創作文芸民の力でHUNTER×HUNTERの続き考えね?
>>250の続き 団長・過去篇
─少女のときでさえこれ程のことはあっただろうか、嘘のように体が軽い。特に背中から両目に
かけてほとばしるような生命力を感じる。
見慣れた店内の光景のはずなのに、何故だか新鮮で、素晴らしい職場で働いているかのような気
がしてくる。自然と湧き上がるプロのウェイトレスとしての責任感、仕事のやり甲斐と同時に、自
分が一人の若く健康で可愛い娘であることの喜び、嬉しさを噛みしめて、体の動きに表さないよう
にするのに、腰の前で左右の拳を強く強く握りしめなければならなかった。
シャルナークは幾分楽観していた─ウェイトレスが最初に出会ったコックが、自分達の注文した料理を
こしらえる「長」だったからだ。これ以上2本しかないアンテナを小忙しく使い回す必要もない、は
ずだ。次に忙しいのは、道筋を逆に辿りアンテナを回収する時だけ…そうであって欲しい。
背中のS字カーブの“凹み”のやや下、右側、背中の太い筋肉のある所、調理服の上にシャルナークの
アンテナ(ロ云形ウンギョウ)を横倒しに生やした、自動操作状態の男前の調理師は、専門用語で次々と
簡潔に指示を出し、チームの全員の作業に丁寧に目を配り、着々と段取りをこなして行く。
高温の油で炒められる魚介と野菜、豚肉から立ち上る湯気の匂いが画面から漂ってきそうだ。
♯シャルナーク「(…火のないセンターファ料理も寂しいもんだな)」
電磁加熱─イーベンでは、一般的にガスが使われていない。天然ガスや原油が採れず、海外から
も輸入されないからだ。
一息ついたシャルナークは、団長に向けて古いセンターファの文字を二つ、オーラで形造り縦に並べて
見せた。
♯シャルナーク「『杞憂』」
>>251の続き 団長・過去篇
─珍しい故事をまた、引き合いに出すものだ。団長はそう思い、簡潔に応える。
†団長「『念の為さ ─石橋を叩いて渡る』」
♯シャルナーク「『それ知ってる ─お前は転ぶ、ステッキなしで─』」
†団長「(……。)」
団長は押し黙った。シャルナークは団長の指示通り、小さい画面の中のコック達の手元に怪しげな動き
がないか、“凝”で“微視”し続けている(※─小さいものを小さいまま、あたかも自分の方が小
さくなったかのように巨大に捉える観法。米粒に経を筆で書くが如し─)。
今は古いイーベンの諺の修正をしてやるに相応しい時ではない─主題に戻るべきだ。
†団長「『所属を隠したプロハンターが二人─イーベンで堂々と落ち合っている─これに興味を持
たない当局はいないよ』」
♯シャルナーク「『そりゃそうだね』」
†団長「!!… 『このタイミングで玉子なんだな─』」
団長は、画面に映る巨大な可動式両手鍋で熱される炒飯に、別の皿から放り入れられた黄色い粒
々群をみて、左手の人差し指から、携帯電話のシャルナーク側の空中にそう書いた。
♯シャルナーク「(…いいけどね…)」
先程から繰り返し交わされる二人の空中筆談は、オーラの細かい形状変化で空中にハンター文字
を書き連ねて短い文章を相手に読ませる、「浮印(フイン)」或いは「流描(リュウビョウ)」と呼ばれるもので、
ハンター特有の無音会話である。
暗い所に限っては、チカチカと明滅する故に、小声で話すよりかえって目立ってしまうので、夜
のハントには向いていないが、昼間の秘密通信には重宝する。
感覚が鋭敏な動物の中には、浮印フインに限らずハンターのオーラの流れを感知して反応してしま
う種類もいるが、ともあれ、何より都合がいいのは、念能力者でさえなければ、余程目の良い人間
以外全く気付けない点にある。
とりあえず2人は、隠しマイク─音を気取られることを最優先に警戒している訳だ。
>>252の続き 団長・過去篇
しかしながら、オーラの色、光は、デジタルであれアナログであれ、記録装置に画像データとし
て残るという性質もまた、ある。仮に、隠しカメラでこの光景を覗いている能力者がいれば、浮印
フインによる会話は勿論、シャルナークの携帯電話&アンテナや、この国の念能力者にはポピュラーな「書物
(※巻物)」に封じ込めた念─不気味な空中遊泳の怪魚群と、かなりの情報を既に与えてしまったこ
とになる。
(─たとえ今でなくとも、後から改めてデータを解析することも可能だ。リアルタイムで覗かれ
ているのでなければ、いかなプロハンターと云えども察知することは難しい。獣道に予アラカジめ仕掛
けた無人の暗視カメラが、夜行性の野生動物の撮影に成功する可能性が高い所以だ─)
普通に考えれば、国内で先に活動を始めている団長とは違って、たった今入国したシャルナークの動き
は誰にも掴めていないのだから、当然水際から調査に掛かる必要があるし、そうするのが定石と言
えよう。
それを逆手にとり、団長は、シャルナーク1人をマークし始めた直後の監視者に対し、(団長の公共交
通機関を使った移動を捕捉していれば、合流は想定の範囲内だろうが─)二人揃った戦力を見せつ
けることで、牽制する機会にするつもりなのだ。
どうせ─1人でいる時からずっとそうなのだが─、今後の道中は二人して、カメラ&マイクの前
の演者であるし(※─団長を対象にしているのではなく、それらは行く先々に最初から在る。イー
ベンは行き届いた状況証拠採集社会なのだ─)、そして、背景は定かではないものの、遠巻きに監
視を続ける忍シノビ連中の、環視の中での行動になるのだから。
>>253の続き 団長・過去篇
当然のことながら、いざの際の権限においても勿論だが、そもそも実力において、ライセンスを
持つ正規のハンターを尾行、また捕獲しうる者は、同じハンター以外に有り得ない。そして、たっ
た二人のチームに対し、と云えども、実際に仕掛ける以上は、万全の体勢で臨むのがハンターだ。
というのも、プロハンター同士、正々堂々と身分を明かし、面と向かっての聞き取り調査─とい
うのならまだしも、影でこそこそ立ち回るからには、出会い頭に立場がひっくり返る覚悟が必要─
狩る側と狩られる側が入れ替わる恐れが、常に拭いきれないからだ。
なんと言ってもこの2人は、(今のところ)不法入国の盗賊団メンバーなどではなく、正規に入
国したハンターライセンス保持者だ。
身の回りを嗅ぎ回る不審者を切って捨てたとして、そしてそれがこの国の諜報員だったところで、
拘留はおろか在宅起訴も難しい(最初から住所不定の2人ではあるが)。
たとえ立件できたとしても、違法性阻却ソキャク事由─ハンターとしての正当行為、即ち不審者逮捕
時の実力行使として、免責事項に該当してしまうことになるだろう。
それ故に、慎重にも慎重を期すのだ、といった所が、管理する側の発想だろうが、管理される側
─おかしな2人の思惑はこの際、どうだろうか。
本来なら、大人しく司直の手続きに則って、自らの権利を主張するような小市民であろうはずも
ないのだが─。
シャルナークはまだ知らされていないが、今回の団長の狙いは、ささやかな個人の念能力たった一つだ。
>>254の続き 団長・過去篇
できれば今回の小旅行は、このままそっと干渉しないでいて欲しいというのが、団長の正直な所
だった。
賞金首狙いの志願者(ボランティア)なら一向に構わないのだが、盗みだ殺しだで駆り出される公務員
が、偶々仕事熱心且つ優秀なあまり、団長を追い詰め得た際に、怪我だの死体だのと惨い目に合わ
せてしまうのを、かねてから気の毒に思ってはいたのだ。
そもそものイーベンの国情に対する配慮もあり、今回の入国は、初めてのライセンスホルダー二
人揃い踏みだ。表面的には、とやかく言われる筋合いはないはずだ。
♯シャルナーク「…『もう─できるようだよ』」
シャルナークは携帯電話のキーを押し続け調理師の視線を固定し、別のコックが陶製のティーポットか
