得ないはずの事故だったのだ。
パイロンの亀裂にも、エンジンの故障にも、
あらゆる計器は異常を示すことはなかった。
ようやく、
機体の異常と絶望的状況であること悟った龍は死よりも、
これから起こりうるであろう惨劇に、恐怖した。
世界から見れば、龍の祖国は明確な悪だろう。
だが、龍はそんな二元論的な思想はもちえない。
悪も善もなく、ただただ祖国のために。
死など恐れていなかった。
最後は祖国のために死にたかった。
それが、どうして・・・
ただ静かに、龍と爆撃機は本来の務めをはたすことなく、
黄海南道海州市に落ちていく。
亀裂の走ったパイロンに、核を抱いたままに。
次は、大正・パソコン・F15Eストライクイーグルで。
「大正」「パソコン」「F15Eストライクイーグル」
「F15Eストライクイーグル!」
ピンポーン♪
「大正解!」
「商品はパソコン一年分です!」
「やったー!」
NEXT 「運転手」「4分33秒」「自由の女神」
タクシーの運転手に金を放って、僕は必死に走りだした。
今日は彼女の初の演奏会。しかも、NYのカーネギーホールでのデビューだ。
自由の女神の前で必ず行くと誓ったのに、遅刻するなんて情けない。
案内係を無視して、飛び込んだホールは静まりかえって、その場にいた誰もが冷たい目を向けてきて、彼女が苦笑を向けてきた。
椅子に座って鍵盤に向かうだけで何もしていない彼女。
……ジョン・ケージの4分33秒の演奏だったのだと気づいて、恥ずかしさのあまり僕は地面に座り込んでしまった。
次 ジョッキークラブ チョコレート フランス
497 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/19(月) 15:40:41
遠くから、シャンパンの栓を抜くような音が断続的に聞こえた。フランスのとある田舎町。ここから程ない場所に
いわゆる『西部戦線』の塹壕帯がある。時は1918年、第一次世界大戦の真っ只中だった。
日本陸軍・神崎大尉は木で出来た粗末な椅子に腰掛けながら大隊長を待っていた。
制服は泥にまみれ、顔は青白くやつれていた。故郷に帰れば数々の縁談が舞い込む神崎だったが、今の風体
では場末の娼婦も顔をしかめるだろう。神崎は目の前の壁に掛けられた鏡に写る自分を見て苦笑いを浮かべた。
「待たせてすまん、神崎君」
執務室から出てきた大隊長は制服のボタンを掛けながら神崎に声を掛けた。神崎はまっすぐ室外へと歩き去ろうと
している大隊長の後に従った。野戦車に乗り込み村を出た頃、大隊長は始めて口を開いた。
「ジョッキークラブの馬鹿どもがな。また攻勢を企図しとる」
神崎は大隊長の言葉に唖然とした。大隊長は歌うように言葉を続けた。
「あのアホども。チョコレートの舐め過ぎで頭の髄まで甘くなっとるんだろう。葉っぱが入ってこないからってな。止めたる。
その為にお前を呼んだ。わしらは日露の敗戦で勇猛と無謀の違いを学んだ。今度はあいつらに教育する」
神崎は203高地で叔父を亡くしていた。大隊長は奉天会戦の壊走で父親を失っていた。無意味な突撃に何の意味が
あるのか。日本陸軍はそれを学んでいた。ともかくも、攻勢など馬鹿げている。ソンムを忘れたのか?
神崎は憤っていた。
5年ぶりくらいに参加します。うーん、落ちてねぇ。
お題は継続。『ジョッキークラブ チョコレート フランス』でお願いします。
「ジョッキークラブに案内して欲しい」青年騎手がそういって案内されたところは、
チョコレートの香りがする不思議な一軒家だった。彼は戸惑いつつも家の扉を押した。
中は喫茶店のような佇まいで、皺くちゃの老婆が三人、卓について何かゲームを広げている。
一人が振り返り、青年にむかって微笑んだ。あらお若い方、このお方?と、あとの二人は
ひそひそと囁き合っている。どうみても彼女らは騎手ではなかった。
「ポン・ジュース」一人が手を挙げて笑う。
「やあね、そこはボン・ジュールよ。あなたきっと落第するわよ」
「そうだったかね、ヒヒヒ。おフランスは難しいね」
うしろの二人が擦れるような声で笑い出した。怪しい。実に怪しい雰囲気だ。
「あの、すいません。ここはジョッキークラブ?」
おずおずと訊く青年に老婆の一人が答えるには、
「ええ。ここは魔女ッ子クラブ。みんなジョッキークラブって呼ぶわ」
「魔女ッ子……クラブ?」
青年は混乱した。案内人め、間違ったな。
「あのすいません、来るところを間違えたみたいで」
「いいえ、ここでいいのよ。わかってたんだから」
「わかっていた?」
「ええ。そこのお婆さんが振ったサイコロのおかげで、あなたは幸運を授かるチャンスを得たの。よかったわねえ」
「あんた、今年のリーディングジョッキーになれるよ」
青年は戸惑った。これは新手の詐欺だろうか。よし本当だとして、代償はなんだ? 魂か?
「いえ、遠慮しときますッ」
青年は扉を押し開けると、逃げるようにしてその家を去った。あとには三人の魔女が残された。
「あーあ、またあたしの負けか。説得に成功すれば、コマを三つ進められたのに」
「下手に貫禄を出そうとしたのがいけなかったのかなあ」
老婆らが背筋を伸ばすと、その姿がスミレ色の制服に身を包んだ少女達に一変した。
ひとりが卓上に広げた双六のコマを摘んで、壺に入れたサイコロをカラカラと鳴らし始める。
「なんにせよ、まだまだ未熟者ってことよ。ああいう男を騙すには、もっと凄みのある姿が必要ってこと」
「あーあ、あと二年で立派な魔女になれるのかしら……」
→次「華厳の滝」「手羽先」「テニス」
スープ。愛情をスパイスに加えると、旨みが増すらしい。
死ねばいいのに。いや、誰とは言わないけれど。
スープ。その旨みを、キチンと構成したいなら、手羽先というチョイスはグッドだ。ベリーグッド。軽く炒めたタマネギも一緒くたに煮込むと、なお良し。
コンソメは? とか、言い出す馬鹿は死ねばいい。
姉が。そんな理屈を振り回していた姉が、華厳の滝に特訓へ赴いたのは、二月も前のことだ。
お陰で、我が家には平穏が訪れ、俺は手軽にコンソメで淹れたお手軽スープを飲んでいる。やっぱり、コンソメ+卵がベストチョイスですよねー。
それにしても、華厳の滝ってどこにあるんだろう。
聞いたことはあるんだけど。行ってみたいとも思うんだけど。場所が分からないから放置。
そして、携帯が鳴る。ランボーのテーマ。姉だ。
平常心。取り戻したぜ、平常心。
やっぱ平常心がないと駄目だよな。不安定なんだよ。
インバランスっつーの? ディソーダーっつーの?
ふらふらしてんのは、良いんだよ。でも、根っこがないのは駄目なんだよ。わかるかな。わからんかな? わからなくてもいいよ。アンタはまだ子供だから。
ふふふ、姉ちゃんは一足先に無敵になったぜ。
無敵。
姉の電話は、そんな益体もない一単語を、天啓のように俺にもたらして、プツリと切れた。
無敵。良い言葉だ。姉の言葉は、なぜか俺に活力を与える。
俺は、自室の片隅に立てかけてあるテニスラケットに触れ、指先が真っ白になるまでガットを掴んだ。それから、自分に、言い聞かせる。
俺は、子供だ。だから、根っこがないかもしれない。でも、俺には、無敵の姉が居る。そして、この身には、姉と同じ血が流れている。
指先をガットから解くと、急激に血液が流れ出し、皮膚の裏を真っ赤に染めた。
ラケットをケースに収め、俺は「よし」と小さく呟く。
今日は、試合に最適の日だ。
次は「無敵」「根っこ」「子供」でヨロシク
走り疲れて、どこかで休みたいと感じた。目をやると公園があった。あいつと昔よく遊んだ公園。今は子供が無邪気にはしゃいでいる。
「オレは正義の味方ジャスティだ!」
ガキ向けの番組でも見たんだろう、何人かで敵と味方にわかれて戦っている。
「違うよ! ぼくが正義の味方だよ!」
「なにいってんだよ、弱いヤツが正義を名乗れるわけねえだろ!」
ベンチに腰掛けながら、ガキたちの笑顔がだんだんと苛ついてくる。ハイハイ、正義ね。
「もう! ケンカすんなよ!」ガキのうち、聡明そうな一人が叫んだ。
『大切な人を守るのが、正義の味方だ!』
いつかの記憶と重なる。一瞬、呆けてしまっていたが、すぐに怒りが湧き上がる。走り寄り、そのガキの腹を膝で蹴る。ガキは吐いた。
「なにが正義だ。大切な人を守るだ。できもしねえこと言ってんじゃねえよ」言葉を吐く俺を、ガキが苦しそうに見上げる。
「お前も俺も、矮小な人間だ。できることとできないことの区別もつかない、愚直な人間なんだよ」
ガキを地面に捨て置き、公園を出て行く。休むには場所が悪い。とにかくここを離れなければ。
なにせ俺は犯人らしいから。幼馴染みの女性を殺そうとした悪辣な警察官という凶暴な犯人らしいから。
Next 「氷筍」「」「アウフヘーベン」「あえか」
501 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 03:05:01
あえか、氷筍、アウフヘーベン
「おい、おまえのエッセイのここ、あえかって言葉あるけど、どういう意味だよ」。
執筆の邪魔をされていらだった美依子は、夫の衛雄に毒づいた。「あなたってほんとうな教養のある人よね。編集者の鑑だわ。あえかはあえかよ。それくらいもわからないの?。だいいちなによそれ、氷筍?。缶チューハイなんか飲んであなた、それ、半分が砂糖よ」。
「おまえこそアウフヘーベンなんて高いブランデーがぶ飲みしてるじゃないか。俺がわかるわからないって言ってるんじゃないだろ。読者に通じるかって言ってんだよ」。
「通じると思いますけどね。あなたにはそうは感じなかったわけね」。美依子はそう言ってアウフヘーベンをあおった。
「私はただ編集者としてだな――」。
「なに?」。
「えっ?」。
「あえかの意味よ。はい、この場面よね。“氷点下20度の洞窟内はしんとしていた。岩肌は、あえかな――」。
衛雄は氷筍の缶をテーブルに叩きつけるように置いた。「自然に包まれるような、だ」。
「包まれるような?」。
「そうだ。一部の読者はそう思うだろう」。
「あなた。あえかってのはねえ」。美依子はそう言いながら辞書を取りに仕事机に戻った。「身が引き締まるようなでしょう。自分で辞書を調べてみなさい」。
「めんどくさいなあ。えーえーえー。おい」。
「わかった?」。
「読んでみろよ」。衛雄は美依子に辞書を渡すと氷筍の缶を手に取った。
あえかとはかぼそいというような意味である。
「“岩肌にはあえかな、たくさんのつららによる光景が広がっていた”。あえかな光景が広がってたのか」。
「……つららがね。つららがあえかだったのよ。あえかなつららがばーと広がっていて」。
「そうか」。
「そうよ。少なくとも包まれるような感じじゃなかった」。
衛雄はわずかに残った氷筍を飲み干し、美依子はわかってたわよなどと小声でつぶやきながらグラスに新しくアウフヘーベンを継ぎ足した。
502 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 03:07:44
次のお題は
「勝つ」「列」「菊花」
表テーマはさ、勝つために並んだいつかの菊花賞、ぐらいで良いと思うんだよ。問題は、裏テーマ。
俺はさ、裏テーマでさ、ガンダムの話をしようと思うんだ。
この時点で、ネタ的にどんぐらい脱落してるか知らんけど。
1st見ろよ! 1st! あれ、ファーストじゃねーか?
