暇な時に書き連ねる創作スレ。
文章が貯まるまで基本sage進行。
意見・感想歓迎。
どこまでも白銀の世界が広がるシュツットガルドの雪原。
生きる者を拒む無情の原は万年の吹雪に覆われていて
Dr.ゲハルドの探検隊が調査に入るまで誰も立ち入ろうと
しなかった土地でもある。
シュツットガルドを南下した居住可能域では古代の人々が
彼の地で狩りをする様が描かれている壁画やシンボルが残って
いるが今では気候も大分変化してしまった様だ。
その死の平原を渡る二体の生物がいた。
「おい本当に場所は合っているのだろうな。」
心なしか気温と吹雪以外の理由で蒼醒めている黒髪の青年が愚痴る。
「うるさいダミーならこのまま死ぬだけの事だ。」
背の低く相当の齢を重ねた様に見える男は、しかし外見に反して
逞しい身振りと足取りからドワーフだろう。
二人が真偽を巡って言い合っているのはこの地に唯一
分け入ったというDr.ゲハルドの探索図の事である。
スンダルのギルドにある日張り出されていた眉唾物の依頼、
『シュツットガルドの地へ採集に同行する者を望む。
報酬はその成果で以てしかるべき物を払うものとする。
ガンツ』
つまり冒険者達のごく世間一般の常識で言い換えると。
北の地へ死にに行きませんか、
しかも報酬は到底あるとは思えませんが成果がある事を
神にでも祈って下さい。
という事である。
誰がこのトンでも依頼を受けるかという話が
流行の冗談になるぐらい当時のギルドに関わる全ての者が
その依頼を嘲笑していた。
だが一人だけとんでもない気紛れ男が引き受けたのである。
この依頼には夢がある、等と言いつつ・・・それがこの
黒髪の男ブルガリである。
その隣を歩く爺、の様に見えるドワーフのガンツであるが
彼とて世のあらゆる鉱物と創作に使える物質を探すスカベンジャー
であり、更に軽い物なら作製も嗜むアルティザンでもあるのだ。
ゆうに300年はその仕事に携わって来た彼だからこそ
ブルガリも更なる確信を得られたのだがどうも雲行きは怪しく感じる。
どこまでも続く雪原と吹雪に見舞われれば無理もない話なのかも
知れないがたった一つの命を無理もないの一言でぞんざいに扱う
訳にもいかず二人は概ね黙って歩を進めながらも若干の焦燥を
覚えていたのである。
おまけに膨大な時間を人が立ち入らずに経過させてきた責か
この地は何か霊的な力が強い様な気がする。
厳か、畏敬とでも形容すべきか人間が入るのを感覚的に
拒絶し禁忌させるような雰囲気がある。
その静かな恐怖は屑々と広大な雪原を渡る間中二人を取り囲んでいた。
事実雪の化身・眷属が度々襲い掛かって来た。
雪の層の中を自由に泳ぎ回る魚や氷の吐息を纏う白い狼、
雪の巨人や霧のような冷気ガス生命体何でもいる。
これでは死の平原だの呪われた地だの有難くない愛称を頂いても
仕方が無い。駆け出しは勿論中級の冒険者でも充分死ねる危険度だ。
いぶかしみながらもある程度落ち着いて愚痴を吐けるのも
300年物のドワーフと上級の傭兵のパーティ故の行為と言える。
実際に足を踏み入れてみて
ガンツの話では膨大な年月を精霊と共に生きたであろう
この土地ならば稀有な石、例えば上物の精霊石やそれが昇華した
魔法金属級の鉱石は望めそうだという。
こう言うと至極単純で棚ボタな儲け話に聞こえるかも知れないが
大体そのお宝という物は見つからないのが当たり前くらいの代物なのだ。
それは秘境過ぎて滞在が難しかったり守護する者の気配が濃過ぎて
物の怪の類が強力だったり、また単純に順路とでも言うべき侵入路を