ら氷で一杯のガラス製のそれに注ぎ移す、熱々で濃厚な烏龍茶を注視している。
アンテナの刺さった、シャルナークの支配下にある調理師は、仮に本人が料理に毒を盛りたくても、シャル
ナークに対する敵対行動を封じる命令コマンドに逆らえない。(※アンテナ2本を別々の2人に刺してい
る場合は、シャルナークが手元でセレクトしている1人限定。そして、その1人が、「毒を盛りたいのに
果たせない」ストレスを、シャルナークは命令違反アンチ-コマンドの信号として感知できる)。しかし、その
他のメンバーの手元・手仕事は、モニタで逐一チェックする他ない。
また、今の視点固定のように、自動操作(オートムービング)中に遠隔操作(リモートコントロール)をかぶせる、割
り込ませると、本来本人がやりたい、「やるべきこと」(※その具体的な内容まではシャルナークには判ら
ない─)が実行できていないストレスが、シャルナークの思念に反映される。
そのストレスで、シャルナーク本人はダメージを受けないが、調理師の方は、早く完全な自動操作に戻
してやるか、意識レベルを下げた遠隔操作に切り替えてやらないと、不可解な意識分裂をきたして
しまう。
しかし、たとえ調理師の脳波の許容量を振り切ったとしても、今ティーポットから目を離す訳に
はいかない。
シャルナークは、どうしてもキリッと冷えた烏龍茶を飲みたいのだ。
>>255の続き 団長・過去篇
本来暖かいまま飲むべき飲み物の、殆ど全てを冷やして飲むイーベン独特の食習慣は、世界的に
みても珍重なものだ。冷蔵庫が普及していない片田舎では、ビールすら常温で扱われる。冷やして
飲む習慣を知らないのだからそれも無理からぬこととはいえ、世界中の美食を堪能している身とし
ては、極めて残念な思いをしていたのだ。
♯シャルナーク「…『ティーポット(※ガラスではなく、陶器の方のこと)もそうだし─あの氷─痺れ薬
が溶け込んでたらアウトだな』」
この2人の為に厨房のスタッフが分別した、調味料や食材、道具に食器。毒を仕込み得るものは
、全て視認し(洗アラッ)た。可能性が残るのは、飲み物だけだ。
†団長「『─飲まなきゃいいよ』」
繰り返すが、流星街出身の二人は粘膜がやたらと強い。きちんと咀嚼しさえすれば、食事中の喉
を潤す水分など最初から不要だ。食事により摂取してしまう塩分は確かに厄介だが(─体内で水溶
させる為に、保有水分量が一時的に増える。則ち、「飲み水が必要」になるのだ─が)、故郷の有毒
物質に耐える作業に比べたら、肝腎を守るオーラの負担はないにも等しい。
♯シャルナーク「『good!! ─もし僕が傷んだら─介抱を頼む』」
†団長「…『了解…』」
配膳が終了した。シャルナークは一本だけ、アンテナ(ロ云形ウンギョウ)をウェイトレスの腰の筋肉か
ら抜き取り回収した(移動中に落とさぬよう、オーラで固定できる「体」に刺して中継したのだ)。
肩の後ろに刺さった阿形の方は、会計時にでも回収するつもりだ。
>>256の続き 団長・過去篇
アンテナの「針」の、一般人のオーラを用いた滅菌・消毒は完璧ではない。おそらく、あの男前の
調理師が保有する諸々は、ウェイトレスにも感染することになるだろう。
最初から他人の事など気にする男ではないシャルナークも、いざの時には自分にも刺すアンテナのこと
、手元を経由するからには最善を尽くす。
シャルナークはオーラの揮発性を高めて、アンテナを“洗った”。
─実のところシャルナークは、既にいくつかの感染症にしっかりと感染していると見た方が正しいだろう。
─しかし、「キャリア」ではあるものの、逆に念能力者の体調を慢性的に損なう程の悪性の感染症
が発症する可能性もまた、少ないと思われる。もしも発症する時は、そのまま劇症を発して死ぬこ
とになるのではないだろうか─
♀女「…それデハ、ごゆっくりドウぞ。御用ノ際は、お手元ノボタンを押シてお呼び出し下さイ」
通り一辺の決まり文句を吐き出すと、ウェイトレスはワゴンと共に大人しく退室した。
シャルナークは円卓の「縁フチ」、ターンテーブルの外側部分に携帯電話を置いて、モニタをウォッチで
きる状態を維持する。
ウェイトレスに自由に本来の仕事をさせたまま、歩哨の役目を勤めさせようというのだ。
普通の人間ならいざ知らず、念能力者がその場に居合わせれば、確かに気になって仕方ないだろう。
シャルナークが特にそうしたせいで、ウェイトレスの全身のオーラが活性化して、特に両目がビカビカ
に光っているのだ。
>>257の続き 団長・過去篇
右の肩の後ろの、アンテナを刺した角度が巧妙である為に、背後からでないと見えはしないが、
シャルナークのアンテナはわざと誰の目にも明らかな造りをしており、そして、このウェイトレスのよう
に、刺さった状態もかなり目立つことが普通だ(─左側後ろから見ると、適当に折り曲げて畳んだ
ティッシュペーパーを、画鋲で突き刺しているように見える)。
丁度「ワインのコルク抜き」のようなT字型の、左右に翼を広げた、携帯電話と同じくやはり蝙
蝠を模したデザイン、シャルナークの肌色に近いアイボリーカラーの手のひらサイズ。
口を開けて牙を剥ムいた「阿形アギョウ」と、閉じた口の端から牙のはみ出した「ロ云形ウンギョウ」の、
2本・2種類。
その蝙蝠の下半身、まっすぐに伸びた「針」部分には、「銛モリ」のような「かえし」が、ついていない。
故に─実は誰もがシャルナークのアンテナを、物理的には簡単に引き抜くことができる。オーラでがち
がちに固定して抜けなくしているのではなく、逆に、誰かの意志もつ手が抜き取ろうとする、その
オーラに素直に従うように設定してあるのだ。
例えば、チームで行動する「敵」の内の一人が、シャルナークの支配下に入った場合、その他のメンバー
に操作の支配条件が「見易い」、「解り易い」ということは、そのまま、(こちらからの情報開示抜き
の─)解除条件の開陳に繋がる。
解除条件を相手に悟らせる意味、それは即ち、シャルナークの能力の底上げの基盤になっている。
同じ底上げの効果を得るのに、自らの解除条件の通告を必要条件として組み込む能力者もいるが
、シャルナークの場合は、その手間さえ省く程の分かり易さだ。
加えて、シャルナークの場合は、始めから2本しかそのアンテナを持たず(─そのことまでは相手に伝
わらず、また伝えるつもりもないが)、しかも、2本を2人別々に刺したところで、同時に支配下
における訳でもない。つまり、対象を1人のみに限定する能力だ。
>>258の続き 団長・過去篇
それらの不利な条件を踏まえることと引き替えに、シャルナークが手に入れたのは、支配の即効性─
相手の体の、たとえ末端部分であろうと、アンテナが刺さりさえすればその瞬間、相手の意識や
本能を断ち切り、無力化してしまう程の絶大な効果だ。
─また、「敵チーム側」の「解除作業」に対する防御法としては、(オートであれリモートであれ─)
「刺さったアンテナを周囲に気づかせないよう立ち回る」こと、或いは「抜こうとする周囲の動き
からアンテナを抜き取られないように防御する」ことを、命令(コマンド)入力することはできる。
そのレベルを上げれば、シャルナークにオーラを活性化された、例えばこの若いウェイトレスの身体
能力なら、普通の人間相手であれば撃退して、やってのけるだろう。
「─親しい人間を傷つけたくない、暴力を振るいたくない」という本人のストレスを、シャルナークは
感知することができるが、お構いなしにコマンドのレベルを上げると、オートモードですら殺人ま
でもやってのける。
人を玩具にする─人としてけして褒められたものではない所業を、この男は唯一の必殺技にして
いるのだ。
…
†団長「とりあえず食おう。話は後だ」
