この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ニヶ条

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369晴田雷稲 ◆/QeJSIyurw
「カツレツが食いたいいいいい」
 彼女の言葉はずっしりと湿っていて重い。まだ「い」が続いている。た
だの「カツ」じゃないし「食べたい」でもない。彼女はたまに言葉の選択
の仕方で僕をにやりとさせる。仰向けになって読んでいたR25と背景の天
井の間に、R25の右上の角からのそりと顔をだした彼女の目はオニだよ。
オニ。おなかへってるんだね。R25の角でチョンとオニ目をつくとギャっ
といって床をドタドタいわせて後ずさった。
 アパートを出てアーケード街をいきつけのとんかつ菊花豚(きっとかっ
と)まで歩いてると駅に折れる角に新装開店のレストラントがどでかく構
えていた。入口がまるで魚眼レンズで誇張された犬の顔みたいにでかい。
でかいでかいと思っているうちに立ち止まった僕ら二人を自動ドアが左右
にぐわっと開いて噛み付くように迫ってきた。かまれちゃ大変だと一歩進
んでドアを入って舌なめずりするような赤いフロアマットの上にジャンプ
した。
 店員に案内されて席につきメニューに顔をうずめていた彼女は「すみま
せんガスパチョ2つ」と手を上げた。トンカツにしないのかなと彼女の顔
を見ると「ガスパチョ知らないの? アンダルシアだよ?」と言って鼻と
あごをつんと上げてうす目で僕を見下ろす。オロカモノメって。でもすぐ
に「ぐふっ」といつもの下品な笑いがこぼれる。なんだ彼女も知らないん
だ。にやりとする僕の頭を「バカにしないでよ」と手のひらでポコリとた
たく。手の重さで首が傾いで「あイテ」
 開いて見せてくれたメニューには黄色いスープの写真があった。指差し
ながら、これよ。飲んだらトンカツ屋さん行きましょ。と微笑んだ。急に
普通で冷静になっちゃった。僕もおなかがすいてきた。

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