ペットボトルが地面に落ち、ミネラルウォーターが無重力状態で放たれたように飛散した。男は落としたものを気にもせず、ただ見上げていた、彼だけではない、周囲にいたほとんどの者、いや、世界中が、真っ昼間の空に突然現れた「それ」をただ呆然と眺めていた。
「だいだらぼっち…」
彼は昔祖父から聞いた妖怪の話を思い出していた。しかし今頭上をゆっくりと漂っている「それ」はそんな架空の妖怪よりはるかに巨大だった。
「それ」は液体のようであり個体のようでありピンクでもあり緑でもあった。ある者は神だといい、ある者は悪魔だといった。見る者によって変わるらしい。
「ただ共通していることがあります」
電気屋のテレビのニュース中継が「それ」についてまくし立てる。
「あの巨大な物体が通過した後には生物が消えるということ、次第に大きさを増していること、そして…」
中継は途切れた。自衛隊や軍は必死に抵抗したが一切の攻撃が効かず、核さえも取り込まれた。人々は諦め「それ」と一つになることを望みはじめた。そして「それ」の何周目かの巡回の後、地球から生物は消えた。「それ」はゆっくりと深呼吸して、宇宙の波を泳いでいった。