創作文芸民の力でHUNTER×HUNTERの続き考えね?
1 :
名無し物書き@推敲中?:
まずゴンたちハンターVS蟻を基本にして
クラピカレオリオをもっかい登場させる
そんでゴンキルクラレオでまず三戦士のマッチョ倒す
それ知ってネフェルピトーはメルエムを殺すため旅団を利用する。
メルエムはシャウと一緒にいてネテロと戦う。
ここまででいろいろめんどくさい関係性消化できね?
2 :
◆NEGI2J35rE :2007/01/15(月) 06:15:56
ゴンの親父は?
王はハナタレ娘に好意を抱く
ネフェルピトーvsゴンキルア
シャウアププvsナックルシュート
モントゥトゥユピーvsモラウ
メルエムvsネテロ会長
この四つの戦いをやりながらジャイロ、貞子(名前忘れた)、旅団を絡めなければならない
さあどうする?
4 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 01:17:18
期待age
ゴン・キルアがネフェルピトーに勝つかだが、ゴン・キルアの強化を考えるより、
ネフェルピトーの弱点をつくった方が現実味があると思う。
6 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 09:53:56
シャウアププとナックルシュートの戦いなんて、適当でいいだろう。
なもんで、ナックルが突然、能力「バカ当たりの日」に目覚めて、
人生の運の良さを一日で使ってしまう能力が発動して、
運がよすぎて攻撃があたりまくって、敵の攻撃かわしまくって、勝ってしまう。
シュートは「うむ、名勝負であった」などと解説役をやって終わり。
7 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 09:56:40
モラウとネテロ会長は、具体的な戦闘描写なしで、
全力で戦ったら、ぎりぎりなんとか勝てたってな感じで、さくさくっと終わらせる。
8 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 09:59:34
あと、質問。ジャイロってどういうキャラってことになってるの?
虫たちの生みの親らしき黒幕でよかったんだっけ?
描写が理解しづらい。
9 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 10:06:27
戦闘の間、王はハナタレ娘がハンターだったことを見抜き、
実戦でもう一局勝負だと、王がいいだす。
ハナタレ娘「でも、あたしはいつでも王に殺されるかもしれねえでげす。
あたしが詰まされてからの一局など、初めてでございます」とかいう。
ハナタレ娘は実はこの作戦のハンター側総司令官だった。
10 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 10:10:43
ノブは結局、王に向かって、突撃し、ドアを開く。
ノブは王によって殺される。王はシュート、モラウ、ネテロ会長を殺してしまう。
しかし、接触した貞子の能力によって殺される。
すべてはハナタレ娘の作戦通りだった。王「バカな」といって死ぬ。
11 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 10:16:12
ゴン・キルアがジャイロに会う。
ジャイロ「実はこの虫たちの繁殖を計画したのはジンっていう男なんだよ」
衝撃を受けるゴン。ゴンはジャイロのくれた手がかりをもとに、再びジンを追う。
12 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/20(土) 10:26:54
誰かが王の死体から遺伝子サンプルをもっていく。こいつがジンの仲間。
貞子=パームの能力はまだ未定だったと思うので、
実は蜘蛛に対するクラピカのように、王に対する限定能力をもっていた。
今回の作戦は、最初からパームが王に接触できるかにかかっていた。
パームはノブによって緊急事態に備えて用意されていた、特殊念待機能力者だった。
おれがこれだけ考えてやったのに、何の反応もなしかえ。
パームは一生を緊急事態に捧げねばならない、ハンター協会の生贄的な役割を持っていた。
その責任者はノブ。
「ネテロ会長が死んだ。おまえたちも次期会長選の派閥に組みこまれるだろう。気をつけることだな」
とナックルがいう。次の編では、ハンター同士の派閥争いを組みこんで描かれる。
18 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/21(日) 16:55:34
アルカを忘れてないかい?
アルカ? はて、誰であったか。
20 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/21(日) 22:26:46
>>19 キルアの双子の兄弟。家族の集合写真で後ろ姿だけでてたよね?
21 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/21(日) 22:41:08
小学生か、お前等は
キン肉マンの「僕の考えた超人」か
アルカは双子ではない
アルカって蟻編に関係してたっけ?
関係してないけど、しりとりやら写真やらあんだけ伏線張っといて何もなしで終わりじゃ怒るよ。
アルカ、蟻編での登場はムリだろ。
27 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/26(金) 07:27:13
何でやねん
おれにアルカの記憶がないから。印象ゼロ。
29 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/26(金) 11:56:59
だってまだ触れてないんだもん
とりあえず、蟻編を終わらせないと。
ゴンがジャイロから首謀者がジンだと聞く。→ゴンの念力がはねあがる。
あとは小麦とパームで王をやっつけて、王が死んだんでピトーたちも殉死でいいよ。
全員無事で、次の展開へ。次章、ジン・フリークスの住む山で。
グリード島の「一坪の山道」はジンが住んでる山道のことだった…
キルアの親父と祖父さんはなぜ肉弾戦で団長と戦っていたのか。
なぜ、団長を殺さなかったのか。それは、能力をすでに団長に盗まれてしまったからだ。
キルア一家は団長の監禁解体にのりだす。キルアもそれに巻きこまれる。
ネテロ会長はやっぱ殺しとこうか。それで、次期会長選をからめて次章を展開しよう。
小麦生存なら、小麦も会長候補の一人。盲目の会長候補。
ジンは会長候補には挙がらない。
だが、ジンの弟子が会長候補になり、ゴン・キルアはその使節に同行する。
同時に旅団もジンの山道にいかざるをえなくなり、旅団もクラピカもやってくる。
ゴンとキルアを引率する使節の一人は、実はジンを暗殺する刺客だった。
あとは、ジンが正しかった理由を富樫が考え出して、ぜんぶ丸くまとめてハンター終了。
ネテロ会長の最後のことばは「わし、死にたくない」
小麦「ムリでげす。命令どおりでげす」(小麦ってげす口調だったっけか?)
やっぱ小麦は殺そう。
ゴンがジャイロに会う→ゴンの念がはねあがる
小麦がハンター総司令官だとばれる。
王「余はおぬしとの対局が最も重要だとわかってはいた。なぜ、余が負けるのか。手を打たねばならん」
ネテロ死亡「わし、死にたくない」小麦「ムリでげす。命令どおりでげす」
小麦死亡「わだすの勝ちでげす」パームが王に触れる。
ピトーたちほぼ殉死。次章へ。
36 :
速報:2007/01/28(日) 00:24:20
王の部屋の前に立つプフ。そこへ突然ナックル、シュート、メレオロンが登場。
「何?いつの間に?」驚くプフ。「利息がつきます」ポットクリンがプフの肩についてる。
「なんだ?これは?」プフ躊躇するも、ナックルらを攻撃。姿を消すナックルら。
「こっちだぜ」廊下のはしに移動してるナックル達。そのまま逃げる。追うプフ。
王「ム!なんだこのオーラは?」ベランダに出る王。庭にネテロの姿が。
「降りて来い!」 「フン!」 飛び降りる王。
王「ほう 人間にもこんな奴がいたのか」
ネテロ「いくぞ!」 右ストレートを放つ 「一撃必殺 ワンパンチマグナム!」
王「ヌゥ!」 両腕でガードする王。砂埃が舞う。
王「なかなかの威力だ 少し驚いたぞ」 ネテロ(むう 簡単に受けきるとは・・じゃが・・)
ネテロ「まだ これからじゃ!」 ネテロの右拳から巨大な念弾が発射。
ネテロ「寸爆剄ーゼロインチファントム!」 王「なに? うわー」
壁に叩きつけられる王。右腕と足が吹き飛んでる。
王「グヌヌヌ・・」
37 :
名無し物書き@推敲中?:2007/01/28(日) 04:03:54
age
えっ、これてマジバレ?
まあいい。小麦とパームさえ無事なら、いつでもおれのシナリオは使える。
速報の内容はありえそうなので、採用するとして、
「王の敗因は、小麦との対局をやめ、ネテロと戦ったことだ」
ジャイロ「勝てるわけがないのさ、人間たちが。なぜなら、
これはあのハンター・ジン・フリークスが考え出した計画だからな」
キルア「ジン? ジンってあのジンか?」
ゴン衝撃。「ジンが、なんでジンが、うおおおおおお」
冨樫がどういう風にしたかったのか…
ジャイロが真のボスって流れにしたかったのかとは思う
パームの能力は確定してるよ
パーム=シベリア
ハンター。キメラ=アント討伐隊。
強化系能力者(?)。
能力:自らの血を代償に、探索対象を水晶玉に映し出し監視できる能力。
ノヴの弟子で、ノヴに対して執拗な愛情を注ぐヒステリックな女性。
討伐隊人選のときに、NGLへ入国するためゴン達に接近する。
モラウの弟子であるナックルとシュートを忌み嫌っている。
キメラ=アントの王と直属護衛隊の動向を監視するため、敵の潜む東ゴルトー王宮に潜入する。血液型A型。
水晶で監視する能力(仮称)
使用者:パーム=シベリア
自分の目で見た者の現在の動向を、水晶玉に映し出す能力。水晶玉についた人魚に自分の血を注ぐことで発動する。
じゃあ、監視の能力が変質して、王をやっつけよう。
それがおれのシナリオ。
44 :
祝再開ー簡易バレ:2007/02/05(月) 00:18:26
協専のハンターが新人を連れて王国を乗っ取ったカマキリ、ワニの連合軍を討伐しにいく。
兵隊蟻が登場。指導員に新人のクラピカがまず指名され実力をみせることに。
覚えたての念弾を発射するクラピカ。しかし敵のクマにはびくともしない。
その程度かと呆れる指導員。ここでクラピカが緋の目になる。そして念弾を発射。
粉々になるクマ。驚く指導員。さっきの10倍の威力だと驚く。レオリオは
そうか緋の目になりゃあどの系統も100%使えるんだったなと納得。
クラピカ合格。次は別の新人が挑戦。不合格。次はレオリオの番。
レオリオの背後に機械のようなものが現れる。
そんな展開、いや。
いまさら、クラピカ、レオリオ投入しても、戦力差が変わるとも思えず。
46 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/22(木) 00:52:21
>>34 勝つことよりも、大事なものがあるでげす。
47 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/22(木) 01:46:34
くらぴかは蜘蛛以外に念つかえねーだろ。
48 :
名無し物書き@推敲中?:2007/02/22(木) 02:21:36
てかゴンとジャイロは絶対に会わないよな?
確か「もしゴンとジャイロが会っていれば変わっていたかもしれない」みたいなことが書いてあっただろ?
蜘蛛以外に使えないのは束縛だけだ
建|
物|
| ○/ ○ ?
|―□ ―□―
| 〃 〃
|コルトピ
↓発動↓
建| | 具現化建物
物| _______________」
| ○/ ○ !
|―□ ―□―
| 〃 〃
|コルトピ
51 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/27(金) 18:15:36
王は蟻地獄の王に食われました
蟻地獄はその後無害なウスバカゲロウとなりました
めでたしめでたし
52 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/27(金) 21:00:37
しかし、ハンター協会は囮組織でした。
54 :
名無し物書き@推敲中?:2007/04/30(月) 14:40:30
キルアはイカルゴという新しいツレが出来たから
今後ゴンとは一切関係ないよ
55 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/02(水) 08:01:17
age
56 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/16(水) 19:31:11
パームどうしてビスケを呼べたんだ?
57 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/26(土) 14:55:57
こんな所にまでコルトピ厨がいてワロタ
58 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/26(土) 21:19:19
クルタ族が滅んだルクソ地方に、クラピカはいた。
クラピカの得た情報によると、この東部のルキソーダ村に
【緋の目】が眠っているという。
当時、幻影旅団の団長――そう、あのクロロ団長が
手放さずに保存しておいたままらしいのだ。
「誰もいないな……」
ルキソーダ村に足を踏み入れたクラピカは呟いた。
村には人はおろか、車も、機械も、生活観を感じさせるようなモノは
何一つ無かった。
村の中を、しばらくクラピカは散策することにした。そんなに広い村ではない。
その昔――クルタ族が多く住んでいた時でも三十人程度の村だったろう。
クラピカは、この村に幼少の頃、一度だけ訪れたことがあると記憶していた。
まだ五歳か、六歳の頃、クラピカが住んでいた村からはかなり離れてはいるのだが、
同い年の友人と、かけっこでこの村まで来たのだ。
59 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/26(土) 21:28:06
クラピカは当然のように一番乗りでルキソーダ村まで到着した。
その当時、見たことのある大きな矢倉のような倉庫がクラピカの目に入った。
「――失礼します――」
クラピカは倉庫の扉を開けた。倉庫は欅でできていて、半分以上腐っていた。
中には当然のように誰もいない……
「何だこれは?」
クラピカは何か異臭を放つ物体を発見した。
「死体か――それも人間だな」
死体はガイコツになっていた。胸には真珠のような数珠がかけられている。
その隣には手紙が落ちていた。クラピカはそれを拾って読みあげた。
≪八月三日、我々の村はとある盗賊に占拠され・・・仲間は殺害された。
彼らはここに緋の目を保管するという……≫
60 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/27(日) 20:49:41
続きwktk
61 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/28(月) 08:25:40
( ゚∀゚)O彡゚続き!続き!
62 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/29(火) 07:33:53
なんだ・・こいつも休載かよ
63 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/30(水) 08:29:43
なんとか今月中におながいします
64 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/30(水) 13:06:07
続き頼む〜
65 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/30(水) 22:10:57
期待age
66 :
名無し物書き@推敲中?:2007/05/31(木) 02:22:59
良く解らんが俺も期待
67 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/01(金) 23:36:53
突然医者に宣告されました。僕の命は一週間です。
どうか死ぬ前に続きを読ませて下さいお願いします。
68 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/02(土) 02:54:17
かわいそうに
69 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/03(日) 01:58:56
あと6日しかありません作家さんお願いします。
70 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/04(月) 10:55:06
死になさい
71 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/05(火) 01:36:34
>>59 マジで続き頼むって〜
俺あと5日で死んじゃうんだぜ?
72 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/05(火) 01:37:53
やっべ間違えてたよ後4日じゃん!
頼むよ
>>59さんよう
四日後に死んでも、五日目に復活するから気にするな。
74 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/05(火) 22:10:15
お待たせしました。続きをうpします。
クラピカが草原を走っていると底の見えない谷があった。
ジャンプしてかわす。着地点にちょうど栗頭の生物が2〜3匹うごめいていたので踏み潰した。
頭上に何やら四角い(立方体の)ブロックが幾つか浮かんでいたのでジャンプしてヘッドバッドしてみると何やらキノコが飛び出した。
まるで意思を持った様に逃げる(逃げるという表現は適切ではないが、それは勝手に動きだしたのだ!)それを追いかけて捕まえると体がむずむずしてきて、次の瞬間、身長が二倍になった。
76 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/06(水) 23:58:55
ありがとうございました。
もう少しで命を落とす所でした。
>>75さんには感謝の言葉もありません。
続きを読んでとても感動致しました。
もっと読みたくて続きが待ちきれません。
( ;∀;)イイハナシダナー
氏ねじゃなくて(ry
残飯は他人のアーカイブからペンネームや作品を盗む
精神が人食い人種並みの怪談野郎
78 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/08(金) 02:11:52
( ゚д゚) ポカーン
79 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/09(土) 16:12:33
やっべー今日死んじゃうって頼むよ><
80 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/10(日) 21:08:42
おいおいおい俺死んじゃったよ
成仏できないから頼むって
81 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/12(火) 17:29:44
う〜ら〜め〜し〜や〜
早くしれ
ザオリク
83 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/13(水) 16:29:22
来たよザオリク!
あぶね〜賢者様ありがとう!
続きよろしく!
84 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/13(水) 17:18:25
パラノ豚は妾崩れの老いた母親を犯すパラノイア症候群のきちがい
精神が糞喰い豚で体臭がキツイ毛むくじゃら、
オマケに娘は二人ともドブス。
鼻毛がはみ出ている豚ヅラの茶髪女がいたら、そいつがパラノ豚の娘だ
頼めば犬とでも豚とでもファックしてくれるぜ
まあ、本人も豚人間だけどなwwwwwwwwwww
悔しいか?パラノ豚
おまえのこと、もうわかってんだよ馬〜鹿
85 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/14(木) 15:37:16
コピペか?
そんなのいいから続きよろしく!
今度は弟が病気なんだ
86 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/19(火) 01:39:01
創作文芸民の皆さん!
続き考えてくだちい
姉が妊娠中だから無理!
88 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/21(木) 02:34:27
そろそろお願いできませんか・・・
僕は携帯でパケット定額制じゃないんです。
それでもこのスレを1日1000回更新しています。
このままではパケ死してしまいますよよろしくお願いします!
近所で仔猫が生まれたの無理です。
90 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/27(水) 10:04:25
そろそろ仔猫も立派に大きく成長したでしょう
お願いします。
91 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/28(木) 18:45:26
見上げるほど巨大に成長しすぎた猫に、
書き手が食べられてしまったので無理です。
ちょっと待ってよ。
王の双子を出そうよ。
93 :
名無し物書き@推敲中?:2007/06/29(金) 02:41:14
書き手食われちまったのかよ・・・・・
94 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/05(木) 08:26:03
じゃあ猫さんお願いします
無理ニャー。
猫はそう叫ぶと逃げ出した。
逃げた!
と思いきや、突然、巨大な猫は身を翻すとこちらに向かって駆けてくる。
そして、真上より聞き手を見下ろしながら、ぽつりと呟く。
そんなに続きが知りたいのかにゃ?
97 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/06(金) 01:02:09
( ^ω^)つ【マタタビ】
老婆は質問を投げかける。
「クオリティーが低くても連載を続行すべきか、それよりも中途半端のままで終わらせるべきか」
レオリオはどちらとも答えられない質問に困惑し、苛立ちを覚えた。
レオリオの苛立ちは頂点に達し、手元にあった角棒を地面に力一杯叩きつける。
さらに暴れようとするレオリオを一人の男が止めた。
彼は冷静にレオリオに言う。
「正解だ。答えは『沈黙』だ。だから私は沈黙を続けている。」
作者だった。
なんか、それらしいこと書いてるけど、
要するにそれって、どっちにも決められないってことだよね?
優柔不断を正当化してるだけじゃない。
100 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/08(日) 22:31:02
そろそろ投下よろ
こういうのを書くのは作りキャラ
おれは根っからの悪人ごっこをしているだけだ
ホ ン ト の 俺 様 は 天 才 作 家 だ
そう思いたいだろう?残飯
だが読めば分かる
犯罪人がおまえの本性だよ
だから読んで面白い。全国の作家志望にはいい資料になる
書けよ。もっと
945 名前:名無し物書き@推敲中?[sage] 投稿日:2007/07/06(金) 16:22:14
母親は淫売
50のジジイが淫売に産ませた私生児
それが沖縄の豚男こと ハ イ さん(55)
102 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/09(月) 13:13:39
王の部屋に向かう途中、レオリオはクラピカの後ろ姿をマジマジと見つめる。
「さっきから何を見ている?」
「いやぁ、前々から思ってたんだけどな。お前って男なのか?それとも女なのか?」
「愚問だな。私に性別はない。」
「えっ!本当かよ」
レオリオは目を大きく開き立ち止まった。
「厳密に言うと私の仲間には性別はないんだ」
「そんな部族もいるんだな」
「さらに厳密に言えば私の部族は人間ではない。つまり、私も人間ではないわけだ。
キリコやキメラアントなどと出会った時に思わなかったのか?この世界では人間だけが知能が発達しているとは限らないんだよ、レオリオ。
人間中心的な固定概念にとらわれているから、そんなことで驚くことになるんだ。
私はもう大抵のことでは驚かないよ」
レオリオは口を開いたまま、しばらくクラピカを眺めまわした。
そして、やっと事実を受け止められたのか、彼は話し出した。
「俺はダメだな。そんな事、夢にも思っていなかったぜ。あっ、そうだ。ついでだから俺も告白しとくけど、俺のフルネームはレオリオ=ダ=ヴィンチっていうんだ。大したことじゃないけどな。」
「マジっすかっ!」
103 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/15(日) 06:03:49
もういいわ寿命来たよ
104 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/25(水) 00:16:23
みんな夢だった。
おわり
105 :
名無し物書き@推敲中?:2007/07/28(土) 23:49:30
おまえらほんとセンスねーなw
冨樫が神なだけ
今ちゃんと連載してんの?
なるとなら連載中
109 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/02(木) 21:21:28
ネフェはゴンキルに倒される。シャウは王を守ろうとして会長により殉死。
ナックル達は瀕死なもののハコワレは成功ノブ空間へ退避。ユピーはモラウと相打ち。
王(絶状態)は会長に小麦を餌にされ隙をつかれ死亡。ついでに会長も死亡。
キルアはゴンと別れてタコと旅、ゾルディック家との決別。
ゴンはジン探しを続ける。カイトは植物人間状態。
クラピカは組の命令もあり、再び除念された団長を探している。
レオリオは分散した蟻にやられた者を念能力で治療している。
ヒソカは負けてガムを盗られるも相変わらず自由に生きてる。
ネテロの最後の能力「合成戦士」によってゴンキルが合体
ゴルアとなって王を圧倒
ゴルアの提案により、無差別トーナメントを開催。
ゾルディック家、ジン、ネウロなど世界の豪達が集まるが
結局優勝したのは無名のハンター。
やっぱハンターはすげえぜ!で終了。
113 :
名無し物書き@推敲中?:2007/08/30(木) 21:16:32
再開
そもそもどこで止まってたか覚えてすらねえw
静かな部屋でクラピカとレオリオの二人は呆然としていた。
やることが何もなくて暇なのだ。
「レオリオ、おまえは何歳なんだ?」
クラピカが突拍子もなく訊ねた。
「三十五歳だよ。そんなことを聞いてどうするんだ」
「三十五歳!!?」
クラピカは大声を出した。驚きのあまり緋の目が発動してしまった。
「ふん、意外だったか……。よく言われるよ見た目かなり若いってな。
ちなみに何歳ぐらいだと思ったんだ?」
レオリオの問いかけにクラピカは少し考えた。
「二十四ぐらい」
「だろうな、みんなそう言うよ」
レオリオは淡々とした調子で言った。
「しかし、それじゃあ今までは一体何を……」
「何をしていたのかって? それは秘密さ、ふふふ。
なんてな。ただ単にニートをしていただけさ」
「ニートか……それは生産性が無いな。まぁ私も人のことは言えないがね。
今年で三十二になるが今まで働いたことは一度もない」
「マジで?」
レオリオも驚いた。
「うむ。あっちこっちで盗みをしたり、強盗をしたりして生活していた」
「それじゃ幻影旅団とちっとも変わらないじゃないか」
レオリオは呆れたように言った。
「大きなお世話なのだよ! いいか、私は強盗と言っても人を殺してまで
盗んだりはしない……。いや、二回だけ反抗した子供を殺したことがあったがね
それ以外はおとなしく、納得してお金を差し出してもらったよ」
「そうか」
レオリオはなんとなく返したが、あまり釈然とはしなかった。
age
119 :
南条あや ◆/7Oz9PqM4w :2007/09/23(日) 01:00:12
ラブリーゴーストライター
信じてくれる?
南条あや
120 :
南条あや ◆/7Oz9PqM4w :2007/09/23(日) 01:18:52
121 :
南条あや ◆/7Oz9PqM4w :2007/09/23(日) 01:20:22
必要なものは 名前<偽名でも可能>
顔写真
生年月日
血液型
お申し込みは望月裕貴専属カウンセリング室の私書箱からね。
122 :
名無し物書き@推敲中?:2007/10/06(土) 19:18:34
<ハンター×ハンター>ジャンプの人気マンガが1年8カ月ぶり連載再開
10月6日14時29分配信�毎日新聞
06年2月から休載していた冨樫義博さんの人気マンガ「ハンター×ハンター」の連載が、
6日発売の「週刊少年ジャンプ」45号(集英社)で約1年8カ月ぶりに再開された。
「ハンター×ハンター」は、行方不明の父親ジンを探す主人公・ゴンが、
ジンが優秀な「ハンター」と呼ばれる戦士だったことを知り、
自分もハンターになろうと決心し、試験を受けながら、さまざまなライバルたちと出会い、
成長していくファンタジー。98年から同誌で連載が始まり、06年2月から休載していた。
単行本は24巻まで発売中。
連載は、爆発的な繁殖力と驚異的な戦闘力を持つ虫「キメラ=アント」の集団とハンター軍団の戦いを描く
「キメラ=アント」編の途中から再開となる。10週連続の掲載予定。
123 :
名無し物書き@推敲中?:2007/12/31(月) 21:18:35
どっかのスレで うちの会社の悪口が書いてあった。
「○○という会社に再就職の面接に行ったら、『将来の夢』ってタイトルで作文書いて下さいと言われた。むかつく。
だいたい25歳にもなって、将来の夢もクソも無いだろ。25歳にもなったら現実を見る年齢だろ。他人を馬鹿にしやがって!
小学生じゃあるまいし。しかも原稿用紙2枚も。何を書くわけ?ありえない。
ここで働く奴は全員、こんなくだらない作文を一生懸命、原稿用紙2枚分も書いた、幼稚な人間なんだね。気持ち悪い。
作文があるんだったらちゃんと求人に書いとけ!『面接』しか書いてなかっただろ!
むかつくからその場で辞退してやった。」
みたいな事が書いてあった。
このレスを見てかなりむかついた。
面接で作文を書かされるのは当たり前じゃない?25歳で「将来の夢」の何が悪いわけ?私はちゃんと作文を(原稿用紙2枚分)書いたから採用されたんだよ。
それを幼稚な人間なんて言い方はむかつく。
ひがむな!
125 :
名無し物書き@推敲中?:2008/02/02(土) 08:01:36
1
126 :
名無し物書き@推敲中?:2008/02/27(水) 17:29:48
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128 :
名無し物書き@推敲中?:2008/03/26(水) 14:24:51
トガシッ!