シャルナークは当然のように、ウェイトレスが用意した烏龍茶を、2杯とも我が方へと寄せた。まさか
致死性の毒物までは仕込まれていないだろうが、確証が取れなかった以上、2人ともが口にする訳
にはいかない。
もちろん、団長の体を慮オモンバカってのことではなく、先に団長に約束させた通り、自分が毒に
中った時に、我が身を守らせ、また介抱させる役目を押し付けんが為だ。
>>259の続き 団長・過去篇
一方、団長はウェイトレスが陶製の箸置きの上に丁寧に据えた、竹製(?)の割り箸を手に取り
黙考している。割り箸も箸置きもストローその他も、部屋に備え付けのワゴンとチェストに最初
から用意してあったものだ。
†団長「(…竹…は、使い捨てか…?)」
そういえば、ここアレオ市のあるクースー島のみならず、ホンスー大島においても、割り箸を
使い捨てる風習は、幾度も目にしている。
団長が、割り箸についてはたと思い至ったのは、それについてのリサイクルがイメージし辛い
アイテムだったからであり、それを気付かせたのは、同時にこの国では珍しいリサイクル製品を、
この場で初めて目にしたからだ。
この部屋にある小じんまりとした鏡台の「手洗い」の横には、リサイクルペーパー製の「手拭き」が、
はめ込み式の箱の中に備え付けてある。普通イーベン国内では見ることのないアイテムだ。何しろ、
ポケットに持ち運ぶ鼻紙すら贅沢品なのだ。
ここクースー道(島)西海岸が、イーベンで唯一の開港地であり、この旅館がセンターファの
資本が注入された、高級宿泊施設ゆえ─なのだろうか。
濡れた手を乾かす光学式の除菌乾風機はどこにでもあるが、(─電気に困ることはないイーベン
だ)、それで満足できない人は自分のハンカチで拭くしかないのが普通だ─鼻をかむ用と手拭き用
に、2枚以上持ち歩いている─携帯鼻紙や箱入り鼻紙は、在るには在るものの、一般にイーベン人
は洗濯することが前提の「布」で鼻をかむ(─蛇足だが、紙オムツはある)。
イーベンに紙の原材料が新規に輸入されることはないので(多少の自給はあるものの─)、
紙以外の原材料で代替できるアイテムは全て、「脱紙化ダツカミカ」が達成されている。
>>260の続き 団長・過去篇
例えば「新聞紙」に印刷された新聞は、通勤途中での販売しかなく、故に家々では、電子通信の
内容をモニタに映して、寝っ転がりながらコンテンツ毎に拡大して読む。
イーベン国内発行部数最大の週刊誌、「週刊少年サバイブ」も、紙に刷るのは25万部程しかなく、
それを手に入れることができなかったイーベン人は、世界標準仕様と同じ“弄られた”配信データ
を電子購入するしかない。
漫画や新聞紙に回す紙が充分でないのを逆手にとり、レア感と飢餓感を醸し出す手段になって
いる訳だ。定期購読は勿論できるが、駅売りや書店売りの場合は、朝から“張って”いないと、
まず買えない。
そのせいかしらん、団長は入国してからというもの未だに、紙刷りの「週刊少年サバイブ」を
手に入れて、大好きな漫画「ベベンベベン・ベーベベン」を、現地のイーベン語のままで読むことが
できないでいる。
イーベンの母語で写植された「サバイブ」は、間違いなくここでしか目にすることのないレアもの
だ。イーベンで最も用いられる、古くからのセンターファ文字、即ち漢(ハン)字(─シンナーズ
キャラクタ)は世界中に普及しているが、イーベン固有の文字である2種類の「仮名」は、アンダー
グラウンド(※─地下カルチャー)を除き、学術的にしか知られていない。
その学術の「壁」、またイーベンに関する情報封鎖を、まさしく蟻の一穴、静かに突き崩している
のが、イーベン発の「漫画」及び「アニメ」だ。
>>261の続き 団長・過去篇
─各国の言語やハンター文字で、ネーム(台詞)や“背景の文字(≒オノマトペ)”の入った、
紙刷りの「サバイブ」は、世界中どこにでもある(─地域によって販売形態が違う。必ずしも「週刊」
ではなかったり、人気のない漫画を最初から省いて製本していたり、各国各様だ)。
しかし、絵の背景に書き込まれて溶け込んでいる、イーベン文字を完全に除いて「自国の漫画・
アニメ」に見せかけること(─南クルイア辺りがよくやっている)─即ちイーベン固有の匂い、
染みを完全に消すことは不可能だ。
故に、世界中の趣味人の間で、センターファの従属国(─小地域扱い)の市民、イーベン族は、
独自の文字を用い、何しろ面白い漫画を次々に創る、優れた漫画家・アニメータを輩出する連中だ
と認識されている。
そして、宗主国・世界に冠たる誉の自由民主主義国家、センターファ共和国を経由して─
ではあるものの、世界中の電子配信の分も含め、正当な、莫大な利益が、著作権者・出版社には
もたらされている。
イーベンの物理的な経済封鎖については徹底しながらも、イーベン人が売り上げた真っ当な商売
(コンテンツ産業)から、利ざやを掠め取るようなことだけはしないというのは、苦労して民主化を
達成したセンターファ人の、矜恃キョウジなのかもしれない。
>>262の続き 団長・過去篇
…
♯シャルナーク「…どうしたの? 団長。まさか、「箸」は…大丈夫でしょ? 最初からこの部屋にあった
んだし、ウェイトレスさんが選んで置いたんだから」
この部屋に2人を通した段階では、確かにウェイトレスの自由意思だった─が、仮に、最初から
毒仕掛けの食器が用意してある部屋に通したのだとしても、初めに注いだ水のグラス以外は、全て
シャルナークの支配下での作業。つまり彼女は、毒が塗布された箸置きやら箸やらが手元に用意してあっ
ても、「それと知らなかった」場合を除き、2人の前に配ることはできない。
シャルナークはお構いなしに、陶製の匙(※レンゲ)で炒飯をかき込み、念願の冷たい烏龍茶を、
ストローで吸い込んでいる。
†団長「…ああ、すまない。そうじゃないんだ」
─そういえば、シャルナークは、イーベンの漫画など好んだろうか。
団長は、片手で器用に割り箸を分かち、とろみのあるスープの中の春雨をつまみ出して、呼気を
吹きかけた。
シャルナークも、太平燕(タイピーエン)の丼鉢の中を箸で探って、やや残念そうに呟いた。
♯シャルナーク「…“燕の巣”は、入ってないね。やっぱり」
>>263の続き 団長・過去篇
†団長「…入ってないな。というよりお前、“燕の巣”なんて、食べたいか?」
♯シャルナーク「まあ、めったに見かけない料理だしね、イーベンになら、ひょっとしてあるかなと思っ
てさ」
†団長「期待させて悪かったな。まあ、あれを流通させるのは、イーベンどころかセンターファ
でも難しいさ」
野生の岩壁燕の、卵を横取りする─のではなく、それどころか、その卵を産む為にせっせと
親鳥がこしらえた巣の方を、まさしく卵を産む直前に奪うやり方がいかにも人道的でないと、
世界中の野鳥愛護家、自然団体から総好かんを食らう料理なのだ。※─産卵済みの巣は、
採取しない決まりだそうだ─
確かに隔離地域のイーベンのこと、秘密裏にその程度の悪事が行われていても不思議ではないが、
逆にイーベンには、食材を仕入れる物理的なルートも、金銭的余裕もない(※─食材である巣を
作る岩壁燕は、遥か南方の固有種で、イーベンにもセンターファにもいない)。
こそこそと贅沢な食事がしたいなら、イーベンよりもセンターファの高級飯店に行って然るべきだ。
団長は、調味料を着けずに餃子をかじった。“素”の味が好きなのかもしれないが、何より、
部屋備え付けのカスターの中の調味料を使うことを避けているのだ。
†団長「…それにね」
餃子を燕下した団長が、言葉を継いだ。
>>264の続き 団長・過去篇
†団長「そもそも、太平燕(タイピーエン)の燕ウェンの文字の意味するところは、燕の巣じゃないよ。
元々は確か…雲呑(ワンタン)の意味じゃなかったかな…」
