この三語で書け! 即興文ものスレ 第二十ボックス

このエントリーをはてなブックマークに追加
7名無し物書き@推敲中?
>1さん、乙です!

「杉」「辞典」「髪留め」

小学2年の娘が、漢和辞典を熱心に眺めている。
このところずっと、トリビアネタを探し出そうと必死だ。
「国語辞典で調べた方がいいんじゃないか?」と、父親に指摘され、むっとした。
仕返しとして、採用されそうな知識を何一つ持ち合わせない父親に、全身を使って幻滅してみせる。
「ママ、ママ! 「杉」って漢字、じーっとみていると見たことないような字に見えるよ。
 なんかね、木からね、忍者の三兄弟がしゅっしゅっしゅって出動してるみたいに見える!」
素晴らしい感性だ、と父親は見えない壁のこちら側で、ひとり微笑む。
娘がやにわに向き直り、父親に声をかけた。「パパ、これってトリビアになるかな?」
父親は娘に気に入られたいばっかりに「どうかなぁ、採用されちゃうかなぁ」などと嬉々と応える。
すると娘は間髪入れず「されるわけないじゃん。パパってあれだよね、いい加減だよね」と冷たい視線。
それこそ真綿で首を絞められるように、この娘に毛嫌いされていくのだろうか、と将来を寂しく思う。
プイとそっぽを向いた娘の頭に、先日出張先で購入した猫の髪留めが光った。
俺にはおみやげを選ぶ楽しみというのが残されているではないか、と父親は心の内で苦笑する。
諦観に晒されつつある父親だったが、一方で娘も、諦めきれない感情に毎週じりじりしていた。
父親の緒川たまきに注がれる視線が、気に食わなくて気に食わなくて仕方がなかったのだ。


「うそつき」「感情」「帽子」