湿り気のある心地よい風が、二人の気持ちまで清々しく洗っていた。邪魔する者は誰もおらず、
満月さえも対峙する二人から目を反らしたがっているようだった。真夜中の河川敷で、
しかも人気のない草野球のグラウンドで若い男が逢い引きとくれば
――キャッチボールならどこでもできるし、千本ノックには暗すぎる――、
人目を避けるにはそれなりの理由があろうというもの、部外者であれば覗き見の不粋は避けるべきだった。
もっとも実際には、今夜の二人を前にして、逃げ出さないでいられる者の方が希であったろう。
>>129の続き
二人の服装が、一般人にとっては関係者だと思われるのが嫌なほど常軌を逸しているのもさることながら、
隠そうとしても立ち上ぼる殺気は、ここに来るまですれ違った少数の人々に、望まぬ死の戦慄を
実感として与えていたのだ。
黒髪を撫で付けたオールバックに全身を黒いコートで覆った、執拗なくらい全身黒尽めの男と、
一目でファンタジック・ショーの途中から抜け出して来たとわかる道化師然とした金髪の男。
見るなと言われても目を反らし難い二人から、今日に限っては人々が目を伏せそそくさと離れたのは、
立ち入れば殺されるであろう有無をいわさぬ迫力があったからだ。
>>130の続き
二人は死すら厭わぬ決闘の為に、ここに来ていた。
この街のここ十数年の行政努力は、街全体に下水道を張り巡らし、二人が佇む傍らの
一級河川の水質を、汚水から鮎の遡上する清流へと変えていた。故にこの場を包む空気の匂いさえも、
二人の邪魔をしてはいなかった。
ヒソカ「川がとてもきれいになったんだ」
ふと金髪の男が口を開いた。姿勢よく遠い水面の方を見ている。暗いことを別にしても、
二人のいる“センター前”からは川はよく見えない。角度の問題もあるが、何しろ遠いのだ。
独り言でもないのだろう。言われた方は同じく遠くの川面を見るべく体の向きを変えた。
>>131の続き
対決の場をここにすべく一時間以上の散歩に付き合わせたのは、黒髪の男の方だった。
生真面目な公務員が二人の戦いを止めに入り、それを果たせず死んで行くのは
気の毒だったし、無関係の者が巻き添えになるのはもっと避けるべきだった。しかし何より、
目の前の道化師の“悪魔の手品”にできるだけ付き合わぬ為にも、“何もない場所”を選ぶことが
理想だったのだ。
どうして彼が川の水質のことなど話題にするのか? 不思議ではあったが逆に、他に
話すべきことのない場所に連れてきてしまったのは他ならぬ自分なのだ。黒髪の男は
いささかの責任を感じ、僅かしか見えぬ黒い水面の方を見ながら、
言葉を探し、応えた。
>>132の続き
団長「知っている。公共工事がこういった成果をあげるというのは…」
口にできたのは、そこまでだった。
喋る途中の黒髪の男、幻影旅団・団長、クロロ・ルシルフルの左肩のはるか向こうから、
いつのまに向きを変えたのか、話題を振った方の金髪の奇術師、ヒソカが、
真っ向から突っ込んで来ていたのだ。
向き直りながらクロロは舌を巻いていた。こういう姑息な開戦の仕方は、本来盗賊で
ある自分たちに実にふさわしいと言えた。むしろ、誇り高かろう彼・ヒソカに、どうやって
先手をとらしたものか気を揉んでいた自分が馬鹿らしく、臆面もなくそれをやってのけた
彼の手腕に感謝と賞賛を示してやりたいくらいだった。
>>133の続き
実際にはそんな余裕があるはずもなく、最早手が届くほどに近づいた彼に対処すべく、
右手にオーラを集中させ、当初の奸計通り、必勝の布石を打とうとした。 近接戦闘以外に
手が無いことは周知が故の、迷いの無い奇術師・ヒソカの突進に対し、幻影旅団団長、
クロロ・ルシルフルが計ったのは、右手のスキルハンター発動と見せかけて、筋弛緩剤塗布
済みの、ヴィンテージ・ナイフによる一閃だった。
間合いを詰めるヒソカは、その左手で鮮やかに今夜の決闘への彩りを添えた。
団長「…!? 鳩?」
>>134の続き
ヒソカの狙いは、団長の生命線、右手のスキルハンターを封じると見せかけ、気の毒な鳩ごと
押しやって具現化した、直径2mを超える巨大バンジーガムで、右腕と言わず左足と言わず、
体ごと捕縛してしまうことだった。
予想外のガムの大きさにすかさず後ずさった団長だったが、いつのまにか右手に具現化した
スキルハンター、まるで真っ黒の辞書・ページを開いたままの盗賊の「極意書」 をガム球に押し付け、
自分の右手がガムそのものに触れることから逃れている。
刹那、つり上がるヒソカの目!
団長「!! 放出か!!」
>>135の続き
巨大バンジーガムはヒソカの左の手の平を離れ、押し付けられた極意書を中心に禍々しく
変形しながら、それ自体が意志持つ流体の魔物のように、団長の体躯めがけ迫っていた。
押されるままに団長はしかし、その右手を迫り来る流体のガムに極意書ごと押し込み、
それを支点に体を捻って宙に跳んだ。と同時に、団長の右手ではなく、手先の極意書から
その形のまま平面状に放たれる小規模の爆発。本来なら平手から放たれる爆発型の
放出オーラは、迫り来る流体のバンジーガムを押し留め、またも団長の右腕をガムとの接触
から救っていた。
ファンファンクロス!!
ヒソカ「…!? 暗(くら)?」
>>136の続き
団長は、右手を極意書の開かれた背表紙に突き立てたまま、それを支えに空中に倒立し、
空いている左手で、突進してきたヒソカめがけ一辺15mを超えるファンファンクロスを具現化
して、彼を逃すことなく包み込もうと即座に操作を念じていた。
ヒソカは、彼を一瞬で背後の月明かりから隔離しおおせた闇の正体を、正確には理解
していなかった。彼が認識したのは、団長の右腕ごと体躯を包み込み、貼り付いた手足の
自由を奪う為放った滑らかな流動状のバンジーガムが、団長の具現化した「本」から放射状に
爆発した何らかの高密度のエネルギーにより押し留められ、結局本以外の団長の右腕は
おろか体躯の一部にすら貼り付いていないという事実だった。
それと同時にヒソカは、この頭上に広がる不愉快な闇に対する、殆んど唯一の対抗策に
たどり着いていた。
>>137の続き
ヒソカの放った巨大バンジーガムは、二重三重の罠だった。先ずは定石通り距離を取りた
いであろう団長を追いかける為、左手に溜めたオーラに発破をかけ、元来苦手な“速射の
放出”で強烈に前方に打ち出す。差し足(―組手における、間合いを詰める足運び―)に
自信のヒソカである。一瞬の踏み込みからしかし、それでもわざと“かわせる”と思わせ
る絶妙の距離を余して、眼前に出現させた2mの大玉。その通りかわし切れればよし、
そこへすかさず右手に込めた念を放つ用意はあった。本命はかわし損ねた時、微かでも触
れるとそこを基点に取り憑くよう、それが自動で為されるようにと念を閉じ、檻から解き
放った無機質の捕食者、無意識のトリモチ、謂わば完全自動操作の、もう一人のヒソカだ
った。
>>138の続き
踊り狂うバンジーガムの捕食から団長を救ったのは、彼が好んで使う念の応用技「弾」、
拳法家の間では単に発勁、または弾勁と呼ばれるものだった。放出系の基礎修行の、さら
に入門編、他所の流派では「浮き手」などと呼ばれることもあるようだが、団長は他の
やり方と合わせて「立禅」と呼び、長年の「練」の鍛練に愛用していた。但し、打ち出し
たい箇所が頭なら頭を、肘なら肘を地面に着け、そこのみを支えに重力をこらえ、やがて
その重力を感じないで済むまでじっくりと無心で取り組む。ことに幼き団長は、人差し指
一本で行う「一指禅」や、手のひらのみで倒立する「独立掌」を好んだ。
>>139の続き
本来であれば人は「“静”中の静」より「“動”中の静」の方が得やすい。幼い男児
なら尚更である。故に大抵の流派では、わざと大きく体を動かし「体外の騒動」の中に
身を置くことで、“内心”に想いが至らぬようにし、無意識の作用に任せ心を“済”ます。
しかし団長が好んだのは逆に、「静中の“静”」ならぬ「静中の“動”」と向き合う
時間だった。
‐心の蠢き‐心を細め逆立ちしたまま自らの心中にじっと向き合う。するとそのうち、
後になってみるとなぜそんなことに想い至ったのか、自分でも不思議に思うような事柄が
次から次に沸き上がってくる。初めの内は想う自分が一人いるだけだが、やがて目眩く
思考を俯瞰する、もう一人の自分が現れる。
>>140の続き
しばらくの間は「俯瞰する自分」と見られる側の「想いうつろう自分」が同時に存在
することに、それと気付かぬままの状態が続くが、やがてはっきりと“見ている”自分と
“見られている”自分がお互いの存在を認めたまま、活発にそれぞれの活動を始める。
自らの内空間に“潜水”し、覚醒する体験は不思議な高揚を得られた。 が、しかし何よ
り、次から次に沸き上がる自分自身の“妄執”にこそ、彼の興味はあった。
‐欲望、それも特段に濃い‐自分の中に潜んでいた獰猛な好奇心。知りたい欲しい、
あらゆる物事に対する欲求‐今の自分が持たざる“もの”に対する理不尽なまでの執着、
今すぐ手に入らぬことに対する子どものような羨望‐何故知り得ぬのか何故手に入らぬの
か、答えは分かり切っていた。
‐自分が小さいから‐ 幼いから弱いから分からぬのだ“奪えぬ”のだ。
知りたい、奪いたい‐幼い彼は己の非力を呪った。
しかし彼は焦らなかった。
>>141の続き
焦る代わりにじっくりと自分の“実力”を見つめた。自らの“欲”が果たせられぬのは、
自らの“弱さ”のため。強くなる為には、先ずは己の弱さを払拭することだ。
‐払い除ける‐強く“在りたい”気持ちとともに、立禅の最中に浮かんだあらゆる邪念
を“済ます”気持ちを込めて、掌から“想い”を強く打ち出す。始めは地面から埃が舞う
程度だった「発」の威力が、やがては、少年時代の彼の身長に倍する高さにまで彼の倒立
を持ち上げる程に、成長していた。
>>142の続き
単に体内に溜めたオーラを体外に“放出”するだけなら、それは通常「発」という。
「弾」(―別名を“はじき”、或いは“当て発”―)は、あたかも磁石の同極同士が反発
するが如く掌、拳の触れるものを跳ね飛ばす。その際、自らの“心の重心”の質量を、
掌の発の威力よりも重く置くことで、相手のみを弾き跳ばすことができるのだ。
単なる物理を越えた念の法則にしかし、彼の心は素直に順応した。要は、心を重く置き、
動かさなければ自分は跳ばずにすむ‐動くのは自分ではなく常に相手なのだから、と。
自らの心を重く置くとは、すなわち、自尊心‐幼い彼がその言葉の意味を真に理解する
のは、随分と後のことになる。なぜなら、少年時代の彼の周囲には、彼同様、自らを尊っ
ばぬ人はおらず、自己を肯定する為の努力・行動を放棄する人間など、皆無だったからだ。
当たり前と言えるその自尊心を欠いた生き方をする人々を、彼等子供たちは大人の話の
中に聞くばかりであり、彼等の保護者達による、謂わば「修学旅行」に連れ出されるまで、
実際に目の当たりにすることはなかったのだ。
>>143の続き
彼の研ぎ澄まされた人一倍強烈な自我は、その主人である彼の表層の人格を、一早く成
長させることになった。‐周囲との折り合いを付け、他者の存在を認め尊重する。そのこ
となしには幼い彼等の間に仲違いは絶えなかったし、大人との争いともなれば実際に命を
落とし兼ねなかったのだから。
そのような日々のやり取りの中で、自然とクロロ少年は喧嘩(遊び)仲間から一目置か
れるようになった。子供同士の喧嘩とはいえ、彼等の意地の張り合いは、止めるものなく
ば行き着く所まで行ってしまう。しかし不思議と、彼が静かに、争う二人に闘いの終了を
告げると、それまで激しく争っていた両者も、見守っていた周囲も、そこまでの両者の頑
張りを認め、その時点での勝敗に納得させられてしまうのだった。
張るだけの意地は張った、勝敗は着いた。しかしそれだけではない。何より、クロロの
前で全力を出し闘った‐彼の目の前で正々堂々とやり合うことが、不思議な満足感をもた
らすことに、やがて子供たちは気付くことになる。自分の意地を通すところを彼に見せつ
けることで、彼から認められたと実感することができたのだ。
>>144の続き
彼に認められることを、なぜ自分は欲するのか、その答えを子供たちは漠然とだが理解
していた。喧嘩の数を重ねる内に、誰であれおよそ“レベル”というものの存在を認識で
きる。将来“達人”だの“使い手”だのと言われるように成るだろう相手‐子供たちは冷
静に、そして残酷に、誰には素質がなく、誰なら自分の好敵手に為りうるのか、本人には
言わないまでも、それぞれの審美眼で判断していた。
その中でも、素質がない、と自分を見限るしかなかった子供たちでさえ、クロロの前だ
と不思議と全力を‐少なくとも本人の気概の上では‐出すことができたし、クロロに勝負
を見届けられることで、意地を張り通した自分を誇りに思うことができた。
>>145の続き
そして、クロロが勝負を見届けた二人であれば、勝者も敗者も分け隔てなく仲間として
受け入れよう、そんな雰囲気が自然とその場に醸し出されていた。
一度仲間として認められてしまえば、もはや腕っぷしにおいて劣ることなど気にもなら
ない。自尊心‐やれば負ける、それがどうした? クロロは僕を認めてくれたぞ‐。
声にも言葉にもしなかったが、他の子供らに対し誇れる自分が嬉しかったし、その誇り
をもたらしてくれた年の変わらぬ友人、クロロに対し無意識の崇拝を抱いていた。
ただ一人、クロロだけが、「カリスマ」という言葉を知り、人間の精神の高潔とそのエク
スタシーについて理解を深め、それを自然に実践するようになっていった。
>>146の続き
腕前に劣る子供たちでさえクロロに認められたがるのだから、いわんや強者をや、彼等
のクロロを見る態度は初めこそ高飛車であったが、もとより一目置かれるクロロのこと、
彼が憎くて喧嘩になる者などありはしない。彼と立ち合いたい'想い"の源は、腕試しに
他ならなかった。
すでに当時のクロロには、余所者が最初から挑戦することすら許されない程の'格"が
あり、気の合う仲間がクロロへの挑戦者を体よく横取りしようとすることもしばしばだっ
た。その度にクロロは実に屈託なく、横槍の無粋を諭し、自分への挑戦者に対し自然に応
じるのだった。
やがては親しい仲間達も、クロロが実は自分達以上に喧嘩好きであり、彼自身の名前の
価値を利用することに何の気恥ずかしさも持ち合わせず、只々、次から次へと現れる挑戦
者を嬉々として‐しかし、けして礼に背く事なく‐受け入れ、屠っていくのを見る内に、
クロロへの客はクロロのものだと諦め、彼の'楽しみ"が終わるのを待って‐それ程時間は
かからない訳であり‐新しい仲間への、次の挑戦権を主張するのだった。
>>147の続き
クロロの喧嘩は激しいものではなく、むしろ玄人然としたシンプルなスタイルだった。
中でも仲間達が驚かされるのは、相手の得意を封じるタイミングを抑えつつも実際には
その手を踏まず、その得意を受けて立つ度量の深さだった。相手にして見れば得意の手を
繰り出しておきながらそれが通用しなかったのだから、完敗の感を強く持つが、岡目から
見て始めてその実力の開きに気付かされた時にさらに、クロロの高みを仰ぎ見ることにな
るのだった。
クロロは挑戦者たちを傷つけぬ為に、拳突による殴打よりも、掌による'当て"を好んだ。
ただ、怪我をさせない訳だから、そこは強情張りの子供らのこと、自ずから負けを認め
るはずはない。
>>148の続き
‐普通、拳法家は打つにせよ防ぐにせよ、相手の体と距離の空いてしまう繋ぎ手を使う
ことを避ける。弾くだけでダメージを与え辛いとなれば尚更である。せっかく触るほどに
近づいたのだから、そこから仕留めてしまうまでの流れに繋げられぬというのでは、所謂
“表舞台の「格闘技」"にすぎない。
合気、柔、化勁‐呼び名は色々あれど何れも受け手において、迫り来る攻め手の勢いを
利し、逃すことなく触れなば仕留む技法であり、そして、掌による当て身においても、浸
透勁‐人体内部の構造を熟知し放つ圧力で破壊する技法があり、手加減の為に掌打で払い
飛ばすなど、模擬戦の中の話でしかなく、真剣勝負においては具の骨頂と言えた。
しかしそれでも怪我を負わせたくないクロロは信念をまげず、信じる我が道を静かに邁
進した。そうして腕の立つ大人達がそうするように、「跳ね飛ばす」念を更に練り上げ、
文字通り爽快にぶっとばすことで、負けを認めさせるきっかけにしたのである。
>>149の続き
ある時は、大地に楔を打つかのように鋭く後足を踏みつけ、全身で糸を縒るかのような
滑らかな螺旋の拳突‐纏絲勁‐を命中させ、見事クロロの肋骨を折った一回り小柄な少女
に対し、顔面に炸裂させて彼方まで吹き飛ばした時も、もんどり打って立ち上がり、驚い
た表情の彼女の鼻は確かに陥没して無くなっていたが、それでも怪我をさせずにすんだと、
目論見通りの使い勝手に重宝するのだった。
またある時は、その大丈夫を信頼するに足る大柄の友人との対決に際し、彼なら大した
怪我もするまいと奮った渾身の右拳の一撃がしかし、当たった彼の顔面によって己れの手
首を脱臼させられてからは、得心し、ますます掌による“弾き"に頼る比率が上がってい
った。
ある日、クロロは、師に連れられ、燻(いぶ)めかしい陰鬱な儀式に臨んだ。そこで彼
は、立ち上る焔と煙の向こうから、こちらを伺う妖しげな呪い師に、「物受け」の卦(=具
現化系の兆候)が見えると告げられた。
>>150の続き
驚いたのは、拳の師の方だった。師は既にクロロの「当て発(=弾)」の爆発的な強大さ
を知っており、それはすなわち乱取り・遠当て(=強化・放出系)に秀でた証と思っていた
からだった。実際には、幼いクロロは只々彼の“纏”の力強さ‐動くのは、常に周り‐に
より、相手を弾き跳ばしていたにすぎなかったのだ。
師はクロロの拳の風格を愛で、その大成に期待をしてもいたのだが、“卜念の託宣"で
その本性が「物受け」と出たとあっては、今後の肉体の加勢・堅持・養生において周囲よりも
劣ることは否めなかったし、何よりあの強猛無比の“発"が、“飛ばせぬ"ままでしか使
えないとは―。
兵法家としてよりも、相応しい未来が有るやも知れぬと、案じ始めていた。
一方、クロロの方はというと、外見にはおくびにも出さなかったが、「物受け」、「想い
の象を奉ず性」と断じられた我が身を、内心では興奮の内に、受け入れていた。
>>151の続き
誰のものでもない、いつか自分の手に入る念を思うと、自然と熱く、静かに研ぎ澄まされ
る“練”を感じないではいられなかった。
またそのことは自然とクロロに、自らの手を、特別なものだと思わせるようになってい
た。‐いつかこの手で自分の想いの象を奉じる時がくる‐いつからかクロロは、自分の手
を傷めることの能う出来事など、微塵も予見しなくなっていった。事実戦闘においても、
(‐受け手が巧みになったことは別にして‐)たとえ無意識に拳撃を用いた時でも、拳を
痛めることはなくなっていた。
壊れてはならぬ大切な手‐枷(リスク)は“発条(バネ)"‐。その想いは、彼の両手を、
譲ることなき凶器へと変えていた。
―しかし実際には、その後成長した彼は、真剣勝負においては拳突よりも、しっくり馴
染む暗器(=通常隠して用いる小型の武器)、「六菱寸鉄」を愛用し、衒いなく突き立てる
ようになっていったので、知りようもなかったのだが―
>>138の続きであり、
>>152の続きでもある
【
>>139-152は省いても可】
ヒソカにとっての意外な幸運は、まさしく団長の特異な反撃によりもたらされた。
避けるにせよ防ぐにせよ、後退る団長に追いすがる為に、兎にも角にもヒソカは、巨大
バンジーガムを勢いよく前方へ打ち出し、対する団長のリ-アクションを捉え、仕留める作
戦だったのだ。すなわちヒソカは、相当量のオーラを費やして念じ上げた遠隔自動操作式
バンジーガムを、“失う"つもりで手放した―。
対して団長はその場に踏み留まり(‐とはいっても、迷いの無い見事な体術で空中に逃
れてはいるのだが‐)、強猛無比な発の放出によって巨大バンジーガムのほどけた触手を一
挙に押し返したのだった。
その反動で、ヒソカの前方へ向かうはずだった巨大バンジーガムは、彼の手元に離れぬま
まに残された。
>>153の続き
通常ヒソカの場合、バンジーガムを体から放して使うには、“一塊一念"を原則とする。
すなわち、@二点に貼り付く→A縮み発動をじっと待つ(その間、動く二点間をガム状
に軟らかく伸び続ける)→B離れたヒソカの指令を受けて縮む(ガムから一挙に引き延ば
された状態のゴムに化ける)、の単純なルーチンである。
元来変化系に属するヒソカの場合、あまり複雑な“操作"は念じられない。逆に、仕込
み・手順を付け足せば付け足すほど、相応のオーラを費やす破目になる。
故にヒソカはこの際、失うオーラの総量をセーブする為、さらには拙い発破に乗せ勢い
をつけ飛ばす為、巨大バンジーガムの外形のみを張り子のように取り繕って、内部を空洞化
・軽量化していたのだ。
ヒソカは慌てずに目の前のバンジーガムにもう一度左手で触れると、一瞬にして、当初の
捕縛を目的とした遠隔自動操作型の発から、普段使い慣れた、貼り付け引っ張る手元操作
型の発へと、念じ直すことに成功した。
>>154の続き
ヒソカ「…その本、盗まれたことあるかい?」
ヒソカは身を沈ませながら、一気に左手を引き絞るのと同時にバンジーガムの縮みを念じ、
唯一捕らえた団長との接点、盗賊の極意書をその手から奪い取った。
ヒソカ「闇が消えた!?…やはりあの暗闇は団長の盗んだ能力、コレションの一つ! そし
て思った通り、この本は団長の手から離れすぎると、存在を維持できない! 本が消えれ
ば…能力も消える!…そして団長! 今あなたは僕のバンジーガムから逃れる為、宙にいる…!!」
明転一瞬、ヒソカの後方からの月明かりは再び戻り、“左腕一本"を突き出したまま体
を捻る頭上の団長を照らし出していた。
>>155の続き
ヒソカは引き絞った左腕の勢いのままに猫科の大型獣のように身をくねらせると宙に浮
かび、振り向き様に自らの背面に向けて着地しようとする団長の背骨めがけ渾身の右拳を
叩きつけた。
団長「!!」
ヒソカ「!!…ああ」
さらにその衝撃の反動を利用し、右拳を引き絞るのと入れ換えに腰を支点に悪魔の右爪
先による回し蹴りを団長の後頭部へ向かわせる。
ヒソカ「バンジーガム!!」
本来なら、強烈なヒソカの右拳の衝撃により前方へ吹き飛ぶはずの団長の上半身は、そ
れを果たすことなく、歴戦の跡を聖痕のように刻み付けながらもしかし、あつらえ良い黒
コートの背面の逆さ十字の一点を中心に、ヒソカの空中の右半身に引き寄せられた。
>>156の続き
恍惚の泉の沸き上がる腰の支点を軸に、ヒソカは悪魔のコンビネーションを遂行する。
驚嘆すべきは団長の忍耐であった。逃げ場のない空中でヒソカの右の拳により背骨にひ
びを入れられながらそれでも、ようやく地面に触れる寸前の左の爪先にオーラを集中し、
膝のバネに頼ることなく着地と同時にオーラを爆発させ、縮むバンジーガムに逆らわずに後
方へ向かう推進力を作り出した。
オーラの強い反発力を得たことで、団長の下半身は引き寄せられる上半身を追い越し結
果、突き出た腰を支点に海老のように傷めた背中と首を丸め、ヒソカの右爪先の間合いを
外すことに成功した。
>>157の続き
ヒソカ「!!…近!!」
タイミングを狂わされたヒソカの右足は、伸ばし切れず未だ折り曲げたまま、その膝頭
に傾いだ団長の黒コートの背が激突した。
ヒソカ「!?…っ痛!? …左足に何か…」
団長の腰骨のあたりとぶつかった右膝の意図せぬ衝突は、右回し蹴りのベクトルを反作
用させ、ヒソカの体に背骨を軸とする“時計回り"を強いた。瞬間ヒソカは驚異の反応と
集中力で、ぶつかった“空点"を中心に弾け飛ぶ自らの右半身と団長との間に張られた、
(右拳の)バンジーガムの“張力"を調整し、左足一本で着地した。
ヒソカ「…!? な、これは!?」
─着地した、と思った。
>>158の続き
ヒソカ「…左足が言うことを聞かない…!?」
ヒソカは腰が砕けるように尻餅をつき、二度に渡る背面の痛打に耐えながら、気丈にも
二本足で立ち続ける団長の後ろ姿を見上げたまま、現状を理解しようと努めた。
ヒソカ「…何が …僕の力を抑えている…?」
“凝"を凝らしても団長を覆うオーラに不審な点は見受けられない、どころか、団長は
先刻消失した“本"を具現化してすらいない。
痛みに耐えているのだろうか、団長は、背面に特に鋭いオーラを一瞬昂らせながら目を
歪ませ、それでも一部の隙も見せずにゆっくりと左へ踵(きびす)を返した。
振り向いた団長が背中からひけらかした“右手”に握られていた一振りの刃物を見て、
ヒソカはおおよそを理解した。
160 :
名無し物書き@推敲中?:2008/06/09(月) 20:04:03
age
>>159の続き
─ベンズ・ナイフ─刀鍛冶であり、大量殺人鬼であったベンニー=ドロンが、生前、人
を殺す度にその“記念"として製作したヴィンテージ・ナイフ。ナンバーの刻印されたタ
イプが特にそう呼ばれ、獄中の独白によればそれがそのまま彼の殺害した人数に相当し、
実に288本までを数えた。
思い出の中にしか財産を持たない団長が、普段持ち運ぶ数少ない貴重品である。
“市井の念能力者"だったドロンが、念を“纏"いながら丹精込めて製作したこのナイ
フは、同じく殺人中毒者たる団長と恐ろしく波長が合い、両者の念は実によく馴染んだ。
ただし、団長がこのナイフを持ち歩くのは愛でて心安んじる為などではなく、あくまで
実利の為─。
中期型と分類されるこの一品、No.156は、内部に施された細い空洞と、それに連なる精
巧な模様を象った“溝"群に、薬液を染み込ませて蓄えることのできる“毒仕掛け"専用
だった。
>>161の続き
団長は、ヒソカに右手の本を奪われた直後、迷うことなくならばと、突き出した左腕と
旋回する左半身の陰に隠し、翻るコートの内側に右腕を忍ばせた。そして、背中の下向き
のホルスターから、握る→革の掛け紐のスナップを親指で壊す、の二動作でナイフを抜き
取った。
体を捻るにつれ、露になる背中へと注ぐヒソカの殺気は分かっていた。分かった上で、
ヒソカの勝機に乗じ毒を仕込む為には、この際にナイフを隠し持つのがベスト─
─自分が死んでしまっては元も子も無い─
─そうだろうか?
