架空の町を想像力で存在せしめるスレッド

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1
まず町の名前、歴史、気候風土などから決めていきましょうか
2jaeger:2006/07/07(金) 21:01:23
無歩町
昔誰も歩かなかったことからこの名前になった。
サバンナ地帯
3名無し物書き@推敲中?:2006/07/07(金) 21:30:10
そんな無歩町に初めて定住し始めたのが、ムホ族の祖先であった。
ムホ族は太陽神を崇める少数部族であったが、紀元前8世紀には大王朝を築き上げるまでになった。
特に英明王ボルボの時代は、人口は数百万人に膨れ上がり、その文明は天をも脅かすものと恐れ崇められたのであった。
4名無し物書き@推敲中?:2006/07/07(金) 21:46:21
そんなムホ族も2006年の現在は国際都市無歩町に住む少数民族であり
町の人口に占める割合はわずか3パーセントである。
近代以降は白人種の植民地になり、独立闘争を戦ったが、人口の殆どはムホ町郊外の難民キャンプで暮らしている。

5jaeger:2006/07/08(土) 19:22:15
ほんとごめん。
無歩町はやりにくいよな。
わけわからんし。


宇歩町
6名無し物書き@推敲中?:2006/07/09(日) 13:23:50
うほっ!いい男
7名無し物書き@推敲中?:2006/07/09(日) 14:22:07
せっかくみんな(?)我慢してたのに。
8名無し物書き@推敲中?:2006/07/09(日) 20:41:01
>>5
同意。
俺はいっそのこと部落民にみたてて話を続けようかと思ったぐらいだ。
ブラックな方向に。
9名無し物書き@推敲中?:2006/07/09(日) 21:26:26
■宇歩町
1954年4月、宇歩郡宇歩村、西宇歩村、二丁目村の三ヵ村が合併し誕生。面積28.7km~2。当時の人口は20,000人余り
町南西部の薔薇族島は江ノ島を思わせる観光地で、発展ポイントとしても有名。
町最盛期の80年代後半に人口36,000人となったが、94年に民間のリゾートが破綻してからは激減。
失業率は高い。
先日の町長選挙で共産党籍を持つ山田氏が当選し、町政建て直しを計る。
10名無し物書き@推敲中?:2006/07/10(月) 18:39:41
一気に日本的にww

宇歩町の名物
 
・いい男祭り
毎年八月に三日通して行われる祭り。
「ウホッ」「ウホッ」の掛け声と共に、「いい男」に見立てた
黄金のツナギ男の像を神輿に乗せて男達が町を練り歩く。
その時参加していない男性たちは、彼らを見たら
「いい男ー!」と叫ばねばならない。
女性はフードを被り、神輿を避けて歩く事がルール。
宇歩大社では菊座に見立てた穴に蜜柑水をぶっかけ、
恋愛成就(男性のみ)を祈る。
女性はその様子を木陰からそっと見守る。
最終日ともなれば、大社に安置されていた幻の像、
「ベンチに座ったいい男」像が蔵出しされ、
男達にのみ満願成就を約束してくれる。
女はスルー。
最終日の終った後に何故か清掃業者が多大な利益を得ることも、
この祭りの凄さを物語っているといってもいいだろう。

因みに九月には「女人復讐祭り」というねぶたのような
山車が出てくる祭りが開催されるらしい。

男達が皆口を閉ざす所から、男性にとっては恐怖の祭りである
ことが知れる。
 
1110:2006/07/10(月) 23:18:43
忘れてた。
・男の中には「ベンチに座ったいい男」像から「やらないか」
 とお告げを賜るらしい。

……くだんねーなこれ……
12名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 01:26:07
幼い時両親をアモル人に虐殺され、天涯孤独の身となったサメフはムホ町市内でタクシー運転手として生計を立てていた。
過激な民族主義者からは度々脅迫され、客であるアモル人には小突き回される毎日であったが、サメフは自分の生活に誇りをもっていたし
自分の境遇を呪うことは無かった。
敬虔なクフ教徒−今から1800年前に現われたベート地方の聖人が説いた教え−であった彼は、あらゆるマイナスの情念を齎す知識を信じなかった。
実際に、五年前のスッパダ戦争では愛する二人の兄を失っていた。
サメフは兄の命を奪ったのはアモル人の放った砲弾ではなく、彼らを戦争に駆り立てた忌まわしい記憶、実際には存在しない、憎しみを喚起する「知識」であると堅く信じていた。
滅ぼされるべきは、アモル人でもムホ族でもなく、これら、人間に破壊と闘争を齎す「記憶」或いは「認識」なのであると。
 
13名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 01:26:42
 サメフは始業開始の15分前に職場に着くとタイムカードを押し、自動販売機で缶コーヒーを買った。
缶コーヒーには小さく「ダレット社」のマークが印刷がされて居た。ダレット社はアモル人が経営する世界最大規模の企業グループである。
アモル人政府に大規模な資金援助をしている事で有名でもあったが、そんなことは関係が無かった。
自分の飲んだコーヒーが兄の命を奪った銃弾に化けたなどという皮肉は考えは浮かばなかった。
そのような形而上的思考はクフの教えに反することであった。
重要なことは、コーヒーの味と今日の仕事の事だった。
サメフは昨夜主任のタヴルに頼まれて、仕事を休んでいる同僚に代わって町の東部方面を走ることになっていた。
東部は過激派のテロが頻発する危険地域で必ずベテランドライバーが担当する事になっていた。
仕事の変更を快く引き受けたサメフであったが、同僚のレイュがここ数日職場に姿を見せないことはやはり気がかりであった。
レイュはムホ族の出身の女性であった。
18からこの会社で働いている。常に職場での気配りを欠かさず、仕事も熱心で、同僚の尊敬も厚い。
サメフより年下であったが、3年前に見習いとして彼が入社したとき、手厚く仕事の指導に当たってくれたのもこのレイュであった。
4人の兄弟と年老いた両親を支え、夜遅くまで熱心に誠実に働くレイュをサメフは一人の人間として心より尊敬していた。
と同時に彼女に何かがあったのではないかと心配であった。
タヴルに尋ねると「何でもない、余計なことは考えるな」と例によってそっけも無い返事が返っていた。
サメフは「そうですね。確かに余計なことを聞きました」と言った感じで一呼吸置くと、肩をすくませ缶コーヒーをゴミ箱に投げて、駐車場に向かった。
14名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 02:24:57
サメフは東部方面へ向かう自動車道を走らせながら、彼女のシルエットを思い浮かべた。
それは「ゆらぐ炎」であった。風雨にさらされ闇の中にただひとつ健気に燃え続ける光明であった。
この苦悩と憎悪、騙しあい、妬み、そういったありとあらゆる風雨から身を守ろうと必至に燃え続ける
赤い灯明であった。
サメフはその光を守る義務を感じた。
彼女の発する光を無慈悲にも踏みにじろうとする勢力−偉大なる聖人の教えによるとそんな「勢力」など存在しないのだ。
それは人間の心が生み出す幻影であるーから彼女を守ろうとそう考えるのであった。
サメフは「それはエゴイズムであろうか」と考えた。クフの教えによるとエゴイズムこそ人類に破壊と闘争を齎す最大の悪徳であった。
再びサメフはクフの教えに立ち返りこう考えた。
彼女の発する光を踏みにじろうとする勢力があるとしたら、結局はそれも彼女自身なのだ。
己に出来ることは彼女の勝利を祈ることでしかない。
サメフは知っていた。彼女の苦悩を。彼女の苦悩とは、光の消滅なのだ。
彼女は彼女自身そのものが燃える光であり、ただ燃え続けることが彼女の使命であることを知らない。
悪魔の手が彼女の炎をそっと消し去ろうとするその行為を彼女は黙認し、闇こそがその本質であったかのように、振舞うのだとしたら。
サメフは自分の考えを恐ろしいと思った。
レイュは苦闘している。その苦闘から彼女を救い出す事が出来るとしたらサメフ自身が彼女のともし火となることだ。そのように気負った観念を抱いた。
しかしそういった観念はサメフにある種の苦痛を齎した。それゆえ、サメフはその観念を打ち消したのだった。
そうして、サメフは仕事帰りに「クルヘ」(牛肉をパイ皮で包んだムホ町の代表的な郷土料理)を買って、レイュのアパートを訪ねたのだった。
15名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 02:56:34
スッパダ戦争の英雄バルガ

バルガは12年続いたスッパダ戦争でゲリラ戦を展開し、ムホ族に貴重な勝利を齎した民族的英雄であった。
実際、バルガの奮闘によって、町の南部地域のムホ族の定住圏を認めさせる形で停戦合意にこぎつけたのであった。
300年にわたるアムル人とムホ族の戦争で唯一の一方的勝利を齎したのであった。
ムホ族は太陽神ラミがこの世に使わした戦術的天才を大いに讃えた。
太陽を象徴する鷲の紋章をはためかせたバルガの機械化歩兵軍団に大陸全土からムホ族の若者が義勇兵として殺到した。
天をつく勢いとはまさにこのことであった。
アモル人はこの事態に危機感を覚えた。
町の南部にはなんと数百万のムホ族の義勇兵が結集していたのであった。
幾らアムル人が世界に誇る空挺部隊を保有しているとはいえ、領土であるムホ町ごと爆弾で焼き払うわけにも行かない。
蟻の様に群がるムホ族の連中を追い払うことは出来ないか。
そこで、ダレット社の総帥ラゥムはムホ族への食糧支援の停止を自国の議会に働きかけた。
効果は抜群で、三年もすると餓死者続出の事態となり、ダレット社最大の危機は乗り越えられた。
ダレット社はムホ町周辺に広大な石油利権を保有しており、アムル人政府にムホ町の支配から手を引かせる訳には行かないのであった。

16名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 03:27:20
バルガは困惑した。
全世界40地域に散らばる4000万人のムホ族の頂点に立ち、再び、太陽神を奉じた古代皇帝政治を実現しようと目論む
バルガの計画は、ダレット社の策謀により完全に挫折した。
バルガは歯噛みして悔しがったが後の祭りである。
バルガは報復として、また己の権威を誇示する為にもダレット社総帥ラゥム暗殺を企てたのであった。
暗殺者はムホ族の秘密軍事組織メサ(赤い風)の精鋭部隊から選ばれた。
ァルア(蠍)と言う男であった。ギメリア国首相暗殺事件にも関与し、実際に首相をライフルで暗殺した実行犯であった。
その仕事は神の領域であり、ムホ族過激派はこういった暗殺者を多数養成していた。
その中でもトップの技量を持つのがァルアであった。
ただ、「メサ」は独立の過激派集団であり、方向性の違いからかつてはバルガと対立したことすらあった。
彼らにはまったく戦略性というものが無く、ただひたすら破壊と殺戮だけを目的とする、ムホ族内部でも異質な、別の言い方をすれば「持て余し気味の」集団であった。
何度も何度も有利に漕ぎ着けた和平交渉を彼らの独断専行でご破算にさせられた記憶がある。
「メサ」に借りは作りたくはなかったがそうも言ってられまい。



17名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 03:29:26
  
        
            不思議だろう?
 
 
18名無し物書き@推敲中?:2006/07/15(土) 03:37:19
宇歩町開基

黄泉を渡り比良坂を越えた神武は彼の地に二人の男と一人の女を置く。
汝ら海を越えし邪共を討つべし。
汝ら鬼を払う桃の祖。桃を姓に冠するとて苦しからず。
桃を姓に置く彼らと彼女はその地に住まい、渡来せりし物の怪共を討つ。

いざ子を成し末裔までも坂を反さん。をとこは云った。もう一人は我も成さんと云った。
彼らは一人のをんなをの手を掴み左右から引っ張る。をんなは二つに裂けた。
をとこは云う。嗚呼なんということぞ、子は最早成るまい。
もう一人は応える。をんな居らずとて、神代よりのこの身、子を成すこと成らざらんや。
此処にてをとこ二人交わり、彼の地に桃の子現る。


なんつーか激しく知識の無駄遣い。
1918:2006/07/15(土) 03:43:11
ヽ(´ー`)ノ みんな島根県好きでしょ?
2018:2006/07/15(土) 04:51:25
宇歩町観光案内 「冶羅内台地臨時飛行場」

これは出雲大社守備のために構築された急造飛行場である。
比島陥落後、沖縄までも落ちる、本土決戦もありえると予想した陸軍首脳陣の指示により、
沖縄と出雲大社の中間地にある冶羅内山地に構築されたのがこれである。

戦とは相手の意思を折り自身の意思を通すことである。
そして、他人の意思と尊厳を奪うためには、他人の信仰やシンボルを破壊するのがよい。
そのため、米軍が出雲を爆撃する可能性はあると日本陸軍首脳陣は考えていた。
これに対抗するため冶羅内台地に、ローラーで転圧しただけの空港が設定された。
彼の地には1万mにまで達し、B-29及び随伴護衛機との交戦が可能な二式単座「鍾馗」、
夜戦でのB-29抑止性能を認められた二式複座「屠龍」が配備された。
しかし二発の原爆により終戦となり、急造飛行場は他の急造飛行場同様に任務を終えた。

