この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条

このエントリーをはてなブックマークに追加
375見えない トーチ 岩
 松明を片手に一人の少女が真っ暗な森のなかを走っている。少女は思った。もうどれぐらい走っただろうか、振り向いてみたが街の灯りはもう見えない。
松明の炎も次第に弱まってくる。それはそのまま少女の心を表していた。
夜明けを待てばよかった?そんな暇はない。すぐに薬を届けなければ。
こうしているいまも姉は熱でうなされているだろう。母も父も病に奪われた。姉は残されたたった一人の家族。急がなければ。
 風が枝の間を吹き抜け、不気味な音をたてる。悪魔の娘達の笑い声のようで、外套を深く被り耳を塞ぐ。姉からもらった団栗の御守りを力強く握りしめる。
途中何度転んだだろう。寒さも力を奪っていく。もう駄目かと思ったそのとき見覚えのあるものが目に飛び込んだ。狼岩!ということは村まであとほんの少しだ。
少女は走った。残りの力を未来を全てをその足に込め、村をめざした。

「あなたにも見せてあげたかったわ」
真っ白なドレスを纏った女性はそう呟いた。
「有難う…本当に有難う…」
そう言って彼女は花束を墓の前に置き、花婿のもとに戻っていった。彼女の手には団栗の御守りが握られていた。