今の団長には、生き延びて勝ち得る方に“賭け"ない手はなかった。
何を“勝ち得る"?
勿論、ヒソカの“人生(バンジーガム)"を─。
>>162の続き
ナイフを手にする代償に、背面の7番胸椎を砕かれ空中をバンジーガムに引きずられた団
長は、後ろから脳髄に注ぐヒソカの殺気を浴びながら、それでも、有るか無いかの微かな
反撃の機会を狙っていた。
下向きのホルスターから下方に抜き取ったナイフは、背を丸め突き出した団長の臀部の
さらに下、コート越しに突き立てたその先端で、“たまたま"─未遂に終わったヒソカの
空中右回し蹴りの蹴り足の下、ぶつかったヒソカの右膝の奥にあった─左ふくらはぎを、
刺し削ることが出来たのだった。
「─対象となるヒソカの肉体のオーラと出くわさぬ限りは、覆い(コート)を破る必要
(こと)はなし─」 団長の、そのどっち付かずの“想いを纏った"愛刀は、遺憾無く使命
を全うした。すなわち、上等あつらえの天鵞絨(ビロード)の背部に無様な穴を開け、隠密
裡の奇襲を成功させたのだった。
>>163の続き
曖昧な殺意、─否。正確には殺意ですらなかった。暴力の快感に覚醒し、感度の跳ね上
がっていたはずのヒソカがそれを読み切れなかったのは、無理からぬことと言えた。
─団長には、ヒソカを殺すつもりなど、最初からなかったのだ。
しかし、団長にとってはむしろ、有る殺気を見切られるよりも、殺気の無いことを気取
られる方が、都合が悪い観もあった。
殺すつもりのヒソカに対し、ただ盗むつもりの団長─それを隠すのは礼を失することか
─? いや、分かって欲しいというのは友ゆえの甘えなのだろうか、ただ殺すより余程、
残酷な、魅力ある仕打ちなのだが─。
その悦びを得る為なら、等しく死ぬ覚悟は出来ているのだから。
>>164の続き
団長「ヒソカ、余り体を動かすな。 無駄に体力を使うな。」
向き合った団長は目を見開き、血色を失い強張った唇を辛そうに動かしながら、必要事
項のみをようやくに、眼下に踞(うずくま)る獲物に告げた。
対するヒソカは、予期せぬ尻餅をつかされたまま、庇(かば)う左足を立て膝にして、そ
の中に胸を丸め込み、団長の呼吸を読もうと静かに、上下する自分の横隔膜の動きに心を
細め、鼻腔を往復する冷たく澄んだ夜の空気に同化していた。そして、僅か一足(=組手で
、只一歩分の間合い)先の団長を上目遣いに睨め付けながら、慎重に、次の一手を図って
いた。
>>165の続き
団長のコートの背中に貼り付いた、今は大人しく伸びたままのバンジーガムはそのままに、
ヒソカが迂濶に動けないのは、この体勢から毒ナイフの一閃を、避(よ)ける躱(かわ)すが
悪手だったからだ。もしこちらが先に動けば、手負いが故の団長の、乾坤一擲の「対の先」、
必死の一突きを合わせられる確率は高かった。よしんば躱せたとしても、二閃三閃目の何
れかには当たってしまうだろう。たとえ体の何処であろうと、唯の一条の切創だけで、勝
敗はさておき、訪れる死の天秤は、確実に大きく傾くのだ。
ヒソカの腹は最初から決まっていた。
>>166の続き
ナイフの毒液を目に飛ばされるのは計算の内、必ず相手に先手を採らせ、必勝の「受け」で
止めねばならない。接触禁止の悪魔は我が手にこそある。一度(ひとたび)触れればそこ
から、僕の愛を拒むことは不可能なのだから─ヒソカは肩を緩めゆったりと前腕を下ろし
た。そして─前の二本足をフリーにして、挑みかかるキングコブラの「後の先」を“必ず"
生け捕るマングースのように─静かに上体を起こし頭頂を天に吊り上げ、不吉な毒牙の間
合いに、己の両の眼を入れた。
>>167の続き
団長は額からこめかみにかけ、ふつふつと脂汗を滲ませながら、ヒソカの石のような視線
と、正面から向き合っていた。
そっと、鈍色の刃先が、翻り下を向いた。
団長はそのままナイフに連れられるように、ゆっくりと右腕を、肩先の水平位─団長と
ヒソカを結ぶ直線から、最も離れた空点に向け突き出すと、わざとらしく下向けたままの
掌から、そっと、ナイフを手放した。
落下するナイフは纏ったオーラごとさっくりと地面に突き刺さり、それと入れ換わりに、
手には一冊の黒い辞書が握られていた。辞書は跳ねるように上向くと、掌の上で勢いよく
ページを開き、栞代わりの親指を銜(くわ)え込み、その背表紙を折り曲げながら持ち主の
手に収まった。
>>168の続き
何か仕掛けの在るやも知れぬナイフの落下を視界の左端に捉えたまま、ヒソカが身動(み
じろ)ぎ一つしなかったのは、制空圏に入る団長の先手を見切って受ける、「居捕り(=座った
姿勢からの攻防)」の方針を、変えようがなかったからだ。
今度こそ、ナイフの代わりに握られた、団長のスキルハンターを認めるとヒソカは、やや胸を
落とし首を竦め、皮肉らしく唇の左端を歪ませた。
ヒソカ「…やれやれ、参ったね。 何しろ僕の鳩と違って、団長の“手品"には種も仕掛け
もない …さて、どうしたものか」
ヒソカは内心で一人ごちると、ふと…いつもの遊び心の内に、余裕を取り戻していた。
>>169の続き
一つの仮説が次に張る手を決めていた─スキルハンターを構えていながら、今にも仕掛ける気配
が団長に無いのは、今開いて手にしたページが相手のアクションに対するリ-アクション型
の能力なのか、少なくとも、先制攻撃を目的としてはいないのではないかしらん─、団長も
また、こちらの出方を待っているのではないか? ─この間際の膠着は、団長の得点(ポイン
ト)だった。
とたんに真面目な顔つきに変わったヒソカは、顔色まで平静に戻り、落ち着いた声で、
分かりきった気がかりを団長に尋ねた。
>>170の続き
ヒソカ「そのナイフ、毒だね?」
団長「そうだ。筋弛緩薬…下手に動くな、死ぬぞ。」
ヒソカは団長に話かけると、真剣な顔つきで返事を聞きながら、一方、「それはそれとして
やるべきことはやらねばならない」といった風情で、淡々と両手を動かした。
立て膝をした左足の太ももの付け根に左右から両手を宛がい、服装(コスチューム)の内側、地肌
の上から直接、環状のバンジーガムを具現化すると、膝下の切創直上まで延ばして、サポー
ターのように覆い尽くした。
「質問をした以上返事を聞き届けるのは義務だ」といった表情をけっして崩すことなく、
視線をそらさず団長の返事を咀嚼する。
─団長の言葉に嘘はなかった。ボツリヌストキシン─致死の毒薬。それをナイフで切開
するついでに傷口の体細胞に擦り付ける。診療寝台の点滴液とは訳が違う。濃度の調節など
そもそもしておらず、ナイフが湛える毒液は優に致死量を越える。
>>171の続き
つまりは、殺さぬ為にはどこをどれくらい切るのか? の、さじ加減一つにかかっていた。
生真面目な表情のヒソカの手作業は、勿論てきぱきと続いていた─こんなのはいつもや
っていることだ、いまさら気にしない─といった風に。
今度は右手をそのままに、左手だけを足首に移してそこから同様にふくらはぎの切創直
下までを具現化したバンジーガムの即席レッグウォーマーで締め上げた。そして、すぐさま
右手から、若干遅らせ左手も、傷口にむけ波打つようにバンジーガムの縮動を念じ、しごく
ように左足全体を限界まで搾り上げ、毒で汚れた血液をじっくりと絞り出した。
ナイフの刺し(切り)傷は意外に小さかったにもかかわらず、そこから飛沫いた血流はけ
して少なくはなかった。損傷したのは表層の静脈だけではなく、足首の内側を引っ張るヒ
ラメ筋が鉄板の上のシャトーブリアンのようにすっぱりと切れており、その動脈からのお
びただしい出血があったからだ。
>>172の続き
ヒソカは流血を見届けると、これ以上の排出は無意味だと割り切り、バンジーガムのサポー
ターを膝下の部分だけきつく締め付け固定し、汚れた静脈血の環流をせき止める用の臨時
の止血帯とした。
「そうすればいい、それがベスト」、その通りの手際の良いヒソカの応急措置を、団長が
“凝"を凝らしながらただ見ていた理由の一つは、ヒソカの真剣な顔つきについ吸い込ま
れ、彼がなすべきことを見守らなければならない雰囲気に乗せられていたからであり、勿
論、それは、ヒソカの命掛けの冗談だった。
─普段なら何か言いかけるところだが、今は殺し合いの最中である。そうしたいのを堪
えて、団長は団長のなすべきことに集中した。
「盗賊の極意(書)」を手にした─振り出しに戻ったのだ。
>>173の続き
ヒソカの体術はあらかた封じた、スキルハンターの発動準備は整った。しかし、その代償は大き
かった。せっかくの毒仕掛けを克服しようとするヒソカを手を拱いて見守るしかなかった
最大の理由は─動けなかったからだ。
団長が自分自身のオーラを診る限りでは、ヒソカ同様に、まだ余裕はあった。立ってい
られぬ程に体が言うことを聞かない訳ではなく、先刻は実際に歩を進めて後ろを向くこと
も出来た─もっとも、背骨を殴られバンジーガムに背中を引っ張られたあと、ヒソカの膝と
ぶつかり着地を余儀なくされたとき、両の足で持ちこたえ立っていることが出来たのも、
“偶々"に過ぎなかった訳だが─その衝撃による背中の痛みは、気を失うかと思う程だった。
しかしながら、動けたとはいえ脊柱を傷めつけられた以上、下半身に連なる中枢神経が
傷ついた可能性は十分にあった。それはいい。
>>174の続き
問題は実際に体が動かせないことではなく(それは予め展開の一つとして想定している)、
この状態で(今のヒソカのように)下手に体勢を崩すことで、更に神経を傷つけ動かなく
なってしまう下半身を、煩わしく感じるイメージを持ってしまうことだった。
オーラの源は揺るぎない信念。全身全霊が一つの目的の為に協調してこそ活性化する。
一度動きの鈍い体を忌避してしまえば、その部分の細胞にあるオーラを味方に出来なくな
ってしまう。
団長は、呻きたい程の疼痛に歯噛みして耐えながら、その痛みとままならない下肢を、
これからの自分の一生と伴に在るものとして受け入れた。そして、その未来像を覚悟の内に
手に入れるまで、僅かな時間を必要とした。
─ヒソカの目に見えて、団長のオーラが数瞬だが膨れ上がった。そして、その新たな生
命力(オーラ)はすぐに全身に纏う研ぎ澄まされた“堅"の中に集約されていった。
「…何があったか知らないけどね」とでも言いたげに、それを見届けたヒソカは、今度
こそ朱の刺した唇の両端を引き上げると、こちらもお馴染みの禍々しいオーラを漲らせな
がら、いつもの笑みを浮かべ団長を見上げた。
>>175の続き
団長「上手いこと出来るもんだな」
ヒソカ「?」
張り詰めた緊張を解したのは、ふとした団長の問いかけだった。体に纏うオーラが随分
と柔らかく揺蕩っているのが窺える。痛みがもたらす‘束縛(=マイナス)'を克服したせいだろ
うか、こちらもやや緊張から脱したようだ。
行動から痛みの影響を切り離すといっても、砕かれた脊椎が修復、補強できる訳ではな
い。上体と下体を連動させる全ての体術は封殺されたまま、四肢体幹の堅持や敏捷性に頼
る攻防は不可能なはずだ。今は右胸の下に構えたスキルハンターに全てを賭け集中することで、
余計を排しているのだろう。
団長「その包帯のことさ…巻きついて、縛って、絞り出す、か」
ヒソカ「…」
この間際に団長は、ヒソカの太股から膝下までを覆うバンジーガムの“用いられ方"につい
て言及しているのだった。
>>176の続き
団長「その出血なら、さっきの筋弛緩剤、殆んど出し切っただろうな。」
団長は経験則からそう言いはしたが、生理学上の根拠があっての発言ではない。ナイフ
に伝わったヒソカの生体オーラから切り裂いた体組織の厚み、またその際No.156の刃先か
ら混じった毒が極少量であろう点からの推測だった。
実際ヒソカの左足が効かなくなったのは、毒素による組織の壊死の影響ではなく、実質、
筋繊維をナイフに切断されたことによる。ヒソカの左足がこの戦闘中に回復する見込みは
通常、ない。ヒソカの接近を許すというミスを犯しながらも、痛み分け─それも体術の要
を損わせたのだから、団長にしてみれば御の字と言えた。
落ち着いた口調で、興味の儘に団長は、尚も戦闘を中断し続ける。
>>177の続き
団長「随分と手馴れていたように見えたが、前にも包帯代わりに使ったことがあるのか?」
ヒソカには、その質問の内容が、というより、今この場で会話すること自体がそもそも適
当か─? と、感じる奇異な印象を拭い切れぬ内に、返事をすることに逡巡があったのだ
が…
ヒソカ「…さて、それはどうだろう?」
もともと戦闘中の駄話に巻き込む側であることが常のヒソカのこと、自分だけ無視を極
め込む訳にもいかなかった。何より今回ヒソカ自身が、自分から振った話に団長を付き合
わせたあげく結果、彼の背骨を叩き割っている。
団長「その包帯はいつまでもそこに巻き付いたままなのか? それとも体のオーラを供給
して維持しているのか?」
ヒソカにふと過ったのは、違和感─
一度具現化した具象が体に触れている限り、その存在を維持するエネルギーを、体のオー
ラからオートで消費し続けるのは、大原則のはずだった。
>>178の続き
むしろその例外である方が、使い勝手の悪い、二段三段の制約があることを意味している。
団長はヒソカのバンジーガムが高次元具象(=ハイ・プラクシス)ではなく、“よくできた使い易い"能
力であることを充分理解っているはずだが─?
しかし、まるで取って付けたような質問の出所である、団長の好奇心の旺盛なるは、ヒ
ソカも知る所だった。
ヒソカ「教えない 盗んでみれば或いは 分かるか も」
ヒソカにしてみれば当たり前の茶目っ気と天邪鬼だったが、返答はいきなり核心を突いて
いた。
団長は、嘘をつけない─“つかない"のではなく。
嘘が下手、というよりも、団長が団長として生きていく上で嘘をつく必要など無いし、
第一、自分には似付かわしくないことをよく知っていた。善行を為すにも悪事を働くにも、
実直、誠実を旨とする、そんな幻影旅団、その頭目を務めるにあたり公明正大は必然であ
り、その遍ねきは彼の拠って立つ処だった。
そうでなくとも生来彼は他者に対し、(是々非々とはいえ)誠実な男である。
>>179の続き
彼ら旅団の為すことがその被害者と管理する側にとって“甚だ堪らない"ことは事実だが、
基本彼ら一人ひとりは小賢しい詐欺師などではなかった。只々自身の欲望に素直に過ぎ、
実践するに強引なだけだ─唯一人、脱退したヒソカを除いては。
団長は、正直に、下手な“嘘"を真実で取り繕うことにした。
団長「その包帯がお前が気を失っても貼り付いたままならそれでいい。もしお前が勝った
ら、俺が死ぬ前にちゃんと聞き出してくれ。つまり…」
ヒソカ「?」
団長「さっきのナイフの筋弛緩剤、解毒薬は、俺が持ってる」
ヒソカ「…」
─怪訝、より一層の。
毒を用いる者の定石、必用携行品。それは分かる。しかし─?
団長「お前が勝てば、手に入る。勝負に勝っても毒で死んだら、嫌だろ? 信じる信じな
いはお前の自由だが、とにかく解毒薬はある。運が良ければ、ナイフの毒を中和して死な
ないだけの体力は残るだろう」
>>180の続き
ヒソカは思う、団長の言う意味は─
さっきの傷の治療、応急措置への賛辞は出鱈目だったというのか? それ程に強い毒性
? 遅効性? ありうる。
やはり足元に刺して残した毒ナイフの副次利用を印象づける為?
よもやの命乞い、その取り引きの為の布石か?
不自由な二択(─解毒薬といいながら実は毒薬そのもの)?
それとも、あの怪我を負いながら猶、自分の勝利を疑わず、こちらが敗れて命を惜しみ、
解毒薬を欲する状況─だと?
ヒソカ「…それはどうも ありがとう」
>>181の続き
むしろ解毒薬が必要になるのは、団長、あなたの方ではないか?
ヒソカは団長の口元を見たまま、周辺視野で地面に刺さったままのナイフを窺った。器
物が本性で湛えるオーラと、生者たる団長のもたらすオーラ(=この場合、残留思念)は、
文字通り生命力、勢いが違う。確かに団長の手中に在ったという残滓は有るようだが、そ
の程度のオーラ量では自動であれ手動であれ、操作を念じられる筈はない。やはり再び触
れて念じ直さない限りは、念の仕掛けはないとみるべきだった。
手品のワイヤーワークのような原始的絡繰でも仕込んでいない限り、ひとりでに動き出
したりはしない。
>>182の続き
ヒソカはこれ以上団長との会話に付き合うのも、それにより去来する言い様のない不快
感に付き合うのも、止めることにした。
─僕が今、この場であなたを殺す。それだ
けだ。
その後のことは─その後考える、それでいい。
毒の影響? ─死?
自分にとって価値あることは、戦うことを選ぶこと、勝利すること、価値あるものを壊
すこと─
自分が生き残るのは真剣勝負の上等な結果であって、そうでない結末も当然、ある─
>>183の続き
優美に、鮮やかにヒソカは、その左手に何枚かのカードを扇状に開いて出現させた。団
長の凝でも出所を捉えられず、しかもオーラの流れも別段無いところを見るに、所謂純粋
な手品でもって取り出したのか。この距離で正面の観客に気取らせない─のはプロとして
当然だが─のだから、目を欺いたのは“速さ"ではなかった。角度を計算し、取り出す瞬
間まで視界に入れないパーム(=掌に隠す技法)を駆使したのだろう。
ヒソカ「お礼に手品を御目に掛けよう」
そう言いながらヒソカは、カードの全てを左手から右手に滑らかに持ち換えて、再び扇
形に広げて見せる。
団長「いや、ちょっと待ってくれ」
ヒソカ「?」
団長「それは後で必ず見るから。約束する。…聞きたいことがあるんだ」
舞台の上のヒソカの笑顔は、変わらなかった。
ヒソカ「もういいよ、“クロロ"。君、死んじゃいなよ」
大事なものがあっという間に、塵芥(ごみ)に変わる。
>>184の続き
バンジーガムは、感情の昂りがその大小強弱に影響を及ぼす類いの発ではない。しかしそ
のゴム、ガム“らしさ"の精度、発動の可不可については別の話だ。団長の煩わしい挑発
に─それは彼にしてみれば生真面目さの裏返しに他ならなかったのだが─苛立っていたヒ
ソカが、その直後の複雑な仕込みを一つとして仕挫(しくじ)らなかったのは、精密繊細な
手業を常とする奇術師の面目躍如と言えるだろう。
右手に渡ったカードはそこで主役を勤めるかと思いきや、勢いよく返した手首により、
胡座に下ろした右膝の先の地面へと丁寧に散ら蒔かれた。その数は10枚、全て裏側は地面
にガム状に接着し、表側はヒソカの指先から伸びたバンジーガムに繋がっていた。
それらが全て目眩まし、実弾は左手の四指の陰にパームして残したままの三枚─の内、
二枚のカードだった。
>>185の続き
ヒソカは─鋭く返す手首で、隠した左手のカードを翻すと、‘でこピン'よろしく四指を
弾き、人差し指と中指の間の一枚(=最も団長側のカード)だけをバンジーガムで指先にくっ付
けたまま‘目障り'として残し、その陰から後ろの二枚を、左上方、団長の視界の右から外
れる程に勢いよく飛ばしつつ─その左腕を上体ごと背面上方にスイングし、僅かな揚力を
作り腰を浮かすと、右足全体を発条(バネ)の如く力強く弾き、立ち上がり様足底のオーラを
バーストさせ、大きく後方へ跳んだ。
それと同時に仕掛けたバンジーガムは、左右の手足を合わせ5つ以上。
>>186の続き
左手の四指を弾いて飛ばした二枚のカードは、引き連れるバンジーガムの“尾"から与えら
れる推進力で、回転しながら誘導されていく。それと分かるように上下にずらした、上の
一枚は団長の右顔面を、下の一枚は右手の盗賊の極意を目がけ弧を描いていた。
激しい上体と左腕のスイングに僅かに遅れてヒソカは、その体の捻りを‘打ち消す反動'
を作るように、右腕を下方へと突き伸ばす。するとそのまま手の平で大きく─些かヒロイ
ックに、美しく─団長に向けて大きな円を、時計回りに描いて見せた。その右手の指先の
バンジーガムの糸群につながったままの、撒き散らした10枚のカードが目障りにも地面を引
き摺られ、程よく散ける。
跳び退さるヒソカの右手はさらに、肩を中心に二周目三周目の大円を描くが、地面のカー
ド達は貼り付いたまま、僅かに身動ぎする程度。
>>187の続き
ヒソカの狙いは、地上の出来事を囮にしつつ、あたかも長縄跳びの持ち手のように、同
じく右手から供給したオーラで体積を増やしてぐんと伸ばした、団長のコートの背面にく
っ着いたままのバンジーガムのロープを利用し、団長の頭上から螺旋状に降り注ぎ、彼の体を
捕縛することだった。
後方に跳ぶ際に右足からバーストした大量のオーラの残滓は、薄くまばらなバンジーガム
の─未だ‘膜'たり得ず─‘もや'に化けて、ヒソカの右足底と、発った地面の間に渡り、
丁度、ビルの壁を弾みながら降りる消防士の「命綱」のように、役目を変えようとしていた
(─ヒソカは「殴る」、「跳ぶ」などに使った後のオーラの何割かを、瞬時にバンジーガムに変
化させて再利用することができる─)。
>>188の続き
ヒソカ「ッしゅふッ!!」
その右足の着地寸前、地上と、宙を舞うバンジーガムの賑わいを貫き、ヒソカは鋭い呼気と
共に、傷めた左足を小さく亜音速で振り抜いた。
サポーターに守られた無傷の大腿四頭筋を激しく使役し、その爪先から蹴り出したバンジ
ーガムの鞭は、まっしぐらに地面に刺さったままの毒ナイフに肉迫する。
ヒソカ「?」
ヒソカは最初に、左手の中指の先、団長の顔面目がけて旋回するカード、続いてその下
の薬指の先、団長の胸の前に構えた盗賊の極意目がけ進むカードが、順に、何故だか「行方
不明」になったような気がした。
そうして─
ヒソカ「!?」
直後そのまま右足一本で着地した途端、右手の先の螺旋状に舞うロープが、団長の背中
の‘支え'を失い、コートからすっぽ抜けるのを感じた。
>>189の続き
─団長の、凝を凝らし光る目は、月明かりを背に爛々と浮かび上がり、対照的に、体を
守るオーラは、薄く堅い。
ヒソカはふと、いつのまにか団長が左腕を背に回し、隠したままにしていることに気付
いた─
ヒソカ「?─手でバンジーガムを剥がし…
─!!」
続いてヒソカは、左足爪先から蹴り出した、地を這うバンジーガムの鞭が、団長の右方直下、
毒ナイフを目前にして突如現れたトンネルに─見えはしない。が、ヒソカには、トンネルの
入口のように感じられた─吸い込まれ、団長の背後、丁度彼の身長程に離れた対角線上左後
方の地面に、いきなり現れ、途切れた平行線を描いたのを見て、もう一つの事態を悟った。
ヒソカ「─異空間能力…!!」
と、ほぼ同時に、左手指先からのカード二枚も、件の鞭の上、やや右側に外れた空点にその
存在を確認することができた。
>>190の続き
勢いをスルーされ、所在無さげなバンジーガムは、それでも気を持ち直して存在を維持し、
ゆっくりとカード達を地面に降ろしてゆく。
それに合わせるように、カードがくぐった謎のトンネルの入口、出口も共に、下降する
バンジーガムをその異空間に通したまま─ヒソカは、トンネルの前後を通じて、バンジーガムの
質量が全てこの場に在ることを確認する─突っ立った団長の体を斜めに挟み、静かに下に
向かうようだ。
が、団長の左後方の二つの出口は地面まで下りたが、右前方の二つの入口は、団長の目線
より下、程よい空点で、上、下と留まって固定された。
ヒソカは中指と薬指の先に、見えない空中のトンネルの入口が在り、そこにバンジーガムを
凭(もた)れかけたまま、ほったらかす感覚を得た。
すぐさまヒソカは、いくつかの仮説の検証の為に、次の手に取り掛かる。
>>191の続き
着地した右足から伸びる、今は細く縮んで纏まったバンジーガムの命綱を、4メートル先の
出発地点から剥がして幾本かにほぐすと、団長に向けゆらりと鎌首をもたげさせる。
ヒソカ「ふっ!!」
地上の細い蛇の群れを囮にして、本命は鋭く突いた右拳の先、団長の背中から不可解な
離脱を余儀なくされていた、生きの良い太いロープでの、広角からの強襲だった。
その先端部は果たして、新しく出現したトンネルの入口に吸い込まれ、団長の対角線上、
右後方へ突き抜けてしまう。が、ほぼ同時に、ロープの「太さ」が可能にする力強さが、二
の矢を放った。
>>192の続き
─ヒソカの読み通りの任意の空点、団長の視界に被らない左上方で、団長はトンネルの
入口を発現し、ロープの先端を呑み込んだ。
その入口の直前、走るロープの中途の一箇所を目がけ、ヒソカの右拳から線分が走り、
バンジーガムを団長の目に映る表側と、その反対の裏側部分に、秘密裡に分離する。
トンネルを突き抜けたロープの先端部分は、そのまま団長の右後方地面に、びったりと
貼り付いている─
─ヒソカはこの時の感覚ではっきりと、なぜ団長の背中からバンジーガムが離脱したのか
を理解できた。やはり、バンジーガム自体を剥がされた訳ではなかった。団長はバンジーガムの
貼り付いたコートの一部分だけを、あの刹那に切り離していたのだ。─どうやって?