まやかしで隠してしまったり、と難易度が非常に高く決して容易ではないという
理由が挙げられる。
その為力場に包まれ伝承にだけ伝わる様な土地や建築物
(往々にして危険な怪奇が引き寄せられダンジョン化しているが)
等を制覇した冒険者は英雄だの勇者だの世界の国々から尊敬を
集める事が出来るのである。
おまけにシュツットガルドの情報というのも
考古学の立場から周辺を調査していたゲハルドが興味本位で雪原に足を踏み入れ
命からがら逃げ帰って来た挙句熱病に浮かされながら呟いた言葉が根拠になっている。
故に命を懸けるには余りにも馬鹿らしく笑い話としか扱われてこなかったのだ。
だからこそガンツの依頼を皆笑ったのだ。
だがガンツが探索を決意したのは
稀有な鉱物を入手するという夢もあるが
自身の長年に渡る冒険で身に付けてきた実力と経験と自信も後押した
のもあるし、何よりゲハルドの探索図の入手元が博士の家族という事
が大きい。
信頼出来そうな人物に渡し、ゲハルドの汚名を返上し
雪原地下への侵入路発見によって彼の名誉を挽回したいというのが
その理由らしい。
ガンツはスカベンジャーだし300年のキャリアもある。
悲願を託されてもおかしくはないのである。
という話をガンツに何べんも繰り返されているが
その肝心の入り口が全然見えてこない現状にブルガリは
愚痴を吐いているのである。
「見えて来るのは真っ白な雪と珍しい氷の物の怪ばっかりで、
俺はとても楽しいよガンツ!鈍っていた体もほぐれるし実に
愉快だ。」
「ふん、そうだろうな。酒と女にどっぷり浸かった人間にはいい
運動だろうよ。誰かさんは知らんがドワーフにはこの程度の寒
さ等どうということもないしな。全く素晴らしい旅だわい。」
眉一つ動かさず平然と返すドワーフを傍目にくそ、不公平だと
ブルガリは呟いた。何ともなさそうでもやはり力場で凍結された
死の大地は過酷だ。
更に何が起こってもおかしくない得体の知れぬ霊場だけに別の寒
気すらする。
テントでは飛ばされてしまうので雪を踏み固め真中を刳り貫く
所謂かまくらを作って夜を越す。
とは言え相当に緯度が高く夜というよりは薄明るい白夜である。
ガンツの話によると星の位置からしてもう到達しても良い頃なの
だが大地の裂け目は見えない。
話によると温泉か地熱によって蒸気と共に底の見えない地裂があ
ったというのだが何せ生還したのはゲハルドだけだしその上その
生き証唯一の生き証人も熱に浮かされて死去したという有様であ
る。情報の信用度は怪しい物だがガンツの満足行くまで探索に付
き合うしかないだろう。
交替で番をして眠りに付いた後マーレット社製の冒険用品
ヒデール(携帯用コンロである)で雪を溶かし沸かした干し肉入り
スープを作で腹ごしらえをする。
ドワーフらしく工作以外に料理も得意なガンツがスパイスやら隠
し味を入れ作り上げた逸品は野宿の食事とは思えない旨さだ。
年季が違うからなとにやり笑うその姿はさすが歴戦のスカベンジ
ャーといった所だろう。戦闘でも背丈より高い戦斧を豪快に、し
かし巧みに振り回し冒険の供にはとても頼れる存在だ。
外に出てみると夏の様に激しく照りつける太陽と雪原の反射光で
眩しい白銀の世界が広がっていた。空は晴天なのだがいずこから
か激しい吹雪が吹き付けて来る。
シュツットガルドに足を踏み入れて以来ずっとこんな調子なのだ。
外の光景は相変わらずなのだが怪奇の襲来頻度と手強さが明らかに
上がっている。前はしばらく平穏状態を挟んだりもしたのだが夜を
越ししばらく進んでからはシュツットガルドに足を踏み入れて以来