つーか、明日は菊花賞じゃなくてオークスだろーが。
どんだけ先取りだよ! だよ、だよ、だよ……(エコーのまま遠ざかる)
「という怒りを、アウフヘーベン的に抽出しました」
「なるほど。君は、風化してしまう怒りに、インパクトのある記号を付随させることで、一段階上の怒りへと進化させたのだね?」
「はい。ある種、アリストテレスっぽくもあります」
「素晴らしい! だがメタフィジコーは、このスレを観察していれば分かる通り、消費される一方なのだよ?」
「それでも僕は、Bキャンセルを押したくないんです」
「ほほう。欲しがりません、『勝つ』までは。というコトかな?」
「いいえ、キャンセル待ちをするぐらいなら、並びます。『列』に。誰よりも早く」
「ふふ、屍山血河を往く覚悟は既に備わっているということか! ブラヴォー! ならば、君は心ゆくまで男坂を登りつめるが良い。骨は、私が拾ってやる」
「年に一度の墓参りもお願いします」
「いいだろう。ねんごろに弔うよ。お盆には、必ず白い『菊花』を墓前に供えてな」
「お願いします」
遠ざかっていく、後輩(僕)の背中。やがて舞台から退場。
舞台、暗転。二秒後、スポットライトが舞台中央、両腕を天へとかざす先輩(私)を照射。
「書に善美なる魂を見出した若者よ、君の行く手には、幾多の艱難が待ち受けているであろう。しかし、私は、君の幸福を願わずにはいられない」
再び舞台、暗転。ガンダム。
次のお題は「蚊取り線香」「かまくら」「梅雨」でヨロシク
「蚊取り線香」「かまくら」「梅雨」
私は蚊取り線香に、用心深く火をつけた。刹那のうちに燃え尽きる。
舞う風のなかに風鈴は、りんとも鳴らず脆く散る。
いつしか田には黄金の穂が、咲いてはあえなく枯れ朽ちる。
消える間際のあかとんぼは、晩霞の朱をまぶたに馳せる。
子供がつくった白いかまくら。なぜ逃げるよに溶けるんだい。
熊はやがて眠りから覚め、傾れ雪に人はたじろいだ。
萌芽の兆しを知ってか知らずか、空より緑雨が降りしきる。
私の心もつゆしらず、駆けて梅雨と名を変えた。
曇天は遥か空高く、すとんと抜ける青になる。
ひと年はかくも疾きものか。此岸はかくもはかなきものか。
人が死に往く幾年を、数刻に知る身の程に。
Next 「段平」「回向」「ボーゲン」
505 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 22:01:52
ボーゲン、回向、段平
雪山の村落、典念和尚はスキーを履いて檀家回りをする。今日も、すっかり曲がった腰のボーゲンですべる和尚の姿が見えた。
和尚は、とある檀家の庭先にひとつの盆栽をみつけた。養生の上からでもわかる、立派な枝ぶりの松もさることながら、和尚が本当に目をつけたのは鉢の方である。
たいそう立派なしがらき焼きじゃ。せいじさんはなんと罰当たりなことをしなさる……。
和尚は開いた戸からせいじに声をかけた。「おーいせいじさーん。せいじさーん」。
「おやこれは、和尚さま。こんなところもなんですし、ささ、お上がりになってどうぞお茶でも一杯」。
「いや、いいんじゃ。それよりせいじさん、あの松は」。
「あの松?。失礼ですがいったいどれで」。
「あの平段の」。
「平段?」。
「ほれあそこの平段平段」。
「平段平段、平段平段と……ああ、あれでございますか。おや、和尚さま、おわかりになられますか?。心得えがおありでしたとは……」。
「まあ少し。そんなことより、あんた、あれは――」。
「よろしかったらですが、おゆずりいたしましょうか」。
「ゆずる?。いやいや、あれは」。
「もちろんお代なぞは頂けませんです。すみませんがうちにお上がりになって少々お待なさっておいてください。すぐすみますので」。
「いい、いい。せいじさん、あの鉢はな」。
「ええ。その鉢からすぐ移し替えますんで。和尚さま、すみませんがあの鉢は貝原先生のお焼きになったしがらきでして、百万は下らないのでして……」。
「そうじゃ、あれはまさしく貝原先生のしがらきじゃ。せいじさん、あんたは、なんでそんなものを」。
「いえ。実はわけがありまして。たまーに、目敏いものがこの鉢を見つけます。立派な松だ、ぜひ5万でゆずってくれいや10万でも20万でも出すと言うのです。その度松だけお譲りさせてもらってりわけです」。
「せいじさん、あなたねえ」。
「先方さんが自ら望まれるんで。これも回向ってやつでしょうか。さ、和尚さま、移し終りました。あとでお寺に届けにあがらせてもらいます」。
506 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/24(土) 22:08:23
下敷きは「猫の皿」でした。
“返歌”できなかった……。
次のお題、「ボタン、グミ、震災」。
507 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/24(土) 22:12:14
しね、ボタンしね。グミ、まずいよグミ。震災、うざいよ震災。
つぎのお題は、発見、ミステリー、ハンター。
コピペミステリー伊藤のナナハンターボつき一発見せてやれ
次は「ボタン」「グミ」「震災」で。
509 :
奇子 ◆mgv.U.ZFE. :2008/05/24(土) 23:03:04
ハンターがある日森に入っていったんじゃ。なんのためだかわかるかな。
「狼をやっつけるためだね!」
そうじゃ……狼は悪い奴じゃからね。羊を食ったり豚を食ったり幼女を食ったり。
「おじぃさん、僕なんだかどきどきしてきた」
そうじゃろそうじゃろ。
しかしハンターはなかなか狼を発見することができなかったんじゃ。
「羊さんはいたの……?」
いた。わしがジンギスカンにした。
「豚さんは……?」
しょうが焼きにした。
「幼女さんは…?」
おまえのばぁさんじゃ。
「えっと……」
わしの武勇伝になってしまったな。
「どうしてハンターさんは森に入ったんだっけ……?」
そこがミステリーじゃな。そもそもその森は、金塊を奪った強盗が、金品に目が眩んだある男に殺されたことのある、曰く付きの森なんじゃ。しかし殺された強盗のズタ袋には金塊ではなく石の塊が……
おや寝てしまったか。
その強盗がおまえの父さんなんじゃが。
まぁ続きはいずれ……ゴフっ……?!
「ふふふ。毒が効いてきたようだな」
わしに何を飲ませた?!