米軍による本土占領の際、この飛行場では性交渉を行なう男性がしばしば目撃されていた。
そのため、この飛行場はハッテン場としてしばしば用いられるようになった。

ちなみにこの飛行場は、一度負の遺産として世界遺産登録の申請が成されたものの、
あまりに下品すぎるので却下された。

酔った勢い且つ今日休みだからヤケクソで書いた。だが反省はしていない。
21名無し物書き@推敲中?:2006/09/01(金) 14:49:37
  
  
            働 け 無 職 残 飯 
 
 
22名無し物書き@推敲中?:2006/09/23(土) 23:34:48
アスペルガー残飯、諦めて働け。おまえに小説は無理だって。
 
 
 
 
23名無し物書き@推敲中?:2006/09/24(日) 13:27:32
のび家の隣は磯野家である。その隣は桜家である。
24名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 01:47:26

キャッスルズロックで巨大なセントバーナードが
こうもりに鼻を噛まれたころ、ここ岩城村では
夜が明けようとしていた。

東の空が群青に染まり
ほどなく夏の太陽が村を染め上げるころ
斉藤家のゴールデンレトリーバーは
眼を覚まし高原の寒さにブルっと体を震わせると
牧場に向かって駆け出した。
牧草の朝露に体を濡らしながら彼は、いつものように
自身のしなやかな四肢を確かめるように
走ることの喜びを感じていた。




25名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 02:24:13

ジャンプしステップし獲物に狙いを定めるように
身をかがめると縮めた肢を一気に解き放ち
また太陽に向かってジャンプすると
満足そうに咆哮した。


生まれて二年目の若い彼はすべてが
美しくすべてが新鮮だった。
太陽もまたそれに答えるように
新しいエネルギーを彼に与えていた。


その時、彼の前方に地中から突き出た
弓形に輝く金属片の一部を発見した。

あたりは普段、彼の来ない牧場が森に変わる
人気の無い寂しい場所だった。
心配そうに主人のいる家のほうを
振り返ると無人の牧場がただ広がっているだけだった

彼に一瞬、いいようの無い
不安が体を抜けていったが
好奇心旺盛な彼は不思議そうに、その光に近づくと
前足で引っかいてみる。
すると人間の聞こえない高周波の音がわずかに
聞こえるのに気づいた。
彼は耳をピンとはりさらに金属片を
引っかく。
26名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 03:29:16

健二は開け放った窓から聞こえる
ジョジョの鳴き声で眼を覚ました。
時計を見ればまだ6時になったばかりだ。

ージョジョかな?まったくもう・・・−

そのまま寝過ごそうとしたが
いつまでも鳴き続ける
いつもと違う、様子に次第に心配になり
ジャージをはくとTシャツのまま階段をおり
家を飛び出した。

両親は東京に旅行に出かけていた。

27名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 03:49:51

ジョジョの遊びに使うボールを
蹴飛ばしながら牧場を声のするほうに
歩いていった。
サンダルに朝露が心地よかった。
彼はステップを踏んでサッカー選手の真似をすると
大きくボールを蹴りだし走り出した。
ボールは大きく弧を描いて犬のほうに飛んでいった


「ジョジョ。うるさいよお前」

犬は木の根元に向かって一心不乱に吼えている。
はじめは、犬の様子に呆れていた
健二も近づくにつれ只事で無いと思い始めていた。
歯を剥き出してくちびるが捲くれ上がっている。
普段見せない顔だ。こんな顔の犬は
映画の中でしか見たことが無い。

健二も、また意味もなくさっき犬がしたように
後ろを振り返る。
寒気がした。これは朝の寒さだと思い込もうとした時
犬が吼えるものを発見した。
それは、銀色のフリスビーが埋まって一部が地上に
顔を覗かせたように例えるのが一番に思える形をしていたが
バナナのようにも見えた。
そう思った瞬間、達也にバナナと言ったら爆笑するなと思い
健二の腹筋もがくがくして爆笑の発作を
起こしそうになった
28名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 04:02:16

押さえ込んだ爆笑と恐怖が同居していた。

ーこの恐怖はなんだ?−

考えろ。この金属片は何だ?
お前は、こんなも不思議な光り方する
金属片を見たことがあるか?
今まで見た、ものにこの
形を当てはめてみろ。
いや、俺はこんな形のものは見たこと無い
車のバンパー?そんなものが、ここに
埋まっているのか?人を呼ぶか?
こんな時に旅行に行ってるなんて!くそ!

恐怖が足を伝って体に上ってくるようだった。
恐怖は皮膚を覆い、血液に乗って
全身を駆け巡る。

ーおしっこ、ちびったら笑われるぞー

どうすりゃいい?ちびったってかまうもんか。

健二は、いつのまにか吼えるのをやめている
ジョジョを見下ろす。そして
屈んで背中を撫でてやった。
頭の片隅で人間と犬も交流できるもんかな?
と考えていた。一瞬ではあったが
ジョジョと眼が合った瞬間心のつながりがあった気がした。
29名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 04:24:28
健二は犬を連れてすっかり朝の空気が消え、セミが鳴き始めた
牧場を横断する時
何度も、何かが追って気やしないかと
後ろを振り返った。

彼は勇気を振り絞ると
彼は森に入ると手ごろな棒を見つけ
金属片を掘ってみたのだ。
パンドラのふたを開ける様な恐怖だけがそこにあった。

ーお前のしてることをきっとこの先、後悔するぞ。
やめておけ、やめておけー

脳の一部はそう、語り続けていた。
それでも健二はやめなかった。
畜生、そんなのただの思い過ごしさ。
そんなのにびびってどうする?
この弱虫。そんな葛藤をしながらでも
脳は声を上げるのをやめなかった。

ーやめろ。棒を捨てて、見なかったことにして
家に帰れー

健二は、その声を無視した。
ビニールのプールほどの穴を
掘ってもまだ金属片が地下深くに続いているのを
確認した時、諦めて手を止めた。
それは未知の機械の部品の一部のようでもあり
巨大な恐竜の金属で出来た骨のようでもあった。

30名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 04:34:41

夢の世界から起きたように
ぱっと現実に帰ると自分のしたことを
まじまじと見つめ頭を振った。

ーこりゃいったいなんだ?−

犬の顔を見ても答えは無かった。
健二はジョジョの背中を叩くと放心状態のまま
家に向かって歩き出した。
手が汚かったので牧草に手をつけタオル代わりに
こすった。
心臓がどきどきする。またしても寒気がした。
風邪をひいたのだろうか?
彼は牧場の中心まで来ると、立ち止まり
森のほうを見つめる。
あのすぐ下に金属片があるはずだ。
健二は迷っていた。埋めなおしたほうがいいんじゃないか?
根拠の無い罪悪感、そんなものが
彼の心に浮かんでくる。神様の何か人間の想像も及ばない
何かを俺は掘り起こしちゃったんじゃないか?

ー埋めようー

健二は今来た道を戻り始めた。
なぜか眼に涙が浮かびはじめていた。
悲しみだろうか?喜び?怒り?
生まれて経験したことの無い感情が
渦巻いている。朝が始まったばかりだというのに
40kmもマラソンした気分だった。
心身ともに疲れ果ててこのまま、牧草に横になりたかった。
31名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 04:49:51

彼は台所の電話の前で30分以上
受話器を取ったりまた置いたりを繰り返していた。
電話しなきゃいけない。じゃあ、なんていえばいい?

牧場の隅に金属製のバナナを発見しました。
ええ、UFOかもしれませんよ。
きっとおおごとです。きちがいの戯言と処理したら
あなたは大目玉を食らうはずです。
はい。ほら、信用してない・・・

たかが金属片じゃないか・・・
間違ってたら間違ってたでいい。
こんな田舎の警察官も暇だろうし、ちょっとした
夏の怪談だ。

ようやく俺は最後までダイヤルを回して
ふもとの町にある警察署に電話した。
手のひらの汗で受話器を落としそうになった。
それでも、呼び出し音が鳴り始めたとき
どう説明したらいいか言葉を失ってしまいそうになる
自分を発見した。


32名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 05:43:21

牛が草を食んでいる。
いつも見慣れた様子が奇妙に歪んで見える。

「なんか飲む?」

俺は並んで家の前のポーチ(それは
どこか外国の家並みの真似をして父が
買ったものだったが、日本の糞田舎の牧場の
村には、全く似合っていなかった。
ということもなく、何となく居心地がよく
緑の牧草に白いポーチは心が休まった)に座って
さっき電話で呼んだ隣の達也に聞いた。

「コーヒー。くだされ」

ーああコーヒーねー
これまた、外国かぶれの母親が買った
どこかの国の直輸入の豆とミルでひきドリップした
コーヒーが達也のお気に入りだった。
遊びに来るたび俺が作ってやってる。

33名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 05:55:22

「もう一回電話したら?」

達也がコーヒーカップを地面に置き
待ちくたびれたように俺に言う。

「う〜ん。じゃ電話するよ」

と携帯を取り出したとき坂の下から黒と白の
見慣れた車が来た。
安心すると同時に緊張した。立ち上がり
手を上げ合図すると、こんなことで、電話してよかったんだろうか?
という思いが浮上する。

パトカーは俺の家の前でエンジンを切ると
警察官が姿を現した。

「君が斉藤くん?」

そう斉藤家の健二です。
けんちゃんって呼んでね。
冗談も言えるまで落ち着いた。
もちろん心の中で言っただけだが・・・




34名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 06:09:31

胸にどこかで聞いたマーチが
鳴っていたが金属片に近づくにつれ
足の動きが鈍くなるのを押さえることが出来なかった。

「ほんとに怖いんですよ」

足を止めた俺を
呆れた表情で見る警官に向かって
弁護するようにそういった。
それでも、やがて動き出した足を
引きずるようにして金属片の前まで来た。
朝見たときは光っていたが今は木の陰に入って
近づかなければわからないほど目立たなくなっていた。

ーこうやって、人目に触れず何十年もここにあったのだろうか?−

警察官と達也と俺。ジョジョもあわせて
4人で俺が一度生めた土を掘り起こし始めた。
ジョジョは興奮して駆け回ってるだけだったけど。


35名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 06:28:01

「松田さん。こりゃいったい何なんでしょう?」
河合と呼ばれていた人は汗を拭きながら
上司と思われる松田さんに聞いている。

松田さんは、それには答えず
人を埋められるほど大きく開いた穴の
際にたち、冷たく光り続ける金属片を見下ろしている。

4人に沈黙がやってきて、夏の暑さと認知を超えた
恐怖による?寒さの奇妙な二重の感覚に包まれたまま
そこにたち続ける。セミが鳴いている。

やがて松田さんが制服のポケットからタバコを
取り出すとライターを使って火をつけた。
手が震えているのは穴を掘った筋肉の痺れだけではないはずだ。


「河合。俺は怖い・・・健二君の言った言葉の意味が
分かる気がする・・・ああ・・・」

俺は松田さんを見、河合さんを見た。
二人とも恐怖を感じているのは明らかだった。

それにしても制服を着た警察官がタバコを吸うのを見るのはおかしな
ものだなあ・・・と一瞬考えた。
しかし、その日常から外れた行為が
さらに、ことの非現実さを浮き彫りにしあらためて恐怖が
俺の思い違いでないことを確認したのだった。

36名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 06:38:22

「署に連絡しよう」

松田さんが、そういって場を救うと
俺は達也の行方を眼で追った。

眼を見開いたまま金縛りにあったように
前後に揺れている達也の目の前で
手をひらひらさせる。

「達也!」

こりゃ大変だぞ。
われに返った達也の体を支えながら思った。
ー世界を終わらせないでくれー

自分が思ったことの恐ろしさと、なんでそんなことを
思ったのかと身震いしながら歩き始めた警官のあとを追った。

ジョジョが俺を見つめている。

ージョジョー

彼が人間だったら俺は助けてくれと泣きついたろう。
彼も同じだったに違いない。
その顔は人間の顔そっくりの表情をしていた。
今にも言葉を発しそうに見えて、笑ってしまった。
ー相棒。気分はどうだい?−
37名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 07:01:19

うん。別に大丈夫。パトカーが5,6台来てる。
自衛隊も来るらしい。鈴木さん(村の中心人物)
も来てるよ。・・・今から?うん。わかった。
携帯でも台所の電話でも・・・はい。じゃあ。わかったわかった


俺は両親への電話を切ると
放心状態の達也と達也の両親が座るテーブルを見つめた。
俺は彼を巻き込んじゃったのか?

彼にかける言葉を捜しながらテーブルに近づいた。
窓から差し込む赤く点滅する光がストロボのように
部屋中で光っている。それは、いつか見た
ハリウッド映画に似ていた。でも、これは映画ではないし
エンディングでもないだろう・・・たぶん。
俺は窓を一度見ると達也の両親の横に立った。

「すぐ帰ってくるみたいです」

「そう」

沈黙に耐えながら椅子に座った。
ーごめんー
心の中でそうつぶやいた。

38名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 07:20:21

俺はパトカーが並ぶ中に部下に指揮をする
松田さんを見つけたので
玄関を閉め、聞きにいった。

「これから、どうなるんですか?」

「自衛隊と大学の研究者がやってくるはずです。
私にも分からない人が沢山来てこの辺は
にぎやかになるでしょう。
さっき、健二君がした説明を何回もしなきゃ
いけないことになるかもしれないけど
よろしくおねがいしますね。ところで御両親に電話しましたか?」

「ええ、多分、夕方には帰ってくると思います」

パトカーに寄りかかってひとりの警官が
長靴の泥を落としている。
どこまで、掘ったのだろうか?
スコップも同じように泥まみれだ。

「僕は近づいちゃいけませんか?」

「先のことは分からないけど、今は私が
許可します。ただし見るだけにしておいてください。
・・・健二君。これはもちろんニュースになる。
長野のローカルじゃなく、全国ネットでね。
健二君の言ったUFOという説は有力だよ。
信じる部下はそういうし信じてない部下は顔をしかめてる。
私は、なにか分からんけどね・・・」

39名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 21:08:15
村では戦争が始まりつつあるのだろうか?