初めて見る種類が混ざるようになり、ほとんど戦闘をしながら進ま
なければならない状態になった。
どうやら近い、と確信を深めながらブルガリのエンチャントされた
戦弓が雪で出来た大型犬くらいの小さな雪の竜を射抜く。
派手に吹き飛びながら何体もの雪の生物が次々と活動を停止させら
れ、近づいて来た物はガンツの戦斧で粉々に砕かれた。
材質が雪とはいえ相手は竜でブレスもダイヤの様に凍った爪も喰ら
えばただでは済まない。まさしく魔物と言える獰猛さで溢れるバイ
タリティーを以て激しく襲い掛かって来る。
どこから沸いて来るのか視界一杯に点在するそれらを高度に集中さ
れた攻撃を以て撃破する。多分打ち所が悪ければ金属の武器とはい
え竜という強力な魔物の眷属である彼等の鱗には弾かれてしまうだ
ろう。エンチャントされた殺戮の為の武器、それに持ち主の力量が
合わさってこの殺傷能力が生まれているのだ。
不思議な光に燃える矢が次々に魔物の群れを構成する点を貫き爆発すれば
生きているかの様な戦斧が鋭い軌道を描き近寄る雪竜を爆破する。
二人の冒険者の戦う姿はさながら英雄譚に出て来る一枚絵の様なカリスマ
があった。無駄のない動きと鍛え上げられた激しい戦闘能力がもたらす結
果である。
しばらく強行するうちにとうとう眼前の大地が真っ暗な口腔を開けた。
「どうやら着いた様だな!少しは休ませてもらえるかね。」
「ははは!休んでいられないくらいのお宝で溢れ返っておるだろうよ!」
二人は一気に駆け抜け岸壁に突き出た足場に向けて身を躍らせた。
向こうの方に緩いスロープもあったのだが兎に角この魔物の群れから抜け
出したかったのだろう。
ブーツの金属と足場の岩が織り成す激音を穴倉に響かせつつ降りれる所ま
で飛び降りるとどうやら淵にあったスロープと合流している道と足場が合
流しており、魔物達もそこには居ない様子だった。
ブルガリはコシュレム社製の揺れても消えないという携帯ランタンを取り
出し腰に括りつけた。やはり冒険にはこういう便利グッズが重宝する。
昔は様々な系統の術士の能力を借りねば困難な時代もあったのだが文明の
発達は冒険者達の活動範囲を押し広げたのである。
ガンツも体にランプを結びつけているが発光量が多く遠くまで照らしてい
た。どこの会社の商品か聞いてみると自分で作った物らしい。
アルティザンは戦闘よりは制作や創造に興味を持つのでガンツのように冒
険用品会社に雇われないで世界を旅する者は少ない。雇われ人になるかラ
ボを作り毎日コツコツ研究や実務をこなすドワーフが多いからであるが、
スカベンジャーとアルティザンの二束の草鞋を履く者が少ないという方が
正確かも知れない。
二つの光源に照らされた氷の洞窟は幻想的な光景を醸しだしていた。
更に何本もの氷柱が高く天井を押し上げている様子からこの洞窟は地下水
脈から伸びた巨大な霜柱によって形成されているらしい。
入り口になった大地の裂け目も途方も無い冷気によって形成された霜柱が
地下から地表を突き破って出来たのだろう。
裂けた大地に高低差が出来ていたのもその証拠になるかも知れない。
「どうだお目当ての物はありそうなのか?」
辺りを見回し傷薬を塗り付けながらブルガリが聞いた。
ゴーグルの具合を見ていたガンツはしばし考えた後答えた。
「うむ稀少な物が眠っているはずだ。証拠に見ろこの洞窟の様子を。
異常な力場でこの中はおかしくなってしまっておるわ。
これだけの場所に万年の作用を受け続けた鉱物・・・期待出来る。」
暫く戦い続けた体を休ませた後二人は探索に発った
