ナオミが言ったことが、最初頭に入ってこなかった。
話がうますぎるというのはこのことなのかもしれない。それでも身体の内側
から湧きだしてくる喜びの噴流は押さえきれない。期待していたことがこんな
結果となって現出するなんて。自分の心の中だけじゃなく、この世界、このく
されきったはずの世界で、体中の細胞を一斉に破裂させるような喜びが顕れて
くるなんて。ただ期待していただけのときは真実じゃなかったのに、ナオミの
言葉によって真実になってしまった。ナオミが現れた。ナオミがここにいる。
ナオミ。ナオミ。拳を握りしめる。手のひらに爪が食い込む。開いてしまった
ら消えてなくなりそうで、怖くて力を抜けない。拳に蓄えられた力が腕に伝わ
ってくる。肩をふるわせる。体中の筋肉という筋肉が全てのグリコーゲンを消
費しようと一斉に収縮している。夢なら冷めさせない。永遠に夢を見続けてや
る。ナオミの言葉を引き受け、自分の言葉を伝えるために力をゆるめた。精一
杯冷静に。でも気持ちをこめて。右手をさしのべて。言った。
告白 ダメ 雲