牧場は自衛隊と機動隊の重機や
名の知らないタイヤのついた甲殻虫のような
車両と簡易的なテントで出来た建物で埋め尽くされた
間を人々が歩き回っているのが見える。

土を掘り起こす音と土を運ぶダンプの音
怒号と人を指示する低い声と拡声器で増幅された声が
山にこだまする。

目の前の牧場が終わるアスファルトの道路にはバリケードが張られ
迷彩服を着た男たちがTVのクルーたちに睨みをきかせていた。

それでも熱心な、あるいは大衆の力に支持された
TVクルーたちは自ら動き、照明をたき
コードを伸ばし、中継車の屋根に上り
綺麗な服を着たキャスター達がマイクを持ち
夕方のニュースの準備をしている。




40名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 21:11:49
ほとんどの住人が避難させられた村で
俺と両親ほか何名かの村人は牧場前の
俺の家、一箇所に集められインタビューや
事情聴取など入れ替わり立ち代り様々な人間の質問に答えていた。
俺も、このあとのニュースに第一発見者兼住人として
インタビューを受けるだろう。
でも、事態は僕の手をもう離れてしまっている。
金属片は、どうなったのだろう?
松田さんの姿も見えない。

誰も何も言わずただただ目の前を映したTVの
画面を見て答えの無い疑問の答えを探そうとしていた。

窓の外にTV局の人がおじぎをするのが見えた。
俺のインタビューがはじまるのだ。
41名無し物書き@推敲中? :2006/12/01(金) 21:26:10
イェーイ、山田見てるー!
42名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 21:32:31

TVの出演が終わり家に戻ると
松田さんと両親、鈴木さんと名前の知らない
村人がテーブルでお茶を飲んでいる。
みんな疲れきって途方に暮れている様子だ。
自分たちの手で何か出来るわけでもないし
考えて分かるわけでもない。
そういう意味では、誘拐に似てなくも無かった。

「健二。ふもとに旅館予約してくださってるみたいだけど
ここにいる?」

どうしよう?
ふもとに下りれば静かなベッドで寝ることが出来るだろう。
でも俺は、ここにいたかった。
最初に発見した、俺のいや俺とジョジョから始まった
事態を見届けたかったのだ。
もちろん、まだ怖さの余韻が独りになるとやってきた。
トイレで座ってるとそれはやってきた。
あるいは、インタビューをされている最中でも
ふと気づくと深い割れ目に落ちてしまって
相手の声が遠くに聞こえるように感じ
落ちていった暗闇の中に何かの気配を感じるのだった。




43ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 21:34:48
それはいったいなんなのだろう?
俺が近づこうとすると、ふっと消える気がした。
でも、それを感じてる時は不思議に恐怖はなく
心地よささえ感じた。
それは、たぶん完全に別の世界に行ってしまってるからなのだろう。
現実とあっちの世界の間でのみ恐怖は発生する。

あっちの世界。何時間前から俺の胸に
去来するキーワードになっている。
あっちの世界。暗闇の中のもの。気配。

知りたくない現実が無意識の奥にあるのが見える気がした。

UFO

宇宙人?まさか・・・


44ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 21:36:10

>>24-43 ken

>>41を除くw
45名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 21:46:05

パソコンを立ち上げようか?
2ちゃんねるを見たかったが、くだらない荒らしと
憶測に基づいた曖昧な事実に振り回された
人たちを見るのは気が進まなかった。

何スレぐらい消費しただろう?
100?500?今世紀最大のお祭りの
真っ最中に当事者として参加する喜びは
たまらなく魅力的だったが、グレイのモニターを眺めると
やはりスイッチを入れることは出来なかった。

携帯に達也からのメッセージが入っている。
電話しよう。声が聞きたかった。
46ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 22:02:42

うん。ああ・・・変な顔に映っていた?
いやそりゃいいよ。筑紫哲也も来てる。
あのアナウンサーなんだっけ・・・菊ちゃん
あの人も見たよ。うん・・・

俺は電話が終わると元気そうな達也の声で
元気をもらえ、またしてもパソコンの誘惑に捕らえられそうになった。
ーどうしよう?−
まあ、いざとなったら消せばいいさ。名無しで参加しよう。
俺はパソコンの電源を入れた。
起動音がし、ハードディスクをチェックする音が聞こえ
ショートカットをクリックし
見覚えのある、どこか懐かしいブラウザ画面を見たとき
興奮の波が消えブラウザを閉じた。
やはり無理だった。俺はネットワークし今の自分から逃げようとしているだけなのだ。
対峙しなくてはならない。それはパソコンではなく自分自身と
眼に見えない何かだ。
俺は自分の部屋を飛び出しジョジョを探しにいった。


47ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 22:20:44


窓を閉めカーテンを引きクーラーを入れても
なお外の喧騒は部屋に入り込む。
カーテンはスクリーンのように
幾何学模様を写している。

我慢して眠ろうとするがだめだった。
何度も寝返りをうち枕の匂いをかぎ眠ろうとする
努力と反対に眼がさえてくるのを確認したころ
時計を見た。夜中の2時になっていた。

階段を下りると電気の消えた一階の
しんとした空気の中に同じように眠れず
テーブルの下にうずくまっている
ジョジョを発見した。うれしそうに尻尾を振った。

俺は照明はつけずにTVだけつけ
冷蔵庫から麦茶を取り出すとコップに注いで
ジョジョの皿の水も替えてやってから
麦茶を飲みつつテーブルに座った。


48名無し物書き@推敲中?:2006/12/01(金) 22:30:17

ベッドに入る前に見た
同じような映像が繰り返し映っていた。
バリケードの中に入ることの許された何人かの
カメラマンによる照明に照らされて
巨大な銀色の恐竜の化石のように輝く、その物体は
地球のものでないことは明らかだった。
まさか、大掛かりないたずらなわけでもあるまい。
でも、それを見ても不思議なほど
平静でいられた。なぜだろう?
もうショーのひとつになってしまったからだろうか?

俗悪な見世物レベルまで落ち大衆の好奇心を
刺激するだけの映像。

いや、そんなことは無いはずだと思い
見直しても四角い箱の中ではすべてが彩られ
着色されデコレートされたお菓子だった。
それでも見ないわけにはいかなかった。
当事者としての自分が、これではない
伝え方を間違っているだけだと警告していた。
いったい何に?掘り返されたことを怒った宇宙人が
攻めてくるとでも言うのか?
そうなる前に国民にショーではなくリアルな世界の一部だと
訓練ではなく本番だと伝える必要があると感じていた
起きろ!スナック菓子を食ってる場合じゃないんだ!
しかし怒りはすぐに消えていく。
あきらめと苛立ち。
俺は静かに眼を閉じた。足にはジョジョの毛が触れていた。
49ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 22:47:16


すべての暴力と欲望に満ちた世界の
映像の再生が終わったあと、その声は聞こえてきた。

ー健二君。今、君が見たのはこの先、地球で起こる
本当の出来事だよ。どうだい?人間の姿を見たかい?
こんなことが、これから先もずっと続くのさ。
何を感じる?君が終わりにしようと思えば出来るんだよ
そのスイッチを押すだけでいいー


俺は宇宙に浮かぶ丸い地球の姿の見ている。
手元には不思議な機械の
一部に点灯するスイッチがあった。


ーそう、そのスイッチだ。それを押せばすべてが終わるー

すべてとは?君はいったい誰なんだ?

ー私はわかるだろう?君が掘り起こしたUFO
そう地球の言葉で言うUFOに乗る宇宙人だよ。
すべてとは、すべてさ。君が押せば終わる
この暴力に満ちた世界がねー


50ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 23:03:51

俺は理解した。
掘り出した宇宙船に乗せられ
宇宙から地球を見下ろしているのだ。
すべてを終わらせる?
こいつは、いったい何を言っているんだ?

そう思った時、映像が再生された。
暴力、血、涙、絶望、暗黒暗黒暗黒・・・
銃声、悲鳴、痛み、痛み、
どこかの国で兵隊が銃の照準を合わせる
いじめ、自殺、賄賂、利権、欲望
万華鏡のように何億もの暴力のイメージが同時に
再生される

やめてくれ!

ーいや。私はやめない。君に本当の
人間の姿というものを認知して欲しいんだ。
君は何も分かっていない。何もねー






51ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 23:09:37

その脳内に再生される映像は地球の未来のことなのだ。
そして俺は、それを止める力を与えられている。
止める?止めるとはなんだ?地球を破壊するということか?

ー私は何もかも君に教えられるわけではないのだよ。
健二君、悪いけどね。ただ君には、その世界をとめる事が出来る
そして考えることが出来るということだー

俺は発狂するのか?
体はいくつもの麻薬を打たれたように
膨張し収縮し緊張の山を越えるとまた緊張の山を登り始めた。
寒さと熱さが同時に皮膚を這い回り始めた。
膝の力が抜けた。

俺がいったい何をしたっていうんだ・・・

ー知ること。見ること。判断することー

俺は、すべてから開放されるためにスイッチに
手をかけた。
許してくれ・・・
52ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 23:19:16


なつかしい草の匂いがした。
どこかで母の声がし目を凝らすと
父、母、友人、ジョジョ、学校の先生たち、村の仲間
俺の好きな同級生の由紀、そして死んだ妹、名の知らぬ人の姿が見えた。
みんな楽しそうに俺に向かって手を振って
微笑んでいた。

《俺もそこに行きたい》

足が動かなかった。打ち付けられた柱のように
体はいうことを聞かなかった。

《助けてくれ》

声が頭の中でエコーする。
涙が溢れて皆がにじんだ。おーいおーい。

春の草原の中の暖かな光の中で
皆はなおも微笑んでいる。

俺は死ぬのか?みんな?俺は死んでしまうのか?
53ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 23:26:29


ーさあ。押すんだ。早く押しなさい。
私を待たせるな・・・−

宇宙人の声が大きくなりそして小さくなるのが
分かった時、俺は気を失なうのだと理解した。
もう何も出来ない。もう何も・・・

その瞬間、深い闇がやってきた。
落下していく浮遊感に包まれた時
すべてを放り出しなすがままにゆだねた。





54ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 23:39:04


秋の夕日は美しい。
健二は、また思った。
枯れきった牧草の上に座り
ススキの枝を手のひらに転がしながら
見るともなく隣の達也を見る。

「俺には、今は理解できないけど・・・」

いいさ。俺にだって分からない。
あの日、つけっぱなしのTVのあるダイニングで
テーブルに座ったまま
朝、目が覚めると外では謎の金属が消えたと大騒ぎになっていた。


そして時がたつにつれ一人また一人と人は山をおり
村は静けさを取り戻し
松田さんが俺に別れの挨拶をしたころ最初の秋の風が
吹き始めた。


55ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/01(金) 23:46:07

俺は達也の肩に頭を乗せ言う。

「由紀に告白しようと思う」

「えっ?」

「いや、なんでもない」

俺は立ち上がると尻についた牧草を払った。

「人生って何だ?」

俺は突然顔をつくってそういった。

ふと森のほうを見ると、あの夏の日、掘り返された土の山が乾き
夕日を反射している。

「人生とは・・・」

その先は風に掻き消えた。俺自身にも聞こえなかった。
答えは秋の夕日の中、風に乗って山の彼方に飛んでいった。
俺はそれを追う事もしなかった。太陽を見ていたかったから。



おわり


56名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 06:31:32

「ちゃんとライトつけて運転しないと危ないよ」

警察官は自転車を止めると加奈の顔を確認するように
懐中電灯を向けた。

ライトを点けるとペダルが重くなるのが
嫌で加奈はあまりライトを点けない。
日曜日にママに電池付のライトを買ってと頼んでおいたのに
ママは買い忘れたのだ。

加奈は自転車を降りると警察官に謝る。

「ごめんなさい。急いでたから」

「急いでたら、なおさらライト点けないといけないでしょ?」

警察官は屈みこんでフレームの防犯登録を確認
しようとした顔を上げてそう言った。
加奈は泣きたくなった。お腹が空いていた。
塾で一生懸命、勉強してたんだと言いたかった。
でもこの警察官はそんなこと言っても
分かってくれないだろう。

「う〜ん、シールが剥げてるなあ
ちょっとこっち来てくれる?」

警察官が指差した公園の奥に一台の
白い自転車が止まっている。
加奈は、嫌な顔をしたかったが我慢した。
警察官の機嫌を損ねたくなかった。
57名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 07:05:45
「お父さん、加奈ちゃん塾の帰りに
行方不明になったんだって」