5時間程地下へ降りただろうか。
巨大な霜柱とそれにこびりついた土壌を伝い下へ降りて行くと
無数の噴き出した冷気の筋が目に見えて空気を歪ませている。
尋常ではない世界の顕現だった。
その中心部にランタンの光ではなく恒星の様に自ら光輝している
氷の塊が無限に地下へ続いておりどこまでも落ちて行きそうな光
景が広がっていた。
そして異世界の力の顕現の最も象徴的な物がその光る氷の床に陣
取っていた。メタリックに輝くブルーの鱗とシュツットガルドの
雪原を思わせる白銀の鱗。異常に白目が大きく黒目が点の様に小
さい目はどこか冥府の生物を思わせた。
「人生で最も会いたくない物に再見してしまったぞ・・・。」
「俺は初めてだがね・・・。」
二人の眼下に『広がって』いたのは今5時間かけて這い降りてきた
霜柱程ある本物のアイスドラゴンだった。
「王国の戦力を挙げて勝てるかどうかだな。まず国が凍り漬けに
なってしまいそうではあるが。」
「採掘出来れば戦う必要等無いのだが・・・奴の腹の下とは何たる
不運か。どうの仕様もないわ。」
この世の神秘と神の悪戯を目の当たりにし、二人は立ち尽くした。
そしてふとブルガリは採掘方法に疑問が沸いた。
「ダイヤはダイヤの粉で研磨するが・・・この金属はどうやって
掘り出すつもりなのだ?」
ガンツの答えによると採取する場合はエンチャントで硬度と切れ
味だけを極限に向上させた鑿と玄翁で簡単に切り出せるそうだ。
ただし極度の指向性の為に規定外の方向から加わった力に弱くな
り柄の横から割れてしまったりする為扱いには職人の手が必要だ
とか。
「ならば俺が時間を稼ごう。その間に精一杯持ち運べるだけ切り
出してくれ。」
世界の終わりでも象徴するかのような禍々しいあのドラゴンを見
て良くそんな気になるとガンツは素直に感心した。そして自らも
リスクを背負い挑戦する事を決めたのだった。
霜柱の中間層によじ登ったブルガリは矢をつがえ戦弓を引いた。
ビシュッァ!というオーラを纏った発射音と共に矢が氷竜の目に
直撃した。が、ギャンッ!という衝突音と共に跳弾してしまった
様だ。(おいおい冗談ではないぞ)と冷や汗が背を伝う。
跳ねた矢がガンツに当たっていない事を祈るばかりだが人の心配
ばかりしてはいられない。発射方向に米粒より小さい影を見た氷
竜が胸を目一杯に膨らませ何かのブレスを爆発させた。
嵐の夜に少しだけ窓をずらした様な凄まじく鋭い音が縦穴全域に
共鳴して耳を劈いた。
一瞬で危機を感じ出来るだけ遠くの足場へ跳躍したブルガリだが
その僅かコンマ何秒か後山のような高さの氷柱が爆音の中砕け散
った。ブレスの正体は何らかのメカニズムで生み出された絶対零
度に近い物に違いない。原子振動が極端に落ち込み凝縮を開始し
た空気が真空を作ったのだ。
顔の皮膚が破けて出血しているし目を開けているだけで酷く痛む。
残った足場で必死に跳躍しながらブルガリは縦穴の入り口に辿り
着いた。
落雷の様に本能的に恐怖を呼び起こす強烈な破砕音を響かせながら
氷竜が地底を裂いて登って来るのを背後に感じながらブルガリは努
めて冷静に考えた。このまま侵入路に戻れたとて外には雪原の化物
共が群れているし雪上を強行突破するには無理がある。多分シュツ
ットガルドを抜ける前に凍死か過労、若しくは追撃者の死のブレス
で粉々に砕けてしまうだろう。この戦弓を引いたオーラの矢ですら
眼の粘膜程度にも傷を付けられない現状では相手を負傷させて動き
を止める事も難しいだろう。
(考えろ、何か切り抜ける手段があるはずだ!)