そのコートの切れはしを貼り付けたままのロープの先端部分は、その分広く変形して、
余計な接地粘着を強いられていた─
やや高く右上に吊り上げたヒソカの右拳から、団長の死角にいるバンジーガムの分離部分
が、弾けると同時に縮動した。
>>193の続き
─ブチン!
と、実際に聞こえる程には音はしなかったが、やはりバンジーガムの“触鞭"は、ヒソカが
操作して振り回すよりも、そのゴム性に弾かれた方が段違いにスピードが早い。
団長「─!! “二本目の右手"…」
ヒソカ「!! ─キャッチャーミットか!? …よ」
─団長の読み通り、ヒソカの右拳から、呑み込んでいるロープに沿って走る分離部分、
“二本目の右手"(=組手で、連続攻撃の初級概念。例えば、右拳のストレートを相手にわ
ざと対処させた所に、さらにその右側からの右回し蹴りを見舞う等の、欺きの類─)は、
その分岐点にて新たに念じられる、次の攻撃行動に及ぼうとする寸前に、素早く広がって
迫ったトンネルの入口によって─ヒソカの読み通り─すっぽりと吸い込まれ、団長の後方
の出口の先の、地面に激しく激突し─弾んだ。
ヒソカ「♪」
このタイミングでのライナーノーツはまったく予定にありませんでしたが…
今ならまだ間に合うので、もしこのマンガウソ脚本小説(?)の稀有な読者がいらっしゃ
いましたら、以下も合わせておたのしみください。
「始めびっくりして、その後なんか急に萎えた話」
筆者はかねてから、増田こうすけ氏の作品の大ファンで、ハンター休載中のジャンプな
んざ買いやしないところ、今週のNo.31をたまたまコンビニで手に取り小躍りして喜びま
した。表紙の直ぐ後にある付録の中に掲載されている、ギャグマンガ日和「グリムブラザー
ズ」がその理由です。コミックスに載るまで読まない、という選択肢もありましたが(普段
SQは無視している)、これも運命でしょうか、「ライト兄弟」と似た感興を期待して(彼らを
題材にした作品もある)ついつい読み進んでしまいました。
びっくりしました。 今僕がこのスレに書き込んでいるヒソカVS団長の展開にあまりに
そっくりだったからです(…今後も含めて…)。 筆者は氏のこれまでの作品を通して、幾
度となく変なエクスタシーに達してきました。
(…すみませんが、続きます。続きますよ…)
>>195のライナーノーツの続き(勿論本編とは無関係です)
エクスタシーが過ぎて、「こうすけ、抱いてやる!!」 いや違った、「こうすけ、抱いてください!!」
と切に思っていました。 しかし…、今回の衝撃は段違い、正に驚天動地です。 脳内の妄想
ではなく、曲がり形にも脳外に取り出して具現化した「作品」(本当にすみません…)が相似
しているとは…。 (複雑骨折、繊維、ゴム、口論、そして戦闘の展開etc…)
今までにも散々っぱら思ってきたことですが(主に性的な意味で)、今回ほど、氏に対して
「…お前は俺か!!!!」の感を強くしたことはありません。
そして同時に、当たり前のことですが…打ちのめされました。氏の作品の完成度の高さに。
当時のドイツのマニュファクチュア考証、タトゥーに込められた愛の描き方、人は何故に命をかけて戦う
というの♪ …なんか…萎えた(笑)。
(携帯からなので、字数制限があります。) もうちっとだけ続くんじゃ。
>>196のライナーノーツの続き(3/3)
今にして思えば、氏は、作中のキャラに、スラムダンクの続き描きたい、とか言わせつつ、一方では
妙ちきりんなキルアの戦闘を夢に見るほど、ハンターの続きを心待ちにしているとも、告白してい
たのです。 (…描きたかったんでしょうね、自分で。)
今回のハンター・ショック(略してハショック)は、氏を愛する筆者との間に生じたシンクロニシティだと勝手に
思うことにしました。
筆者の拙い携帯小説はまだ続く予定ですが、ペースは落ちることでしょう。 まあ、暇潰し
です。 気長にお付き合いくださいますよう。
─よしひろ拝
P・S 感想、批判とか求めてません。そっとしていて♪ 文芸以外のカキコは控えましょう。
>>194の続き
トンネルの向こう側、団長にとっては完全に死角の後方の地面で激しくバウンドした鞭
の先端は、弾性の高いゴムボールそのままの勢いで、団長の頭上、身長に倍する高さにまで
跳ね上がると、広角に折り返してカーブを描き、団長の頭頂部目がけ伸び続ける。
ヒソカ「…!!」
やはり、と言うべきか─鞭の先端は、団長の頭部を捕らえる寸前に、後方の、縦方向に
大きく拡長したトンネルの‘出口'に音もなく吸い込まれ、そのまま入口を通過してヒソカ
の右手から伸びる元のロープに激しくぶつかり、粘着した(団長の頭部を襲う直前に、組成
をガム質に切り替えている)。そしてその勢いは、ひとしきりロープを弾ませた後、波が
消えるように吸収されて、消失した。
>>198の続き
ヒソカ「…ギャフン」
ヒソカは口に出してそう言い、唇の左端を歪ませる。
ヒソカ「…瞬間移動…それも、“継気(ツナギ)"か」
ある種の懐かしさからか─ヒソカの目は細く笑っていた。
団長「!!…」
何気ないヒソカの言葉に、団長の目の色は明らかに変わった。
─ばひゅっ!!
間隙を縫い、空を切るけたたましい擦過音を鳴らして、ヒソカは最も太いバンジーガムの
ロープを、素直に回収した。そうして、貼り付いたままだった団長のコートの切れはしを、
注意深く、手先の小さな“円(周)"により調べた後─手に取った。
ヒソカ「!!…」
>>199の続き
ヒソカの両の眉が一瞬跳ね上がり、その細い目を大きくしたのは、試しに左足の爪先を
接地してみたところ、思いの外、腓(コムラ)に走る痛みが激しかったからで、この場合はまず、
踵から足裏全体をつき、傷んだヒラメ筋を弛めるのが正しかった。
ヒソカ「(…ギャフン…)」
爪先を僅かに地面に付き、今度は口に出すことなく、ヒソカは思った。知らず、脂汗が
鬢(ビン)髪に滲む。
ヒソカのバンジーガムのロープが出戻った後の、目には見えないトンネルは、出口、次いで
入口と順に、音もなく消失した。
ふと、団長が口を開いた。
団長「お前の口から、その言葉を聞くとは─」
団長は、久しく聞くことのなかった言葉を、内心で反芻していた。
>>200の続き
継気(ツナギ、或いは‘継霊気ツナギ'とも)─異空間を伴うことなく、三次元上のある二ヶ所
が、純粋に直結する現象。
古来、(一時的に)自然発生することもままあり、それは、異世界への扉、黄泉への洞穴
などと、忌むべきものとされてきた(─帰ってくるものが稀であり、その‘法則性'を掴め
るものは、さらに少なかった為─)。やがて望んでそれを手に入れ、自在に使う人々も表
れる。その人外の力は、ある民間信仰では「神足通」と名を残している。
しかし、とりわけ団長の興味は、正体を見破ったヒソカの分析力ではなく、その‘言葉
自体'─近年顧みられることの少なくなった、レアでコアな、ヒソカの知識にこそあった。
>>201の続き
ハンター協会‘御推奨'の、歴史の浅い拳法流派の勃興のせいで─それは確かに、戦う力
のインスタントな底上げには、拳法だけに有効であり、それが為に、劣悪な亜流、巷間コウカン所
謂イワユル「心源流崩れ」が、市井シセイの凡夫ボンブにまで広まってしまったのであるが─アマチ
ュアは勿論の事、近年では、専門に扱う「(念使いの)研究者」も少なくなり、歴史に埋もれ
てしまった嫌いのある、未知・未開の「先史(古代)念現象(…隠語で、アンティーク或いは、
オールドファッションド)」。
今では専ら、団長のような物好きが、古い文献やフィールドワークで調べる程度の、土
俗信仰や神話に残る、所謂「超常現象」─中でもその、ほんの一部がそれに該当する。
─実際の研究(ハント)では、気象や地勢など、自然現象の影響を注意深く取り除きながら、
人や獣、植物など、生きて命あるものの、“望み"─生物の多くは、遺伝子に刻み込まれた固
有の“精神文明"を持つ─の痕跡を、根気強く辿り検証する必要がある─
─継気(ツナギ)とは、今で言う「放出系」の一現象をさし、ある限られた地域でのみ言い習わ
される言葉だった。
>>202の続き
ヒソカ「─念は奥が深い。ただ、クロロ、君も賛成してくれると思うんだけど…」
団長「?」
ヒソカ「念はあくまで手段…、目的じゃない 君ほどの使い手であっても、一人で念を
追求するより、司々(ツカサツカサ)の仲間を持った方が、なんぼも役に立つ」
団長「…(なんぼって…司々ってお前…)
同感だ」
団長は、ヒソカの意外な言葉の選択に反応したい所を理性で抑えつつ、表情を変えずに
即答した。
それにしても、ヒソカのこの際の提言は、団長に対して無作法に過ぎるのではないか。
初めに蜘蛛ありき─主義、嗜好の違う同士が集い、敢えて達成困難な目標に向かい、為に
仲間を重んじ役割を分担する。まさにその、幻影旅団結成を為し遂げた人物に対して、何
をか言わんやである。ヒソカの発言はいみじくも、団長の人生そのものと言えた。
─ヒソカは構わず続ける。
>>203の続き
ヒソカ「古い玩具オモチャの使い方に汲々キュウキュウとするよりも、心の向かう所に従い、そのう
ねりのままに進むことこそ、人生の醍醐味じゃないか?」
団長「(…汲々キュウキュウって) …つまり(?)」
─ヒソカは、団長の無表情のせいで、彼が発言のまとめの件クダリを後に続けると思い込
み、しばらく黙ってしまった。が、その一言が只の相槌でしかなく、逆にこちらの了見を
こそ、さらに促されていると気付き、慌てて言葉を繋いだ。
ヒソカ「…つまり、先史以来の…“依位(ヨリイ)"になんか頼っていないで…、もっとダイレ
クトに今を楽しむべきだと言いたいのさ 例えば…」
ヒソカの笑みは、力みなく柔らかい。
ヒソカ「その背中…、左手のナイフを使ってね」
>>204の続き
“円"は、死角なき視界であり、「職人」ヒソカにとっては─微細な触角(触覚)でもあっ
た。ヒソカはオーラで包んだ団長の、コートの切れはしの切断面が、極端に鋭利な刃物に
よるものだと気付いていた。
コートそのものは、丈夫な軍用などではないが、切れはしは丁度、逆十字のデザインの
アプリケに当たる位置だ。裁ち鋏でもなければこうはいかない。そして、裁たれた絹の糸群
には─両サイドからの圧力を受けた形跡がなかった。一刃にて、一方から順に削がれている。
─バンジーガムの粘着性能は、貼り付ける素材表面の材質に左右される。‘もの'が良けれ
ば、‘練り'の精度を落としても支障はないし、悪ければそこに腐心する。
>>205の続き
例えば、幸いにしてこのグラウンドの表面(サーフィス)は、とりあえず上等に固めてあると
言えた。団長の思惑に付き合い、壁も柱もない平地での戦いを無言の内に受け入れたもの
の、この‘土'なら、ガムの面積を増やし浸透度を高めれば(より液化すれば)、バンジーガムの
起点として使うことが可能だった。無論、舗装された路面には及ぶべくもないが、まった
く貼り付かないよりははるかにましである。
しかし、そもそもヒソカが‘もの'の表面に拘コダワるのは、バンジーガムの粘着の良し悪し
をあらかじめ知る為だけではない。
ものの見た目とは、詰まる所、可視光線の‘具合'である。複数の視座を持つ観客達を
一度に騙してしまう“薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)"の「表現」一つ一つは、微妙な光の反射
にこそ気を使い、完成を見るのだ。例えばこの黒いビロードのように、外光により著しく
反射を変える素材は、ヒソカにとってはむしろ、その理解、認識は、十八番の部類に入る
と言えた。
>>206の続き
─実のところヒソカには、切断面に僅かに残る、ナイフの薬液すらも把握できていたの
だ(─液体は更に光の反射条件を複雑にする為、より繊細に研究している)。
団長「…御名答。次に近付く時は、気をつけろよ」
相変わらずの無表情で、口ではそう言いつつも、団長は、静かに左腕を体側に下ろし、
開手した左手を翻し、中を検アラタめて見せた─そこに暗器はない。
聞こえるようにヒソカは応える。
ヒソカ「ギャフン (…バレバレなんだけど…)」
この期に及んで武装を強化しようとしない団長に、苛立ちを覚えもしたが─
ヒソカ「…(クロロのペースに乗るのは、得策じゃないな)…」
戦闘の展開、思惑は人それぞれ。思えば、団長は先刻、右手のナイフを棄ててもいる。左手
をフリーにしている方が、有利な理由も、何かあるのかもしらん─
>>207の続き
実際には、団長は地面のNo.156を囮にして、「左手で抜き取る用」のベンズ・ナイフ、No.172
を使い、この際の最優先事項、コートの切断を為し遂げバンジーガムを切り離した後、ヒソカの
長台詞のタイミングを待って、再び背面右側のホルスターに装着し直し、しまっていた。
ヒソカが唯一気付かなかったのは、コートの切断は、No.156とNo.172、二つのナイフの
時間差による、二段階の作業だった点だ。
先刻、右手のナイフ、No.156でヒソカに尻餅をつかせ、自分だけは奇跡的に両の足で立ち
仰せた際に、吐き気を催すほどの背中の痛みに耐えながら、団長は、その後の戦局を冷静
に分析していた。
>>207の続き
実際には、団長は地面のNo.156を囮にして、「左手で抜き取る用」のベンズ・ナイフ、No.172
を使い、この際の最優先事項、コートの切断を為し遂げバンジーガムを切り離した後、ヒソカの
長台詞のタイミングを待って、再び背面右側のホルスターに装着し直し、しまっていた。
ヒソカが唯一気付かなかったのは、コートの切断は、No.156とNo.172、二つのナイフの
時間差による、二段階の作業だった点だ。
先刻、右手のナイフ、No.156でヒソカに尻餅をつかせ、自分だけは奇跡的に両の足で立ち
仰せた際に、吐き気を催すほどの背中の痛みに耐えながら、団長は、その後の戦局を冷静
に分析していた。
>>208の続き(…
>>209はミス、重複)
土壇場の胆力とは、すなわち、諦アキラめの潔さに他ならない。
団長は、後ろを取られて、バンジーガムを貼り付けられた圧倒的に不利な状況に身を委ユダ
ねたまま、ヒソカに有利を与え続けることを選択した。すなわち、背面のバンジーガムは、とり
あえずそのままにしておくこと─先ほど体を引き寄せた、強力な張力がいつでも発揮でき
ると思わせておけば、加えて背骨に与えたダメージもある、ヒソカも勝利を焦アセることは
ないのではないか─
背後のヒソカが、極端に重心を下げて体のどこかを庇カバっているのは、殺気のベクト
ルで解る(普通ならヒソカの方が10pほど身長が高い)。仮に、ヒソカが勝機を今と限り、
すぐさまバンジーガムを利した‘組み打ち(=この場合、反則なしの接近戦)'に引きずり込もう
とすれば、右手のNo.156とその解毒薬の存在を教えてやる暇はない─諦めたのは、ヒソカ
の命の保証の方だ。
>>210の続き
果たしてヒソカは、「怪訝」とでも言うべきオーラを団長に向けたまま、左足のダメージ
の正体を知ることを優先しているようだ。
その機に乗じて団長は、背後のヒソカに気を配りつつ歩を進め、その場で、というよりは
背後のヒソカにやや近付く形で左に周り、背中の逆十字をヒソカの死角にした。
背中のバンジーガムのロープは、都合よくその逆十字から真っ直ぐ下にぶら下がっている。
ヒソカにしてみれば、この距離でこの太さ、操るに太過ぎず変化を念じるに多過ぎない、
まさか剥がされでもしない限り、どうとでも支配できる局面である。焦りはない。
そこにつけ入り団長は、コートの内側から難無く右手のNo.156で(─“周"による刃のコ
ーティングは、団長のオーラの通うコートの布地を、切る、切らないの選択も可能─)、逆十
字の左側に、左手を忍ばす用のスリットを縦に切り裂いた。後はいつでも左手で、コート
の中のNo.172を秘密裡に取り出せるし、右手の物騒なNo.156も用済みになった。
>>211の続き
本来「右手で抜き取る用」は、持ち換えるか、使用後すぐにしまう。当然のことながら、
団長にとっても、猛毒のベンズ・ナイフを持ったままの戦闘は、ヒソカが相手とあっては
危なっかしくてしょうがないのだ。
いずれにしろ、取り出す際に空中で(逆さ装填の)ホルスターの止め金具(スナップ)を親指で
破壊しているせいで、しまい直せはしなかったNo.156だが、故に、右手をフリーにするつい
でに、ヒソカのバンジーガムの圏内に敢えて曝すことで、次の局面への起爆剤にと利用した。
危なっかしくてしょうがない─団長の体と、直近の地面のナイフ。
ヒソカの上手次第では、「奪われたナイフ」は、団長の“凝"や“円"での見切りを損なっ
た時、自らの死を呼び込む悪手となり兼ねなかった。
団長は今にして思う─よもや傷めた左足の振り抜きで、真っ向から「速さ」でもってナイ
フを狙ってくるとは─
>>212の続き
団長が当初ヒソカに期待していたのは、謂わば小細工─奇術を駆使して団長の目を欺き、
死角からバンジーガムでナイフを奪ってくれることだった。
仮にそうであれば、ナイフを取られた後の処理にさえ、集中すればよかったのだ。
最悪、ヒソカの操るバンジーガムは見えずとも、自分のオーラの染みたナイフの形は、はっ
きりと分かる。
目前に座したヒソカと向かい合い、脊椎を砕かれるハンディキャップを負った団長が、
当座の緊張(テンション)と気勢で“円"を広げた場合、その範囲は半径2.5m。いざ右下のナイフ
をバンジーガムで抜き取られたら、右手の極意書を円の中心に移行してやや右側に広げるつも
りで、そうすればより広範囲に、4.5mまでは計算できる予定だ。
>>213の続き
その円の中であれば、ヒソカの体ごとオーラで把握できる。バンジーガムが(恐らく高速で
)中継するナイフの動きも判るだろう。そして、判るのはたったの一瞬でよかった─ナイ
フの向かう方向を一瞬でも正確に把握できれば、継気ツナギ─空間を統スべる能力─“約束
された場所で(ポスト・アンダーグラウンド)"によって支配(コントロール)し、ヒソカの体に‘後ろから'
突き刺してやる─それが本来の団長の計画(プラン)だった。
その計画を狂わせたのは、一重にヒソカの正攻法─待ち構えていた肝心の一手の間際に、
団長に過ヨギったのは純粋な防衛本能、反射的な危機の回避だった。
当たり前の話だが、ヒソカの策略の中に最初からナイフがあった訳ではない。それはあ
くまでこちらの都合で盤上に打った布石に過ぎないのだ。
たとえ真っ直ぐナイフに向かっているとはいえ、本当にナイフが狙いなのか? そうと
見せかけての、体への直撃─それを忌避させる程のスピードと慣性質量。団長は鞭の先に
例のカードを認めた訳ではない。しかし、隠す騙すはこの男の十八番なのだ─
>>214の続き
団長は思わず反射的に、先の空中の二枚のカードに施したのと同様に、“神の子供達は
みな踊る(ネクスト・アンダーグラウンド)"の出口を左後ろに用意(イメージ)し、ナイフの目前に発現した
トンネルの入口で呑み込んでしまったのだった。
“約束された場所で(ポスト・アンダーグラウンド)"及び“神の子供達はみな踊る(ネクスト・アンダーグラ
ウンド)"は、認識しうる任意の移動中の目標に対し、同じく認識しうる三次元上の任意の二
点、「入口」と「出口」を同時に正確に用意(イメージ)できる場合に限り、その移動の後先を自由
に設定する能力である。
シズクの操る“デメちゃん"とは違い、標的を吸い込む力は作れないし、また同様に、
“不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)"のように、「具現化した異空間」に標的を、とりあ
えずに留め置くこともできない。
あくまで純粋な「(空間を繋ぐ式の)瞬間移動」の能力だ。
>>215の続き
団長がこの能力を奪った相手は、線路上を走る列車の先頭車両の先端を、その車両自体
の左側面に直角に衝突させるような、愉快犯だった。
世事に怒ることなどめったにないと自分でも思っていた団長だったが、このテロルには、
ある種の不愉快を感じていた─無論、「義憤」などと言える立場ではなかったのだが。
物理的に、単純には説明のつかない奇妙な脱線事故は、しばらくメディアを賑わせたが、
どこにでも説得力のある合理主義者はいるものである。大掛かりなテロルなどではなく(
何しろ‘仕掛け'につながる具体的な物証は、何一つ出てこない)、線路上に何らかの異常
を見て取った運転士が、急遽操作したブレーキ、それが不具合を起こし、先頭車両だけを
止めてしまえば、このような事故も考えうるのだ、と。
巻き込まれた線路も大破していることから、とりあえずの現場検証は早々に終了し、復
旧作業が開始された。
>>216の続き
しかし、鉄道事故の専門家には解らずとも、念を修めた武闘家であれば解ることもある。
これは所謂「一人百歩神拳(神拳の裏)」だ。
百歩神拳─「遠当て」の一つで、厳密に区別する場合は、「念弾」の放出や、“龍頭戯画・牙
突(ドラゴンランス)"のような「オーラの手腕」を体から放って相手にぶつける技(「念動」)を除外
し、術者の拳足ケンソクや武器を瞬間移動させて(空間を隔てて)、相手を狙う技の通称だ。
「神足通シンソクツウ(…通常は、行ったことがある=行き先をイメージできる所にのみ移動が
可能)」が使えるレベルの放出系能力者が、余技として修めることの多い能力である。
「百歩」とは、隔てる空間の大きさをイメージする表現であり、もちろん状況に応じ増減
し、何より術者の継気ツナギの種(クセ)やレベルに左右される。
>>217の続き
大昔に、遠当てを夢想した拳法家が偶々、「百歩」という、いささか大袈裟な距離の表現
を好む民族であり、その呼称が(陰で)定着しているだけだ。
しかしながら、せっかく修めた「遠当て」、百歩神拳であっても、それだけを決定打に持
てば済む程、この世界(クラス)での実戦(ハント)は甘くはない。
まず、複数人で一人の標的を狙うならともかく、放出系一人のみで対峙するには、動く
相手に対し効果的な「攻撃用の出口」が用意し辛いこと。また、継気ツナギとはよく言った
もので─殺気まで一瞬先に伝わってしまい、相手の防御(最低でも“堅"の状態で喰らう)が
間に合ってしまう為に、大袈裟な用意・消耗の割には、致命傷を与え辛いこともある。
以上の短所は、裏を返せば最大の長所に他ならない。ハンターの得意は、何より、「待ち
伏せて罠に嵌める」であるにこしたことはない。要は、チームプレイで、強力な加撃や、
(狙う一人を孤立させるべく別の地点に誘って後、空間を閉じてしまう─)対決そのものを
別のメンバーに任せてしまい、術者はアシストに徹っし、隔たった二点の空間を繋げるこ
とに集中してしまえばよい訳だ。
>>218の続き
付け加えて、攻撃力が低いことをカバーできれば、やはり、一人前での戦術の幅が膨ら
むことも有利な点と言えよう。
例えば相手の足にこちらの手足を一瞬だけ引っ掛けて、バランスを失わせる地味な応用
(「失脚」)や、意外にも接近戦で命中率の高い、(首から上を狙うと見せかけての)中段突き
が使い所である。
さておき、“神拳の裏"こと、「一人百歩神拳」とは如何なる技か? と言えば─相手の
攻撃の拳や武器の向かう先を、その相手の急所の直前にそのまま(空間を)繋げてしまう技
なのだが…この場合、自分が何処へ行きたいか? ではなく、其処ソコへ行くにはどんな道
筋(ルート)があるか? という、空間に対する、より客観的な興味が優先する場合に、発現し
易い能力のようだ。極端な場合、自分の体の瞬間移動は不可能な術者もいる。
>>219の続き
新聞の一面を飾った航空写真には、連結部から物の見事に切断されてふっとんだ一両目
が、何にぶつけたのかその潰れた先端部を曝し、何にぶつけられたのかその凹まされた左
側面を上にして写っていた。
複線軌道上に横たわるオレンジ色の大蛇の死骸は、不謹慎だが、絶景であることには間
違いなかった。
繰り返し報道されるそのシーンを見て、団長は二つ仮定し、そして、確信するに到る。
この事故は、継気ツナギを操る念使いの仕業であることと、その能力者は─自分と同じ、
この国の鉄道を嗜タシナむ者であることを。
>>220の続き
長い閑話に入ります(…だって、思いついちゃったから)。
(仮)「彼はその継気(ツナギ)を如何にして盗みしか」 団長・過去篇
携帯電話の着信音が鳴った。受信者である持ち主は、最も無機質な機械音を、発信者に対して設定しているようだ。
シャルナーク「はいはい♪ 久しぶり」
団長「…俺だ。今、話せるか?」
シャルナーク「大丈夫だよ」
団長「今一人か?」
シャルナーク「こちらに僕以外誰もいないか? って質問なら、答えはノーだね。今、愛しい人とデート中♪」
団長「すまない。すまないついでに、すぐ俺と合流してくれ」
シャルナーク「仕事ハント?」
団長「そうだ」
シャルナーク「アイ・アイ・サー♪ それで、どこへ行ったらいい?」
団長「…日本(イーベン)」
シャルナーク「イーベン!? ハポンか? ひょっとしてもう現地にいるの!? いい身分だねぇ…」
>>221の続き 団長・過去篇
団長「声がでかい。聞かれていい相手なんだろうな? いつ着く?」
シャルナーク「その点は問題ないよ」
“愛しい人”が誰なのかは判らないが、問題ないとシャルナークが答えるからには、それ以上の詮索は無用だ。いずれにせよ、電話のこちらの団長には手の施しようがない。
シャルナーク「…あそこだと、はじっこの港まで、船でセンターファ共和国経由か…(どっちの人間にも会いたくないなぁ…気に入らないんだよね、あそこの国民)。ん〜、遅くて15日の昼だな」
団長「早かったら?」
シャルナーク「…やけに急くね。13日の昼かな」
団長「了解。アレオ市の港で待つ」
シャルナーク「了解。アレオ市の港で合流っと」
メモの記入でもないのだろうが、シャルナークは団長の言葉を復唱してみせた。言い間違い・聞き間違いを避ける基本中の基本だ。
シャルナーク「…ところで、今回のメンバーはどうなるの? PH(ペーハー)コンビなら、別れてからまだそう経っていないから、捕まえて連れていけると思うんだけど」
PHコンビ─フィンクスとフェイタン(─正確には、フェイタンの方のイニシャルは「F」なのだが)。今回、この地で静かに盗みを働きたかった団長には、できれば避けておきたい二人だった。
>>222の続き 団長・過去篇
団長「いや、今回は何より急ぐ。時間が惜しい。ハンターライセンスを使って正規に入国してくれ。俺とお前、二人だけだ」
時間が惜しい─ことには嘘はないが、戦闘狂のフィンクスと、惨殺死体をほったらかしにすることが専らのフェイタンを、今回の作戦ミッションから外して置くのは必定だった。
どのみち、1対1(タイマン)に持ち込む算段さえ整えてしまえば、“この男”の右に出る者はいないのだ。戦力に過不足はない。
シャルナーク「…まっ、そうなるよね、ハポンともなると」
シャルナークの方は、団長の返答を真に受けたかのような解釈をしてみせた。なにしろ「入国」からしてややこしい地域なのだ。いつも通りの不法越境は通らない。
シャルナーク「分かった。身一つでいくよ。それじゃ現地で」
