果報は寝て待て、便りは忘れた頃にやってくるとはよく言ったものだが、
昔の女からその手紙がきたのは、彼女と最後に逢ってから、ちょうど452日
経った、ある日のことだった。
手紙にはたった一言、
「そろそろ三角木馬の季節ですね」
とだけ書かれていた。
あの手紙を見たときの僕の顔はどんなだっただろうか? 彼女からの手紙ということでワクワクしていた僕の目に飛び込んできた文字は「三角木馬」だったのだのだから、僕の顔が三角形と逆三角形を合わせたような顔よりも、よほど歪に歪んだことは間違いない。
僕の知識によると三角木馬というのは拷問道具、もしくはSM用の道具
である。木馬の座る部分が三角形になっていて、座ると、つまり……そ
の……お股が裂けるように痛いのだ。系統としては古代中国のメージャ
ーな拷問法である、牛裂き系だろうか。
しかし季節とはなんだ、季節とは。僕のイメージでは三角木馬は室内用
である。季節など関係あるのだろうか? いや、もしかしたら野外で使うの
だろうか? そういや、近くの公園に木馬の下にバネが付いた遊具があっ
たな。座る部分を三角にすると……。うぅ、お股が痛くなってきた。それとも
シーソーの座る部分を三角にするという発想はどうだろうか? 二人でギッ
コンバッコンやれば、SとMを同時に楽しめる。―――っと、僕は何を妄想し
ていたのだろうか。僕はきわめてノーマルな性癖だし、彼女だってノーマル
なはずだ。
僕はなんとなく手紙をまじまじと見つめてみた。彼女らしい幼稚な丸文字。
それが彼女が彼女のままである証拠であるような気がして、古い記憶がよ
みがえる。逢いたい。
想い通じたのか、チャイムが鳴った。
僕はその夜、たくさんのことを知った。
彼女の性癖をほとんど理解していなかったこと。
僕自身の知らなかった性癖のこと。
この452日は放置プレイであったこと。
僕らの妄想は似通っていること。