♯&† シャルナーク&団長 「(…フェイタン…)」
目が合った2人だが、表情を変えることなく、食事を続ける。
何の気なしに、シャルナークが言った。
♯シャルナーク「…もっと量があるかと思てたよ」
─「ランチセット」なのだから当たり前かもしれないが、3種の料理は2人それぞれの皿や鉢に
分割されている(─烏龍茶(冷)だけは、涼しげなティーポットにまだまだおかわり分がたっぷり
入っている)。
携帯電話のモニタで見るまでシャルナークは、例えば炒飯なら、大皿に大量に盛られて登場し、
イーベン生まれのターンテーブルを回して寄せて、巨大なサバ-スプーンを使って手元の皿に
取り分けてから食べるもの、と思っていたのだ。
†団長「あっ、ごめん。足らないか?」
♯シャルナーク「いやいや、そんなことはないさ」
慌てて否定するシャルナークだ。
というのも、このレベルの栄養価とカロリーなら、一度取れば10日は食事なしで活動することも
可能な程、2人は燃費の良い念能力者なのである。
それでも例えばこの2人は、仲間内では頭脳派、司令塔役なので、肉体派の連中と比べると、
若干スタミナは劣る。
脳の疲弊を避ける為に、炭水化物を欲する信号を、割と早めに発するようにできている体なのだ。
2人のいないところでは、「あの食いしん坊たち」とまとめて呼ばれているのを、2人だけが
知らない(─ウヴォーギンの場合は、間隔は開けることはできても、一度に食べる量が多いので、
「大食らい」と呼ばれている)。
─瞬発的思考を巡らし、いち早く分の良い選択肢をあぶり出してそれに賭ける実践を、
仲間達と共に数多くこなしてきた。
その経験則が、彼らの思考ルーチンを鍛えることはあっても、それに費やすブドウ糖消費量を
節約するような成果は上げないし、またそのようには成長しなかった。
人生において困難や剣呑に挑むこと自体は大好きなのだが、事態の演算が終わらない内に結論を
出して動きだすような、冒険家には成らなかったということだ。
>>265の続き 団長・過去篇
件の、大好物の炭水化物、“少なめ炒飯”をもぐもぐと食べるシャルナーク。イーベンで一般に
食べられている炒飯よりも、はるかに油分が多いのは、ここがセンターファ人の往来の多い
開港地ゆえの味付けだろう。
♯シャルナーク「…ただ、イーベン国内に入ったとはいえ、センターファレストランだからね。それで
結構“構えてた”だけさ」
シャルナークが言っているのは─
「度を越した盛りだくさんの量の料理」
でもって歓待する主宰に対し、客の方は
「食べきれない程いただきました。もうお腹いっぱいです」
と、わざと食べ残すパフォーマンスで返礼する、センターファのもてなしについての礼節のこと
である。
そして、シャルナークも勿論知ってのこと、イーベンの食事に対する道徳は、そのセンターファの真逆だ。
則ち、食べきれない程の量を客人に供するのはホストとしてセンスがないし、逆に、
出された食事を食べ残すことも、ゲストの立場であろうとも、無教養とされる。
世界に伝播した「モッタイナイ」の精神は今も顕在だが、何よりイーベンの食糧事情の方が
それを許さない。備蓄を鑑みれば、余らせる、食べ残す程に充分とは言えないからだ。
団長がそれなりの対価を支払い、ハンターサイトで知り得たところでは─
>>266の続き 団長・過去篇
ツガール海峡の向こう、端海道(タンカイドウ)自治区を含むイーベンの人口は、凡そ6000万人程度。
年代別人口分布はやや下垂型、即ち少“死”化、微増子化の傾向にある。
そして、食糧の自給率は、名目100%─家畜の飼料さえ輸入されない、絶海の孤国。在るものを
皆で分けて食べるしかない。
それでは、欠食飢餓率はどうかといえば、国民全体で92〜98%─100回の、正当な食事を取るべき
機会の内、92回から98回は食事が行き渡っている計算になるらしい。
例えば、ヨークシンシティのような大都会でもこの数字はあまり変わらないので、経済の規模が
小さい割には、国民全体での食糧資源分配は上手くいっている、と言えるのだろう。
その理由の一つは、イーベンの王宮が全ての等級の市民に対し、(主に子供の為の─)各種学校に
併設してある「給食施設」を利用する許可を与えているからだ(※─無料給食から、利潤徴収
相当額まで、同じ食事を取っても、市民の等級によって支払いの額に段階がある)。
昼食のみならず、子供達に欠かせない“おやつ”も適宜供され、為に、児童・青少年の欠食飢餓率
は105%を誇り、隔離経済下の従属国といえども、子供の勉学やスポーツ、また体の成長を妨げる
恥をさらしてはいない。総じて、国民は健康に暮らしていると言えるようだ。
>>267の続き 団長・過去篇
全体の欠食飢餓率が100%に近づかないのは、休校日には給食施設も揃って休みになってしまう
からだろう。無論、朝晩の営業はしていない。
団長も、(─「抜き打ち調査」は別として─)、ハンターライセンスを提示する条件で前日までに
管轄当局へ連絡を入れれば、後は指定した(─指定するのは、「調査権限」を持つ団長の方だ─)
学校の給食施設に昼時にふらっと行くだけで、殆ど無料で児童と同じ栄養価の高い給食が食べ
られるところだが…さすがの団長も、そこまではしない─
ぶくぶくと、烏龍茶(冷)で口中をすすぎ、ごくりと飲み下して喉を洗ったシャルナーク。相変わらず、
団長には一口も飲ませるつもりはないようだ。
♯シャルナーク「それで、今後の予定はどうなるの?」
同じく、僅かな太平燕の出汁の効いた塩味のスープでもって、口の中の炒飯の油と、餃子の
ニラの残り香との格闘に敗北したばかりの団長は、落ち着いて応えた。
†団長「ああ、ちょっと待ってくれ。船の入港前にチェックしてから、まだいくらも経ってない
んだが…」
団長はスーツの内側から携帯端末機を取り出すと、展開してテーブルに置いた。そして、両手指
でキーを打ち、パスワードを解除した。
†団長「『イーベンの首都の─新聞社と─「調査会社」とコンタクトを取っている─然るべき情報が
出揃うまで─クースー道(※─アレオ市のあるクースー大島)から動けない─ホームコードに連絡
─を待っている』」
♯シャルナーク「(…動けない割には、急がせてくれちゃって…。) 『─それで─首尾はどうなの?』」
†団長「…この件に関しては…ないな。よし、次の予定をこなそう」
>>268の続き 団長・過去篇
♯シャルナーク「?…何さ、次の予定って?」
†団長「…その前に、『2つ 心得てくれ─1つ─お互いを名前で呼ぶこと ライセンスの
シグネチャで通す─“団長”は止めてくれ』」
─やれやれ、と思い至らない訳にはいかないシャルナークだ。世界一信用の置ける名刺、ハンター
ライセンスを使った自己紹介─といっても、これまで大概、説明に手間をかける羽目になった。
あれをここでもやることになるのか─
─捨て子も、親がいる子も、分け隔てなく─流星街の不文律の一つで、シャルナークの故郷には、
先祖代々受け継ぐ、家名(ファミリーネーム)というものが無い。
団長やノブナガのように、自分で適当に名乗りたい家名を勝手に名乗るものもいるが、それとて、
仮に流星街の中で我が子を設けた場合、その子が「ルシルフル」や「ハザマ」を名乗ることは許され
ない。
やはり世界的に見ると珍しい風習のようで、頭から「コードネーム(※─ハンターとして活動す
る際の仮の名)」を理解しない人々に対して、姓のない、只のシャルナーク(※←本名)だと理解させるのは、
大変に面倒なことなのだ。
♯シャルナーク「『了解─クロロ─シャルナークと呼び合う もう1つは?』」
>>269の続き 団長・過去篇
†団長「『質問─船からこっち─着けられてるか?』」
♯シャルナーク「…? 『いいや─?─』」