「我が父の仇!」
ち、ち、違うんじゃ……。よく考えてみるんじゃ……。時系列がおかしいじゃろうが……。実は今の話には一つのトリックを仕掛け……ゴフッ。バタッ……。
「なんだと?!」
(しかし幾ら考えても、答えは永遠に失われたまま)
了
次回
「革命」「サービス残業」「マクドナルド」
510 :
奇子 ◆mgv.U.ZFE. :2008/05/24(土) 23:09:26
次は
「ボタン」「グミ」「震災」
で良いよ。
511 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/24(土) 23:16:42
ボタンってグミに似てるよねと彼女が言った。
震災のとき便利だよとぼくが言った。
つぎのお題は、発見、ミステリー、ハンター。
目の前にちらかっている瓦礫の山を見て、英明は愕然とした。
精魂込めて築き上げ、あれほどまでに偉様を誇っていた彼の城が、見る影もなく崩れてしまっていたのだ。あまりに突然の事に言葉もなく、その場に膝をついた。
世界大戦を経験した彼も、震災には抗しがたい恐怖を感じた。
ボタンひとつで地球を破壊できる人類同様、この地球もほんの少し体を震わせるだけの諸作で人類の営みを根底から覆してしまうのだ。
だが、それにも増して耐え難かったのは、震災に対する自分の認識の甘さだった。上部にばかり気を取られて、その土台がまるでグミのように軟弱ですべりやすいという事にまったく気づかなかった。
仕方ない、もう無くした物は戻ってこないだろう。
英明は半ば自棄ぎみに首をふった。夢も仲間も家族も、戦争で全てを無くした彼が唯一手に入れたものが再建の喜び、そして締観であった。
また一からやり直すしかない。
そう呟きながら彼は腰を屈め、床にちらかったマッチ棒を一本一本拾い集めた。
次は「瓦礫」「地球」「家族」
514 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 06:22:55
瓦礫の下に家族が埋もれているよと彼女が言った。
地球人だねとぼくが言った。
つぎは、発見、ミステリー、ハンター。
ミステリーハンター発見
次は「瓦礫」「地球」「家族」
516 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 08:09:19
発見、ミステリー、ハンター
俺か?。ただのしがない探偵だ。探偵といっても浮気調査が専門で、あとはたまに雑用のような仕事が舞い込んでくるだけだ。別に看板にそうと書いてるわけではないのに。
まあいい。今日はその雑用の方の仕事だ。依頼人は某テレビ番組の司会者だった。
その年齢の割りにはずいぶんとがたいのいい依頼人は言った。「困ってるんです」。
なんでも、依頼人の番組に出ている“ミステリーハンター”なる若い女の一人が、収録日にばっくれたらしく、彼女のアパートに行って発見してきてくれとのことだった。
……まあいい。なんにせよ飯の種だ。俺は現場に急いだ。
ここは中野区は早稲田通り。商業施設ブロードウェーの近くということもあって、若者から老人まで人間でごったがえす賑やかな町だ。
俺は渡されたメモの指示の通り高円寺の方へ向った。その時、こういう光景に出会った。
「ずいぶん広い学校だな。中野警察学校?」。そう、目の前には都内とは思えないほどの大きな敷地の、警察学校なるものの塀が伸びていたのだ。
さあ、ここでクエスチョンがある。
なぜ、都内にもかかわらず、こんなにでかい敷地があるのだろうか。
(続く)
517 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 08:51:35
「発見、ミステリー、ハンター」続き
正解は、そうだ。江戸時代に味噌屋だか醤油屋だかがあったからだ。
当時の建物はもちろん木造で、大豆でたっぷりの重たい大桶は、平屋に置くしかなく、味噌だか醤油だかの需要が高まるとともに、味噌屋だか醤油屋だかの桶の数も増えて行き、自然と大きな敷地になっていったのだそうだ。
が、そんなのはまったく今回の依頼とは関係のない話だ。先を急ごう。
中野警察学校から歩いて五分ぐらいなのところに、例のミステリーハンターの女のアパートはあった。
五分とは言っても道に迷ったりコンビニに寄ったりしたので三十分はかかったが。
アパートに近付くと、五、六人の主婦が、アパートをいぶかしげな目つきで眺めていた。腐っても探偵。俺は事件の臭いを嗅ぎ取った。
俺がアパートに近付こうとすると主婦の一人が声をかけてきた。
「あんた、入らない方がいいよ」。
そうは言っても飯の種だ。依頼人の信頼を守るためでもある。階段をのぼっている時ゲップがでた。先ほどのコンビニで買って食べた茹で玉子の匂いがした。
201号室。ここがミステリーハンターの女の部屋だ。しかし、チャイムを押してもドアノブをがちゃがちゃと回してもなんの反応もない。さてはやはり……。
ふと、俺はドアに張り紙がしてあることに気付いた。事件の核心に一歩近付いたか。俺は老眼の入って来た目を凝らした。
“このドアや他の窓は絶対開けないでください。警察にご連絡ください”。
518 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 08:53:47
次のお題「掃除、息子の部屋、ベットの下」。
歳をとるごとに潔癖の気が出てきた。最初は単に散らかっているのが厭だという程度のものだったのだが、
この頃では埃の一筋にも悪寒が走る思いがする。その範囲にしたってそうだ。リビングと書斎だけに向けられていた
私の意識は、次第に台所や物置場などにも広がっていった。
そして今日、残すところは息子の部屋のみ、という段階にまで私は来た。
そのために、前もって有給休暇を取得した。雑巾やクイックルワイパーは勿論のこと、オスバンなどの薬品だって購入した。
準備は万全を期していたのだ。
果たして掃除は始まった。まずは机の周りだ。食べ散らかしたポテトチップスの欠片や空き缶など、
片端からゴミ袋に捨てていった。燃えるゴミも燃えないゴミも関係ない。まだ使えるものだって構わず放りこんだ。
私は異常者なのだろうか。いくらか偏執に過ぎたのだろうか。
息子の反応も、その結果としてもたらされる事態にも、容易に想像はついたが、どうにも衝動を止めることはできない。
殆ど恍惚といってもよい表情を浮かべながら、私は掃除機をかけ、はたきを振り回し、雑巾を絞る。
正直に言おう。私は勃起していたのだ。
性への意識以外でそのような肉体的欲求が顕示されるなんてことは、もちろん、私は知らなかった。聞いたことも無い。
だが、実際に私は、はあ、はあ、と勃起していた。
一時間半が経った。息子の部屋は十分に満足ではないが、おおむね満足、という段階に達していた。
私は部屋の隅のベッドに、寝転がった。そして壁掛け時計を眺めながら自慰に耽った。
もう誰も私を止めることはできなかった。私自身ですらその行為は止められなかった。そして果てた。
所要時間はきっかり一分十五秒だ。悪くない。ああ、ぜんぜん悪くない。
散った白濁液が壁を伝っているのが見えた。おそらくはベッドの下の方にまで伸びていたのだろう。
私は迷った。つまり、拭き取るか否か――まあ、それは記念に残しておくのもいいだろう。
息子が帰ってきたら言おうと思う。
「どうだい、綺麗になったろう? 最後はおまえの手で綺麗にするんだ。ほら、ベッドの下だよ」
次のお題 「ギター、村上春樹、うんこ」
萌えキャラは語尾から始まる。
という定説通り、萌えキャラになりたい僕も、語尾から始めてみるうんこ。
今日から僕の語尾はうんこでうんこ。
さて、キャラ立ちはこの辺でオーケーでうんこ。
今日は村上春樹の話をしてみようと思うでうんこ。
村上春樹うんこ。
その執筆スタイルは、予め書き下した日本語を英訳し、それを再び日本語に変換し直すという、特殊な方法が選択されているでうんこ。
これにより、一文ごとの主題が前面に押し出され、また、キャラクターが能動的になる、という利点がゲッチュできるでうんこ。
そんな彼のルーツはどこにあるでうんこ?
これについては諸説あるけれど、個人的には庄司薫にあるという説を押したいでうんこ。
(ちなみに、村上自身は、処女作の後書きでデレク=ハートフィールドなる架空の作家について言及しているでうんこ)
彼の趣味で、最も良く知られているものの一つにジャズがある、と思うでうんこ。(最近文庫化された、東京〜も冒頭にジャズを持ってきていたでうんこ)
また、ジャズ以外にも様々な種類の音楽を愛しており、アフターダークに登場した通奏低音などを筆頭に、専門用語を比喩に用いるシーンが見かけられるでうんこ。
あと、彼、スガシカオが好きでうんこ。
良い音楽家は、その本人だけに備わっている和音(コード)で、音楽を構成している、とか何とか発言している記事を、読んだ記憶があるでうんこ。
これで『ギター』のワードを、クリアしたことにして欲しいでうんこ。
ラストに、彼とその歴史を同じくした(印象的にリンクしている、という意味で)人物に、江藤淳を挙げておきたいでうんこ。
詳しくは、各自で調べれば良いと思うでうんこ。
オマケで彼を慕う、若手(?)作家には、
伊坂幸太郎うんこ。
金城一紀うんこ。
古川日出男うんこ。
舞城王太郎うんこ。などが居ることも、挙げておくでうんこ。
次のお題は「玉子酒」「月見酒」「新巻鮭」でヨロシク
521 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 13:32:31
月見酒、玉子酒、荒巻酒
姉御の背中に彫られた鯉を
ふたり並んで、眺めてる
兄弟仲は、おやじの教え
古い男のヨオ、ベタな生き様サア
「あんたら、この商売、筋が要や
『シャブと売りには手を出すな』
亡くなった先代の言葉です
いいか、あんたら、
わたしらやくざもんを食わしてくれるみなさんのためしっかり働けるよう
兄弟どうし、仲良うやるんやで
さあ正月や。鮭食いなはれ。荒巻鮭、食いなはれ」
「姐さん
あっしらオヤジの人柄ァ忘れやしません
オヤジの言葉しっかり守って
組ぃしっかり守らせて頂きます」
「あんたら、ようゆうた
あんたらようゆうたでぇ
先代も安心しておられます
先代の言葉、歌わせていただきます」
シャブと売りには手を出すな
意地と見栄と思いやり
玉子酒、風邪時に
月見酒、したことない
手酌酒、本音だが
てめえの本音とあちらの面子
計ればきりないやくざ道
522 :
sm ◆.CzKQna1OU :2008/05/25(日) 13:36:03
次のお題「ここって」「sageスレ?」「けもの道」
coccoよりもスピッツが好きで、だから俺は、けもの道と聞いて三日月ロックを思いだすんだけれど、実は古川日出男の方がもっと好きで、けもの道は、俺の中ではgiftになる。
とはいえ、遠野物語にだってけもの道は登場するわけで、一つの単語を指して、何がどう。と判別するには、圧倒的に知識が足りない。
知識。この時点では、ボキャブラリーと言い換えても良い。
ボキャブラリー。俺の知性が喫水線上に浮かぶ、道徳の海。
なぜ道徳と表現するのか。については、適切な日本語が思い当たらなかったから。
英単語から逆検索した。moralが最適だと、個人的には思うんだけどね。
さて、ここ。『ここ』って。
ここ、とはどこを指しているのか?
とか、云わないけど。俺は。
使い古された形而上学的問題に携わる探求は、ムスリム的に、コーランの教えに違反してそうな気がする。一神教だし。
同じ一神教を信仰しているよしみで、その程度の律法は守ってもいいんじゃね? とか考えている、今。
いや、実際は、定義して証明するのが面倒くさいだけなんスけど。
ただ、俺は、このレスを読んでいるお前と、必ずしも同じ世界に位置しているとは限らないわけで。
数学的帰納法で証明するなら、このスレのコミュニケーションにおける一方通行性は→情報が上位から下位に流れていることを示し→
相互交換は無し→なおかつ、俺は情報が下位から上位に流れるシチュエーションを体験したことがない→
つまり、他者の存在する世界は、常に俺の上位か下位に位置し→
よって、等位置であることが証明できず、同じ世界に位置しているとは限らない、という前提が反意として証明される。
だから、sageスレ?というお題を、あえて俺は質問として受け取りたい。
答えないけど!