焦る心を抑え付けつつ背後の爆音から必死で逃走する。
氷の精霊性を抱えた竜には炎の精霊性をエンチャントした武器が有効なのは
確かだが今はそれを調達出来る状況ではないしそんな金も無い。エンチャン
ト技術が失われて久しい昨今では魔力を組み込んだ製品は目玉が飛び出る程
高いのである。
魂を引き抜かれる様な戦慄の咆哮が洞窟中の空気を激震させた。凄まじい声
だけで強烈な神経性の術式を受けた様な衝撃に蝕まれる。グッと歯を食い縛
って耐え様とするものの根本的に生物として超越した者の威圧はかなり堪え
る。
そしてブルガリはとうとうこの危機を切り抜ける案を思いついた。
(そうか口腔!奴が咆哮した瞬間にガンツの採掘用の爆薬を矢で撃ち込んでや
れば炎の精霊性の衝撃と脳震盪で暫く動きを止められるかも知れない。)
問題はガンツだが作業はどこまで進んだのか。ブルガリもまた足場を壊さぬよ
うに洞窟侵入路で氷竜のブレスやテイルワイプをやり過ごさなければならない。
その頃ガンツは身の丈の二倍はありそうな例の鉱石とその周囲の層を構成
していた赤銅色の鉱物を担いで巨大霜柱を登っていた。竜がよじ登って行
った後だったので足場が崩され登るのはかなり困難であり、足を踏み外せ
ば間違いなく即死だろう。眼下には気の遠くなるなるようなジオラマが広
がっており力場の主が戻ってきたらひとたまりもない。だがしかしガンツ
は黙々とひたすらに氷柱に付着した土を足場によじ登っていった。
時折竜の恐ろしい叫び声が洞窟の空気を震わす中何とか降り口に戻ったガ
ンツは周囲の状況に唖然とした。この洞窟のロビーとも言うべき広い空洞
に氷柱が散乱しており所々今にも崩れ落ちそうになっている。恐らく竜の
尾が薙ぎ払いブレスが支柱を粉々に破砕したせいだ。
そして洞窟の侵入路に辿り着いた時いつの間にか明るい昼の日差しが差し
込む絶壁の底に竜と襲われて逃げる米粒のようなブルガリが見えた。油断
すると足を取られそうなびゅうびゅうと激しく吹き荒む大地の切れ目の上
でガンツはブルガリに叫んだ。が、谷の風音と時折大地を揺るがす竜の咆
哮でこちらの声が全く届かない。その時竜を見上げながら逃げ回っていた
ブルガリがガンツの背負う輝石と反射する陽光に気づいた。
脱出を伝えた今彼が逃げ易いようにこの場を素早く離れるべきかとも思った
がブルガリが遥か眼下で何事か身振り手振りをしている。ツルハシを振る様
な動作と激しく下から何かが舞い上がる動作、更には何かに火を点ける動作
、ガンツはピンと来た。
「奴に爆薬をぶっ放してやるつもりか!」
弓をつがえる動作と方向からどうやら頭部に喰らわせてやりたいようだ。
成る程万一効果が薄くても脳震盪は狙えるというわけか、納得したガンツは
爆薬を円筒形に包んだ手製の爆弾が入った袋をブルガリの少し遠くに投げて
やった。何せ意思の疎通をしている間にも谷底は竜によって脅威の破壊活動
を受けており少し前にいた場所は瓦礫の山と化しているからだ。
谷風に煽られながら舞い落ちる爆薬袋をブルガリは一発で受け止めた。
そしてガンツは例の輝石を刳り貫いた鑿を取り出し谷底へ伝い降りる、とい
うよりは転落しているかの様な勢いで猛然と下って行った。
爆薬を受け取ったブルガリは素早く矢に括り付け腰のランタンの口を外して
着火した。振り降ろされた巨塔の様な腕を全速力で走りかわし衝撃に揺らぐ
激震の谷底の上で氷竜の口腔に狙いを定めた。ビシュアッ!と鋭い音を立て
迸ったオーラの矢はしかし僅か一瞬閉じられた竜の口脇で大爆発を起こした。
巨人が拳で谷の壁面を殴った様な凄まじい轟音が木霊する中煙の向こうに現
れたのは煤けた頬と僅かに何枚か捲れた鱗だった。
「しめた!かすり傷程度だが確かに効いてる。」
だがこちらとて死のブレスで負った裂傷から出血しているし左の腿の辺りか
ら実は感覚が無い。凄まじい凍気が血流を奪い凍傷を引き起こしているのだ。
切羽詰った状態であり後数手で確実に決めなければ死は確実だった。
爆薬の半分を括り付けいつでも点火出来る様にしておく。千載一遇の
機会を逃さない様にぼろぼろの体に渇を入れた。そしてその機会はガ
ンツによってもたらされた。壁面の中腹で足場を駆け下りたガンツは
空中に身を躍らせるとそのまま氷竜の瞳の瞳孔に向かって鑿を激打し
たのである。バキィン!!という音と共にガンツの身長程もある竜の
瞳の膜にひびが入ると共に鑿が砕け散った。悶え首を振った衝撃で岩
壁に叩き付けられ相当の高さから落下する。雪がクッションになる事
を狙った行動だがガンツは衝撃で窒息するかと思うくらい息が出来な
かった。そして痛みに青い涙を流しながら竜は腹の底から咆哮した。
(今だ!)
