窓を開けると、新鮮な風が室内に舞い込んできた。
机の上の手帳もぱらぱらと音を立てめくれてゆく。
ああしまった、と僕は急いで駆け寄り、手帳の今日の日付を探し出す。
五月十四日の欄には赤い丸印。そこに書かれた言葉は『彼女が恋人ではなくなる日』。
三ヶ月も前から計画してきた。彼女自身、口には出していないけれど、今の関係に飽きてきているようだ。説得する自信はある。
椅子に座り、僕は、日付の丸印に斜線を入れた。
そうしているとインターフォンのチャイムが鳴った。
時計を見ると、もう約束の時刻。
窓から外を見下ろすと、かごバッグを手に提げて彼女が立っていた。
僕は階下の玄関へ向かう。机の引き出しを開け、その中の婚約指輪を確認してから。
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