テレビを見ている
パパの箸を持つ手が止まった。

「加奈ちゃんって、レナが4年生の時
友達だった加奈ちゃん?」

「そう。今日のお昼、保護者会で学校に
行ってきたのよ」

「・・・」

「まだ何も分からないみたいだけど・・・
事故なのか・・・何なのか・・・」

居間でテレビを見ているレナに
パパとママの会話が聞こえてきた。
レナは無心でタラコのぬいぐるみを抱きかかえてる。

ーかなちゃんかなちゃんかなちゃんー

今日、学校に行くとパトカーが止まっていた。
朝礼の日じゃないのに校庭に集合させられ
校長先生の話の後、警察官が台に上った。

「一人で帰るのは絶対にやめましょう。
携帯電話を持ってる人は学校に持ってきても
かまいませんから、何かあった時は
すぐお母さんか110番に電話しましょう」
58名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 07:06:42
レナと妹のハルカには不思議な力があった。
レナ本人も、よく自覚してない。第六感。
パパもママも本当は気づいてないはず。
聞こえない音が聞こえ、見えないものが見えた。

一度、ママに話したらそういうことは
言ってはいけないと言われた。
「そういうこと」が冗談だと思われ冗談を言っては
いけないということなのか、他人に「みえないもの」
を言うのがいけないのか、わからなかったが
ママに怒られるのが怖いので、それっきり話さなかった。

でも、子供部屋ではハルカと二人でおばけごっこをやっている。
二人が人形で遊んでると勝手に人形が
動くことがあった。その時、ママに気づかれないように
いつまでも遊んでいた・・・
59名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 22:27:08
ーミナちゃん、ミナちゃん教えて
加奈ちゃんは、どうしたのー

レナはTVは見ずに眼を閉じ
タラコのぬいぐるみを抱きしめると頭の中に問いかける。


何ヶ月か前、いつものようにハルカと二人で人形遊びをしてた時、
ふいにレナの頭の中に声が響いてきた。
冬の風が強い日に外を見ていると
口笛を吹くように電線が鳴く。そんな音。
頭のどこか奥の方から、その声は聞こえてくる。

《私はミナ。よろしくね》

ハルカは小さな叫び声をあげて
手から滑り落ちそうになった
人形を持ち抱えまじまじと人形の眼を見ている。
その様子を見て声が聞こえたのが自分だけじゃないと
確認したレナはハルカの隣に寄り添った。
ハルカは眼を大きく開けてレナを見つめる。

「お姉ちゃん・・・」

私の顔もびっくりしてたのだろう。
60名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 22:28:21
次の日、朝のニュースを見ても
加奈ちゃんのことは何も伝えてなかったけど
ママの車に乗ってハルカと学校のそばで降りた時
校門の前には白いお皿のようなアンテナのついた
車が何台も止まっていて
テレビ局の人たちとマイクを持ったアナウンサー
リポーターが同級生にインタビューをしていた。

そして今日も朝礼があった。
けれど、いつもの校庭じゃなく寒い体育館に集まると
校長先生は暗い顔で両親に車で送り迎えの
させてもらえる人は車で学校に来ても良いし
友達を誘って一緒に乗ってきても
良いということだった。加奈ちゃんのことは
何も言わなかったけどまだ行方が分からないのだろう。
警察官が上り、暗くなったら外に出ないように。
塾はなるべく行かないように。と言った。

教室に戻ると変質者のしわざ。
と言った男子と達也君が喧嘩をし始めた。
その後、先生が来る前に皆で喧嘩をやめさせたけど
その日ずっと教室は暗いままだった。
先生も加奈ちゃんの行方は何も言わなかった。
61名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 22:29:26
冬の曇り空が何日か続いたの同じ週の
金曜日の夜にまた事件が起こった。
加奈ちゃんと同じように塾の帰り道に
隣町の女の子が行方不明になって
後にはそれもまた同じに自転車だけが残された。
62名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 22:30:45
「ハルカ?寝てる?」

その日の夜パパとママの長い話の後
私はコンセントに挿された小さな
ルームライトの明かりの中、私は布団から頭だけ出して
壁の反対側のハルカを呼ぶ。

暗闇の中、オレンジ色に照らされた
布団が動きハルカが、こっちを向いた。

「ミナちゃん、覚えてる?」

ハルカがうなずいたので
私は話を続けた。

「わたし、ミナちゃんが何か教えてくれるような
気がするの・・・加奈ちゃんのこと・・・」

「おねえちゃん。ミナちゃんは想像の女の子で
実際にはいないんだよ。ママも言ってたよ」
63名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 22:32:38
「ハルカ、また聞いたの?」

ハルカはうなずく。前に一度ママに聞いて
怒られたのにハルカは、また聞いたのだ。
私は不安になって問いただす。

「ママ、怒ってた?」

「少し・・・」

私は、しばらく考えためらった後、意を決して
ハルカに言う。

「このことは、ママに言っちゃだめだけど
ミナちゃんが、頭にいる感じが加奈ちゃんが
いなくなってからずっとしてるの。
だから、ミナちゃんは何か伝えたがってるのよ
ハルカには、そんな感じしないの?」

ハルカは困っているようにレナのことを
見つめているだけだったけど
やがて話し出した。

「私も同じだよ。でもママに怒られるよ」

その後も暗闇の中で話を続けたけど
ハルカも何も分からないようだった。
私は話が終わったとも
しばらく眠れずに風の唸りを聞いていた。

64名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 23:08:10
たらこたらこたっぷりたらこ

「それ」は警察官の体を抜け出すと
家路を急ぐ一人の若いサラリーマンに目をつけた。

たらこたらこたっぷりたらこ

「それ」は夜道に光る自動販売機の前でコーヒーを
買おうとサラリーマンが足を止めたとき
その体を乗っ取った。「それ」は
新しい洋服を体に馴染ませるように
サラリーマンの体を震わせると落ちてきた
コーヒーをつかんで闇の中に消えた。
どこかで犬の吼えた声が聞こえたがサラリーマンが
眼を向けると犬は自分の小屋へ情けない声を
あげて戻っていった。

報道規制が解かれた後、ニュースや
ワイドショーでは連日連夜、この得体の知れぬ
行方不明事件について報道したが
誰も何ひとつ分からなかった。
変質者、事故、東北で起こった親による事件。
北朝鮮の新たなる連れ去り
65名無し物書き@推敲中?:2006/12/12(火) 23:28:01
相変わらずの曇り空の下、この町では
皆が息を潜めて暮らしているようだった。
町の外には子供たちの遊ぶ声が消え
大人たちも必要な時以外は外に出なくなった。
報道の関係者の派手な車が通った後には
通りには高く積もった落ち葉がうずたかく舞い上がった。

レナも口数が減り窓の外を良く見つめるようになった。
義務教育者は登校が希望者だけになり
やがて冬休みを前倒しして長期休暇に入った。
66名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 00:42:06
レナはママへの伝言をテーブルに置くと
急ぎ足でハルカをつれて教会に向かう。

ーレナ。ハルカ。教会に行ってー

ミナがそう言っている。
レナは自分が何をしに行くのか分からなかった。
今回の事件の核心にせまることをミナが
教えてくれるのだろうということは感じた。

クリスマスイブの近い街角はこんな事件が続いた後でも
華やいでいた。いや、一時でも忘れるために
人々はよりいっそう盛り上げようとしてるのだろうか?
駅前に続くイルミネーションの輪の中を
くぐりながらレナはそう思う。

「ハルカ。迷子になっちゃだめよ。
レナの手を握っててね」
67名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 00:42:52
町外れの教会の駐車場には大きなモミの木があって
色とりどりのライトが光っている。
レナとハルカは一瞬、美しさに見とれて
木を見上げると夜空からこの冬初めての
雪が二人の頬に落ちて消えた。
68名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 00:43:26
「メリークリスマス!」

教会の重い木のドアを開けると祭壇に立つ
神父の格好をした「それ」が立っていた。
神父はステンドグラスの高さまでジャンプすると
一回転してバージンロードに降り立った。

「子供を返して」

レナがそう言うと、神父はゆっくり微笑みながら
距離を縮めて歩いてきた。
その時、レナの後ろのドアを抜けて光の玉のような風が入ってきた。
ミナがやってきたのだ。

ミナがフォノグラムのように光を反射させながら
レナの上に浮いている。

それを見ても神父は微笑むばかりだ。
69名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 00:44:21
「レナ、ハルカ。そしてミカ。
世の中にはいろいろなことがあるもんだよ
いろんなことが。
レナは暴力を知ってるかい?
クラスに苛められてる子はいないかい?
レナ。人間は暴力が大好きなんだよ。
それが無くっちゃ生きていけないんだ。
人間が人間であるために必要なことなのさ。
・・・いや。否定しなくてもいい。
君が大人になれば分かること。
俺達も・・・そう「それ」と呼ばれる
俺達もずっと昔からここに、君達の言葉で言う
「地球」にいて、レナ、ハルカ君達の
おばあちゃんやおじいちゃん・・・いや
人間が言葉を持つずっと前からね。
生きていくために、必要なんだ。女の子の持つ
エネルギーが。それが我々の糧になる。
それを暴力と呼ぶなら呼べばいい。
でも、レナ・・・ステーキは好きかい?
牛がどんな風に殺されていくか知ってるかい?」

そう言うと神父は倒れ口から形の無い影のような
ものを吐き出すと影はゆっくり立ち上り
教会の天井に消えていった。
70名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 04:31:45

《だいじょうぶ?レナ、ハルカ?》

ミカが二人の頭にそう語りかける。
二人は頭上に静かに揺れている光の玉がういている。


「ミカ。「それ」が言ったことは、ほんとなの?」

今、レナとハルカの頭の中には一人の女の子の
姿がある。(この子がミカなんだわ)
レナは今まで声しか聞いていなかったミカが
初めて自分の前に姿を現してくれたことに不思議な感動と
なぜか懐かしい思いで見つめている。

《ええ。でも「それ」が言う言葉は
人間の言葉に置き換えてるだけだからレナちゃんが
理解するものとはちょっと違うかもしれない・・・
・・・きっと二人には難しいことよね・・・》
71名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 04:32:44
ミカは私と同じぐらいの年齢なのにずいぶん
難しいことを言うなあ、レナはそう思う。
それからなんだか寒い。家を出る時に湧き上がっていた
勇気が何故だか急に小さくなり元気がみなぎっていた体も凍えるようだ。

「ハルカ。だいじょうぶ?」

荒い息を吐く音に気づいてレナはハルカのほうをむく。
ハルカの様子がおかしかった。
眼には生気が無くなり顔がダンボールのように
白くなって青い唇からカタカタ歯を鳴らす音が聞こえる。

ー大変だー

レナはハルカをおんぶすると教会を後にした。
道々を行く時の人々が振り返る視線も気にならなかった。
やっとの思いでマンションのエレベーターに乗り
家に着くとママとパパの慌てる様子を見ながら
力尽きたレナもその場に倒れこんだ。
倒れる一瞬、ハルカをここまでおんぶしたことに
自分でびっくりした。
72名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:30:28
熱にうなされて、体中の骨が凍り息を吐くのも辛い。
目の奥がしょぼしょぼして額が熱かった。
しばらく眼を閉じて覚醒と眠りの
森の中を抜けると体が幸福感に満たされた安らかな感覚があり
眼を開けると私のベッドのそばで座っているのママと
ベッドで寝ている自分とレナの姿を見下ろしていた。

ー私は浮いてる?−

その時、ミナの声がした。

《ハルカ。こっちよ。幽体離脱っていうの
心配しなくて大丈夫だから》

窓の外にミナがいる。何か言っている
こっちに来いというの?
私は自分のそばを離れるのが怖かった。ミナは何者なんだろう?
夢なのに(夢なんでしょ?)不思議と恐怖感があった。
ミナは笑顔を向けて飛んでくると私の手を取って
そのまま、閉じた窓を抜けてマンションの外に出た。
恐怖で口の中に叫び声がせりあがってくると
ミカは私の背中をさすり、
ごめんねでも心配しないで、と言う。
73名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:32:58
そのまま体が風船にでもなったように
重さを感じぬまま、ぐんぐん空を上っていくと
町はだんだん小さくなり、いつか行った沖縄旅行の
飛行機の窓の外の風景のように町が大きな
クリスマスイルミネーションのようになり
雲を抜けてハルカが止まった。
見上げると綺麗な月が浮いていた。


「ここはどこ?」

《ハルカの住む町のずっと上のほう。
ほら、雲の間から向こうにビルの明かりが見えるでしょ?
あれが新宿の副都心》

ハルカにはこれが夢なのか現実なのか
分からなかったが、黙っていることにした。
これはたぶん現実なのだ。それを知るのが怖かった。
なんで自分は浮いているのだろう?
死んじゃったのか?ミカは何者なんだろう?
それがずっと頭にこびり付いている。
信じていいの?悪者じゃないの?
ミカの顔をじっと見る。
74名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:34:22
《私はハルカのママの妹。ずっとずっと昔のね》

ハルカは眼を丸くして、ミカの顔を見つめる。

ーこの人は私の心を読んだー

《びっくりさせてごめんね・・・
ハルカに聞いて欲しいことがあるの。
すぐ終わるからちゃんと聞いてね。
私のお墓・・・うん、私は死んでるの。
でも怖がらないでハルカちゃんはママに会えるし友達にも会える
ハルカちゃんは死んでないから。