成人男子を簡単に吹き飛ばす猛烈な冷気によって岩壁に身を打ち付け
られながらもブルガリは風の流れを読んで大量の爆薬を竜の開いた口
腔に撃ち込んだ。竜に負けない凄まじい轟音を立てながら爆薬が竜の
喉奥で炸裂した。そして竜は左右にぐらりと首を揺らしながらタイタ
ンもかくやという轟音と共に地面に平伏した。
氷竜の口腔から肉の焼ける臭いと大量の青い血が流れ出していた。
骨や鱗は左程ダメージを受けていないが舌や口蓋、喉の肉等はか
なりの損傷を受けている。ブルガリは破損した竜の目に残り全て
の爆薬を埋め込んで着火した。ブルンッ!と首が衝撃に吹き飛び
谷底の岩壁に打ちつけられる。不意に谷の暴風が止み上空の吹雪
が止んだ。竜の目からは脳漿が溢れ出しその付近の雪が青く染ま
っていた。この世で恐らく一番恐ろしい魔物の一つが今死んだの
だ。
しばらく呆然とした後勝機を作ったドワーフの事を思い出した。
「ガンツ!生きているか!?」
おーいこっちだという声が雪山の中から聞こえ、掘り出してみる
と肩が鎧ごと明後日の方向にひん曲がったガンツが出てきた。
だが体の心配より自由になった洞窟の事で頭が一杯らしく怪我の
事など忘れて興奮した様子でブルガリの事を褒めたりこれからの
計画についてまくしたてていた。
晴れ渡った白銀の世界に雪原がただキラキラと優しく輝いていた。
21 :
U章:2006/11/03(金) 14:54:54
ブルガリは街の生活を満喫していた。
何せ今や彼は竜殺しの一人であり財布は新たに見つかった鉱物の
販売益でパンパンなのである。街の女の彼を見つめる目は潤み同
業者達は尊敬の眼差しでを向けてくれる。ちょっとした殿様だ。
パーティを組んだガンツは今頃屋敷で金勘定と新素材の研究に大
忙しだろう。何人ものドワーフ達が彼の新設したラボ兼自宅の屋
敷に詰めている。
そして何故か未だに安宿に住み着いているブルガリには唯一つ心
残りがあった。圧倒的な魅力と恐怖を持つドラゴン、倒したとは
いえその余りの強さに思い知らされたのである。
もしいつかまた対峙した時、再び倒せる自信等無い。
崖を底から見上げた様な視界全てを塞ぐ凄まじい体躯。
振れば小さな山なら簡単に吹き飛ぶ巨塔の様な腕。
そして何より歴戦の勇士も直撃すれば簡単に命を奪われる吐息。
おまけに自信のあったエンチャントされた戦弓ですら角膜で弾
いてしまう尋常では無い硬度。
あの膨大な気配からして上級魔術師の呪文ですらドラゴンの精
霊力に弾かれてしまう事だろう。勿論相性に合った物ならばそ
れなりに効くが、あの雪原での戦いの通り体表にはかすり傷程
度しか効かないのだ。恐ろしく超越した存在である。
そんな課題はあったもののブルガリは街の生活を満喫していた
のである。
レスが付かん!(笑)
23 :
U章:2006/11/03(金) 16:11:20
ある夜ガンツが訪ねて来た。
肩の調子もすっかり良くなり調子の良さそうな彼は上等な皮のベスト
を羽織り足元には市場に余り出回らないドラン金属の黒いブーツを履
いていた。
「どうやら調子は良い様だな。」
ドアを開けたブルガリにガンツは手にした酒瓶を掲げて返す。
「あぁ街の医者も驚いておったわ。」
頑強なドワーフは強靭な生命力を以て粗方の怪我ならばケロリと直し
てしまうのだ。更に商売の才覚もあり鉱物採掘・販売の指揮は頼もし
い物がありブルガリはとても助かっていた。
ガンツに真鍮の杯を渡しながらブルガリは新調したマホガニーの机に
