森はだんだん暗くなってきた。踏みしめる落ち葉の音も湿ったものにかわる。
カリウドは肩越しに目をやり息を飲んだ。ついてくる七歳の子供の周りだけが
白く輝いている。カリウドは足を止め体ごと振り返った。子供はカリウドを見
上げ、どうしたの? と聞いてくる。顔を見つめると白い光がゆっくりと消え、
白い肌と赤い頬、そしてつややかな黒髪の白雪姫がカリウドの瞳を占める。
カリウドは目をつぶる。狩に使う刀に手をやり、とまってしまう。
「知らんがな」
ようやく言葉をしぼりだしつぶやく。瞑目のままゆっくり、鞘ずれの音を聞
きながら刀を抜く。目を開ける。白雪姫はおびえていた。余計なことを聞いて
ごめんなさいといった。
「いや、違うんです。お姫様」
そういって切っ先を白い喉に向けると、白雪姫にはもうなにもかもわかった
ようだった。城にはもう帰らないから助けてくれと泣いた。刀を持つ右手を白
雪姫の両手が包んだとき、カリウドは自分がぶるぶると震えていることに気づ
いた。はっとして白雪姫の喉もとから刀を離した。すると白雪姫はありがとう
といいながら、森の奥へと足音もなく消えていった。
カリウドは、あしたのグリム新聞社のヘッドラインは王女失踪になるだろうか
と考えながら腰が抜けて座り込んでしまった。
「だいだらぼっち」「波」「ミネラル」