私のお墓が群馬にあるんだけど、うんお母さんに聞けば分かるわ
そこにお母さんとお父さんとレナとハルカで来てお墓参りを
して欲しいの、それでお線香を上げて欲しいの。
その時、般若心経をお墓に供えて。
忘れないで般若心経を供えるの・・・分かった?》

「般若心経・・・」

《そう、忘れないで
75名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:34:57
4人は大きな杉の木が鬱蒼とするお寺の下にある道路に
車を止めると御花とジュース、お菓子、ママとミナが
好きだった少女漫画、線香
それと般若心経を持って降り立った。

車の中でママの話しを聞いた。
ここはママの生まれた村。
ママの小学生の時の妹で不思議な力を持っていたけど
自殺してしまったミナちゃん。
レナとハルカが人形が動いたことを言った時
怒ったのはそのせい。ごめんねと言ってレナとハルカを抱きしめた。
その時ママが泣いた。ごめんねママ。あやまるのは私。


ハルカが線香を供えた時、杉の木の間に
光る玉が見えた。ゆっくり杉の木々の間を
くぐりぬけてくるとお墓の周りをまわっている。
ママとパパがびっくりしている。

「ミナ。元気だった?」

ママがそういってまた涙を流した。
76名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:35:37
お墓参りの後、夜遅くなって
高速を降りマンションが近くなったころ
レナとハルカの頭に声が聞こえた。

《小学校に行って、これが最後よ。
レナ、ハルカ。お墓参りありがとう。
二人にあえてうれしかった。ママにもよろしくね。
漫画楽しみに読むから。そう伝えて》



影が空から降ってきた。
校庭の真ん中で私達4人とミナで待ち受ける。

「「それ」よ。自分の世界に帰りなさい。
私がこれをあげるわ」

そう言うとミナは般若心経を読み出した。
影が渦巻いている。ニュースで見る台風の
衛星写真のように学校をすっぽり飲み込むような
大きな渦が速度を上げて渦巻く。
校庭の砂が舞い上がり4人の顔にぶつかり
眼を閉じる。落ち葉の落ちた植樹が
右に左に渦に巻き込まれそうに揺れている。
誰かの仕舞い忘れたサッカーボールが
渦の中心に飲み込まれていった。
77名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:51:52
「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空・・・」

渦が強さを増した渦に4人は手をつなぎ
座り込んで飛ばされないようにお互いを支えあいながら
ミナの言葉を聞いている。

渦の中から触手のような細い腕のような影が伸びてきて
レナとハルカの体に絡みつくと腕が分裂し
二人を包み込んだ。

「レナ!ハルカ!」

風の強さでママとパパは目を開けていられず
繋いだ手で必死に影を振り落とそうとする。
洋服がはためきばたばたと音を出している。
78名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:54:19
「やめるんだ!」

「レナ!」「ハルカ!」

「心無礙 無礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想・・・」

舞い上がり渦に巻き込まれそうになるレナとハルカを
ナイフのように形を変えた光のミナが
影を断ち切る。

「能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪」

大きな光の玉になったミナは
ドーム状になると4人の体を覆った。
それでも影は光を吸い込み穴の開いた部分を
さらに広げ、二人を吸い込もうとする。
それを止める光。激しい風の中4人は気を失いそうになりながら
必死に耐え終わるのを待っている。
79名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:55:12
風がやみ、静けさが戻ってきた。
校庭に散乱した落ち葉の中で4人は目を開ける。

「ミナ。これで終わりにしてやる
お前はレナとハルカの体を変えたな?」

二人は顔を見合わせる。

ー変えたってなんだろう?−

「だがな。俺達はただ戻るだけだ。またいつかこの世界にやってくる。
レナとハルカの子供が生まれるころ。俺達はきっと帰ってくる
その意味を考えろ」

そう言うと渦はちぎれ夜の中に消えた。
80名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:56:00
《みんな。大丈夫?》

ミナが光の玉に戻ってレナとハルカの
頭に問いかける。

二人は大丈夫と言うようにうなずいた。
4人は立ち上がり、あたりの光景を
見回して今更ながら驚いている。

「なんだったんだ?あれは?」

パパがとんちんかんなな様子に
みんなが笑った。

「ねえミナ?体を変えたって何?」

ハルカがミナを見上げて聞いた。
81名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 10:57:47
《お母さんに聞いてみて。お月様が来る体にしたの。「それ」は
そういう子供は必要ないから》

首をかしげてハルカがママに振り返る。

「ママ、ミナがお月様が来る体にしたって言うけど
お月様って何?」

レナはハルカの頭を小突く。

「馬鹿ねえ、お化粧してもいいってこと。」

ママがうなずいた。

ーママ。泣かないで・・・−

レナはそう心の中でつぶやくと校庭を駆け出した。


おわり
82名無し物書き@推敲中?:2006/12/14(木) 11:15:52
「加奈ちゃん見つかったみたい。
お庭で倒れたんですって・・・
衰弱していて、助かるかどうか分からないけど
今、病院に入院してるんですって」

私がたらこのぬいぐるみを抱きながら
テレビを見ているとパパとママの話す声が聞こえてきた。
あの日、以来ミナの声も聞こえないし
人形も動かなくなってしまったけど
いつかきっと会えると信じている。
「それ」が言った私がお母さんになったときに
また現れると言う言葉。
それを思い出すと泣きたくなるけど
今はそんなことを考えても仕方ないし
どうかできると言うことでもない。
その時はハルカと力を合わそう。

「ねえ!レナ!お見舞いに行くの?」

ママが私を呼んでいる。
ありがとうミナ。また会おうね。

私はぬいぐるみをソファに置いて立ち上がる。

ーもう、ぬいぐるみは卒業かな?−

たらこのぬいぐるみを見てそう思った。

エピローグ おわり
83ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/14(木) 11:17:55

神様、般若心経を
軽々しくつかってごめんなさい
84ken ◆r7Y88Tobf2 :2006/12/14(木) 11:37:58
すんまそん。
文中のミカというのはミナの間違いです。
キグルミの女の子と不気味な曲から
この話は生まれました。読んでくれてありがとう。

85名無し物書き@推敲中?:2007/01/13(土) 21:40:10
hossyu
86ken ◆r7Y88Tobf2 :2007/02/12(月) 23:08:54
ぱくっちゃイヤよ
87名無し物書き@推敲中?:2007/04/23(月) 17:47:44
どんな町でもいいけど
犯罪人残飯の居ない町がいいねwww
 
88名無し物書き@推敲中?:2007/09/20(木) 02:14:31
”インテリジェント・ゴリラスーツ”を常に身に着けることが、この未来社会での第一のルールだった。
それを着用しない外出は、まさしく死を意味した。ゴリラスーツに装備された高価な機械が発見次第
すぐ反応し、パワーアームで、即撲殺。辺り一面が肉片や汚物で汚れても、パワーアームできれいに
掃除するから手は汚れずに済む。未来社会では水は人の命よりも高価だから、それは環境にも
やさしい。指先すべてに仕込まれた、肉食の昆虫が全ての肉片や汚物を食べてしまうのだ。その後、
今度は虫が排泄した糞がゴリラスーツの動力となるのである。何と合理的であろうか。
このゴリラスーツを開発した、J・チャリティ博士はその為に大いに苦労した。
89最下層探査:2007/10/12(金) 15:49:17
どこにいっても残飯汚染。
90名無し物書き@推敲中?:2007/10/18(木) 13:19:08
age
91名無し物書き@推敲中?:2007/10/18(木) 14:50:05
萩原さくたろう の 猫町の パクリスレですか?
92名無し物書き@推敲中?:2007/10/18(木) 15:19:37
残飯はパクリ専門の盗っ人ワナBE
93名無し物書き@推敲中?:2007/10/22(月) 22:03:16
その町の名は、スカンチャイサー。
歴史はまだない。気候はプル(春)
はい。決めました。
94名無し物書き@推敲中?:2007/10/23(火) 00:10:15
しかしここ数年、地球温暖化に伴う異常気象で気候は真冬の寒さをみせていた。
ちなみに平成の大合併で近隣の市に組み込まれ、市名(町名)も
来春市と変わった。
95ken ◆r7Y88Tobf2 :2007/10/23(火) 07:30:53
もう一年か。
ここで文章を書いたときは楽しかったな。
胸が熱くなるよ。
書いてた気分思い出すと。
96名無し物書き@推敲中?:2008/03/12(水) 19:24:17
┌───────────────────────┐
│    ( ̄ ̄)                              |
│     )  (    超 優 良 ス レ 認 定 証      |
│   / 2ch \                               |
│    | ∧ ∧  | / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\         |
│    | ( ゚Д゚)< や…やるじゃねぇか…  |     .      |
│   \__/. \_________/         |
│   .このスレが2ch優良スレ審査委員会の定める認定. |
│  .基準(第5項)を満たしていることをここに証する。  .|
│ 平成18年8 月     2ch優良スレ審査委員会      |
│                   理 事 長  ひろゆき@管直人  |
│                  認定委員 名無しさん.      .|
└───────────────────────┘
97名無し物書き@推敲中?:2008/03/12(水) 19:25:23
┌───────────────────────┐
│    ( ̄ ̄)                              |
│     )  (    復活スレ認定証      |
│   / 2ch \                               |
│    | ∧ ∧  | / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\         |
│    | ( ゚Д゚)< 捨てる神あれば…拾う神あり…  |     .      |
│   \__/. \_________/         |
│   .このスレが2ch復活スレ審査委員会の定める認定. |
│  .基準(第15項)を満たしていることをここに証する。  .|
│ 平成20年3  月     2ch優良スレ審査委員会      |
│                   理 事 長  ひろゆき@管直人  |
│                  認定委員 名無しさん.      .|
└───────────────────────┘
98名無し物書き@推敲中?:2008/03/27(木) 00:17:41
平成の大合併か。懐かしいな。
もう一回合併して南セントレアなんてアホっぽい名前を別の名前に変えて欲しい。
99名無し物書き@推敲中?:2008/06/09(月) 21:11:50
age
100名無し物書き@推敲中?:2008/11/24(月) 07:48:38
なんかたまたま目に付いたスレ
なんとなく誘ってみようとageてみる

誰も来なかったら、このスレは死亡だな
101名無し物書き@推敲中?:2008/12/22(月) 09:15:31
>>100
来たよ
102名無し物書き@推敲中?:2009/01/01(木) 22:37:04
>>100
スレ一覧から来ました
二階堂のCM好きだなー
本当にある町なのに、架空の風景みたいだ
103名無し物書き@推敲中?:2009/03/22(日) 18:54:36
トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウスか
104名無し物書き@推敲中?:2009/03/23(月) 03:34:48
架空で検索してお気に入りに入れた
架空地図好き
105名無し物書き@推敲中?:2009/06/19(金) 09:42:21

毛針(けばり)とは魚釣りに用いる針の一種で、針に毛を付けて虫のようにみせかけた
もの。魚に、餌である虫が水面に落ちたと誤認させる方法で使用する。(おもりを使用せ
ず、毛針を水面に流す)総称「ドライ・フライ」
106名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 11:35:25
 
プロローグ

女は立ち止まり、またあの感覚が来たことを知った。
忘れようとした感覚、忘れようとした思い。忘れたくても忘れられない記憶。
――嫌だ。嫌――
女は思う。
――もうたくさん――
しかし女は自分がまた立ち向かわなければいけない事を知っている。それが女の運
命なのか。それは誰も知らない。




 管理人である中原達夫は軽トラックのエンジンを止めるとしばし森の音に身を浸した。
ドアを開けると、暖房の効いた車内に冷ややかな、空気が混じり肺の奥を満たしていく。
軽トラックの前、白が広がる世界は中原が去年買ったキャンプ場だ。
高校を卒業し、地元の自然観察員として過ごした後、北海道のキャンプ場に
働きに行った。そこでは様々な経験をした。初めてキャンプ場の近くの森で羆に会
ってその大きさ、檻越しで見るのとはまったく違う生々しさに興奮、緊張しパニックにな
ったのを覚えている。もちろん中原は自然のカモシカや猿にあったことはある。で
も羆はそれらとは違うし、テレビを通して見るのとも違った。隣で猟銃を持ったハ
ンターにそれを悟られまいとした。舐められるのが嫌だったというのもあったし
緊張がハンターに伝わると良くないと思ったからだ。そしていつしか羆の姿にさえ
慣れた自分がいることに驚いた日。「調査」と称して真冬に雪の中を分け入ったが
日帰りの予定が遭難してしまいビバークしたテントで見た一人ぼっちの夜空。自然は
美しくも怖くもあったった。
107名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 11:36:51
――本当は遭難を望んでいたんだろうか? 何かをつかむ為に――中原は思う。夜空
は自分の生命の先にあった。そして自分も自然の中の一人であり、神を感じさえした。
でもそれは後から思ったこと。その時に思ったのはただ言葉が失われた感覚だった。
畏怖の情念。それは長い間祈り続けたイスラム教徒がユダヤ教徒がキリスト教徒がそれ
ぞれの祈りの場所で感覚するものかもしれなかった。「ただの思い込みかな?」妻には
言ったがそれは、恥ずかしかったからかもしれない。――自然が俺の祈りの場所なのか
もしれない――言葉に出してしまうとすべては平凡な言葉になってしまうのだろう。
そう平凡な言葉が大事だと気づくことがあるように。夜空の下では人間と動物の区別も
なかった。平等さえなかった。ただみんなが宇宙の中にいるだけだった。そして私
たちは宇宙そのものなのだ。