腰掛けた。竜殺しの英雄が住むには随分寂れた所だなと冗談を言われ
てもブルガリにとっては勝手気のままのこんな暮らしの方が好きなの
だ。そしてガンツが酒瓶に入れて来た葡萄酒で喉を潤した後切り出し
た。
「実はなこの前討伐したドラゴンからブーツやら鎧やらを作ってやろ
うと思ってな。例の光る鉱物、スタリングメタルと名付けたんだが
な、これがまた鋳造するといい金属になるのだ。この二つの素材で
武具を造ろうと思う。」
「ほうそれは面白そうだな。しかしただ作ったのでは面白くあるまい。」
うむ、確かになと言うとガンツは少し思案した。
「古代の術式を研究している黒の荊に協力を要請しようかと思うのだ。」
今大陸全土で国家を跨ぎ勢力を伸ばしている魔術師ギルドである。
その活動は古代魔術の研究が主な内容だが有益と判断すればギルドを
挙げて史跡や力場の制覇に乗り出す。噂に登る実力者が数多く在籍し、
エリートである宮廷術師に匹敵する者も少なくないので最近は特に各
国も警戒を強めている。
24 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/03(金) 17:00:30
文体とか言い回しみたいな力は余り感じないけど、
読んでいて面白いと感じさせるツボはある程度抑えてる感があるかな
最近ファンタジーもの読んでなかったから面白かったよ
25 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/03(金) 17:01:10
あげちゃったごめぽ
26 :
ALWAYS:2006/11/03(金) 18:33:41
うむ、茶川賞なら獲れそうだ。
27 :
名無し物書き@推敲中?:2006/11/03(金) 19:16:57
>>24 頭に溜まってた物だーっと出した。
上手い人は本当匠だよな。
>>26 「茶」川笑った!
あれは人間が人間らしく描かれてて良かった。
コメントありですた。
やっぱ最初は面白くても
最後に〜した。〜した。の連続が来ると
書いてる奴も読者も疲れる。
最初は結構脂が乗ってるんだけどクライマックスは根性で書いてる
(読んでる)、みたいな。
作家でもそういう流れになる人は多い様に感じるなぁ
ライトノベルの小説は特に。
文学ちゃんとやってる人は凄いわ。
29 :
U章:2006/11/04(土) 09:36:46
ブルガリが滞在するスンダルは大陸北東の中規模国家であるグスタンブ
の第二都市であり街の規模は大きく活気がある。
隣接するグスタンブ海には熱帯地方から北上してくるレブリ海流と北極
圏より南下するガルム潮流が入り混じり所謂潮目を形成している為、豊
富な漁場を形成しているのだ。
そして西方から往来する珍しい文化。
ちょっとした国際都市として首都ブレアングルに肩を並べる存在なのだ。
スンダルの中心部の大通りには商売に熱を上げる商人達が軒を連ね、少
し歩き大公園の辺りまで来ると露店やら屋台やらが立ち並び賑やかな雰
囲気を醸し出す。
首都より雑多としてはいるが活気なら負けていないのだ。
その大通りの一画に黒の荊ギルドのスンダル支部があった。
レトリックを無意識に出せる様に勉強してみよう。
比喩(直喩・暗喩)
提喩(連想=メトニミー)
諷喩(比喩同士のやり取り、返し=アレゴリー)
同じ字数でリズムを生む
韻(頭韻、脚韻)
反復法
対句
体言止め
日常会話でもただ喋るよりレトリック使った方が面白いかも?