団長「頼む。詳しい事はいつも通り、会ってからになる」
シャルナーク「はーい。それじゃまた」
そう言うと、呼び出された方の男は素っ気なく電話を切った。“愛しい人”との逢瀬を邪魔されたにしては、男には一貫して憤慨する様子がない。それどころか、明らかに発信者からの急な呼び出しを喜んでいる。
※
>>223の文中、一カ所「シャルナークの方は」となってますが、
「男の方は」と読み替えて下さい。すみません。
↓
>>223の続き 団長・過去篇
シャルナーク「悪いけど、仕事の依頼が入っちゃった。すぐ出掛けなくちゃならないんだ」
言いながら男は、携帯電話の画面を見ながら、そのキーを親指で忙セワしなく叩き続けた。モニタを
後ろから飲み込むように大口を開けて目を見開き、小さな翼を左右に広げた「蝙蝠」をモチーフにした
「男の子向け」のマンガチックなデザインだ。色はメタリックホワイト。─それとも、天使に敵対する
悪魔のつもりなのか、白い「尻尾」まで生えている。
話し掛けられた方の女は、口を大きく開けて何か言いかけたが、それきり目を見開いたまま、動か
なくなってしまった。
ベッドから這い出た男がシャワールームに入ると、ややぎこちないとはいえそれでも、いくらかの
表情を取り戻した女は同じくベッドから這い出て、裸のままエプロンを着け、「洗い物」を始めた。女
の全身には何一つ変わったところはない。
>>224の続き 団長・過去篇
─シャワーを終えた男は、部屋の片付けまでを終えてベッドに腰掛けて休む女を認めると、再び携
帯電話を忙しく操作した。おもむろに立ち上がった女は男と入れ替わりにシャワールームに入る。相
変わらず二人の間に意志の疎通はない。
男はドア越しに伸ばした手で、女から何かを奪い取るようにすると、ドアを閉めた。裸のまま男は、
キッチンの「流し」でその「何か」を勢いよく水で濯いだ。
約束の正午すぎ、旅客フェリーは何事もなくアレオ港に入った。凪の海面の上で、碇を下ろしたフェ
リーはそれでも僅かに波に揺られている。
>>225の続き 団長・過去篇
船着き場のはるか上に見える、陸オカの近代的な建物から直接に伸びる首長竜─乗降ゲートが、その
長い下顎の先でフェリーの船尾を押さえこんだ。
その顎の上の突き出した舌、タラップをフェリーの後部、車庫の平屋根に載せる。下顎のジョイン
トが強固に接続しているのは勿論だが、その上部の分厚い緩衝機構(アブソーバー)が、コンピュータによ
る補正で海面の波のゆらぎに合わせて伸び縮みして、スロープの、長い緩やかな登り坂の上下動を吸
収しているようだ。車椅子や、足下のおぼつかない者であったとしても、地上と変わらない安定感で
進み、歩んでいける。
大きな窓から陽光の刺し入るフェリーの船楼の中二階に、同乗してきた入国審査官に先導される形
で乗客全員が集められた。センターファ共和国の公務員である4名の入国審査官を含め、一人を除く
全員が黄色人種だ。
乗客は皆一様に行儀よくゆっくりと振る舞っている。所謂上流階級に属する、センターファの国民
だ。中には、よく訓練された飼い犬を連れた、身綺麗な女の子もいる。女の子は、短い船旅の中で犬
をダシに仲良くなった、年上の美しい外国人の青年との会話をまだまだ続けたかった。
>>226の続き 団長・過去篇
─が、青年は言う。
シャルナーク「ほら、乗務員の方の説明が始まるよ。もうおしゃべりはおしまい。君はいい子だから、聞き
分けられるだろう?」
女の子は渋々押し黙った。テリア─犬は、飼い主である女の子の目を盗み、未だ視線で異国の青年
との会話を続けていた。
犬にとって人は、人の形をした─犬にすぎない。姿形が違えば、得意な仕事も異なってくる。各々
の、群れの中で果たす役割が違うというだけだ。しかし、このテリアは今日初めて見たのだ─人の形
をした、不思議な生き物。テリア自身にも訳がわからなかった。何故、形も匂いも人のままなのに、
自分には、この生き物が人ではないと解るのか。
けして嫌な生き物ではなかった─鉄と鉛の匂いの染みついた、あの4匹が時折自分に向ける警戒感
には嫌気がさすものの、奴らのことは、最初から取るに足らない相手と無視を決め込むことができた
のだが─この生き物から感じる好感を無視する気にはなれなかった。
同時に、この快活な生き物が、この場で狼藉を働くとも思えなかったが─もしそうなった時は、一
介のテリアである自分や、あの鉄臭い4匹が束になってかかっても止められないということだけは、
良く判っていた。此処にいる全ての犬を屠ホフる程に、この生き物は、出鱈目に強い─。
>>227の続き 団長・過去篇
フェリーの乗客は皆、センターファ共和国を出航する時点で、イーベンへの入国手続きを済ませ
ている。港での残る入国審査は、間違いなく全員が─逃亡することなく─入国することを確認する
だけだ。
先頭の2名の審査官に続き、犬を連れた女の子の家族が、僅かに上下動するタラップの上に進んだ。
船楼の中二階は、柵に囲まれた、開けた乗客専用の乗降スペースに通じる唯一の部屋だ。柵の中
央を一部、下に倒してできた隙間から、筒状のスロープ式のタラップが接面している。フェリーの
乗降スペースにもタラップにも、風雨を凌ぐ壁と屋根があり、喩え悪天候であったとしても、乗客
は殆ど濡れずに済む。
雨風が入り込まないということは、逆に言えば、中から外に通じる隙間がないということだ。先
に何度も繰り返し、審査官から広報のあった通り、指示された時と場所以外を勝手に動けば、犬や
子供と云えども容赦なく制肘を加えられるだろう。
尻尾を振る犬の後を、なんとも身軽な格好の青年が一人、着いて進んだ。
>>228の続き 団長・過去篇
ノートパソコンが一式入るぐらいの薄手のリュックサックを背負っているだけで、他には何一つの
荷物も持たない。履き古して汚れた淡色の布靴に裸足を突っ込み、小さな傷跡の多い踝クルブシを隠そ
うともしていない。青年の履く薄い生成キナリのズボンは、膝の下までゆったりと膨らみを持たせて
ある。そこから下は逆に臑スネ半ばに向けて絞りが入り、せっかくの膝の可動域を失わないようにな
っている。それだけを見れば、山登りにも向いたアイテムに思えた。
ルーズなズボンとは対照的に、青年の上半身の装いは些イササか窮屈に見える。180p程の身長は男
性としてけして低い方とは思えないが、何を狙ってのことなのか、青年は丈の短い、涼しげな細見
の、女物のワンピースの中に、その美丈夫を閉じ込めていた。
短い縦襟、ノースリーブの白いシンプルなワンピースのウェスト部分を、飾り垂れの着いた太め
の白い革のベルトで締め上げている。そのせいで、その下には丁度ミニスカートのように、ワンピ
ースの白い裾が垂れている。
>>229の続き 団長・過去篇
そのタイトなワンピースの上から青年は、やはり袖なしの、化学繊維でできたやや厚手の、短い
丈のチェスト様のジャケットを「装着」していた。クリーム色のジャケットの首周りと肩周りにはそ
れぞれ、大きく薄い風防・日除け用の「フード」と、「長袖」を収納する膨らみがある。防寒用のそれ
でないことは、極端に短いジャケットの丈や素材からも明らかだ。青年はなかなかに活動的な人物
のようで、上から足下まで「動き易さ」を基準にコスチュームをセレクトしているようだ。
傷のある足や臑スネも勿論だが、何よりも、毎々(コトゴト)く袖のない上着から見せつける、見事に
盛り上がった肩の筋肉が、青年の逞しさを物語っていた。白人なりにうっすらと日焼けしているこ
とを別にすれば、体操選手のようにも見える。
腰のベルトから前と左右に垂らした、何やらレリーフ模様の入った革製のプレートはお洒落のつ
もりかもしれないが、それとは逆に、青年の両の腕には全く飾り気が無かった。肩から指先に至る
まで、指輪や腕輪は勿論の事、腕時計ですら身に着けていない。そして、汚れて見える両の足とは
対照的に、青年の腕や手指は美しく、一つの傷跡もない。それ故に余計に青年の腕の肌の張り、筋
肉の力強さだけが人目を引くことになるのだ。
ワンピースの立ち上がった短い襟から伸びる、同じく太い首の上には、意外に小さな頭が乗って
いた。日の光を受けて輝く、短くも長くもないプラチナブロンドの両サイドからは、聞き分け良さ
げな耳が覗いている。高くはない尖った小さな鼻の上には、まだいたずら盛りの少年のような、円
らな鳶色の眼が並んでいた。
>>230の続き 団長・過去篇
夜が明けてからほどなく、配給の簡単な朝食がすんだ頃に、珍しい白人の青年が品の良いセンタ
ーファの公用語を話し、少女と他愛ない会話をするのを、乗客の全員がそれとなく聞いていた。
青年は、仕事の仲間である友達から呼び出されて、イーベンに入るという。仕事の為の入国だが、
その内容は教えられない─のだが、友達はいつもとんでもない頼み事を用意して自分を呼びつける
ので、一緒に仕事をするのはとても大変だし、同時にとても楽しみなのだ、と。
少女は青年に問う。いつも大変な仕事をお願いする人と、どうして友達のままでいるのか。もっ
と楽をさせてくれる人を友達に選び、楽な仕事だけをすればよいではないか、と。
青年は笑って答えた。君は、生き甲斐だの仕事のやり甲斐だのについてもっと真剣に考えなさい。
それに、その友達は、お互い独立して仕事を始める前からの、子供時代からの古い付き合いで、こ
れからもずっと友達でいたいのだ─
フェリーの船尾を吐き出した竜の長い首、タラップは、固定された大型の“修羅”を転がしなが
ら後退した。乗客は皆、岸壁にこじんまりと立つ要塞、出入管理棟に入り、最終手続きの順番を待
っている。
>>231の続き 団長・過去篇
青年─シャルナークの入国手続きは、一人だけ特別にあっさりと終わった。ハンター・ライセンス─立ち
入り(調査)の理由・目的を秘匿し且つ、詮索されない権利の証。ハンターは、その個人の裁量で国
を跨ぐ資格を有する。
後は他の乗客と同様に、センターファの出国時、ダャーレン港の管理局に既に半額、イーベンの
アレオ港の入国時、その管理局に更に半額と、高額の「担保金」を(口座の数字の上で)預けて終わり
だ。平和裡に、滞りなく同じ港を通って帰途につけば、問題なく全額返ってくる。
センターファに雇われた、身元も目的(仕事ハントの内容)も明らかなハンターの場合なら書類だけ
で済むところだが、シャルナークの場合は違った。「不定期の観光」などとあやふやな建前で入国する「自由
人」を気取る以上、扱いは一般人と一緒だ。
加えてシャルナークには「国籍」(=偽造ではない、本物のパスポートの提示)が無い。
世界中を飛び回るのがハンターの常とはいえ、当局が身元を辿れないこととは話が違う。出自の
明らかでない者を迎え入れるのは、どこの国であれ気持ちのよいものではない。
しかし─世界の「普通の国家」の仲間入りをしている風を装いながら、同時に、正規のライセン
スを持つハンターの立ち入りを拒む為には、国家としてさらに上手の「構え」と「下拵ゴシラえ」が必要
になる。
無国籍者とて例外ではない(─シャルナークの場合は、あくまで「国籍・所属を秘匿する者」だが─)、泣
く子も黙るハンターライセンス保持者を突っぱねる“力”は、イーベンの宗主国である、今のセン
ターファ共和国にはない。
その力を用意するのに必要な、裏の予算と根回しの手間暇、その費用対効果を考えれば、世界に600
人強しかいないライセンス保持ハンターの出入りを認める方が、はるかに安上がりだったのだ─高
額の担保金の確保は、せめてものハードルであり、「抵抗」だった。
>>232の続き 団長・過去篇
そもそも─プロハンターであれ、高額の担保金を預けて入国する一般の観光客であれ、イーベン
の秘密─「人々の暮らしぶり」を世界に洩らすことは、センターファを上回る勢力、全ての「産油国
連合」から敵と見做されることを意味している。
世界(─公然)の秘密、イーベンの“肝”である、「太陽光発電」は、けして日の目を見る類の物
ではない─はずだった。
“それ”を見られること自体がまずいのではない。侵したくない「禁忌」は、イーベンのようなラ
イフエネルギーに満たされた暮らしがこの世にあると、世界の人々に知れ渡ることだ。
─諸々の製品の原材料としてのみ利用すれば、遥か未来まで尽きることはないと思われる原油、
また天然ガス、石炭などの化石燃料。その節約の最たる手段は、それらを動力源とする機関を減ら
すことと、異なる代替技術を普及促進することだ。
>>233の続き 団長・過去篇
例えば、テロを恐れての政情不安が主な要因ではあるが、戦闘航空機以外でのジェットエンジン
を搭載した飛行機関は、現在公には使われていない。はるかに燃油消費料の低い「飛行船」が、世界
の人々の一般的な最速の移動手段だ。
また、遠洋航海においては、産油国連合とその顧客である経済大国以外の船主は、こちらは燃油
代の「省略」をすべく、(発電機(ジエネレーター)は搭載されているものの)主に帆船の使用を余儀なくされ
ている。
(─イーベンへの入国が、宗主国であるセンターファ共和国からの海路のみに限定されているの
は、盗み出されては困る「技術」があるからであり、その為、勝手に出入りしようとする船舶や飛行
機関は、センターファを含む産油国連合管轄の軍事衛星、「13星座」からのレーザービーム照射、及
び待機する軍艦からの誘導ミサイルで撃墜沈されるのだが、それはまた別の話─)
飛行船も例外ではないが、発生する「熱」や二酸化炭素、大気を汚す排気ガスなど、環境汚染物質
を大量に排出する内燃機関は、未だ世界中で稼動している。
イーベンに生じた太陽光発電の技術は、それら「前時代」の技術を全て駆逐し、エネルギー新時代
を世界にもたらす可能性を持っていた。
─「原油が売れなくなっては困る」、その至極単純な理由で産油国連合は、宗主国であるセンター
ファ共和国の頭越しに、その従属国であるイーベン王国に関する全ての情報封鎖を、世界中で徹底
した。
従属国の、新時代のクリーンエネルギー技術を新たな主力産業に転用したかったセンターファ共
和国だったが、自国を除く、全ての産油国を敵に回す軍事力も国力もあるはずもない。故に、今の
ところは大人しくイーベンの隔離・支配の先兵を務めている。
>>234の続き 団長・過去篇
管理棟にある広い待合室の一角で、プラチナブロンドの青年は、同じく癖のない黒髪、ダーク
グレーのビジネススーツの、こちらもどことなく、「少年」の面影を残す男と落ち合った。
♯シャルナーク「…お待たせ」
違和感─シャルナークはそれを飲み込み、できるだけ顔に出さないように努める。
†団長「すまないな、急いでもらって。早速飯メシにするか。食いながら話そう」
♯シャルナーク「そうしましょ♪」
団長に連れられて建物から出る。駐車場には酷いデザインの電動式自動車が止まっていた。先に
入国していた団長が、ハンターライセンスを提示して、こちらはイーベンの民営の車両貸出業者か
ら、同じくイーベンの管理局を通して借り受けたものだ。
†団長「シャルは左側に座ってくれ。」
そう言いながら車体の右側に進む団長の後ろ姿を見て、シャルナークは改めて思う─そうだよな、これ
がこの人のスタイルだった─。
車に乗り込むと、団長は搭載されたコンピュータに自身のハンターライセンスを読み込ませた。
運転手を現在の正当な使用者と認識した車は、女の声でパターン化された挨拶をした。団長はタッ
チパネルを触り、電源駆動を開始させる。
車のデザインもさることながら、よりシャルナークを滅入らせるのは、ガソリンエンジンのトルクを感
じさせない乗り心地と、何より、ナビゲーションシステムに行き先を入力すれば、後は自動運転任
せという味気無さだった。
まさしく音もなく進み始めた車の中から、動くアレオ市の整備された海沿いの景色を見ながらシャ
ルナークは、昔のことを思い出していた。
>>235の続き 団長・過去篇
─ある日、しばらくぶりに再開した「団長」、クロロ・ルシルフルは、額に十文字模様の刺青を入
れていた。比較的、お洒落に無頓着なシャルナークのこと、内心では仰天する他なかった。
─そう来たか…。 まあ、A級の賞金首、極悪非道の盗賊団、蜘蛛の頭目なのだから、それらし
い「目印」をぶら下げて生きるのも、また一興かな─
他人事に口は出さない。それがルールだ。
しかし、当たり前の話だが、「目印をぶら下げた」以上、一般人に成りすましたり、潜伏したりは
不可能だ。「未開(…とは一方的な言い方に過ぎるが─)の部族」ならともかく、世界中のどんな社会
であろうと、顔面に刺青を入れておきながら「私、これでもカタギです」とは通らない。
それを、この人は─“鉢”を真っ白い包帯でぐるぐる巻きにして、あたかも「出掛ける時にぶつ
けて、頭割っちゃいました」風に─誤魔化そうというのだ。
そのくせ両の耳朶ミミタブには─銀の渦巻く留め具の下に、真っ青な「玉」のついた、巨大な耳飾り
をぶら下げたまま。
「…それは取り外しできるだろ!!」 言いたい。言ってやりたい。しかし…「他人事に口は出さな
い」 特に振る舞いや言動ではない、「格好」については尚更だ。
車の操縦席で、海からの風に「包帯鉢巻」の上の前髪をなびかせながら、団長が言う。
>>236の続き 団長・過去篇
†団長「─「旅館」に向かう。腹拵ゴシラえがすんだら、風呂に入ってくれ」
♯シャルナーク「風呂? 「温泉」のことかい? またえらくゆっくりだね」
†団長「ゆっくりしたくもないんだが…お前の格好が問題なんだよ」
♯シャルナーク「…」
刺してやりたい。得意の「アンテナ」を深々と…。
†団長「知っての通り、イーベンは「座敷」が多いだろ? 靴を脱ぐにもかかわらず、プライベート
ではない空間が多い訳だ」
♯シャルナーク「なるほど?」
†団長「どうせお前、足臭いだろ?」
♯シャルナーク「失敬な!! “一昨日”シャワー浴びた“ばっかり”だよ!!」
†団長「(…その前が何時かは、自分でも覚えてないんだろ)」
そう応えつつもシャルナークは、団長の謂わんとすることは理解していた。
あらゆる自然環境に順応するハンターは、元々「臭い」に無頓着だ。─鈍感というのとは、少し違
う。それを一々気にしない神経と、犬の追跡を振り切り、逆に、狼の逃げ道に先回りできる「技術」
を持つ─ハンターにとって「臭い」は、“クリアできる”自然現象なのだ。
さらに、二人が幼い頃から育った故郷、「流星街」においては、体を洗う時に使う温かい水(産湯な
ど)は大変な貴重品だった。飲み水に困らない理由はある程度成長してすぐに理解できたが、その
水を“増やして”くれる役目の大人も、飲み水以外には全く尽力してくれなかった。シャワーは勿
論のこと、水浴びに使えるような浄化された水は手に入らない。
廃棄物処理の過程で生じる熱源を使った、少量の水を用いる所謂「サウナ」で吹き出した全身の汗
に、廃油から精製した石鹸(結構上等な品だ)をこすりつけ、体の垢を拭き取り、髪を櫛削るのが、
彼らの日常の「風呂」だった。体臭や汚れなどを必要以上に気にする住民はいないのだ。
よしひろぱねえ
>>237の続き 団長・過去篇
居住区域ですら空気の匂う流星街のこと、云わんや廃棄場やその処理施設、再生施設に至っては、
一般の住人達は、ゴーグルにガスマスク、全身を覆う防護服まで着用と、生身でいられない程の汚
染レベルだ。
その中をシャルナークはじめ念能力者達は、目・喉・鼻の粘膜や、肺胞の再生スピードをオーラで強化し
て、ゴーグル、ガスマスク無しで過ごし通す。
汚染物質に体を冒されながらも、その悪影響を打ち消す程の負荷を、粘膜や、体内の毒素を集積
する肝臓をはじめとした回復機構に負担させて、防護服に身をくるむ面倒を遠ざけているのである。
今さら「動物の体臭」レベルの臭いを気にする人種ではない。
加えて、団長の言う通り、イーベン独特の生活習慣のこともある─何か今回の狩りミッションに関わり
があるのだろう。無論、最初から「命令」に逆らう気はないのだ。
♯シャルナーク「でも、足の臭いでしょ? 体を洗ったところで、靴は臭いままだからなぁ」
†団長「お前の靴のサイズ、「9」でいいんだろ?」
♯シャルナーク「? ん〜、微妙だな、国によっては「9と1/2」だよ」
†団長「そうか? 9ならこの国では27.5pで良かったんだが…」
♯シャルナーク「あ、センチメートルなの?」
†団長「実はもう買ってある。上から下まで」
♯シャルナーク「準備のいいこと♪ ハンターの鏡だね」
†団長「靴下も余分に買ってあるからな。匂う前にちゃんと履き替えろよ」
♯シャルナーク「あ〜、そうなるか。やっぱり靴下履かなきゃダ…」
†団長「駄目だ。心配しなくても、今回はこっちが仕掛ける側だよ。お前の「用意」ができてから、
ハント開始だ」
♯シャルナーク「(…油断しすぎじゃないの? それで死ぬのはこっちなんだよ♪)」
シャルナークが靴下を履くことを渋ったのは、いざの戦闘の際に、せっかくの「仕込み」を仕挫(シクジ)り
たくなかったからだ。
>>239の続き 団長・過去篇
今履いているアイテムもそうだが、シャルナークが選ぶ靴の素材は、念を込めたアンテナで軽々と貫け
る、「柔らかさ」が基準だ。爪革ツマガワは布製だし、靴底は合成樹脂。
靴底から足指の間に貫き通したアンテナを、そのまま指で挟んで蹴りの勢いのままに相手に突き
刺す。或いは、靴を脱いだ足指でアンテナを掴み、自動車のアクセルペダルを踏む方向にも刺すこ
とができる。
人前では流石にやらないが、シャルナークは、背もたれのある椅子に背中を預ければ、左右どちらの足
であっても、箸を操り匙でスープを掬スクい、テーブルの上のセンターファ・ヌードルを平らげるこ
とができる。ナイフ&フォークで肉や魚を切り分けたり、スパゲティを巻いたり、“取っ手”のない
グラスの縁を砕いてしまわないように足指で掴み、中身の水を口に傾けることも可能だ。
全ては、戦闘において敵の意表をつく為、さらには、手指を駄目にした(と見せかける)時の用意
の為─その為の、日頃の訓練の一環だ。
元々、一見複雑そうな「操作」に取り組み精通してしまうのは、この男の趣味に他ならない。が、
ここまでの徹底ぶりには団長も感服せざるを得ない。
それ故に、靴下の装着はシャルナークにとって鬼門なのだ。靴を脱ぎ捨てるのは容易でも、靴下を脱ぐ
時間は、一刻を争う戦闘中には流石にない。せっかくの器用な足指使いも、靴下を履いたままでは
発揮し辛い。始めから靴下無しでいたいのは、無理からぬことではあった。
団長は常に「狩るもの」のつもりでいるようだが、「狩られるもの」へとめまぐるしく立場が変わ
るのは、この世界の常なのだが─。
♯シャルナーク「─追われなければ、追う楽しみもない、か…」
†団長「…ん? 悪い。聞こえなかった。今何て言ったの?」
♯シャルナーク「…いいや、独り言だよ」
>>240の続き 団長・過去篇
電動式自動車は、意外に大きなゲートをくぐり抜け、そびえ立つ「旅館」に向かう。外観だけを
見れば、これは所謂ホテルと言うべきではないか。半月型のカーブを右に切って、屋根付きの広い
間口のエントランスへ直接乗り付ける。
シャルナークが違和感を感じたのは無理からぬことだろう。多少のこと期待した「和風」の大路小路を些
かも歩くことなく、ダイレクトに建物の入口に辿り着いてしまったからだ。
ここで自動車を乗り捨てても、一時的に遠隔操作の主導権が旅館に移り、車溜まりまでは無人で
勝手に移動する。
世界中(の一般人)に知らされていない技術が、担保金さえ預ければ入国できる観光客に、包み隠
さず曝されているのだ。
団長はシャルナークに降りるように促すと、ナビゲーションシステムの操作パネルを簡単に触って後、
反対のドアから降りた。
二人して玄関のガラス扉をくぐり抜ける。フロントの従業員に会釈を返しつつもこれに歩み寄る
ことなく、ロビー奥の質素な絨毯敷きの階段へと進んだ。
旅館の上階に併設された、小洒落たセンターファ・レストランに入る。団長はすかさず一人でい
たシンナドレスのウェイトレスの手を取りチップを握らせ、親しげに話しかけた。
>>241の続き 団長・過去篇
†団長「実は、これから二人で大事な商談なんだ。他のお客さんとは離れた個室に入りたい。空い
てるかな?」
清潔そうな団長の額の包帯が気になりながらもしかし、ウェイトレスの返事は明朗だった。
♀女「…いらっしゃいませ。個室でございますね。かしこまりました」
†団長「それから、隣りの部屋にも他のお客を案内しないままにして欲しいんだ。お願いできるか
な?」
ウェイトレスの態度は途端に砕け、一度左目をつむってみせる。
♀女「やってはみますけど、期待しないでくださいな。扉のある個室は、3つしかないんですもの」
†団長「わかってるよ。できるだけでいいさ」
愛想よく微笑みながら、ウェイトレスはくるりと回って距離を作った。
♀女「それでは、どうぞこちらへいらして下さい」
ウェイトレスは楽しげにそう言い、二人を連れて先を歩いた。
案内された部屋は案外と大きかった。正面の大窓は遠くの海水面の照り返しを映し出している。
壁は見たところ、確かに床から天井まで渡っていたが、残念ながら隙間の多い可動式自立型のよ
うだ。支える直角三角形の細く長い「足」が数枚室内に生えている。となると、入り口のドアも壁も、
取って付けたものか。イーベンによくある、スライド式の引き扉だ。
団長は不自然に見えぬよう外の景色を見やりつつ立ち止まり、呼吸を整えると、ほんの数秒間だ
け、実に半径50m、一気に巨大な“円”を展開し、範囲内の全ての鋭敏な「生物」に対し自らの存在
を誇示してみせた。床下、天井、壁の向こう─特に気になる反応はない。
>>242の続き 団長・過去篇
大きな円卓に、椅子が8脚据えてある。団長は“はめ殺し”のガラス窓を右肩のやや後ろに回す位
置を選び、自ら椅子を引き腰掛けた。この位置なら、部屋の入り口を正面にできる。
(※アナログ時計の文字盤で、1時,2時,4時,5時,7時,8時,10時,11時を結ぶ8角形の頂点
にそれぞれ椅子があり、12時の側がオーシャンビュー。団長は1時の位置の椅子に座っている。入り
口はおよそ07時の方向)
†団長「シャル、こっちに来てくれ」
馴れ馴れしく商談相手を呼びつけると、備え付けのメニューの束を取り上げる。
呼ばれたシャルナークは、入り口に近い予備の椅子にリュックサックを下ろし、団長の右側、オーシャン
ビューを遮る位置に突っ立った。
団長は「ランチ」のラミネータ・シートを一枚、右前にずらし傾けて、隣りに立つシャルナークに見せる。
†団長「沢山食べるかい?」
言いながら団長は、右手の人差し指からオーラを浮かべ、シートの上に文字を描いた。
†団長「『毒の見張り─遠視せよ』」
♯シャルナーク「そうだね。せっかくだし、腹いっぱい食おうかな♪ 『了解─2本とも使う』」
ウェイトレスの目を“凝”で見ながら、団長は言う。
†団長「これを頼みます」
>>243の続き 団長・過去篇
部屋の片隅にあるワゴンに備え付けの水差しから、二人分のグラシズオブワラを注ぎ終えたウェ
イトレスは、銀色の盆を左手に持ち、シャルナークの反対側、団長の左側に歩み寄る。ご丁寧に、木製の
コースターまで敷いてくれた。
