小説家・小説家になりたい人・小説を書いている人

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30673
>>74 >>76
亀でスマソ。この間はパソコンが熱でやられてしまった
(何故かカタカナしか打てなくなる)ので失礼した。
小説家Lv1君はまだここを見ているだろうか。

姉の不倫相手は男だよ。五十代の中年サラリーマン(単身赴任中)。
進度はまだかなり最初の方。計算しないで暇をみてちょっとずつ
進めている感じなので、どれくらいの長さになるかはまだわからない。

>>76氏のいうドラゴンって、何かと思ったけど村上龍のことか。
全然意識してなかったけどそういえば『KYOKO』とかに似てるかも。やば。

冒頭はこんな感じ↓
30773:2005/09/28(水) 17:44:14
 何がいいかと聞かれたので、じゃあ、爪を、と答えた。形見分けの話である。

 三日月ほどに細くはない、半月にしては弦が緩い。六日月とでも呼べばよい
のか。おそるおそる赤い表面を撫でれば、指先の皮膚が引っかかるような心地
がする。エナメルを塗ったまま切られた爪は、赤い小さな月だった。慎次郎は
それを五つばかり、掌に載せている。
 連絡先くらい教えときゃよかった。佳澄の遺爪に向かって、慎次郎はひとり
ごちた。
 姉の死を知ったのは、フランクフルト駅の公衆電話から三週間ぶりに実家に
電話した時だった。バックパックひとつ、ユースに泊まり倒してヨーロッパを
巡る旅の半ばのことだ。電話を切るなり、その足で慎次郎は空港行きの列車に
乗った。ヴュルツブルク行の切符を払い戻すことさえしなかった。急いで帰国
したところで、姉の死の事実が揺るぐわけでもなかったが。
 いま、慎次郎は自分の部屋でベッドに掛けていた。何をするでもない。
薄い朱に染まったレースのカーテンがはためき、窓の桟に近づいては離れ、
移る影を濃くしてはまた淡くするのを眺めるだけだ。ときどきドアを窺わずに
いられないのは、この時間になると、よく姉がやってきたからだった。 
30873:2005/09/28(水) 17:45:18
 佳澄はいつもノックをしなかった、慎次郎の部屋に入ってきては、勝手に
鞄を漁り始め、勝手に財布を開け始める。なにしてんの、と訊けば、スーパーの
レシートが欲しいの、と言う、レシートで爪を磨くのよ、と言う。慎次郎の
勉強している後ろで爪を磨く、照明の二つの輪がくっきり映りこむまで磨いてから、
どうお、とふくよかな指を差し出すのだ。佳澄の爪は桜色で、慎次郎が触ると
するするして、花びらのようなのに、佳澄は真っ赤に塗りつぶしてしまう、
べたべたとエナメルで塗りつぶしてしまう。このままでいいのに、と言うと、
十の赤い楕円を翳しながら、そうお、と語尾を上げた。佳澄を包む淡い色あい
の中で、そればかり別の物質のように宙に浮いていたのを、慎次郎は痛みにも
似て思い出す。
 慎次郎は六日月の赤い表面を撫でる。つまみあげて、親指に載せて、人差し指で
丁寧に撫でていると、次第に温もりを帯びてきて、エナメルに包まれたその中に
血が流れているような気がしてくる。撫でれば撫でるほど、この硬いものが
すこうしずつ伸びていくような気がしてくる。撫でているうちにいつか、
六日月は半月となり、宵待ち月となり、すこうしずつ満ちていきやしないだろうか。
目蓋の裏に、慎次郎は赤い満月を思い描いた。