(咄嗟に無意識で使用してる場面もあるとは思うけど)
言葉の情動的な部分を煽る効果があるそうだから文章に脂が乗りそうな。
実際使いこなせるかは分からないけど。
何か久々に国語を調べた気がする。
小学校や中学校以来かも。
32 :
U章:2006/11/04(土) 11:51:22
華やぐ人々とは対照的に支部の人間はどこか陰鬱で他人との関わりを拒絶す
るような排他的な雰囲気を漂わせていた。
黒を基調としたチューニックやブリガンダイン、そして各々が薔薇の棘が絡
まるギルドの紋章が入った何らかの装身具(ブルガリが抜け目無く見抜いたの
だが)を身に着けている。
何か現実離れした思想が蔓延しているのか人といい室内の装飾といいしきり
に奇妙な違和感を来訪者に与える。
まるでスンダルの街に忽然現れた冥府の入り口に足を踏み入れてしまったか
の様な。
黄泉の国を水先案内される間に様々の奇妙な建物内の様子を見せ付けられつ
つブルガリとガンツは応接室に通された。
33 :
U章:2006/11/04(土) 11:58:27
提喩と直喩、諷喩も入れられたかも。
体言止めは既に使った事がある。
擬人法と対句は簡単に使えそう。
リズムは戦闘シーンの表現に使えば効果が発揮出来そう。
韻と反復法は自然の景観やリドルの詩的な表現に使えそう。
題名入れっぱなしだわ。
一旦切り。
35 :
U章:2006/11/04(土) 12:26:42
応接間の天井には幾何学的な紋様が施されており時折その細い目をぼうっと
光らせる。
夜空の様な天井とそれを彩る光線に星々。
幻想的な部屋である。
案内のギルド員が下がると暫く経ってから用件を聞きに担当者と思しき人物
が夜空に朝をもたらしつつ入って来た。
「ようこそ御出で下さいました。
私は渉外の任を担当しておりますアズバヌークと申します。
以後お見知りおきを。」
優雅な口上と会釈をしたアズバヌークは魔術師とはいえど渉外の任に就いて
いるだけあって少しは普通の対応が出来る様だ。
とはいえ見開かれた眼孔をぎょろぎょろと泳ぐ茶色と白の目玉は抜け目無い
彼の卓越した知性を暗に主張していた。
test――
ガンツはサンプル――苦労して剥ぎ落とした氷竜の鱗や牙等――をアズバヌ
ークに手渡した。
それらを取り出す動作の最中からアズバヌークの目は爛々
と輝き、手渡されると狂乱せんばかりに歓喜した。
何せ国一つ、傭兵団何連合かの生き死にの危険を掛けてそれでも討伐出来る
か眉唾物という生物から取れる素材である。
絶体絶命の足の捥がれた蟻が奇跡的に打ち倒した鰐の鱗をその視線で舐め尽
さんばかりに観察していたアズバヌークは頻りに素晴らしいと連呼した。
「先日伝えたようにそいつを使って鋳造した武器にエンチャントを施したい
のだ。」
ガンツが口を開いた。
人生でもそう味わえない歓喜に酔っていたアズバヌークは興奮した様子で頷
いた。
「エンチャントは秘法中の秘法であり滅多に一般の、失礼、竜殺しのお二人
といえど御要望は受けられないのが普通ですが、ドラゴンの鱗などという
ものは我がギルドにとっても大変貴重品でありますしその実験データも是
非欲しい所なのです。
何、私が是が非でもこの案件を通してみせますよ!」
アズバヌークの様子からどうやら交渉は前に進みそうである。
38 :
ALWAYS:2006/11/05(日) 12:13:14
主語と述語を倒置するようなテクニックも欲しいところだ。
内容は問題ない。
読者が気持ちよく読めるリズムがあればもっとよくなると思う。
>>38 倒置法もしばしば使われますな。
暇を見て諸々精進させて行きます。
40 :
ALWAYS:2006/11/06(月) 22:38:04
失礼を申し上げました。
御免。
走り去って行く子供達。
ガヤガヤと喧騒の止まないメインストリート。
生命の息吹にどこかほっと一息着いた冥府の探求者二名は
通りに面した小奇麗なカフェテリアで契約の内容を吟味していた。
冥府の住人が出した条件は一国の財政でも賄うのが厳しい物だったが
そこを果敢なこのドワーフが手持ちのカードの強みと類稀なる交渉術
を以て相応の減価を得る事が出来たのである。
苦渋の選択をさせられた黒の荊ギルド。
しかしドラゴンのデータは貴重過ぎて背に腹は変えられなかった様子、
苦々しくもガンツの要求を飲む事にした。
国家が動いても入手が困難な程珍しい物なのである。
結局ブルガリ等は提示金額の三分の一でギルド最高峰の術師と秘儀が行う
エンチャントを施してもらえる事になったが
それでも二人の財源を半分は失う出費になってしまった。
だがそれだけの価値を秘めた恐るべき武具が完成するはずだ。
闘志に燃え滾る眼をしながらガンツは雛形たるアイスドラゴンレザー製の
武防具鋳造に対してあれこれとプランを述べブルガリの意見も取り入れつつ
翌日から始まる一連の計画に対して鼻息を荒くした。
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44 :
名無し物書き@推敲中?:
うはwwwwwwwwwwwwwwww
元のスレが同じ板に移住してきてるwwwwwwwww