団長はラミネータ・シートのみを左手に持ち替え、ウェイトレスに見せた。
†団長「太平燕(タイピーエン)と餃子、チャーハンのセット。同じものを2つ。太平燕(タイピーエン)は大盛で
♪」
─早い。そのまま打ち抜けば、ウェイトレスの右肩から先を体幹から削り飛ばす勢いで、シャルナーク
は団長の頭越しに、左の握り拳に隠した「アンテナ(阿形アギョウ)」の「針」を、右の僧帽筋に後ろから
突き刺した。目ではメニューを見たまま、目立たぬように右手で携帯電話をいじっている。
♀女「…はイ、かしこまリまシた…太平燕(タイピーエン)と餃子、チャーハンのセット、太平燕は大盛
デ…同じものを2つデスね」
少なくとも、この女は「白」だ。入力端末のキーボードを操作するウェイトレスを見ながら、団長
は確信する。“凝”の光る目にも反応しなかったし、シャルナークのアンテナもちゃんと発動した。仮に
、先に誰かの操作支配下にあれば、シャルナークの操作は「空振り」、発動しないはずだ。
シャルナークは、立派な装丁の「メニュー」本体を団長の右手から受け取って、広げながらウェイトレス
の左側に回り込んだ。
♯シャルナーク「烏龍茶を2つ、冷たいのを」
わざわざ見せなくともよさそうなものだが、しっかりと右手人差し指で差し示しウェイトレスに
注視させる。
カメラアイがあることを想定して(─とはいっても、右肩の後ろに刺さったアンテナは隠しよう
もないのだが)、右側を団長の体、左側を自身の体で遮り、正面のメニューを自ら畳みざまに、今
度は右手で2本目のアンテナ(ロ云形ウンギョウ)をウェイトレスの、左腰の飾り紐に引っ掛けた。
>>244の続き 団長・過去篇
♀女「カシこまリました。烏龍茶をお2ツ、冷たイものヲ」
注文を復唱しながらウェイトレスは再び無線端末のキーを叩き、「烏龍茶→冷」を二人前追加入力
して、腰にぶら下げたソケットに戻した。
♀女「御用の際ハお手元のボタンを押シてオ呼び出シ下さイ。」
ウェイトレスは引き扉を丁寧に閉めて退室した。
シャルナークは団長の左側に並んだ2脚の椅子の間隔を詰め、そのまた一つ左側、3番目の席をやや団
長側に寄せて腰掛けた。団長と反対に窓ガラスの方を広く視界の右に入れ、且つ入り口も見える位
置だ(※団長は1時の椅子、シャルナークは5時の位置の椅子を右に詰めてほぼ3時30分の位置に座って
いる)。
メニューを円卓の左手に置くと、右手に例の「男の子」デザインの携帯電話を持ち、メタリックホ
ワイトの蝙蝠の大きく縦に開いた口、操作画面を団長にも見える位置まで進めた。
団長もまた、身を寄せてその画面を見据えつつ、右手に持った高価そうな黒い日記帳のような本
をテーブルの上に置いた。そうして、栞シオリにした人差し指を真ん中に、親指と残る三指を左右に
開き、パタンと本を開いた。
♯シャルナーク「(“携帯する他人の運命(ブラック・ボイス)”)」
†団長「(“密室遊魚(インドア・フィッシュ)”)」
>>245の続き 団長・過去篇
─なんとなく、ではあるが、シャルナークは視界の左右に浮かぶ3,4体の念魚を認めた。視界の外に
泳ぐ数匹の気配も感じる。
愛くるしい黒眼の、白塗りツヤ消しの巨大な白骨標本、「折り紙細工」のような棘々しいデザイ
ンのそれらは、カチカチと大きな顎を噛み合わせながら、元気にその長い体を翻して、空中遊泳を
始めた。
“インドア・フィッシュ”の発動条件の第一は、なんのことはない、術者である団長の主観である。即ち
「ここは密室だ」と団長本人が思っていれば、とりあえず念魚は出現する。
「密室」の定義は所謂、探偵小説の密室殺人における、「人の出入りの可不可(※施錠の有無には関
わらないが─)」と同じである。けして、部屋の空気の入れ替わりや、会話の音の「漏れ」ではない。通
風口や換気扇のような簡単な空調機、また有線電話の通話中であったとしても、そこは密室である
と言えよう。
団長の狙いは、先刻の“円”の広がりに気付いた「監視者」がもし近くにいるのならば、そしてこ
の部屋の何処ぞに仕掛けた「カラクリ」が有るのならば、それを遠隔で操作し、密室状態を崩そうと
しないか、念魚に確認させることだった。
─広げたままの“円”は念能力者の“凝”の目に映ハえる。反応を見るには、手を替え品を替え
せねばならない。
─通常、出現した念魚は、群れ全体で情報を交換・共有しながら、尾鰭ビレや胸鰭ムナビレで空気
の対流を感知しつつ、ばらばらの方向に回遊して、「密室」の精度を確認しようとする。
空気の流入・流出と同時に、両の胸鰭と背鰭をすぼめた自身の体が泳いで抜け出せる程の「隙間
(─すなわち、人の通れるサイズの抜け穴)」があると判明した場合、残念ながら念魚は「消滅」しなけ
ればならない運命だからだ。
念魚は、自分が今いる密室がどの程度の「確かさ」なのかを知る作業を経て、はじめて安心して、
束の間の生を充実させることができる訳だ。
>>246の続き 団長・過去篇
同時に、風上にも風下にも素早く興味を示す念魚の群れは、術者にとって、重宝な探知機である。
ガス交換─換気であれば問題ない。しかし、一方的な噴霧・流入となれば話は違う。鼻で気付い
てからでは遅過ぎるし、もし臭気がなかったとしたら、そのまま被害を受けてしまう。
しかし、とはいっても、空気の入れ替わる大穴が、たとえ人の侵入の用に足りるサイズであった
としても、そこに扉や柵があてがってあり、念魚自身が通れないと判断すれば、それを念魚は“発”
の解除条件とは見なさない訳で、さらには、この際もっと重要な、毒ガス・催眠ガスの噴出があった
としても、(必ず一瞬は興味を示してくれるのだが─)その上で密室が成立すると判断した場合は、
念魚は安心して空中遊泳を続けるだけにすぎないのだ。
術者は、これに頼って判断を誤らないように注意する必要は勿論あるのだが、その上で、念魚の
最初の動き(確認作業)を踏まえて、その情報を元に、今後の部屋の変化を見破るガイドラインを
想定することができる。
─できる、はずだった。めったにこんな失敗はしないのだが─久しぶりにシャルナークと二人でくつろ
いでいるせいか(※攻守における戦力は団長一人の時と比べて4倍以上)、団長は肝心の具現化の
瞬間に、イメージに集中しきれなかった。
自身の、食事に対する欲求を思念の中で閉鎖・分離しそこねて、出現した念魚に自分の「空腹感」
を強く反映させてしまった─念魚たちは迷うことなくシャルナークに向かい、大きく口を開けて生きた人
間の生肉を噛みちぎろうとする。
>>246の続き 団長・過去篇
同時に、風上にも風下にも素早く興味を示す念魚の群れは、術者にとって、重宝な探知機である。
ガス交換─換気であれば問題ない。しかし、一方的な噴霧・流入となれば話は違う。鼻で気付い
てからでは遅過ぎるし、もし臭気がなかったとしたら、そのまま被害を受けてしまう。
しかし、とはいっても、空気の入れ替わる大穴が、たとえ人の侵入の用に足りるサイズであった
としても、そこに扉や柵があてがってあり、念魚自身が通れないと判断すれば、それを念魚は“発”
の解除条件とは見なさない訳で、さらには、この際もっと重要な、毒ガス・催眠ガスの噴出があった
としても、(必ず一瞬は興味を示してくれるのだが─)その上で密室が成立すると判断した場合は、
念魚は安心して空中遊泳を続けるだけにすぎないのだ。
術者は、これに頼って判断を誤らないように注意する必要は勿論あるのだが、その上で、念魚の
最初の動き(確認作業)を踏まえて、その情報を元に、今後の部屋の変化を見破るガイドラインを
想定することができる。
─できる、はずだった。めったにこんな失敗はしないのだが─久しぶりにシャルナークと二人でくつろ
いでいるせいか(※攻守における戦力は団長一人の時と比べて4倍以上)、団長は肝心の具現化の
瞬間に、イメージに集中しきれなかった。
自身の、食事に対する欲求を思念の中で閉鎖・分離しそこねて、出現した念魚に自分の「空腹感」
を強く反映させてしまった─念魚たちは迷うことなくシャルナークに向かい、大きく口を開けて生きた人
間の生肉を噛みちぎろうとする。
>>247の続き 団長・過去篇 (
>>248は重複、ミス。)
元々“インドア・フィッシュ”は、餌を与えてそれを無機質かつ豪快に食べたり、優雅に部屋の中を泳い
だりする様子を鑑賞する用の、癒し系の“発”でしかなく、故に念魚の性質としては、そもそも食
欲旺盛ではある。がしかし、今回期待した「密室密閉度調査」を全くやらずに、餌であるシャルナークにま
っすぐ向かうとは、団長も思ってもいなかった。
団長は肘から先の右腕を勢いよく跳ね上げ、“盗賊の極意スキル・ハンター”を閉じてのち“消した”。
シャルナークの左の裏拳が一匹の念魚の頭部を薙ぐ直前に、全ての念魚は、奇怪な鳴き声を残していな
くなった。
♯シャルナーク「…それで何か判ったの?」
携帯電話の操作に集中しながらシャルナークが尋ねた。
†団長「『失敗した─察しの通り』」
悪びれる風もなく、団長は簡潔に“書いて”答える。
先の失敗は、具現化系の“発”に根ざした特性によるものだ。
放出系に代表される、オーラをオーラのままに使う類の発などとは、根本的に精度が違う。さら
には、生理に基ずく本能を持つ念獣を毎度毎度等しく生み出すことは、例えば「器物」を具現化す
るより、はるかに難しいのだ。
器物に在るのは、切る・刺す・砕くなどの「役割」であって、生物の「生理・本能」とは違う。例えば、
切れる刺すような性質の人物が、鋭い刃物を具現化することに安定感は期待できるが─「生肉を食べ
る」ことや、「閉ざされた部屋に一人引きこもり趣味に勤しむ」ことがそもそも好きなはずの団長が
、今回念獣の具現化に失敗した理由は─団長にも、生肉に食指が動かないときや大勢で派手に遊び
たいときなどの「気持ちの振り幅」があるからで、故にそのイメージ集中の安定感は、どうしても
前者のそれを下回るのだ─。
それはそれとして、今のシャルナークには、団長の空振りに終わった「一人遊び」に付き合う余裕はな
かった。
右の鎖骨の真後ろに、けったいなモニュメント「アンテナ(阿形アギョウ)」を生やしたシンナドレス
のウェイトレスが、厨房の中、普段は入らない所までずかずかと踏み込んで行く。
>>249の続き 団長・過去篇
♯シャルナーク「…コックさんはハポン人だね」
†団長「(…それは偏見というものだよ、シャル。ステレオタイプな…)」
シャルナークの携帯電話のモニターには、ウェイトレスの視界が投影されている。映った調理師の男の
、太く引き締まった黒い眉毛と、大きく見開いた黒眼を見てシャルナークは、センターファ人ではないと
思ったのだ。
確かに、不思議な事にセンターファとイーベン(=ハポン)の混血はあまり進んではいない。シャルナー
クが思ったように、勿論あくまでも「比較的」ではあるが、どういう遺伝的経路か、イーベン人の方
が、丁度団長のように、強い黒眼を印象づける二重瞼の大きな目の造作が多い。
画面の中の調理師がまっすぐこちらを見ている。彼はたった今、厨房に備え付けのコンピュータ
のモニターで、ウェイトレスの腰に下がった端末から、無線で受信したシャルナーク達の注文を確認した
ばかりだ。
調理師はウェイトレスに対し何か言いかけようとして口を開けたが、言葉を発することはできな
かった。
─キスでもするのかという程に大胆に正面に迫ったウェイトレスが、左腕を一瞬鞭のように鋭く
震わせ、調理師の腰の右側に、握った縦の拳の内側を叩きつけて後、引っ込めた。
♯シャルナーク「(…ほっ!!)」
シャルナークは忙セワしなく携帯電話のキーを弄り続ける。
ウェイトレスは美しく踵キビスを返し、その場で一瞬立ち止まった。
♯シャルナーク「(…切り替え…)」
調理師の男は右手をまっすぐ伸ばし、目の前のウェイトレスの右肩の後ろから生えた、シャルナークの
アンテナを素早く抜き取って隠し持った。
ウェイトレスは見慣れない風景に始めは首を傾げていたが、すぐにまっすぐに歩き出し、ホール
に戻った。そんなことを気にしている場合ではなかったのだ。
>>250の続き 団長・過去篇
─少女のときでさえこれ程のことはあっただろうか、嘘のように体が軽い。特に背中から両目に
かけてほとばしるような生命力を感じる。
見慣れた店内の光景のはずなのに、何故だか新鮮で、素晴らしい職場で働いているかのような気
がしてくる。自然と湧き上がるプロのウェイトレスとしての責任感、仕事のやり甲斐と同時に、自
分が一人の若く健康で可愛い娘であることの喜び、嬉しさを噛みしめて、体の動きに表さないよう
にするのに、腰の前で左右の拳を強く強く握りしめなければならなかった。
シャルナークは幾分楽観していた─ウェイトレスが最初に出会ったコックが、自分達の注文した料理を
こしらえる「長」だったからだ。これ以上2本しかないアンテナを小忙しく使い回す必要もない、は
ずだ。次に忙しいのは、道筋を逆に辿りアンテナを回収する時だけ…そうであって欲しい。
背中のS字カーブの“凹み”のやや下、右側、背中の太い筋肉のある所、調理服の上にシャルナークの
アンテナ(ロ云形ウンギョウ)を横倒しに生やした、自動操作状態の男前の調理師は、専門用語で次々と
簡潔に指示を出し、チームの全員の作業に丁寧に目を配り、着々と段取りをこなして行く。
高温の油で炒められる魚介と野菜、豚肉から立ち上る湯気の匂いが画面から漂ってきそうだ。
♯シャルナーク「(…火のないセンターファ料理も寂しいもんだな)」
電磁加熱─イーベンでは、一般的にガスが使われていない。天然ガスや原油が採れず、海外から
も輸入されないからだ。
一息ついたシャルナークは、団長に向けて古いセンターファの文字を二つ、オーラで形造り縦に並べて
見せた。
♯シャルナーク「『杞憂』」
>>251の続き 団長・過去篇
─珍しい故事をまた、引き合いに出すものだ。団長はそう思い、簡潔に応える。
†団長「『念の為さ ─石橋を叩いて渡る』」
♯シャルナーク「『それ知ってる ─お前は転ぶ、ステッキなしで─』」
†団長「(……。)」
団長は押し黙った。シャルナークは団長の指示通り、小さい画面の中のコック達の手元に怪しげな動き
がないか、“凝”で“微視”し続けている(※─小さいものを小さいまま、あたかも自分の方が小
さくなったかのように巨大に捉える観法。米粒に経を筆で書くが如し─)。
今は古いイーベンの諺の修正をしてやるに相応しい時ではない─主題に戻るべきだ。
†団長「『所属を隠したプロハンターが二人─イーベンで堂々と落ち合っている─これに興味を持
たない当局はいないよ』」
♯シャルナーク「『そりゃそうだね』」
†団長「!!… 『このタイミングで玉子なんだな─』」
団長は、画面に映る巨大な可動式両手鍋で熱される炒飯に、別の皿から放り入れられた黄色い粒
々群をみて、左手の人差し指から、携帯電話のシャルナーク側の空中にそう書いた。
♯シャルナーク「(…いいけどね…)」
先程から繰り返し交わされる二人の空中筆談は、オーラの細かい形状変化で空中にハンター文字
を書き連ねて短い文章を相手に読ませる、「浮印(フイン)」或いは「流描(リュウビョウ)」と呼ばれるもので、
ハンター特有の無音会話である。
暗い所に限っては、チカチカと明滅する故に、小声で話すよりかえって目立ってしまうので、夜
のハントには向いていないが、昼間の秘密通信には重宝する。
感覚が鋭敏な動物の中には、浮印フインに限らずハンターのオーラの流れを感知して反応してしま
う種類もいるが、ともあれ、何より都合がいいのは、念能力者でさえなければ、余程目の良い人間
以外全く気付けない点にある。
とりあえず2人は、隠しマイク─音を気取られることを最優先に警戒している訳だ。
>>252の続き 団長・過去篇
しかしながら、オーラの色、光は、デジタルであれアナログであれ、記録装置に画像データとし
て残るという性質もまた、ある。仮に、隠しカメラでこの光景を覗いている能力者がいれば、浮印
フインによる会話は勿論、シャルナークの携帯電話&アンテナや、この国の念能力者にはポピュラーな「書物
(※巻物)」に封じ込めた念─不気味な空中遊泳の怪魚群と、かなりの情報を既に与えてしまったこ
とになる。
(─たとえ今でなくとも、後から改めてデータを解析することも可能だ。リアルタイムで覗かれ
ているのでなければ、いかなプロハンターと云えども察知することは難しい。獣道に予アラカジめ仕掛
けた無人の暗視カメラが、夜行性の野生動物の撮影に成功する可能性が高い所以だ─)
普通に考えれば、国内で先に活動を始めている団長とは違って、たった今入国したシャルナークの動き
は誰にも掴めていないのだから、当然水際から調査に掛かる必要があるし、そうするのが定石と言
えよう。
それを逆手にとり、団長は、シャルナーク1人をマークし始めた直後の監視者に対し、(団長の公共交
通機関を使った移動を捕捉していれば、合流は想定の範囲内だろうが─)二人揃った戦力を見せつ
けることで、牽制する機会にするつもりなのだ。
どうせ─1人でいる時からずっとそうなのだが─、今後の道中は二人して、カメラ&マイクの前
の演者であるし(※─団長を対象にしているのではなく、それらは行く先々に最初から在る。イー
ベンは行き届いた状況証拠採集社会なのだ─)、そして、背景は定かではないものの、遠巻きに監
視を続ける忍シノビ連中の、環視の中での行動になるのだから。
>>253の続き 団長・過去篇
当然のことながら、いざの際の権限においても勿論だが、そもそも実力において、ライセンスを
持つ正規のハンターを尾行、また捕獲しうる者は、同じハンター以外に有り得ない。そして、たっ
た二人のチームに対し、と云えども、実際に仕掛ける以上は、万全の体勢で臨むのがハンターだ。
というのも、プロハンター同士、正々堂々と身分を明かし、面と向かっての聞き取り調査─とい
うのならまだしも、影でこそこそ立ち回るからには、出会い頭に立場がひっくり返る覚悟が必要─
狩る側と狩られる側が入れ替わる恐れが、常に拭いきれないからだ。
なんと言ってもこの2人は、(今のところ)不法入国の盗賊団メンバーなどではなく、正規に入
国したハンターライセンス保持者だ。
身の回りを嗅ぎ回る不審者を切って捨てたとして、そしてそれがこの国の諜報員だったところで、
拘留はおろか在宅起訴も難しい(最初から住所不定の2人ではあるが)。
たとえ立件できたとしても、違法性阻却ソキャク事由─ハンターとしての正当行為、即ち不審者逮捕
時の実力行使として、免責事項に該当してしまうことになるだろう。
それ故に、慎重にも慎重を期すのだ、といった所が、管理する側の発想だろうが、管理される側
─おかしな2人の思惑はこの際、どうだろうか。
本来なら、大人しく司直の手続きに則って、自らの権利を主張するような小市民であろうはずも
ないのだが─。
シャルナークはまだ知らされていないが、今回の団長の狙いは、ささやかな個人の念能力たった一つだ。
>>254の続き 団長・過去篇
できれば今回の小旅行は、このままそっと干渉しないでいて欲しいというのが、団長の正直な所
だった。
賞金首狙いの志願者(ボランティア)なら一向に構わないのだが、盗みだ殺しだで駆り出される公務員
が、偶々仕事熱心且つ優秀なあまり、団長を追い詰め得た際に、怪我だの死体だのと惨い目に合わ
せてしまうのを、かねてから気の毒に思ってはいたのだ。
そもそものイーベンの国情に対する配慮もあり、今回の入国は、初めてのライセンスホルダー二
人揃い踏みだ。表面的には、とやかく言われる筋合いはないはずだ。
♯シャルナーク「…『もう─できるようだよ』」
シャルナークは携帯電話のキーを押し続け調理師の視線を固定し、別のコックが陶製のティーポットか
ら氷で一杯のガラス製のそれに注ぎ移す、熱々で濃厚な烏龍茶を注視している。
アンテナの刺さった、シャルナークの支配下にある調理師は、仮に本人が料理に毒を盛りたくても、シャル
ナークに対する敵対行動を封じる命令コマンドに逆らえない。(※アンテナ2本を別々の2人に刺してい
る場合は、シャルナークが手元でセレクトしている1人限定。そして、その1人が、「毒を盛りたいのに
果たせない」ストレスを、シャルナークは命令違反アンチ-コマンドの信号として感知できる)。しかし、その
他のメンバーの手元・手仕事は、モニタで逐一チェックする他ない。
また、今の視点固定のように、自動操作(オートムービング)中に遠隔操作(リモートコントロール)をかぶせる、割
り込ませると、本来本人がやりたい、「やるべきこと」(※その具体的な内容まではシャルナークには判ら
ない─)が実行できていないストレスが、シャルナークの思念に反映される。
そのストレスで、シャルナーク本人はダメージを受けないが、調理師の方は、早く完全な自動操作に戻
してやるか、意識レベルを下げた遠隔操作に切り替えてやらないと、不可解な意識分裂をきたして
しまう。
しかし、たとえ調理師の脳波の許容量を振り切ったとしても、今ティーポットから目を離す訳に
はいかない。
シャルナークは、どうしてもキリッと冷えた烏龍茶を飲みたいのだ。
>>255の続き 団長・過去篇
本来暖かいまま飲むべき飲み物の、殆ど全てを冷やして飲むイーベン独特の食習慣は、世界的に
みても珍重なものだ。冷蔵庫が普及していない片田舎では、ビールすら常温で扱われる。冷やして
飲む習慣を知らないのだからそれも無理からぬこととはいえ、世界中の美食を堪能している身とし
ては、極めて残念な思いをしていたのだ。
♯シャルナーク「…『ティーポット(※ガラスではなく、陶器の方のこと)もそうだし─あの氷─痺れ薬
が溶け込んでたらアウトだな』」
この2人の為に厨房のスタッフが分別した、調味料や食材、道具に食器。毒を仕込み得るものは
、全て視認し(洗アラッ)た。可能性が残るのは、飲み物だけだ。
†団長「『─飲まなきゃいいよ』」
繰り返すが、流星街出身の二人は粘膜がやたらと強い。きちんと咀嚼しさえすれば、食事中の喉
を潤す水分など最初から不要だ。食事により摂取してしまう塩分は確かに厄介だが(─体内で水溶
させる為に、保有水分量が一時的に増える。則ち、「飲み水が必要」になるのだ─が)、故郷の有毒
物質に耐える作業に比べたら、肝腎を守るオーラの負担はないにも等しい。
♯シャルナーク「『good!! ─もし僕が傷んだら─介抱を頼む』」
†団長「…『了解…』」
配膳が終了した。シャルナークは一本だけ、アンテナ(ロ云形ウンギョウ)をウェイトレスの腰の筋肉か
ら抜き取り回収した(移動中に落とさぬよう、オーラで固定できる「体」に刺して中継したのだ)。
肩の後ろに刺さった阿形の方は、会計時にでも回収するつもりだ。
>>256の続き 団長・過去篇
アンテナの「針」の、一般人のオーラを用いた滅菌・消毒は完璧ではない。おそらく、あの男前の
調理師が保有する諸々は、ウェイトレスにも感染することになるだろう。
最初から他人の事など気にする男ではないシャルナークも、いざの時には自分にも刺すアンテナのこと
、手元を経由するからには最善を尽くす。
シャルナークはオーラの揮発性を高めて、アンテナを“洗った”。
─実のところシャルナークは、既にいくつかの感染症にしっかりと感染していると見た方が正しいだろう。
─しかし、「キャリア」ではあるものの、逆に念能力者の体調を慢性的に損なう程の悪性の感染症
が発症する可能性もまた、少ないと思われる。もしも発症する時は、そのまま劇症を発して死ぬこ
とになるのではないだろうか─
♀女「…それデハ、ごゆっくりドウぞ。御用ノ際は、お手元ノボタンを押シてお呼び出し下さイ」
通り一辺の決まり文句を吐き出すと、ウェイトレスはワゴンと共に大人しく退室した。
シャルナークは円卓の「縁フチ」、ターンテーブルの外側部分に携帯電話を置いて、モニタをウォッチで
きる状態を維持する。
ウェイトレスに自由に本来の仕事をさせたまま、歩哨の役目を勤めさせようというのだ。
普通の人間ならいざ知らず、念能力者がその場に居合わせれば、確かに気になって仕方ないだろう。
シャルナークが特にそうしたせいで、ウェイトレスの全身のオーラが活性化して、特に両目がビカビカ
に光っているのだ。
>>257の続き 団長・過去篇
右の肩の後ろの、アンテナを刺した角度が巧妙である為に、背後からでないと見えはしないが、
シャルナークのアンテナはわざと誰の目にも明らかな造りをしており、そして、このウェイトレスのよう
に、刺さった状態もかなり目立つことが普通だ(─左側後ろから見ると、適当に折り曲げて畳んだ
ティッシュペーパーを、画鋲で突き刺しているように見える)。
丁度「ワインのコルク抜き」のようなT字型の、左右に翼を広げた、携帯電話と同じくやはり蝙
蝠を模したデザイン、シャルナークの肌色に近いアイボリーカラーの手のひらサイズ。
口を開けて牙を剥ムいた「阿形アギョウ」と、閉じた口の端から牙のはみ出した「ロ云形ウンギョウ」の、
2本・2種類。
その蝙蝠の下半身、まっすぐに伸びた「針」部分には、「銛モリ」のような「かえし」が、ついていない。
故に─実は誰もがシャルナークのアンテナを、物理的には簡単に引き抜くことができる。オーラでがち
がちに固定して抜けなくしているのではなく、逆に、誰かの意志もつ手が抜き取ろうとする、その
オーラに素直に従うように設定してあるのだ。
例えば、チームで行動する「敵」の内の一人が、シャルナークの支配下に入った場合、その他のメンバー
に操作の支配条件が「見易い」、「解り易い」ということは、そのまま、(こちらからの情報開示抜き
の─)解除条件の開陳に繋がる。
解除条件を相手に悟らせる意味、それは即ち、シャルナークの能力の底上げの基盤になっている。
同じ底上げの効果を得るのに、自らの解除条件の通告を必要条件として組み込む能力者もいるが
、シャルナークの場合は、その手間さえ省く程の分かり易さだ。
加えて、シャルナークの場合は、始めから2本しかそのアンテナを持たず(─そのことまでは相手に伝
わらず、また伝えるつもりもないが)、しかも、2本を2人別々に刺したところで、同時に支配下
における訳でもない。つまり、対象を1人のみに限定する能力だ。
>>258の続き 団長・過去篇
それらの不利な条件を踏まえることと引き替えに、シャルナークが手に入れたのは、支配の即効性─
相手の体の、たとえ末端部分であろうと、アンテナが刺さりさえすればその瞬間、相手の意識や
本能を断ち切り、無力化してしまう程の絶大な効果だ。
─また、「敵チーム側」の「解除作業」に対する防御法としては、(オートであれリモートであれ─)
「刺さったアンテナを周囲に気づかせないよう立ち回る」こと、或いは「抜こうとする周囲の動き
からアンテナを抜き取られないように防御する」ことを、命令(コマンド)入力することはできる。
そのレベルを上げれば、シャルナークにオーラを活性化された、例えばこの若いウェイトレスの身体
能力なら、普通の人間相手であれば撃退して、やってのけるだろう。
「─親しい人間を傷つけたくない、暴力を振るいたくない」という本人のストレスを、シャルナークは
感知することができるが、お構いなしにコマンドのレベルを上げると、オートモードですら殺人ま