次は「個人」「自由」「オルタナティブ」でヨロシク
524 :
「個人」「自由」「オルタナティブ」:2008/05/25(日) 17:38:41
個人の自由じゃ。勝手にさせろや。ニートは存在がオルタナティブなんじゃ。
つぎのお題は「ここって」「sageスレ?」「けもの道」
ここってsageスレ? 選択の道は、けもの道。危ぶむなかれ、その己の道を。
次は「邦人」「誓約」「ルール」でヨロシク
526 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/25(日) 19:36:08
「邦人て何?」と彼女が訊いた。
「日本人のことだよ」とぼくは答えた。
「じゃあ、誓約は?」と彼女が訊いた。
「自分で調べろよ」とぼくは答えた。
「ルールに縛られたくはないな」と彼女は言った。
つぎのお題は、不思議、人形、ラスト
第二次ベビーブーム期に誕生した父親が、最後に消滅した。
既に、姉も母も消滅しているので、俺一人だけが我が家に残る。
4-3=1。うむ。
地球は、というか人類は、こうして緩やかに総体数を減少させつつ、終末期、いわゆる、『この世の終わり』を迎えているようだけど。
そのエンドロールは、あまりに穏やかすぎて拍子抜けしてしまう。
戦争も、飢饉も、伝染病もなく。
ただ自然災害的に訪れる、人の消滅を繰り返して、最後にはすべての人類が消滅してしまうんだろう。
幽霊船のように。未だ豊穣な、文明の残滓を地表に置き去りにして。
kaoru:不思議だよな
nao:だね。どーしてネット生きてんだろ
kaoru:電気だって水道だって生きてる。生活便利すぎ(笑)
nao:缶詰あれば数年持ちそう
kaoru:言えてる。娯楽たんねーけど
nao:でもネトゲ鯖、けっこう人いるよ?
kaoru:なにしてんの?そいつら
nao:フツーに狩りしてるw 娯楽大国、日本バンザイ
kaoru:いやいや(笑)
チャット。後、俺は人類が消滅し始める直前まで、大盛況だったネトゲ鯖を訪れるけれど、『人』は居ない。
俺のロールキャラだけが、ポツンと一人、NPCで賑わう町のど真ん中に立っている。
オーケー。今更だ。
俺は、理解しよう、自分に理解させよう、と笑う。
発電所、下水処理場。無人ロボットが、その耐久年数を終えるまでキッチリ任務をまっとうするだろう。
チャット。言語感覚が人間並みに発達したCPUによって弾き出された、乱数のキャッチボール。
あれだけの会話で、俺がkaoruかnaoか分かる人間は居るだろうか?
俺は、何度も心の中で反芻する。人類が消滅していく兆しを見せ始めた、夏の始まりに親友の薫が口にしていた言葉を。
「もう、人間は主役じゃなくて良くなったんだよ。人形(アンドロイド)が、人間に近づくんじゃなくて、人間が人形に近づく。そんな時代が来た。それだけ」
2-1=1。うむ。
俺はまだ、この世界で、人間のまま生きている。
長すぎた・・・反省orz
次は「霧」「帰郷」「始まり」でヨロシク
交通安全を呼びかけるDJの声をカーラジオが発した。
大学生が高速道路で事故を起こしたニュースにちなんでのことだった。
春休みを利用して帰郷する途中の惨事だったという。
「車を運転される方は本当に気をつけてくださいね。ということで、
春は出会いと別れの季節です。始まりがあれば終わりがあります。
その終わりがまた新たな始まりだったりね。
これがまた桜の季節でもあったりするんだな」
再びDJがニュースを引っ張り出した。
何者かによって某所の公園で桜の枝が折られ、持ち去られたというのだった。
「何が面白くてこんなことをするんですかねえ」
凡庸なようでいて、DJは邪推や偏見を巧みに避けた。
そのとき、時速100キロで流れる景色のなかにぼくはあるものを発見した。
工事標識用の鞘に挿された桜の枝だった。死亡事故の現場なのだ。
その夜は風雨が強く、走行車両の後方には、必ず、人工の霧がついてまわった。
運転技術の未熟な大学生は、動く霧のなかでハンドル操作を誤ったのだった。
ひどい夜だった。
つづく
つづき
「警察も捜査をしてるみたいですし」というDJの声が
ぼくの意識を現実に引き戻した。
「こういう手合いは早く捕まえてほしいものですね」
「捜査ねえ。してないよな?」
助手席にすわった相棒にぼくは同意をもとめた。
「管轄外だからな」
極めて屈折した相棒の返答を、ぼくは様式美としてたしなめた。
「警察には協力しようよ。自分だってそうなんだからさ」
お題忘れてるよ!
お題がない時は継続
私は今、暗いトンネルを白のワゴンに乗って走っていた。
十数年ぶりの帰郷にも関わらず私の心中は穏やかなものでは無かった。ステアリングを握る手にも力が入り、ついついアクセルを踏み込んでしまう。
先々週の事だった。大学を卒業して以来プライベートの時間まで削り尽くしてきた会社から突然転勤を命じられた。もちろんそれが良い意味では無いことなど容易に理解できた。同僚等の間で「島流し」と称されたこの辞令を、私は冷静を装いながら受け止めた。
そんな最高に格好が悪い帰郷なのだが、楽しみな所もあった。小学生の転校以来あの土地を踏んでいない私にとって、きっかけはどうあれ帰郷する理由が出来たのが唯一の救いだった。
そんなやるせなさと楽しみが混ざり合い霧が掛った様にスッキリしない気持ちのまま、転勤先の事務所に到着した。一応本社の人間だったということで私の役職は所長。所長といっても私を含め全社員五人という子会社で、まさに「島流し」の名がふさわしい。
舗装されていない駐車場に車を停め、バックミラーで髪型を整える。そして助手席に掛けてあった背広を羽織ると私は車から降りた。
続く
即興文のつづきをいつまで待てばいいですか?
失礼。どちらかというとお題のほうを、いつまで待てばいいですか?
次は「霧」「帰郷」「始まり」でヨロシク
537 :
オッケーまかしといて 霧 帰郷 始まり:2008/05/30(金) 17:57:37
深く立ちこめた霧があたり一面を覆い尽くしていた。
帰郷したいのだが、方角もわからない。
こうなったら最後の手段だと考えて、ぼくは強い決意とともに手を挙げた。
「ヘイ、タクシー」
開かれたドアの奥にぼくは体をすべりこませた。
ひとつの局面が打開され、新たな局面の始まりへと変じたのだ。
ぼくはおごそかに宣言した。
「とりあえず次の信号までまっすぐ」
墓を、持ってきた雑巾で磨いてやる。そしてたばこを線香代わりにして、最後に手を合わせた。
もう俺は両親と同じこの墓に入ることもないだろうが、別にもうそんなのは意味がないことだし、どうでも良かった。
ご先祖様、今までありがとうございました、とでも感謝すればいいのだろうか。楽に死ねますように。
そこから盗んだ自転車で五分ほど、やがて目的地に着いた。俺が帰郷したのはこれが目的だ。自殺の名所。
有名な場所なので写真も多い。
崖が垂直に切り立っており、さらに引き潮の時には、その下に鋭く盛り上がった岩場が姿を現す。身を投げれば、まず確実だ。
そして満潮になれば潮の流れがどこかへと運んでくれるというわけだ。しかも海流の関係で、一度流れ出せばもう日本には戻ってこない。
試しに例の自転車を落としてみると、ずっと小さな粒みたいになって落ちていった。冷や汗が出てきたので、腕で額を拭う。
あ、しまった。と思ったがもう遅い。眼鏡も落としてしまった。どうなったかは分からない。俺は目が悪いんだ。
最後に一服することにした。
頭の中を安っぽい煙で満たす。俺の不幸の始まりはいつからだろう。小学生の頃だろうか。いじめられっ子たちに目を付けられたのはそれくらいだ。
無理矢理運動会のリレーに出場させられ、それまでトップだったのに周回遅れにされて、クラス中のみんなから責められたりした。
勉強もからっきしだったし、テレビゲームですらド下手で、誰も仲間に入れてくれなかった。
そのうち、気づけば大人になっていて、もう借金で首が回らなくてパーだ。もうどうすればいいのか分からない。
そうするうち、霧が出ているのに気がついた。どんどんと濃くなってゆき、すぐに手の届く範囲くらいしか分からなくなる。
どちらへ行けば良いんだ? もうどうでもいいや。いずれ、崖の方向へ歩けば大丈夫さ。
闇雲にとにかく歩いていると派手に転んでしまった。頬に濡れた雑草が触れる。土の匂いがした。
と、大丈夫ですか、と声をかけてくる人がいた。いつの間にか霧が晴れていた。振りかえると中学生くらいの男の子が立っていて、俺の眼鏡をさしだしていた。
あなたのですか、と言う。ありがとう。俺は恥ずかしくなって引ったくるようにして眼鏡を掴んだ。
我ながら大人げないかと考え、もう一度、ありがとうと言っておく。俺は死ぬのをやめた。
↑「霧」「帰郷」「始まり」
↓「笛」「ねこ」「扇風機」
でお願いします。お題の指定を忘れてました、すみません。
ひきつづき
現スレ
>>532 そのスカウター旧式ですよ
>>500 可
会話文中の含蓄に対して、行動が端的なせいか、構成が甘口。
あと、愚直の使い方がちょっと気になり。
>>499 拙作
最終段落の陳腐さは拭えず。
華厳の滝は栃木日光にあります。
>>498 良
オチが一つだけに絞られていない点が好。
ワード消化の甘さを補って余りある良。
>>537から振り返る中では、最好。