 中原はつかの間の追想からもどりトラックのドアを開ける。森は雪解けが始まってい
たがまだ、町に比べると地面にも管理棟の屋根にも雪は残っている。僅かに溶けた管
理棟の赤い屋根が早春の日差しの中で輝いている。解けた沢の流れと森を抜ける風の
音。そして重みに耐えられなくなった雪が木々から落ちる音だけが聞こえる。
――まだ、少し早かったかな――中原は思う。キャンプ場は街から一時間走り、そして
近くの集落へ着き、そこから県道を曲がり未整備のキャンプ場へと続く、道路を30分
も走った森の奥にあった。このキャンプ場を買ったのには訳がある。まず生まれ育った
県にあるということ。静かなこと。そして一番大きいのが安かったことだ。
「あの事故のことは知ってるよね?」
キャンプ場を仲介した不動産屋は言った。キャンプ場が売りに出されていることを、中原
は仕事先のアウトドアショップで働いているとき聞いた。それは中原が何度か行ったこと
もあるキャンプ場で前の管理人であるベテランの大沢という人がが痛ましい事故で亡くな
ったキャンプ場だった。――あのキャンプ場はやっぱり売りに出されたんだ――前から事
故のことは噂になっていた。木材を加工する電動のこぎりによる不可解な事故。
「まるで生き物のようにのこぎりが向かっていったとしか思えない」
108名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 11:38:17
饒舌な不動産屋は言う。あるいは殺人じゃないかとの噂もあった。酒場で店の裏側で他人
には聞かれない場所で噂は広がっていった。大沢さんが木材を加工していた場所は、倉庫
の隣の作業小屋で警察による鑑定では漏電と大沢さんの不注意だということだった。――不
注意?――信じられなかった。中原は生前の老齢ながら良く笑いよく動いていた大沢さんの
姿を思い出す。電動のこぎりは大沢さんの首を半分切り、おそらくのこぎりを取ろうとした
手のひらを傷つけ、中指を落とした。のこぎりは下腹部に刺さったまま婦人、である由美子
さんに発見されるまで大沢さんの下腹部でうなりをあげていたそうだ。「普通は手を離して
も動いてることなんて電気のこぎりの構造上ありえないんだよ」
誰かが言った。
「呪われてるよね。映画みたい。13日の……」
そしてまた誰かが。

中原は気にしないことにしたが、それでもやっぱり気になった。「本当にいいの?」嫁は
心配そうに聞いた。中原はわからなかった。中原は霊感を感じたことは無かったし、
UFOさえ見たことが無かった。キャンプ場には昔からの古い建物の他に真新しいコテージが
あった。とてもお洒落なつくりだった。ヨーロッパ風とでも言うのかアーリーアメリカン
とでもいうのか都会のカフェとしても使えそうな感じだった。一目見て気に入った。
109名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 11:39:15
「あれはねえ、けっこうお金かかったみたいですよ。ほとんど大沢さんとその知り合いの
方で作ったみたいですがね」
不動産屋が言う。炊事場、エントランス、シャワー室等、本当に細かいところまで管理は
行き届いていたから自分はそこに行くだけであとは何もしなくて引き継げた。
「お父さん、あれなに?」
家族でキャンプ場に線香をあげに来たときのことだ。帰ろうと車に乗り込むとき息子が言った。
指差す先には何も見えなかったが息子には霊が見えたそうだ。
「隼人。ホントなの?」
妻の葵が聞く。頷く隼人。中原は、霊をまったく信じていないかというと、そういうわけで
もなかった。テレビで夏にやってる怖い話の番組なんか好きだったし、UFOも見たかった。でも
もちろん大沢さんの霊を見たいわけはないし、第一、考えることも不謹慎だ。
「隼人。お腹すいてない?」
帰りに寄ったマクドナルドで息子はいつもと変わらずにハンバーガーを頬張っていた。
――あんまり気にすることも無いかな――その時は、まだキャンプ場を買うか決めてなかったか
ら、子供の直感みたいなものを信じて買うのをやめるのも一考しようと考えたのだ。――もし買
うとなったら作業小屋はしばらく入らないようにしよう――そして中原は自分のチーズバーガーを
頬張った。うまかった。

 中原はまだ雪残る大地を歩き管理棟の鍵穴に鍵を差し込んだとき嫌な感じがした。電気が流れ
たとでも言うのか。――気のせいさ――そう頭では思ったが、気のせいで片付けるられるような
感じとは明らかに違うと体は言っている。「逃げろ。今すぐに」体は言っているような気がした。
中原は後ろを振り返って意味も無く軽トラックを見ても、ただ雪の上に乱れた直線が続いているだ
けだった。「お父さん。あれはおばけ?」あの日に帰りの車内で隼人が言った一言が突然に聞こえ
た。――落ち着け。霊なんかじゃ無いったら――中原はガラスが嵌め込まれたドアから管理棟の中
を覗いたがカーテンがかかってよく見えなかった。中は暗く。何も見えない。

110名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 11:40:14
「おおい。誰かいるのか」
点検と偽って怖さを紛らわせるためキャンプ場をぐるっと回った後、もう一度、管理棟に
向かってようやく鍵を開けた。嫌な感じは無かった。そして誰もいるはずは無い、馬鹿な
ことだと思いつつ管理棟の中、受付の裏にある明かりを付けるためにスイッチに行く前に
ドアの開けたまま中に向かって大声を出した。管理棟の中には食堂というか本棚やトランプなど
雨の日でも楽しく過ごせるような大きなテーブルいくつかと椅子があったが開けたドアの
せいで見えるようになった。
「いたら。出て来い。警察には言わないから」
自分が子供になった気がした。声を出すことで恐怖が増したように思った。あの見えない
奥のキッチンに何かが誰かがいると思って声を出した。そいつはナイフを持っていて俺に
襲い掛かるだろう。なぜなら、そいつは異常者で冬の間、ここで寒さをしのぎ倉庫の食料
を食べていたのだ。そんなのは妄想だとわかっている。長い間、空気の入れ替えをしなか
った場所特有の匂いがしたからだし、荒らされた雰囲気も無かった。

「いたら。俺が帰ったら、出てってね」
自分が馬鹿であほになった気がしたが笑えなかった。そのときだった。見えない何かが動
いた気がした。土地の観光用のポスターが水を通して見たように揺れたような気がした。
それは空気は風のように動いたが風ではなかった。それがテーブルと壁の間の通路で固ま
って目に見える何かに変わる予感がした。中原は、なぜか懐かしかった。子供の頃、そして
大人になっても恐れていた正体のわからないままだった幽霊、モンスター、物の怪にやっと
会えるという不思議な感情。ウルトラマン。あの怪獣に今やっと会えるのだ。やった本物だ。
うれしいな。
――嘘です。私はそんなもの見たくない。会いたくない。嫌です。神様。嫌ですお願いで
す。ごめんなさい神様――その見えない何かは、通路にいて中原を見ていた。中原には分かっ
た。――俺を見ている。俺を殺すかどうか考えている。いや、何も考えていない。ただ見
てるだけだ――中原は動くことが出来なかった。逃げても追いつかれると知っていたが一瞬後、
体は勝手に動いた。
111名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 12:46:57
意思とは無関係な体の原始的な生存本能。気づいたときには玄関で転
び、雪の上に転がっていたが雪と恐怖で足が震えてうまく立つことが出来なかった。
―まるでお笑いタレントのリアクションみたいだ――頭の片隅で思った。分かっていても立ち
上がることが出来ない。背中に気配を感じる。あいつが近づいてくるのが分かる。――逃げろ。
逃げなさい。逃げなくては死ぬのですよ――頭の片隅は冷静だったが、本能に従っていた体が
今度は邪魔をしている。見えない影はゆっくりと中原に近づいていった。ゆっくり。しかし確実
に。中原が雪の上で立ち上がることに成功して軽トラックまで近づいたとき、その影は中原の体
に入り込んだ。

美咲はベッドの上に座りその方角に目を向けた。その能力が世間で超能力と称されるもので
あろうことは知っていたが、自分にそんなものがあるとは認めたくなかったし、一時的なも
の大きくなれば消えてしまえばいいといつも思っていた。幼い頃、母親に言ったらしい。
「曾おばあちゃんが、もうすぐいなくなるかも知れない」それから一ヶ月、たたないうちに
山梨に住んでいた曾おばあちゃんが死んだ。老衰でいつ死んでもおかしくなかったから両親
は偶然だろうと思ったらしいが、それは多分違う。美咲にはおばあちゃんが死ぬと予言した
ことを覚えてなかったが小学生になりそのことを聞かされたとき思ったのは「小さい頃から
私はその能力があったんだ」ということだった。

112名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 12:49:15
二度目の予言は両親には言っていない。友
達のカホちゃんのお母さんが自殺したことだった。「ああ、もうこの人は世の中にいなくな
るんだ」カホちゃんの家に遊びに行ってカホちゃんのお母さんを見て美咲は思った。誰かに
言ってはいけない気がしてカホちゃんにも誰にも言わなかった。そして去年、フルートのレ
ッスンに行った帰り、吉祥寺の駅で階段で若い男の人とすれ違ったときのこと。「この人は
自殺するんだ」美咲には分かった。駅ビルの本屋で時間をつぶしていたらしばらくして電車
が止まり駅員が乗客に説明していた。ああやっぱり美咲、は思った。そして今度はもっと
もっと大きいこと。――おばけ。おばけじゃない。でもそんなもの。もっと人を殺すかもし
れない――それは、もうお年寄りを殺した。たぶんそう。新聞でそのことが載っていないか
調べたが分からなかった。「あんた新聞なんて読むの?」母親は言ったが美咲は黙っていた。
場所は北のほう。山の近く。そいつは人間じゃないけど、人間の形をしている。美咲は考え
ようとする気持ちと考えまい、気のせいだとしようとする気持ちの両方があった。そんな遠
くで起きてる夢みたいなことなど私に分かるわけが無いじゃない。遠くのほうでおばけが人
を殺そうとするなんて。だけど分かるのだ。今日、両親に言おうと思った。でも言えなかっ
た。両親は私がおかしくなったと思うだろう。あるいは警察に言ったらいいのだろうか? 
警察だったら何とかしてくれるかもしれない。北のほうに変なものがいるよって。私自身に
さえ、なにか分からないのにこれから殺される人のことをどうやって
警察に伝えたらいいのだろう? 
113名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 12:51:15
そもそも信じてもらえるのか。――私には関係ない――美
咲は思う。なんで私なの? ベッドに入り電気を消すとそいつがやってくるような気がした。
「お前を食うんだよ。お前をね」そいつは美咲の想像の中で言っている。美咲はベッドから
跳び起きると茶の間の両親まで駆けていって洗いざらい話した。はじめからすべて。曾おばあち
ゃんのこと、自殺する人が分かったこと。唖然とする両親の顔。美咲は知らない間に泣いて
いたが恥ずかしくなかった。ただすべてを両親にしゃべりたいだけだった。
苦しみを吐き出したいだけだった。
「美咲……」
お母さんが私の頭をなでた。そして話し始めた内容に美咲はびっくりした。

