ジュマペールの人々

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1七誌:2005/10/09(日) 16:07:23

101号室  ジュマペール
2七誌:2005/10/09(日) 16:08:18

ついにこの日がやってきた。
私は、築30年の木造モルタル二階建てのおんぼろアパートを見つめた。

私の名前は、新垣理沙。
アラガキではなく、ニイガキだ。解散した某グループのAメンバーではない。
以後、絶対に間違えないように気をつけて欲しい。
間違えれば持てるコネの全てを使って報復をする。
それが、我が新垣財閥のもっとうだ。
つまり、私は、日本屈指の資産家であるあの新垣財閥の1人娘。なのである。
そして、私の肩書きは今日からもう一つ増える。
このボロアパート――ジュマペールの管理人という肩書きが。

もともと、このアパートは偏屈な祖父が趣味で経営をしていたものだ。
最寄の駅から歩いて10分弱、少し遠い気もするが毎日の散歩には丁度いい距離だろう。
周囲は重厚な石塀にぐるりと囲まれている。
小さい頃、祖父はよくここに私を招き口癖のように言っていた。

『ワシが死んだらジュマペールは理沙が管理するんじゃ』

と。

そして、それは現実になった。
3七誌:2005/10/09(日) 16:09:24

祖父が亡くなってジュマペールは一時解体の危機に陥った。
私は、管理人としてはまだ若すぎるしそれにあんなボロアパートを維持する理由がなかったからだ。

しかし、そうは問屋がおろさない。
ジュマペールは、私の、私だけのための城だ。
誰がなんと言おうと、法律が邪魔しようとも私はジュマペールの管理人になる。
これが運命。Thisis運命。

妙な使命感に燃えた私はそれから数日、自分が持ちうるいろいろな方面への
コネキャラに賄賂やらなにやらの裏工作で寝る間もないほどだった・・・・・・・・・・・・
というのは、冗談だ。両親が、私の熱き思いに負けた。
表向き、そういうことになっている。あ、表向きじゃなくてもそうだった。
とにもかくにも、晴れて私はここにいる。
あまりの嬉しさに今ここで叫びたい気分だ。
そんなことをすれば、頭のおかしいやつだと思われかねないのでそれは心の中だけにするが。

私は、敷地内へと足を進めた。
なぜか野菜畑(と思わしきもの)が目に入る。
以前、来た時にはこんなものはなかった。
祖父がそんな趣味を持っていたという話は聞いたことがない。
まぁ、傍に緑があることはいいことなので気にはしない。
4七誌:2005/10/09(日) 16:10:07

これから、はじまるワンダフルライフ。
ワンダフルの意味は素晴らしいだ。
これから、はじまる素晴らしい生活。

某漫画で管理人という職業については予習済みだ。
住人と仲良く触れ合い、「姐さん、事件です」的なことが起これば率先して解決し、
時には、庭の芝生に水をまき・・・・・・・・・・・・財閥の令嬢としてふんぞり返っていては得られない充実感。
想像するだけでも楽しみだ。
それに、某漫画によると管理人という職業はモテルみたいだ。
きっと私もモテモテ街道を突き進むことだろう。
美貌とは罪かもしれない。自然、頬が緩むのは押さえられない。
5七誌:2005/10/09(日) 16:10:46

さて、そんな素敵な生活を送る上で一番にやらなければならないことは、
まだ資料でしか知らない住人たちへの挨拶だ。
参考にした漫画にでてくるような奇妙な住人は現実にはありえないから、
里沙ちゃんのラブラブスマイルであっというまに、仲良くなれるだろう。
焦ることはない。後日、伺いに行く旨のメモをそれぞれの郵便受けに残して、
とりあえず、今日は自分の荷物の整理をしよう。

「後日、挨拶に伺います。お茶菓子の用意など、気を遣わないでください。
新管理人新垣(ニイガキ)里沙ラブラブ」
6七誌:2005/10/09(日) 16:11:35

102号室 Room of very cold pink
7七誌:2005/10/09(日) 16:15:21

天気はいいし、まるで私のこれからを祝福しているかのようだ。
私は、断言する。
今日は、記念すべき一日になるだろう、と。

私は、大きく息を吸い込み、ゆっくりと指を伸ばす。
チャイム一つで始まる新世界へGO!GO!GO!GO!