>>497 可
状況詳細を、前知識として把握していれば面白いのか。どうか。
文章として成立してるだけに、判断ムズカシ。
>>496 可
たしか絶対零度モジった演奏で、無音の音楽。4分33秒。
パス意図を汲んで(たぶん)構成した点はgj。オチ受けも良。
>>495 不可
絶妙に洒脱なトークがますます冴え渡りたい。
>>494 良
小説の神が、ふんだんに宿ってある文章は良いです。
細部が好。この分量で良くぞ、のラストシーンgj。
542 :
名無し物書き@推敲中?:2008/05/31(土) 18:43:44
>>541 スレ違った。申し訳ない。
スルーしてください
「野球」「美少女」「ちくわ大明神」
これでヨロシク
笛 猫 扇風機だよ。
猫が扇風機に顔を向けている。風の勢いに目を細め、耳を後ろに折っている。後ろ足をたたみ腰を下ろし、前足をぴんと伸ばし、首も伸ばし、扇風機に届くよう顔をできるだけ高く持ち上げている。
「どうした。そんなに気持ちいいのか」
傍らにあぐらをかいて座りながらそう訊くと、口を細くあけてミャーと答えた。音がかすかにふるえてビャービャーと聞こえる。前足の下から腕をいれて抱え上げ、あぐらの上に抱こうとすると、するするとすり抜けて扇風機の前に戻ってしまう。
「俺より扇風機のほうがいいのか」
顔を近づけて横からのぞき込むと瞬きをして耳をくるっと振った。
「あっちいけ、ってのかよ。ったく」
ご主人様をないがしろにしてはばからない。良い根性している。
「俺もそんなふうにできたらなぁ」
背中をなでながら独りごちた。
奥の部屋からピーとホイッスルが鳴った。ビクリとする。
「ほら、おれのお姫様のお呼びだよ。休憩終わり」
立ち上がって伸びをした。うーんと唸ってベッドルームに向かった。
「よっしゃ。もう一発行ってみよう!」
気合いを入れ直す土曜の夜。
子作りも大変だよ。
「野球」「美少女」「ちくわ大明神」
野球部マネージャーの風子は、県予選開始前の失言を後悔していた。
もしこのチームが甲子園で優勝したら、宿泊所の男場に一緒に入って、
部員どものちくわの中からちくわ大明神を選ぶ、と宣言してしまったのだ。
いつもなら地区予選3回戦敗退がいいところなのに、俄然やる気を出した
野球部員たちは、あろうことか、夏の甲子園大会決勝まで進出してしまったのである。
試合は九回ウラを一点リードで迎えていた。ピッチャーの谷崎はMax120キロと
スピードこそショボいものの、ここまで神懸かり的なコントロールで防御率0.3を実現していた。
勝利の気配に興奮した男子部員たちが、風子の体をチラチラと横目で見ていた。
なにしろ、野球部開闢以来の美少女マネージャーといわれた風子である。それが、今夜……、
てなわけで、アルプスの麓はいつしかジャングルの熱気に包まれていたのである。
風子は焦った。このままでは勝ってしまう。勝てばみんなのオモチャになってしまう。
どうすれば、どうすれば……。
そのとき、風子の頭に閃くものがあった。彼女はベンチを出ると、ピッチャーの谷崎に
向かっていきなり大声で叫んだのだ。
「谷崎くん、先に言っておくわ、ちくわ大明神は、あなたよ!」
谷崎を除き、チームの全員が凍り付いた。監督は何事かと驚いたが、踵を返して
ベンチに戻った風子の凜とした姿を見て、何も言えなくなってしまった。
そして谷崎は急に大暴投を繰り返し、試合は逆転負けとなったのである。
翌日、満を持して告白しにきた谷崎を、風子は容赦なく振った。
こうして彼女の貞操は守られ、弱小チームは金星を逃し、少年たちの夢は潰えたのだ。
チンと汗と涙はがいかに固くなるかは、すべて女次第なのである……。
次「サッカー」「浴衣の娘」「飛行船」
>>545 うまいプロだな、次は素人の俺様が書いてやるw
「お父さんシリトリしょう」
七歳になったばかりの娘が言い出した。
「しりとりのり」
「りさ」
「サッカー」
「カ?ア?」
「カでいいよ」
「かみさま」
「まゆ」
「浴衣の娘」
「お父さん『の』は、反則だよ他のにして」
「じゃあ 夕日」
「飛行船」
「ん!?」
「終っちゃった・・・」
次 「バイブ」 「美少女」 「竿」
「お父さんが釣って。竿、一本しかないから」
歩美が言った。海釣りに来た太平洋で嵐に遭い、無人島に流れ着いて
はや2ヶ月。妻と船長は行方不明、生き残ったのは俺と娘の二人だけだった。
ぼろぼろになったシャツから溢れる歩美の肌は褐色に焼けて、若い体の
なめらかな曲線は、15の子供だとばかり思っていた歩美の「女」を、ことさら
際だたせていた。
「お父さん? 聞いてる?」
我に返る。いけない、俺はこの娘の父親だ。いくらこの子が妻の連れ子だった
からといって、劣情に負けるわけにはいかないのだ。この子を連れて日本に
帰るために、俺は自らのサバイブ能力をフルに使って、ここの生活を組み立てていた。
釣った魚を焼いて食べるともう夜だ。日が落ちると最近は少し冷えるようになった。
そしてこの夜、予期しなかったことが起こったのである。
「お父さん、そっちいっていい。ちょっと寒いの」「ん……いいよ」
暗闇の中で、歩美が肌を寄せてきたのだ。
「あたしね……お母さんが再婚するって言ったとき、反対したの。でも、いまはお母さんの
気持ち、よくわかる」「ん……んん」
「お母さんがいなくなって、あたしたち、どういう関係なのかな」
「家族……だよ」「家族?」「ああ」「どういう?」「親子さ」「それだけ?」「え?」
「違う形の家族があっても、いいんじゃないかな」「……」
歩美の裸体が月光に眩しかった。俺は、この夜、この美少女を……抱いた……。
「タブーなんてない。ここじゃ社会のルールなんて無意味よ。二人の人間が
いるだけ……愛して、康二さん……ああ、ああ!」
ピピピ ピピピピ。俺は暗闇の中で目を覚ました。そうだ。今日は部長と海釣りに行く日だ。
港に着くと、チャーター船で部長と船長が待っていた。天気予報では少し時化るとの
ことだったが、そのほうが釣果はいいものらしい。部長は笑っていった。
「山下君。ずっと前から、君と一緒に遊びたいと思ってたんだよ。ふふふ……」
翌日、俺と部長は無人島に流れ着いた……。
次「竹藪」「秋の空」「ミッドナイト・エクスプレス」
549 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/01(日) 14:11:30
>>548 釣れた!ギザワロス
釣り用語 バイブ=バイブレーションルアーの略
世の中には釣り用語と一般用語しかないのかよw
vibroseisとか仕事で使うが、この手の用語はいくらでもあるぞw
竹藪ごしに仰いだ秋の空は、次第にまぶしさと青みとを減じていった。
琥珀を溶かしこんだような夕陽の色に包まれながら、
ぼくは痛みにも似た寝心地の悪さを認識してはいた。
三輪車なみの速度で上空を移動する飛行船に、
散漫になりがちな意識の焦点がときおりあう。
それが広告用の小型機だとぼくはマスメディアを通じてあらかじめ知っていた。
うちわを手に、笑顔をふりまく浴衣の娘たちが、その両側面にプリントされている。
なんらかの選考基準で、美少女たちと飛行船とを起用した花火大会の広告だった。
きょう、ぼくが起床したのは、新聞配達員が最初の朝刊を配り始める時刻だった。
目覚めと同時に毛布を跳ね上げたそのさまは、
バイブスも満タンと評するにふさわしかっただろう。
身支度もほどほどに向かった先は駅前のバス・ターミナルであり、
ミッドナイト・エクスプレスで帰ってくるはずの恋人を迎えるためだった。
幾度となく竿立ちをくりかえす野生馬の境地かどうかはともかく、ぼくは待った。
つづく
つづき
しかし、終点であるはずのそのターミナルに、バスは姿を見せなかった。
代わりに現れたのはバス会社の職員であり、彼によって、
ぼくは夜行便の一台が事故を起こしたと知らされた。
やむをえない事情で彼女がその便に乗り遅れたことをぼくは願った。
しかし、まちがいなく彼女は乗車しており、その乗車券が天国への片道切符となった。
笹の葉のこすれあう乾いた音の下で、ぼくは何度目かの寝返りをうった。
サッカーに興じる児童たちの声が、道一本を隔てた公園から、いやに強い存在感をまとって聞こえた。
星々のまたたきを透かす闇の色は、いまだ地上のすべてを覆い隠そうとするそぶりを見せない。
で、お題は?w
人生。俺の人生。自由度は低い。難易度も、それなりに。
定期的に故郷へ帰る。クニへ帰る。難易度のボトムへ帰る。
ボトム。底に原点がある。底に。
そこから見上げたトップには、自由が幾らでも転がっているように見えた。
トップ。それは空で良いのだろうか。
ミッドナイト・エクスプレス。映画の題名。
そして、夜行列車の総称。鈍行もエクスプレスと呼称される。
つまり、愛称。北斗星、トワイライト、カシオペア、ムーンライトetcetc。
一つだけ拾い上げるなら、トワイライトのワードを拾い上げる。
日の出、日没後の薄明かり。夜が完全ではないことを示す、単語。
俺の故郷。俺の記憶。
故郷には、少年時代が埋まっている。発掘する作業は退屈で死ねる。
少年時代。そこには全てがあって、何もかもなかった。
それでも切ないのは、決定的な時間の差異が、未だ眠っている気がするから?
