風が、鳴った。僕は動きを止めて、空を見上げる。
何処までも高く遠くあって、青く澄んだ雲一つ無い空。
照りつける日差しは島に比べると凄く優しくて、涼しささえ感じさせた。
「……ここまで、来るなんてね」
懐に入れたパスケースに話しかけながら、僕はただ静かに歩く。
たったったっと、アスファルトを踏む僕の足音と、風の鳴る音だけが響く大地。
目的地はもう目に映っていた。
「……風に誘われて歌う……君への歌を」
遠くから、歌が聞こえてきた。
僕が、彼女の作った曲に付けた歌詞。それは、彼女と僕だけが知っている歌。
「風にたゆたせて歌う……君への思いを乗せて……」
目的地へ、彼女の家へ、家の前の柵に腰掛けて歌う彼女の元へ。
逸る気持ちが抑えられなくて、僕は気が付けば走り出していた。
たった数日だけ島へ来た彼女。そこで仲良くなって、でも彼女が帰るのは当たり前のこと。
けど、僕と彼女は別れなかった。インターネットが、距離を繋いでくれたから。
彼女の歌声を聞きながら、僕は彼女の前に立った。
ただ視線を交わして頷き合う。
そして、僕は彼女の後に合わせて歌い始めた。
花 日差し 帽子