あなたの文章真面目に酷評します Part36

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28酷評お願いします
 幽霊に出会ったのは小学生のときだった。学校の帰り道、町外れの公園に一本だけ高い木があって、
その張り出した枝に幽霊は腰掛けていた。
「やあ」と幽霊は言った。
「なにしてるの」とぼくは言った。
 幽霊は半ズボンの足をぶらぶらさせてぼくを見下ろしている。幽霊には眼がなかった。眼のあるべき
ところには穴があってその穴は闇になっていた。
「いい眺めだなと思って」
 腰掛けている枝はぼくの背よりもはるかに高い。
「お出でよ」
 幽霊がそう言うと次の瞬間ぼくは幽霊と並んで枝に腰掛けていた。
「ほら、向うの山が見える」
 山の上の仏舎利塔も見えた。丸い屋根が西日を受けて銀色に光っている。
「見えるの?」とぼくは聞いた。「眼、ないんだよね」
「なくても見えるさ」と幽霊は笑った。
「ほらね」
 そう言って幽霊はぼくの眼に指を入れた。そしてぼくの眼をするりと抜いた。幽霊の手の上にぼくの
目玉が載っている。もう片方の眼も同じように抜いて手に載せた。
「ほんとだ」とぼくは答えた。眼がないのに変らずに見えている。
「だろ?」と幽霊が言う。
「駅も見えるね」と幽霊は言った。「赤い電車が走ってゆく」
 ぼくが通う小学校の校舎も見えた。
「きみはいつも一人なの?」とぼくは幽霊に聞いた。幽霊は闇の眼でぼくを見た。「ごめん」とぼくは言った。
 幽霊はふたたびにっこりと笑った。
「ぼくに名前はないよ」と幽霊は言った。
「じゃあなんて呼んだらいい?」
「きみの名前でいいよ」と幽霊は答えた。
「これ返しておくよ」
 幽霊はぼくの眼を元に戻した。
「風が出てきたね」
 幽霊がそう言うとぼくは木から下りていた。見上げると幽霊は手を振った。そして薄くなり消えていった。
 それから幽霊にはいちども会わなかった。ぼくは中学生になっていた。