竹薮。気候条件に適している。
だから、僅かな時間の差異で、すぐさま林になる。森になる。
それでも藪と呼ぶ。適切な距離を保つ様が、日本人の気性を体現している。根は深い。深い場所に根がある。
時間の問題ではなく、記憶も、情緒も、何もかもが深い。
故郷の竹薮に分け入る。革靴で、乾燥した土を踏む。
秋の空のように、深い場所で未だ眠っているボトムを見つけようとする。
次第に西の底へと落ちていく太陽は、光量を減じ、もはや手元さえ危うくなってくる暗闇の中で、何の気はなしに空を見上げた。
物語の主人公になってしまったような気分で、自由なら、空に幾らでも転がっている、と、確信していた頃の自分をなぞる様に、見上げた空は。
変わってしまったのかどうか、一切分からない。
退屈はつづく。
次は「アラビア」「夜」「種族」でヨロシクー
556 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:15:24
アラビアの夜はどの種族にとっても納涼こそ最上の贅沢である
次のお題は、校門、汗、腕時計
557 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:39:41
春なのに朝の風はまだ冷たい、今年中学の新1年になった加奈子はしょっぱ
なから遅刻しそうになって必死で走った校門をくぐって腕時計をみた8時19
分、ギリギリセーフだった。気温は低いのに汗だくだった。必死で走ったのだ
から当然だ。
「加奈子じゃないか?なにやってんだ?」
「先生、セーフでしょ?」
「つかお前何しに来たの?」
「あ。。。。」
加奈子は間違って卒業した小学校に来たことに気が付いた。
次のお題 「角」 「気持ちいい」 「18才」
558 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 20:44:22
角を曲がると気持ちいい風が感じられた。18才になって最初の朝だった。
次のお題は、麒麟、エベレスト、虹
角を曲がるとさーっと気持ちいい風が吹いた。
ふと足を止めて小学校を見上げる。
―ふふ。そう言えばそんなこともあったっけ。
昔の失敗を懐かしく思い出し微笑む。
彼女は横髪を大人びた仕草で整えると歩き出した。
靴下の柄が左右で違っていることには気づいていない。
加奈子18才の春であった。
次は「茶碗」「排水溝」「グレーチング」
>>558 エベレストに登ると
虹の向こうに
麒麟が
見える
そうだよ。
561 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/02(月) 22:46:03
なぜわざわざ
>>559に訊くのでしょう?
テンプレ
>>1をよく読みましょう。
理解できないのなら参加を見送りましょう。
中国の金持ち、周は街の路地裏で占い師に声をかけられた。
「夢にとおりになさい、さすれば必ず良いことがある」
その夜不思議な夢をみた、麒麟にまたがって虹の橋をの上を駆ける夢だった。
中国では麒麟は演技の良い動物だ、これは吉兆と思い思い切った株投資をしてみた。
周の買った株はエベレストを登っていくかのごとく上がりつづけた。
周は気を良くしてその株を全財産を使って買い増した。
周は娘を大学に行かせる資金として貯めていたお金までつぎ込んだ
このお金は周がまだ貧乏だったころに必死で働いて貯めたものだった。
さすがに注文ボタンを押すときには迷った、しかし周の財産の全額と比べたら少ないお金
だったので結局使ってしまった。
一月後、その株の株価は3倍にもなっていた。周はそろそろ売り時だと思っていた。
周は別の投資先を見つけ翌日にはそちらに乗り換える予定だった。
翌日、株式市場が開く前に大変なニュースが飛び込んできた。
周の買った株の会社に粉飾決算が発覚したのだった。株価は連日ストップ安。
結局会社はそのまま上場廃止で周に戻ってきたお金はほとんど無かった。
周は占い師の事を思い出した。
「あの占い師め謝罪と賠償をさせてやるあるね」
周は占い師を探しに街に出かけた。
つづく
次は「茶碗」「排水溝」「グレーチング」
565 :
561:2008/06/02(月) 22:57:35
>>562 見落としました 投稿中止、出直します。
確かこの路地を抜けて次の路地を曲がって・・・
路地で迷った周は思わぬ光景出くわした、周の娘が街のチンピラに絡まれ今にも連れ去ら
れそうになっている、週は昔とったキネヅカの太極拳の必殺奥義をを繰り出してチンピラ
をぶっ飛ばした、チンピラは排水溝に落っこちた。
チンピラが溝のグレーチングを外して襲い掛かって来た。周は娘をかばってグレーチング
を背中で受け止めた。周は体勢を立て直すとまわし蹴りをチンピラの腹に決めチンピラを
撃退し、娘を連れて無事に帰った。
周の娘は3日前に家出をしていたのだが、株のことで頭がいっぱいで娘が居なくなっていた
ことすら気づかなかったのだ、そして周は気が付いた3日前どころかここ数年娘にほとんど
かまってやって無かったことを。周は目からうろこが落ちた。
「俺は何をやっていたのかあるよ。。。」
周は元々娘の幸せのために良い学校に行かせて、エリートと結婚させてやるのが夢だった。
そのために必死ではたらいて金を貯めてそれを元手に事業を起こし投資をし金を増やしま
くっていったのだった。しかし金を稼ぐことばかりに没頭し、娘を構ってやらなかった事を
後悔した。
つづく
つづくとかアホか!
テンプレ読めアホ!
1年後、周は最後に手元に残った小さな餃子店を営んでいた、娘も店をずっと手伝っていた。
金持ちだったときより遥かに幸せに思えた。ただ一つ気がかりなのは娘を北京の一流大学に
行かせる資金はたまりそうに無かった。
「俺が不甲斐ないばっかりに苦労をかけてすまないあるよ」
「お父さんそれは言わない約束よ」
娘は茶碗を洗いながら笑顔でそういった。
そのとき電話が鳴った。
「へい、餃子の来々件あるよ」
「○X証券の珍ですが周さんが1年以上放置している株券の件について」
「株券って証券コード8033の株券の事あるか、あの会社はもう上場廃止あるよ・・」
「いえ、8031のことです株価が800倍になっております」
「え?」
「いやあ周さん先見の明がありましたね、当時上場直後で会社の規模も小さく不人気な銘柄
だったのですがアラブで井戸を掘っていて油田を掘り当てたらしく暴騰しましてね」
自分が買ったわけでもないのに証券会社の人は興奮して喋り捲っていたが周には心当たりが
無かった。
だが株は確かに買っていた1年前に娘のために貯めておいたお金で注文した時8033と入力す
るところを誤って8031と入力して注文したのだった。
誤発注でも注文は成立しているので周はまた大金持ちになった。めでたしめでたし。
15行を遥かにオーバーしたので 次の御代も「茶碗」「排水溝」「グレーチング」
疲労という名のバーベルをダース単位で抱えこんでいるような感覚は消えない。
しかし、フルマラソンを走り終えた時の達成感に似た感覚もはっきりと覚えていた。
ついにここまでたどり着いたのだ。世界中を駆けずり回った挙げ句、目的のものはご町内にあった。
しかも中学時代の通学路にである。灯台もと暗しもいいところだが、
過去よりは未来を、悔恨よりは希望を見据えるべきだろう。
いままさに、ぼくの目前には伝説の泉があった。それはごくありふれた排水溝の、
ごくありふれた集水漕のかたちをしており、グレーチングと呼ばれる蓋も、
格子の粗いごくありふれたものだった。じつにみごとなカモフラージュだった。
ぼくは気合いのうめきとともにグレーチングをはずした。
ふるえる手に伝説の茶碗をつかんで、屈みこむとヘドロの臭いがした。
飼い主と連れだった愛玩犬の爪がアスファルトの路面をうつリズミカルな音が、
あまりの臭気にたじろいだぼくの脇を通り過ぎていった。
なにげなく音の向かった先をふりかえってみると、
麦茶色の排泄物が、電柱の根元へときれいな放物線を描きはじめたところだった。
2レス以上になるなら全部書いてから間を置かずに投稿して欲しい。
次のお題が出るのか前のお題で継続していいのか判断しづらくて困る。
感想スレか裏に書こうか迷ったけど、あっちを見てない可能性もあるのでこっちに書きます。
武田勝頼の騎馬隊をフルボッコにした、織田信長の策を覚えておられるだろうか。長篠の、アレね。アレ。
鉄砲三段詰めって言うの? いや、それはどうでも良いんだけど。
俺が想像しているのは、この側溝に填まってるグレーチングが、あの作戦で使用されていた、馬防柵に似ているってコトで。
どうにか利用できないもんかな。オトヤ君。
正面対決? 用意できる火器に、向いてないよ。
ラップトップガンなんか、恐ろしく銃口跳ねまくるから。
すぐに死ねるね。暴発して死んじゃうかもしんないし。
それに、射程距離が全然不足してるよ。マカロフ一丁で、装甲車と対等に渡り合えるほど頑健なら、話は別だけど。
グラスホッパーズ。グラスホッパー。飛蝗。命名俺のチーム名。
構成員は十代の前半ばっかりで、そうだな、成長過程の肉体は、飛蝗の脚部の付け根ほどに脆いと思われる。
だろうね。グレーチング。グレーチング。側溝。側溝。
うーん、みんな嫌がるだろうけど、排水溝を使う手もあるよ。
汚水塗れになっても、戦意が萎えない前提の話。三丁目の犬飼さん家から、上級生が根城にしてる工場まで一直線。
犬飼。犬飼ね。茶碗爺の犬飼ね!
