自作小説を書いて見るスレ

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197ふみあ
2-7入学式
>>薫
 2階席に設けられた保護者席へ向かった母と別れた後、1階席の生徒席に向かうため生徒用の受付に行く。
「すみません。今度高等部に新しくは入ったものなのですが。」
「はいはい、ちょっと待っていてくださいね。」
応対してくれたのは50歳くらいの、眼鏡をかけた太ったおばさんの事務員だった。彼女と僕を隔てる机の上、彼女の前には灰色のノートパソコンが開いておいてある。
「お名前を言ってもらえるかなぁ。」と訊かれたので
「綾小路 薫と申します。」
「えーと、アヤノコウジ、カオルさんね。」
そういいながら彼女はおもむろにPCのキーボードを叩いていく。
「チョーと待っててねぇ。これ少し時間がかかるのよぉ。」
「はあ。」
しばらく待っていると。
「あ、出てきたわ。綾小路 薫さんやね。15-Fの席になるから。」
「わかりました。どうもありがとうございました。」
198ふみあ:2009/06/20(土) 05:50:26
 入学式のプログラムと座席番号の書いた紙をもらってF-15、F-15と念じながらホールに入ると、相当数の生徒が既に集まっている様子が見渡せた。
 ホール自体の雰囲気はその辺のコンサートホールや会議場とそう大差ない感じである。やや橙のきつい黄色い光を放つ間接照明に音響の良さそうな壁や天井、これでもかとライトアップされたステージには豪華だが厳かなオーラを放つ演壇が真ん中に置かれ、
お約束のようにやや離れたところにグランドピアノが置いてある。ステージの奥の壁には校章旗と日本国旗がならんで掲げられ、その下に『202X年度 第11X回聖リリカル女学院高等部入学式』と達筆に書かれた横断幕が掲げられている。そしてステージからこちらまでずっと緋色の
着地が張られたジャンプ式の折りたたみ椅子の座席が通路の階段に沿って整然と並んでいる。ただ、その通路がど真ん中に一本とホールの壁沿いに2本の計3本しかないことと、扉自体は5つあるのに出口はステージ正面、一階席の一番後ろの列のさらに後ろに設けられたスペース、
今現在僕がいる所だが、の3つと、舞台の袖に設けられた非常口の3か所しかない点だろうか。2階席はよくわからないが真ん中の通路と非常口がなく、扉も2つしかないことを除けば1階と大差ないようである。
199ふみあ:2009/06/20(土) 05:51:06
 見たところ学生は真ん中付近、通路をはさんで二手に分かれて座らされているようである。
 F-15の席はステージから数えて6列目、出口から向かって右側の真ん中の通路側の席だったのですぐに見つかった。が、なぜかそこにはすでに先客がいた。少し小柄だがセミロングの元気の良さそうな娘である。
「あの、すみません。」
「ごきげんよう。なんですか?」
「そこ僕の席なんですけど。」
「え、ここ私の席ですよ。」
「まさか、何番ですか。」
「私の席?」
「ええ。」
他に何がある。
「E-15よ。」
「ここF-15ですよ。Eならひとつ前の席です。」
「あなた何言ってるの。ここにE-15って書いてあるでしょ。」
といって、彼女は眼の前の座席の背もたれのトップに埋め込まれた『E-15』と書かれたプレートを叩いて、さも自分が正しいかのように「えっへん」と胸を張っている。よく見ればプレートの文字が上下逆に書いてあることに気付けたと思うのだが。
「だから私が間違っているというのは間違いよ。他をあたりなさい。」
「ちょっと待ってください。このホールの座席はステージから数えて一番前がA、そこからアルファベット順にTまであるんですよね?」
「それがどうしたの。」
「ということは、あなたの席がEで始まっているんなら、あなたの席は前から5列目ということになりませんか?」
「そうなるわね。」
200ふみあ:2009/06/20(土) 05:51:47
「でもここ前から6列目ですよ。」
「E-15と書いてあるわよ。」
だからそれは己の目の前の席の番号だっつうの。埒が明かないので後ろの席、G-15に座っている娘に声をかける。
「すみません。ちょっといいですか。」
「なんでしょう?」
「ここF-15番ですよね。」
「そうですよ。座席にそう書いてあるでしょう。」
「ありがとう。ほら、やっぱりここF-15ですよ。E-15じゃないですよ。」
と第三者の言質を取った上で言うと。
「わかったわよ。前に移るわよ。ごめんなさいね。」
と謝っているというよりは、ふてぶてしいというか、いかにも譲ってやったわよとでも言いたげな不遜な調子でこう言って、彼女はどうにかその場をどいてくれた。
201ふみあ:2009/06/20(土) 05:52:28
 やれやれ、やっと座れたぞと思いながら席に着くと、今度は左側に人が立っているような気がする。なんだろうと思って目をやると、
僕と同じぐらい小さい、少し長めのおかっぱ頭の、何か言いたげな女の子がそこに立っていた。恐らくF-2から14の間のどこかに彼女の席があって、
僕の足元を通ってそこに行きたいのだろう。
 何も言わずにそっと立ち上がり彼女に一言「どうぞ。」というと、彼女は「あ、ありがとうございます。」と何かあわてたような、
というよりやっと絞り出したようにそれだけ言って僕のそばを通った。