――ピーンチャポーン

以外に間抜けな音だった。
そんなことはどうでもいいけど・・・・・・・・・・・・

「はーい」

扉の向こうから聞こえる甲高い声。
どこからだ?どこからその声を出している!?
そんなツッコミをいれたくなるほど変わった声だ。
8七誌:2005/10/09(日) 16:16:27

ガチャっという音とともに扉が開く・・・・・・・・・

あれ?開きかけてやめやがった。
隙間から胡散臭そうに私を見ている。
肌が黒いからか目だけがやけに目だっていて少し怖い。
なんで、扉を開けてくれないんだろう?
一瞬、そう思ったがよく考えたら物騒な世の中だし、突然、見知らぬ美少女が訪ねてきたら
仕方がない態度か。メモに顔写真もつけていればよかった。

「あ、私はかんりに――」

「しません!」

「は?」

自己紹介をしようとしたところで遮られた。
しませんって、なにをしないんだろう?
ものすごく気になる。
だいたい、どういう思考の流れでその言葉が出てきたんだろう。
さらに気になる。
いや、そんなことより初日から住人に拒否されるわけにはいかない。
私は、見れば誰もが昇天するという会心の笑みを浮かべて

「新しく管理人になったアラガキじゃなくてニイガキですよ。メモをいれておいたんですけど」
9七誌:2005/10/09(日) 16:17:13

石川さんは、クエスチョンマークを浮かべて指を口元に当てる。
その姿は、キショイの一言に尽きる。
ややあって、メモの存在に思い当たったのかポンと手を叩いた。
その姿も・・・・・・(ry

「どうぞ〜、待ってたんですよ〜」

さっきとは打って変わってにこやかに扉が開けられた。

「それじゃ、しつれいしま・・・・・・・・・・」

・・・・・・なに、この部屋?

開かれたドアから零れだしたピンク色の光に私は思わず口を開けた。
10七誌:2005/10/09(日) 16:18:13

「どうぞ、おくつろぎください」

おくつろぎできるわけがない。

私は、淹れたてのコーヒーに手をつけないままゆっくりと部屋全体を見回す。
床も壁も天井もソファーもテーブルも――とにかく目に付く全てがピンク、ピンク、ピンク、ピンク――エンドレスピンク
ある意味、尊敬に値するほど徹底されたピンクの部屋。
洒落にならない。
っていうか、敷金だけじゃ直せないでしょ、これは・・・・・・まずい。

だいたいこの部屋でのんびりとくつろげるなんてどうかしているんじゃないか?
目がチカチカする、頭がくらくらする、一刻も早くこの部屋をあとにしたい・・・・・・
だが、管理人としてそういうわけにはいかない。
11七誌:2005/10/09(日) 16:18:55

「あの、石川さん」
「はい?」

「あなた、薬でもしてるんですか?」

「は?」

確か、薬物に依存していると一つの色に偏執的にこだわるという症状がでるとかでないとか、
赤髭のサンタとか――もちろん、漫画で仕入れた情報だから真偽の程は定かではないが――

私は、単刀直入に聞いた。
石川さんは、キョトンとした顔で私を見つめる。
その顔でピンと来た。どうやら、白をきる気らしい。
管理人として住人の犯罪を見て見ぬ振りはできない。
12七誌:2005/10/09(日) 16:19:52