「そのおばけには私が小さかった頃、会った事があるの。おばけ――私は『幽霊』と名づけ
てたけど――私が《感じる》ことを知っていたと思う。でも幽霊にとって私は重要じゃなか
ったんでしょうね。何もされなかった。群馬に温泉があって私は母親と温泉に入っていたの。
紅葉がきれいでね。でも子供って温泉ってあまり興味ないでしょう? 私がつまんないなあと
思って腰掛けてたら温泉に何かがいるの感じがした。変なもの。そこだけ風景が歪んでるみた
い。でもそれは人間の形をしているの。他人にはそう見えると思う。たぶん取りつかれている
って言うんでしょうね。そいつはおばさんに取りついていた。それで私のほうをじっと見てる
の。目では見てないのよ。おばさんは景色を見てたんだけど、私のほうを見ている。怖かった。
母親にも温泉出たいって言えなくて、どうしようかと思った。だから別の湯船に行っておばさんが
あがるのを待ってた。お風呂から上がったと両親と食事をしようと温泉のレストランに行った
ときにも、そのおばさんはいてね、私を見てた。おばさんにも子供がいたのを覚えてる。でも
それっきりだけどね」
「おじいさんを殺したのはそのあばさんなの?」
美咲は聞く。
「たぶん違うでしょうね。だって人間に取りついてるだけで、『幽霊』は誰にも乗り移れるの。
もしかしたら私がドラマや本で読んだ、怖い話と現実が混ざってる
部分があるかもしれないけどそんなには間違っていないと思う」
114名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 12:52:26
中原はバイト先のコンビニの休憩室の椅子に座りしばらく動かなかった。冬の間だけバイトを
させてもらっているコンビニだった。椅子に座って深く腰をかけ動くことが出来ない。それは
肉体の疲労のためだけでは無かった。心労。そう心労といえばよいのか。自分でも良く分から
ない。先週、キャンプ場に行ってからどうもおかしい。不思議なのは、キャンプ場から街に帰
ってくるまでの記憶が無いことだった。街に入り見慣れた交差点で信号待ちをしているときア
ッと気づいた。目が覚めるような感じで、一瞬、俺は寝ていたのかと思ったけど眠気は無かっ
た。心臓が高鳴り体中に汗をかいたようなまま、信号が青になった。車を発進させたが後ろか
らのクラクションも無くそれほど自分がおかしな行動をとっていないとわかる。ファミリーレ
ストランの駐車場に入って息を整えた。――何が起こったのだろう?――中原は斜めに駐車さ
れた車の中で考える。心臓はまだドクドクしていて自分がどこにいるか分からないような感じ
だった。何かおかしい。何かおかしいが自分でも分からない。そんなことを休憩室の椅子でぼ
んやり思い出していた。キャンプ場の借金がまだ払い終わってなかった。冬の間は雪が多くキ
ャンプ場を開けておくことが出来ない。妻の葵にも別の場所でアルバイトをしてもらってる。
中原は自分の夢――良く言えばだ。悪く言えばわがままなのだと自分で知っている――のため
に家族が犠牲になっているかもしれないことを考えると胸が痛んだ。「キャンプ場に引っ越し
てしまうのはどうかしら? 別に住めないわけじゃないし、冬の間もキャンプ場をオープンさ
せておくことが出来る。隼人が学校に行くのが大変になるだろうけど、どうかしら?」と妻は
言う。悪くない提案だと思うし、大賛成だった。
115名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 12:53:50
だけど冬の間にそれほどお客が来るとも思え
なかった。借金。借金。もちろん買うときにキャンプ場の借金を月にいくら返していけばいいか
計算した。そして足りない分は自分がアルバイトをすれば大丈夫だと分かった。――ただ疲れ
ているだけなんだ――自分をそう納得させられなかった。――あのキャンプ場で俺は何かを見
た。そう幽霊だ。あれは大沢さんの霊だったのだろうか?俺がキャンプ場を買ったことを怒っ
ている? まさかそんなことでは無いだろう。ではなんだ?―― あれは間違いなくリアルな
体験だった。空気が動いた。色の無い見えないものが動いたのが見えた。それを思い出すと中
原は寒気、恐怖、風邪を引いたときに体中に感じる悪寒を感じるのだった。あれはなんだ? 
中原は思う。分かるわけは無かった。ウルトラマンの怪獣と思ったのを良く覚えている。怪獣
に会えるのだと。すると突然、あの日の管理棟の玄関に自分はいた。何かが俺を見ている。そ
いつはああそいつは俺を……中原は椅子に座ったまま休憩時間が過ぎても、もう一人のアルバ
イトが呼びにくるまでそこを動けなかった。


美咲の母である奈々子は自分がその場所に行かなくてはならないと直感した。そうあのあばさ
んに乗り移った『幽霊』にもう一度会うために。何のために自分がそこへ行かなくてはいけな
いか分からなかった。あるいはこれから殺されるであろう人を助けるためか。あるいは自分が
犠牲になって世界を救うためか。――私が世界を救う?――まるでお笑いだった。自分が世界
の救世主になったつもりでいるのか? 奈々子は知っている。『幽霊を消すことは出来ない。
ただ……。その先のことは奈々子にも分からなかった。『幽霊』は乗り移る相手を探している。
それはきっと強い力を持った者だ。幽霊は美咲のことを知っているのだろうか? 美咲が持っ
ている力。すごく強い。私が持っている力。――行きたくない――でもそこへ行かなくてはな
らない。北。北のほうだ。雪がとけ始めたら幽霊は動き出すだろう。
116名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 12:54:49
中原は家族が寝た後、テーブルに座ってテレビを見ていたが頭は見てはいなかった。別なこと
を考えていた。夕食のとき、それは恐ろしい衝動だった。妻と息子を殺したい、首を絞めたいという
強い衝動。それは熱い欲望となって自分の体を震わせた。――コロセコロセコロセ――妻は食
事の後片付けをしていて、息子はゲームをしていた。妻を殺し、息子を殺すんだ今すぐ。どこ
かで誰かが自分に命令している気がした。その命令は強く、否定するのが困難な感情だった。
殺すことはすばらしいことに思えた。妻がこの世からいなくなる。なんてすばらしいのだろう。
中原は思った。食器を洗っている妻の後ろに立つ。妻は俺の殺意に気が付かないだろう。気が
付くわけは無いのだ。その無防備な妻の首に手をかける。生生しい首の柔らかい肉の下に血管
と気道が通っている。それを握りつぶすのだ。妻は暴れるだろう。唖然とするだろう。俺が何
をしてるかわからないだろう。その時。俺は愉快な気分になるに違いない。暴れろ暴れろ。お
前は死ぬのだ。男の力に逆らえるわけは無い。中原は息子の視線を感じる。恐怖で動けなくな
った。隼人。「お前も殺す!」そう俺は隼人に言うだろう。あるいは笑いかけるだけかもしれ
ない。そう考えると気分が良かった。そして今すぐ実行しなければならないと思った。それが
まったく正しいことに思って立ち上がりかけたとき何かが俺を抑えた――お前は騙されてるだ
けだ。お前は操られてるんだ――その声は自分の理性だったかもしれない。あるいは社会の倫理?
中原はあれはなんだったのかと思う。分かっている。キャンプ場だ。あそこで何
かが起こったのだ。あの見えるようで見えない空気のような化け物。そいつは俺に魔法のよう
なものをかけたに違いない。あるいはここにいるのかも? 中原は自分の頭上を見上げたがア
パートの蛍光灯と天井が見えるだけだった。――医者に行ったら良いのか、占いにでも行った
ら良いのか?――中原は思った。――神社に行こう。明日、神社に行ってお祓いをしてもらお
う――。中原は椅子から立ち上がり冷蔵庫から缶ビールを取り出すと喉に流し込んだ。きっと
不味いだろうと思ったがいつもと、変わらない味がして涙が出そうになった。
117名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:22:20
「あなたキャンプに行かない?」
奈々子はそう夫に提案を始めた。いや提案じゃない。絶対の要求だ。キャンプ場に『幽霊』が
いる。昼間にテレビを見ていた。リポーターが田舎から季節の便りを紹介するよくある番組だ
った。奈々子はそれを見て、ここに『幽霊』いるに違いないと思った。そして『幽霊』も私が
見ていることを知っているかもしれないと。画面の遠く山の中だ。そのキャンプ場へと続く道
路の近くの畑でリポートをしていた。陽気なリポーターが春の訪れを教えている。奈々子はこ
れも運命なのかもしれないと思った。誰かがこれを見せているのだ。それは『幽霊』なんかじ
ゃない。もっともっと宇宙的なもの。――神?――そうかもしれなかった。――幽霊の次は神
ですが? ずいぶん忙しいこと――心の中で誰かが悪態を付いた。神でもなんでもかまわない。
私はあそこへ、行くのだ。私だけじゃない。美咲も行かなくてはいけない。美咲。美咲のこと
を考えると奈々子は悲しくなった。どうして美咲なんだろう? 私だけじゃいけないのだろう
か? 幽霊が狙っているのは美咲なのだ。それが奈々子には分かる。いやまだ幽霊は気が付い
ていないことがある。美咲の力の大きさだ。そして私の持っている力を。とりあえずキャンプ場に、行か
なくてはならない。そこに行くまでに距離が近くなれば何か感じられるものが多くなるような
気がした。――神様――奈々子は祈る。助けてくださいと。そして自分の運命を呪うとともに
愛し始めた。

中原は遠くで誰かが自分を呼んでいるような気がした。南のほうだ。東京。東京で二つの魂が
俺を呼んでいる。そいつらは俺に会いに来るだろう。――そいつらを殺すんだ。いや大人だけ
だ。子供はパワーを持っている。
118名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:23:11
お前はそいつと性交しなければならない。そいつと赤ん坊を
生むのだ。赤ん坊はより大きなパワーを持つことだろう。お前のエネルギーと子供のエネルギ
ーが合わさればより大きなパワーを生むのだ。そして世界を立て直すのだ。この世界をお前と
子供と赤ん坊、そして新たな仲間も手に入れ未来を作るのだ。それはきっとすばらしいものに
なるだろう――。中原は自分が東京に住んでいる子供と性交をするのかと思うと、胸が高鳴っ
た。そして自分が毒物になった気がした。――子供と? 俺は何を考えているんだ――それで
も思いは止まらなかった。性交は素晴らしいものに思えた。きっと子供は満足するだろう。俺
のものが子供の中に入る。子供は嫌がるかもしれないがきっと分かるだろう。間違いでないこ
とを。中原はむずむずしてマスターベーションをしたくなった。――お前は腐ってるよ。自分
のしようとしている事を考えろ――中原はどうしたらいいのか分からない。――死んでしまっ
たほうが良いのだろうか? 俺の中に取り付いている奴。そいつと一緒に死んでしまったほう
が良いのではないか? きっと練炭で自殺すれば楽に死ねるに違いない――中原はさっきから
同じところを堂々めぐりしていた。死にたい。死にたくない。死にたい。生きていたい。二つ
のパワー。それは俺を良い方向に導いてくれるのだろうか? この俺の取り付いてる奴を殺す
ことが出来るのだろうか? その時、気がついた。大沢さんは殺されたのだ。大沢さんは取り
付かれたのだ。取り付いた奴は次の獲物をキャンプ場で待っていたに違いない。それで……中
原はまた、あの日、管理棟で自分を見ていた目を思い出す。――あいつは大沢さんを殺したの
か?――中原は鏡の前に行って自分の姿をうつしてみた。いつもと変わらない自分がいるよう
な気がしたが、やつれているような気がした。――取り付いているやつは、俺を利用している
だけなんだ。もし赤ん坊が。子供の赤ん坊が生まれたら俺を自殺させるかもしれない――日に
日に妻と息子への殺意は強くなってきていた。妻が俺を見る目。妻は警戒している。なにか不
穏なものを俺に感じている。妻を殺したくは無い。どうしたらいいのだ? 中原は顔を手でぬ
ぐうと無精ひげを感じる。――髭を剃って熱い風呂に入ろう――そして中原は服を脱いだ。
119名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:24:56

ゴールデンウィーク


 奈々子と夫、美咲は高速道路を降りると道の駅に車を入れた。キャンプ場はもうすぐそこだ
った。街を抜けて山を上がる。それは奈々子が子供の頃、あの取り付かれたおばさん
に会った群馬の温泉のすぐ近くだった。――『幽霊』はこの三十年何をしていたんだろう?
――奈々子は思う。私が知らないだけで人に取り付いていたのだろうか? 分からなかったし、
そういうことに思いをめぐらせたま幽霊に会うのは危険だと思った。――美咲の体には触らせ
るものか――奈々子は思ったが自信が無かった。帰りたくなった。なんで自分がこんな目に合
うのか。奈々子は思い出す。「おかあさんがんばろうね」美咲の言葉。美咲は知っているのだ
ろうか? 幽霊はあなたと、そう……セックスして赤ちゃんを作ろうとしている。それだけじ
ゃない、それだけじゃ。奈々子は心が重かった。美咲に話しかけようとしたが何を話していい
か分からない。無邪気にご飯を食べている美咲。あなた大変なのよ。窓の外の日差しは暖かか
った。幽霊なんか知らずに、ここへ家族と温
泉に来ただけだったら、どんなに幸せだったろう。私がしっかりしなきゃ――そう思った奈々
子はキャンプ場に行く前に神社に行っておかなくてはならないと閃いた。