でもやってのける。
人を玩具にする─人としてけして褒められたものではない所業を、この男は唯一の必殺技にして
いるのだ。
…
†団長「とりあえず食おう。話は後だ」
シャルナークは当然のように、ウェイトレスが用意した烏龍茶を、2杯とも我が方へと寄せた。まさか
致死性の毒物までは仕込まれていないだろうが、確証が取れなかった以上、2人ともが口にする訳
にはいかない。
もちろん、団長の体を慮オモンバカってのことではなく、先に団長に約束させた通り、自分が毒に
中った時に、我が身を守らせ、また介抱させる役目を押し付けんが為だ。
>>259の続き 団長・過去篇
一方、団長はウェイトレスが陶製の箸置きの上に丁寧に据えた、竹製(?)の割り箸を手に取り
黙考している。割り箸も箸置きもストローその他も、部屋に備え付けのワゴンとチェストに最初
から用意してあったものだ。
†団長「(…竹…は、使い捨てか…?)」
そういえば、ここアレオ市のあるクースー島のみならず、ホンスー大島においても、割り箸を
使い捨てる風習は、幾度も目にしている。
団長が、割り箸についてはたと思い至ったのは、それについてのリサイクルがイメージし辛い
アイテムだったからであり、それを気付かせたのは、同時にこの国では珍しいリサイクル製品を、
この場で初めて目にしたからだ。
この部屋にある小じんまりとした鏡台の「手洗い」の横には、リサイクルペーパー製の「手拭き」が、
はめ込み式の箱の中に備え付けてある。普通イーベン国内では見ることのないアイテムだ。何しろ、
ポケットに持ち運ぶ鼻紙すら贅沢品なのだ。
ここクースー道(島)西海岸が、イーベンで唯一の開港地であり、この旅館がセンターファの
資本が注入された、高級宿泊施設ゆえ─なのだろうか。
濡れた手を乾かす光学式の除菌乾風機はどこにでもあるが、(─電気に困ることはないイーベン
だ)、それで満足できない人は自分のハンカチで拭くしかないのが普通だ─鼻をかむ用と手拭き用
に、2枚以上持ち歩いている─携帯鼻紙や箱入り鼻紙は、在るには在るものの、一般にイーベン人
は洗濯することが前提の「布」で鼻をかむ(─蛇足だが、紙オムツはある)。
イーベンに紙の原材料が新規に輸入されることはないので(多少の自給はあるものの─)、
紙以外の原材料で代替できるアイテムは全て、「脱紙化ダツカミカ」が達成されている。
>>260の続き 団長・過去篇
例えば「新聞紙」に印刷された新聞は、通勤途中での販売しかなく、故に家々では、電子通信の
内容をモニタに映して、寝っ転がりながらコンテンツ毎に拡大して読む。
イーベン国内発行部数最大の週刊誌、「週刊少年サバイブ」も、紙に刷るのは25万部程しかなく、
それを手に入れることができなかったイーベン人は、世界標準仕様と同じ“弄られた”配信データ
を電子購入するしかない。
漫画や新聞紙に回す紙が充分でないのを逆手にとり、レア感と飢餓感を醸し出す手段になって
いる訳だ。定期購読は勿論できるが、駅売りや書店売りの場合は、朝から“張って”いないと、
まず買えない。
そのせいかしらん、団長は入国してからというもの未だに、紙刷りの「週刊少年サバイブ」を
手に入れて、大好きな漫画「ベベンベベン・ベーベベン」を、現地のイーベン語のままで読むことが
できないでいる。
イーベンの母語で写植された「サバイブ」は、間違いなくここでしか目にすることのないレアもの
だ。イーベンで最も用いられる、古くからのセンターファ文字、即ち漢(ハン)字(─シンナーズ
キャラクタ)は世界中に普及しているが、イーベン固有の文字である2種類の「仮名」は、アンダー
グラウンド(※─地下カルチャー)を除き、学術的にしか知られていない。
その学術の「壁」、またイーベンに関する情報封鎖を、まさしく蟻の一穴、静かに突き崩している
のが、イーベン発の「漫画」及び「アニメ」だ。
>>261の続き 団長・過去篇
─各国の言語やハンター文字で、ネーム(台詞)や“背景の文字(≒オノマトペ)”の入った、
紙刷りの「サバイブ」は、世界中どこにでもある(─地域によって販売形態が違う。必ずしも「週刊」
ではなかったり、人気のない漫画を最初から省いて製本していたり、各国各様だ)。
しかし、絵の背景に書き込まれて溶け込んでいる、イーベン文字を完全に除いて「自国の漫画・
アニメ」に見せかけること(─南クルイア辺りがよくやっている)─即ちイーベン固有の匂い、
染みを完全に消すことは不可能だ。
故に、世界中の趣味人の間で、センターファの従属国(─小地域扱い)の市民、イーベン族は、
独自の文字を用い、何しろ面白い漫画を次々に創る、優れた漫画家・アニメータを輩出する連中だ
と認識されている。
そして、宗主国・世界に冠たる誉の自由民主主義国家、センターファ共和国を経由して─
ではあるものの、世界中の電子配信の分も含め、正当な、莫大な利益が、著作権者・出版社には
もたらされている。
イーベンの物理的な経済封鎖については徹底しながらも、イーベン人が売り上げた真っ当な商売
(コンテンツ産業)から、利ざやを掠め取るようなことだけはしないというのは、苦労して民主化を
達成したセンターファ人の、矜恃キョウジなのかもしれない。
>>262の続き 団長・過去篇
…
♯シャルナーク「…どうしたの? 団長。まさか、「箸」は…大丈夫でしょ? 最初からこの部屋にあった
んだし、ウェイトレスさんが選んで置いたんだから」
この部屋に2人を通した段階では、確かにウェイトレスの自由意思だった─が、仮に、最初から
毒仕掛けの食器が用意してある部屋に通したのだとしても、初めに注いだ水のグラス以外は、全て
シャルナークの支配下での作業。つまり彼女は、毒が塗布された箸置きやら箸やらが手元に用意してあっ
ても、「それと知らなかった」場合を除き、2人の前に配ることはできない。
シャルナークはお構いなしに、陶製の匙(※レンゲ)で炒飯をかき込み、念願の冷たい烏龍茶を、
ストローで吸い込んでいる。
†団長「…ああ、すまない。そうじゃないんだ」
─そういえば、シャルナークは、イーベンの漫画など好んだろうか。
団長は、片手で器用に割り箸を分かち、とろみのあるスープの中の春雨をつまみ出して、呼気を
吹きかけた。
シャルナークも、太平燕(タイピーエン)の丼鉢の中を箸で探って、やや残念そうに呟いた。
♯シャルナーク「…“燕の巣”は、入ってないね。やっぱり」
>>263の続き 団長・過去篇
†団長「…入ってないな。というよりお前、“燕の巣”なんて、食べたいか?」
♯シャルナーク「まあ、めったに見かけない料理だしね、イーベンになら、ひょっとしてあるかなと思っ
てさ」
†団長「期待させて悪かったな。まあ、あれを流通させるのは、イーベンどころかセンターファ
でも難しいさ」
野生の岩壁燕の、卵を横取りする─のではなく、それどころか、その卵を産む為にせっせと
親鳥がこしらえた巣の方を、まさしく卵を産む直前に奪うやり方がいかにも人道的でないと、
世界中の野鳥愛護家、自然団体から総好かんを食らう料理なのだ。※─産卵済みの巣は、
採取しない決まりだそうだ─
確かに隔離地域のイーベンのこと、秘密裏にその程度の悪事が行われていても不思議ではないが、
逆にイーベンには、食材を仕入れる物理的なルートも、金銭的余裕もない(※─食材である巣を
作る岩壁燕は、遥か南方の固有種で、イーベンにもセンターファにもいない)。
こそこそと贅沢な食事がしたいなら、イーベンよりもセンターファの高級飯店に行って然るべきだ。
団長は、調味料を着けずに餃子をかじった。“素”の味が好きなのかもしれないが、何より、
部屋備え付けのカスターの中の調味料を使うことを避けているのだ。
†団長「…それにね」
餃子を燕下した団長が、言葉を継いだ。
>>264の続き 団長・過去篇
†団長「そもそも、太平燕(タイピーエン)の燕ウェンの文字の意味するところは、燕の巣じゃないよ。
元々は確か…雲呑(ワンタン)の意味じゃなかったかな…」
♯&† シャルナーク&団長 「(…フェイタン…)」
目が合った2人だが、表情を変えることなく、食事を続ける。
何の気なしに、シャルナークが言った。
♯シャルナーク「…もっと量があるかと思てたよ」
─「ランチセット」なのだから当たり前かもしれないが、3種の料理は2人それぞれの皿や鉢に
分割されている(─烏龍茶(冷)だけは、涼しげなティーポットにまだまだおかわり分がたっぷり
入っている)。
携帯電話のモニタで見るまでシャルナークは、例えば炒飯なら、大皿に大量に盛られて登場し、
イーベン生まれのターンテーブルを回して寄せて、巨大なサバ-スプーンを使って手元の皿に
取り分けてから食べるもの、と思っていたのだ。
†団長「あっ、ごめん。足らないか?」
♯シャルナーク「いやいや、そんなことはないさ」
慌てて否定するシャルナークだ。
というのも、このレベルの栄養価とカロリーなら、一度取れば10日は食事なしで活動することも
可能な程、2人は燃費の良い念能力者なのである。
それでも例えばこの2人は、仲間内では頭脳派、司令塔役なので、肉体派の連中と比べると、
若干スタミナは劣る。
脳の疲弊を避ける為に、炭水化物を欲する信号を、割と早めに発するようにできている体なのだ。
2人のいないところでは、「あの食いしん坊たち」とまとめて呼ばれているのを、2人だけが
知らない(─ウヴォーギンの場合は、間隔は開けることはできても、一度に食べる量が多いので、
「大食らい」と呼ばれている)。
─瞬発的思考を巡らし、いち早く分の良い選択肢をあぶり出してそれに賭ける実践を、
仲間達と共に数多くこなしてきた。
その経験則が、彼らの思考ルーチンを鍛えることはあっても、それに費やすブドウ糖消費量を
節約するような成果は上げないし、またそのようには成長しなかった。
人生において困難や剣呑に挑むこと自体は大好きなのだが、事態の演算が終わらない内に結論を
出して動きだすような、冒険家には成らなかったということだ。
>>265の続き 団長・過去篇
件の、大好物の炭水化物、“少なめ炒飯”をもぐもぐと食べるシャルナーク。イーベンで一般に
食べられている炒飯よりも、はるかに油分が多いのは、ここがセンターファ人の往来の多い
開港地ゆえの味付けだろう。
♯シャルナーク「…ただ、イーベン国内に入ったとはいえ、センターファレストランだからね。それで
結構“構えてた”だけさ」
シャルナークが言っているのは─
「度を越した盛りだくさんの量の料理」
でもって歓待する主宰に対し、客の方は
「食べきれない程いただきました。もうお腹いっぱいです」
と、わざと食べ残すパフォーマンスで返礼する、センターファのもてなしについての礼節のこと
である。
そして、シャルナークも勿論知ってのこと、イーベンの食事に対する道徳は、そのセンターファの真逆だ。
則ち、食べきれない程の量を客人に供するのはホストとしてセンスがないし、逆に、
出された食事を食べ残すことも、ゲストの立場であろうとも、無教養とされる。
世界に伝播した「モッタイナイ」の精神は今も顕在だが、何よりイーベンの食糧事情の方が
それを許さない。備蓄を鑑みれば、余らせる、食べ残す程に充分とは言えないからだ。
団長がそれなりの対価を支払い、ハンターサイトで知り得たところでは─
>>266の続き 団長・過去篇
ツガール海峡の向こう、端海道(タンカイドウ)自治区を含むイーベンの人口は、凡そ6000万人程度。
年代別人口分布はやや下垂型、即ち少“死”化、微増子化の傾向にある。
そして、食糧の自給率は、名目100%─家畜の飼料さえ輸入されない、絶海の孤国。在るものを
皆で分けて食べるしかない。
それでは、欠食飢餓率はどうかといえば、国民全体で92〜98%─100回の、正当な食事を取るべき
機会の内、92回から98回は食事が行き渡っている計算になるらしい。
例えば、ヨークシンシティのような大都会でもこの数字はあまり変わらないので、経済の規模が
小さい割には、国民全体での食糧資源分配は上手くいっている、と言えるのだろう。
その理由の一つは、イーベンの王宮が全ての等級の市民に対し、(主に子供の為の─)各種学校に
併設してある「給食施設」を利用する許可を与えているからだ(※─無料給食から、利潤徴収
相当額まで、同じ食事を取っても、市民の等級によって支払いの額に段階がある)。
昼食のみならず、子供達に欠かせない“おやつ”も適宜供され、為に、児童・青少年の欠食飢餓率
は105%を誇り、隔離経済下の従属国といえども、子供の勉学やスポーツ、また体の成長を妨げる
恥をさらしてはいない。総じて、国民は健康に暮らしていると言えるようだ。
>>267の続き 団長・過去篇
全体の欠食飢餓率が100%に近づかないのは、休校日には給食施設も揃って休みになってしまう
からだろう。無論、朝晩の営業はしていない。
団長も、(─「抜き打ち調査」は別として─)、ハンターライセンスを提示する条件で前日までに
管轄当局へ連絡を入れれば、後は指定した(─指定するのは、「調査権限」を持つ団長の方だ─)
学校の給食施設に昼時にふらっと行くだけで、殆ど無料で児童と同じ栄養価の高い給食が食べ
られるところだが…さすがの団長も、そこまではしない─
ぶくぶくと、烏龍茶(冷)で口中をすすぎ、ごくりと飲み下して喉を洗ったシャルナーク。相変わらず、
団長には一口も飲ませるつもりはないようだ。
♯シャルナーク「それで、今後の予定はどうなるの?」
同じく、僅かな太平燕の出汁の効いた塩味のスープでもって、口の中の炒飯の油と、餃子の
ニラの残り香との格闘に敗北したばかりの団長は、落ち着いて応えた。
†団長「ああ、ちょっと待ってくれ。船の入港前にチェックしてから、まだいくらも経ってない
んだが…」
団長はスーツの内側から携帯端末機を取り出すと、展開してテーブルに置いた。そして、両手指
でキーを打ち、パスワードを解除した。
†団長「『イーベンの首都の─新聞社と─「調査会社」とコンタクトを取っている─然るべき情報が
出揃うまで─クースー道(※─アレオ市のあるクースー大島)から動けない─ホームコードに連絡
─を待っている』」
♯シャルナーク「(…動けない割には、急がせてくれちゃって…。) 『─それで─首尾はどうなの?』」
†団長「…この件に関しては…ないな。よし、次の予定をこなそう」
>>268の続き 団長・過去篇
♯シャルナーク「?…何さ、次の予定って?」
†団長「…その前に、『2つ 心得てくれ─1つ─お互いを名前で呼ぶこと ライセンスの
シグネチャで通す─“団長”は止めてくれ』」
─やれやれ、と思い至らない訳にはいかないシャルナークだ。世界一信用の置ける名刺、ハンター
ライセンスを使った自己紹介─といっても、これまで大概、説明に手間をかける羽目になった。
あれをここでもやることになるのか─
─捨て子も、親がいる子も、分け隔てなく─流星街の不文律の一つで、シャルナークの故郷には、
先祖代々受け継ぐ、家名(ファミリーネーム)というものが無い。
団長やノブナガのように、自分で適当に名乗りたい家名を勝手に名乗るものもいるが、それとて、
仮に流星街の中で我が子を設けた場合、その子が「ルシルフル」や「ハザマ」を名乗ることは許され
ない。
やはり世界的に見ると珍しい風習のようで、頭から「コードネーム(※─ハンターとして活動す
る際の仮の名)」を理解しない人々に対して、姓のない、只のシャルナーク(※←本名)だと理解させるのは、
大変に面倒なことなのだ。
♯シャルナーク「『了解─クロロ─シャルナークと呼び合う もう1つは?』」
>>269の続き 団長・過去篇
†団長「『質問─船からこっち─着けられてるか?』」
♯シャルナーク「…? 『いいや─?─』」
不可解な─このタイミングでその件の確認を持ち出すとは。
†団長「『だよな─俺はずっと着けられてる』」
♯シャルナーク「『!! 今もか?─』」
†団長「『今─違う─この旅館には入って来ない─昨日から─忍シノビだ─多分』」
♯シャルナーク「『シノビ─(しのおびィ!!─※音にするとこう)』 ワァオ、ファンタスティック!! 『─言ってる場合じゃないな』」
†団長「声がでかい。何人だ、お前は。『向こうの狙いは分からない─今のところ─遠巻きに
こっちを探っているだけだ』」
♯シャルナーク「…クロロ、『─言っとくけど こっちは忍の狙いどころか─貴方の狙いすら分かってない
んだからね』」
†団長「『悪い─それについては 追々2人切りのときに』」
♯シャルナーク「『今─2人だろ!! 他に誰かいるのか─!?』」
†団長「いないけど、それは後あと。その前にお願いがあるんだ。外へ出よう」
♯シャルナーク「何さ? お願いって?」
†団長「すぐ分かるよ。時間にして…小一時間といったところか。すぐ終わるよ。さ、行こう」
♯シャルナーク「…了解…『─トイレ行ってくるから』 外で待ってて…」
>>270の続き 団長・過去篇
支払いを済ませた団長が、レストランの外の待機用の椅子に腰掛け、シャルナークを待っている。
他に客が来る気配がないから良いようなものの、居合わせればちょっとした営業妨害だ。
座る団長を見て「待たされる」と思い込み、踵を返した他の客がいなければ良いのだが。
♯シャルナーク「お待たせ…」
目が合う二人。
†団長「…噛んでるから、いいや」
二人ともが、お馴染みのチューインガムを一枚、相手に差し出していた。
♯シャルナーク「ああ、そう」
団長は支払いの時に、シャルナークはウェイトレスからアンテナを抜き取る時に、
それぞれ同じウェイトレスから互いの分まで貰ったのだ。
†団長「『一階に行く─ 一仕事頼むよ』」
♯シャルナーク「『了解─』」
階段を下りきると、団長は旅館の一階の奥に申し訳程度に設けてある、理容室の前で足を止めた。
†団長「シャル、久しぶりに髪切ってくれ。頼むよ」
♯シャルナーク「─! …いいけど、高いよ。まあ、お金持ってるんだろうけどさ」
─なんだ、そんなことか、とシャルナークは思った。なるほど言われてみれば、
団長の包帯鉢巻から溢れる頭髪は、やや伸びすぎかも知れない。
これはつまり、団長としてはシャルナークの能力に頼り切って、“楽”をしたい訳だ。
喉元に剃刀をあてがわれながら、いつも通りの警戒をしていては、せっかくのリラックスタイムが
寛げないということだろう。
…
小気味良く、落ち着いた扉鈴(ドアベル)の音が鳴る。
〆バーバー♀「はい。いらっしゃいませ」
生成のエプロンを着けた、小柄な血色の良い女性が、品良くシャルナークを迎え入れた。
>>271の続き 団長・過去篇
─BARBER 夕焼け─
エプロンには、ガラスの押し扉と同じように、理髪店の名前がプリントしてある。
シャルナークの後に続いて入った団長は、後方から“円”を展開し周囲を警戒している。
その団長へ女性理容師が話しかけた。
〆バーバー♀「ようこそいらっしゃいました…上着は…こちらへ、お渡しください…」
団長の額の真っ白い包帯が一瞬気になりながらも、にこやかな笑みを作り、脱衣を促す。
†団長「あ、はい」
上体を左に右に捻り、背広の上着を脱いで右手に移し、吊して差し出す包帯男。
〆バーバー♀「!!」
女性理容師は目を剥いた。最初はそのまま、ガン・ベルト(?)そのものに見えた。
しかしよくよく見ても、包帯男が背広の下に着ているのは─胸部の“身ごろ”がそっくり削られた、
奇妙な形の黒い革製のベストはまるで─ガン・ホルスター(?)のようだ。
─イーベン国内の警察官は、普通拳銃を装備していない(─制服、私服問わず)。そんなものは、
外国の映画の中だけのことだと思っていた。
女性理容師はまさか拳銃のあるやと思い、包帯男の両の脇を交互に見たが、
それらしい“銃把(握り)”が見当たらない。
〆バーバー♀「…? …あ!! お預かりしますね」
─或いは団長を真後ろから見れば合点がいったかもしれない。左右の肩甲骨よりも下、
やや外側に、切っ先を上にしたナイフが一振りづつ、硬質のケースの中に収めてあったのだが─
女性理容師は慌てて団長の上着を受け取り、努めて落ち着いて、ハンガーに吊るそうとした。
>>272の続き 団長・過去篇
その理容師の右肩の後ろに、シャルナークは見もせずにアンテナを突き刺す。相変わらず素早い─
引っ込めた手はもうズボンの左のポケットの中の、携帯電話をいじっている。
〆バーバー♀「…お二人とも、奥の椅子カラどうゾ。今ならお待たせイタしませんヨ」
例の、理髪用電動椅子が全部で6脚、一列に並んでいる。
団長の上着を吊し終えた女性理容師は、先んじて奥に進み、2人を案内する。
見たところ夫婦なのだろうか、もう一人、こちらは痩せた、同じく初老の男性理容師が、
奥の理髪用椅子の後ろでにこやかに会釈してシャルナークを待っている。
†団長「二人だけだな、店の中には…」
ふと口を開いた団長が、シャルナークの前に指先からオーラを押し出して(※─流描リュウビョウ)進めた。
†団長「『─やれ─』」
〆バーバー♂「いらっしゃいま…」
男性理容師に招かれるままに間合いを詰めたシャルナークが、その男の瞬きの間に
身を沈めて背後に回り、やはり同じく右肩の後ろにもう一本のアンテナを突き刺す。
†団長「それじゃ…よろしくお願いします」
一方の団長はそう言いながら、おもむろに女性理容師の正面で、頭の包帯を外し始めた。
シャルナークの支配から解放されたばかりの女性理容師は、ちょっとした記憶のフラッシュバック
に対し、意識で整合性を保とうと努めていたが、それよりも、目の前の縦縞シャツの青年が
外して見せる頭部の包帯の下から現れるであろう「もの」に、気持ちを集中せねばならなかった。
プロとして、うろたえてはならない─痣、傷、手術跡─例え何であろうと、この青年はこれまで
こうやって、普通の理髪店で髪を切ってきたのだ。それが青年にとっても、理髪店にとっても普通─
ならば、今までの理容師にできて、私にできない理由はない。
>>273の続き 団長・過去篇
くるくると、いつもやっていることだから手慣れているという風に、団長は手前で包帯を
巻き取り終え、纏めた「巻き」をスラックスのポケットにしまった。
額の包帯の下から現れたのは、“よれ”のきた、使い古しのくすんだモスグリーンのヘアバンド。
そしてさらにその下から現れたのは─品の良い十文字の刺青だった。
それを見て、女性理容師はほっと人心地をついた─不幸にして付いた傷跡、などではなかった
からだ。
刺青ということは、青年が自分の意志で入れたと解釈してよいだろう。
まさか囚人に施す、異国の刑罰でもあるまい。
髪を下ろして乱した風貌だからちょっと見では分からないが、
例えば毛流を後ろに油で撫で付けて、額の刺青を露わにすれば、
それは、青年の人となりを象徴する、注目を集める紋様となるかも知れない。
まさか若くして宗教指導者じゃあるまいし、それともただ単にそういう「系」のファッション、
或いは外国の音楽家の間ででも、流行っているのかしら─
〆バーバー♀「あっ、…ネクタイもお預かりしましょうね…お首周りも、ゆっくりなさって…」
気がつけば既に椅子に腰掛けてしまった青年の後ろから、女性理容師は言った。
†団長「あ、そうですね」
そう答えながら首元に手を掛ける鏡の中の団長に向けて、シャルナークが浮印で話かける。
♯シャルナーク「『俺も一緒に髪切る流れになってるけど─』」
>>274の続き 団長・過去篇
シャルナークの問いかけに片目を瞑りながら、団長は女性理容師の差し出す手に青いネクタイを渡す。
†団長「はい、お願いします」
そして、シャルナークへの返事は─
†団長「『それで無問題(モーマンタイ)だろ?─』」
そこまで描いてから、団長は自分の間違いに気付いた。鏡に写る相手に向かっての浮印は、
自分で一文字ゝオーラの左右をひっくり返す必要はないのだ。
「鏡文字」がそのまま、相手の読める浮印になる。
†団長「『操作の初動は─“かかる”んだろ?』」
今度は間違えずに、浮印の左右をそのままに浮かべる。
♯シャルナーク「『かかるよ─この2人は─シロと診た』」
シャルナークは、例の短い丈の上着を脱いで男性理容師に手渡した。
♯シャルナーク「はい、これ。頼みます」
〆バーバー♂「…はイ、お預かりシマス」
痩せた男性理容師は、珍妙な形のシャルナークのジャケットを受け取って、
入り口近くのハンガーへと歩いた。
営業スマイルの女性理容師は、鏡の中の黒い髪、黒い瞳の男前のお坊ちゃんに話しかけた。
〆バーバー♀「…さっ、お客様は本日は、どのようにカットなさいますか?」
†団長「ええ…この形のまま、前も横も後ろも短くして下さい。
襟足は刈り上げずに、空いて減らしといて下さい」
〆バーバー♀「はい、畏まりました。襟足は刈り上げないで、空いて減らすんですね」
丁寧なオーダーの復唱に対し、団長は鏡の中の彼女への微笑みでもって、了承の合図をした。
─意外なこだわりだな、と思っているところのシャルナークへ、戻ってきた男性理容師が話しかける。
〆バーバー♂「…お客様ハ、本日はどのヨウになさいマスか?」
♯シャルナーク「前髪を短くして、横と後ろは刈り上げて下さい」
たとえ流れで決まった散髪であろうが、Mr.無頓着に躊躇いはない。
〆バーバー♂「刈り上げハ、バリカンは使ってモよろしいデスか?」
♯シャルナーク「ええ、ずばっと刈っちゃって下さい」
〆バーバー♂「はイ、畏まりマシた」
男性理容師はシャルナークの横顔を見ながら、ペダルを踏んで椅子の高さを調節した。
>>275の続き 団長・過去篇
首から下をすっぽりと覆う「髪除けマント」の下から、浮印のオーラを上に伸ばして
シャルナークは右手の団長に語りかける。
♯シャルナーク「『なんだか昔みたいだね』」
†団長「…『ああ─“おばちゃんの床屋さん”な』…」
二人ともが鏡から目をそらし、「思い出し笑い」を噛み殺している。
〆バーバー♀「あらあら、お二人とも何がそんなに可笑しかったのかしら? そうしてるとまるで
子供みたいね。ふふふふっ。あら、や〜だ私ったら、お客様に向かって。ねえ。
はい、目を瞑ってて下さいね」
コロコロと陽気な笑い声を上げながら女性理容師は、団長の髪を櫛で持ち上げ、霧吹きで水気を
含ませていく。
〆バーバー♂「はァイ、お客さんも頭動かサないデ下さいネ」
♯シャルナーク「…はい、すみません…(笑)」
霧吹きを髪に受けながら、シャルナークは尚も笑顔を隠せない。
別段、「おばちゃんの床屋さん」に特別な思い出がある訳ではない。ただ、子供の頃の
日常の風景を、2人ともが思い出し、鏡に写る“昔の自分”を、相手もまた想い描いているだろう
と思うと、自然と可笑しさがこみ上げてきたのだ。
あの頃はまだ、団長は近所の物知りのお兄ちゃんで、シャルナークは「知りたがり・調べたがり」の、
可愛い弟だった。
少し大きくなったとき、お兄ちゃんがあんな怖い喧嘩をしょっちゅう、それも喜気としてやる
ようになるとは思いもしなかったし、まさかあの可愛い弟が、意識を断たない限り戦いを止めない
戦闘狂の一面を持っているとは、思ってもいなかった─
シャクシャクと小気味よいハサミの音を頭上に聞きながら、またもシャルナークは団長に話しかけらる。
♯シャルナーク「『─話題を変えよう─クロロ─聞いたことあるかい?