不可解な─このタイミングでその件の確認を持ち出すとは。
†団長「『だよな─俺はずっと着けられてる』」
♯シャルナーク「『!! 今もか?─』」
†団長「『今─違う─この旅館には入って来ない─昨日から─忍シノビだ─多分』」
♯シャルナーク「『シノビ─(しのおびィ!!─※音にするとこう)』 ワァオ、ファンタスティック!! 『─言ってる場合じゃないな』」
†団長「声がでかい。何人だ、お前は。『向こうの狙いは分からない─今のところ─遠巻きに
こっちを探っているだけだ』」
♯シャルナーク「…クロロ、『─言っとくけど こっちは忍の狙いどころか─貴方の狙いすら分かってない
んだからね』」
†団長「『悪い─それについては 追々2人切りのときに』」
♯シャルナーク「『今─2人だろ!! 他に誰かいるのか─!?』」
†団長「いないけど、それは後あと。その前にお願いがあるんだ。外へ出よう」
♯シャルナーク「何さ? お願いって?」
†団長「すぐ分かるよ。時間にして…小一時間といったところか。すぐ終わるよ。さ、行こう」
♯シャルナーク「…了解…『─トイレ行ってくるから』 外で待ってて…」
>>270の続き 団長・過去篇
支払いを済ませた団長が、レストランの外の待機用の椅子に腰掛け、シャルナークを待っている。
他に客が来る気配がないから良いようなものの、居合わせればちょっとした営業妨害だ。
座る団長を見て「待たされる」と思い込み、踵を返した他の客がいなければ良いのだが。
♯シャルナーク「お待たせ…」
目が合う二人。
†団長「…噛んでるから、いいや」
二人ともが、お馴染みのチューインガムを一枚、相手に差し出していた。
♯シャルナーク「ああ、そう」
団長は支払いの時に、シャルナークはウェイトレスからアンテナを抜き取る時に、
それぞれ同じウェイトレスから互いの分まで貰ったのだ。
†団長「『一階に行く─ 一仕事頼むよ』」
♯シャルナーク「『了解─』」
階段を下りきると、団長は旅館の一階の奥に申し訳程度に設けてある、理容室の前で足を止めた。
†団長「シャル、久しぶりに髪切ってくれ。頼むよ」
♯シャルナーク「─! …いいけど、高いよ。まあ、お金持ってるんだろうけどさ」
─なんだ、そんなことか、とシャルナークは思った。なるほど言われてみれば、
団長の包帯鉢巻から溢れる頭髪は、やや伸びすぎかも知れない。
これはつまり、団長としてはシャルナークの能力に頼り切って、“楽”をしたい訳だ。
喉元に剃刀をあてがわれながら、いつも通りの警戒をしていては、せっかくのリラックスタイムが
寛げないということだろう。
…
小気味良く、落ち着いた扉鈴(ドアベル)の音が鳴る。
〆バーバー♀「はい。いらっしゃいませ」
生成のエプロンを着けた、小柄な血色の良い女性が、品良くシャルナークを迎え入れた。
>>271の続き 団長・過去篇
─BARBER 夕焼け─
エプロンには、ガラスの押し扉と同じように、理髪店の名前がプリントしてある。
シャルナークの後に続いて入った団長は、後方から“円”を展開し周囲を警戒している。
その団長へ女性理容師が話しかけた。
〆バーバー♀「ようこそいらっしゃいました…上着は…こちらへ、お渡しください…」
団長の額の真っ白い包帯が一瞬気になりながらも、にこやかな笑みを作り、脱衣を促す。
†団長「あ、はい」
上体を左に右に捻り、背広の上着を脱いで右手に移し、吊して差し出す包帯男。
〆バーバー♀「!!」
女性理容師は目を剥いた。最初はそのまま、ガン・ベルト(?)そのものに見えた。
しかしよくよく見ても、包帯男が背広の下に着ているのは─胸部の“身ごろ”がそっくり削られた、
奇妙な形の黒い革製のベストはまるで─ガン・ホルスター(?)のようだ。
─イーベン国内の警察官は、普通拳銃を装備していない(─制服、私服問わず)。そんなものは、
外国の映画の中だけのことだと思っていた。
女性理容師はまさか拳銃のあるやと思い、包帯男の両の脇を交互に見たが、
それらしい“銃把(握り)”が見当たらない。
〆バーバー♀「…? …あ!! お預かりしますね」
─或いは団長を真後ろから見れば合点がいったかもしれない。左右の肩甲骨よりも下、
やや外側に、切っ先を上にしたナイフが一振りづつ、硬質のケースの中に収めてあったのだが─
女性理容師は慌てて団長の上着を受け取り、努めて落ち着いて、ハンガーに吊るそうとした。
>>272の続き 団長・過去篇
その理容師の右肩の後ろに、シャルナークは見もせずにアンテナを突き刺す。相変わらず素早い─
引っ込めた手はもうズボンの左のポケットの中の、携帯電話をいじっている。
〆バーバー♀「…お二人とも、奥の椅子カラどうゾ。今ならお待たせイタしませんヨ」
例の、理髪用電動椅子が全部で6脚、一列に並んでいる。
団長の上着を吊し終えた女性理容師は、先んじて奥に進み、2人を案内する。
見たところ夫婦なのだろうか、もう一人、こちらは痩せた、同じく初老の男性理容師が、
奥の理髪用椅子の後ろでにこやかに会釈してシャルナークを待っている。
†団長「二人だけだな、店の中には…」
ふと口を開いた団長が、シャルナークの前に指先からオーラを押し出して(※─流描リュウビョウ)進めた。
†団長「『─やれ─』」
〆バーバー♂「いらっしゃいま…」
男性理容師に招かれるままに間合いを詰めたシャルナークが、その男の瞬きの間に
身を沈めて背後に回り、やはり同じく右肩の後ろにもう一本のアンテナを突き刺す。
†団長「それじゃ…よろしくお願いします」
一方の団長はそう言いながら、おもむろに女性理容師の正面で、頭の包帯を外し始めた。
シャルナークの支配から解放されたばかりの女性理容師は、ちょっとした記憶のフラッシュバック
に対し、意識で整合性を保とうと努めていたが、それよりも、目の前の縦縞シャツの青年が
外して見せる頭部の包帯の下から現れるであろう「もの」に、気持ちを集中せねばならなかった。
プロとして、うろたえてはならない─痣、傷、手術跡─例え何であろうと、この青年はこれまで
こうやって、普通の理髪店で髪を切ってきたのだ。それが青年にとっても、理髪店にとっても普通─
ならば、今までの理容師にできて、私にできない理由はない。
>>273の続き 団長・過去篇
くるくると、いつもやっていることだから手慣れているという風に、団長は手前で包帯を
巻き取り終え、纏めた「巻き」をスラックスのポケットにしまった。
額の包帯の下から現れたのは、“よれ”のきた、使い古しのくすんだモスグリーンのヘアバンド。
そしてさらにその下から現れたのは─品の良い十文字の刺青だった。
それを見て、女性理容師はほっと人心地をついた─不幸にして付いた傷跡、などではなかった
からだ。
刺青ということは、青年が自分の意志で入れたと解釈してよいだろう。
まさか囚人に施す、異国の刑罰でもあるまい。
髪を下ろして乱した風貌だからちょっと見では分からないが、
例えば毛流を後ろに油で撫で付けて、額の刺青を露わにすれば、
それは、青年の人となりを象徴する、注目を集める紋様となるかも知れない。
まさか若くして宗教指導者じゃあるまいし、それともただ単にそういう「系」のファッション、
或いは外国の音楽家の間ででも、流行っているのかしら─
〆バーバー♀「あっ、…ネクタイもお預かりしましょうね…お首周りも、ゆっくりなさって…」
気がつけば既に椅子に腰掛けてしまった青年の後ろから、女性理容師は言った。
†団長「あ、そうですね」
そう答えながら首元に手を掛ける鏡の中の団長に向けて、シャルナークが浮印で話かける。
♯シャルナーク「『俺も一緒に髪切る流れになってるけど─』」
>>274の続き 団長・過去篇
シャルナークの問いかけに片目を瞑りながら、団長は女性理容師の差し出す手に青いネクタイを渡す。