中原は覚醒した。4月29日。予約者名簿の一番上に書かれた今日の宿泊客の名前を指でな
ぞる。見高賢治。見高奈々子。他、子供一名。コテージ利用。――パワーだ――中原は思う。
予約の声は女だった。
120名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:26:27
中原と女は互いに相手がどんな正体を持っているか知りつつ事務的な会
話をした。「4月29日なんですけど予約できますか?」予約できますかだと? はっ! 予
約できるに決まってる。俺はお前らをずっと待っていた。お前らのために素敵なプレゼントを
用意してな。猟銃がいいか? ナイフが良いか?それとも素手で殺してやろうか? 「だいじ
ょうぶですよ。何名様ですか?」「大人二人と子供一人なんです。コテージが良いんですけど。
ホームページに素敵なコテージがあるって書いてあったもので」「ああ、見てくださったので
すか。お勧めですよ。まだちょっと山のほうは雪が残ってますからねテントは避けたほうが良
いかもしれませんが、この時期にテントで宿泊する方もいらっしゃいますよ」「そうですか。
でも今回はとりあえず、コテージでよろしくお願いします」「わかりました。お子様もいらっ
しゃいますし、コテージのほうが良いと思います。では何時ごろいらっしゃいますか?」「た
ぶんお昼ごろには行けると思うんですが、東京から車なんでゴールデンウィークだと夕方にな
っちゃうかもしれません」「わかりました。お待ちしております」こいつも力を持っている。
中原には分かった。しかし過信してるし、俺の力を見くびっている。中原は思う。この女に俺
の力が分かってたまるものかと思う。女を油断させておいて子供を奪うのだ。男は殺しても良
いだろう。そして子供と性交をするのだ。熱い迸るような濃厚なセックス! 中原は祈る。神
でも悪魔でも無かった。いつか見た夜空、あのどこかに俺を選んだものがいるはずだった。そ
のものに俺は仕えたかった。命さえ渡すつもりだった。俺の命を使って成し遂げてほしい。
――パワー――パワーが欲しかった。それはもうすぐやってくる。「セエエエエエクススウウ
ウウウ!!」中原は轟をあげた。
121名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:27:55
「これなあに?」
そう奈々子に問いかけた美咲が愛しくて奈々子はこのまま時が止まって欲しいと思った。
――この子は、なんてきれいな瞳をしているんだろう――
それでも急速に大人に成りつつある部分が表情の中に見え隠れする。――この子は子供だと思っ
てたけど、いつのまにこんなに大人っぽくなってたの? ―その強い意志を秘めた表情は、今回
のことで成長したのだろうか? あるいは母親である私にも気づかぬうちに美咲は大人に成りつ
つあったのだろうか? ごめんね美咲。気づいてあげられなくて。幽霊を感じることを教えてあげられ
なくて。もっと早くあなたに教えてあげるべきだった。
「破魔矢って言うの。貴方の味方よ」
「ふーん。お守りみたいなもんだね」
「そうね。離しちゃだめよ」
美咲はそれに見覚えがあった。初詣だ。近所の神社に初詣に行ったとき着物を着た女の人が持っ
ていたような記憶がある。美咲は破魔矢を持って投げるしぐさをした。――これにそんな力があ
るのだろうか?――分からなかった。
美咲はまだ会わぬおばけが乗っ取った人のことを考える。ホームページに載っていた若い男の人。
――この人もある意味で私と一緒なんだ――美咲は思う。家族の写真もあった。私より少し幼い
男の子も一緒だった。二年生ぐらいだろうか? この男の人におばけが取り付いてるなんて信じ
られなかった。男の人が木をナイフで加工している写真。周りには同じような服を着た子供がい
っぱいいた。ボーイスカウトだろうか? 野生のタヌキの写真。「タヌキに餌をやらないでね」
と書いてある。美咲は破魔矢を握りしめた。――美咲。やるべきことをやるだけよ――自分に言
い聞かせて神社の鳥居を抜けた。
122名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:33:38
「皆さん、本日はキャッスルロックキャンプ場へ、ようこそおいでくださいました。今日はキャ
ッスルロックキャンプ場の本年度初日であり、私が管理人になって迎える三回目の春でございます。
そこで私、管理人の中原、妻の葵、そして息子の隼人から皆様にワインのプレゼントをご用意いた
しました!」
湧き上がる拍手。管理棟の中、大きなテーブルに座る宿泊客の目の前にはさっきまで中庭で全員で
協力して焼いていた串刺しのお肉と魚介類があった。そして中原が近所の農家の方からいただいた
と言うたっぷりのサラダ。中原の妻手作りのパン。
「本日は東京からバイクでお越しの三人の男の皆様。駐車場にあったかっこいいバイクはこの方た
ちのですね。私も妻の許しが出ればバイクの免許を取りたいのですが……」
中原が悪戯っぽい目で妻を見る。怒った振りをする妻。宿泊客に笑い。
「それから車でお越しのそちらがカップルの木村様と中井様キャンプが大好きで、キャッスルロッ
クに来ていただけるのは二回目です。いつもありがとうございます」立ち上がる木村と中井。
「そしてご家族でいらしていただいた見高さま。お待ちしていりました。それでは皆様、ごゆっく
りお食事をお楽しみくださいませ」


「そのワイン、飲んじゃだめ」
奈々子が小さな声で夫の賢治に言った。賢治はグラスにかけた手を止める。
「睡眠薬が入ってるかもしれない。あとで私がタオル持ってくるから飲んだ振りして染み込ませて
捨てて」
そんな二人を別のテーブルから中原がじっとこっちを見ていた。蛇のような目。奈々子の力をはか
っている。なんでもお見通しという目だ。奈々子は怖かった。自分が中原の力を、甘く見ていたこ
とを中原に会って知った。――力をセーブしていたんだわ。私が『感じて』いるのを知って。私は
馬鹿だった。ここに来るべきでは無かった。食事が終わったら買い物をしに行く振りをして逃げて
しまおう――奈々子はそう思ったが、それさえも中原は知っているようだった。

123名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 13:36:03
「どうなってるんだ! ちくしょう! ぶつかるところだぞ!」
賢治は車のドアを開けて闇に向かって叫んだ。静かな森の中にエンジン音と賢治の声がこだまする。
そこはキャンプ場からの県道へと出る未整備の道の途中で大きな木が道路上に行く手を阻むかのよ
うに横たわってヘッドライトに浮かんでいた。キャンプ場と国道の中ほど。叫んでも誰にも届かな
い深い深い森の中だった。
「ちくしょう!」
夫が駆け寄っていって大木を退かそうとするが人間の力で動くような代物ではなさそうだった。車
で押そうにも長い幹は他の木と噛み合って車のほうが負けてしまいそうだった。
――中原の仕業だ――震えてながらも冷静でいなきゃと自分に言い聞かせながら奈々子は思う。
――あいつは知っていたのだ。私たちが逃げようとすることを――愚かだった。馬鹿だった。見く
びっていたのだ。中原の力。
「車を置いて逃げるか?」
そう夫が車の外から奈々子に話しかけたとき闇の中から猟銃を持った中原が亡霊のように現れた。
いや亡霊よりひどいものだった。


「皆様。お揃いでお出かけですかぁ?」
中原は笑った。中原が胸の前で持っている銃口がそれにあわせて揺れる。とても楽しいそうだった。
悪趣味な女だったら好きになってしまうかも知れないと奈々子は思った。ニット帽を被りスノーボ
ードをやる人のような服を着ている。目はランランと輝き頬は上気している。地獄の世界のヒキガ
エルが最高のドラッグでハイになっているように見えた。すごく気持ち悪いのだが奈々子は目を背
けることが出来なかった。
「まあ、ハリウッド式に言うならぁ。パーティーは始まったばかりっていう感じですかぁ? うぅ
ん? どうですぅ? パアアアアアティイイイイイイイイイ!!!!!!ほいほいほいどかーん」
興奮した中原が引き金を夜空向けて撃ったので奈々子は耳が遠くなった。

124名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 14:06:28
「お前はな。ここにいるんだよ。なぜならな、雑魚キャラだからだ。そうだなホラーで役名も無く
て死んでいく役者いるだろ? それがお前。でもなケビンベーコン知ってるか? ケビンベーコン
は13日の金曜日に出てるんだぜ? 驚いたか? 答えろ! 見高!」
中原の声色が急に変わった。顔は良く見えない。奈々子は両手を手錠で繋がれ美咲も別の手錠に両
手を繋がれたまま車の前で背中合わせになって森を見るようにしていろといわれたからだ。夫が怯
えているのが分かる。――お願い。殺さないで――奈々子は思う。背中に美咲の体温を感じていた
が美咲は平常心のようだった。我を失っているのだろうか? 奈々子は思う。お願いお願い。誰も
殺さないで。もし殺すなら私にして。奈々子は思った。そして怒りが沸いてくるのを感じ始めてい
た。そして夫は両腕の間にハンドルを通され手錠をかけられた。
「歩け。メスども」
中原が銃口を奈々子の後頭部に付け促した。
「そっちじゃない森の中だ。パーティーは森の中って決まってるだろ? それとなあ、美咲。靴下
の中にあるものをそこに捨てろ!」
――ああ。もう駄目だ―― 奈々子は呟いた。


「あれは狩猟のための掘っ立て小屋だよ。美咲。今夜は素敵な夜になりそうだね二人で忘れられな
い夜にしようね」
森の中に明かりが見えた。美咲の引きつった笑い。それを聞くのは何よりも残酷だった。すべてを
あきらめた笑い。自分もだめになりそうだった。
「破魔矢はなあ。おじょうちゃん。あれはイケナイ。危険なもんだ。子供の触るもんじねえ。おじ
さんはあれが大嫌いなんだ。食事中も靴下に入れてたんだねえ。おじさん、そんなことする美咲は
嫌いだな。あれは触りたくも無い。だからポイ! おしまい。ゲームオーバー」
125名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 14:09:31
『女は立ち止まり、またあの感覚が来たことを知った』
女は闇の中でこっちにやってくる音を聞く。中原、美咲、そしてわが娘、奈々子。
『忘れようとした感覚、忘れようとした思い。忘れたくても忘れられない記憶』
もちろんこれですべてが終わるわけではない。アレが消えるのはもっと先のこと。
ただ取り付くいている人から抜けさせるだけ。またいつかアレが戻ってくる
まで。遠い遠い未来。あるいは美咲が年をとったとき。
『――嫌だ。嫌――』
すぐそこにアレはいる。
『女は思う』
私は知っている。
『――もうたくさん――』
過去の記憶、そして現在。
『しかし女は自分がまた立ち向かわなければいけない事を知っている。それが女の運命なのか。そ
れは誰も知らない』
それが運命なら……
女は弓を引いた。奈々子の母親であり、美咲の祖母である女。女は矢を放った。

中原は痛みの中にいた。胸が苦しかった。森の香りと木々の隙間から夜空が見える。なつかしかっ
た。――同じだ――中原は思う。――あの日に見た夜空と――流れ星が見えたような気がした。幼
い頃の思い出や初恋の日、悪友と露天風呂を覗いて警官に起こられた日が蘇った。みんなが中原の
心の中にあった。大地はやさしく柔らかな布団のようだった。――眠い。眠りたい――ただそれだ
けを中原は思う。――俺は疲れすぎているんだ。母さん――

「奈々子! 早くキャンプ場に戻ってオートバイの人を呼んできて! あの人たちなら森の中を走
って倒木を超えられるから! 集落の携帯の電波が届くところまで行ける筈だから! 早くしなさ
い!」奈々子は母親がなぜここにいるか分かった。母も感じるんだ。そして来てくれたんだ。『幽
霊』は母のことだけは知らなかった。それは私が母が力を持っていることを知らなかったから。一
番力を持っている母のことを。『幽霊』は中原さんの体から抜けた。破魔矢が刺さったままの中原
さんから。――命が危ない――
奈々子は走る。――間に合って――奈々子はそう思いながら闇の中をキャンプ場に向かって走り続
けた。
126名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 14:11:18

エピローグ


美咲は自分の部屋に入ると中原さんから手紙をもう一度手に取った。
大きなお腹の奥さんの葵さん息子さんの隼人君が中原さんを囲むように
写っている病院のベッドでの写真とともに。
『拝啓 皆様お元気ですか? 私はご覧のとおりまだ
病院ですが今日は外出許可が出ました。体を動かせる喜び、太陽の下で生き
るすばらしさを今更ながら実感しております。すべて皆様のおかげです。あ
りがとうございました。ところで先日、お電話でお伝えした妻と隼人の手作
り宿泊招待券、同封させていただきました。皆様で良かったら、もう一度い
らして下さいませんか? 夏のキャンプは何と言っても最高です。そのおり
はキャンプ場近くの素敵な温泉に案内させていただきますので。  
敬具 中原達夫』

127名無し物書き@推敲中?:2009/12/06(日) 14:12:39
美咲は思う。きっとこうなるって信じてた。おばあちゃんがきてくれること
そして破魔矢を拾ってくれること。あの日、中原さんの手術が行われてる夜
中、不思議なものが見えた。赤ちゃんだ。それは葵さんのお腹にいる。「お
かあさん。葵さん。妊娠してるよ」病院の待合室で警察の事情聴取がバイク
のお兄さんたちに行われているとき、ベンチに座っている隣のおかあさんと
おばあちゃんに言った。病院の外ではパトカーの赤い光が音も無く回ってい
る。おばあちゃんは容疑者として警察署に行かなくちゃいけないのだ。「妊
娠?」「そう、葵さん。中原さんの新しい子供」おかあさんとおばあちゃん
は互いに見合い首をかしげている。わからないのかな?「あなた見えるの?」
「うん」

美咲にはクラスにとっても好きな男の子がいる。梶原君だ。とってもハンサ
ムで面白いから人気がある。梶原君が面白い格好をすると美咲はうれしくな
る。そして胸がきゅんとなる。この前、梶原君がお笑いタレントの真似をし
た。あれはチョー面白くて美咲は涙が出てしまった。――来年のバレンタイ
ンでーには梶原君にチョコをあげようかな?――それを考えると美咲はどき
どきした。――好きになるってすごく不思議――美咲は思う。そうすっごく
不思議。
128名無し物書き@推敲中?

お父さんは最近、抜け毛が多くなって禿げを気にしています。
いろんな養毛剤を試しているので洗面所に行くと臭いです。
「俺って雑魚キャラだからさ」
いじけるお父さんは困っちゃいます。
あんまり気にしないのがいいのにと私は思います。
お母さんは、あれっきり何も感じないのでうれしいと言っています。
あまり怒らなくなったのは、私を気遣っているんでしょうか?
良くわかんないけど、別に普通にしててくれればいいのに。
おばけがまた来たら……そう考えると怖いです。
怖いときは破魔矢を手に持って目を閉じてお祈りします。
おばあちゃんが遊びに来て山梨のお餅を持ってきてくれました。
曾おばあちゃんも好きだったそうです。私も大好き。

以上 美咲でした。それではさようなら!

終わり