繋がれた岩牢はひとりが入れるだけの狭いものだった。顔の前に開いた小窓
から荒野だけが見える。枷を留めた者は去り際にずっとこちらを見ていた。ま
るで子犬を捨てたことを嘆いているかのように。その尊大で、しかし寂しげな
眼差しから、自分が永遠の縛鎖についたのだと知った。死が軛を取りのぞくま
で。小窓から天頂に昇った太陽が見える。雲は走り、荒野は吹きすさぶ。まば
らに生えた草木は引きちぎられまいと必死に大地にしがみついている。やがて
日は沈み。月がやってくる。夜の荒野は静かだ。草木も安らかな眠りを得て音
もない。なにか音がしたように感じて目を上げた。しかしあるのは月の青い光
にてらされた動かない大地だけだ。耳を澄ます。右腕をかすかに動かすと音が
した。また動かす。音がする。むなしさが胸を満たす。音を発するのはこの荒
野で自分だけなのか。やがて風が太陽を運んでくる。月が照らし始めると風は
去ってゆく。荒涼の太陽と寂寞の月だけが自分のすべてとなる。まぶたを閉じ
れば、太陽と月とが同じように繰り返している。いま見ているものが実際目に
しているものなのか、まぶたの裏の残像なのか、区別はつかない。
長い時を経て、馬の蹄を遠くに聞いた。時は満ちたのか。
猿 王 インド