業突く張りの金の亡者。にして、幼児性愛者。虐待癖もオマケにつけてやる。でもね、オトヤ君。
そんなクソのクソにまみれて、クソどもをブッ殺しにいくなんて詩的じゃない? 因果、ここに極まれり。韻が、ここに踏まれまくり。
グラスホッパー。ホッパーズ。飛翔する者。
銃弾のホップが、距離を稼げないのなら、この足で稼ぐ。
遥かな距離を一瞬にして稼ぎ出す、グラスホッパーなこの足で。
緻密な筋肉の、柔軟性に富んだ躍動が。誇りを糧にして汚泥にまみれる精神の燃焼が、それを逆説的に証明するだろう。
だからオトヤ君、思うんだ。
誰の手によって犠牲の対価が支払われるべきか? それは、名付け親の、俺以外にないんじゃなかって。
次のお題は「アルタ前」「ギフト」「紅茶パーティー」でヨロシク
裏は見ていない人間も多いと思うのでこちらで。
>>556とか
>>558とか
>>560とか、荒らしと変わらんカキコは無視って以前住人で取り決めた気が。
あと最近変なお題を出す人間も増えたね。
自己満足なだけの奇を衒ったお題はしらけるだけなので自粛して欲しい。
「紅茶パーティーいかがですか?」
中国人らしき男が話しかけてきた。まただ。最近、流行っている。
真偽の程は分からないが、ネット上のアングラな掲示板では麻薬パーティーだとか、乱交パーディーだとか、はたまた新興宗教だとか噂されている。
「では案内しますよ。」
僕はいつの間にか中国人と一緒にアルタ前へと移動していて、しかも車に乗り込むところだった。
車内ではすぐアイマスクをかけられた。位置を隠すためか、やたらと何度も曲がり角を曲がる。
僕は何とか特定してやろうと思ったが、カーブが二十回を超えたところで諦めた。
ただ覚えているのは案外と優しい運転だったということだけで、次に視界が明るくなったのは、どこかマンションの玄関だった。
奥から女の人が出てきた。ようこそ、と微笑みかけてくる。いつの間にか中国人はいなくなっていた。
「私はアリスです。今日のテーブルをさせてもらいます。」
そうですか、ここは何処なんですか。森ビルですよ。森ビル、本当ですか。いいえ、でも森ビルで良いでしょう、場所なんて関係ないから。
そうして僕は奥へと通された。どこからか甘い香りがする。家族が紅茶好きの僕には、慣れた香りだ。
アリスさんがどこからかポットを持ち出し、丸いテーブルに置く。
「どうぞ腰掛けて。今日は紅茶を飲みに来たんでしょう。」
「はい。」でも、僕は紅茶を飲みに来たのだろうか。
「いいわよ、じゃあ私たちはお友達ね。」
いいわよ、というその発音にわざとらしさを感じて、こいつは元・男なんじゃないかと思った。
アリスさんはカップに紅茶をなみなみとついだ。ポットからは際限なく紅茶が出てくる。バケツほどの大きさのカップだった。
「ではどうぞ。おいしいわよ。」
ええわかります。じゃあ全部飲みましょうね。いやです。いえ、全部飲んで下さいね。はい。
僕は何とかバケツカップを全て飲み干し、また際限なく注がれてゆく紅茶の水面にオシャレなランプが映り込んでいるのを眺めていた。
はい、次をどうぞ。はい、気品のある味と香りで、とてもおいしいです。
アリスさんは僕の友達だ。僕はまたなんとか飲み干した。
アリスさんの椅子の後ろに、洗濯機が置かれているのに気がついた。紅茶の香りがする。
「焼き肉」「言葉」「魔法」
すみません、「ギフト」が抜けていました。
「紅茶パーティーいかがですか?」
中国人らしき男が話しかけてきた。まただ。最近、流行っている。
真偽の程は分からないが、ネット上のアングラな掲示板では麻薬パーティーだとか、乱交パーディーだとか、はたまた新興宗教だとか噂されている。
「では案内しますよ。」
僕はいつの間にか中国人と一緒にアルタ前へと移動していて、しかも車に乗り込むところだった。
車内ではすぐアイマスクをかけられた。位置を隠すためか、やたらと何度も曲がり角を曲がる。
僕は何とか特定してやろうと思ったが、カーブが二十回を超えたところで諦めた。
ただ覚えているのは案外と優しい運転だったということだけで、次に視界が明るくなったのは、どこかマンションの玄関だった。
奥から女の人が出てきた。ようこそ、と微笑みかけてくる。いつの間にか中国人はいなくなっていた。
「私はアリスです。今日のテーブルをさせてもらいます。」
そうですか、ここは何処なんですか。森ビルですよ。森ビル、本当ですか。いいえ、でも森ビルで良いでしょう、場所なんて関係ないから。
そうして僕は奥へと通された。どこからか甘い香りがする。家族が紅茶好きの僕には、慣れた香りだ。
アリスさんがどこからかポットを持ち出し、丸いテーブルに置く。
「どうぞ腰掛けて。今日は紅茶を飲みに来たんでしょう。」
「はい。」でも、僕は紅茶を飲みに来たのだろうか。
「いいわよ、じゃあ私たちはお友達ね。」
いいわよ、というその発音にわざとらしさを感じて、こいつは元・男なんじゃないかと思った。
アリスさんはカップに紅茶をなみなみとついだ。ポットからは際限なく紅茶が出てくる。バケツほどの大きさのカップだった。
「ではどうぞ。おいしいわよ。」
ええわかります。じゃあ全部飲みましょうね。いやです。いえ、全部飲んで下さいね。はい。
僕は何とかバケツカップを全て飲み干し、また際限なく注がれてゆく紅茶の水面にオシャレなランプが映り込んでいるのを眺めていた。
はい、次をどうぞ。はい、気品のある味と香りで、とてもおいしいです。
アリスさんは僕の友達だ。僕はまたなんとか、彼女のギフトを飲み干した。
アリスさんの椅子の後ろに、洗濯機が置かれているのに気がついた。紅茶の香りがする。
576 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 20:53:04
オフィス時計は午後10時を回っていた、目の前に書類が山と詰まれているディスクを見やりながら
>>1 はつぶやいた
「魔法でも使ええればぱぱっと片付くのに」
>>1 は疲れていた、仕事にも、人生にも、ちまたでは硫化水素で自殺なんぞ物騒なものが流行っているが
>>1 は死ぬ度胸もない。
とりあえず今日仕上げて置かないといけない書類だけは仕上げ終た。
>>1 は急ぎではない自分の担当する見積もり書の類を明日に回すことにした。
「おう、西村ずいぶん遅くまでがんばったな、久しぶりに焼肉でも食いに行かないか?おごってやるらさ」
そう声を掛けてきたのは面倒見の良い課長だった。
>>1 は胃腸のほうも疲れていたのだが、久々の禿下田課長の誘いを断りきれなかった。
入社した頃から禿下田課長は
>>1 の直属の上司だった。
>>1 が入社したころは酒を飲めない
>>1 によく焼き肉をおごってくれた。
>>1 は久しぶりに課長と焼き肉をつつきながら下らない世間話をしていた。そこへ別の客が課長のほうに近寄って来て言った。
「お?禿下田じゃないか?久しぶり、そちらの方は?」
>>1 とその客はお互いに自己紹介をした、どうやら禿下田課長の大学時代の同級生らしい、そのまま三人で同じテーブルを囲むことになった。
課長の同級生は気前良く課長と
>>1 にビールを大ジョッキでおごってくれた。ほとんど飲めない
>>1 も今日は3杯も飲まされた。
「イオナズン!!!」 なぜか課長の同級生が魔法を唱え出した、やけ具合の悪かった骨付きカルビが程よく焼ける。
「パルプンテ!」課長まで魔法を使い始めた。しばらく魔法の応酬が続いた跡にボインの萌え萌えメイドが目の前に現れ会計を求めてきた。
つづく
577 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/07(土) 21:20:17
良く見ると萌え萌えのメイドではなく焼き肉屋のおばちゃんだった。そう
>>1はむちゃくちゃ危ない酔いかたをしていたのだ。
課長ら2人も完全に酔いつぶれて寝ていた、
>>1 は三人分の支払いをしてタクシーを手配し、自分もタクシーで家路についた。
財布はスッカラカンになった、もうサラリーマンなんていやだ。。。
>>1 は自分のマンションにたどりついた、もう午後2時を過ぎているというのに「おかえりあなた」と嫁が迎えてくれた。
>>1 疲れも酔いもこの嫁
の魔法の言葉で消し飛んだ。
>>1 は嫁を抱きかかえてベットに向かった、そう、その紐を引っ張ると喋る1/1涼宮ハルピンのフィギアを。。。
次のお題は前のを継承
「焼き肉」「言葉」「魔法」
>>579 すみません、18行だから入ると思って書いたのですが、入りきらず切り取った部分がなぜか消えてしまい書き直しました。
行数ではなくデータ量で切られたんじゃないかな。
「焼き肉」「言葉」「魔法」
便利っていいよね。苦労しないしね。
『狭いマンションで呟いている』
魔法みたい。移動は早いし、店は多いし。
でも都会って人多いよね。しかも増えてるよね。
『壁を挟んで左右にも上下にも人がいる』
人がどんどん狭い場所に集まって、気分的に暑いよね。
『常に何かしらの音がしている』
暑い、焼き肉にされそうだよ。
『呟く言葉を聞く者はいない』
次:カレーライス スコール 瑞々しい
「カレーライス」「スコール」「瑞々しい」
今、僕は出張でタイに来ている。
タイは四月でもうすごく暑い。
日本とは大違いだ。
だって日本で四月といったらスキーも出来る時期だろう?
当地ではいつも屋台で朝飯を食べている。
ホテルで食べることも可能なのだけど、
出来れば現地の人がしている生活を体験してみたくてね。
今日はタイカレー(これはタイのカレーライスだ。とても辛い)を食べたんだけどその途中でスコールが来た。
スコールは雨期のこの時期、毎日のように来る。
ざっと降り、一時間ほどで止む。
そのあとすっと涼しくなる。
現地の人たちは傘を持ち歩かないから濡れても平気で歩いている。
僕も、と思うけどさすがにこれは真似できない。
仕事があるからね。濡れたまんまで行ったら困るだろう?