†団長「はい、お願いします」
そして、シャルナークへの返事は─
†団長「『それで無問題(モーマンタイ)だろ?─』」
そこまで描いてから、団長は自分の間違いに気付いた。鏡に写る相手に向かっての浮印は、
自分で一文字ゝオーラの左右をひっくり返す必要はないのだ。
「鏡文字」がそのまま、相手の読める浮印になる。
†団長「『操作の初動は─“かかる”んだろ?』」
今度は間違えずに、浮印の左右をそのままに浮かべる。
♯シャルナーク「『かかるよ─この2人は─シロと診た』」
シャルナークは、例の短い丈の上着を脱いで男性理容師に手渡した。
♯シャルナーク「はい、これ。頼みます」
〆バーバー♂「…はイ、お預かりシマス」
痩せた男性理容師は、珍妙な形のシャルナークのジャケットを受け取って、
入り口近くのハンガーへと歩いた。
営業スマイルの女性理容師は、鏡の中の黒い髪、黒い瞳の男前のお坊ちゃんに話しかけた。
〆バーバー♀「…さっ、お客様は本日は、どのようにカットなさいますか?」
†団長「ええ…この形のまま、前も横も後ろも短くして下さい。
襟足は刈り上げずに、空いて減らしといて下さい」
〆バーバー♀「はい、畏まりました。襟足は刈り上げないで、空いて減らすんですね」
丁寧なオーダーの復唱に対し、団長は鏡の中の彼女への微笑みでもって、了承の合図をした。
─意外なこだわりだな、と思っているところのシャルナークへ、戻ってきた男性理容師が話しかける。
〆バーバー♂「…お客様ハ、本日はどのヨウになさいマスか?」
♯シャルナーク「前髪を短くして、横と後ろは刈り上げて下さい」
たとえ流れで決まった散髪であろうが、Mr.無頓着に躊躇いはない。
〆バーバー♂「刈り上げハ、バリカンは使ってモよろしいデスか?」
♯シャルナーク「ええ、ずばっと刈っちゃって下さい」
〆バーバー♂「はイ、畏まりマシた」
男性理容師はシャルナークの横顔を見ながら、ペダルを踏んで椅子の高さを調節した。
>>275の続き 団長・過去篇
首から下をすっぽりと覆う「髪除けマント」の下から、浮印のオーラを上に伸ばして
シャルナークは右手の団長に語りかける。
♯シャルナーク「『なんだか昔みたいだね』」
†団長「…『ああ─“おばちゃんの床屋さん”な』…」
二人ともが鏡から目をそらし、「思い出し笑い」を噛み殺している。
〆バーバー♀「あらあら、お二人とも何がそんなに可笑しかったのかしら? そうしてるとまるで
子供みたいね。ふふふふっ。あら、や〜だ私ったら、お客様に向かって。ねえ。
はい、目を瞑ってて下さいね」
コロコロと陽気な笑い声を上げながら女性理容師は、団長の髪を櫛で持ち上げ、霧吹きで水気を
含ませていく。
〆バーバー♂「はァイ、お客さんも頭動かサないデ下さいネ」
♯シャルナーク「…はい、すみません…(笑)」
霧吹きを髪に受けながら、シャルナークは尚も笑顔を隠せない。
別段、「おばちゃんの床屋さん」に特別な思い出がある訳ではない。ただ、子供の頃の
日常の風景を、2人ともが思い出し、鏡に写る“昔の自分”を、相手もまた想い描いているだろう
と思うと、自然と可笑しさがこみ上げてきたのだ。
あの頃はまだ、団長は近所の物知りのお兄ちゃんで、シャルナークは「知りたがり・調べたがり」の、
可愛い弟だった。
少し大きくなったとき、お兄ちゃんがあんな怖い喧嘩をしょっちゅう、それも喜気としてやる
ようになるとは思いもしなかったし、まさかあの可愛い弟が、意識を断たない限り戦いを止めない
戦闘狂の一面を持っているとは、思ってもいなかった─
シャクシャクと小気味よいハサミの音を頭上に聞きながら、またもシャルナークは団長に話しかけらる。
♯シャルナーク「『─話題を変えよう─クロロ─聞いたことあるかい?
美容師の賞金首狩り(ブラックリストハンター)─』」
>>276の続き 団長・過去篇
†団長「『!─知っているなら話は早い─奴について─ハンターサイトで
判る限りは─分かっている』」
♯シャルナーク「『その点については─僕も同じ』」
†団長「『─ということは─対策は◆■※×△▽…─』」
〆バーバー♀「はい、すいません。前髪はどこまで残しますか?」
♯シャルナーク「『(笑)』…」
団長の視界は突然に、女性理容師が櫛で下ろした大量の前髪のカーテンで、塞がれてしまった。
シャルナークとの会話を中断し、団長は女性理容師の問いかけに応える。背筋を伸ばし顎を引き
(※「アゴを引く」─顎をそのまま下に、喉にくっつける形をとる…ボクシングなどの慣用句)、
垂れ下がる濡れた前髪越しの、鏡に写る、殆ど見えない自分の顔を睨みつけた。
〆バーバー♀「(…? ま、恐い目。…! そういえば、外国の歌手にこんな人が…)」
†団長「…はい。これで、目が隠れないくらい。眉毛のところでばっさりと切って下さい」
〆バーバー♀「(あら、随分短くしちゃうのね…) それだと頭を起こした時に、眉毛よりも大分上に
なってしまいますが…、“おでこ”ははっきりお出しになるの?」
†団長「はい。それでお願いします」
〆バーバー♀「はい、畏まりました」
迷いのないお客様の返事に得心した女性理容師は、前髪を櫛で押し支え、鋏を入れた。
〆バーバー♀「(─やっぱりこの人、歌手…か、ギターとか弾く人なんじゃないかしら)」
>>277の続き 団長・過去篇
団長─クロロは所謂、「拳法家」である。故に、ボクサーやレスラーのように、
頭を下げて敵と向かい合う構えは採らないことが普通だ。
通常、背筋を伸ばし、頭頂を高く“吊った”姿勢、
緩んだ首肩の上にそっと頭骨を乗せた楽な構えを採る。
とはいっても、動きのある戦闘中、全く頭を下げない訳にもいかないし、
遠く(※─戦闘中にやむを得ないとき“張る”、感知用の“円”の域外─)を注視しようと思えば、
どうしたって確実な視界を確保する必要がある。
前髪を除ける、その無駄な瞬き一つ、首の横振り一つの間が、死を招くことさえあり得るのだ
─女子が好む漫画の登場人物のように、伸ばし放題という訳にはいかない(─眼光を描くとき
何故かそこだけ都合よく、“ベタ”や“トーン”が掛からない)。
殊にここイーベンでは、自分の形貌(ナリカタチ)にハンターとしての身分が付いて回る。
できるだけ、個人の素性は他人に知られたくないものの、
カメラのない処では厚く巻いた包帯を外すこともあるだろう。
いつもならオールバックに固めているところだが、そうとばかりは限らない。
丁度今日のように、“気分で”降ろしているときもあるやも知れん。
─それに件の、「美容師の賞金首狩り」のこともある。
シャルナークといる安全な今、ばっさり短くしておけば、後はしばらく伸ばし放題、
たまに「自分で床屋さん」するくらいで、安全パイの美容師に巡り会うまで、間に合うだろう。
>>278の続き 団長・過去篇
†団長「『─それでその─美容師の賞金首狩りについての対抗策だけど─』」
♯シャルナーク「『ああ─後ろのおじさ£〜@〜‥』」
〆バーバー♂「はイィ、お客様は前髪は、ドノくらいがお好ミデすカ?」
少しかすれた声で、男性美容師もまた口を開いた。
♯シャルナーク「…ええぇ、眉毛が見えるくらいで」
〆バーバー♂「…この位デ?」
†団長「(…んぐぐっ、くっくくっ…) 『Ww』」
本来、自分の操り人形であるはずの、アンテナ差し込み済みの男性理容師に翻弄される
シャルナークが愉快だ。自動操作の操り人形は、櫛で前髪を“たわませて”シャルナークの“眉毛の中程まで”
を、鏡に露出して見せた。
♯シャルナーク「ああ…いや、もうちょい上でいいですよ」
〆バーバー♂「今は髪が濡れてマスけド、乾イタらもっと上に来てしまいマスが、
…いかがなさいマスか?」
♯シャルナーク「(だからその分を入れてだよ!) …ああ、はい、それでいいです」
