後輩が花屋で薔薇を買っていた。
誰にあげるの、なんて聞くまでもない。
この間、つきあい始めたばかりの彼氏と旅行に行ったと、私にお土産をくれた。
小さな博多人形。後でこっそり、ほほえむ顔を爪ではじいたら、じんと指先がしびれた。
彼氏とうまくいってない私の気持ちに似た痛み。
幸せそうなあの子がうらやましい。
いたずら心を起こし「お疲れさま」と声をかけると、照れた顔で店から出てきた。
「お疲れ様です、先輩」
「きれいな花。彼氏にあげるの?」
「えへっ。ほかの人には言わないでくださいよ。あっちにいるのが彼氏です」
後輩の視線の先には、日差しを避けるように深く帽子をかぶった男性がいた。
「今日から、彼氏と一緒に暮らすことにしたんです」
「良かったじゃない」
後輩は目を輝かせてうなずき、彼氏に向かって手を振った。彼は突っ立ったまま。
「もう、いつもすぐ気づいてくれるのに」
後輩が駆けていって帽子を取る。と、私の彼氏の顔が現れた。
次のお題「春 豆 瓦」