「ダイエットですか?それとも、ストレス発散ですか!?」

「あの・・・・・・管理人さん?」

「やめようと思ってやめられるなら取締官なんていらないんですよ!バカですか、あなたは」
「ば、バカ・・・?」

「ええ、バカです、バカ。もうアホかとバカかと、中島ら○かと!!」
「ひどいですよ!?」

「ひどくありませんー!」

「だいたい、さっきからなんの話してるんですか!?」

石川さんが、声を大にした。
まずい、薬物中毒の人はいつなにをするのか分からない。
逆上して攻撃されかねない。
穏便にいくつもりだったのについ私の中にある新垣仮面が轟き叫んでしまった・・・・・・
私は、気を静めるために小さく咳払いをする。
よく考えたら、『薬してますか?』『はい、してます』なんて言う人間がいるわけがないな。
少し責めるポイントを変えてみよう。
13七誌:2005/10/09(日) 16:21:11
「・・・・・・精神科に通ってますか?」
「・・・いいえ」

ダメだ、ストレートすぎる。
他の聞き方は・・・・・・

「小さな頃になにかあったんですか?」

「小さい頃ですか?そうですね〜私、今からじゃ想像できないと思うんですけど小学生の時少し太ってたんですよ」
「それだっ!!」

吐いた、ついに薬に手を出した理由を自白した!!

「それで、薬をはじめたんですね」

「いえ、中学生になってテニス部に入ったんです」
「それだっ!!」

テニス部でいじめか。
お蝶婦人がいたんだな。

「それでですね〜これも想像つかないかもしれないけどテニス部の部長になったんですよ・・・・・・そしたら――」
「それだっ!!」

部長になった重圧だな。
この人、上にたつ器っぽくないもんな。

「で、試合があったんですよね。そしたら・・・・・」

まだ、話続いてたのか。
もう理由は分かったから聞くこともないのに――
14七誌:2005/10/09(日) 16:21:52
「分かりました、それであなたは薬に手を出したんですね」

「その試合に負けちゃっ・・・・・・え?なんのことですか?薬って」

理由は吐いても犯罪は認めない腹か・・・・・・
ここはズバッと

「麻薬ですよ、覚せい剤、その他もろもろ」
「なんの話ですか?」
「あなたが中毒になるまでの話ですよ」
「あの〜私、中毒になんてなってませんよ」

「まだ白を切るつもりか!!!」

呑気な言い草に新垣仮面と化した私は、立ち上がっていた。
ついでにちゃぶ台を引っくり返したいところだったが、コーヒーが勿体ないのでやめた。
15七誌:2005/10/09(日) 16:26:58

「だから、なんの話をしてるんですか〜?」

「このピンクの部屋についてじゃッ、ボケーッ!!!!!!!!!!!!」

飛び蹴りをかましたいのをこらえて私は怒鳴った。
――が、私の正義の怒りは

「あ、気がつきましたか。いつ言ってくれるのかと思いましたよ〜」

という、石川さんの待ってましたと言わんばかりの声にどこかに吹き飛んでいた。

「かわいいですよね〜。女の子らしいですよね〜。モー大変だったんですよ、ここまでピンクに統一するの」

石川さんが立ち上がり夢見るユメ子ちゃんのような恍惚とした表情で部屋を歩き回る。

「ピンクに囲まれた生活をするのが小さい頃からの夢だったんです。1人暮らしっていいですよね〜」
16七誌:2005/10/09(日) 16:27:49
・・・・・・・・・・・・夢?
薬物中毒でもなんでもなくただたんに個人の趣味?

呆然と石川さんを見る。
石川さんは、ニッコリと見つめ返してきた。嫌な予感がする。
背筋に冷たいものが走った。

「そうそう、どうして私がここまでピンクが好きかというとですね〜ワケがあるんですよ。もちろん、聞きたいですよね?仕方ないな〜、今日は特別ですよ――」

私の返事を聞くこともなく石川さんは話し始めた――脈絡もなければ内容もなく、
挙句の果てにはオチもなにもない――ピンクと私、全108話を。

私の意識が、銀河系を超えて想像もつかないような遠い遠い場所まで飛んでいったことは言うまでもない。

                                                       
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