口上では、「カミさん」の前での「旦那さん」の顔を立てる優しいシャルナーク。
しかしその裏、見えない左手の携帯電話では、マニュアル(※手動)操作で自我を通す気満々だ。
男性理容師がわざわざ前髪に縦の“たわみ”を作ってシャルナークに示したせいで、
そこを基準に切られたのではまだ長い、というのがシャルナークの実感だ。
♯シャルナーク「(櫛の左手と鋏の右手を同時にちょい上に上げる訳か…)」
(※─実際には左手の櫛を前方へ“返し”て、毛先を眉や瞼から遠ざけて鋏を入れる)
♯シャルナーク「その“上げ率”の差異は…)」
シャルナークは男性理容師のオーラのリズムパターンと、自らのイメージを同調させた。
♯シャルナーク「(左手3、4の…右手7から9…っせーの…)」
─じゃきん。シャルナークが自分で入れた鋏の一撃だ。しかし─
♯シャルナーク「(げっ…)」
顔には出さなかったつもりのシャルナークだったが、一瞬目の色が変わったのを、
よりによって「奥さん」の方に、しっかりと見られてしまったようだ。
>>279の続き 団長・過去篇
実は先ほど来、「奥さん」は「ご主人」の手並みが何か普段と違う、
何事かを気にして一々手を止めるような仕事ぶりが気がかりだった。
その理由は、「ご主人」が、シャルナークのコマンドによって
無意識に互いの仕事の手順と立ち位置を計算して、背中のコウモリを、
奥さんの、鏡の画像も含めた死角に回るように立ち回っていたからだ。
(※─旦那さんの方も勿論だが、シャルナークのアンテナの「針」は、
普通は人体の無痛・無出血の点を選んで刺す。故に、恰幅の良さも相俟って、
奥さんは自分の背中のアンテナに気付かないままだ。
痩せた旦那さん本人は、鏡の中、背中にくっついた白いコウモリを見つけても、
奥さんの背中に変わったアクセサリーを見つけても、
シャルナークによる、意識の中に空白を作るコマンドのせいで、特別にそれを意識することはできない)
しかしながら、かように男性理容師がシャルナークの支配下にあるとはいっても、そのモードは
オートムービン(自動操作)。つまり、彼の表層の自意識は活発に活動している。故に、先刻
シャルナークに対し自ら前髪の残し幅を提案することもできたし、事実その通りに鋏を入れようとした。
そこに、シャルナークのマニュアル(手動)操作を被せられた為、自分の両手が意に反して動いた理由が
分からない。内心では仕挫(シクジ)ったと思ってはいるだろうが、それを顔に出さないことこそが
プロのプロたる由縁だ─血を出した訳でもない─髪はまた伸びるさ。
>>280の続き 団長・過去篇
〆バーバー♀「はぁい、横はこんな風に流してますよ」
女性理容師は団長の後頭部で合わせ鏡を広げ、動かして見せる。
本来であれば、
「前髪に合わせるとしたら、もう少し、流す角度をなだらかにした方が自然なんですけど─」
の台詞を付け足すところだが、「奥さん」の方もそこはプロだ。旦那が若い方の坊ちゃんの前髪を
切り過ぎた今、口にする台詞ではない。ここは肝を据え、事態に気付かなかった振りを続ける。
〆バーバー♀「耳の周りは、これでようございますか? 大分隠れてますけど…」
†団長「あ、もっと短くていいです」
〆バーバー♀「(イエス!!)」
─我が意を得たり─本来であれば、当然そうするべきなのだ。
〆バーバー♀「もみあげは揃えずに、このまま流して…」
†団長「あ、はい、それでいいです。少し短く」
〆バーバー♀「はい、畏まりました」
女性理容師は団長の頭頂部の髪をつまみ上げ、水平に毛先を切り落としていく。
これで耳の大部分が露出するはずだ。
やり直しの鋏の音を頭頂に聞きながら、団長は再び中断している会話に戻った。
†団長「『シャル─それで─美容師の賞金首狩り─“シザーハンズ”の対抗策は─』」
♯シャルナーク「『─今‥来たら速攻─後ろのおじさん達で仕留める─けど』」
吊り上がった眉毛もよく見えて、心無しか眼光怖いシャルナークだ。
この際のシャルナークの操り人形は二体、最初の一体で標的に組み付いて後、操作対象を切り替え、
残る一体で仕留めに掛かる「波状攻撃」。
その際自分の命を含めて、“人死に”を意に介さないことが、操り人形の使い勝手の良さなのだが、
しかし─冷静な風の、いつものシャルナークが言う。
>>281の続き 団長・過去篇
♯シャルナーク「『でもね─「今」は─来ないんだよ─あいつは─』」
†団長「『ああ─少ないな確かに─ケースとしては』」
美容師の─賞金首狩り(ブラックリストハンター)、ビノールト。
本名よりもその異名、「シザーハンズ(髪切り鋏の両手)」の通り名で(※─能力名ではなく)、
彼が最近急に“その筋”で有名人になったのは、彼自身の悪行が暴かれて、
畢竟(ヒッキョウ)彼自身の首に、懸賞金が懸けられてしまったからだ。
「人肉喰い」─必ずしも悪行ならず─即ち、食人文化。
但し、死体になるまで待って食材にしている確証が取れない場合や、
安易に食材にせんが為の食肉刑(拷問刑・死刑)の判決を誘発する要因となっている場合があり、
自称文明人の側からは、白い目で見られている「風習」だ─
シザーハンズ─ビノールトは、正規のハンターライセンスを隠れ簑に、
その趣味嗜好を楽しんでいた。
現代においては、いくつかの代替手段が公式に認定されてはいるものの、
元来賞金首狩りとは、「生首」をのみ当局に提出すれば、それを確かに殺した証しとし、
換金の条件としていたことに由来する呼称だ(─血を抜いて、塩漬けにして持ち運び易いからだ)。
(*^o^)ノ∀ ∀τ(^-^*)
「
>>1さんようこそ♪」
>>282の続き 団長・過去変(←夢○獏風にしてみました)
賞金首達はどうせ、裁判を受けたところで死刑は確定的、もしくは既に牢破りの身。
せっかく娑婆(シャバ)に暮らしていても、大人しく身を潜めることもせず、悪行を繰り返す者もいる。
通念、殺してから死体を連行しても、事態(コト)は同じ─
しかし近年、いや、実は今・昔を問わず─復讐・拷問、所謂応報刑に処する為や、
更なる罪状の追加、また新たな「証拠・証言」の採集の為、獲物を「生かしたまま」連行する必要性及び
その価値は、死体のそれをはるかに上回る。
死体と生体、懸賞金の額は、「二倍(ダブルスコア)」が相場だ。
しかし、生首で持ち帰ると“半額”になってしまうにもかかわらず、結果的にそれを選んでしまう
ハンターが多いそもそもの理由は、殺さずに生け捕ることが、死体にすることの何倍も難しいからだ。
高い賞金を得たいその欲の挙げ句が、高い代償を支払う羽目になる例は、枚挙に遑がない。
ビノールトのハントは必ず、「生首」にて上がっていた。それ自体は別段珍しいことではない。
殺す段取りを確実に遂行することが、何より自分が生き残る算段であるし、そうでなくとも、
それ相応のダメージを与えた結果、図らずも死なれてしまうことだってあるからだ。
>>284の続き 団長・過去変
一度、死体にしてしまった以上、首から下は不要になる。
持ち運びの手間がかかることも勿論だが、死体内には腐り易い内臓もあるし、
何より手傷からの出血や、死後に垂れてくる糞尿が邪魔だ。また早めに「処理」を済まさないと、
鳥や狼が肝心の「顔」を囓りに来てしまう。それどころか、蛆、蠅が集(タカ)り、
やがて細菌の増殖により、溶け出してしまうだろう。
手順としては先ず、死体の脱衣前と脱衣後の写真撮影を済まし(─手が足りていれば、
一人は始終を動画で記録し、レポートに添えて当局に提出するのが望ましいのだが)、
大事な「首から上」を切り離す。髪の毛を縛って頭部を吊し、血を抜いた後は、
できるだけ見分けがつくように「保存(処理)」して持ち運ぶ。
さて、それでは不要になった「首から下」はどうするか?