美容師の賞金首狩り(ブラックリストハンター)─』」
>>276の続き 団長・過去篇
†団長「『!─知っているなら話は早い─奴について─ハンターサイトで
判る限りは─分かっている』」
♯シャルナーク「『その点については─僕も同じ』」
†団長「『─ということは─対策は◆■※×△▽…─』」
〆バーバー♀「はい、すいません。前髪はどこまで残しますか?」
♯シャルナーク「『(笑)』…」
団長の視界は突然に、女性理容師が櫛で下ろした大量の前髪のカーテンで、塞がれてしまった。
シャルナークとの会話を中断し、団長は女性理容師の問いかけに応える。背筋を伸ばし顎を引き
(※「アゴを引く」─顎をそのまま下に、喉にくっつける形をとる…ボクシングなどの慣用句)、
垂れ下がる濡れた前髪越しの、鏡に写る、殆ど見えない自分の顔を睨みつけた。
〆バーバー♀「(…? ま、恐い目。…! そういえば、外国の歌手にこんな人が…)」
†団長「…はい。これで、目が隠れないくらい。眉毛のところでばっさりと切って下さい」
〆バーバー♀「(あら、随分短くしちゃうのね…) それだと頭を起こした時に、眉毛よりも大分上に
なってしまいますが…、“おでこ”ははっきりお出しになるの?」
†団長「はい。それでお願いします」
〆バーバー♀「はい、畏まりました」
迷いのないお客様の返事に得心した女性理容師は、前髪を櫛で押し支え、鋏を入れた。
〆バーバー♀「(─やっぱりこの人、歌手…か、ギターとか弾く人なんじゃないかしら)」
>>277の続き 団長・過去篇
団長─クロロは所謂、「拳法家」である。故に、ボクサーやレスラーのように、
頭を下げて敵と向かい合う構えは採らないことが普通だ。
通常、背筋を伸ばし、頭頂を高く“吊った”姿勢、
緩んだ首肩の上にそっと頭骨を乗せた楽な構えを採る。
とはいっても、動きのある戦闘中、全く頭を下げない訳にもいかないし、
遠く(※─戦闘中にやむを得ないとき“張る”、感知用の“円”の域外─)を注視しようと思えば、
どうしたって確実な視界を確保する必要がある。
前髪を除ける、その無駄な瞬き一つ、首の横振り一つの間が、死を招くことさえあり得るのだ
─女子が好む漫画の登場人物のように、伸ばし放題という訳にはいかない(─眼光を描くとき
何故かそこだけ都合よく、“ベタ”や“トーン”が掛からない)。
殊にここイーベンでは、自分の形貌(ナリカタチ)にハンターとしての身分が付いて回る。
できるだけ、個人の素性は他人に知られたくないものの、
カメラのない処では厚く巻いた包帯を外すこともあるだろう。
いつもならオールバックに固めているところだが、そうとばかりは限らない。
丁度今日のように、“気分で”降ろしているときもあるやも知れん。
─それに件の、「美容師の賞金首狩り」のこともある。
シャルナークといる安全な今、ばっさり短くしておけば、後はしばらく伸ばし放題、
たまに「自分で床屋さん」するくらいで、安全パイの美容師に巡り会うまで、間に合うだろう。
>>278の続き 団長・過去篇
†団長「『─それでその─美容師の賞金首狩りについての対抗策だけど─』」
♯シャルナーク「『ああ─後ろのおじさ£〜@〜‥』」
〆バーバー♂「はイィ、お客様は前髪は、ドノくらいがお好ミデすカ?」
少しかすれた声で、男性美容師もまた口を開いた。
♯シャルナーク「…ええぇ、眉毛が見えるくらいで」
〆バーバー♂「…この位デ?」
†団長「(…んぐぐっ、くっくくっ…) 『Ww』」
本来、自分の操り人形であるはずの、アンテナ差し込み済みの男性理容師に翻弄される
シャルナークが愉快だ。自動操作の操り人形は、櫛で前髪を“たわませて”シャルナークの“眉毛の中程まで”
を、鏡に露出して見せた。
♯シャルナーク「ああ…いや、もうちょい上でいいですよ」
〆バーバー♂「今は髪が濡れてマスけド、乾イタらもっと上に来てしまいマスが、
…いかがなさいマスか?」
♯シャルナーク「(だからその分を入れてだよ!) …ああ、はい、それでいいです」
口上では、「カミさん」の前での「旦那さん」の顔を立てる優しいシャルナーク。
しかしその裏、見えない左手の携帯電話では、マニュアル(※手動)操作で自我を通す気満々だ。
男性理容師がわざわざ前髪に縦の“たわみ”を作ってシャルナークに示したせいで、
そこを基準に切られたのではまだ長い、というのがシャルナークの実感だ。
♯シャルナーク「(櫛の左手と鋏の右手を同時にちょい上に上げる訳か…)」
(※─実際には左手の櫛を前方へ“返し”て、毛先を眉や瞼から遠ざけて鋏を入れる)
♯シャルナーク「その“上げ率”の差異は…)」
シャルナークは男性理容師のオーラのリズムパターンと、自らのイメージを同調させた。
♯シャルナーク「(左手3、4の…右手7から9…っせーの…)」
─じゃきん。シャルナークが自分で入れた鋏の一撃だ。しかし─
♯シャルナーク「(げっ…)」
顔には出さなかったつもりのシャルナークだったが、一瞬目の色が変わったのを、
よりによって「奥さん」の方に、しっかりと見られてしまったようだ。
>>279の続き 団長・過去篇
実は先ほど来、「奥さん」は「ご主人」の手並みが何か普段と違う、
何事かを気にして一々手を止めるような仕事ぶりが気がかりだった。
その理由は、「ご主人」が、シャルナークのコマンドによって
無意識に互いの仕事の手順と立ち位置を計算して、背中のコウモリを、
奥さんの、鏡の画像も含めた死角に回るように立ち回っていたからだ。
(※─旦那さんの方も勿論だが、シャルナークのアンテナの「針」は、
普通は人体の無痛・無出血の点を選んで刺す。故に、恰幅の良さも相俟って、
奥さんは自分の背中のアンテナに気付かないままだ。
痩せた旦那さん本人は、鏡の中、背中にくっついた白いコウモリを見つけても、
奥さんの背中に変わったアクセサリーを見つけても、
シャルナークによる、意識の中に空白を作るコマンドのせいで、特別にそれを意識することはできない)
しかしながら、かように男性理容師がシャルナークの支配下にあるとはいっても、そのモードは
オートムービン(自動操作)。つまり、彼の表層の自意識は活発に活動している。故に、先刻
シャルナークに対し自ら前髪の残し幅を提案することもできたし、事実その通りに鋏を入れようとした。
そこに、シャルナークのマニュアル(手動)操作を被せられた為、自分の両手が意に反して動いた理由が
分からない。内心では仕挫(シクジ)ったと思ってはいるだろうが、それを顔に出さないことこそが
プロのプロたる由縁だ─血を出した訳でもない─髪はまた伸びるさ。
>>280の続き 団長・過去篇
〆バーバー♀「はぁい、横はこんな風に流してますよ」
女性理容師は団長の後頭部で合わせ鏡を広げ、動かして見せる。
本来であれば、
「前髪に合わせるとしたら、もう少し、流す角度をなだらかにした方が自然なんですけど─」
の台詞を付け足すところだが、「奥さん」の方もそこはプロだ。旦那が若い方の坊ちゃんの前髪を
切り過ぎた今、口にする台詞ではない。ここは肝を据え、事態に気付かなかった振りを続ける。
〆バーバー♀「耳の周りは、これでようございますか? 大分隠れてますけど…」
†団長「あ、もっと短くていいです」
〆バーバー♀「(イエス!!)」
─我が意を得たり─本来であれば、当然そうするべきなのだ。
〆バーバー♀「もみあげは揃えずに、このまま流して…」
†団長「あ、はい、それでいいです。少し短く」
〆バーバー♀「はい、畏まりました」
女性理容師は団長の頭頂部の髪をつまみ上げ、水平に毛先を切り落としていく。
これで耳の大部分が露出するはずだ。
やり直しの鋏の音を頭頂に聞きながら、団長は再び中断している会話に戻った。
†団長「『シャル─それで─美容師の賞金首狩り─“シザーハンズ”の対抗策は─』」
♯シャルナーク「『─今‥来たら速攻─後ろのおじさん達で仕留める─けど』」
吊り上がった眉毛もよく見えて、心無しか眼光怖いシャルナークだ。
この際のシャルナークの操り人形は二体、最初の一体で標的に組み付いて後、操作対象を切り替え、
残る一体で仕留めに掛かる「波状攻撃」。
その際自分の命を含めて、“人死に”を意に介さないことが、操り人形の使い勝手の良さなのだが、
しかし─冷静な風の、いつものシャルナークが言う。
>>281の続き 団長・過去篇
♯シャルナーク「『でもね─「今」は─来ないんだよ─あいつは─』」
†団長「『ああ─少ないな確かに─ケースとしては』」
美容師の─賞金首狩り(ブラックリストハンター)、ビノールト。
本名よりもその異名、「シザーハンズ(髪切り鋏の両手)」の通り名で(※─能力名ではなく)、
彼が最近急に“その筋”で有名人になったのは、彼自身の悪行が暴かれて、
畢竟(ヒッキョウ)彼自身の首に、懸賞金が懸けられてしまったからだ。
「人肉喰い」─必ずしも悪行ならず─即ち、食人文化。
但し、死体になるまで待って食材にしている確証が取れない場合や、
安易に食材にせんが為の食肉刑(拷問刑・死刑)の判決を誘発する要因となっている場合があり、
自称文明人の側からは、白い目で見られている「風習」だ─
シザーハンズ─ビノールトは、正規のハンターライセンスを隠れ簑に、
その趣味嗜好を楽しんでいた。
現代においては、いくつかの代替手段が公式に認定されてはいるものの、
元来賞金首狩りとは、「生首」をのみ当局に提出すれば、それを確かに殺した証しとし、
換金の条件としていたことに由来する呼称だ(─血を抜いて、塩漬けにして持ち運び易いからだ)。
(*^o^)ノ∀ ∀τ(^-^*)
「
>>1さんようこそ♪」
>>282の続き 団長・過去変(←夢○獏風にしてみました)
賞金首達はどうせ、裁判を受けたところで死刑は確定的、もしくは既に牢破りの身。
せっかく娑婆(シャバ)に暮らしていても、大人しく身を潜めることもせず、悪行を繰り返す者もいる。
通念、殺してから死体を連行しても、事態(コト)は同じ─
しかし近年、いや、実は今・昔を問わず─復讐・拷問、所謂応報刑に処する為や、
更なる罪状の追加、また新たな「証拠・証言」の採集の為、獲物を「生かしたまま」連行する必要性及び
その価値は、死体のそれをはるかに上回る。
死体と生体、懸賞金の額は、「二倍(ダブルスコア)」が相場だ。
しかし、生首で持ち帰ると“半額”になってしまうにもかかわらず、結果的にそれを選んでしまう
ハンターが多いそもそもの理由は、殺さずに生け捕ることが、死体にすることの何倍も難しいからだ。
高い賞金を得たいその欲の挙げ句が、高い代償を支払う羽目になる例は、枚挙に遑がない。
ビノールトのハントは必ず、「生首」にて上がっていた。それ自体は別段珍しいことではない。
殺す段取りを確実に遂行することが、何より自分が生き残る算段であるし、そうでなくとも、
それ相応のダメージを与えた結果、図らずも死なれてしまうことだってあるからだ。
>>284の続き 団長・過去変
一度、死体にしてしまった以上、首から下は不要になる。
持ち運びの手間がかかることも勿論だが、死体内には腐り易い内臓もあるし、
何より手傷からの出血や、死後に垂れてくる糞尿が邪魔だ。また早めに「処理」を済まさないと、
鳥や狼が肝心の「顔」を囓りに来てしまう。それどころか、蛆、蠅が集(タカ)り、
やがて細菌の増殖により、溶け出してしまうだろう。
手順としては先ず、死体の脱衣前と脱衣後の写真撮影を済まし(─手が足りていれば、
一人は始終を動画で記録し、レポートに添えて当局に提出するのが望ましいのだが)、
大事な「首から上」を切り離す。髪の毛を縛って頭部を吊し、血を抜いた後は、
できるだけ見分けがつくように「保存(処理)」して持ち運ぶ。
さて、それでは不要になった「首から下」はどうするか?
それは特に、ハンターが食べてもかまわないのだ。
どだい賞金首になった時点で、本人にも死体にも人権などない。
法律により、みだりに野生の食肉を狩ることが禁じられている地域もあることだ、
賞金首狩り達にとっては、昔から、犬猫や鳥狐よりもはるかに食べ甲斐のある「首から下」は、
間違いなく貴重なカロリー元であった。殊に大人数のチームで仕留めた場合、数人分の死体がないと
即興のご馳走としては分量が足らないほどだ。
精緻且つ、勇猛で知られる賞金首狩り達の、勝ち鬨の後の残虐な食の習わしは、
彼らへの畏怖を巷間戦(ソヨ)がせるに一役買っていた。
ましてや、現代のハンターライセンス保持者(ホルダー)の場合、“その処理”は社会的信用もあり、
看過されることが殆どだ。無論、事後に問題が生じない、発覚しない場合を除いて─なのだが…
え、なにこいつマジで大丈夫かよ
>>285の続き 団長・過去変
ハンターの死体処理は、一般的、常識的には土葬の形をとる。
火葬するには高い温度が必要になるし(─つまり、窯(カマ)がなければ不可能だ)、万が一、
胴体の証拠採用という事態になったとき、例えば身長の計測や死体の骨に残る切創や銃痕その他を
改めるなどの場合、骨の一片すら残っていないというのでは話にならない。
また、検死や、持ち込まれた処理後の首による死亡認定の際には、影武者の問題を
クリアしなければならない。影武者本人は勤めて身代わりなのだから、殺したところで
一向に気の毒ではないのだが、当局としては、「殺し間違い」で賞金を払う愚は避けたいし、
何より、影武者の首でもって討伐完了とする訳にはいかない。
おそらくはDNA鑑定が発達するまで、多くの賞金首が狩られた身代わりの首を“だし”にして
逃げ仰せていたに違いない。
>>286さん ご心配なく。ビノールトの背景を補完する描写です。
詳細を文字にしただけで、原作の少年漫画では以下略、です。
>>287の続き 団長・過去変
土葬の場所としては、事後にハンターから提出されるレポート(─懸賞金の申請に必要な伝票)を基に、
当局が辿って掘り返すことが可能なように、
なるべく仕留めたその場から離れていない位置に埋めることが望ましい。
勿論その際、野犬や熊に掘り返されないように、速やかに、深い穴を掘る
(─大概、野営するハンターは折り畳み式の金属のスコップを携帯する。大便の用に便利だからだ)。
その、胴体を埋める穴をなるだけ小さく済ます為にも、邪魔な皮肉と、内臓を捌いて取り外し、
骨格を解体してコンパクトにした方が楽だ。
要は、掘り返す際に一箇所に一組一揃え、或いは一党づつ、
死体の全パーツがまとめて埋まっていれば、それで良い訳だ。
その解体の過程で、“流れ”のままに内臓や肉を鍋に放り入れ、調理してしまう。
首を切り離してすぐに逆さ吊りにしておけば、大概の血は抜け出てしまうので、その後の解体作業で汚れることもない
(─流血はなるべく、バケツか、掘った穴で受ける。地面を汚さないように、だ)。
※─全くの余談だが、調理について。炭火、また鉄板のない時には、生木などを燃した直火を当てて
死体に火を通す。所謂丸焼きだ。その際、剥ぎとることのできる毛皮や鱗を持つ動物
(蜥蜴や大魚など)は重宝だ。なぜなら、直火を当てても煤(スス)の着いた外皮を剥ぎ取るか、中身をくり抜けば、
煤(スス)で汚れた肉を食べずにすむからだ。
しかし、人体を食べるに際しては、残念ながら“それ”がないので、
煤を受けて熱のみを伝える鍋、とできれば煤除けの為の蓋、が必需品となる。
>>288の続き 団長・過去変
死体処理が、常識的に土葬になる、という意味はつまり─例えば山賊、海賊化した賞金首を狙う場合などに、
人里離れた敵のアジトや縄張りにこちらから踏み込んで仕留める、首を狩るからこそ、
その場から死体を動かせなくなる訳で、それゆえに現地で自ら検死、及び土葬をする義務が発生する訳だ。
─海戦にて仕留めた場合は、尚更手早く死体の肉と骨を切り離し、肉の方は早くに海に捨てないと、
(勿論食べていい訳だが)帰りの船上は酷いことになる。
この際例外となるのは、肉を削ぎ落とした賞金首当人の、胴体の骨だ─煮込んで肉を毟った後、
水で洗い薬品をかけて持ち帰り、陸オカで処理する(埋める)決まりだ。海洋投棄してはいけない。
海上で時が経つと、首なし(或いは散々)死体の遺棄と、区別がつかなくなるからだ。
また、賞金首以外に生じた死体の群れは、殺害記録を録った後は脱衣して(─こちらは頭部を
付けたままでよい)、できるだけ多くガスを抜く穴を開けて、海洋投棄してしまってかまわない。
尚その際、小さく散せるなら散した方が、早く沈んでよい。
尚、引き上げる際に、船頭役の頭数が足らずに、曳航・操舵しようにも、手に余る
その他の賊の船団は、漂着被害を避ける為に、穴を開け
なるべくきれいに沈めるか、それが果たせぬ時は、小さく破壊して海流に任せる。
290 :
名無し物書き@推敲中?:2008/12/07(日) 13:33:23
再開してるじゃん
先に本編読んでからここ見ると哀しくなる
カードゲームの話までは読んでいたけどラフ下書きで印刷されてから以後は読んでいないや
293 :
名無し物書き@推敲中?:2009/04/21(火) 05:09:53
よしひろ、ヒソカvsクロロの続き頼む
>>293 頭の中つうか、ノートの構想、箇条書きで結論まで書いてもいい?
別にあなたが続き書いてもいいんだけど…
ちなみに、どっちか死にます。
書けないですとはっきり言えばいいのに。
少し遅まきながらお知らせです。
今ならコミックスで読めます、増田こうすけ先生の「グリムブラザーズ」。
ジャンプコミックス、増田こうすけ劇場ギャグマンガ日和巻の10
(参照
>>195-197) …この作品が素晴らしすぎて、このスレのヒソカVSクロロ決着編に対する私の熱も冷めました。
どうみてもプロの業です。本当にありがとうございました。
関係ないけど冨樫先生、再開を待っています。
キメラアントの一件で念能力が世間にばれる
なんか思い込みの激しい奴がいるなw
自意識過剰にもほどがあるわw
299 :
名無し物書き@推敲中?:2010/05/03(月) 02:43:12
再開はまだ?
過疎りすぎだし、でも落ちないのはなぜだ。