引越し業者にすべての荷物を預けた後
トイレの電球が切れているのに気づいた。
僕は電球を外し畳に寝転ぶと意味も無く
手に取ったそれを眺める。
季節はもうすぐ春で近所の桜並木が
咲く頃だったが今はまだ、少し肌寒く
開け放した窓からも弱い日差しが差し込んでいるだけだ。
大学の4年間を過ごした部屋、そして街。
風呂も付いてないボロアパートだったけれど
天井の染みひとつひとつのように
いろいろな思い出がここに染み付いている。
僕は電球を額に乗せると目を閉じ
街の音を聞いた。優しい時のうねりが波となって
ここに打ち寄せる。
―僕はこれからどこへ行くのだろう?
いや、僕は何も知りたくない。
ただ空想の春の匂いをかいで空想の
桜を思っていたいだけだ。