それは特に、ハンターが食べてもかまわないのだ。
どだい賞金首になった時点で、本人にも死体にも人権などない。
法律により、みだりに野生の食肉を狩ることが禁じられている地域もあることだ、
賞金首狩り達にとっては、昔から、犬猫や鳥狐よりもはるかに食べ甲斐のある「首から下」は、
間違いなく貴重なカロリー元であった。殊に大人数のチームで仕留めた場合、数人分の死体がないと
即興のご馳走としては分量が足らないほどだ。
精緻且つ、勇猛で知られる賞金首狩り達の、勝ち鬨の後の残虐な食の習わしは、
彼らへの畏怖を巷間戦(ソヨ)がせるに一役買っていた。
ましてや、現代のハンターライセンス保持者(ホルダー)の場合、“その処理”は社会的信用もあり、
看過されることが殆どだ。無論、事後に問題が生じない、発覚しない場合を除いて─なのだが…
え、なにこいつマジで大丈夫かよ
>>285の続き 団長・過去変
ハンターの死体処理は、一般的、常識的には土葬の形をとる。
火葬するには高い温度が必要になるし(─つまり、窯(カマ)がなければ不可能だ)、万が一、
胴体の証拠採用という事態になったとき、例えば身長の計測や死体の骨に残る切創や銃痕その他を
改めるなどの場合、骨の一片すら残っていないというのでは話にならない。
また、検死や、持ち込まれた処理後の首による死亡認定の際には、影武者の問題を
クリアしなければならない。影武者本人は勤めて身代わりなのだから、殺したところで
一向に気の毒ではないのだが、当局としては、「殺し間違い」で賞金を払う愚は避けたいし、
何より、影武者の首でもって討伐完了とする訳にはいかない。
おそらくはDNA鑑定が発達するまで、多くの賞金首が狩られた身代わりの首を“だし”にして
逃げ仰せていたに違いない。
>>286さん ご心配なく。ビノールトの背景を補完する描写です。
詳細を文字にしただけで、原作の少年漫画では以下略、です。
>>287の続き 団長・過去変
土葬の場所としては、事後にハンターから提出されるレポート(─懸賞金の申請に必要な伝票)を基に、
当局が辿って掘り返すことが可能なように、
なるべく仕留めたその場から離れていない位置に埋めることが望ましい。
勿論その際、野犬や熊に掘り返されないように、速やかに、深い穴を掘る
(─大概、野営するハンターは折り畳み式の金属のスコップを携帯する。大便の用に便利だからだ)。
その、胴体を埋める穴をなるだけ小さく済ます為にも、邪魔な皮肉と、内臓を捌いて取り外し、
骨格を解体してコンパクトにした方が楽だ。
要は、掘り返す際に一箇所に一組一揃え、或いは一党づつ、
死体の全パーツがまとめて埋まっていれば、それで良い訳だ。
その解体の過程で、“流れ”のままに内臓や肉を鍋に放り入れ、調理してしまう。
首を切り離してすぐに逆さ吊りにしておけば、大概の血は抜け出てしまうので、その後の解体作業で汚れることもない
(─流血はなるべく、バケツか、掘った穴で受ける。地面を汚さないように、だ)。
※─全くの余談だが、調理について。炭火、また鉄板のない時には、生木などを燃した直火を当てて
死体に火を通す。所謂丸焼きだ。その際、剥ぎとることのできる毛皮や鱗を持つ動物
(蜥蜴や大魚など)は重宝だ。なぜなら、直火を当てても煤(スス)の着いた外皮を剥ぎ取るか、中身をくり抜けば、
煤(スス)で汚れた肉を食べずにすむからだ。
しかし、人体を食べるに際しては、残念ながら“それ”がないので、
煤を受けて熱のみを伝える鍋、とできれば煤除けの為の蓋、が必需品となる。
>>288の続き 団長・過去変
死体処理が、常識的に土葬になる、という意味はつまり─例えば山賊、海賊化した賞金首を狙う場合などに、
人里離れた敵のアジトや縄張りにこちらから踏み込んで仕留める、首を狩るからこそ、
その場から死体を動かせなくなる訳で、それゆえに現地で自ら検死、及び土葬をする義務が発生する訳だ。
─海戦にて仕留めた場合は、尚更手早く死体の肉と骨を切り離し、肉の方は早くに海に捨てないと、
(勿論食べていい訳だが)帰りの船上は酷いことになる。
この際例外となるのは、肉を削ぎ落とした賞金首当人の、胴体の骨だ─煮込んで肉を毟った後、
水で洗い薬品をかけて持ち帰り、陸オカで処理する(埋める)決まりだ。海洋投棄してはいけない。
海上で時が経つと、首なし(或いは散々)死体の遺棄と、区別がつかなくなるからだ。
また、賞金首以外に生じた死体の群れは、殺害記録を録った後は脱衣して(─こちらは頭部を
付けたままでよい)、できるだけ多くガスを抜く穴を開けて、海洋投棄してしまってかまわない。
尚その際、小さく散せるなら散した方が、早く沈んでよい。
尚、引き上げる際に、船頭役の頭数が足らずに、曳航・操舵しようにも、手に余る
その他の賊の船団は、漂着被害を避ける為に、穴を開け
なるべくきれいに沈めるか、それが果たせぬ時は、小さく破壊して海流に任せる。
290 :
名無し物書き@推敲中?:2008/12/07(日) 13:33:23
再開してるじゃん
先に本編読んでからここ見ると哀しくなる
カードゲームの話までは読んでいたけどラフ下書きで印刷されてから以後は読んでいないや
293 :
名無し物書き@推敲中?:2009/04/21(火) 05:09:53
よしひろ、ヒソカvsクロロの続き頼む
>>293 頭の中つうか、ノートの構想、箇条書きで結論まで書いてもいい?
別にあなたが続き書いてもいいんだけど…
ちなみに、どっちか死にます。
書けないですとはっきり言えばいいのに。
少し遅まきながらお知らせです。
今ならコミックスで読めます、増田こうすけ先生の「グリムブラザーズ」。
ジャンプコミックス、増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和巻の10
(参照
>>195-197) …この作品が素晴らしすぎて、このスレのヒソカVSクロロ決着編に対する私の熱も冷めました。
どうみてもプロの業です。本当にありがとうございました。
関係ないけど冨樫先生、再開を待っています。
キメラアントの一件で念能力が世間にばれる
なんか思い込みの激しい奴がいるなw
自意識過剰にもほどがあるわw
299 :
名無し物書き@推敲中?:2010/05/03(月) 02:43:12
再開はまだ?
過疎りすぎだし、でも落ちないのはなぜだ。