スコールの降ったあとには、花売りの売る瑞々しく咲いているジャスミンの花に雨粒が光っている。
とてもきれいだ。
君にも見せたいよ。
次→「冷蔵庫」「お肉」「野菜」
「最近、どの野菜も高くてこまるよ」と彼女が言った。
「まるでお肉は安いみたいな言い方だね」とぼくは言った。
「いま、グラムいくら?」と彼女が訊いた。
「お野菜よりは高いよ」とぼくは答えた。
「冷蔵庫にこんなに入りきらないね」と彼女が言った。
「冷蔵庫」「お肉」「野菜」
僕は冷蔵庫を開けた。冷えてしなびた野菜と赤みの失せたお肉がある。
この部屋は完全に包囲されているようだ。
屋外からメガホンの叫び声が投げかけられる。投降しろ、と。
――僕は人を傷つけた。このピストルで。
渋谷でこれを売買しようとしていた人をたまたま見かけて奪った。
消火器で殴ったら、2人ともぐったりとしてしまった。
そのピストルで銀行に押し入って適当に撃った。
窓の外には青い空がただ、ある。
メガホンを持った男(警部かなにかだろう)は、なにやら部下に指示している。
僕は冷蔵庫から野菜と肉を出して頬張った。銃口をくわえる。肉は鮮やかさを取り戻し、野菜は瑞々しくなるだろう。そうなるだろう。
メガホンの機械的な怒号が響く。お前のしたいふうにはさせないぞ、と。
そりゃ残念だ。僕は引き金を引いた。burn。
次題は「双生児」「マヨネーズ」「肌理」
あるところに双子の兄弟がいた。ともに好物はソーセージであった。
兄はウィンナーを愛した。ウィンナーにマヨネーズをたっぷり載せて、
毎食六本ずつ食べていた。 弟はフランクフルターを愛した。フランクフルターに
ケチャップをたっぷり載せて、やはり毎食六本ずつ食べた。
世間は彼らをソーセージ双生児と呼んだ。
彼らは自分たちの嗜好が度を過ぎていることをよく自覚していた。二人とも
二十五歳で結婚し、それぞれ子を儲けたが、家族に配慮して自分の献立を
妻子に強要しようとはしなかった。ただ自分だけは……自分だけは、毎食
必ずソーセージを食べられるように求めただけである。この配慮を肌理(きめ)が
細かいといわずして何といおうか。二人ともまさに紳士というべき男達であった。
しかし二人とも四十歳で急死した。理由は言わずもがなである。
次「銀紙」「日光写真」「かざぐるま」
日光写真。分かるかな。日光写真。
黒いカーボン紙に、影を送ってやるとその部分だけが白く抜けるんだ。
シーツ。分かるかな。シーツ。
俺の目の前には、一枚の真っ白いシーツがあって、大きく赤い染みが、日光写真のように『抜かれていた』。
寝室。アウト。廊下。ラン。階段。ラン。玄関ホール。アウト。
行き止まりに世界。俺の世界。
俺の街。俺の生まれ故郷。俺のホームタウン。
俺にとって限りなくフェアな、愛され愛すべき世界。
今日の日差しは、比較的それらすべてを憎悪している。
分かるんだ。分からないことは何一つない。刃物が、筋肉や脂肪にインサートされる感触だって、明確に理解した。指先で。
柔らかい味のする風が、鼻腔をくすぐる。こびりついた鉄錆の匂いを、洗い流していく。この風は、マイルドだ。太陽のように、ありとあらゆる存在を排他しようとしていない。
見ろ。
山麓に理路整然と、形而上学に則って配列されたプロペラ式の風力原動機は、まるで夜店に乱立するかざぐるまみたいじゃないか。
あれがこの風を、山頂から吹き降ろす鮮烈な風を、撹拌して人々の下に送り届けているんだ。素敵。
そして、俺のお留守な足元には、陽の光に体躯を黒光りさせた蟻が、這っている。行列をなしてクリープ。クロール。行き先は、銀紙にへばりついたウンコみたいなゲル状チョコレート。
それらすべてを、覆う影。俺の影。憎悪されている太陽の光を一身に浴び、更にソレをプライベートな憎悪で重ね塗りした、真っ黒すぎる影。
白く光る世界を、逆に『抜く』、日光写真のよう。
眺めて数十秒。
視線を逸らして天を仰ぐと、青い空が黒く『抜ける』カゲオクリ現象。
いえ、オーロラです。あれはオーロラです。俺にフェアな俺の街が、俺にプレゼントしてくれた、イニシエーションの象徴です。
思索のタイムラグが、プロセスを経る間に、オーロラはみるみるうちに同化していきます。なぜならば、獲物が足りません。足りないのです、獲物。貢物、供物が。足りない。絶対的に。
だから俺の脚は、やがて駆動する。ラン。衝動がラン。理性的にラン。
玩具のような憎悪の太陽、マイルドな風、それらに構築された白い世界を、一筋の影が、粒子を振りまきながら駆け抜ける。
抜けていくようです。つまりは、日光写真のように。
次のお題は「京都」「喫茶店」「銀」でヨロシク
長げえよハゲ
わるい、いったんあげ。
「京都」「喫茶店」「銀」は考え中。
(「京都」「喫茶店」→「築地」→銀鮭→ああ強引→やり直し→戻る)
age
592 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/18(水) 12:42:32
お題 「京都」「喫茶店」「銀」
京都にあるとある喫茶店。
そこの窓際の席で頬杖をつきながら、一人の男がさっきから手持ち無沙汰に、
銀のスプーンでコーヒーをクルクルとかき混ぜていた。
しばらくして男は、カップを口に近づけ二、三度息を吹きかけた後、コーヒーを飲んだ。
が、男はどうやら極度の猫舌らしく、コーヒーの熱さに顔をしかめた後、またスプーンでかき混ぜ始めた。
そんなに熱いのが苦手なら何故ホットコーヒーなど頼むのかと思うのだが、
それは、ある女に原因があった。
『ここの喫茶店ってね、ホットコーヒーがすんごくおいしいんだよ〜。一回飲んでみなって』
この男の彼女である女がそう言ってから一年後。
とりあえず飲んでみる事にした男だが、やっぱり合わないみたいだ。
男はそっとスプーンをソーサーの上に置くと、外を見上げた。
季節は冬、そして明後日はクリスマス・イブ。
アイツは今、何処で何をしているのだろうか……?
そんな事をふと考える男であった。
次のお題 → 「禁煙」「美少女」「扇風機」
ある朝のことだ。通勤ラッシュの電車の中で扇風機になぶられていた一枚の広告が、
強く私の注意を惹いた。それにはこうあった。
「禁煙の強い味方! 新発売、禁煙パイプ美少女味!」
美少女味。一体どんな味だろう。甘いのだろうか。禁煙マニアのひとりとして、これを試さずにはいられない。
その日の帰りに会社から三駅隣で途中下車した私は、駅前のマツキヨで件の品を買い求めた。
裏通りで箱を開け、早速一本試してみる。
――こ、これは!
予想以上の本格派だった。パイプの後端がグミ様の材質でできた半球になっており、わざとだろう、
その表面は僅かにでこぼこしている。舌で転がすのに丁度いい大きさである。パイプの中からは
ほんのりと塩味のついた液が浸みだしてくる。僅かに脂っ気と苦みのある、かきたての汗の味だ。
私は思わず箱を裏返してみた。「禁煙パイプ美少女味 夕暮れの部室でB編」とある。
素晴らしい時代だ。これをずっと咥えていれば、きっと禁煙できるに違いない。だが妻に見つかるとまずい。
私はセブンスターの箱にこの禁煙パイプを詰め替えた。家路の足取りは軽かった。
「おかえりなさい。あら、くわえ煙草? よくないわよ」玄関で妻は怪訝な顔をした。
「いや、禁煙パイプさ。今度こそ煙草をやめようと思ってね。君にも迷惑かけてしまうし」
こういうときのポーカーフェイスには自信がある。すると妻は笑って答えた。
「あら、あなたでもそんな気遣いがあるのね。じゃあ一緒だ。実はあたしも禁煙パイプ始めたのよ」
「え? 君は煙草吸わないだろう?」
「うん。吸わないけど、禁煙パイプだけ吸おうと思って」
そういって妻がエプロンのポケットから取り出したのは、極太葉巻サイズの禁煙パイプだった。
魚雷のような形をしていて、先端部だけが少し太くなっている。妻はそれをぱくりと咥えた。
「くちさみしひとき、こうやるっとね、だぃどころしごととか、はかどるほよ」
微笑む妻を見て私は思い出した。薬局の「禁煙パイプ 美少女味」のとなりに、「禁煙葉巻 美少年味」が
売られていたことを。
次→「遠浅の海岸」「きゅうり」「古い自転車」
本日はお日柄も良く、掌編構成について考察したいと思われ。
まず今次のお題は、比較的発想、連想のしやすい三単語が提出されておらる。流れを汲めば、少年時代やら田舎やらの回想を、オーソドックスにまとめるのが最善であるか?
だからこそ、逆に好難易度、とも言える。意外性を付与し辛いのです。
と、いうわけで。焦点は、きゅうりに絞らる。遠浅〜と古い〜は、条件付けのある単語。これを積極的に起用すると、背景がある程度、定まってしまいまし。
もし、それらの単語を中心に配置するなら、修飾語の方をメインに据えるのがフェア? 縛りは十人十色ですが。
さて、きゅうり。連想。あー、河童。メイン河童、河童で行こう。
サブ。遠浅の海岸。これは、河童を名物にする福井の寒村に手伝って頂こう。
若狭湾ないし駿河湾沿いの。原発あるからね。なんか、河童(的生物)ぐらい育まれてそう。
装置と、舞台が決まったので、自転車に関しては一単語として踏む程度に留めとくかー。長くなると、あだ名がハゲになる恐怖!
はい。じゃ、まず主人公は海で自殺しようとします。母なる海、生命の海で入水自殺、しかも敢えて遠浅を選ぶエキセントリック。ロックな野郎だ。
やがて、彼は死線を彷徨うのです。泳ぎ疲れるまで生を掻き分け、死に挑む!
そんな彼だからこそ、目にするでしょう。河童を。川を流れすぎて、海に辿り着いた河童は、哲学的思想をミネラルのように育み、主人公を諭し、きゅうりを与えます。
きゅうり重要。これ、黄泉戸喫in黄泉路のアンチテーゼ・アイテムだから。
んで、シメで主人公を生へ帰還させる。後日、あの河童は、村興しのため遠泳に挑戦した漁師だったんだーとか、そんなオチつけても好い。多分、ここまで書こうと思うと1レス丸々必要なんだるう。というか、必要だった。
次のお題は「カラス」「新宿」「眼球」でヨロシク
長い。
ガラスのカラスの眼球が ビルの姿を歪ませる
コーヒーカップに踊る白 シャボンの玉吹く針金の輪のように
男どもは皆死んでしまった 女達は皆売られてしまった
風に混じる砂はパイプを伝って暗闇に沈み
薄弱な太陽は影の間を怯えたように渡るのみ
ああ新宿よ 血と汗と精液の街よ
お前は死んだ スーツの男がお前を殺した
欲望の穴蔵から曙光とともに白い手を伸ばして
次「山のあなた」「夜店」「白い肩」
597 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/28(土) 11:44:26
5行以上15行以下厨独りぼっちwww
598 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/30(月) 17:38:09
もう終わりだね
さよなら さよなら さよなら
600 :
名無し物書き@推敲中?:2008/07/01(火) 00:11:22
規定の行数は守るように。守らない奴は荒らし。